「ちょっと待ってくれないか」

　そう言いながら、そのadventurerはVandalieuが立ち尽くしている受付Counterに、無造作に近付いてくる。

「その規約変更は初耳だが、どう言う事なのか説明してくれないか？」

「こ、困ります。今、私はこの子の対応を――」

「その対応について言いたい事がある。-kunではなく、Guild Masterを呼んでくれないか？」

「困ります。guildへの陳情がある場合は、まず私達受付の職員に言ってください。貴方の順番が来てからですが」

「私はＡClass adventurerのHeinzだ。ＡClass adventurerに認められた権限で、改めてGuild Masterへの面会を求める」

　Heinz。そう、Heinzだ。

　Vandalieuは軋んだ蝶番の-samaな動きで首を動かし、自分のすぐ近くに立っているadventurerの姿を視界に入れた。

　整った顔立ちで意志の強そうな金髪碧眼の好青年。ageは、二十代前半から半ばぐらい。佇まいやその装備を見るだけで、ただ者でない事が解る。

　そして少々変わっているがEvbejiaで聞いた声で、そしてRileyから聞き出した容姿だ。

(kaa-sanの仇の、【Blue-flame Sword】のHeinz！)

　Vandalieuにとって、絶対に殺さなくてはならない対象の一人だ。Orbaum Elective Kingdomに渡ったと聞いてはいたが、まさかHartner Duchyに滞在していて、この瞬間遭遇するとは思わなかった。

　Vandalieuが求める「Self幸福の追求」にとって、Darciaのrevivalは絶対に必要な事だ。そして、それを邪魔する要因は排除しなくてはならない。だからHeinzを殺す。

　Aldaのfanaticに母を売った事はHeinzにとってはただの依頼で、あの国では違法でもなんでもなく当然の行為だったとしても、関係無い。

　現在Heinzが何を考えて何をしていても、関係無い。

　問題なのは未来だ、将来だ。一度Darciaをfanaticに渡したHeinzが、同じ事をしないと何故思える？　一度考えを変えたのなら、また考えを変える事は無いと何故断言できる？

　可能性を零にするには、殺して滅ぼさなければならない。

　今がその好機だ。

　certainly、こんな人目の在る所で派手な事が出来ない。それはVandalieuも解っている。毒を盛れば良い、Disease原菌に感染させればいい。

　自分の吐く息を、僅かな唾液の粒を、skinから浸透する毒に変化させようか？　偶然を装ってHeinzに触れて、Disease原菌をskin感染させてやろうか？

　そう企むVandalieuだったが、それらの手段を考える度に【Danger Sense: Death】が彼の脳内に警報を響かせる。

　毒を盛ろうとすれば、自分が殺される。Disease原菌に感染させても、自分が殺される。

　何をしても、死ぬのはHeinzでは無く自分。

(そんなBAKANAっ、こいつは無敵か不死身だとでも！？)

　Gordan High Priestの時とあまりに違い過ぎる。そう驚愕するVandalieuだったが、目の前の現実を、今まで自分を助けて来た【Death-Attribute Magic】を否定できない。

(そうか、これがBorkus達を瞬殺したMikhailの-samaな、実質ＳClassの実力を持つＡClass adventurerか)

　超人であるはずのＡClass adventurerを苦も無く倒すような、超人を超えた超人。

　以前Borkusが倒しVandalieuが魂を砕いたRileyとは、dimensionが異なる。しかも、HeinzはRileyよりもずっと仲間に恵まれているらしい。

　eyeballを動かしてHeinzのずっと後ろを見ると、そこには五人の男女が居た。内二人はRileyから聞き出した情報と一致する。

　盾職の青い髪をした女Dwarf、Delizah。黒髪黒瞳のscout職の男、Edgar。そして新しいparty memberなのかMaceを下げた僧服の女Elfと、見るからに格闘家らしい姿の若い女。

　流石に見目だけで選んだ訳ではないだろうから、彼女達もＡClassかＢClass、最低でもＣClass adventurerだろう。

　RileyとDungeonで死んだらしい女ElfのSpiritual Mageの抜けた穴を塞いで、新生【Five-colored blades】という訳だ。

　五人目の、Vandalieuと同じかそれ以上に幼そうな、Delizahに右半分body partを隠している女の子は、流石にparty memberではないだろう。誰かのImoutoか何かだろうか？

