「殺し合いになっても構わないとは、言ってくれるじゃないか」
「待ってくれ、Edgar。彼はVandalieuの使い魔だ。戦っても意味はない」
「そんな事は分かってる!」
短剣を構えたまま前に出ようとするEdgarを制止するHeinz。しかし、Edgarはそれでも気が収まらないのか、今にも飛び掛かりそうな-sama子で蟹に似たDemon King Familiarを睨みつけた。
Demon King Familiarを通してそれを見ているVandalieuは、その-sama子に期待を覚えて見守っていたが、結局Edgarが下がってしまったため、仕方なく顔を上げた。
蟹型のDemon King Familiarの腹に当たる部分の真ん中に、髑髏のような顔が埋め込まれていた。その悍ましさに、Heinz達の協力者であるadventurer partyやSelenは小さくscreechや呻き声を漏らす。
Vandalieuはそれに構わず、Heinz達に向かって話しかけた。
『殺し合いにはならないようなので、話を進めましょうか。……お前達は、何故Orbaumの都に向かっているのですか?』
「……『Trial's Dungeon』にいる間も、伝手を通じて外で起きている事を調べていた」
Giant蟹の口に当たる部分にある髑髏が発しているとは思えない流暢な声に対して、Heinzは慎重に答える。先の言葉からも分かるように、Vandalieuがその口調とは裏腹に冷静ではない事を彼も理解しているからだ。
「そうして集めた情報の中に、-kunがAlcrem Duchyから出て、CenterのOrbaumにいる事が分かった。Prime Ministerは【Demon King Fragment】を集めているし、-kunはSauron Duke 家の末娘やHartner Duke 家の長女に近づいている。
Orbaumで何かが起きていると私達が考え、それを確かめるために向かってもおかしくないはずだ」
『……それはそうですね』
Vandalieuも、Orbaumで活動していれば、いつかHeinzが出張ってくる可能性はあると思っていた。ただ、Orbaumで活動する当初は、Bellwoodの力を使いこなすための修行にまだ一年以上かかるだろうと予想していたので、その可能性は小さいと考えていた。
しかし、Vandalieu自身や、Telkatanis Prime Ministerの動きが大きかったため、Heinz達が修行を切り上げて出てきてしまったのである。
Heinz達からすればEdgarに促されたという理由もあるが、促された直後に熱心なAlda believerだと周りからは考えられていたPrime Ministerが前代未聞の提案をしたという情報が、Alda Reconciliation FactionのNobleからもたらされた。
まだ修行の成果は十分ではないが、このまま閉じこもっていては致命的な事態にdevelopmentしてしまう。そう思うのは当然だろう。
『それは納得できるのですが、何故彼女までいるのですか?』
VandalieuはHeinz一行の中の唯一の非戦闘員、DhampirのShoujo、Selenをscissorの先で指して尋ねた。できるだけ関わり合いたくないのか、視線だけではなく目を物理的に逸らしている。
『まさか、彼女が俺に対する切り札になると考えているなら、それは大きな誤解です』
そう言うVandalieuに、JenniferやDelizahは(そのつもりはないけど、滅茶苦茶効いてる)と内心でツッコミを入れた。
「わ、わたしは――っ」
「Selenを連れて行くのは、彼女自身の安全のためだ。Dhampirである彼女を狙う存在は、-kunがPure-breed Vampireを倒してくれた今でも多い」
Aldaや『Goddess of Sleep』Mill、そしてBellwoodからGodsが知っている情報を得た事で、HeinzはVandalieu達がこれまで行った事を不完全ながら知っていた。
さすがにbelieverや神の目の届かない場所で行われたことは……Boundary Mountain Range内部やDemon continent、Gartland、そして『Rock Giant』Gohn達Alda's FactionのDemi-Godが倒された後のDemon KingのContinent等での出来事はAlda達も知らないので、Heinzも知りようがないが。
遥か上空から眺める事はできるので、Bakunawaと一緒にDevil Nestsをある程度浄化している事や、TalosheimでGiantな自身の像を建てた事は分かっているけれど。
Heinzが言ったように、Vampires serving Evil GodsのRemnants……を名乗る犯罪者集団や、Alda過激派、反Reconciliation Factionなどなど、DhampirであるSelenを害そうとする存在はまだ多い。
それらの多くはDuke FarzonやAlda Reconciliation Factionの同志達で対抗できる程度ではあるが、最も彼女が安全なのはHeinz達の眼の届くところであるのは間違いないと、彼らは考えている。
