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Chapter 44: 次の無い、完全な終わりをお前に

 時間は、少々遡る。


 Vandalieuは不意に目を覚ました。

「……霊が騒がしい」

 何かあったのだろうか? Borkus達がDungeonで無双して、大量のmonstersの霊が流れ込んできた訳では無さそうだけど。


 そういえば、今日はDungeonから戻って何時もの場所に居るはずだったか。


 そうなると何だろうか? 霊に直接聞いても、要領を得ない。

 まあ、きっと起きていた方が良いのだろう。ただ、今はまだ死のsignは感じないから災害指定を受ける-samaな高RankmonstersTalosheimに迫っているという訳でも無さそうだ。


 とりあえず、のんびり待つか。もしかしたら、起きてしまったPauvinaがやって来るだけかもしれないし。

kaa-sanは……寝てるか」

 ベッドの横に置いたサイドtableの上に安置されたDarciaremainsが入った小箱は、静かだ。じゃあ、何をして待とうかと思っていると、ふとsignを感じる。


「……【Detect Life】」

 やや広い範囲に感知magicを放つと、幾つかの生命体が城に入って来るのが分かった。こんな時間に誰だろうか? この術に反応があったという事は、Undeadでは無いはずだから一体誰が?

 今の王城には、浴場を除けばVandalieuPauvinaBorkusぐらいしか居ないはずだが。Zadirisは今日Dungeonを攻略中で、BasdiaBilde達から育児について聞きに行ってそのまま泊まっている。


 Tareaも王城で暮らさないかと誘っているのだが、今は工房の仕事が立て込んでいるらしく、同じ建物から離れられないらしい。とても残念がっていたので、仕事が落ち着いたら来てくれるだろう。

 それはin any case、誰だろうか?


「もう一度【Detect Life】……謁見の間じゃなくて、こっちに来る?」

 と、いう事は自分に用があるのかとbody partを起こす。

 ここで「やあ、待ちくたびれたよ」とか「遅かったね」とか言って出迎えると、悪役っぽいのかなとしょうも無い事を考えながら待つ。


 そうしていると、扉の前からやや強い死のsignを感じる。これは外に居る何者かが、Vandalieuに対してKilling Intentを持っている事を意味する。

『誰だ?』

 そう思いながら、まずDarciaremainsを守れるように小箱をサイドtableから取って懐に入れる。


 感じるsignからはまだそれほど切迫した事態では無いとconjectureできるが、念のためだ。

 しかし、生きていて自分にKilling Intentを持っている相手……Reincarnatorは幾らなんでも早いだろう。他に自分を殺す動機というと、Evbejiamountain banditの関係者、Mirg Shield NationHumanという事になるが、それも無いだろう。


 彼らがBoundary Mountain Rangeを越えるのは難しいだろうし、Assassinを雇おうにも引き受ける者が居ないだろう。

 一番ありそうなのはmonstersだが、Talosheimの周辺で城にstealth込んでくるような頭の良い隠密行動に長けたraceは居なかった。


『んー、大穴でMirg Shield Nationの工作員とか?』

 凄腕のAssassin部隊とか、そういうのが居るのかもしれないし。そう思っていると、扉が小さく開きそこから滑り込むように女が一人roomに入って来た。


『女? しかも、顔も隠してない』

 入り込んできたのは、Assassinmonstersには一見して見えない女だった。動きやすそうな衣服を着ているが、鎧やWeapon Equipmentの類は見たところ身に着けていない。

 赤毛に白い肌の、二十ageを過ぎて一年か二年か、それぐらいのageの美女だった。


 そして、美女は懐に仕込んだknifeを抜くでもなく、呪文を唱えるでもなく、顔を上げた。

「っ!?」

 そして目を見開く。どうやら驚いたらしい。stealth込んだ先でroomの主と鉢合わせしたら驚くのも無理はないが、驚きすぎではないだろうか?


 しかし、美女は驚きからすぐに立ち直ったようだ。じっと、見つめて来る。

『凄い目力だなー』

 そう思いながらも、Vandalieuも美女から視線を外さない。一応彼女はroomに不法侵入してきた相手だし、Slightly彼女から死のsignがするし、それに一種の「先に目を逸らした方が負け」的な勝負かなと思ったからだ。


 穴が空きそうな視線で、じーっと見つめ合う。すると、不意に美女が視線と口元を緩めた。

「あなたが、Vandalieuね?」

「はい、俺がVandalieuです」

 nameを聞かれたので、素直に答える。答えながら、ますます美女が何者なのか分からなくなった。


 しかし、徐々に美女から感じる死のsign……【Danger Sense: Death】の反応が弱くなっている……?