(ああ、面倒だ。こいつ等、俺と相性が最悪だ)

　女の子はin any case、他の四人を見ていると何となく分かる。こいつ等のせいで、Vandalieuは今Heinzを殺す事は億が一にも不可能なのだと。

　彼女達はHeinzを「やれやれ」とか「また始まった」とか言って、苦笑いを浮かべたり呆れたりしている。だがHeinzに何かあれば彼女達は即座に、そして的確にfollowするだろう。

　彼女達がHeinzに付いているconditionで戦えば、Heinzは彼女達とのCoordinationを活かしてVandalieuのBarrierを貫く一撃を撃ちこんでくるに違いない。

　毒を盛ってもDisease原菌に感染させても無駄だ。彼らはMirg Shield Nationの遠征軍と違い、-sama々なStatus Effect攻撃を行う高Rankのmonstersに備えている。慢心していたRileyとも違う。

　どうしようもなく強いのだ。Manaの量に関係無く。Vandalieuが巨象なら、彼らは巨象も刺し殺す蟻なのだ。

(仕方がない。この屈辱に今は耐えよう。俺は死ぬ訳にはいかない、やる事がある。こいつ等の顔を直接見られただけで満足しよう。殺すのは、今よりもっと強くなってからにしよう。

　Eleonora達と合流し……あれ？　今、こいつ等は……Heinzは何をしているんだ？)

　whole bodyを苛む無力感と屈辱感に耐えるために【High-speed Thought Processing】skillまで使って思考に没頭していたVandalieuは、はっとして無視していた耳から入ってきた情報を確認する。

「ちょっと待ってくださいっ、Guild Masterは今外出中で――」

「では、サブMasterが居るはずだ。規約ではGuild Masterが留守の間は、二人いるサブMasterの内一人は必ずguild内に居る-samaに決められているはずだ。それとも、この規約も変更になったのか？」

　今、Heinzは受付嬢では無くその上役らしいmale職員と口論になっていた。ただ、旗色はmale職員の方が悪そうだ。

「それは……っ」

「-kunに言っても意味が無い事は解っている。Niarki branchのGuild Masterでも同じだろう。ただ私はGuild Masterに一筆書いてほしいだけだ。Hartner Duchy Adventurer’s Guild本部のGuild Masterへのintroduction状をね」

「そ、そんな物を書いたら、うちのGuild Masterもあなたに賛同している事になるじゃないですか！？」

「出来ないのか？　こんな意味も無い規約に賛同する事は出来るのに？」

「そ、それは一介の職員が判断する事ではありませんっ！」

「お家騒動でDuke軍を掌握できないBelton公子が、どっちつかずのAldaを含めた各templeの支持を得るために行った、御機嫌取り以外に意味の無い規約変更である事は、guildの職員なら誰でも分かるだろう。私でもすぐ察せるぐらいなのだから」

　今のHartner DuchyにあるAlda templeの上層部は、Reconciliation Factionでは無くFundamentalism者が多いらしい。

「monstersのbloodを引いているchildは危険だから、一度試験に合格した程度では判断できない。何かの拍子に自制心を失うかもしれないから、Adventurer's School校に入れるのも危険。本気でそんな事を考えているのか、-kun達は」

　Heinzが言葉を発する度にmale職員の顔色は悪くなり、視線も背けるようになった。male職員も内心ではHeinzの言葉に賛成しているのだろう。他の職員や受付嬢も、それは同じらしい。

「良いじゃねえかっ、取次くらいしてやれよ！」

「そうだ、そうだっ！　Adventurer’s Guildは広く門戸を開いてんだろ！？」

「俺達Beastmenのadventurerもその内締め出すんじゃないだろうな？」

　居合わせたadventurer達も、賛成の声を上げた。それでmale職員も決心がついたらしい。

「分りました。ですが、私に出来るのはGuild Masterに取り次ぐ事だけです」

「分かっている。それだけで十分だ」

「忠告しますが……ＡClass adventurerの貴方は、既に下手なNobleよりも発言力があります。だからあなたの意思は公子にも届く。でも、どう受け取るかは公子次第である事を忘れないでください」