それは、冥やHiroshiを【Body World】に滞在させていたVandalieuも理解できる話だ。もっとも、Rokudouを【Body World】に取り込んで戦う可能性があるため、今は【Body World】から出してVidal Magic EmpireやSilkie Zakkart Mansionで生活してもらっている。
いざという時、Rokudouを取り込んだ【Body World】の一部ごと……つまりVandalieuの体を半ば消し飛ばすような事になるかもしれないので、念のためだ。
『……彼女の存在が俺達に対する抑止力になると考えているのなら、あの事を話しますよ?』
だからSelenを連れてきている事に理解はできるが、釘は刺しておかなければならない。なのでそう言うが、Heinz達はもちろん、Selenにも動揺は見られなかった。
『もう話していましたか』
「ああ、Mirg Shield Nationで私達が-kun達親子に何をしたのか、Selenには全て話してある。そして、抑止力として利用するつもりはない。
……Selenの事を政治的に利用しようとする動きはあると思うが」
『それはそうでしょうね。そのあたりの事は、どうでもいいです』
すまなそうに視線を伏せるHeinz。SelenはAlda Reconciliation Factionの旗頭の彼が保護している、Dhampirだ。Alda Reconciliation FactionのClergymanや支持しているNoble達からすれば、重要な象徴である。政治的に利用せず、普通のShoujoのように扱うなんて、あり得ない話だ。
Vida Fundamentalismというものを主張しているVandalieu達にとっては、歓迎できない動きだが……今回の用件にはないので、Vandalieuはさっさと話を進める事にした。
『では、主な用件ですが……お前達は、Telkatanis Prime Ministerの背後にいるだろう、Rokudou Hijiriに協力するつもりですか?』
もし万が一そうだったら、合流される前にここで『Five-colored blades』を叩かなければならない。
「Rokudou Hijiri……しばらく前、Birgit Dukeが行っている【Demon King Fragment】研究の協力者、Asagiが教えてくれたnameだ。彼がPrime Ministerを操っているのか?」
しかし、やはり予想通り『Five-colored blades』、そしてAldaはRokudouと組んでいなかったようだ。
『Asagiはそっちに行っていたのですか』
「ああ、以前は-kunと仲間だったと言っていたが――」
『俺の尊厳をかけて断言しますが、そんな事実はありません。classmate……同じ時期に同じ場所にいた二十人から三十人ぐらいの集団の一人というだけの他人です』
「classmate……Adventurer's School校の同期という感じか。わかった。話では、Rokudou Hijiriについて警告されたが、彼もDeath-Attribute Mageなのか?」
『そうです。もっとも、だからといって俺と同一視されるのは困ります』
「彼の説明でも、そう言っていたような覚えがある。ただ、彼からはRokudouよりも何故かKanako Tsuchiyaという-kunの仲間のReincarnatorについて、強く警告されたのだが……」
『えぇぇ?』
Heinzの言葉に、思わず彼へのbloodthirstと警戒心が緩むほど呆れるVandalieu。何故『Origin』worldを滅茶苦茶にしようとし、Vandalieuが防いでなお歴史に残る混乱をもたらしたRokudouより、Kanakoの危険性を訴えるのか。
Vandalieuにはその思考が理解できない。たしかにKanako、そしてDougとMelissaは前世でAsagi達を裏切ったから、憎むのは分かる。しかし、それはKanako達を背後で操っていたRokudouも同じだろうに。
このままAsagiが各地でKanako脅威論を流布するようなら、どういうつもりなのか問いただした方が良いかもしれない。……意見の相違だけで殺し合うつもりはないが、風評被害が広がるのを放置するのも問題だ。
これがただの一般人なら、ただの好き嫌いと言える。しかし、Asagiはそれなりに等Classの高いadventurerで、Birgit Dukeに雇われているので、一般人以上の発言力を持っている。その点を、Asagi自身も自覚してほしいものだ。
そう思うVandalieuだが、Kanakoはlive performanceやConcertでVida believerを増やしていく【Entertainer Guider】なので、宗教的にも対立しているHeinz達に危険な存在であると警告する事は、間違っていない。
Asagi達はKanakoが【Entertainer Guider】である事を知らないし、宗教的な意識が薄いのでそういう意味で警告したのではないのだが。
「うっ、うわあああっ!」
「っ!? ま、待てっ!」
