Talosheimの王城は、現在浴場のみが賑わっていた。国家運営が機能していないため、そこしか用が無い為だ。
「良い湯だった~」
「Kingが作ってくれたmassage Golemも良かったわね」
「そう? あたしは泡がぶくぶく出る『じゃぐじー』の方が良かったと思うけど」
今まで水浴びだけで入浴の習慣が無かったGhoul達は、すっかり熱い湯に浸かる事に夢中に成っていた。Vandalieuが思いつくままに、しかし力を入れて作るGolem製品もあるが、やはり湯船に浸かるのは気持ちが良いようだ。
「そう言えば、知ってる? 最近Tarea Elderが毎日のようにKingの寝室に呼ばれてるって噂」
「知ってるけど、ただ人恋しいだけじゃないの? だってKingってまだ四ageじゃない。寂しがり屋だって聞くし。それよりもうElderじゃなくて職長でしょ」
「そうだけど、Elderの方が呼び慣れてて――」
二人のGhoulのfemaleが話しながら歩いていると、不意にその噂のTareaが走って前を横切って行った。
「あれ? 職ちょ――」
そして、そのすぐ後にVandalieuが横切って行った。音も無く、何故か両手足を使って天井を走っていた。
「…………」
あまりと言えばあんまりなGhoul Kingの姿に二人が言葉を失っていると、Tareaが戻ってきた。Vandalieuに捕まって。
「いやあああああっ! もうtonightは許してぇぇぇっ!」
「いえいえ、明日は投石機の試射があるので今日中に後十は行きましょう」
涙目でscreechを上げるTareaを、Vandalieuは【Telekinesis】で宙に浮かしながら連れて行ってしまった。それを見送った二人は、ゴクリと唾を飲み込んで言った。
「寂しがり過ぎじゃない?」
手足を放り出したままのあられもない姿のまま、荒い息を繰り返すTareaの横でVandalieuは言った。
「後数日で【Youth Transformation】は完了です。頑張って行きましょう」
「はうぅ~……」
ヘロヘロに成って足腰が立たない-sama子で、Tareaは変な声を出した。
色々と経験豊かなTareaだったが、【Youth Transformation】は彼女が今まで覚えた事の無い感覚がwhole bodyに走る。異物が体中を這い回る不快感と、逆に体中をmassageされ凝りの-samaなものが解れて行く快感と。
body partは活力が満ちているのと同時に激しい運動の後のようなFatigueを感じるという、訳の分からないconditionになる。
VandalieuとZadirisしか知らなかった秘密を共有できて、自分も若返る事が出来る。Tareaにとって良い事尽くめなのだが……。
「ううっ、確かに疲れやすかったり息がすぐ上がったり、目が霞んだりしなくなりましたし、腰が痛む事もなくなりましたけどぉ……」
思っていたよりTareaのAging症状は進んでいたらしい。流石二百六十越えだ。
「もう十age程若返っておきますか?」
「ひぃっ!? tonightはもうpatienceですわっ!」
いくつかある【Evil God of Joyful Life】Hihiryushukakaを奉じるVampire達の集Venue。そこに数千年に一度しか揃わないPure-breed Vampire達が集まり、ここ数万年無かった事を行っていた。
床に搾りたての特別な生きbloodで描かれた、所々歪んだ七芒星。その中心に向かって三人のPure-breed Vampire達が腕を伸ばし、拳を作った。
「我、Terneciaが尊いbloodを注ぐ」
Terneciaの指の間から、bloodが一滴落ちる。彼女は贈られたプレゼントの入った箱を開こうとするchildの-samaに、瞳を輝かせている。
「我、Gubamonが尊いbloodを注ぐ」
豊かな髭に全ての養分を吸われたような、大きい目をギョロギョロさせた枯れ木の-samaな老人。Gubamonの指の間からもbloodが一滴落ちる。
彼の目は、正体不明の欲望が目障りなほど浮いている。
「我、Birkyneが尊いbloodを注ぐ」
そしてBirkyneの白い手からも赤いbloodが落ちた。彼の瞳には、不気味なほど何も無かった。普段は紳士然とした微笑を絶やさないlipsは、何かを堪える-samaに引き絞られている。
