彼女達にとって、それは決死の覚悟を必要とする行為だった。相手には自分達を害する動機があり、自分達にはそうされる心当たりがあったからだ。
『じゃあ、以後はVida's Factionという事ですね。改めて、これからよろしくお願いします』
しかし、Vandalieuはあっさりと彼女……『Goddess of the Holy Spear』Elk達、Orbaumに残ったHero Candidate達にblessingsを与えたGodsを受け入れた。
『では、Hendricksen達やtemple関係者に出すOracleの内容、教義の変更点、templeのreform等についてのお話を――』
『いや、それでよろしいのか? 契約を交わすとか、わが身を捧げるとか、色々と覚悟してきたのだが』
『よろしいのです』
自分達よりも倍程大きい異形の姿のVandalieuが頷きながら即答するのを見て、Elk達は困惑を隠せないでいた。
『Vida達から、鞍替えを打診してくるか、投降に応じたAlda's FactionのGodsには応じるよう言われていますから』
accurateには、滅ぼさないで欲しいと頼まれたのだが、せっかく話が上手く纏まりかけているところなので柔らかい表現に置き換えて説明するVandalieu。
Godsを滅ぼし過ぎて、このworldの維持管理に支障をきたすようになっては彼も困る、そのため、滅ぼす理由のないGodsを滅ぼさないのは当然だ。
『それに、俺はGodsや人の魂を喰らいたくて喰らっている訳ではありません。敵を倒すための手段の一つです。
そして、俺はあなた達を敵だとは思っていません。……厳密に判断すれば、敵だと思うべきなのですが』
Elk達はVandalieuと戦う戦力として、Hendricksen達Hero Candidateを選び育成した。この時点で敵対の意志ありと判断するには十分なのだが、直接危害を加えられたわけでもなく……むしろHendricksen達はMiriamのCommandingの下、Orbaumを守るために戦っている。
それに、Elk達は『God of Ice』YupeonのようにVandalieuの目的を妨害し、Spirit Cloneとはいえ直接敵対宣言をしたわけではない。また、『Lightning Giant』Blateoや『Ocean Dragon God』Madrozaのように、実際に矛を交えて殺し合ってもいない。
もちろん、Elk達がAlda's Factionの一員である事は分かっている。彼女達は生前からAldaやそのSubordinate Godのbelieverであり、死後に神に至った存在だ。つまり、Humanだった頃からVida believerやnew-racesを弾圧する側だった事も。
しかし、それを基準にして敵か否かを判断すると、結局Alda's FactionのGodsは投降しようが何をしようが敵になってしまう。それは本意ではない。
『なので、思うところはあると思いますし、Vida's FactionのGodsもあなた達をすぐに仲間として受け入れるのは難しいと思いますが、それは自分達のこれからの行いで信頼を勝ち取ってください。
もちろん、受け入れた以上俺もそのための協力はします』
代償を求められ、条件を課される事もない事に抵抗を覚えるかもしれない。しかし、それは自分達で解決してもらう。Vandalieuがするのは、その後押し……協力だけだ。
『ただ、俺もあなた方を完全に信用しているわけではないので、これからの予定等を打ち明ける事はできません。神を信じているからといって、その信徒が信じるに値する者ばかりであるとは限らない。それと同じように、信頼できる人が奉じる神まで信頼できるとは限りませんから』
Alda believerにも良い人はいる。Vida believerにも、Vida's New Racesを差別する者がいた。それと同じでHendricksen達は信頼できるが、彼らが奉じているという理由だけでElk達を完全に信頼する事はできない。
Vandalieuの言葉を理解しつつも、それでは自分達に都合が良すぎると納得できないElkは、こう主張した。
『承知しました。しかし、何もせず温情に縋るだけではそれこそVida's FactionのGodsからの信頼を得るのは何百万、何千万年先の遥か彼方となりましょう。
故に本来なら契約を交わし、誓いを形と強制力を持つものにしたいと考えますが、それは不可能。故に、この槍をお預けいたします』
そういうと、Elkはなんと彼女自身の象徴であるHoly SpearをVandalieuに向かって差し出した。
『儂はこの杖を』
『私はこのペンを』
『我はこの神牛を』
『私はこの苗と種籾を』