「ねぇ、私の事をどう思う?」

 すると、何故かこんな質問をしてきた。


「はぁ……綺麗な人だなと思いますが」

 とりあえず当たり障りのない事を答えてみる。実際綺麗だし。

「そう、嬉しいわ。私と友達に成ってくれる?」

 そうしたら喜ばれた上、友達に成ってと言われた。これが街なら逆ナンかと思うところだ。


「はぁ……俺で良ければ喜んで?」

 night中に幼児のroomに不法侵入する美女と友達に成って良いのか甚だ疑問だったが、とりあえずイエスと答えておこう。断って怒り出したら怖いし。


「じゃあ、私達が奉じるEvil God (M) Hihiryushukakaを称えてくれるかしら? 素晴らしいKami-samaだって」

 ……何故か彼女が信じているらしいEvil God (M)を称えるよう言われた。このworldには誰もが神の実在を知っているので、Self introductionの前に互いが信じている神に敬意を示すのが、Human社会の礼儀だったりするのだろうか?

 まあ、別にいいけど。RodcorteAldaでなければ、そのHihiryushukakaが何の神か知らないが口先だけで称えるぐらいなんでもない。



Evil God (M) Hihiryushukakaは素晴らしいKami-samaです」

 しかし、この美人-sanは一体どういう存在なのだろうか?

 kaa-sanに危害を加える-sama子もないし、俺を殺そうとする素振りも無いし……まさか宗教の勧誘でも無いだろうし。


 もしかしOrbaum Elective Kingdom側のSpyか何かの可能性は無いだろうか?

 Talosheimが滅ぼされる際、First Princessと五百人ぐらいの国民がOrbaum Elective KingdomHartner Duchyに逃げている。彼女達は当然いつか故国の再興をと望むはずだ。


 そして彼女達を受け入れたOrbaum Elective Kingdom側も、Talosheimの再興を望むはずだ。First Princessを取り込んで政略結婚やらなんやらで未来の国王を身内にし、Talosheimの属国化に成功すれば確実に利益に成るはず。

 もうMirg Shield Nation側から軍勢を送り込むルートは無いから、monstersを防ぐ城壁とWarriorが居れば国は維持できるし、近くには四つのDungeonがあるのでadventurerも大勢やって来るだろう。


 その実現のために、Talosheimの現状調査に乗り出したのではないだろうか。それで、辿り着いてみたら城壁や、更に城まで修復されて、でもUndeadmonstersが暮らしていた。しかも正体不明の『King』までいる。

 それで彼女は今のTalosheimを実効支配している集団のKingContactを取りに来たのではないだろうか?


 交渉できる相手ならとりあえず交渉。ダメならroomの外の連中が始末するという算段を付けて。


 なんでその工作員にEvil God (M)の名を称えるよう言われたのか、その理由までは分からないが。


『参った。まさかSpyとか、Humanstealth込んでくるとは思わなかったからsecurityが穴だらけだった』

 何せVandalieuのように【Golem Transmutation】で崖に道を作りでもしない限り、Mountain Rangeを数百人以上の規模で越えるのは難しく、Orbaum Elective Kingdom側のtunnelも塞がったままだ。この状況で外から人がやって来る事を想定していなかった。


 monstersは城壁を登れないし、そもそもUndead Giantsignに気が付いて寄りつこうとしない。

 そのため城壁は高くて頑丈だが見張りは居ないし、も城も多少の心得があれば簡単に潜入できてしまう。警備状況なんて全く考えていなかった。


 自分の迂闊さをCurseつつ、でも相手が問答無用で殺しにかかるようなMirg Shield NationadventurerAldafanaticよりも話せる相手らしい事に感謝した。