彼等三人のPure-breed Vampireが一度に揃い、そして全員が協力して一つの事を行うのはここ数万年無かった事だ。
超人と呼ばれるAClass adventurerだけで構成されたpartyでも、彼等Pure-breed Vampireはそれを一人で圧倒できる力を持つ。
彼らはこのVampire communityの纏め役であると同時に、【Evil God of Joyful Life】Hihiryushukaka 's Divine Protectionを受けるEvil God (M)のSubordinate Godに等しい存在でもあるのだ。
そんな彼らがどんな儀式を行おうと言うのだろうか。
「……ふん、儀式は失敗した-samaじゃな。Sercrentめ、裏切りおったか」
Gubamonが何の反応も示さない七芒星を見て、嬉しそうにlipsを釣り上げfangsを剥き出しにする。
「じゃあ、次はEleonoraだね。さっさとしな」
「……ああ」
促されるままにBirkyneは控えていたNoble-bornが差し出したchildを受け取ると、意識の無いchildの首をknifehandでSlash落とした。
噴出したbloodが床に落ち、そして妖しく光るとまるで生きているかのように蠢き、既に描かれている七芒星と同じ形になった。
そして、先程と同じようにBirkyne達三人はbloodを一滴ずつ落として行く。
しかし、その結果も同じだった。何も起きない。
「Eleonoraも裏切ったようだね」
「ククク、死んでいたらここにUndeadとしてrevivalするはずじゃからのぅ」
この儀式は、死亡したNoble-born Vampireの魂を召喚しUndeadとしてrevivalさせると言う物だった。
一人の男しか知らない女から生まれた幼子の首を刎ね、そのbloodで描いた七芒星にPure-breed Vampire全員のbloodを一滴ずつ捧げなければならないと言う手間がかかり、その癖revivalさせると言っても生前よりもずっとweak Undeadにしかならないと言う、割に合わない儀式だ。
そんな儀式を何故態々行ったのかと言えば、一月前に大事件が起きたからだ。
【Subordinate Vampire Valenと、Dark ElfのDarciaの間に生まれたDhampirを抹殺せよ】
そうPure-breed Vampire達に【Evil God of Joyful Life】HihiryushukakaからOracleが下ったのだ。
問題のDhampirの抹殺は、SercrentとEleonoraに任せていた。あれから一年程経つが、そこは時間の感覚が異なるVampire、精々手こずっているようだと思う程度で殊更状況を確認しようとも思っていなかった。
問題のVida's FactionのPure-breed Vampireが動いた-sama子も無い以上、焦るような事でもなかったからだ。
だがEvil God (M)から直接Oracleを受けたと成れば、話は別だ。かのEvil God (M)はblessingsを与えたPure-breed Vampire達にも、滅多にOracleを下す事はない。
そのEvil God (M)が態々抹殺を命じて来たのだ。普段から集会に出ていないGubamonですら、collectionを愛でるのを止めて出て来たくらいだった。
そして抹殺の為に動いているはずのEleonora達に連絡を取ろうとしたが、既に遅かった。
だから儀式を行ったのだ。返り討ちにあったのなら、Undeadに成ってrevivalし、報告させる事が出来る。
revivalしなかったら、裏切った事がはっきりする。
「どうやら、あたし達はDhampirを侮ったみたいだねぇ。まさか差し向けた刺客を籠絡したか生け捕りにして嬲ってるのか、どちらにしても失敗したって事か」
「Sercrentの奴めも、特別優秀ではなかったにせよ並程度には使える男じゃったからの。それを裏切らせたとするなら余程の力をDhampirが持っているという事じゃろうな」
Terneciaの言葉にnod Gubamonは、本当に嬉しそうに部下の裏切りを期待する。何故なら、それはSercrentが親である自分と他のNoble-bornやSubordinate-born達を全て敵に回しても構わない、そう思う程の何かをDhampirが用意した、若しくはそれほどの危険を冒してもDhampirの方に従いたいと思う程彼が強大であると思ったという事だからだ。