「それも解っている。私はAlda Reconciliation Factionの一人としてではなく、一人のadventurerとしてguildが為政者の恣意的な意向に従うべきではない。そう言いたいだけなんだ。

　『あらゆるraceにAdventureへの扉は開かれている』……Founderの言葉は無視するべきじゃないだろう？」

「私も好きですよ、その言葉。では、早速Guild Masterの外出先に使いを出すので失礼します。

　-kunは運が良いな」

　そうmale職員に笑いかけられたのをきっかけに、Vandalieuの思考はやっと機能した。

　運が良い？　何故？　仇の今の姿と実力の一端を知る事が出来たから？　いや違う……。

(まさか……俺はHeinzに助けられているのか？　そんなBAKANA！？)

　視線をHeinzに向けると、彼はVandalieuに向けて見る者を安心させるような、頼もしげな微笑を浮かべて頷いて見せた。任せておけと。

　だが、Vandalieuに及ぼした効果は安心では無く、狂乱だった。

(何故奴に助けられなければならない！？　戯けるな！！)

(何かのTrapか！？　裏がある、裏があるっ、無くてはならない！)

(何かがおかしい、奇妙だ、納得できない！)

　脳も霊も魂さえもグチャグチャと掻き回されるような不快感に、思考が纏まらない。【Parallel Thought Processing】や【High-speed Thought Processing】のskillも、混乱を助長するばかりで冷静に成れない。

「やれやれだな。政治には興味ないって言ったのは誰なんだか。護衛依頼が終わって町に着いた途端に、今度は次期Duke -samaとDuchy本部のGuild Masterに文句を言うつもりだぜ」

「でもEdgar、前から言っていたじゃない。Aldaの教義はReconciliation Factionの-samaに変わるべきだって。そもそも、Rileyと別れてまでこの国に来たのも、Heinzが――」

「確か、このpartyの目的は、流離のDungeon【Trial of Zakkart】の完全攻略だと聞いていたんだけどな」

「そんな事言わないでください。それともJenniferはHeinzが間違った事を言っていると思いますか？」

「……そう言う意味じゃない」

　Heinzの仲間達が「仕方ないな」と、しかし反対する-sama子もなく話しているのが聞こえる。

「なあ、HeinzってやっぱりあのAlda Reconciliation Factionの？」

「そうだよ。Mirg Shield NationであるDhampirとその母親の悲劇を目にして、それでこの国に来たんだとか」

「へぇ。それで今じゃDhampirを助けている訳か。ＡClass adventurer -samaは違うねぇ」

　他のadventurer達の声が聞こえる。

(纏めると、Heinz達は自分達が捕まえて引き渡したkaa-sanが火炙りの刑にされたのをきっかけに考え方を変えて、AldaのReconciliation Factionになって、Orbaum Elective Kingdomで活動している。

　それで、Dhampirを助けている？　助けて……)

「だいじょうぶよ」

　内心はin any case、appearanceはただじっと立っているように見えるVandalieuのすぐ前に、Heinzの仲間達と一緒に居たShoujoが居た。

