Kasim達の案内で、Vandalieuは彼等が活動する村、第七cultivation villageに向かっていた。
「cultivation villageって、こんな所で?」
南に町の跡や、更にその向こうに鉱山もあるのにと驚くVandalieuに、Festerは逆に驚いて答えた。
「町って、聞いた事が無いぞ。村より南にあるのは、Slave鉱山がある岩山だけだ。それを越えて行けば、他のDuchyがあるけど」
「いや、確か百年か、二百年前に町があったって聞いた事があるな。Vandalieuの言う町って、それじゃないか?」
「ああ、そうか。親はVampireなんだっけ。それなら聞かされてもおかしくないか」
どうやら、Hartner Duchyは二百年前よりも衰退したらしい。
「一体何故そんな事に?」
そう問うと、彼らは首を傾げた。
「すまん、俺達そんなに学が無いんだ。この国はDuchy一つ一つが公国、Nobleが治める国みたいになっててさ、他領の歴史は俺達みたいなのは詳しくは習わないんだ」
「皆-sanは他領の出身なのですか?」
「あー、それも複雑な話があってだな。聞くも涙、語るもな――」
「Fester、俺が話すよ。とりあえず、町が何で無くなったのかから、俺達が知っている事だけ話すけど――」
Zenoの説明によると、やはり直接の原因はTalosheimの滅亡だったらしい。
当時、あの町はTalosheimとの交易の中継点として作られたので、その交易が出来なくなると途端にProduction力が落ち、維持も難しくなってしまった。
同時期に南の鉱山も産出量が落ちて来て、普通に人を雇っていては採算が合わないのでSlaveを使ってMiningを行うようになった。
鉱山で働くHumanが落す金も当てに出来なくなり、当時代替わりして数年程のHartner Dukeが町を撤収させたらしい。
町一つ撤収とは、封建社会では思い切った事が出来るものなのだなとVandalieuは思った。Japanなら絶対揉める。
(でも、First Princess -samaはどうしたんだ?)
Zenoの話にはTalosheimのFirst Princess、Leviaのnameは出て来なかった。町の話とは関係無いと、省かれたのかもしれない。
(気にはなるけど、今聞いたら不自然か)
そう思っていると、Zenoの話は一気に最近の話題に飛んだ。
「実は今から五年前、Amid Empireが攻めて来て北にあったSauron Duchyの殆どが占領されてしまったんだ。
俺達はそのSauron Duchyの出身なんだよ」
「難民って奴だな。Empireの奴等、町や大きな農村では行儀良かったらしいが、俺達が暮らしていた小さな村じゃあ、好き勝手しやがって。俺の一番上の兄貴は、婚約者を助けようとして、二人とも――」
「Fester、こんな小さな子に聞かせる話じゃないだろ」
それまで話に聞いていた、Amid EmpireとOrbaum Elective Kingdomの戦争。それが急に距離を詰めてきたようにVandalieuには感じられた。
「まあ、in any case俺達はSauron DuchyからこのHartner Duchyに逃げてきた難民って訳だ。それで、戦争が一段落してから、今のDuke -samaの次男のBelton公子が難民対策に始めた開拓事業で、これから行く第七cultivation villageにfamilyと住む事が出来たんだ」
「それほど余裕がある訳じゃないし、俺達は村が出来て三年目にadventurerに成りに町へ行ったけどな」
「なるほど。それはご苦労なさったでしょう」
難民対策で開拓事業と言うのは、悪くない政策のようにVandalieuには思えた。Earthと違って未開の土地は幾らでもある。特にこの辺りはDevil Nestsが無く、monstersが出ても殆どRank2が精々で、街道の先にSlave鉱山しかないのでmountain banditも殆ど出ないらしいし。
……つい昨日Goblin King率いるGoblinの集落を殲滅したばかりだが、あれは自然災害の-samaなものだろう。
