Public bathhouseからの帰り道、Tareaはfurで作ったコートで冬のnightの寒さを防ぎながら歩いていた。
「ふぅ……最近冷えるようになりましたわね」
Capital of the Sunと言われていても、Talosheimの冬は彼女が暮らしていた密林Devil Nestsよりも冷える。決してTareaがここ数年寒さに弱くなったわけでは無い。
それにしてもと、Tareaは通りで娯楽を楽しみ食事を取るGhoulやUndead達を見て思った。
豊かになったものだと。
Tareaの感想を聞いたら、異議を唱える者も多いだろう。実際、彼女達の生活を一見しただけでは豊かには思えないかも知れない。
着ている服は布で出来たものは極少数、monstersから剥ぎ取って鞣した皮やfurが殆どでまるでBarbarian Tribeのよう。物々交換による原始的な経済環境であるため、商店の類も無い。
煌びやかなtheaterも知識の詰まった書物を売る書店も、美食を提供する飲食店も何も無い。
しかし Vandalieuが作りだした諸々がそれを覆す。
Humanの町では富裕層の娯楽である盤上遊戯を、単純だが面白いReversiを作り、無料で配っている。
それ以上に貴重なのが、数々の調味料だ。
密林Devil Nestsに居た当時から彼が作っていた胡桃のsauceやドングリのクッキーは、Devil Nestsで作っている事以外はそう珍しいものでは無い。
しかし Talosheimに来てから彼が作った……発明した魚醤や味噌は、衝撃的だった。更にはそれまで薬としてしか使われてこなかった生姜や、ワサビという見た事も無い植物を調味料にした。
そしてそれらを作り、必要な量は配給。それ以上欲しい場合はAdventurer’s Guild跡で交換してくれる。
Vandalieu本人はそれがどれ程の事か分かっていない。Tarea自身も、accurateに分かっている自信は無い。
しかし、調味料を好きなだけ使えるのは富裕層だけのluxuryなのだ。
貧しい庶民は塩を節約しながら使うのがやっとで、砂糖は滅多に口に入らない。最近は多少マシになったそうだが、TareaがHumanだった二百年以上前は都市部でもそうだった。
それがここでは誰もが手に入れられる程度の交換レートに設定されているのだ。
もし味噌や魚醤をHumanの町で売ったら飛ぶように、それも高値で売れるに違いないだろう。最近は更に昆布出汁、未完成だが鰹節という物も作り始めている。
certainly、Ghoulのrace的特性による少子化問題を解決に導いたのも忘れてはならない。
Tarea個人としては、Talosheimに在ったPublic bathhouseを全て修理してくれた事が一番嬉しかったが。庶民にとって肩まで湯船に浸かる入浴も、調味料をluxuryに使う食事と同じくluxuryなのだ。
「Van -samaが居る限り、私達Ghoulは向こう千年の繁栄が約束されたも同然!」
そう自信を持って確信できるだけの事を、Vandalieuはしてきた。
しかし、だからこその懸念がある。
「そのVan -samaとどうやって距離を縮めようかしら」
Tareaは戦闘員では無く、monstersの素材から武具を作るArms Artisanだ。だからVandalieuがDungeonの攻略や武術の修行に打ち込むと、必然的に会える時間が減ってしまうのだ。
Vandalieuはbody partが小さくて身に着けられるDefense Equipmentが皮やfurの服ぐらいしか無く、Weapon Equipmentも自前のclawsを使っているのでTareaが彼のために武具を作る機会は今のところ無い。
今は、Pauvinaがある程度育ち、Basdiaが無事に妊娠三か月を超えるまで遠出は控えると言っているが、春の前にはまたDungeonに行くはずだ。
「距離を感じますわ、私とVan -samaの間に距離をっ」
Tareaが町に残っている間も、Basdia達はVandalieuと生死を共にする濃密な時間を共にしているのだ。最近Katiaという元adventurerのGhoulも動きが妙だし、次のDungeon攻略ではZadirisも同行するという。
拙い、とても拙い展開だ。