 とりあえず、そろそろ彼女にnameを聞いてみよう。


「あなたがUndeadTamerしているのよね? どうやっているの? 何時からGoddess 's Divine Protectionを得たのかしら?」

 聞いてみようとしたら、質問されてしまった。しかも、思ってもみなかった質問だ。


UndeadTamerをどうやっているのかって……特に特別な事はしてないし、態々聞くような事なのか?』

 弱ったUndeadに特殊なBallを投げたり、倒したUndeadが起き上がって仲間に成りたそうにこっちを見てきたり、そんな事はしてないし起きてない。

 Bone Man達は自分で作ったし、ZadirisGhoulNuazaTalosheimUndead Giantは【Death-Attribute Charm】の効果で、Borkusは交渉の結果だ。あまりTamerしている実感も無い。


 このworldにはTamerというJobがあるので、そうおかしな事ではないと思っていたのだが。もしかして数が問題なのかな? 確かに彼女から見れば千人以上Tamerしているように見えるからその秘訣やらコツやらを聞きたいのかもしれない。


 UndeadTamerできないのが常識だとされている事を知らないVandalieuは、質問の意図をそう解釈した。


『それにGoddess 's Divine Protectionって……ああ、Nuazaが受けたOracleの事かな?』


「その通りですが、どうやっているのかと聞かれても……まあTamer出来ましたし。blessingsについては……Oracleの事ですか?」

 そう聞き返すと、美女は驚いたようだが納得してくれたらしい。神が実在していても、Oracleというのはやはり珍しいのだろう。


 質問に質問を返す形になったが、不愉快には思っていないようで何よりだ。

 ……おや? ちょっとだけKilling Intentrevivedような気がする。


「そう……じゃあ、【Sword KingBorkusについて知っているかしら? 今、彼は何処にあるのか教えてくれる?」

 考えている内にnameを聞く機会を逸してしまった。今度はBorkusについてか。何故彼女がBorkusについて気にするのか分からないが……もしかしてこっちの戦力を把握したいのかな?


Borkusなら、謁見の間に居るはずですが」

「居る……? 彼はUndeadに成っているの?」

「はい」

 Borkusの居場所もUndead Transformationしているかどうかも隠すような事ではないので、どちらも答える。すると美女は何故か少し考え込んでしまった。


 再び美女から感じるKilling Intentが消えるが、roomの外のsignは相変わらず【Danger Sense: Death】に反応しているし、念のためにBorkusや皆を呼んでおこう。虫Undeadを起動して、下のroomに来てくれるように頼んで……。


「後は……このお城やはどうやって直したの? 大分壊されていたはずだけど、Undead達に直させたの?」

 すると城やについて聞かれた。廃墟になっていたTalosheimが修復されているのを見て、驚いたのかもしれない。


「いえ、俺がGolemを作って直しました」

 Golemを作っての修理は、きっと一般的ではないのだろう。一体作るのにManaが今でも数千、場合によっては一万以上飛んでいくのだから。理論上は可能でも、普通のalchemistならとても実行できないに違いない。

 【Golem Transmuter】のJobが未発見だったから、実行できるのはManaが一億を超える俺ぐらいなのだろう。


 Golemについて正しい知識の無いVandalieuは、美女がGolemと聞いて驚いているのをそう解釈した。


 すると、美女の背後で扉が開き苛立った雰囲気の男を先頭に、何人か入って来た。

『ん、事態が動いたな。とりあえず床をGolemにしておこう』

 入って来た男達は顔を隠しておらず、Weapon Equipmentをまだ抜いていないもののしっかり帯剣していて、剣呑な目つきでこっちを睨んでくる。そういえば、美女も含めて全員瞳が紅い。


「おいっ、何時まで時間をかけるつもりだ」

 男は、その後もう用は無いから始末しろとか、物騒な事を言い出す。こちらにKilling Intentや悪意を持っている事を隠そうともしない。その癖、自分ではなく美女の方ばかり気にしている。


 これはいよいよ戦闘開始か。

 そう思うVandalieuだが、美女はVandalieuを見つめたまま男と口論を始めた。


「この子はもしかしたら私達にとって有益な存在かもしれないわ。UndeadTamerする方法や、Golemを使って廃墟を修復した方法を聞き出した方が良いのではないの?」

 っと、言う。価値を認めてくれるのは嬉しいし、男を止めようとしてくれるのは助かる。だけどそれを当人の目を見ながら言うのはどうなのだろうか?