その時、Heinz達が連れていたadventurer partyのBow Userが突然矢をDemon King Familiar……Vandalieuに向かって放った。
おそらく彼は、極度の緊張conditionにあったのだろう。Vandalieuが「殺し合いになっても構わない」と言い放ち、常にbloodthirstを向けていた事で、それは緩むどころか高まる一方だった。Demon King Familiarが、普通なら嫌悪感を煽る姿をしている事もそれをAccelerationさせた。
そのVandalieuのbloodthirstが、突然消えたのだ。隙ありと見て、反射的に攻撃してしまうのも無理はない。
そしてBow Userの男が矢を放つと、Jenniferの制止の声を無視して剣や槍を構え、magicをActivateさせようとするadventurer party。だが、次の瞬間激しい衝突音が響いた。
「【Radiant Steel Wall】!」
Bow Userの前に移動したDelizahの盾が、Demon King Familiarのscissorを受け止めていた。
「なっ!?」
Vandalieuが、Bow Userが反応できない速さでDemon King Familiarの片腕を伸ばして攻撃したのを、Delizahが防いだのだ。
そしてHeinzはDemon King Familiarの、蟹の頭部に当たる部分に剣をthrust付けていた。
「こちらの不手際だ、すまない。だが、このまま話し合いを続けてほしい」
その足元には、Bow Userが放った矢が落ちている。Heinzが剣で叩き落とし、Demon King Familiarに当たるのを防いだのだ。
『…………彼が狙ったように、剣をthrustつけるなら顔の方では?』
「その髑髏の事を言っているのなら、そんな分かりやすい弱点を-kunが作るとは思えない。急所はこっちだろう」
『忌々しい事に正解です。では、話を戻しましょう』
反対側のscissorはEdgarに押さえられていたので、仕方なくVandalieuは殺し合いを始める事を諦めた。
Vandalieuも、reasonでは分かっている。今はHeinz達『Five-colored blades』とRokudou、どちらを優先して殺すべきなのかを。
彼が殺したいのは『Five-colored blades』で、おそらく強いのも『Heroic God』BellwoodやHeroic spiritの力を使える『Five-colored blades』の方だろう。だが、危険なのはRokudou Hijiriの方なのだ。
このDemon King Familiarで、『Five-colored blades』の今の強さがどれほどか計る。そこまではいい。しかし、Heinzを殺すためにVandalieu本人や戦力を率いてOrbaumから移動するのはいけない。
その隙にRokudouが『Origin』でしたようにShockwave of Deathを放つなどして無差別殺戮を行ったら、目も当てられなくなる。
衝撃波のAttack PowerがOriginと同じなら、DClass adventurerと同等かそれ以上のVitalityを持つ人々なら一度目は耐えられるだろう。二度目以降は、magicやmagic item、Martial Artsで衝撃波を防げるかもしれない。
しかし、それでadventurerやOrbaumのKnight達が生き残れても、戦いとは縁のない人々は運が良くない限り全滅してしまう。
本来なら正式に国交を結んだわけではない国の首都の安全を守る義務は、Vandalieuにはないが……仮の身分とはいえそれぞれのguildに属するadventurerであり、Tamerであり、商人だ。
それにAlcrem Duke 家のGeneral Officerには何度も世話になっているし、Hadros・Jahan Dukeともかかわったし……義務がどうのこうのと考えられる段階は通り過ぎている。
だから、Heinz達を殺すためとはいえ、Orbaumを離れる訳にはいかないのだ。
『Rokudouの当座の目的は、俺を殺す事でしょう』
意識をHeinzに向け直し、再びKilling Intentと警戒心を高めてからVandalieuは話を元に戻した。Heinzも剣を鞘に収める。……Edgarは中々下がらず、Heinzに促されてやっと下がった。
「当座の目的、という事は最終的な目的ではないの?」
『このworldにreincarnationしたRokudouにとっては、俺を殺してそれで終わりという事にはならないでしょうから。maybe、俺を殺す事ができた後は、このworldで『Origin』……前世にいたanother worldでやろうとしたことをやろうとするのではないでしょうか?』
Heinzの横に戻ったDelizahの言葉に、Vandalieuはそう答えた。もっとも、Rokudouが【Gungnir】のKanataのように、Vandalieuを殺したらすぐに自殺して、他のworldにreincarnationする取り引きをRodcorteと纏めている可能性もある。しかし、Vandalieuはその可能性はないと考えていた。