「私に娘でも居れば良かったのですけど、産んだのは息子ばかり……いっそ今から作る? まだ私は二百六十過ぎだもの、そういう手も……ああ無理ですわ、Van -samaの前で他の男の子を産むなんて!」
現在、成り行きでVandalieuは産婦人科医師のような事をしている。そのため、Tareaが彼に近づけるために娘を産もうとすれば、ばっちり知られる訳である。
それは耐えられない羞恥であった。Basdiaが何故そんな事が出来るのか、さっぱり分からない。
当人に聞けば「別に行為をしている場面を見せる訳ではないのだから、気にする事では無いだろう」と平気な顔で言う。
この辺り、生粋のGhoulと元HumanのGhoulの違いだろうか。
「やはり私自身で? でもそれでVan -samaに引かれたら意味が……あら?」
こん、ころろん。丁度建物と建物の間に在る路地を通りかかった時、Tareaの足元に小石が転がって来た。そして、ふと路地に顔を向けると女が居た。
月明かりだけの暗がりも十分見えるGhoulの視覚が災いして、その女の紅い瞳をはっきりと見てしまった。
「その、Van -samaについて話してもらえる?」
紅い瞳の、赤毛で白い肌の女。一目でこのTalosheimに居るはずの無い人物と分かる容姿だが、Tareaが抱いたのは警戒心でも恐れでも無く、親愛の情だった。
「certainlyですわぁ……」
「ありがとう、こっちで話しましょう?」
とろんとした顔のTareaは、そのまま女……Eleonoraに誘導されるまま路地に入って行った。
通りを歩くGhoulの中から、Van -samaと言っていた女GhoulをEleonoraは選んだ。特に強そうではなかったし、Van「-sama」と言うのだからDhampirの事だろうと思っての事だったが、どちらも当たりだった。
抵抗らしい抵抗も無く魅了の視線の効果に囚われ、誘い出す事に成功した。
そしてDhampirの情報も聞き出す事が出来た。
「Van -samaは、お城に居ますわ。originallyは大臣だったか、Generalだったか、そういう方が使っていたroomだとか。そこで眠っている筈ですわ」
これでDhampirの居場所は分かった。王城に住んでいて、それでいながら国王が使っていたroomではないという事は、やはりUndeadを従えている上位の存在が居るのか。
「そうなの。それで、Goddess Vida’s Divine Protectionを受けている者はこの町にいるの?」
「blessings……?」
Eleonoraの質問に首を傾げるTarea。魅了の視線の効果で、Eleonoraを仲の良いfamilyのように感じているTareaだったが、知らない事には答えられない。
しかし、「仲の良い」相手からの質問だ。出来るだけ答えたいという心理が働く。
「それはきっとVan -samaですわ」
だから、こう答えるのも当然だった。二百年以上前に十代でHumanを辞めたTareaは、UndeadがTamer出来ないという常識を知らず、更に彼女にとってVandalieuがUndeadをTamerできるのは当然の事だった。出会った時からUndeadを仲間にしていたのだから、それに付いて考察する理由が無いのだ。
その上でNuaza達Undead GiantからVandalieuがOracleや預言の「Miko」と呼ばれ敬われている事を思い出すと、やはりVandalieuの事を聞いているのだろうという結論に至る。
「なっ! あのDhampirがっ……!?」
それを聞いたEleonora達Vampireの間に衝撃が走った。
彼女達が始末しようとしているDhampirは、既にGoddess Vida’s Divine Protectionを受けている。だとしたら、このTalosheimに存在するGhoulだけでは無く、UndeadもDhampirの手足という事になる。
「拙い……このままでは拙い。なんとしても始末を付けなくては……っ」
Evil God (M)派のVampireが恐れる事の一つ、Dhampirがorganizationを作り上げる事が既に完璧なまでに実現している。
Ghoulに加えて、countlessのUndeadがDhampirの支配下にあるとすれば千を優に超える。