「……Eleonora、貴-sama正気か? 我々が受けた命令はそのDhampirを殺す事だ。それが最優先であり、他の事はそれを果たした後やればいい。

 例えそのDhampirがどんな秘密を知っていようが、希少なskillを持っていようが、関係無い」

 美女の主張に対して、男は取り合わずにそう答えた。やっと美女のnameが判明したが、それよりも気になる事を聞いてしまった。


Dhampirを殺す事が最優先? っと、いう事はAldabelieverか? Orbaum Elective Kingdom側の工作員じゃない? Evil God (M)云々は嘘か?』

 今までのconjectureは間違っていたようだ。しかし、男にしても自分の前でそういう事を平然と言うのはどうなのだろう? 余程自分の腕に自信があるのか、単にこっちを舐めてかかっているのか。

 どちらにしても不愉快だ。


Eleonora、貴-samaがやれ。出来なければ、貴-samaDhampirを殺すのを拒否したとBirkyne -samaに報告するぞ」

「っ! 貴-samaっ……」

 そして問答の末、Eleonoraは男にVandalieuを殺せと脅される事になった。今nameの出た、Birkyneという奴が余程恐ろしいらしい。


 しかし、このEleonoraという人も問答をしている間もVandalieuから視線を外そうとしない。目が痛くならないのだろうか? 俺はちょっと痛い。

 そんな事を考えつつ、Vandalieuは彼女達にどう対処するかを決めていた。


 とりあえず全員生け捕りにしよう。

 殺した後霊から事情を聞いてもいいが、彼らがOrbaum Elective Kingdomから派遣されてきたのなら生け捕りにした方が後々利用できるかもしれない。


 それはそうと、三度EleonoraがこちらにKilling Intentを持った。Birkyneの命令通りにVandalieuを殺すつもりなのだろうか。

「こっちに来てくれる?」

 どうやら決心したらしい。近付くように促してくる。


『仕方ない。近付いて、俺を殺そうとしたtimingで……』

 そう思いながら近付いていく。蹴りの間合いに入るが、まだEleonoraは動かない。Killing Intentが急速に萎む。

 手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いたが、まだまだ彼女は動かない。Killing Intentが全く感じられなくなった。

 常時Activateしている【Danger Sense: Death】を意識して使ってみても反応が無い。


 どうやら彼女はVandalieuを殺さないと決めたか、殺せなくなったようだ。これで彼女は敵ではなくなった。

 それに対して彼女の後ろの男達の反応が顕著だ。Eleonoraの反応が無くなったのとは逆に、反応が大きくなってきている。


 しかも、その矛先がVandalieuだけではなく、Eleonoraにも向けられているようだ。

organization内の派閥争いとかかな? まあ、俺はin any case彼女にはいきなり殺される程の危険じゃないようだけど……あ、拙い』

 Eleonoraに近付いて、彼女が両手でVandalieuの頭を掴み持ち上げたところで、男達が動いた。


「貴-sama等やれっ! EleonoraごとDhampirを始末しろっ! Valenの屑にした時の-samaにな!」

 偉そうな男がblood走った眼で叫び、手下の男達が剣を抜きEleonoraごとVandalieuを殺そうとする。【Danger Sense: Death】で感じた反応からの予想を上回る大きな動きに、反応するのが一瞬遅れた。


 【Telekinesis】を使って、VandalieuEleonoraごと後ろに飛んだ。ベッドが軋み、傷付いた彼女の背中からbloodが飛沫を上げる。

 だが、lungに達しそうな傷も彼女に死を与える事は無いようだ。それもそのはず、彼女も男達もVampireなのだから。


 それにやっと気が付いたVandalieuは、Eleonoraの腕の中に居たまま、男達を見る。何か喚いているが、それはどうでもいい。

「今、何て言った?」

 Valenの屑。生まれる前に殺されたVandalieuの父親、Darciaの夫を屑と言ったのだ。奴らは。




Charming Magic Eyesの効果が切れたぞ! 外のUndeadを呼ばれる前に殺せ!」

 Sercrentは気圧されたのか、動きが鈍いSubordinate Vampire達に指示を飛ばしつつ、自らも剣を抜いた。Vandalieuが何を言っても、取り合うつもりは無かった。


 Eleonoraが傷を治癒させ戦闘態勢を整えたら、自分では敵わない。DhampirUndeadを呼んだら、数で圧殺される。

 二人が手を組んだら最悪だ。

 今の内に何としても殺す!


