「やはり、Duke閣下が直接見舞うのはやめた方が良いのでは? 外聞にも関わりますし……」
「それはダメだ。appointmentを取っておきながら私が行かないのでは、それこそ外聞が悪い。それに、これはまたとないchanceなのだ」
馬車の中でHadros・Jahan Dukeは、反対する秘書官に対してそう語った。
「Alcrem Dukeとそれに仕えるNoble達の得体の知れない変化、Sauron DukeやHartner Dukeの不可解な動き、それにDuke Farzon領に漂うきな臭さ……何より、Telkatanis Prime Ministerやtempleの怪しい動き、それらの真実の一端をVandalieu Zakkartが握っている。
それを明らかにするまたとないchanceなのだ」
「たしかに、Zakkart Honorary Earl 家の者達が怪しいのは事実です。しかし、いくら何でもDhampirの少年如きにそこまでのinfluenceは無いのでは?」
秘書官の意見にHadrosは苦笑いを浮かべて頷いた。
「私も彼が全ての裏にいるとは考えていない。しかし、彼はその一端を知っているはずだ。それを知る事ができれば、今何が起きているのか極めて真実に近いconjectureができるはずだ」
Hadrosは、今worldで何か大きな事が起こっている事を確信していた。敵国の属国であるMirg Shield NationのBoundary Mountain Range遠征の失敗から始まった、数々の不可解な事件。それは先ほど口に出した事だけではない。
HadrosはJahan Duke 家の諜報機関を使って調査を進めたが、それらの事件の真実を確かめる事はできなかった。だからこそ、医療機関という逃げ場の無い場所にいるVandalieuに「お見舞い」という名目で会い、話を聞きだす事ができる機会を逃す訳にはいかないのだ。
「それに護衛は万全だ。そうだろう? 秘書官であると同時に我がJahan Duchyが誇る精鋭『Seven Mountain Generals』の一人でもある『Fierce Mountain Shield General』のLudario、お前を連れてきているのだから」
Orbaum Elective KingdomのDuchyの中でも最も雪深い地にあるJahan Duchyと、海を隔てる北から東に聳える七つの高山。それに例えられた精鋭部隊の一人でもあるLudarioは、溜め息を吐いた。
「Duke閣下、私一人でどうにかなるほど世の中は甘くありません。閣下を逃がすまでの時間稼ぎもできない、そんな強敵はいくらでもいますし、そんな状況に陥る可能性はいつでもあります。
せめて『Seven Mountain Generals』から後二人は連れてきてほしかったものです」
そう言うLudarioはHumanとしては背が高い方だが、百八十弱しかない。二meter半ば過ぎの背をもつGiant raceであるHadrosと並ぶと、遠目から見ると大人とchildに見える。
しかし、実力はappearanceの真逆で、Hadrosをchild同然に楽々と倒す事ができる強者だ。
「それこそ無理というものだろう。後ろの馬車に精鋭のKnightを乗せているのに、それでは不満か?」
「不満です。彼等程度では、私が撤退を提案するときには原型をとどめていない躯となって転がっているでしょう」
「もう少し言葉に気を付けた方が良い。そんな事だから、お前は武官に嫌われるのだ。それに、そろそろ着いたようだ」
Psychiatric clinicの門が門番をしている警備員によって開かれ、Duke 家の二台の馬車が敷地に入る。そして馬車から降り立った瞬間、Hadrosの顔から笑みが……余裕が消えた。
(なんだ、この異-samaな空気は? まるで見知らぬ何者かに囲まれ、見られているような居心地の悪さを覚える。BAKANA、ここはただの監禁施設のはずだ)
Hadrosの認識では、このclinicはただの監禁施設だった。治療不可能な患者を、入院という名目で閉じ込め、素行があまりにも悪く野放しにできないNobleのyoung childやSuccessor争いで敗れた者を死ぬまで幽閉するための場所だ。
そのため現役のJahan DukeであるHadrosにとって恐れるものはないはずだった。
だが、clinicの雰囲気は完全に変わっていた。
「閣下……clinicの中で何かが起きたようです。bloodの匂いなどは感じませんが、尋常ではない異変が起きています。引き返された方が賢明かと」
Ludarioもそう提案してくる。だが、Hadrosは行くべきだと判断した。
「いや、お前がそこまで言うほどの異変が起きたのなら、それを確かめねばならん。他のDuke 家や、CenterのNoble達に先んじてな。