そんな一大戦力が、堅牢な城塞都市を拠点にしている。警備はまだザルだが、それもUndeadが増えればVampireでも簡単には潜り込めない警戒網が完成するだろう。
そんなorganizationと拠点を作り上げる時間を許したSercrentは、この事がBirkyneに知られれば使命を完遂できたとしても厳しい叱責を受ける事を避けられない。
あの部下に無関心なGubamonでさえ、彼を粛清しかねない大失態だ。
だから思わず声を出してしまうのは分からなくはないが、黙っていろとEleonoraは手で黙らせる。
「始末? 何を始末しますの?」
TareaがSercrentの声に気がついて反応した。Eleonoraの「Charming Magic Eyes」は、対象を即座に永続的な洗脳conditionに置けるほど強力では無い。
聞きたい情報は全て聞き出したが、今この女に騒がれると拙い。
「気にしないでいいのよ、ただの独り言だから。
色々教えてくれてありがとう、あなたのお蔭で本当に助かったわ」
「うふふ、私もあなたの力になれて良かったですわ」
幸い、Eleonoraは逸れたTareaの意識を自分に向け直す事に成功した。
「そろそろ疲れて来たでしょう? 今日は私のroomに泊まって行って。さあ、横になって」
「そう言われると……なんだか瞼が重くなってきましたわね。じゃあ、失礼して……」
石造りの空き家のroomに、Tareaは欠伸をしながら横になると瞼を閉じ、すぐに眠ってしまった。
そしてSubordinate Vampireの一人が剣を抜くと、無防備なTareaに向かってそれを振り下ろす。
ぼぎん!
「ぐぎゃあっ!? エ、Eleonora -samaっ、何を!?」
しかし、刃がTareaに届く前にその腕はEleonoraの細い手で圧し折られてしまった。
「貴-sama、何のつもりだっ!? そのGhoulは用済みの筈だっ、始末して何が悪い!」
「悪いに決まっているでしょう、Sercrent。あなたは何を聞いていたの?」
「霊についてなら、殺した後すぐに聖水をかければいいだけの事だ!」
激高するSercrentに、Eleonoraは額に手を当ててため息をついた。VampireになってDiseaseや体調不良から縁遠くなった彼女だが、彼と話していると頭痛が絶えない。
「あのね、貴方の手下が死んだ時とは違うのよ。このGhoulはDhampirに心酔している。死んだら、喜んでDhampirの元に馳せ参じるはず。その前に聖水をかけてGhoulの霊を浄化すれば、Dhampirに告げ口するのは防げるわ。でも、あのDhampirはUndeadをTamer出来る。
このGhoulの死体に適当な霊が乗り移ってUndead Transformationし、動き出さないと何故言い切れるの? ここにはUndeadが何百……下手をすると千以上いるのよ」
霊を聖水で浄化したからといって、死体がUndead Transformationしないとは限らない。きちんと弔うか徹底的に破壊するかしなければ、死体はmiasmaに犯され適当な霊が入り込みUndead Transformationしてしまう。
そしてUndead Transformationは周囲に他のUndeadが存在する時、発生しやすい。
「それはそうだが、Undead Transformationしたところで何の問題もあるまい。なってもLiving-Deadが精々だ、言葉を話す事も出来ん木偶に何が出来る」
霊がTarea本人のものでなければ、EleonoraやSercrentの事を誰かに告げて警告を発する事も出来ない。しかし、そんな事は解っている。
「そのLiving-Deadが他のGhoulやUndeadに見つかったらどうなると思うの? 見た限り、Goblinですら言葉を話して随分賢そうに見えるわよ」
話を聞き出す過程でわかったが、このTareaというGhoulはこのcommunityの中でも立場のある人物らしい。そんな人物がUndeadになってフラフラしているのが見つかれば、大騒ぎになるはずだ。
その騒ぎのどさくさに紛れDhampirを殺す事は出来るかもしれない。しかし、その後生きてこの町から脱出できるかは怪しい。
certainly、Undead Transformation出来ない程死体を燃やす、聖水をかけて浄化する手段もあるが、どちらも出来ない理由がある。