RodcorteにとってはUndeadを爆発的に増やす事ができるRokudouのようなDeath-Attribute Mageを、そのまま他のanother worldにreincarnationさせるとは思えないからだ。
(まあ、俺にやったようにCurseをかけて行動を縛っている可能性はありますが。しかし、それは俺が心配する事ではありませんし)
自分が殺された場合の事を考えるよりもRokudouを殺せるように努力し、達成する事を考えるべきだろう。
「another worldでやろうとしたことというと、このworldの神になろうとするのか? だが、このworldでそれはあり得る事だが……」
『人々の信仰を得て、死後に神になるような穏当で時間のかかる手段はとらないでしょう。Alda達が認めるとも思えませんし。
既存の国を滅ぼし、生き残った人々を自分のbelieverとして洗脳するとか、それぐらいはやりそうな気がします』
自身の巨Great God……石像や、自身の人生をattractionにしたGrand Temple(theme Park)の建設に反対するため世論に逆らうVandalieuとしては、Rokudou Hijiriが考えている事は想像して分かる事はできても、理解して共感する事はできない。
そもそもBodyがある以上、believerからの信仰が無くても生きていけるし、立身出世を目指すなら Bahn Gaia continent統一国家の樹立でも目指せばいいのにと思う。
「そうか。どう考えても、-kun以上に危険な存在だな。そのRokudou Hijiriを倒すまで、共闘する事はできないか?」
『無理です』
「……少しは考えてくれないか?」
Heinzの悍ましい提案を即座に蹴ったVandalieuに、彼は渋面を浮かべる。しかし、それはVandalieuにとってあり得ない事だ。
『OrcとOgreの群れが争っているのを見て、お前達はどちらかの群れと協力しようと考えますか? ああ、お前達をOrcやOgreに例えている訳ではありません。考えやすい例としてあげただけです』
Vandalieuが言った状況をadventurerが見たら、争いに生き残った方を退治してfishermanの利を得ようとするか、その隙に逃げる事を考えるだろう。戦闘狂のadventurerなら、どちらの群れも自分の手で退治しようと、争いに介入するかもしれない。
だが、OrcかOgreのallyをしようとはしない。肩を並べた瞬間、攻撃されるからだ。
『なので、俺達がRokudou Hijiriを倒すまで邪魔をせず、Orbaumに近づかないようにしてください。用件は、それだけです』
Vandalieuの用件……『Five-colored blades』へのdemandは不干渉だった。協力する事ができない以上、三つ巴になる事は避けたかったのだ。
ただ、同時にHeinz達を殺す機会を先延ばしにするのはVandalieuにとって苦痛であるため、『殺し合いになっても構わない』という言動になってしまっていた。
一応、Heinz達ならそう苦戦せずに倒せる程度にDemon King Familiarの性能を抑えた。もし殺し合いになっても、Heinz達にあっさりlose、冷静になる時間ができるように。
しかし、そうした矛盾を抱えた会談も終わりだと、VandalieuはHeinz達から離れたところで【Demon King Fragment】の素材の残骸を回収されないよう自壊するため、走り出そうとした。
「待って! わたしにとって、Heinzお兄-chan達は、大切な人なの!」
だが、その時SelenがVandalieuに向かって叫んだ。
「だから――」
『それは理解しています』
Vandalieuは、そのSelenの叫びを遮って言い返す事にした。彼女に恨みはないが、『Five-colored blades』の近くにいる以上巻き込まれるのは避けがたい。それに、今後そう機会があるとは思えないが、同じことが繰り返されるよりはここではっきりしておいた方が彼女にも、そして自分のMental衛生上にも良いだろうと考えたのだ。
『あなたの境遇は、だいたい知っています。letterに書いてありましたから。彼らが過去に何をしていようが、命を助けられた事に恩を感じるのは当然ですし、長い時間を一緒に過ごしていればfamily同然に思うのも自然な流れでしょう。それは納得できますし、理解します』
Vandalieuの言葉に、Selenが驚いたような顔をする。DaianaやJenniferも、まさか理解を示されるとは思わなかったので、戸惑った-sama子を見せた。
『ただ、それだけです。あなたにとって大事な人だからといって、俺が殺さない理由にはなりません』
だから、そのVandalieuの言葉とそれに込められた拒絶の強さに、Selenは思わずよろめいた。
「そんな……」
『そんなものです。あなたを保護した後、『Five-colored blades』が【Demon King Fragment】のsealedを持っているMerfolkの集落を襲撃したでしょう?