「ふははっ! 手元に置きたい物じゃのぅっ、それほどのDhampirの死体を! 今からどんなUndeadにするか考えるのが楽しくて仕方ないわい! キィーヒヒヒヒヒヒィ!」
Heroの死体を集め、それでUndeadを作りcollectionする事を一生の趣味にしているGubamonにとって、【Evil God of Joyful Life】からのOracleは次のcollectionすべき死体を指し示す物だった。
Evil God (M)から直々に死を望まれる程危険なDhampir。それはそこらのAClass adventurerよりも価値のある存在ではないか。何を危険視しているのか、それとも大きな恨みでも買ったのか、それは分からないがHihiryushukakaの注目を集めているという事なのだから。
「だったら精々頑張っておくれよ。あたしはあまり興味――いや、ちょっとあるね。そのDhampir、Ghoulを数百匹率いてたね? GhoulでUndeadを作るのも面白そうだ」
TerneciaもUndead作りを趣味とするが、それは芸術作品を作るが如くで、Gubamonのように素材の強さや知名度に拘る事はなかった。
ここ数百年の創作themeは「family」で、父親は既に始末され母親が既に火炙りにされていて死体の無いDhampirに興味は無かったが、Ghoulの灰褐色の肌をUndeadの素材にすると映えるかもしれない。
そう彼女の歪んだinspirationが囁いていた。
そしてBirkyneは……。
「糞……」
ぽつりと、小さく呟く。
その内容が糞と言う、普段のBirkyneの言動なら絶対に口にしない単語だったため、空の籠を持って控えていたNoble-born Vampireが思わず目を見張る。
「Birkyne -sama……? ヒギ!?」
思わず自分の名を口にしたNoble-born Vampireの頭を掴むと、Birkyneは軽々と「それ」を持ち上げた。
「Birkyne -samaっ、何をなさるのですっ!? ぐげぇっ!?」
慌てて騒ぐ「それ」を、Birkyneは滅茶苦茶に振り回した。
「畜生がアあああぁあア! 僕のEleonoraをっ! 何十人ものHuman共の中から選んだ僕の玩具を! 盗りやがってええええええっ! 糞Dhampirウぅぅううぅ!」
上下左右に振り回される腕によって、「それ」が床や壁に何度も叩きつけられ色々な物が砕け散って行く。
「これから百年は彼女で遊ぶつもりだったのにぃぃぃぃっ! 自分は特別だって思い込ませて、思い上がらせてから、じわじわ肉を削ぎ落とすようにして壊すつもりだったのにぃぃぃっ!
良い所で盗るなんてズルイじゃないかあぁああ! 糞糞糞クソDhampirゥゥゥゥ!」
「な、何だっ!? ひぃっ! Birkyne -samaっ!?」
「お止めくださいBirkyne -samaっ! 何があっげぼぉ!?」
「ヒイイイイイッ! Birkyne -samaが狂乱されたぞっ! 逃げろ、逃げろぉぉっ!」
「いやあああああああっ!」
Birkyneは髪を振り乱し、目をblood走らせ、口から泡を吹いて暴れ回った。
貴公子然としていた姿は既になく、その-sama子は怒り狂う獣ですらなく、壊れた狂人と言うのが相応しい物だった。
そして大きく腕を横に振りぬき、まだ辛うじて立っていた柱を砕くと、大きく肩を上下させて息を付いた。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
空を見るととても綺麗な月が、青白く輝いている。星々もそれを引き立てるために、キラキラと輝いている。
Birkyneはまだ掴んでいた「それ」……Noble-born Vampireの、既に男だったか女だったかすら分からない首を適当に投げ捨てると、何事も無かったかのように立っているTerneciaとGubamonに話しかけた。
「それで、これからどうするかだがTernecia、何か考えは無いかな?」
懐から出した絹のhandkerchiefで口元と手を拭い、髪をさっと手櫛で整えて。
「ああ、戻ったのかい。今回は短かったね」
「前は何日かずっとじゃったからな。暫く続くようなら、儂とTerneciaで止めねばならんかと思っとったところじゃ」
「フフ、すまないね」
すっかり何時もの-sama子を取り戻したBirkyneだったが、周囲の-sama子は惨憺たる有-samaだった。