SercrentやEleonoraに、音や煙を出さずに死体を燃やす術に心当たりが無い。死体を燃やす煙に気がつかれて騒ぎになったら本末転倒だ。
聖水については、単純に残りの量が少ない。どうせこの女Ghoulが目覚める時には自分達はfrom here逃げている。なら、Dhampirを殺す時やその後逃亡する時に必要になる可能性がある以上温存しておくべきだ。
「……チッ、さっさと腕を治せっ」
それがやっとわかったのか、Sercrentはclicking tongueをすると、折られた腕を抱えて呻いているSubordinate-bornにそう吐き捨てた。
態々気を使って治らない剣では無く治る腕を折ったのだから、礼の一つもdemandしたいが黙っておく。どうせ期待できない。
「行くわよ」
すやすやと眠っているTareaを残してEleonora達は、標的の居る王城に向かった。彼女が目覚める時には全てが終わり、自分達が逃げた後だろうと確信して。
王城に入り込む事は簡単だった。見張りらしい見張りが殆どいなかったからだ。
Dhampirは余程自分の実力に自信があるのか、それとも無警戒なのか。
「どうやって始末する?」
「音を出せば外のUndeadに気がつかれるわ。それに、ここに来た以上Gubamonが欲しがっていた【Sword King】Borkusの死体も確認しなければならないし。
私のMagic Eyeで惑わして連れて来るから、貴方達が首を刎ねなさい」
Charming Magic Eyesを使っている間は、常に対象の目を見ていなくてはならない。何かの拍子に視線が逸れてしまったら効果が解けてしまう。確実性を求めるなら、自分以外の手を借りた方がいい。
それにSercrentの親であるPure-breed Vampire Gubamon。彼はHeroと呼ばれる者の死体を収集し、Undeadにしてcollectionする趣味を持っている。
二百年前のTalosheimが滅びた戦争でも、何体ものHeroの死体を収集していた。ただ、【Sword King】Borkusの死体は運悪く回収役のVampireが【Divine Spear of Ice】のMikhailと遭遇してしまい、失敗している。
Eleonoraには別にGubamonの趣味を助けなければならない理由は無いが、機嫌を損ねたい相手では無い。一応の配慮が必要だ。
「すでにUndead Transformationしている可能性が高いと思うけど」
「だろうな。しかし、確かめなくてはなるまい。
Mikhailに敗れたとはいえHeroのUndeadだ、Undead Transformationしていてもかなりの高Rankの筈。なら幾らなんでもDhampir如きの配下にはなっていないはずだが、居場所を知っているかもしれん」
「分かったわよ、Dhampirを誘い出すついでに聞き出すわ」
Borkusのboneのfragmentでもあれば、Gubamonに粛清されずに済むかもしれない。その望みに賭けているためか、Sercrentの目には追い詰められた者特有の危険な光が宿っている。
自暴自棄になられると道連れにされかねない。多少でも協力してやった方がいいだろう。
Eleonoraは、見張りの一人も立っていない扉から音も無く滑り込むようにしてroomの中に入った。
「っ!?」
そして、その瞬間Dhampirと目が合った。
驚いて目を見開くが、考えてみれば好都合だった。Eleonoraは念のために扉に入る前から「Charming Magic Eyes」をActivateしていたため、Dhampirはすぐにそのimpact下に置かれる。
その証拠に既に瞳から意思の輝きが消え、生気の無い死んだ魚のような瞳になっている。
「あなたがVandalieuね?」
「はい、俺がVandalieuです」
nameを聞くと、素直にそう答えた。白い髪に、混bloodを表すオッドアイ。そしてname。間違いない、このchildが標的のDhampirだ。
しかし、Eleonoraはこの時違和感を覚えた。このDhampirには、本当に「Charming Magic Eyes」が効いているのかと。