彼女達の事を大事に思っている人もいました。しかし、彼らは襲撃して何人ものMerfolkを殺した。それと同じ事です』
Vandalieuの言葉に、Heinz達は過去にDuke Farzonに依頼されて行った事を思い出し、はっとする。
「まさか、あのMerfolk達と【Demon King Fragment】のsealedは……」
『『True Evil God of Red South Sea』Marisjaferを崇めるMerfolk達と、彼女達と友好的な関係にあったMajin Raceは俺の元にいます。【Demon King Fragment】も。俺がお前達を殺したい理由の一つです』
MerfolkのQueenのDoranezaや、Beast-MajinのDediriaの事を述べるVandalieu。
「……理由の一つってことは、それは主な理由じゃないんだろう? なあ、Heinz達を許してもらう事はできないのか?」
その時、Jenniferが悲痛そうな-sama子で投げかけた問いに、Vandalieuの思考は止まった。
「お前の母親を引き渡したのは、Amid EmpireのAdventurer’s Guildの依頼だったからだ。それに死んだ母親だって、どうやったのかは知らないが生き返った。なら――!?」
「Jennifer、下がるんだ!」
Vandalieuが何も考えず接近して、Jenniferに向かってHammerのように振り下ろした鋏を、Heinzの剣が受け止めていた。
「【ソニックSlash】!」
そしてHeinzごとJenniferを狙った反対側のscissorを、Edgarが切り落とす。
「Edgarッ!」
「向こうから仕掛けて来たんだ、仕方ないだろ!」
「Heinz、Edgarの言う通りです! それにこれで終わりではありません!」
Edgarに非難の声をあげるHeinzだが、Daianaが警告したようにそれで終わりではなかった。Edgarが切り落とした切断面からcountlessのtentacleが生え、なおもJenniferを襲おうとする。
しかも蟹の腹のドクロの顔が、口を大きく開いた。すると口腔から黒い筒が伸びる。
そして轟音を響かせながら何かを撃った。
「【All Ability Values Enhanced (1)】!」
「くっ、仕方ない、【蒼光炎刃】!」
「【千輝爆拳】!」
「【Radiant Steel Wall】!」
Daianaが仲間のAbility ValuesをEnhanced (1)し、Delizahが盾でDemon King Familiarが【Artillery Technique】で撃ち出したcrystalの弾丸を防ぎ、JenniferがHigh-Speedで繰り出す拳がtentacleを打ち抜き、Heinzの放った斬撃がDemon King Familiarの胴体を袈裟切りにした。
Demon King Familiarの体から、紫色のbloodが飛沫をあげて飛び散り、瞬く間に蒸発して毒々しい煙をあげる。
「下がれ、毒だ!」
bloodに揮発性の強い毒が含まれていると気がついたHeinzが叫び、全員咄嗟に下がって距離を取る。Demon King Familiarはそれを追撃せず、蟹の頭部が斜めにずれたまま言葉を紡いだ。
そして、Demon King Familiarは動きを止めた。
『ん? 何の話をしていたのでしたっけ? ……ああ、Heinz達を許す事ができないか、という質問でしたね』
まるで先ほどの攻防も、自分が傷つけられた事も意識していないかのように、VandalieuはDemon King Familiarを通して会話を続けた。
『たしかに、kaa-sanは俺達が生き返らせました。ですが、それが何故Heinzを許す事に繋がるのか、俺には理解できません。
もし、『Five-colored blades』がkaa-sanを生き返らせてくれたのなら、そうなるのも分からなくもないですが』
Darciaは生き返った。だが、それはVandalieu達の働きによるもので、Heinz達はそれに何の協力もしていないし、助けになっていない。
被害者がSelfの努力で被害から回復したら、何もしていない加害者を許さなくてはならない。そんな戯けた話こそ、許されるべきではない。
