Asagiの件はとりあえず解決したが、彼の事以外にもVandalieuを悩ませている事があった。
「どうやって今以上に強くなるか、それが問題です」
自身のTrainingである。
「それ以上強くなる必要があるのか?」
このVandalieuの悩みに対して、Randolphは思わずといった-sama子でそう言い返していた。Meorilithも同じ思いらしく彼の言葉に頷いている。
二人はDemon Kingを倒してworldを救ったChampionが「もっと強くなりたい!」と言っているのを聞いたような気分なのだろう。そして、実際そうなので二人の疑問ももっともだ。
「もちろんです」
しかし、Vandalieuは今の自分の強さに満足している訳ではなかった。
「現時点で俺はこのworldで最強の一人に数えられるかもしれません。しかし、AldaやHeinzは俺を倒せると考えているから、倒そうとしているはずです」
Vandalieuも、不完全だったとはいえDemon King Guduranisを倒したのに「自分はweak」と考えている訳ではない。しかし、もう誰にも負けないと考えている訳ではない。
「奴らの思い違いって事もあり得るぞ。できると思ったが、実際にはできなかった。そうして破滅していった連中は古今東西数えきれない程いる。お前の話だと、神も同じmissを犯しているようじゃないか」
だが、Randolphの主張にも説得力があった。RodcorteもAldaも、それを繰り返しているからだ。
彼らがそうしてmissを重ねた結果、Vandalieuは今もここに存在している。
「それはそうですが、俺もこれまで苦戦せずに切り抜けてきたわけではありません」
送り込まれてくるReincarnatorに、Alda's FactionのGodsのbeliever達。彼らを相手にして、Vandalieuも常に余裕で勝ち残ってきた訳ではない。
もし準備や強くなる努力を怠っていたら、もしもっと運が悪ければ、Vandalieuは敗退していたかもしれない。……少なくとも、そうVandalieu本人は考えている。
「もし本当に俺に勝つ当てがAldaにあった場合、思い違いだと思い込んで何もしないのは危険です」
Alda's Factionには何かの秘策があるのだろうとVandalieuは考えていた。実際にはAlda's Factionには何の秘策も無く、ただただ勝てると思い込んでいるだけだったとしても、そう考えて備えるべきだとも思っている。
何故なら、Aldaの手元にはDemon King Guduranisのsoul fragmentがあるからだ。
『Goddess of Life and Love』Vidaによると、Demon King Guduranisのsoul fragmentは、Demon Kingとの戦いに生き残ったGreat GodであるVidaとAlda、そしてGuduranisの完全revivalを万が一にも避けるためこのworldから距離を取っていたRodcorteが持っていた。
その後、VidaとAldaの争いでVidaに勝ったAldaが、彼女が管理していたGuduranisのsoul fragmentも管理するようになった。
そして、Rokudou Hijiriに仕込まれていたのは彼がReincarnatorだったこと、そしてHeinz達がRokudou Hijiriについて知らなかった事から、Rokudou HijiriにGuduranisのsoul fragmentを仕込んだのはRodcorteであり、Aldaは関わっていなかった事がconjectureできる。
それは、AldaがGuduranisのsoul fragmentを神として正しく管理している事の証明だと解釈する事もできるが……Vandalieuはそう思わなかった。
「Aldaの手元にはVidaから奪った分も含めて、Guduranisのsoul fragmentのsealedが無傷で残っています。Rodcorteが管理していた分のfragmentも回収したでしょうし……それを、俺達との戦いの際に解放しないとは限りません」
Aldaは、『以前までは』Guduranisのsoul fragmentを正しく管理していた。だが、RodcorteによってGuduranisならVandalieu相手に善戦できると、そして何より、Vandalieuなら解放されたGuduranisを倒せると知ってしまった。
だから、Aldaが戦いにGuduranisを利用するかもしれない。ただ、Vandalieuのこの発言を余人が聞けば「暴論だ」と評すだろう。HeinzがGuduranisの魂を喰らったVandalieuに対して、いつか-kunからDemon Kingがrevivalするかもしれないと訴えたのと同じだと。
「もちろん、これはAmid Sacred Empireとの戦争で起こり得る最悪の場合を想定したものです。広く世の中に訴えるつもりはありません」
「まあ、確かに証拠は無いし……神が普段何をしているかなんて、普通は分からないからな」
「話の趣旨は、特訓の必要性の有無だしな。そして、必要性があるのは十分分かった」
Guduranisの残りのsoul fragmentと戦う事になるかもしれない。それを理解したRandolphは、顔を顰めた。