Ludarioはこのまま私の供をせよ、他のServantは馬車の中で待機。私が戻るまで、何があっても外に出るな。Knightの半分はここで馬車を守り、もう半分は一階ロビーで退路を確保だ。……各員の判断で戦闘を行え。責任は私が取る」
「「「御意っ!!」」」
Hadrosはそう命じると、Ludario達はきびきびと動き出した。見舞いの品が入ったバスケットをLudarioから受け取り、先行するKnight達に続いてclinicの中に入る。
足を踏み込んだKnightとHadrosが見た限り、受付とロビーには何も起きていないように見えた。職員達は貴人の来客に対して深々と頭を下げている。
「ヨウコソイラッシャイマシタ、じゃはんDuke -sama。タダイマ、Directorガマイリマス」
受付にいる職員が歪な笑みを浮かべて頭を下げて、そう言う。口の両端を割くように大きく釣り上げ、しかし目は見開いたままという、一目で普通ではないと分かる顔つきだ。
「閣下……今いるclinicのHumanは、全員正気を失い、何者かの支配下に置かれております」
「分かるのか?」
「はい、GhostにPossessionされた者や実体を持たないDemonにBodyを乗っ取られたHumanを見た事がありますが、それに似ています」
そう小声で会話していると、廊下の向こうから見覚えのない男が現れた。Directorは初老の男だったはずだが、現れた男は三十代前後程で、片眼鏡をして整った髭をした痩身の人物だった。
「ようこそいらっしゃいました、Hadros・Jahan Duke閣下。私は当院のDirector代理を務めております、Lucilianoと申します」
そう言いながら、流れるような仕草で一礼した。そのetiquetteの美しさから、彼が高い教養の持ち主である事が察せられる。
「よろしく。しかし、Director代理というのはどういう事だろうか? Directorに何かあったのかね? 私は何も聞いていないが……」
「申し訳ない。Directorは本日体調を崩して床に臥せっておりまして。ちょっと夕食を食べ過ぎたようでして」
「食べ過ぎか……そういう事なら仕方がないだろう」
異-samaな雰囲気のclinicに入ったら、自分達が訪ねる前日にDirectorが食べ過ぎて寝込み、正体不明の代理を名乗る男が出てきた。
これを偶然だとは、Hadrosも考えなかった。一瞬、踵を返して脱出するべきか考えるが、それでは何が起きているのか分からない。
それにHadrosには自信があった。Ludarioが付いている事もあるが、Hadros自身も実はかなりの使い手だ。忌々しくもGiant raceに生まれついたことでBodyはRobust Healthであり、幼少からの訓練によってBClass adventurer並みの力は持っている。いざとなれば、このclinic程度の壁を拳で砕いて脱出する事も容易だ。
だからもしも危険な状況になっても、脱出する事ができるとHadrosは考えていた。
(Dragonの巣に入らなければ、竜の卵は手に入らない。ここは臆さず進むべきだろう)
「そうか。では案内を頼む」
「畏まりました。では、こちらです」
Lucilianoの案内に従って、HadrosとLudarioは患者がいるsickroom……ではなく、何故か職員や医師のroomがある職員棟へ向かった。
「こちらはsickroomではないようですが?」
「その通りですが、今は自由時間でして。し……Vandalieu Zakkart -kunは、中庭にいます」
「自由時間?」
「ええ、患者が自由に院内や敷地内へ出歩く事ができる時間です。いくら当院のsickroomが快適とは言え、外に出て日の光を浴び、適度な運動をしないと健康に悪impactが出てしまいますので。
ほら、Diseaseは気からと……ああ、この辺りでは言いませんでしたか?」
「似た言葉で、健全なBodyに健全なMentalは宿るという言葉はあるな。たしか、Bellwoodが残した言葉だったか……」
「それよりも、その自由時間の制度はいつ頃から採用されたのですか? 私のMemoryには無いのですが」
Hadrosの声を遮って、Ludarioがそう尋ねる。この施設にはJahan Duchyの関係者も利用……問題のある人物を幽閉するのに使っている。Hadrosの叔父……Silkie Zakkart Mansionが幽霊mansionになる原因となった人物の時は、事が大きすぎて隠しきれなかったが。
だが、このPsychiatric clinicの事は医療施設としてではなく監禁施設であると、Jahan Duke 家とDuke 家に直接仕える者達には知られている。