そして、Elkに続いて他のHero Candidate達が奉じるGodsも次々に自身にとって重要な象徴や神器を差し出してくる。
『気持ちはうれしいですが、ちょっと待ってください』
しかし、Vandalieuとしては差し出されても困る。なんせ今の彼はBodyを離れ、魂だけでDivine Realmに来ているconditionだ。Godsの象徴や神器を受け取ったまま、Bodyに戻れるかわからない。
もしBodyに持ったまま戻れても、大量の神器の保管場所に困る。差し出されたのは槍や杖、ペンなどの器物だけではない。神牛のような生き物(?)や、苗と種籾まであるのだ。
こちらの管理に手落ちがあって、大切な預かり物に何かあったら大問題だ。
なので、Elkが槍を差し出す前に口にした契約でこの事態を無難に乗り越えたいとVandalieuは思った。
『……すみません、できれば契約で済ましたいのですが、何故契約ができないのか、そしてどうすれば良いのか分からないので教えてもらえませんか』
しかし、VandalieuはGodsが交わす契約について知らなかった。
『いや、Humanの俺がGodsの間で交わす契約について知らないのは当然でしょう』
一-samaに驚いた顔をするElk達にVandalieuがそう言い返すとElk達はさらに驚いた-sama子を見せた。
(俺があまりに不勉強だからって、そこまで驚かなくても。VidaやZuruwarn達とDivine Realmで何度も会っていたり、kaa-sanがVida’s Incarnationだったり、知識を得る機会がいくらでも転がっている環境にいるのだから、俺がGodsについて詳しく知っていると思っても当然だとは思いますが。
実際、Circle of Reincarnationについてこの前教えてもらいましたし)
『Peria、教えてくれませんか?』
Vandalieuは交渉の立会人としてこの場で控えていた『Goddess of Water and Knowledge』Periaに声をかけた。
『いいよ。契約は、Bodyを持たないGodsの間で交わされる約束事で、本来はAldaが管理していたのよ。ほら、Aldaは本来『God of Light and Law』だから』
それによると、Godsの間で交わされる契約は基本的にAldaが管理していたようだ。Aldaの前でGodsが誓い、それがもし破られた場合はAldaがそれを察知し、破った神に罰を与えるのだという。AldaはGodsに罰を与える『Pile of Law』のDivine Authorityを持つので、適役だったのだろう。
『なるほど、今はできないという意味も分かりました』
しかし、Vida's FactionとAlda's Factionに分かれて争っている現代で、Aldaの前で契約を交わすわけにはいかない。
『ですが、突然神器を預けると言われても困るので、俺ではなくVidaに預かってもらうという事で良いですか? それ以外での落としどころは……今Vida's Factionで不足している役目を担ってもらう、というのがすぐに思いつく案ですが』
『構いませぬ。そして、不足している役目についても私にできる事であれば引き受けさせて頂きます』
信頼を得るためにも、過去の行いの清算のためにも、まずは必要とされる事なら何でもやるべきだろうと考えたElkは、当然のようにそう言った。
『では、Magical GirlのPatron Godをお願いします』
『謹んで拝め……今、なんと?』
『Magical GirlのPatron Godです。ほら、MiriamやKariniaがTransformしていたでしょう?』
Vida's Factionでは、Vandalieuが開発したTransformation Equipmentを使って戦うMagical Girlを司る神の不足が問題となっていた。
例えばWarriorの場合、Godsには『God of Warriors』や『Swordsmanの神』、『Magic Swordの神』等、Warriorの-sama々な面を司る神が存在する。そして『Knightの神』や『God of soldiers』等、Warriorから派生したJobを司る神も存在する。
もちろん、そうしたGodsが存在しなくてもWarrior系のJobが無くなるわけではないし、既に存在するWarrior達がどうこうなる事もない。
ならば何故Warriorを司る-sama々な神が必要なのかというと、それは奉じるbeliever達が必要だと求めるからだ。
Warriorとして大成する事を求めるなら、『God of Warriors』に祈りたい、縁起を担ぎたいと考えるのは当然だ。だが、それなら『God of Warriors』が一柱いれば十分ではないだろうか? しかし、現実にはそうはならない。