「Charming Magic Eyes」のimpact下にある対象は、まるでほろ酔い気分の酔っぱらいのように顔が弛緩し、そして口調もゆっくりとしたものになる。
だがこのDhampirの顔は、無表情だ。それに、口調もしっかりとしている。
それに、虚ろなはずの瞳に妙な力強さを感じる。あの瞳を見ていると、まるでAbyssを覗きこんでいるような寒気と、それでいて妖しげな何かを感じる。
『まさか、私のMagic Eyeが対抗(レジスト)された? そんな事、Mental resistance skillのlevelが余程高くなくては不可能なはず。幾らDhampirが【Abnormal Condition Resistance】と、Dark Elfの【Magic Resistance】を持っているからといって……【Mental Corruption】skillの可能性もあるけど、それなら会話も出来ない程の狂人になっていなければおかしい。そんなようには見えない。
でも、確認した方がいいわね』
自分のMagic Eyeに絶対の自信があるEleonoraだったが、このDhampirはVida’s Divine Protectionを持つ存在だ。警戒して当然の相手。
「ねぇ、私の事をどう思う?」
「はぁ……綺麗な人だなと思いますが」
「そう、嬉しいわ。私と友達になってくれる?」
「……俺で良ければ喜んで?」
「じゃあ、私達が奉じるEvil God (M) Hihiryushukakaを称えてくれるかしら? 素晴らしいKami-samaだって」
「はぁ……」
DhampirはEleonoraに言われ祈るように手を組むと「Evil God (M) Hihiryushukakaは素晴らしいKami-samaです」と称えた。
そして黙ってEleonoraを見つめ返す。
どうやら覚えた違和感は杞憂だったらしいとEleonoraは思った。
『Dhampirが正気ならすぐ私がVampireだと気が付いて警戒するはず。それに、Vida’s Divine Protectionを得ている者がEvil God (M)を称えるなんて正気ならまずしないわ』
特に最後のdemandはMagic Eyeのimpact下にでもなければ、まず実行しないだろう。このDhampirはまだ幼児の筈だが、情報によれば頭が良いはずだし、KingやMikoと配下に呼ばせている。prideも高いはずだ。
最初は不気味に思ったが、可愛いものじゃないのとEleonoraは微笑んだ。後は、情報を聞き出したらSercrent達の所に連れて行けばいい。
「あなたがUndeadをTamerしているのよね? どうやっているの? 何時からGoddess 's Divine Protectionを得たのかしら?」
「その通りですが、どうやっているのかと聞かれても……まあTamer出来ましたし。blessingsについては……Oracleの事ですか?」
驚いた。blessingsだけでは無く、GoddessからOracleまで受けていたのか。このDhampirはGoddessから注目され、きっと今も見守られているに違いない。
このまま始末するのは危険なのではないか? そんな思考を反射的にEleonoraは抱くが、たとえその通りだったとしてもBirkyneの命令に逆らう訳にはいかないと、その思考を打ち消す。
「そう……じゃあ、【Sword King】Borkusについて知っているかしら? 今、彼は何処にあるのか教えてくれる?」
「Borkusなら、謁見の間に居るはずですが」
「居る……? 彼はUndeadになっているの?」
「はい」
予想通り、【Sword King】BorkusはUndead Transformationしているようだ。しかし、死体が在ったはずの謁見の間に今もいるという事は、このDhampirもTamerしていないのだろう。流石にHeroのUndeadは手に余ったか。
回収は諦めた方がいいだろう。Sercrentが試みるなら、勝手にやってもらうしかない。
「後は……このお城や町はどうやって直したの? 大分壊されていたはずだけど、Undead達に直させたの?」
「いえ、俺がGolemを作って直しました」
Golem? Spiritualistだけでは無くalchemistのJobまで持っているというのだろうか?