間違っても、患者の心身の健康を維持するために自由時間にsickroomの、それも敷地内とはいえ建物の外へ出歩くことを許す施設ではないし、そうでなければ困る。
「昨日のnightからになります。Director命令でね」
「……閣下」
「いや、まだだ」
このclinicは完全に乗っ取られている。既にDirectorは殺されるか監禁されるかしており、職員達も脅されて従っているか……もしかしたら、変装した患者にすり替えられているのかもしれない。そうconjectureしたLudarioが脱出を促すが、Hadrosはまだ危険は無いと判断していた。
そして窓の無い廊下を進むと、そこでは表情の無い虚ろな職員達が掃除をしていた。異常な事に、DukeであるHadrosを見ても、会釈一つせず虚ろな瞳で見つめるだけだ。
「申し訳ない。彼等は大変憑かれ……疲れておりまして」
「いや、結構だ。仕事の邪魔をするのは、私としても本意ではない」
「Duke閣下の寛大なお心に感謝を申し上げます」
そうして頭を下げるLucilianoだが、HadrosとLudarioは彼がこちらに対してfragment程の敬意も持っていない事を察していた。尤も、そんな事はこのclinicで起こっている異変に比べたら些細な事だが。
「ん? ……っ!?」
何処からか鳴き声が聞こえてきた。そう思った次の瞬間、前方の廊下を何者かが横切った。右側の壁から現れた何かが、左の壁の向こうへすり抜けて消えてしまったのだ。
「お下がりください、閣下!」
「あ、あれはっ!?」
驚愕するHadrosの前へ、咄嗟に出るLudario。
「あれは患者ですよ」
しかし、Lucilianoは立ち止まる-sama子もなく進んでいく。
「か、患者だと!? 壁から壁にすり抜けて移動する患者がいるものなのか?」
「ええ、ご覧になった通りです」
「そんなBAKANA事が……」
「Vandalieu Zakkartが診察し、治療した多重人格を患っている患者ですよ。複数の人格がたった一つのBodyを共有するconditionが問題なのなら、ああして全ての人格が表に出て活動できるようにすればいい。そう考えたようで、そのようにしたそうです」
「き、-kunの言っている事が理解できないのだが」
Hadrosにとって、Lucilianoの説明は理解できないものだった。何故患者のはずのVandalieuが、患者を診察しているのかもそうだが、その結果がひどい。全ての人格が表に出て活動できるようにすればいいと考えたので、そのようにした。全く意味が分からない。
こうすればいいと考えて、できるなら誰も苦労しないのだ。
「たしかにその通りだと、私も考えるのですが……」
そう言いながら歩き続けるLucilianoの周りを、実体のない人shadowが次々に走り抜けていく。左右の壁をすり抜けながら。
「しかし、私もまだ理解できなくてね。後で本人に聞いてみるのが一番だと思いますよ? まあ、説明を聞いても理解できるかは分からないが」
そう言いながら、彼は中庭に繋がる扉を開けた。HadrosやLudarioも、clinicの中庭まではどんなconditionだったのか知らない。
しかし、以前とは全く違う光景が広がっているのだろうという事だけは分かった。
建物に囲まれて薄暗いはずの中庭には、柔らかい陽の光が降り注ぎ、-sama々な花や果物をつけた木が生え、患者だろう数人の男女が楽しそうに設置された遊具で遊んでいる。
どういう事かと上を見上げれば、建物の上部にGiantな鏡が設置されておりそれで太陽を反射して中庭を程よく照らしているらしい。
どうせ建物に窓はないか、あっても極端に小さいのだ。反射させても構わないのだろう。
「閣下、ご注意を」
そしてLudarioに促されてからHadrosは気がついたが、植えられている木は全てmonstersだった。
「Luciliano -kun、中庭に生えている木がmonstersになっているようだが?」
「ああ、あれは不可抗力です。我々も知らない間に、いつの間にかmonstersになっていまして……maybe、昨日のnightの事でしょう。いやー、驚きました」
Hadrosの質問に、全く驚いた-sama子もなく答えるLuciliano。彼も、患者達も、monsters化した樹木に対して危機感を全く覚えていないのが分かる。
「鮮やかな花を咲かせ、-sama々な果物を実らせているので、助かっています。これからは食事に新鮮な果物を使う予定です」
聞き覚えのない声がして驚くと、いつの間にか目的の人物がそこにいた。
「ごきげんよう、Hadros・Jahan Duke閣下。本日はお見舞いいただき、感謝の言葉もありません。粗末ながら席を用意しましたので、こちらへ」
「あ、ああ、歓迎に感謝する。元気そうで何よりだ」