Warriorの人数が増えれば増える程、-sama々なWarriorが誕生する。剣ではなく斧を、槍を、Weapon Equipmentにして戦う者。
真っ先に敵陣に飛び込む者、逆にGiantな盾を構えて仲間を守る事を優先する者。中には武術だけでなくmagicも併用して戦う者も現れるだろう。
単純な武勇ではなく仲間をCommandingするcharisma性、絶対的に不利な状況でも背後の弱き者を守るために戦う勇気、戦場で輝く美しさと凛々しさで名を馳せる者もいるだろう。
そうした多種多-samaなWarrior達は、自分に合った神を求めるのだ。
つまり、神が多-samaであるという事はWarriorの多-samaさを意味する。
そしてMagical Girlは現在進行形で増え続け、多-sama性を獲得しつつある。Vidal Magic Empireでは以前からだが、Orbaumでも『Vida’s Incarnation』であるDarciaや、『Heroes' Princess』Miriamが就いているJobとして大人気になっている。実際にはmagic skillを習得していないMiriamはJobとしてのMagical Girlに就いた履歴はないのだが。
さらにこのworldでは、「Magical Girlとはかくあるべし」という既定概念が存在しない。条件は、Transformation Equipmentを使用していることぐらいだ。
そのため、Emperorの母親や孫がいるGhoul、Princess(ただし身長二meterでZombie)でも、Magical GirlならMagical Girlだろうと解釈される。
magicで戦うだけではなく、歌い、dance、武術と組み合わせて戦ったり、どちらかというと武術をmainにして戦ったり、武術だけで戦ったりしても【Magical Girl】である。
Transformation Equipmentもmagic媒体としての機能だけでなく、物理的なWeapon Equipmentに変形して槍や剣、斧として使える物等多種多-samaな物がある。
Magical Girlが既存のWarriorやMageのような多-sama性を獲得するのも、時間の問題だ。Orbaum Elective Kingdomの各地のMage guildでは、「あれは既存のMageとは違うので、『Magical Girlになりたい』などと相談に来られても困る」とコメントしているbranchも多いので、Mageの亜種として収まる事もないだろう。
しかし、Magical Girlを司る神がまだ少ない。
まず化身であるDarciaがMagical Girlなので、『Goddess of Life and Love』VidaはMagical GirlのGoddessとして信仰されているのは当然だ。次に、性別を持たない、または両性の神である『Magic God of Time and Arts』RicklentもMagical GirlのPatron Godとして信仰されている。
そして『Goddess of Water and Knowledge』Periaや、Transformation Equipmentを作るのに高い技術が必要である事から『Mother God of the Earth and Craftsmanship』Botin、そして『ScyllaのHeroic God』にして『Evil God of Slime and Tentacles』Merrebeveilや、『Goddess of the Dark Nights』Zelzeria等有力な信徒に【Magical Girl】系のJobに就いている者がいる神もMagical Girlに関連のある神として信仰されている。
最近Transformation Equipmentを受け取った『Giant of the Moon』Dianaも同-samaだ。
そして【Magical Girl】になるのに必要なTransformation EquipmentのproducerであるVandalieuも、実は【Magical Girl】の神っぽい扱いを受けている。……Kanakoに言わせると、神そのものというよりTransform itemを授ける妖精的なsomethingに相当する存在として認識されているそうだが。
実際、Vidal Magic Empireの勢力圏内に存在するDemon King Familiarに、「Magical Girlになりたい」と相談すると力になってくれるので、そのように認識されるのも無理はない。