Kasim達が不思議がっている普通街道に出て来ないGoblin Barbarianの出現も、あのGoblin Kingが関係しているに違いない。派遣された偵察隊か、狩に出ていたのだろう。
「まあな。Soldierに連れられて、開けた土地を指差されて『ここに村を作れ』って言われてから、畑を作って井戸を掘って、家を建てて……」
「村が出来るまで獣やmonstersから守ってもらって、テントや毛布も貸してくれたし、飯もあんまり美味くなかったし少なかったけど出してもらった。後、五年は税を免除してくれるけど、苦労はしたよな」
KasimとFesterが口々に語る内容を聞くと、Vandalieuが想像していた以上の苦労があったようだ。村が作れる土地は用意して、開拓の間の護衛と最低限の暮らしは保証するが、家や畑、井戸等のインフラも全て開拓民に手作りさせていたとは。
「あのな、Slumで日雇い仕事を探して四苦八苦するよりマシだろ。文句を言っていたら罰が当たるぞ」
しかも Zenoの言葉から、それでもマシな部類である事が察せられる。
「それに、この子の方が苦労しているに決まってるだろ。悪いな、こいつ等察しが悪くて」
「いえ、お気になさらず。俺はkaa-san達のお蔭でこのageまで喰うに困りませんでしたから」
一時期ミミズの汁を舐めて飢えを凌がなければならない程喰うに困ったが、それは流石に話しにくい。
この後はAdventurer's School校の事や、Hartner Duchyの事を聞きながら、三時間ほど歩き村に辿りついたのだった。
第七cultivation villageは、人口三百人程のLambda worldの村としては小規模と中規模の間くらいの大きさだった。
村人はやはりHumanが一番多いが比率的には半分程で、残りがBeastmenとDwarfとGiant raceが居るそうだ。ElfやDark Elf、Ryuujin等は寿命が長いのと独自の文化を持つためraceごとに集落を造る事が多く、都市ならin any case小さな村には殆ど居ないらしい。
難民になってもそれは同じで、Sauron DuchyのDark ElfやRyuujinは、他の同raceの集落に身を寄せたそうだ。
そして村に居るGiant raceも、Sauron領に住んでいたGiant raceなのでTalosheimとは関係無い。
cultivation villageの家は平屋ばかりで作りもそうしっかりした物ではないが、開拓民の手作りなのを考えれば上等な部類なのだろう。
実際、この辺りにある六つのcultivation villageの中では一番人口が多いらしい。
「ところで、この村が第七なのにこの辺りに六つしかcultivation villageが無いのは何故ですか?」
「最初に始まったFirst cultivation villageが、採算が取れずに廃村になったんだ」
「結構頑張っていたんだけどな。近くの湧水が枯れて、井戸を掘っても水が出なかったらしい」
このworldのHuman社会は、本当に世知辛い。
「まずはこの耳をさっさと換金しよう」
そう言い、Kasim達はVandalieuを村に唯一ある商店……雑貨屋兼酒場兼Adventurer’s Guildの出張所で、客が居れば宿屋もやる、通称何でも屋に連れて行った。
この村では複数の業務を兼ねなければ食べていけないらしい。
だが、今まで村人が誰もVandalieuに注目しない事から、意外とこの村には外から人が来る事は珍しくないのだろう。
そんな村人の反応よりもずっと気になる物、Aldaの聖印が刻まれた石を祭る祠を見つけたためVandalieuの意識もそれに向かっていたのだが……。
「うわっ!? Kasim、お前の後ろに何かいるぞ!?」
何でも屋の店主に「何か」扱いされた上に、指差された。
「……こんにちは」
「ひぃっ!? 喋った!? 誰かっ、Cleric -samaを呼んできてくれ!」
めげずに挨拶したらこの言葉。閉鎖的な田舎の洗礼にしても、酷過ぎはしないだろうか?