　彼女は、Vandalieuの手を取って言った。

「Heinzお兄-chanが、助けてくれるから。あたしみたいに！」

　そう笑うShoujoの瞳は、片方がbloodのように紅いオッドアイだった。

「ぁ……」

　小刻みに手が震える。

「ぅぅ……」

　三度目の人生で感じた事が無い程の吐き気に頭痛、不快感が駆け巡る。

「きゃっ！？」

　堪らずVandalieuはShoujoの手を払っていた。その際Shoujoがinjureをしないよう、clawsを出さず力も勢いも加減した。

　それが限界だった。

「-kunっ！？」

　はっとして手を伸ばしてくるHeinzから、全力で遠ざかる。両手足を駆使して床を蹴り、内臓に負荷がかかる勢いで【Flight】して。

「お、おい！？　ちょっと待てって！」

「どうしたの！？」

　驚くHeinzの仲間かadventurer達の声を無視して、Vandalieuはguildの扉を肩で砕くように体当たりして、その場から逃げ出した！

　小刻みに震える自分の手を見つめたまま、Vandalieuは地面に座り込んでいた。

　場所は既にNiarkiの町の外で、maybe近くの森か林だろう。流石に長距離は移動していないはずだ。

　guildを出た後、どうやって町を出たのかは全く覚えていない。城壁に穴を空けて出て来たのかもしれない。

「あ……ぐっ……ぉ……」

　そんな事に構っていられない程、Vandalieuの心は乱れていた。あまりの怒りと屈辱、そして無力感にwhole bodyが腐り落ちていくような気さえする。

　仇に全く敵わなかった。仕掛ける前から完敗だと解った。以前はそれを最大の屈辱だと考えていた。

　だがそれ以上の屈辱が存在した。仇に、Heinzに情けをかけられたのだ。助けられそうになったのだ。

　それはVandalieuのprideを踏み躙る行為だった。

　だが何よりVandalieuが許せないのは、Heinzが彼を助けようとした理由だった。

　Dhampirだから、助けようとした。

　Mirg Shield Nationで、自分達が依頼で捕まえてfanaticに渡したVandalieuの母、DarciaがTortureの末火炙りの刑で公開処刑にされるのを見て、考え方を変えてAlda Reconciliation Factionに成ったから。

「ふざ……け……るなっ！」

　reasonでは、何故そうなったのかconjectureできる。Heinzは恐らく、自分が生きている事を知らないのだと。とっくに死んでいると思い込んでいるのだと。

　Vandalieuの存在は、Mirg Shield NationやAmid Empireの一部や、Vampire達等極一部にしか知られていない。だからHeinz達が知らなくても、不思議はない。

　だから奴は償っているのだろう。Earthではフィクションでもノンフィクションでも、頻繁に聞いた話じゃないか。

　自分が殺してしまった人達に詫びる為、生きて罪を償っている。

　殺した人の数だけ、人を助け救う。

　戦争で敵国の一般市民を殺した事に罪悪感を覚えて、償いの日々を過ごしている。

　珍しくもなんともない。

　その中でも一番VandalieuのMemoryに残っているのは、やはりフィクションの方だ。

　自分のmissで誰かを殺してしまったが法律で罰せられる類のものでは無かったので、自由の身のまま悩む者に、ドラマや漫画のprotagonistが「なら自分を許せる日が来るまで誰かを助け続けろ」と訴える。

　昔は悪役だったCharacterにprotagonistが「これからの行いで償え」と言う。

　HeinzはDarciaとVandalieuに対して償っているのだ。自分が正しいと思うReconciliation Factionの教えを実践し、あのShoujoを、Dhampirを助けている。

　DarciaもVandalieuも関係無く、頼んだわけでもないのに、勝手に償っているのだ。

「戯けるな……っ！」

　それで赦せと？　もう責めるなと？　殺そうとするなと？

　話にならない。そんな理不尽な話があるか。

　それが許されるのなら、何人も人を殺した外国人の殺人鬼がその国で殺した人数分、殺人鬼が産まれた国の人の命を助けたら、遺族は殺人鬼を許さなくてはいけなくなるじゃないか。

　Vandalieuが殺した人数分Orbaum Elective Kingdomの人々を助けたら、Mirg Shield Nationに居る遺族は許してくれるのか？　違うだろう。そんな訳がない。

　そんな薄気味悪い Humanが、何千人も居る訳がない。

　だがきっと、Orbaum Elective Kingdomの人々は全てが明らかに成った時、Vandalieuに言うのだ。Heinzを赦すべきだと。

　Heinzが多くの人々を助けたから、偉業を成し遂げたから、Heroだから、赦せと。

　彼はこれからも多くの人々を助け、何千何万と言う人々の不幸を軽くして、幸福を増やすから。

　Heinzの存在は国益に成り得るから。

　たった一人の母親を殺された事を恨む、たった一人のDhampirに言うのだ、赦せと。

　それは何処のworldでも正常で、至極正しい事なのだろう。

　Darciaが殺された事も、Vandalieuが今まで滾らせてきた憎悪も、何もかも自らを飾る美談にしているHeinzを赦す事が正しい。

　頼んだわけでもなくあのShoujoのような、他のDhampirを助けて回るAlda Reconciliation FactionのHeinzを、赦す事が皆の幸せ。