しかし、Human社会ではまだ【Magical Girl】の神と見なされている存在は少ない。Vidal Magic Empire内では有名でも、Orbaum Elective Kingdomでは信仰されていない神や、限られた地方でしか信仰されていない神がいるからだ。
『自然に【Magical Girl】の中から神に至る人達が出るのを待つと、何千年かかるかわかりません。なので、Magical Girlの神を絶賛募集しています』
絶句したままのElkに対する説明を、Vandalieuはそう締めくくった。しかし、その後しばらくたってもElkが硬直したままなので続けて口を開く。
『もちろん、無理にとは言いません。Humanの俺ではKami-samaの事情の全てに理解が及ぶはずもないですから。
それに、Magical Girlの神が少なくても大きな障害が生じるわけではありません。ふと思いついて口にしただけで、この提案に深い意味はありません』
そう言うと、何故かElkを見守る他のGodsがやはり驚いたような顔をした。それをVandalieuは、Elkにした提案を自分から引っ込めようとしている事に対しての驚きだろうと解釈した。
元Alda's FactionのGodsである彼らにとって、自分の印象は相当悪いに違いない。そう考えると、Vandalieuは今後の対人……対神関係やcommunicationは難しそうだと内心ため息を吐いた。
『い、いえ、その大役、つ、謹んで拝命――』
しかし、硬直からrevived Elkが悲壮感を漂わせながらMagical GirlのPatron Godの担当に加わる事を誓おうとする。
『待つのだ、Elk! お前だけが重荷を背負う事はないはずだ!』
『我々にも、そのお役目を担わせていただきたい!』
それに続こうとする他のHero Candidate達のGods。
(なるほど。新しい役目を得る以上、負担があるのは当然。それをElkだけに頼むのは問題でしたね)
その-sama子を目にして、Vandalieuはそう反省した。
『っ! 皆っ……』
感極まった-sama子で振り返り、他のGodsを見つめるElk。
このままOrbaumに残ったHero Candidate達が奉じるGodsが、Magical GirlのPatron Godという新しい役目を担う事になるのか。
『あ~、口を挟むのは立会人として出しゃばった真似かもしれないけど、ちょっといい?』
しかし、そうなる前にPeriaが口を挟んだ。
『もちろんです』
『ありがとう。Vandalieu、今のように神が地上に簡単に降りる事ができない時代に、神がoriginally持っていなかったDivinity……役目を得るには、順序というものが重要なの。
Magical Girlの神になる場合、Elkの方からHendricksen達believerに『Magical Girlの神になったから』と働き掛けるよりも、believer達の方から自発的に『ElkはMagical Girlの神でもある』と考えて祈ってもらわないと負担が大きいのよ』
Godsの権能とは、believer達からの祈りによって決まる。そう、神とは奉じるHuman達によって変化する存在なのだ。
ElkもHumanだった頃は聖なる槍を携え、武勇と美貌で数々のachievementをあげて名を馳せたHeroだった。そして死後にHeroから神の地位へと昇華し、その時はHeroic GodやSpear TechniqueのGoddessとして奉じられていた。
だが、今ではElkが生前female Knightだった事から戦いに携わるfemaleのPatron God、Princess KnightのGoddessとしても奉じられている。
『Earth』のJapanでも、果物の神が後世に菓子の神としても信仰されるようになった例がある。それと同じだ。
believer達の方から動いたほうがDivinityを広げやすいというのは面倒かもしれないが、神の方から自発的に新しいDivinityを得ようとした場合受ける負担は、whole bodyに改造Surgeryを受けるようなもので場合によっては人格すら変化してしまう危険性がある。
元Demon King Armyの『Evil God of Slime and Tentacles』Merrebeveilが、『ScyllaのHeroic God』に変化しようとしたときのように。
もちろん、その神と得ようとするDivinityによって負担の大きさは変わる。Merrebeveilの場合、自らの子である『ScyllaのHeroic God』だから、激しい苦痛で済んだ。これがもし、race的に何の縁もかかわりもない『HumanのHeroic God』だった場合Merrebeveilは数万年以上意識を失い、目覚めた時には全く別の存在になるか、著しく弱体化して神でいられなくなっていたかもしれない。