「待てよ、親父-san。この子はお化けじゃないって!」
「確かに存在感が薄いけど、-chanと生きてるから!」
「ちょっと事情があるんだよ! 落ち着いて聞いてくれ!」
慌ててKasim達が何でも屋の店主を宥めると言うにはやや荒っぽく、店内に引き戻して行く。
この時Vandalieuは、Kasim達の言葉でやっと自分の存在感が、【Death-Attribute Charm】の対象外の存在には空気並に希薄であると言う事に気がついたのだった。
今まで村人にVandalieuが何も言われなかったのは、単に気付かれなかったかららしい。
「ゴメンね、父-sanがBAKANA事言って」
そう言うのはAdventurer’s Guildの出張所の職員で、何でも屋の店主の一人娘、リナだ。
明るく素朴な村娘っぽいguild職員……では無く、村娘がAdventurer’s Guildの試験を受けて出張所の職員をしているらしい。
小さな村だとadventurerの有無で存続率が大きく上下するため、村唯一の商店に間借りするような小さな出張所でも作らなければならなかったらしい。
「いえ、慣れてますから」
大嘘だ。しかし受けたshockがまだ響いていてもVandalieuの表情にそれが出る事は無い。リナもVandalieuの人形染みた顔に、「そう? なら良いんだけど、本当にゴメンね」ともう一度謝って気が付かずに流した。
「リナ、それより換金を頼む」
「はいはい。えーっと……これはGoblin Soldierに、Goblin Barbarian!? よくこんなの退治できたわね、あんた達まだEClassでしょ!?」
「いや、倒したのは――」
「Fester、それは後で話せば良いだろ。とりあえず換金してくれ」
「ええ、そうね。えーっと……」
ややもたつきながら計算して、銅貨や銀貨を数えるリナ。どうやら村の出張所職員は、Adventurer’s Guildでは正規職員と言うよりも、Part time job職員のような物でそれほど高い練度を求められないようだ。
実際、村に居るadventurerがKasim達だけなら出張所の仕事は数日に一回程度だろうし。
しかし Vandalieuは別の事が気になっていた。
(今気がついたけれど、Adventurer’s GuildではどうやってGoblinを耳だけで見分けているのだろうか?)
討伐証明部位の耳は、形と色からGoblinの物である事はVandalieuでも分かる。しかし、どんなGoblinの耳かと聞かれるとお手上げだ。
Goblin Kingの-samaな、同じraceとは思えない程体格が異なる場合は分かる。しかし、大きさも形も普通のGoblinと変わらない、違うのは装備品や装飾品程度のGoblin SoldierやGoblin Mageを、耳だけで見分けろと言われても無理だ。
それなのに何故わかるのか? 【Appraisal】のmagicをいちいち唱えているのか、それとも【Monster Appraisal】とか【Extermination Proof Appraisal】とか、そんなskillをguildで習うのか。
「Goblin Soldier十匹と、Goblin Barbarian一匹の討伐証明で四百Baum。あとMagic Stoneの三百八十Baumで合計七百八十Baumね」
それを聞こうとしていたら、換金が終わってしまった。
七百八十Baum、一Baumの価値を百円とすると、七万八千円。とても命がけの戦いに釣り合う金額では無いようにVandalieuには思える。しかしそれはEarthの、それもJapan人の感覚に過ぎないのだとすぐに解った。
「三人で分けると一人二百六十か……よっしゃ!」
「暫く一息つけるな」
Festerは拳を握ってガッツポーズを取り、Zenoも安堵の溜め息をつく。二百六十Baumは、彼らにとって十分な収入である事が、そこから伺える。
「そのお金はどれくらいの価値があるのですか?」
「ああ、二百六十Baumの価値か。そうだな……Slumの日雇い仕事の中でも割が良い仕事を二十六日くらいやると稼げるかもしれないな」
どうやら、Slumの日雇い仕事では二万六千円稼ぐのにFortuneにも良い仕事を獲得して二十六日間休まずに働く必要があるようだ。