　そしてそれすらも奴を飾る美談になる。

　……赦せるものか！

《【Grotesque Mind】skillのlevelが上がりました！》

《【■い■■■け■■く】skillを獲得しました！》

　だが、今はenduranceしよう。

　償いだと思っている行為で成した事すら、自らの業績にして人望を集めているHeinzに、今のVandalieuは敵わないから。

　Death-Attribute Magicを使っても、あらゆるskillを駆使しても、Eleonora達に協力を頼んでも、何をしても勝てない。

　これは復讐だ。復讐とは、VandalieuにとってはSelf幸福を実現するための過程だ。結果じゃない。自分や仲間を犠牲にしては、意味が無い。

《【Grotesque Mind】skillのlevelが上がりました！》

《【■い■ゅ■けん■く】skillのlevelが上がりました！》

　だが、この憎しみはとても抑えられない。憎悪の熱を冷ます事が出来ない、horrorのcoldでheartが凍りつきそうだ！

「おい、居たぞ！　こいつだっ！」

「さっさと捕まえるんだよっ！　そのガキは銀貨を持ってたんだっ、まだ持ってるはずだよ！」

「任せとけよ、伯kaa-san」

　だから、あの場から逃げ出した。町からも逃げて、こんな場所に来たのだ。

　誰も巻き込まない-samaに、配慮したのだ。

「こんなに早く見つけられるなんて、俺達にも運が回って来たな！」

「これもきっとあたしらの日頃の行いが良いお蔭さ。

　悪く思わないでおくれよ、この不景気のせいで果物を売ってるだけじゃ食べていけないんだよ。なに、心配しなくてもあんたの見た目なら買われた先で可愛がってもらえるさ」

「このガキ、男か女かどっちだ？　女だったらこのageだと安いぞ？」

「いや、オッドアイだし、Dhampirですって言って売りつければ値が上がるんじゃねぇか？」

「止めとけ止めとけ、話題のＡClass adventurer -samaが突っ込んで来たらどうすんだ？」

「そう言えば、町に【Savior】が来てるんだったか。nameは、Heinzって言ったっけ？」

　Heinz、そう憎いのはHeinzだ！！

「無駄口聞いてないで、さっさとガキを縛って連れて帰るんだよ！」

　市場でリンゴを売っていた中年の女が、地面に膝をついたまま動かないVandalieuに近づいた。

《【Scream】skillを獲得しました！》

「ぁっ……■■……■……」

　不明瞭な声に、何かの呪文かと中年の女と男達は驚き、慌ててVandalieuに掴みかかってしまった。

　この時全力で逃げ出せば、彼女達もbarelyで生き延びる事が出来たかもしれない。

「■■■■■■■■■■！！」

　Vandalieuの口から、恐ろしい叫びが発せられた。

《【Scream】、【Mind Encroachment】、【めいきゅうけんちく】skillのlevelが上がりました！》

「ひぃぃぃぃぃぃっ！？」

「はぎあ゛ああああああああああ！？」

　彼女達はVandalieuの上げる【Scream】に呼応する-samaに叫び声を上げた。

　彼女達の髪からみるみる色が抜け、瞳から正気の光が掻き消える。

「■■■■■■■■■■■■■■！！」

　だが中年の女と、彼女の甥がleader格のゴロツキ達は死んでいなかった。活発に活動していた。叫びから逃げるために耳に指をthrust入れ、tongueを噛み千切り、eyeballを抉り取った。

　それでも飽き足らず、見えないはずの目で近くの仲間を見つけると掴みがかり、獣の-samaに殺し合いを始める。

『憎いっ！　憎いっ！　何が憎い！？』

『俺を殺せ！　奴を殺せ！　誰を殺す！？　誰も彼も殺せ！？』

『耳が、目が、tongueが、手が、あたしの肉がっ、あたしの臓腑が、悍ましい！』

「■■■■■■■■■■■■■■！！」

　Vandalieuは胸の中に溜まったどす黒い物を辺りに撒き散らす解放感を覚えたと同時に、そのまま意識を手放した。

　心地良い気分で、Vandalieuは目を覚ました。

　空を見上げると、まだ昼過ぎであるらしい。Adventurer’s Guildに行ったのが昼前だからほんの一、二時間しか経っていないはずだが、何故か熟睡した朝の目覚めの-samaに、晴れ晴れとした気分だった。

「でも大分疲れたような？　心地良いFatigue感？」

　首を傾げながらStatusを確認すると、残りManaが零に近い。一体寝ている間に何をしたのだろうか？　少なくとも、周りにbloodの跡は在ってもUndeadは居ないのだが。