 Subordinate Vampire達も、fangsを剥き剣やclawsで二人を引き裂こうと殺到する。

「落とせ」

 しかし、その瞬間足元から床が消えた。前もってVandalieuGolemにしておいた床を、【Golem Transmutation】で形を変え、即席の落とし穴にしたのだ。


「落とし穴だとっ!?」

BAKANAっ!」

 Vampireとベッドが、為す術も無く落下して行く。サイドtableの下の床だけが形を変えずそのままだったが、EleonoraVandalieuに殺到しようとしていた彼らは、それに気が付きもしない。


「こ、これは……?」

 重力に逆らってゆっくりと降りて行くベッドの上で、Eleonoraは愕然としていた。一瞬で多くの事が起こり過ぎて、情報の処理が間に合わないのだ。


 背中の傷も気にならない-sama子で目を瞬かせる彼女に、こういう表情をするとキツさが無くなって可愛く見えると、Vandalieuはちょっと和んだ。

 ここで格好の良い事を言えたら良かったが、今は彼女より気になる対象が居る。


「ちょっと待っていてください」

 Eleonoraは別にいい。敵ではない。Killing Intentを持って目の前に現れたが、Vandalieuが何かする前に自発的にKilling IntentLostした。彼女も父の仇だったとしても、それが分かった時に対処すればいい。


 VandalieuSercrentに視線を向けた。

「くっ、小癪な真似を!」

 Flight Abilityを持つNoble-born VampireSercrentは、一旦は落下したがmidairで体勢を立て直しフワリと宙に浮いていた。


 Subordinate Vampire達も、無-samaに背中や頭から着地する者は一人も居ない。流石はVampireと言ったところか。


「早く殺せ!」

『おう、そうするぜ』

「っ!?」


 ざざしゅっ!

 突然聞き慣れない男の声に返事をされたため、咄嗟に振り向いたSercrentはそんな音を聞いた。

 そして剣を持った自分の腕と、膝の上から切り落とされた足が飛んで行くのが視界の端に見えた。


「ぐっ……があああああああああっ!? きっ、貴-samaはっ!」

 【斬空】で斬撃を飛ばした、彫りの深い顔が半分しか無い禿頭のGiant raceが『大袈裟に喚くなよ』と嗤った。

『おっと、ワリィ。生け捕りにするんだったか?』

Borkus、予定変更です。この人以外は皆殺しにしてください。でも、あれは俺にやらせてくれると嬉しいです」


『オウ、了解。それにしても何時の間にそんな別嬪口説いたんだ?』

「いえいえ、俺が口説かれたんです」

『マジかっ、こりゃあ早いところZandiaの嬢-chanを見つけないとやばいな』


 whole bodyから尋常ではないbloodthirstを発散するUndeadを見て、Eleonoraは呟いた。

「け、【Sword King】、Borkus。そんな、Tamerしていたの?」

 二百年前の戦争で敗れはしたものの、竜種ですら一撃で首を落としてみせたと伝わるGiant raceHero。そして今、仮にもNoble-born VampireSercrentの腕と足を一度に切り落として見せた。


 そんな高位のUndeadTamerするなんて、あり得ない。Tamerの難易度は、対象のRankと知能の高さに比例する。下手な竜種を上回る戦闘力に、会話が出来る高い知能。Goddess 's Divine Protectionがあるとしても、その難易度は尋常では無いはずだ。


 だが、Eleonoraとは違いそれに気が付き驚く余裕の無い者も多かった。

Sercrent -samaっ!」

「貴-sama等はUndeadを抑えろ! その間に俺がDhampirを殺す!」

『御意!』


 まだ十人程いるSubordinate Vampire達がBorkusに向かい、Sercrentは何時の間にかEleonoraの腕からすり抜けていたVandalieuに向かって、呪文を唱え始めた。




 Vampireの中でも下位のSubordinate-bornとは言え、Humanにとってその力は脅威だ。Noble-bornのようにmagic的な力は持っていなくても、高いMuscular Strengthに鋭い反射nerve、鉄も切り裂くclawsに首を落とすかheartを破壊しない限り死なない強靭なVitalityRegenerative Powerを持っている。