もっとaccurateに聞き出した方が――
「おいっ、何時まで時間をかけるつもりだ」
何時の間にか、Sercrentもroomに入り込んでいた。その後ろには、Subordinate-born達まで続いている。
「聞き出すべき事はもう全て聞き出したのだ、もう用は無い」
「……私がこの子を誘い出す手筈だったはずだけど」
「Shut Upっ、その貴-samaが何時まで経っても来ないから来てやったのだ」
「短気ね」
Sercrentは苛立ちを隠そうとせずbarelyとfangsを剥き出しにするのが、視界の端に見える。もしかして威嚇しているつもりなのか?
Charming Magic Eyesの効果を維持するために視線をDhampirに合わせ続けなくてはならないのだから、目障りな事は止めて欲しいのに。
「この子はもしかしたら私達にとって有益な存在かもしれないわ。UndeadをTamerする方法や、Golemを使って廃墟を修復した方法を聞き出した方が役に立つわ」
UndeadをTamerする方法がGoddess 's Divine Protectionなら、このDhampirを殺せばいよいよGoddessの怒りを買い、Devil Nestsの奥深くに潜むVida's FactionのPure-breed Vampire達が動き出すかもしれない。
それにGolemを使って廃墟を修復する方法を聞きだし、それを利用すれば確実に役に立つはずだ。このDhampirがTalosheimに来て一年と経っていない。その短期間で城塞都市を全て修復したのだとすれば、小さな砦や城ぐらいなら一月で建てる事が可能かもしれない。
その戦略的価値は計り知れない。それぐらいはこの男でも分かるだろう。
「……Eleonora、貴-sama正気か? 我々が受けた命令はそのDhampirを殺す事だ。それが最優先であり、他の事は全てそれを果たした後の事だ。
たとえそのDhampirがどんな秘密を知っていようが、希少なskillを持っていようが、関係無い」
しかし、SercrentがEleonoraに説いたのはPure-bornからの命令には絶対服従というorganizationの在り方だった。
そしてそれは正しい。Sercrentの言う通り、BirkyneでもGubamonでも最も重視するのは命令の遂行だ。それ以外は付属物であり、命令の遂行無くして評価される事は無い。
「正気かとはどういう意味かしら?」
「言葉通りの意味だ。まさか、情でも湧いたか? 俺には貴-samaがそのDhampirを殺すのを躊躇って、先延ばしにしたいがために尋問を繰り返しているように見えるがな」
「そんな事……ある訳がないっ。私を愚弄するつもり!?」
思わず声を荒げるが、それは怒りからではなく動揺からだった。そして、Sercrentの的外れなはずの指摘に、動揺している自分に驚く。
『BAKANAっ、今更罪悪感を覚えたとでもいうの? そんなemotions、Birkyne -samaにLoyaltyを誓った時に捨てたはずっ!』
familyから捨てられ、Birkyneの下部organizationに捕まり、飼育された。訓練を受け、成績の悪い者が生きたままbloodを搾られるのを見たし、その中には仲の良い子が少なくなかった。
同じ境遇の仲間同士での殺し合い、密告の奨励、理不尽な理由で行われるTorture、それらを繰り返しやっとの思いでVampireに成る事が出来た。
『いいかい、Eleonora。世の中には上に立つ支配者と、踏まれる弱者の二種類しか存在しない。-kunも支配者に成りたければ、誰かを踏まなければならないよ。だって、支配者とは下にいる者がいて初めて支配者たるのだからね。平民を一人も支配していない王-samaなんて居ないだろう?