大Nobleのmansionでもおかしくない豪奢な集Venueは、GubamonとTerneciaの周囲一meter以外は瓦礫の山と化している。
その瓦礫に混じってbloodや千切れた手足が間から覗き、首やその破片が転がっている。
集Venueに来ていたNoble-born Vampireの半分、そしてSubordinate Vampireの大半が物言わぬ骸に成っていた。
「まあ、いいさ。こうなるだろうと思って、あたしの手下は今日の集会を休ませたからね。来てるのは数合わせのSubordinate-bornだけさ」
「カッカッカ、上手くやったのぅ! じゃが儂は-chanと手勢のNoble-bornを全員参加させたぞ!」
「それは悪い事をしたね、何人か潰してしまったかな?」
「気にするな気にするな! Sercrentのような事が二度と起きんよう、並以下の者はバッサリ切り捨てようと思うてな。お主の癇癪に巻き込まれても生き残れる者を選別したまでじゃよ!」
「そうだったのか。酷いな、僕を利用するなんて」
「ところで、何でアタシなんだい? 確かに興味があるとは言ったが、Dhampirを殺した後Ghoulの生皮を剥げればそれで良いんだけどね」
「簡単な話さ。最初はGubamonの配下のSercrent、次は私のEleonora、そう来たら次は-kunだろう?」
そう言われたTerneciaは、「そうだね。あんまり動かないのも、恰好がつかないか」と言うと、暫し考えた。
「じゃあ、軍でも動かすかね。Amid Empireの軍に、永遠の命を欲しがってる奴が居るのさ。Vampireにしてやるだけで、何でもしてくれるって便利な奴が」
そいつに働きかけて、他にも幾つかのNobleや高官を……そうすればまあ二年ぐらいで軍を差し向ける事が出来るだろう。
並のNoble-born一匹とageの割には優秀なのを一匹、Subordinate-bornを十数匹か? それくらい送り込んでも標的のDhampirは対処してみせた。
どういう手で戦ったのか分からないが、態々Evil God (M)がOracleまで下すぐらいだ。きっと尋常ではない方法だ。
なら大勢送り込んでみよう。数千の兵とKnightとadventurer、後あのDhampirの母親を火炙りにしたHigh Priestも混ぜてやれば良い具合に事が運ぶだろう。
その軍勢にばれない-samaに手下を潜り込ませてやれば、万が一も無いだろう。流石に百は多いとして、Noble-bornを数十匹も送れば十分か。
「ただ、例の情報をくれてやってもいいかい? 用が済んだらアタシがこの手で崩せばVida's Factionの連中も使えないだろうし」
そう言われたGubamonとBirkyneは、「構わない」と言った。
「originally Vida's Factionの連中なら知っていてもおかしくない情報だったからね」
「ああ、Terneciaが崩すのじゃったら確実じゃろう。しかし、軍を動かすとなると大事じゃぞ、お主、Humanを使うのは苦手じゃったじゃろう?」
「なんだい、自分は得意だなんて思ってんじゃないだろうね」
「ヒヒヒ! そうじゃったわいっ、儂も苦手じゃった!」
「とりあえず、考えは纏まったようだね。ではtacticsが進んだら教えて欲しい。我が神からOracleが下った以上、我々も協力する必要があるからね」
「そうじゃのぅ、Hihiryushukaka -samaからの罰は身に応えるからのぉ」
違いないと笑って、よろめきながら何とか生き残りのVampire達が立ち上がった頃に、三人は次の集Venueに場所を移すために移動を開始した。
彼らは実は同じ事を考えていた。HihiryushukakaのOracleに付いてだ。
何故Evil God (M)が、自分達より唯一確実に強大な力を持つ存在が何故態々、Dhampirを殺すようにOracleを下すのか。
そんな事をしたからには、Hihiryushukakaは例のDhampirに注目を引かれたという事だ。believerでもないDhampirに。
つまり、あのDhampirはHihiryushukakaにとって脅威に成り得る何かを……情報なのか力なのかは分からないが、そういった物を持っているのではないだろうか?
(だとしたら、それを手に入れる事が出来ればEvil God (M)すら支配し、従える事が出来るのではないか?)