だが福利厚生やinjureやdiseaseに対する保証もセーフtea netも無いのだろう。しかも、日雇いなら毎日働けるかは分からない。それを考えると、命の危険はあっても一日でそれだけ稼げるなら、危険と吊り合った報酬なのかもしれない。
「でもこの額で一息つけるのも、ここの親父-sanがタダで泊めてくれるからだけどな」
「そうとも、娘に色目を使うような奴でも、adventurerが居ないと困るからな」
そう話していると、その親父-sanが突然話に割って入って来た。
「さっきは悪かったな。この村で泊まる時はこいつら同-samaタダにするから、それで許しておくれ、お嬢-chan」
そう言って、まるで先程とは別人のような柔和な顔つきで謝ってくれた。それは良いのだが……。
「親父-sanっ! 俺は別にリナに色目なんて――」
「何だと、Fester! お前は俺の娘が気に入らねェってのか!? 後誰がお前の親父だ!」
「ちょっと止めてよ、お父-san!」
「……あのー、俺、男なんですけど」
「「「えっ?」」」
何故かその場に居た全員に驚かれた。
自分が属していた社会や文化とは別の社会や文化に触れて受けるshockを、たしかカルチャーshockと言ったような気がする。
(でも、俺がLambdaのHuman社会で受けたshockは、絶対別の物だ)
まさか自分の存在感が幽霊のように薄いとは思わなかった。そして何より、性別を間違えられるような容姿をしている事にも、初めて気がついた。
Ghoulのchild達にも性別を間違えられた事があったが、あれは単純にGhoulのmaleは獅子の頭をしているからだと思っていた。
今までVandalieuの他の仲間には、性別を間違えられた事は無かった。
実際には、Zadiris達GhoulやUndead GiantはVandalieuの一人称が「俺」である事と、Sam達が「Bocchan」と呼んでいたから分かっただけで、最初から男だと思っていた訳ではないらしい。
他の場合も似たようなもので一人称が「俺」だから、Kingだから、女の子らしくない挙動だから等々、顔以外で判断していたらしい。
(まあ、俺はまだ七age。これから第二次成長期を迎え、声変わりしたり髭が生えたりmuscleがつけば、誰も間違えなくなるはず)
そう自分を励ましてshockから立ち直ろうとしているVandalieuは、今何をしているかと言えば、話題を提供していた。
「へぇ、この子がDhampirねぇ。初めて見たぜ」
「あらまぁ、まるで人形みたいじゃないかい。-chanと食べてるのかい?」
「俺、Dhampirに触ったぞ!」
「へへーんっ、俺なんて突いたもんねー」
「コラ! お前等、失礼だろ!」
見事な珍獣扱いである。どうやらこの娯楽に乏しいcultivation villageでは、「初めて見るDhampir」は格好の見世物らしい。そのため何でも屋の飲食spaceには、次から次に村人達がやって来ていた。
お化け扱いよりはずっとマシだと、Vandalieu本人は気にしておらず話しかけられれば村人達の基準では礼儀正しく受け答えするため、村人達もあまり遠慮しない。
「そうかい、あんたも苦労したんだねぇ」
「大変だろうけど、頑張るんだぞ」
ただ村人達はVandalieuに対して基本的に好意的だった。元難民で自分達も苦労している分Vandalieuの身の上に同情的なのと、このcultivation villageには他人の身の上に同情できるだけの余裕があるのだろうと彼は解釈したが、更に二つ理由があった。
一つはVandalieuの無表情や死んだ瞳を見て、「凄く辛い目に遭ったのだろう」と村人達が思い込んだため。
もう一つは、Vandalieuがcostを伴わない同情できる相手だからだ。
もしVandalieuがただの無力な孤児だったら、村人達がどんなに同情的でも出来る事は限られている。村人達の殆どは若く、これから幾らでも働けるがそれでも裕福な訳じゃない。
今はまだ人頭税を払わずに済んでいるが、後二年で税の優遇措置が終わる。引き取って育てるような事は出来ない。
しかし Vandalieuはadventurer志望で、Kasim達の話を半分でも信じるなら既にGoblinくらいなら難無く退治できる腕の持ち主らしい。なら、こうやって同情して励まして、Cookingの一つも奢れば十分だ。
ただ、都会の無関心よりはずっと上等な対応だろう。
「本当だって! こいつがGoblin Barbarianを後ろから、一発で首を刎ねたんだって!」