前の戦いで、彼はGuduranisがmagicとCheat Abilityで生み出したArtificial Spiritを一体相手どるのがやっとで、Guduranis main bodyとはまともに戦えなかった。
長らく格下の相手とばかり戦ってきたimpactもあるだろうが、それ以上に自分の実力不足をRandolphは否定できなかった。
そう、SClass adventurer『True』Randolphである彼がである。
「……チッ。Demon King Familiarが投shadowした映像を見たが、俺もGuduranis相手に勝てるとは思ってねぇよ」
Randolphが視線で尋ねると、Schneiderもそう苦い顔をして首を横に振った。
見れば、Bone ManもKnochenのFissionも、本来はEvil God (M)であるLissanaも首を横に振って「無理」と答えた。
「soul fragment一つ分なら……使われている体次第でどうにか出来るかもしれないわ。Vidaを降ろせばだけど」
「同じくfragment一つ分なら、倒せずとも時間稼ぎなら可能かと。もっとも、その場合は偉大なるVandalieuの役に立つのに支障が出る可能性を否定できない」
そう答えたのは、DarciaとGufadgarnだった。Darciaは特別製のBodyにTransformation Equipment、加えてVidaを降ろすことで高い戦闘Abilityを発揮する事が出来る。完全体のGuduranisならともかく、fragment一つ分だけの魂が適当に選んだBodyに宿っているだけなら倒すことも、強引にsealedする事もおそらく可能なはずだ。
Gufadgarnもspaceを操作すれば、戦って勝つことは不可能でも逃げ回る事で時間を稼ぐのは可能だと答えた。
だが、Gufadgarnはspace attributeのGhostであるJane Doeと同-samaに、戦場全体のfollowを行う事で状況を有利にすることができる。その彼女がGuduranisのsoul fragment一つに集中しなければならなくなるのは、痛い。
「つまり、Alda……敢えてAmid Sacred Empireと言い換えるが、奴らがsealedされたGuduranisの魂を解き放った場合、確実に対処するには我々の中核戦力であるVandalieuが打って出るしかないわけだ。
……Emperor自身が中核戦力と言う体制に疑問を覚えないわけでもないが、それはこの際無視するとして」
Meorilithがそうまとめた通り、Guduranisが出たらVandalieuが対処するのが最も確実。しかし、VandalieuはVidal Magic Empireの一兵卒ではなくEmperorで、しかも戦力の中核である。
ちなみに、Asagi達が研究していた【Demon King Fragment】を安全にsealedする方法についても、Gerald・Birgit Dukeから既に資料を受け取っている。
だが、Asagi達が研究していたのはGuduranisのBodyのfragmentのsealed方法なので、Guduranisのsoul fragmentにまで有効かどうかは不明だ。
そして、有効だったとしても彼らが発見した方法では、runawayしているfragmentの宿主を一度倒さなければsealedがActivateしないので、結局戦う事に変わりはない。
そのため、Vandalieu達が危惧している状況では、Asagi達の研究は全く役に立たないわけではないが頼りにしすぎるのは危険、という微妙な代物でしかなかった。
「まあ、この前倒したGuduranisは【Instinct】と【Memory】に【粉】など複数のsoul fragmentと、Bodyのfragmentだけで出来たBody、それにCheat AbilityもちのReincarnatorのGhost、それにRokudouとEdgarの魂があったからあれほど強かったのです。
soul fragment一つと適当に選んだBodyだけなら、Randolph senseiやSchneider、Bone Man達で充分戦えるかもしれません」
「お前が言うと説得力があるな」
深刻になりかけた空気を、問題提起したVandalieu自身が軽くする。GuduranisのBodyだけではなくsoul fragmentも喰らった彼の言葉には、Schneiderが言う通り説得力が感じられた。
「なら、Amid Sacred Empireに考える頭があればsoul fragmentのsealedを一つだけではなく一度に二つ以上解放して、適当ではなく特別なBodyに宿らせる可能性もあるわけだな」
だが、Randolphの言葉で空気の重さが再び増した。この前の戦いを見ていただろうAldaが、Vandalieuと同じ分析をするというconjectureは十分あり得る。
AldaもさすがにGuduranisをrevivalさせたくはないはずだが、追い詰められた敵は何をするか分からない。それに、Aldaの「これぐらいなら問題ない」と考える基準が狂っていないと信頼できる材料が乏しい。
「……なんだか、Mashkzarを相手にしていた方がいくらかマシだったんじゃねぇかって思えてくるな」