HihiryushukakaはPure-breed Vampire達がそう考える事を解っていた。当然だ、彼らは自らが授けた教義を実践しているのだから。
だからHihiryushukakaはVandalieuに関する情報をOracleで教えようとしなかった。
ブオン! そんな唸りを上げて投石機からHuman大の岩が飛ぶ。
そして岩は狙い違わず目標地点の平原に置かれた木製の的に落下し、爆砕した。
HumanのLadyのように椅子に座り、monstersの皮を使ったパラソルで日陰を作ったBasdiaは、大きくなったお腹を撫でながら凄いなと息を漏らした。
「投石機というのは凄いな。頼もしいぞ」
「まだ試射の段階ですよ」
Basdiaの横でPauvinaに高い高いされているVandalieuは、そう答えながらもまんざらでもなさそうだ。
彼は基本的に無表情で目も常に死んだ魚の-samaで声も平坦だが、慣れると口調でemotionsが分かるようになる。普通よりややのんびりとした今の口調なら、機嫌が良い証拠だ。
「通常弾の結果は上々。次、Golem弾の試射を開始します」
「はいっ、じゅんびちてっ!」
Pauvinaがtongue足らずな口調で号令をかけると、投石機がぐうんと自分から動いて準備を開始する。この投石器は、Vandalieuが【Golem Transmutation】で作り上げた投石機型Golemと言うべき存在だ。
普通の投石機には無い、石で出来た腕や車輪が取りつけられている。
そのため、投げるための岩や弾を自力で装填し、自力で狙いをつけ、発射する。そんな運用が可能だった。
しかもボディにはEnt製の木材を使用している事で、金属並の頑丈さと優れた耐火性能を持っている。
「はっしゃー!」
そんな忠実な投石機Golemから、次の岩が発射される。
それは先程試射された岩と同じような軌跡を空に描いて、先程とは違う的……何故か的の周囲に木製の人形が並べられている……に着弾した。
『う゛おおおおおおおおおん!』
すると、弾が唸り声を上げながら立ち上がった!
「あれは、もしかしてGolemを投げたのか?」
立ち上がった弾改めGolemが周囲に並んだ木人を破壊するのを見て、Basdiaはあっけにとられた。
Golemは落下時の衝撃で多少Damageを受けているようだが、痛みも何も感じないため戦闘に支障は無い。そのMysterious Strengthを使って、バラバラにされるまで暴れ回る。
これが実際の戦いで使われたら、凄い事に成るだろう。Golemの弱点は、足の遅さだ。それを補うと同時に敵への攻撃手段にしている。
敵にしたら前線を易々と突破してGolemが暴れ回るのだから堪った物ではないだろう。
「はい。後一応Subordinate Vampireと戦う可能性も考えて、両拳と爪先に銀メッキを施してあります」
「徹底しているな。そこに痺れるぞ」
「ありがとう、でもGolem弾はまだ改良の余地があるようです」
「そうなのか?」
ここで見ている限り敵に見立てた木人を素早く全て破壊する等、完璧に見えるのだが。そう思っていると、的の近くに配置した虫Undeadの視覚を借りていたVandalieuは首を横に振った。
「木人の内、一体が足は砕かれていても胴体から上が無傷です。-chanと殺すように……人に致命傷を与える形で破壊しろと命令したんですけど」
Humanは両足が砕かれたら、治療を受けなければ戦線に復帰するのはdespair的だ。しかし、Vampireの場合両足が砕けても、何とか戦闘を続行しようとする可能性がある。
念のために頭を踏み潰して欲しい所だ。
「VanはKilling Intentが高いな」
「高いーっ」
ぽーんっと、PauvinaがVandalieuを真上に投げた。どうやら、「高い」と言う言葉に反応したらしい。
以前室内で同じ事をして、天井にVandalieuの鼻bloodの染みを作ってしまい、室内で高い高いを禁止されてしまった彼女は、今日は存分に楽しむつもりのようだ。
ばしっと、落ちて来たところをPauvinaがキャッチする。
「……着地の衝撃が大きいから、もっと優しくして」
「うんっ!」
「お願い、本当にお願い。
それはin any case、次の特殊弾の試射を開始します」
心なしかグデっとしたVandalieuがそう言うと、今度は大きな樽が投石機にセットされる。
そして、それは打ち上げられた。midairで大きく孤を描き……パカンと真っ二つに割れた。
「何だっ!? 失敗か?」