「うーん、あんたを疑う訳じゃないけど、幾らなんでも信じられないって言うか……」
「いや、疑ってるだろ! 信じてくれよ、リナっ!」
「Fester、実際に見た俺達だって信じられないのに、リナに信じろって言うのが無理だろ」
Vandalieuの背後ではFester達が話しているが、Rank3のmonstersなら難無く殺せる彼からすると、真実を主張する程の事ではないので黙っている。
実際、昨日Rank4のGoblin Kingを難無く無力化したばかりだ。Goblin Barbarianくらい、それに比べれば大した手柄では無い。
尚、リナが一人で運営する出張所ではadventurer登録する事は出来なかった。
ここで出来るのは証明部位とその他素材の買い取りだけらしい。登録するには、町に在るしっかりしたguild branchに行かなければならないのだとか。
Borkus達から聞いた話では、二百年前は小さな村でも登録できると言う話だったのに。
どうやらこの二百年で衰退したのはHartner Duchyだけでは無く、Orbaum Elective Kingdom側のAdventurer’s Guildも同-samaなようだ。
「その子がKasim達を助けたと言う、Dhampirの子かね?」
そう尋ねながら、二人の男が入って来た。
二人とも三十代以下の者が多いこの村では珍しい年配の、壮年に成って数年目程に見えるageだ。しかし前に立っている男は他の村人と似たような服を着ているが、後ろに続いている男はしっかりと染料を使って染められた綿の服を着て、Vandalieuが嫌いな装飾の首飾りを下げていた。
「村長、Cleric -sama、お話は終わったのか?」
「ああ、もう済んだ。それよりも、その子に礼を言わなければな」
村長は何でも屋の店主にそう答えると、Vandalieuの手を取るとすっと一礼した。
「Kasim達を助けてくれて本当にありがとう。幾らadventurer志望でも、-kunのような子がGoblinの気を引きつけるのは勇気が必要だったろうに」
どうやら、村人達の間では「Vandalieuが強いGoblinの気を引きつけて、その間にKasim達が反撃してGoblinを退治した」と言う筋書きになっているようだ。
Vandalieuは同世代のchildと比べても体が小さいし、Dhampirについてaccurateに知らない村人達からすれば、「小集団をCommandingしていたGoblinの首を、背後から刎ねた」と言う真実よりも、ずっと信じやすいのだろう。
「お役に立てて幸いです」
特にcorrectionする事に拘らずにそう応えると、「でも危ない事はしてはいかんよ。adventurerは生き残ってこそだからね」と言ってくれた。
(思い返してみても、Earthの誰よりも優しいな。ここの人達)
Humanも捨てたもんじゃないなと、小さく感動する。しかし、その良い村長の背後には微笑んでいる「Cleric -sama」が居るので油断できない。
「巡教で偶々滞在していた時に、このような勇敢なShoujoに出会えるとは。これもAldaのおGuidanceでしょう」
そう柔和な口調で言うCleric -sama……AldaのClericは、胸にある十字架に似たAldaの聖印に手を触れて短く感謝の祈りを捧げる。
やはり性別を間違えられたが、そんな事はどうでもいい。
「Cleric -sama、この子は――」
「はっはっは、村長-san、何も心配する事はありません。Aldaが罰するのは悪しき者のみ。例えDhampirでも善き行いを成す者を不当に罰する事はありません。
聞けば、今まで人里離れた森か山の中で生活していたとか。洗礼もまだでしょう、良ければ私が執り行いますが?」
特にbloodthirstも嫌悪感も浮かべず、しかし Vandalieuの目には薄っぺらに映る微笑を浮かべてそう申し出てくる。常時Activateしている【Danger Sense: Death】にも反応は無い。
「いえ、略式でしたがVidaの洗礼を母が執り行ってくれましたので」
しかし、何かのTrapでなくてもAldaの洗礼なんて受けたくないので、再び嘘をつく。
「そうでしたか。良いお母-samaですね」
Vidaの洗礼について聞き返す事も無く、AldaのClericは引き下がった。