『それに、Heinzは二度kaa-sanを殺しました。三度目を起こさせないためにも、殺します』
「ですが、Heinzを殺せばそれであなたの母親が安全になるって訳ではないはずです! Heinz以外にもあなた達には敵がいくらでもいるでしょう? それに、私達がHeinz達を殺した事を恨みに思ってあなたに復讐しようとしたら、どうするのです!?」
『たしかにその通りですが、それが何か? それと、あなた達が俺に対して復讐を企てた場合は、ただただ叩き潰すだけです。何度でも、何度でも、俺が存在する限り永遠に』
Daianaの主張はもっともだ。Heinz達を殺したからといって、Darciaの安全が保障されるわけではない。
monstersの存在しない『Earth』でだって、交通事故や天災等で死ぬ可能性は常にあった。Heinzの抹殺は、数ある危険の中の一つを排除するだけに過ぎない。……ただ、VandalieuにとってHeinzは、危険要因の中でもっとも大きいものなので、排除する意味は大いにある。
それに、Heinz達を殺した事で復讐の連鎖が発生したところで、だからどうしたというのか。恨みは連鎖するものだ。VandalieuがHeinz達に対するものだけを止めたところで、別の場所で別の人々の間で、永遠に恨みは連なり続ける。
Vandalieuは既に山ほど人を殺しているし、それを恨みに思っている者もいる。犯人がVandalieuだと知れば、復讐を企てる者も少なくないだろう。
そしてこれからもVandalieuは人を殺す。Telkatanis Prime Ministerも、maybe殺す事になるだろう。
いつか争いが終わるなんて、幻想である。生物は今も昔も争い続けているし、死後も恨みや憎しみを忘れないから悪霊等が存在するのだ。
だからHeinz達をVandalieuが許す理由はないし、許さなければならない理由もない。
『もう、聞きたいことはありませんね? それと、そちらの弓を持っている方。さっきはすみませんでした。俺も緊張していたので、お互いさまという事にしてくれたら幸いです。
それでは……おや? 上手く動け……な……い?』
再び身を翻そうとしたDemon King Familiarだったが、その拍子に胴体の上の部分が完全にずり落ち、二つになってしまった。それで限界を迎えたのか、動かなくなると端からボロボロと崩れ塵になっていく。
「……あたしには一言もないのかよ」
思わずそう呟くJenniferに、Delizahが答えた。
「maybe、あなたに攻撃した自覚がないのよ。怒りのあまり思考が飛んでいた……そんなconditionだったから、まるで何事もなかったように話を続けたんじゃないかと思うわ」
Delizahの答えに、Jenniferは冷や汗を流した。事実なら、自分は先ほど龍の尾を踏み抜いたことになる。Vandalieuがmain bodyではなく、Cloneで来ていてFortuneだった。
同時に、いざという時は先ほどと同じような言葉でVandalieuの狙いをHeinz達から自分へ逸らす事ができるかもしれない、とも思った。……逸らした後、すぐに殺されないようにする必要があるが。最低でも、【Heroic Spirit Advent】をした後にするべきだろう。
「……思ったより、たいした事ありませんでしたね。Rankは、11ぐらいでしょうか?」
しかし、あの蟹型のDemon King Familiar自体の強さはそれほどでもなかった。Heinzが【Heroic God Advent】を、Delizah達が【Heroic Spirit Advent】をせずに倒せたのが、その証拠である。
しかし、それはVandalieuがその程度に強さを抑えたからだ。
「それぐらいだな。ただ、これはHeinzが言ったようにVandalieuの使い魔、Cloneみたいなもんだ。奴にとっては、いくらでも作れる使い捨ての駒だ。
main bodyもたいした事ない、なんて考えるなよ」
それを見抜いたわけではないが、Edgarは協力者のadventurerにそう言って釘を刺した。
(あの蟹を見た瞬間、怒りで頭が熱くなった。なんでそんなに俺は怒りを覚えたんだ? 前に殺されかけた恨みか?)