 その上Humanとしての力、JobによるAbility補正やskill補正も持っているのだ。それを一度に十人以上敵に回すなんて正気の沙汰ではない。

「ぎゃああああああっ!?」

「か、壁から竜が!? がはっ!?」

「せ、Sercrent -samaっ! お助けぐふべ!?」


 それがなす術も無く蹂躙されていた。

『GAAAAAAAAAAAA』

『GYAOOOOOOOOOOOOO!』

 それをなしたのは、BorkusではなくVandalieuの三ageの誕生日に贈られた恐竜の死体から作られた、恐竜Undeadだった。


 大臣の執務室の真下に在った、無人の一階大広間。そこは既に壁も床もVandalieuGolemにしている。

 そのため壁が自由自在に形を変えて通路と化し、そこからcafeteriaに展示されていた恐竜Undeadが突っ込んできたのだ。


 Subordinate Vampire達も不意を突かれた最初はin any case、すぐに対応しようとするが彼らが立っている床はVandalieuGolemと化している。

 床から伸びてきた腕に足を掴まれ、突然発生した穴に躓いて動きを止められ、その隙に恐竜Undeadfangsthrust刺さる。


 Zombie Tyranosaurusfangsで上半身を食い千切られ、Zombieアンキロサウルスのtailの直撃を受けて頭部を熟れた果物のように砕かれ、謎の単眼scaleZombieがその虎並の巨体で引き裂き、噛みついたまま振り回す。


 反撃に転じようとすればその度に床や壁から拳が伸びて来て邪魔をし、動きが取れずにいる所にUndeadが殺到する。

 そんな中、当初の指示通りにBorkusに向かえたのは三人だけだった。


『おらよ、【Single Flash】』

 そんな彼らに、Borkusはやる気の無い声でMagic Swordを振るい、初歩的なMartial Artsを放つ。

idiotめっ! 【Iron Wall】! 【Iron Body】!」

 それに対して、背中に背負っていた盾を素早く構えたSubordinate Vampireが、Shield TechniqueArmor TechniqueMartial ArtsActivateさせる。


 どちらも自身の物理Defense Powermagic Defense Powerincreaseさせる、skillが5levelに達してやっと使える上位のMartial Artsだ。このMartial Artsの前には、【Single Flash】如きで振るわれた剣等小指の先ほどの傷も与える事は出来ない。

 ズバン!


 しかしBorkusMagic SwordSubordinate Vampireの構えた盾も腕も体も、まるで熱したknifeButterを斬る-samaにスパッとBisectionした。

『おいおい、ちっとは耐えろよ』

 Martial ArtsAttack Powerは、使用者のskill levelに比例する。精々5level程度のShield TechniqueArmor Techniqueでは、10levelに到達しSuperior Skillの【Sword King Technique】にまで至ったBorkusの【Single Flash】を止められるはずが無いのだ。


「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」

Sercrent -samaっ、我々では無理です! ご助力を!」

 実力差をやっと理解した残り二人に、こいつ等鈍いんじゃないか? そう思いつつBorkusMagic Swordを再び振るった。


『そら、【Triple Thrust】』

 High-Speedで放たれた三連続の横薙ぎ。それで一人は首と胸の下と足の付け根で三分割され、bloodを撒き散らしながら頭や脚が転がる。


「あ、あああああああっ!」

 だが一人は両脚を膝の上で切断されただけで助かった。まあ、すぐに殺すが。

「ま、待ってくれっ! 降参するっ、何でも話すっ、Sercrent -samaの事でも、Gubamon -samaの事でも、Birkyne -samaの事でも! だ、だから俺も助けてくれ!」


悪いな、捕虜はいらねぇってよ』

 あの別嬪-san以外皆殺しって言われてんだ、ボスの意向には沿わないとな。おお、俺も大人になったもんだぜ。

『それに昔から言うだろ、どんなに哀れに見えてもGoblinは殺せって』

 昔からadventurerの間に伝わる諺を口にしながら、三度Magic Swordを振るう。bloodが飛び散って、三人居た雑魚は美味そうな匂いを撒き散らすchunk of meatに代わった。


『まあ、あいつの敵になっちまった自分を恨めや』

 転がっていた脚を拾って、生のままブチブチと肉を食い千切る。美味い。Subordinate Vampireってのは、見た目よりも美味いもんだな。

 次は内臓と脳味噌を喰ってみるか。


『あー、塩くらい持ってくれば良かったぜ』

 新鮮な肉を肴に、Borkusは処刑を観戦した。




「死ねっ! Dhampir如きが!」

 そう叫びながら、Sercrentは雷を放った。蛇のようにのたくる雷のAttack Powerは、きっとかなりのものだろう。掠っただけでheartが止まり、直撃すれば黒焦げになるに違いない。