「Vandalieu -samaっ、無事！？」

　そこにEleonoraが空から降り立った。彼女はそのままの勢いでVandalieuを抱き上げる。

「あ、はい。ちょっとManaが残り少ないですけど。ところで、一体何があったのでしょう？」

「それは私の台詞よっ！　すぐに済むと言っていたのに、隠れて待っていたらguildから突然飛び出したと思ったら、城壁を【Flight】で飛び越えて、そのまま何処かに行ってしまってっ、連絡も無くて！

　どれだけ私達が心配したかっ！」

「すみません……心配をかけました」

　ぎゅっと抱きしめられたVandalieuは、そのままEleonoraに体重を預けた。

　Goblinの干し首型通信機で別の場所を探していたBraga達を呼び寄せて、Vandalieuは事の経緯を説明した。

「Vandalieu -sama、この領を滅ぼし征服しましょう」

　それを聞いたEleonoraのFirst声がこれだ。目が座っているので、冗談では無さそうだ。

「いや、Heinzには今はまだ勝てません。それと、勝ててもこの領を滅ぼして征服してもいけません」

『何でだ！？　ぶち殺してやろうぜ！』

『Mikoよっ！　奴らはHumanではありません！　人型の糞尿っ、動く害悪です！』

『ウオオオオオオ！　皆殺しにしてやろうぜ、坊主！』

　そしてZran、通信機の向こうのNuazaやBorkusもEleonoraに賛成らしい。maybe、SamやZadirisも反対はしないだろう。

　二百年間Hartner Duchyに裏切られていた事を知ったBorkus達Undead Giantの、Hartner Duchyに対する好感度は、地に堕ちるどころではない。マイナス方向に天元突破したらしい。

「皆が怒ってくれるのは嬉しいです。でも、Hartner Duchyには善い人も悪い人と同じくらいいます。でしょう、Braga」

　はっとした-sama子のEleonoraとZranが、Braga達Black Goblinと、彼等と一緒に居る彼らの伴侶達を見る。

「わ、わたし達は、もう故郷も捨てましたからっ」

「気にしないでくださいっ」

　Marieを始め、彼女達はVandalieuから改めて秘密さえ守るなら数か月分の生活費と一緒に開放すると説明されても、Braga達Black Goblinについて行くと決めた女達だ。

　彼女達はVandalieuによって麻薬addictionを治療され、Slave制約の首輪や刺青をmagicで解除された事を、心から感謝している。

　certainly打算もあるだろうし、本当にこのまま解放してくれるのか信じられないだけなのかもしれない。

　しかし彼女達はTalosheimに来る事を選んだのだし、Mirg Shield Nationの遠征軍とは違い融和の余地が多い。

　だからHartner Duchy生まれの彼女達は、今はTalosheimの民なのだ。……実は、娼館で働いていた女達の三分の一はSauron Duchy出身の元難民なのだが、気にする事ではないだろう。