ただ、自分の言動やemotionsに対して困惑も覚えていた。そう自問していると、【前、殺されかけた恨みに決まっている】と自答し、困惑は収まった。
(そうだ、前に殺されかけたんだから、怒りを覚えるのは当然だよな。それに、俺だけじゃなくてHeinzやDelizahも酷い目に遭っているし、JenniferとDaianaだってshockを受けていた。
あれくらい怒りを覚えても当然だよな)
そう、残されているEdgarの人格は判断した。
そして彼の魂に混じっているDemon King Guduranisの魂の小さな粉は、苛立ちを覚えていた。自分自身の体の一部を使って、あんなmonstersモドキの使い魔を創るなんて……。
Humanに例えると、眠っていて意識の無い間に酷い凌辱を受けた事を見せつけられたような気分だった。
もう少しだ。もう少しの辛抱だ。
そう繰り返し念じて、魂の粉はEdgarの魂の奥底に潜み続けている。
「お兄-chan……」
「Selen、怖い思いをさせてしまったね」
HeinzはSelenを安心させるように頭を撫でる。
「……やっぱり、Orbaumに行くの?」
「ああ、Rokudou HijiriというReincarnatorが危険である以上、野放しにはできないし……Vandalieuに任せる事はできない」
Vandalieuの願いとは裏腹に、HeinzはOrbaumへ行く意思をさらに固くしていた。
(Rokudou Hijiriの野望を絶つまで、彼に殺されるわけにはいかなくなったな)
HeinzはVandalieuに会ったら、条件次第では自分の首を差し出すつもりだった。そしてその条件とは、仲間たちとSelenの身の安全と、Alda Reconciliation Factionが穏当であるかぎり攻撃(布教等での対立ではなく、積極的に命を狙うなど)はしない事。そして、Vida's New RacesだけではなくHumanも守る事だ。
最後の条件は、確認程度のものだったが、それらを守るとVandalieuが神、そして母親の名に懸けて誓うなら首を差し出す事に躊躇いはなかった。これはBellwoodも、そしてEdgarやDelizah達も了解している。Selenには、まだ話せていないが。
Aldaは異論があるだろうが、首を差し出すと決めたHeinzの意志を強制的に曲げさせることはできない。
Oracleでの指示も、blessingsの剥奪も、死ぬと決めた者には罰にならない。無力である。
それに、自分というHeroを失えば、AldaはVandalieuと戦うための中心戦力を失うとHeinzは考えていた。
自分を過大評価するつもりはないが、Aldaにとっても自分程のHeroはそうそう用意する事ができない存在のはずだ。簡単に、それこそ百年や千年で自分と同等以上の力を持つHeroを仕立てる事ができるなら、このworldはとっくにAldaの望む形になっているはずだからだ。
何せ、Demon King Guduranisの戦いから約十万年、そして『Heroic God』Bellwoodが『Evil God of Sinful Chains』にsealedされてから約五万年経っている。できるなら、しているはずだ。そうでないから、できないのだろう。
……Vandalieuという、AldaにとってはDemon King Army Remnantsよりも大きな危機感を抱かせる存在が出現したという理由もあるだろうが。
(だが、私の首を差し出した後、VandalieuがRokudou Hijiriに万が一にもloseしまったらこのworldを守る者がいなくなる。
この話をVandalieuに提案できるのは、Rokudou Hijiriが倒された後だ)
その頃、OrbaumのSilkie Zakkart Mansionでは、Vandalieuがただの屍のようになっていた。
「Vandalieu、頑張ったのね。偉いわ」
「ぁぁ……」
「Van、よしよし、いい子いい子」
Darciaに抱き上げられても、Pauvinaに撫でられても、「あー」や「うー」といった声なのかlungから空気が漏れているだけなのか、判別がつきにくい声が漏れるだけだ。
『juiceをお飲みよぉ』
「Van -samaっ! 金粉を塗したsteakに金粉を浮かしたsoupに、Giantなプリンよっ!」
「むぅ、金貨の風呂も用意するべきかの? しかし、前やった時に『実際にやるものではないと分かりました』と、ずいぶんと不評だったのじゃが……まあ、やるだけやるか」
Eisenが自分の果物のjuiceを用意し、EleonoraがあらゆるCookingを金粉で飾り、Zadirisがお湯の代わりに金貨を詰めた金貨風呂の準備をするかどうか悩んだ挙句、実行に移す。
「Van、見ろっ! お前の好きなリラックスポーズからの……Doubleバイセップスだぞっ!」
Yuumaが優れたBody美を披露するが、やはり反応は薄い。
「くっ、やはり俺だけでは……そうだっ! Vanの【Body World】の中に誰かいないのか!?」