Amid Empireの脅威から自国を守るため小国が纏まったのが、Orbaum Elective Kingdomだ。
その成り立ちから、Empireが国教に据えるGod of Law and Life Aldaの信仰を禁じている――訳ではない。Vidaの信仰を認めてはいるが、Aldaを信仰する事にも制限を設けてはいない。小国の中にはAldaやそのSubordinate Godを信仰する人々が少なからず居たからだ。
ただEmpireのAlda教と全く同じという訳でもない。
まずAldaの信仰にも、複数の解釈が存在する。中にはDhampirに人権を認めるOrbaum Elective Kingdomでdevelopmentした、「法律を守る善良な存在なら、Vida's New Racesでも存在を許しましょう」と唱える、Amid Empire側のClergymanから見ると異端であるReconciliation Factionが存在する。
これは別に不自然でも何でもない。このLambdaでは神が確実に存在する事を誰もが知っているが、その神が地上に存在したのは十万年前のAge of Gods Eraだ。
今ではOracleを下す等、限られた方法で限られた人物にしか意思を伝えられないでいる。
そのため現在では国や地域、人によって各神の教義の解釈は-sama々で、それぞれSlightly異なっている事が多い。その最たる例がAldaのReconciliation Factionだ。
尤も、Reconciliation FactionがElective Kingdomで広まったのは、BeastmenのDukeを含めてEmpireよりも多くのVida's New Racesが存在し、更に戦争でAldaの信仰に対しての印象が悪化しているElective Kingdom内で生き残るための政治的判断の結果だろうが。
(Earthでも大本は同じKami-samaなのに、教義が異なるなんて珍しくなかった。Aldaが何を考えているのかは知らないけれど、流石にbeliever全員に監視を付けて、『その解釈は違う』っていちいち指摘するためにAdventしたり、Oracleを下したり、Familiar Spiritを差し向けたりするはずないだろうし。
まあ、俺にとって無害なら別にいいか)
なんだか「許してやる」と上から目線で言われたようで気に入らないが、それだけなら気にしないのも社会で生きるには必要だと、Vandalieuは納得した。
「Cleric -sama、頂いた薬ですが……ちょっと効きが悪いようでして」
「それは一度に飲む量を多くした方が良いですね、これからは今までの倍飲むようにしてください」
「Cleric -sama、家の畑の-sama子を見てくれませんか?」
「構いませんよ。Aldaは生命の神でもありますからね」
その彼の前で、村人達はClericの男に代わる代わる相談や、要望を述べていく。どうやら、Smiling Faceが薄っぺらな割に慕われているようだ。
cultivation villageではClergymanが語る過去の聖人やHeroの逸話は数少ない娯楽だろうし、知識人でその上薬のCompoundingまで出来るなら、確かに多少胡散臭くても慕われるだろう。
その時、外から声がした。
「Cleric -sama、来てくれっ! Ivanの奴が屋根から落ちちまった!」
どうやら村人が修理か何かをしていたら、誤って屋根から落ちてinjureをしてしまったらしい。雰囲気からすると、結構な重傷のようだ。実際、Vandalieuが【Detect Life】を使うと、不自然にweak生命反応があった。
「それはいけない、すぐに行きましょう」
そう言って立ち上がるClericの声を背後に聞きながら、Vandalieuはすっと何でも屋から出ていた。皆Clericに気を取られているのか、誰も彼が出ていくのに気が付かなかった。
(死んでいなければ何とかなると思うんだけど……あ、ここか)
生命反応があった場所に【Flight】で駆けつけると、地面に横たわってぐったりしている三十代前後の男と、それより少し若そうな、お腹の大きい女。そしてVandalieuより小さいchildが居た。
「あんたっ! しっかりするんだよっ、今Cleric -samaが来るからね!」
「父-chanっ! 父-chanっ!」