　その彼女達の前で殺すだの害悪だの言う事は、彼女達を不安にさせる。

『……悪かった。頭にbloodが上っちまった』

「そうね、ごめんなさい。貴方達の立場ではままならない事が多いのを、知らない訳じゃないのに」

「ううん、俺も何も言えなかった。ありがとう、King」

「いえいえ。俺も頭にbloodが上って失敗したばっかりですから」

　とりあえず、皆の頭も冷えたようだとVandalieuは立ち上がった。

「でも、やられるばかりでは獣に喰われるだけの獲物です。奴らは無抵抗だからって手加減してはくれません。一方的に肉を啄み、臓腑を抉り、boneをしゃぶるだけです。

　奪われたものを奪い返し、その災禍を以て思い知らせなければなりません。

　Heinzに関しては……しばらく放置。力を蓄えながら、機会を待ちます。

　あ、あとHartner Duchyは諦めます」

　ついでの-samaに言った言葉に、皆がきょとんとした。

「このHartner Duchyでadventurer登録したり、活動したり、将来交易するのを諦めます」

　ここまで拒絶してくれたのだ。それほどまでにVandalieuやTalosheimを拒絶したいのなら、その意を汲んで見限ってやろう。

「あ、第二から第七cultivation villageは除きますけど」

　そう付け足すと、Marie達以外は「やっぱりな」と笑った。

「ところでVandalieu -sama、これは何なの？　前からこんな岩、在ったのかしら？」

『自然に出来た岩……じゃねぇのは確かだな』

　そうEleonoraとZranが見上げるのは、Vandalieuの背後に聳える大きな岩だ。森の木々よりもずっと大きい。

　だが大きさよりも奇妙なのはその形状だ。

　まるでGiantな髑髏の-samaな形をしていて、大きく開いた口の部分は馬車でも入りそうだ。

　そしてその奥は、何処かに繋がっているらしい。生暖かい空気が、呼吸でもしているかのようにそこから流れてくる。

「……少なくとも、俺達には害の無い存在ですよ」

《【Labyrinth Creation】、【Scream】、【Automatic Mana Recovery】、【Death-Attribute Charm】、【-Surpass Limits-】skillのlevelが上がりました！》

・Name: Vandalieu

・Race: Dhampir(Dark Elf)

・Age: ７age

・Title: 【Ghoul King】　【Eclipse King】　【Taboo Name】

・Job: Venom Fist User

・Level: ２０

・Job History: Death-Attribute Mage、Golem Transmuter、Undead Tamer、Soul Breaker

・Ability Values

Vitality: １８４

Mana: ３７９,１２０,３４４

Strength: １２８

Agility　：１３０

Endurance　：１１９

Intelligence　：７６１

・Passive skills

Mysterious Strength：３Ｌｖ

Rapid Healing：５Ｌｖ

Death-Attribute Magic：６Ｌｖ

Abnormal Condition Resistance：7Ｌｖ

Magic Resistance：３Ｌｖ

Dark Vision

Death-Attribute Charm：７Ｌｖ(ＵＰ！)

Chant Revocation：４Ｌｖ

Strengthen Follower：８Ｌｖ

Automatic Mana Recovery：５Ｌｖ(ＵＰ！)

Strengthen Subordinates：４Ｌv

Venom Secretion (Claws, Fangs, Tongue)：3Ｌｖ

Enhanced Agility：１Ｌｖ

Body Expansion (Tongue)：３Ｌｖ

・Active skills

Bloodsucking：７Ｌｖ

-Surpass Limits-：６Ｌｖ(ＵＰ！)

Golem Transmutation：６Ｌｖ

No-Attribute Magic：５Ｌｖ

Mana Control：４Ｌｖ

Spirit Form：7Ｌｖ

Carpentry：４Ｌｖ

Engineering：３Ｌｖ

Cooking：４Ｌｖ

Alchemy：４Ｌｖ

Unarmed Fighting Technique：5Ｌｖ

Soul Break：６Ｌｖ

Multi-Cast：５Ｌｖ

Long-distance Control：６Ｌｖ

Surgery：３Ｌｖ

Parallel Thought Processing：５Ｌｖ

Materialization：４Ｌｖ

Coordination：３Ｌｖ

High-speed Thought Processing：３Ｌｖ

Commanding：１Ｌｖ

Farming：３Ｌｖ

Clothing Decoration：２Ｌｖ

Throwing Technique：３Ｌｖ

Scream：３Ｌｖ(ＮＥＷ！)

・Unique skill

God Slayer:３Ｌｖ

Grotesque Mind：４Ｌｖ(ＵＰ！)

Mind Encroachment：３Ｌｖ(ＵＰ！)

Labyrinth Creation：４Ｌｖ(ＮＥＷ！)

・Curse

　Experience gained in previous life not carried over

　Cannot learn existing jobs

　Unable to gain experience independently

・Skill explanation:：【Scream】

　発する音で対象に効果を与えるskill。蝙蝠の鳴き声による特殊な聴覚で物を見る感覚(Lambdaでは一般的にこう解釈されるが、実際はsonar等)、マンドラゴラの絶叫、Bansheeの叫び等もこのskillの効果による。

　このskillにVandalieuは【Soul Break】と【Mind Encroachment】の効果も同時に使用するため、広範囲に聞くだけで聴覚とManaにDamageを受けるうえ、Emotionalに負けると最悪狂死する可能性がある攻撃を行う事が出来る。

　また、単に良く通る声としてこのskillを使用する事で、演説等を行う事が出来る。(拡声器やマイクが要らない)