「それが、Ulrika -sanやMari -san達は、冥-chanと一緒にTalosheimに……今いるのは、元Emperor -sanぐらいなの」
「なんてtimingの悪い……! 城からLegion達を引き揚げさせるわけにもいかないし……Bone Manにはmuscleがないし」
そう嘆くYuumaに増援を送るべく、やはりmuscleの無いSalireとRitaが立ち上がった。
『Arthur -sanもSimon -sanも、ポーズ! 私達にないmuscleがあるんですから! ほら、Natania -sanもっ!』
「ええっ!? いや、ポーズったって、四肢がないから……」
『腹筋とか広背筋とか大胸筋とか大-dono筋があるじゃないですか! Arthur -san達もmuscleが見やすいように、服を脱いでください! というか脱げ!』
「ま、待ってください! Salire -san、Rita -san、未成年もいる前で下着姿になれだなんて――」
『Arthur -san、誰が下着姿になれと言いました!? 全部です!』
「そ、そんなご無体な! patienceしてください!」
「に、兄-sanっ! 逃げてっ! 今の内にっ!」
「ひぃっ!? 師Artisanっ! 起きてくれぇぇぇ!」
「Rita -san、Salire -san、落ち着いてください! Vandalieu -sanも全裸はdemandしないはずです!」
だが、RitaとSalireはVandalieuの今までそうなかったconditionに、ほぼ我を失っていた。その彼女達からArthur達の柔くない肌を守るため、MiriamやKariniaが立ちはだかる。
『ほ~ら、Bocchan、paradeですぞ~』
「ギシャギシャギシャ」
「キュイィィ」
『キーラキラ、Killerキキラ、俺キラキラ!』
『アババッバババッバババ!?』
『Kimberly -sanっ! Orbia -sanに漏電してます!」
『アバババッバアババッバ!?』
『そのKimberlyも漏電で自分の一部が強制的に流れ出るshockで、動けなくなっているようですな』
「ううん、歌っても声がOrbiaとKimberlyのscreechにかき消されますね。やっぱり、準備と打ち合わせなしにやるもんじゃありませんでしたね」
ホールに【Size Alteration】や【Shrink】skillで適度に小さくなったSamやPete、Painを、BellquertやPrincess Levia達Ghostが電飾代わりに飾った、見かけは豪華なparadeを室内で行う。そしてSamのCouch Driving台に乗ったKanakoが歌うはずだったが、ぶっつけ本番で行ったため、KimberlyとOrbiaがぶつかって漏電するなどのtroubleが起きて上手くいかなかったようだ。
ちなみに、Silkieも室内を豪華仕-samaに模-sama替えするなどしているが、今の段階では成果をあげていなかった。
「旦那-sama、私のbloodを飲んでください。少しは良くなるはずです。それに、わ、私のtailも好きにして構いませんから」
「わ、私のbloodも……ああ、どうしましょうっ!? 私ったらtailが無いわ!」
「お母さまは止めてっ! anemiaで倒れちゃうからっ! それにtailは無くていいのよ!」
「お嬢-sama、なら私のbloodを。一応鍛えていますから、奥-samaよりも丈夫です」
「Maheriaもダメよっ! そもそも今のVandalieuって何か飲めるのっ!?」
「この中で存在感を出していくのは、なかなか難しそう……」
「Zohnaッ、何をしているんですか、あなたもparadeに参加するんです! lessonはもう受けているんですから!」
「うええええっ!? まだ始めて一か月も経ってないですよっ!?」
「観客は身内だけだから心配無用っ!」
我が身を供しようとするBellmondに、続こうとして愕然とするAmelia。その母を止めようとするElizabethに、なら自分が代わりにと言い出すMaheria。そしていち早く距離を取ったはずのZohnaは、Kanakoによってparadeへ強制参加させられていた。
『あ゛ぁぁぁぁ!』
『俺達も、何か……しなければぁ』
『ぎしぃぃぃ』
そしてlivingに入ってくるBlood SuckerやJubokko達。
その日、Silkie Zakkart Mansionの内部はVandalieuを励ますためのpartyが即興で催されたのだった。
もし城にいたLegionやBone Man、Braga達がここにいれば、Silkieの防音Abilityでも近隣住民に騒ぎを隠蔽する事はできなかっただろう。
Rokudou HijiriがVandalieuの隙を突けるとしたら、この瞬間だったかもしれない。
なお、Vandalieuは極度のstressで倒れただけだったので、一時間後にはrevived。