だから、虐げられ搾取されるのが嫌なら、-kunが誰かを虐げ搾取するしかない』
そのBirkyneの言葉が今でも耳に残っている。奪われたくないから奪え、嬲られたくなければ嬲れ、殺されたくないなら殺せ。それこそが自分を守る唯一の方法であり、Mariの筈。
だから目の前のDhampirを殺す事に躊躇いなどないはずだ。人殺しなど、今まで何度もしてきている。友人や仲間に裏切られ、裏切り、殺されかけ、殺して来た。その自分に何を今更。
「そこまで言うのなら、あなたや手下共にやらせればいいじゃない。私にだけ働かせて、自分達は案山子のように立っているだけなの?」
そうProvocationすると、びくりとSubordinate-born達は震え、お互いに視線を合わせ、一歩動いた。後ろに。
誰もDhampirに近づこうとしない。まるで、何かに気圧されているかのようだ。
「Eleonora、貴-samaがやれ。でなければ、貴-samaがDhampirを殺すのを拒否したとBirkyne -samaに報告するぞ」
「っ! 貴-samaっ……」
この時、視線をSercrentに向けないために、Eleonoraは多大なMental力を使った。自分の数々の失態を棚に上げて、何-samaのつもりだ。clawsで喉を切り裂いてやりたい衝動を覚えた。
だが何の事は無い、このDhampirを始末すればいいだけの話だ。
「こっちに来てくれる?」
そう、ずっと視線を合わせていたDhampirに呼びかける。その瞳は何処までも虚ろだ。
この子を殺す。簡単だ。近づいて来たところを、剣で突くかclawsを振るえばいい、柔らかい腹を爪先で蹴り破っても構わない。重武装のKnightでも単純な力技で殺せるだけの力を、Eleonoraは持っているのだから。
こんなchildを殺す事なんて、虫を潰すのに等しい行為だ。
すたすたと、無造作にDhampirが近づいてくる。動悸が激しくなるのが抑えられない、呼吸が乱れる。
蹴りの間合いに入った。胸のあたりが苦しくなる。そうだ、蹴りは止めよう。爪だ、爪で始末しよう。
爪の間合いに入って来た。手が震える、もう少し近くないと。でもこれ以上近づくと視線が外れる。後ろには邪魔なSercrent達が居るから下がれない。
仕方なくEleonoraは、Dhampirを持ち上げる事にした。無造作に頭を掴み、このままfangsで首筋を刺し、bloodを吸って殺せばいいだろうと。
そしてEleonoraは至近距離でVandalieuの視線を覗きこんだ。
相変わらず、その瞳には光が無い。虚ろだ、虚無で満ちている。
だが彼女はその虚無の中に、何かが存在しているのを感じた。
どんなに逃げても逃げられず、Eleonoraが何をしても絶対に避けられない、存在しない存在。
『ダメだっ! この方に逆らってはいけない!』
Instinct的な衝動に、Eleonoraは動けなくなった。肩で息をしたまま、Dhampirにfangsをthrust立てる事も出来ずに立ち尽くす。
その時Sercrentが叫んだ。
「貴-sama等、やれっ! EleonoraごとDhampirを始末しろっ! Valenの屑にした時のようにな!」
「なっ!?」
EleonoraやDhampirに向かってthrustだされる剣の切っ先。それが背中に深々とthrust刺さる前に、彼女は前に向かって引っ張られたような形で、飛んでいた。
さっきまでDhampirが寝ていたベッドに前転する形で突っ込む。
「チッ、反射的に避けたか。腐っても流石Birkyneの親衛隊だな。だが、その傷ではもう俺達に勝つ事は出来まい」
Eleonoraの背には、heartを掠る程深い傷が刻まれていた。heartを完全に破壊されるか首を落されない限りそう簡単に死なないNoble-born Vampireといえど、Damageを負えば動きは鈍る。
「Dhampir共々貴-samaを殺して口を塞げば、俺の失態をBirkyneやGubamonが知る事は無い! 死ねぇ!」
Sercrentがそうベラベラと喋っていたのは、彼もEleonora程ではないがDhampirが発する異-samaなsignを感じていて、自分とSubordinate-born達をそれから振り切るためだったのかもしれない。
しかし、それが彼を最悪の末路へと導いてしまっていた。
「今、何て言った?」
ああ、やっぱりMagic Eyeは効いていなかった。
Eleonoraは傷の痛みも忘れて、Dhampirを見つめhorrorに硬直しながらもどこか安堵していた。
今あの瞳に映っているのは、私では無いと。