 しかしVandalieubody partを覆う【Magic Absorption Barrier】に触れた途端消え失せる。


「なぁっ!? ……いいだろうっ、ならば俺の爪で直接slaughterしてくれる!」

 clawsを振るい、猛獣のように素早く間合いを詰めて来る。片腕片足が無いとは思えない動きの鋭さだ。


「その首貰った! 【Iron Tear】!」

 素晴らしい速さだ。Vandalieuの目には、コマ落としのようにSercrentが突然目の前に現れた-samaに見えた。

 しかし、既に【Impact-Negating Barrier】も【Magic Absorption Barrier】に重ねて張り巡らせてある。それも、Noble OrcBugoganとの戦いを反省して、厚めに。


「何だ!? Manaがっ、力が!」

 まるで空気が恐ろしく粘性が高く重い物質に入れ替わったかのように、Sercrentには感じられた。VandalieuBarrierに触れた途端、彼の腕は動かなくなった。

 その腕には城壁さえ破壊しかねない力が宿っている筈なのに、一ミリ腕を動かすだけで恐ろしい程強い抵抗を受ける。まるで恐ろしく粘性の高い液体に腕が包まれているようだった。


 Sercrentはそれを特殊な防御用magicだと考えた。そしてそれを突破する方法も理解した。

「ふはははっ! つまり貴-samaの術を超えるだけの力で攻撃すればいいだけの事ではないか!」

 高らかに嗤いながら、再びUnarmed Fighting Techniqueの上Class Martial Arts、【Iron Tear】を放つ。再び腕が一センチずつ、Vandalieuに近づいて行く。もう三十センチと離れていない。


 爪が届いたその時、脆弱なDhampirは頭蓋を砕かれ中身を撒き散らして無残に死ぬのだ!

「確かにその通り。でも出来ない」

 despairで表情が抜け落ちていると思っていたDhampirがそんな事を嘯く。大した強がりだ。SercrentEleonoraには劣るがManaも武術もNoble-born Vampireに相応しい水準に達している。


 多少時間がかかるが、片腕でもこの程度のBarrierを破る事は……片腕?

Sercrentの腕や脚が、再生していない?」

 Eleonoraは、何時までもbloodを垂らしているSercrentの傷に気が付いた。Noble-born Vampireの高い再生Abilityなら、銀やLight AttributeMagic Swordで斬られたのでなければ、自分の背中の傷のようにもうbloodは止まり再生が始まっているはずだ。


 しかし、その-sama子が全く見えない。


Self治癒AbilityNullificationにする【Healing Negation】という術を使った。使っている間しか効果が無い術だけど、それで十分あんたは死ぬ」

 平坦な口調で言った言葉の意味を、Eleonoraも当人のSercrentもすぐには分からなかった。


「あっ……あああああああああっ!」

 それを理解した時、Sercrentscreechとも咆哮ともつかない叫びを上げながら悶え始めた。彼は何とかしてVandalieuBarrierを破ろうとしているのだ。

 失blood死する前に。


 Vampireの再生Abilityは高い。特にNoble-bornは四肢を切断されても新しい四肢が再生し、暫く経てば元通りになるほどだ。

 だから、EleonoraSercrentは治癒magicを態々覚えようとはしなかった。potionすら持って来ていない。


「うおおおおおおっ!」

 最終手段と、電撃や炎の術で傷口を焼いてbloodを止めようとするSercrentだが、それも【Magic Absorption Barrier】でManaAbsorptionされて消えて行く。

 そして彼が暴れれば暴れるほど、bloodが塞がらないままの傷口から流れ落ちて行く。


「うお……お……」

 そして目に見えてSercrentの動きは鈍り、originally白かった顔色が土気色になって来た。

「き、貴-samaっ、俺は、俺は【Evil God of Joyful LifeHihiryushukakaの、blessingsを得た、Pure-bornVampireGubamon -samaの配下、だぞ、俺を殺せば、ここに何百ものVampireが、Mirg Shield Nationも、俺達の言いなりだっ、軍勢を送り込んでやるっ!