対して、believerから新しいDivinityを神に付与する場合の神に及ぼす変化は、新しい衣服や武具を増やすようなもので神そのものの本質に変化はなく負担はないに等しい。
Periaが止めるのも当然だろう。
『今のOrbaum Elective KingdomでのMagical Girlの認識は『Mageの一種』よりも、『magicも使えるdanceながら歌うBard』の方が多いように思うの。実際にあなた達が戦っているところを見たOrbaumならともかく、各Duchyではそういった傾向が強い。
そうした面のないElkにとって、Magical GirlのPatron GodのDivinityを直接得るのは負担が大きいのよ』
『Kanako達のConcertがこんな形で裏目に出るとは……』
各Duchyの人々を素早くGuidingために行っている全国ツアーによって、Magical Girlの認知度は上がっているがStage上の彼女達しか知らない者が爆発的に増えてしまったことに、Periaに言われてVandalieuはやっと気が付いた。
『分かりました。やはり地道に行いましょう。とりあえずHendricksenに――』
『っ!? まさか、HendricksenをMagical Girlに!?』
『いえ、Transformation Equipmentは渡すつもりですが、SimonやNataniaのように鎧に変化するTypeを考えています』
『お、お心遣いに感謝します』
心から安堵した-sama子でnod Elk。Vandalieuも、Miriam達と親しいNoble的な気品を持つ美青年のHendricksenに、フワフワフリフリのcostumeを着せたいとは最初から考えていない。
ただ、Elk believerの中でも有力なHeroであるHendricksenにTransformation Equipmentを使ってもらう事で、彼が奉じる神であるElkに新しいDivinityが加わる事を期待しているだけだ。
『では、話を戻してHendricksen達やtemple関係者に出すOracleの内容、教義の変更点、templeのreform等について纏めましょうか』
Alda's FactionからVida's Factionに鞍替えする以上、将来的にはtemple内にあるAlda's FactionのGodsを奉じる像やreliefを撤去し、Vida's FactionのGodsを奉じる物に変えてもらわなければならない。教義の変更が必要になるかもしれないし、そのためにはClergymanにOracleを下さなければならない。
こうして神と直接話せるVandalieuが、Elk達の指示を伝えに行く手もあるが……Vidal Magic Empireならともかく、Orbaum Elective KingdomでそれをするとElk達のtempleを預かるClergyman達の顔を潰すことになり、無用な反感を買う事になる。
もちろん教義の内容や主だったtempleの位置などがGodsごとに別々であるため、Elk以外のGodsにも一柱ごととそれぞれ相談を纏めなければならない。
それをVandalieuはtentacleや腕を増やし、それらの先端に目や口を作って同時に相談を進める事で手早く相談を纏める事に成功した。
『では、そのように。今はDuke Farzon領以外に有力なAlda's Factionのbelieverはいないので、あなた達のtempleがorganization的に襲撃されることはないと思いますが、気をつけてください。
それとHendricksen達を評す時、Hero Candidateの『Candidate』の文字をとろうと思います』
『それはいったい何故……?』
『Demon King Guduranisとその配下からOrbaumを守るため、俺達と共に戦った彼らは既にHero CandidateではなくHeroだからです。
それでは』
その言葉を残して、VandalieuはElkのDivine Realmから姿を消した。
『……やはり、人ばかりでなく神にまでimpactを与えるだけの器はあるという事か』
なお、Elk達がVandalieuについて驚いていたのは、彼が自分はHumanだと本気で言っているのが分かったからだった。
Talosheimの王城の地下通路を歩きながら、VandalieuのMain Body-type Demon King Familiarはmain bodyがElkのDivine Realmから地上に戻った事を感じる。