縋りつく妻と息子に、男は何も答えられずに呻いている。呼吸も苦しそうだ。その顔には、濃い死相が出ている。
(これは重傷だ、boneじゃなくて内臓……最悪脳の中がどうにかなっているな)
そうなると、このLambdaの医療ではお手上げだ。magicなら何とかなるかもしれないが、ここは村の外れ。何でも屋からあのClericが来る前に、致命的な事態になる可能性が高いとVandalieuは判断した。……そもそも、あのClericの技量が一流以上でなければ、首を横に振る以外何もできないだろうが。
certainly、VandalieuがDeath-Attribute Magicを使えば高い確率でこのIvanと言う男の命を助ける事が出来る。妻は夫を、彼女の胎の中と傍らの子は父親を喪わずに済む。
しかし、彼の今回の目的は「目立たずにguild登録だけして、ダッシュでTalosheimに帰る」事だ。
高levelのMageでなければ助けられない命を、childが救う。これは十分目立つ事だろう。
(初志貫徹か、情に流されるか……仕方ない、諦めよう)
「失礼します」
そう言いながら、すっと近づきするっとchildの横に入り込み、Ivanのbody partに触れる。
「ひぇっ!?」
「うわっ!? なんだおまえ!?」
やはりVandalieuに気が付いていなかった女とchildに驚かれたので、「今村で噂のDhampir、Vandalieuと申します」とSelf introductionしながら、【Spirit Form Transformation】。彼女達に見えないように、Ivanに触れている手の平の中心からtentacleを伸ばして行くimageで、Ivanと同化しながら体内にSpirit Formを伸ばして行く。
やはり脳が問題の-samaだ。頭蓋boneの中で出bloodして、溜まったbloodが脳を圧迫している。
(溜まったbloodをtentacleからAbsorption。破れたblood vesselを【Fortify Regeneration】で再生。後、頭蓋boneの罅も治して……この人heart近くのblood vesselに動脈bumpが出来ている。ついでに治しておこう。あ、大腸にポリープが。悪性っぽいから取っておこう。水虫は……ついでに治しておくか)
「ちょっと、あんた何を……」
「母-chanっ、父-chanの顔色が良くなってる!」
「ほ、本当だ。まさかあんたが、この人を治してくれてるのかい?」
「あ、はい。もうちょっと待ってくださいね」
Ivanと言う男は、不健康だった。素朴なslow lifeは健康的だと言うimageは、少なくとも彼には当てはまらないらしい。
とりあえず出来る処置は全て終えたので、tentacleを体内に戻して【Spirit Form Transformation】を解く。
「これで大丈夫。すぐに目を覚ますでしょう」
injureを治すためのEnduranceや栄養まで同化していたVandalieuが消費したのだから、これで寝込むはずが無い。頭蓋bone内に溜まっていたbloodは美味しくいただいたが、治療代だと思ってもらおう。
「うぅ、俺は……一体?」
すると、早速Ivanが目を覚ました。
「あんたぁっ!」
「父-chan!」
そしてそのIvanに、女とchildが抱きつく。感動的な光景である。家庭とは、familyとはこう在るべきだ。
「これはどう言う事だ? 何故ここに-kunが居るのだね?」
「い、Ivan? お前、さっきまで死にそうな顔で倒れてたのに、何でピンピンしているんだ!?」
良い家庭を築いているIvanに対して尊敬の念をVandalieuが覚えていると、やっとClericや村長たちがやって来た。
ここで「実はIvanの容態は大した事無くて、何でも屋にClericを呼びに来た男が早とちりしただけだった」と誤魔化せれば、Vandalieuがこの場に居る事以外は解決だ。
「この子が、このVandalieuって子が治してくれたんだ! この子は命の恩人だよ!」
(奥-san、正直な女の人は好感が持てます)
「そう言えば、夢を見たんだ。恐ろしい死神に頭を掴まれて……でも気がついたら女Kami-samaに頭を撫でられてた。そうか、この子だったのか」
(誰がGoddessだ)
こうしてVandalieuは見ず知らずの村人Ivanの命を救い、とても目立ったのだった。