樽の中から大量の透明な液体が撒き散らされ、的より前の平原に水滴が降り注ぐ。
「いえ、そこそこ成功です。あれは毒やDisease原菌をばら撒くために作った樽型Golemです。投げられた後、決まったtimingで割れて地面に中身をぶち撒けます」
「ど、毒っ?」
「ええ、毒。今は水しか入っていませんけど」
毒もDisease原菌も、VandalieuはManaさえあれば作る事が出来る。何処でも何時でもバイオテロが実行可能だ。
ただ、気を付けないと自分も作った毒やdiseaseにやられてしまうのだが。【Abnormal Condition Resistance】skillを超えるAttack Powerの、一瞬で意識を失う-samaなDeadly PoisonやDeadly Diseaseを受けたら、magicを使う間もなく倒れてしまう。
「毒やdiseaseか……良いのか?」
「それが、撒き方よりも何を撒くかが問題で。UndeadやGolemは良いけど、Basdia達には毒やdiseaseが効きますからね」
実に悩ましい問題だ。
撒くなら感染力のあるDisease原菌の方が良いのだが、それでBasdia達が、特に免疫力のweak child達が倒れては意味が無い。すぐに【Sterilization】【Disinfect】が出来れば良いが、戦いでは何があるか分からない。
やはり毒だろうか? しかし戦場にVigaro達が出ていたらやはり使えなくなる。
「Ghoulの麻痺毒と同じ成分の物を使えば大丈夫かな? うーん、Humanにしか発症しない空気感染して感染力が高くて治療困難なDeadly Diseaseって無いかな」
「ちょっと待ってくれ、私が聞きたいのはそういう事ではなくて。そんな事をして良いのかという事なんだが。
相手はHumanかもしれないんだろう?」
多少は優しくなったPauvinaの腕で上下に飛びながらVandalieuは「そうですが……?」と答えた。どうやら、彼にはBasdiaが何を心配しているのかすぐには思い至らないらしい。
「いや、私も別に人を殺すのは良くないとか、言うつもりはないんだ。でも、あまり多く殺し過ぎると、問題があるんじゃないか?」
「ああ、確かに必要以上に殺すのは問題ですよね」
っと、言いながらうんうんと何度も頷いている……のだろう。激しい上下移動のせいで、分かり難いが。
「大丈夫ですよ。必要以上に殺さない-samaに心がけますし、こうして作ったWeapon Equipmentも別に絶対使わなければならない訳じゃないんですから。
kaa-sanも嫌がりますし」
Darciaは別に平和主義者ではない。しかし、殺戮を好む訳でもない。だから必要性の無い殺人は当然嫌うし、Vandalieuが行おうとするなら止めようとするし、行った後なら悲しむだろう。
Basdiaの場合は、彼女はadventurerと無暗に争うなと教える集落出身のGhoulだ。そのためHumanを殺す忌避感が大きいのかもしれない。
そしてVandalieuも別に悪鬼羅刹に成った覚えはないし、Humanのつもりだ。
Humanは社会性のある生き物で、そうである以上Humanの幸福は社会の中に在る。
そしてVandalieuの最終目標は幸福に成る事、幸福であり続ける事だ。不必要な殺人は、そこから遠ざかる行為でしかない。
「だから必要以上に殺さないようにします」
「うん、殺さないよ?」
二人揃って宣言するVandalieuとPauvinaだった。しかし、こうも続けた。
「でも皆を守るために必要な最低限が、皆殺しだった時は皆殺しなので、その時に成ったら怒らないでくださいね」
「ねー?」
必要性の無い殺人はいけない。でも、このworldで生き残るためには、自分達のraceを殺し尽くす事が正義であると掲げる神と宗教があり、それを国教にしているEmpireがあるworldで皆が生き残るためには、必要なら敵を皆殺しにしなければならない時がある。
そう言われたBasdiaはややむっとしたようだ。
「当たり前だ。私だってこの子とVan達を守るのに敵を皆殺しにするのが必要なら、止めるものか。喜んで斧を振り下ろす」
「頼もしいおkaa-sanですね」
「そうだろう、二人目を作らせたくなったら何時でも言うんだぞ」
「言うのはあと十年は先ですよ~」
Basdiaに返事をしている途中で、VandalieuはPauvinaに一際大きく空に向かって投げられた。
流石にこの高さだと着地の衝撃も強くなりそうなので、【Flight】でふわりと浮かぶ。
そして、ここ数か月の出来事を思い返した。