Mashkzarは冷徹ではあってもreason的で、なにより同じ地上に生きる人だった。そのため、同じ人として最低限信じる事が……どんなに追い詰められても自国も滅亡させかねない手段はとらないだろうと思う事が出来た。
しかし、Aldaは地上ではなくDivine Realmに座す神だ。Amid Sacred Empireが滅亡しても、 Bahn Gaia continent以外にも彼のbelieverは存在するので、消滅する事はない。だから、追い詰められているAldaなら何をしてもおかしくないとしか考えられない。
実際、Schneider達は知らないがAldaはVandalieu達を倒せるなら人類が十万年前Guduranisとの戦いが終わった直後と同じ、残り三千人ほどにまで減っても構わないと考えている。
もっとも、今の状況にならないとそう考える事は出来なかっただろうし、Mashkzarを排除したのはSchneiderではなくAldaとその狂信的なbeliever達だが。
「それで特訓なのですが……短期間で劇的に強くなる方法は俺にはもうありません」
こうしている今も、Vidal Magic EmpireのExplorer達と行動を共にしているDemon King FamiliarからExperience Pointが入っている。そしてTelkatanisが集められず各Duke 家やtempleで管理し続けている【Demon King Fragment】を、Vandalieuに渡すことも決まっている。
しかし、それでVandalieuが今よりも劇的に強くなるという事は無い。それほどまでに、Vandalieuは既に強くなっているのだ。
数字で例えると、強さが十の者が二十になれば劇的なPower upと言える。しかし、強さが千の者が千十になった場合は誤差の範囲でしかないだろう。
「だろうな。それは一定以上強くなった者なら誰もが至るconditionだ。仕方がない」
Randolphが言うように、ある程度以上強くなった者の成長は鈍くなる。それはlevelが極端に上がり辛くなる成長の壁とは、全く別の問題だ。
その原因は、得られるExperience Pointと次に強くなるために必要なExperience Pointの差が開くからだ。
同じ1levelでも、初めてJob changeを経験した新米adventurerのlevel1と、何度もJob changeを経験したSClass adventurerのlevel1では、level2へ上がるために必要なExperience Pointは比較にならない。
同じlevel1のskillでも、ただのskillとSuperior Skillでは2levelに上がるために必要なExperience Pointには、圧倒的な差がある。
そして何より、強くなればなるほど丁度いい強さの敵が少なくなる。
Rank3のmonstersはDevil Nestsに入れば、それほど時間を掛けなくても遭遇する事が出来る。だが、Rank10のmonstersは並のDevil Nestsでは最奥に行っても存在しない。Dungeonは難易度が高い物ほど数が少なくなる。
人同士の実戦形式の模擬戦で腕を磨くにしても、やはり模擬戦では実戦に及ばない。
かといって、格下ばかり相手にしても得られるExperience Pointは少なく、Job levelが上がるpaceはどんどん落ち、skill levelが上がるのはさらに遅くなる。
そのため、AClass以上のadventurerは今の実力で満足するか、長い時間をかけて地道に鍛えるかを選ぶことになる。
『Storm of Tyranny』のSchneider達の場合は、邪悪な龍などの強敵を探して討伐しているが、それでも限度があった。
「そのため、俺の特訓は諦めます」
そして、Vandalieuに丁度いい敵を探すのは難しい。だから、彼は特訓を諦めた。
「代わりに、皆に俺の特訓を受けて貰います」
なので、考え方を変える事にしたのだった。
灰色の雲で覆われた空に、荒れ果てた荒野に、深紅の池が点在するHELLのような光景に、countlessのDemon達が遠巻きに存在している。
Vandalieuの【Body World】の一つ、Demonの住み処。
『ヂュオオオオ……』
『ふぅ……切りがねぇな』
「まったくだ。だが、それよりも……」
そこでBone Man、『Sword King』Borkus、そしてVigaroが『敵』と相対していた。
『うおーん』
赤黒い液体がCrystal状のcrystalを包んでいる、不定形の敵。おそらく、Slime型のmonstersを参考にしたものと思われる。
『ぎーっぎっぎぎ』
Rhinoceros Beetleを人型にしたような、四本腕にそれぞれ杖やclaws、盾を装備した敵。蟲型と亜人型のmonstersを参考にしたのだろう。
『がるるるる』
Giantな虎の体に複数の目や角、翼を生やしたような姿の敵。見た目通り、獣型のmonstersを参考にしたと思われる。
いずれもRank13を超えているのは明らか。さらに、全ての敵が【Status Effect Immunity】であり、物理とmagic双方の攻撃に対して高いResistanceを持ち、その上再生Abilityも異常に高い。
そして何より、見た目にそぐわない高い技量の持ち主だ。