『やはり、main bodyがDivine Realmにいる間は思考や感覚が鈍くなりますね』
魂の大半をDivine Realmに持っていかれるので、その間VandalieuのDemon King Familiar達は思考や感覚に負荷を覚える。覚えるだけで、今のところ実害はないのだが……Manaを大量に消費するような激しい戦闘をする場合は、不利になるかもしれない。
『これも解決するにはmain bodyを増やすしか……いや、魂の問題だからmain bodyを増やしても意味がないですね』
「何かお困りですか?」
工房のすぐ前まで来たMain Body-type Demon King Familiarの上から、にこやかな声がかけられた。
上を見上げると、そこには天井に上下逆さまに立っている青年が満面の笑みを浮かべていた。
後ろには、abnormalに肌の白い美女や、笑っている女児がやはり天井を歩いている。
『いえ、独り言です。気にしないでください、Bokor』
青年は幽霊ではなく、『Origin』でRokudou Hijiriの実験体にされていた者達の一人、Bokorだった。abnormalに肌の白い美女はYuki Joroで女児はAmemiya Meiこと、Me-kunである。
「Van~っ、天井ハイハイ、上手くなったよ! Bandaも誉めてくれたの!」
『Mana Controlが上手くなりましたね』
何故冥達が天井をハイハイしたり歩いたりしているのかというと、【No-Attribute Magic】と【Mana Control】の訓練のためだ。
【Telekinesis】で自分の体重を支え、balanceを取る事で冥達は天井を歩いているように振る舞っているのだ。これは力を入れすぎると動くのが苦しくなり、力を抜きすぎると落下してしまうという、中々難しい訓練なのだ。
『ええ、これなら俺のような丼勘定になる事はないでしょう』
そして真っ逆さまに床に落ちる危険性もあるので、冥達の下ではBandaがもしもの時のために備えていた。
「HiroshiとGabrielはManaの使い過ぎで寝ています。Ulrikaは……制御をmissって落下して失神しました」
『俺だから知っていると思うけど、床に落ちる前に受け止めたからinjureはしていません。落下のhorrorで失神したようです』
『いえ、ちょっと前までmain bodyがDivine Realmに居たので、俺との接続が甘くなっていたようです。今、思い出しました。やはり、俺がBandaを創ったのは正解だったようです』
Demon King FamiliarやCloneと違って、BandaはVandalieu main bodyの魂を千切って創られた特別製のCloneだ。main bodyのManaが一億減る代わりに、BandaはVandalieuのCloneでありながらVandalieu main bodyからのimpactを受けずに接続し続ける事ができる。
Vandalieuの魂がDivine Realmに招かれている間、思考や感覚に負荷を覚えるDemon King Familiar達とは違い、何の負荷も覚えずに行動する事が可能なのだ。
「えっへん!」
Bandaを誉められて天井で嬉しそうにする冥。それを見上げて、和むMain Body-type Demon King FamiliarとBanda。
『Ulrikaが高所horror症にならないと良いのですが。ところで、工房に入らないのですか?』
「今、卒業式の最中なので遠慮したのです。……情操教育上、まだ早いと思いまして」
『ああ……そういえばそうでしたね』
Bokorにそう言われて、他のDemon King Familiarと共有しているMemoryがやっとしっかり機能し始める。どうやら、main bodyがDivine Realmにいる間の不具合は、Vandalieuが自覚しているよりも実害があったらしい。
ほんの僅かな間だが……小さな実害が大きな被害になる前に対応し克服するべきだろう。
その頃、工房ではBokorが卒業式と評した儀式が行われていた。
「おめでとう、諸-kun」
今日も自慢の髭を整えたLucilianoが、元犯罪者の実験体数人に向かって笑みを浮かべる。
「-kun達は今日で実験動物……モルモットを卒業する。-kun達の働きによって、私の研究は……そして師Artisanの目的は大きく前に進んだ! これはVidal Magic Empireに対する大きな貢献をしたという事と同じだと言える。
さあ、受け取り給え。これが-kun達の欲しがっていたものだ!」
そしてLucilianoが元実験体の一人に差し出した書類の束の一番上には『人権』と書かれていた。