 それが、嫌なら――」


 そして始めたのが命乞いだった。しかし一部は真実だったのである程度の説得力はあるとVandalieuに想わせる事に成功したらしい。

 彼はSercrentではなく、振り返ってEleonoraを見た。


「こいつの言っている事は本当ですか?」

 Eleonoraは、Vandalieuの向こうでSercrentの顔が引き歪んだのが見えた。

「いいえ。あなたの父親を殺したこの男はPure-breed Vampireの配下の一人で、Mirg Shield Nationとも繋がっている。でも、その男のために動く事は無いわ」


「貴-samaDhampirtailを――」

「息が臭い」

 激高するSercrentの懐に入ったVandalieuは、両腕を彼の胸にめり込ませた。


「ガガァッ!?」

 【Spirit Form Transformation】させた両腕をグリグリと動かし、Sercrentから生きたまま彼の霊を取り出す。

「俺は、父-sanに会った事が無い。だから、父-sanを愛しているとは言えないし、尊敬しているかどうかすら分からない。だから、あんたが父-sanの事をidiotにしても、殺した実行犯だとしても、父-sanのために憎む事は出来ない」

 EarthOriginで、肉親や親類だからって無条件にallyだとは限らないって嫌という程思い知った事だし。


 そして出て来たSpirit Formを、裂いて行く。

「ぎゃあああああああああ!? あ゛ああああああああぁ!」

「でも、kaa-sanは父-sanを愛していた。それにMirg Shield Nationとも繋がっているという事は、kaa-sanが殺された事にも、無関係じゃないな。密林Devil Nestsに差し向けられた討伐隊にも関わっているに違いない。

 だから俺はお前が憎い、恨めしい。絶対に許さない、お前に好かれたくなんて無い、吐き気がする、次(来世)なんて与えない」


 Spirit Formの腕が、指で抓めるぐらいの、ビー玉と同じ程度の大きさの輝く球体を見つける。

 それを掴んだ。

「や、やべろぉっ!! それはっ、それだけはぁ!」

 この球体が魂だ。Spirit Formに包まれた、霊の核。細胞でいえば、遺伝子が詰まっている部分だ。


 それをInstinct的に理解したSercrentが哀願するが、Vandalieuは聞いていない。


 渾身の力を込めて、Sercrentの魂を握り潰す。

「ガアアアアアアア! ギヒャアアアアアアアアアア!? ギャッ――」

 そして、パキィィィィィンっと澄んだ音を立てて砕け散った。


 光の粒子のように見える、Sercrentを構成するRootの破片が舞い散る。

 その瞬間、凄まじいscreechを上げていたSercrentの動きが止まった。まだ鼓動も呼吸もしているし、検査機器があれば脳波も検知できるだろう。

 しかしSercrentが動く事はもう無い。


「良い音だ……ずっとこれがやりたかった」

 魂を砕く。漫画やライトノベル等で、魂を『砕く』とか『滅す』とか、そういうnameの魔法やitemが時折出て来るが、そのname通りの事をやれないかと、VandalieuOriginで生きていた時からずっと考えていた。


 何故ならこのworldには……EarthOriginにも、死者を罰するHELL-samaな場所は無い。God of ReincarnationRodcorteがそんな手間をかけるとは思えない。

『俺から奪った奴らはただ死んで、その内成仏して、生まれ変わるだけ。それじゃあ割が合わない』

 だが、魂を砕いてしまえばそこにあるのは消滅だけ。Rodcorteの元に魂が行く事は無い。新しい始まりは無い。


「でも、時間がかかりすぎるな。とても戦いながらは出来ない。無力化するか、殺してからやるしかないか」

 適当にSercrentを落として、床に降りる。そこでは、食べかけのSubordinate Vampireの脚を掴んだまま、かくんとchinを落しているBorkusと、目を見開いたまま硬直しているEleonoraが待っていた。

 何をそんなに驚いているのだろうか?


「今、あの子は……何をしたの? Sercrentの、何を壊したの?」

Undeadの俺には見えたぜ。見間違えじゃなけりゃ、魂だ。坊主はあのVampireの魂を砕きやがった。はは、やりやがったぜ』

「魂を……!」


 呆然とした顔に畏怖を浮かべるEleonoraと、半笑いのBorkus。彼らにVandalieuは普段動かない頬のmuscleを意識して動かし、Smiling Faceを見せた。


「えーっと、今度は俺から質問しますね。ああ、別にVidaを称えなくてもいいですよ」

 何故か二人の硬直は解けなかった。




《【Soul Breakskillを獲得しました!》


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