「それよりもVandalieu、その気の抜ける鳴き真似は止めてくれないか?」
『がるるる……Vigaro、訓練の最中に話しかけちゃダメじゃないですか』
その正体は、Vandalieuが作ったDemon King Familiarだった。
そう、Vandalieuの言う『俺の特訓』とは、彼が作るDemon King Familiarを相手にして行うほぼ実戦形式の特訓だったのである。
Vandalieu達の中で、最も強いのはVandalieuである。それはつまり、Vandalieuなら彼の仲間たちにとって丁度いい、もしくはやや格上として効果的な特訓相手になる事が出来る。
そして、Vandalieuは自身のCloneであるDemon King Familiarを造る事が出来る。
Demon King Familiarは、Vandalieuが本気で戦闘用にManaを込めて作れば相応に強くなる。そして使うfragmentを選び、動かし方を変える事で訓練相手に合わせた戦い方……試練を設定する事が可能なのだ。
「だがVandalieu、どうしようもなく気が抜けるぞ」
しかし、VandalieuのCloneなので演技力Rankは底辺である。
『そうですか……がるる、ではなく、ふにゃーお! の方が良いですか?』
「勘弁してくれ」
『坊主、俺もそれは無いと思うぜ』
『主よ、無言の方が良いと思います』
『分かりました。では、再開です』
そう言った途端、Demon King Familiar達から寒気が走るようなbloodthirstが放たれる。そして、恐ろしい速さで動き出した。
『ヂュオォ! 【Flowing Water Slash】!』
異-samaな動きで迫るSlime型Demon King Familiarに、Bone Manがwhole bodyのboneを分離させて迎え撃つ、彼の剣技と【Bone Blades】なら液体すら斬る事が出来るが、Slime型Demon King Familiarの体……【Demon King's Blood】は粘度が高い。そして体内のCrystalは自由自在に位置を変えて刃を回避する。さらに、Crystalは一つや二つ斬られてもすぐに元通りに再生してしまう。
彼の課題は、Slime型Demon King Familiarの体内にある全てのCrystalを同時に切断する事だ。
『【-Transcend Limits-】! 【Dragon God Killer】! 【Twin Dragon God Hunt】!』
『【Steel Wall】、【Steel Body】、【疾風流し】、【Spiral thrust】!』
Rhinoceros Beetle Warrior型Demon King FamiliarとBorkusが、激しい剣戟の音を響かせる。Borkus、そしてVigaroの課題はsimpleだ。目の前の敵を倒す事。
「ぬううっ! 【Magic Wall】! 【Magic Body】!」
だが、Vigaroの相手であるDemon King Familiarは、見た目に反して遠距離攻撃で彼を攻め立てる。
胴体側面に埋め込まれたeyeballから怪光線を撃ち、口から吐き出す液状の油で炎を吐き、tail……のように見える象の鼻から圧縮した空気やbloodを吐きだし、muscleをHigh-Speed振動させて発生させた体内電気を角から放出する。
VigaroはそれをSpirit Formの腕で保持した盾で防ぎながら、何とかして距離を詰めるか自身の持つ乏しい遠距離攻撃手段で倒さなければならない。
Demon King Familiarはほぼ本気でVigaro達の相手をしている。彼らが訓練だからと気を抜けば、致命傷を受けるだろう。……受けた次の瞬間には、【Death Delay】のmagicがかけられ致命傷から死へとconditionが進まないようにされ、Blood potionを浴びるように飲まされるが。
実は、Demon King Familiarが発しているbloodthirstも、【The Grand World of Murder】の効果を下げてbloodthirstを指向性に変えたmagicによるものだ。そうでもしなければ、Vandalieuが仲間にbloodthirstを出せるはずがない。
Vigaro達もそれを知っているが、治ると言っても致命傷を受けるのは痛いし、見物しているDemon達の前で恥をかきたくないので実戦と同じ真剣さで取り組んでいる。
なお、Demon King Familiarは込められたManaを使い切ると材料に使った角やbone、肉などを残して消滅する。だが、Vigaro達が持久戦に徹してそれを狙った場合、試練突破とは見なされない。Vandalieuが再びDemon King Familiarを作る事になる。
そして、これはDungeonのボス戦なのではなく特訓なので、試練を突破しても特に何があるという訳でもない。Vandalieuからの称賛と労いの言葉があるくらいだし、それは別に試練を突破しなくてもかけられる。
しかも、試練を突破した後は一休みした後、Vandalieuと特訓の-sama子を観察しているDemon達と反省会を行い、次の特訓内容を考え、それに取り組むのだ。
特訓の目的は試練のclearではなく、不完全revived Guduranisを倒す事なのだから。