屍蠟のように白い肌に、濁った瞳、生気を感じさせない声。元気そうには全く見えないVandalieuへ心にもない言葉を言いながら、Hadrosは案内されるまま用意された席……中庭のCenterに敷かれた絨毯の上に座る。
「初めまして、Jahan Duke -sama。私は妻のAmelia Sauronと申します」
そしてsimpleで品の良い、しかし Hadrosが今まで見たことがないほど上等な生地で仕立てられたdressを着た夫人の挨拶に、驚かされた。
「……よろしく。ごmasterとこうして会うのは初めてだが、-sama々な偉業を成している彼と話ができて光栄だ」
だが、すぐに彼女があの……Spy達に調べさせて判明した、心をDiseaseんでここに入院しているElizabeth Sauronの母親だと思い出し、冷静さを保った。
「何故、彼女がここに?」
「今は自由時間ですので。それに、夫婦が一緒にいるのは不自然な事ではないと思いますが?」
「……話を聞いた限りでは、彼女はこの場に相応しくないと思うのですが? あらぬ誤解を生むかもしれません。それに夫婦と言っても本物の夫婦では――」
Director代理をself-proclaimedするLucilianoに、とりあえずは常識的な抗議を行うLudario。
しかし、次の瞬間LudarioはWeapon Equipmentを構え、whole bodyを冷や汗で濡らしていた。
「申し訳ありませんが、俺は心をDiseaseんでこのclinicに入院しており、Emotionalにとても不stabilityなconditionです」
Ludarioに対して、bloodthirstを向けながらVandalieuが語り掛ける。
「なので、あまり刺激するような発言はしないよう、配慮していただけると助かると思います。お互いに」
「……部下の非礼を詫びよう。すまない、彼はこういう場所に来るのは慣れていなくてね」
Vandalieuがbloodthirstを向けているのはLudarioだけなので、Hadrosは何も感じていない。しかし、Ludarioの-sama子から何があったのか察してそう詫びる。
「いえ、理解していただければそれで十分です」
「あなた、お仕事の話なら……」
「大丈夫ですよ、Amelia。
それでは、話を伺いましょう。私もJahan Dukeに聞きたいことがあるので、お互いに交互に質問に答えていくというのはどうでしょう? 質問を相手が答えられない場合は、質問を続けるという事で」
「……本来の意味とは違う意味で言葉遊びのようだが、いいだろう。では、まずは定石通り軽い世間話から始めよう。まずは、私の親戚のしたことをお詫びしよう。-kunのTamed Monsterとなっているmansionで出た犠牲者の事だが」
「お気になさらず。Duke -samaのしたことではないですし、もう昔の事です。Silkie達も、Duke -samaの事は特に憎んではいないようです」
「そうか、それは何よりだ」
「俺の方からの質問ですが、昼食は済まされましたか? よければ用意しますが?」
「いや、済ませてきた。気持ちだけいただこう。そういえば、奥方の着ているdressは見事なできだが、何処で仕立てたのかね? 恥ずかしいが、その生地を見たことがなくてね」
「今朝、俺が出した糸で仕立てました」
「……んっ? 言っている意味が分からないのだが……?」
「それで、質問ですが普段通りの口調で話していいですか? 変わるのは一人称ぐらいですが、肩が凝る気がして」
「それは構わない。私も普段の口調で話していいのならね。
それで、さっきの生地についての答えは……?」
「では、実演して見せましょう。ふしゅるるるる」
「口から糸を吐いた!? しかも、その糸が布にっ!?」
そう話しているうちに、Hadrosは次第にVandalieuとの問答を楽しいと感じるようになっていった。途中で立ち直ったLudarioから何度か声をかけられた……はっきりと止められたが、それでもこの問答を続けていた。
「私は、先代Jahan Dukeとその正室との間に生まれた……ふっ、物心ついたときには、自分の生まれに戸惑い、不安でたまらなかったよ」
気がつくと、腹心であるLudarioたちにも明かしたことのない胸の内を打ち明けていた。
「周りの大人は私を見るとひそひそと何事か囁き、他のNobleのyoung childや……bloodを分けたbrothers sistersも私から距離を取る。父は顔を顰め、母は私を責めるように睨むのだ。
幼かった私は、自分が何か悪い事をしてしまったのだと思い、しかし何が悪い事だったのか分からなかった」
Hadrosの悲劇は、atavism……遠い先祖に混じっていたらしいGiant raceのbloodを濃く受け継いでしまった事だった。
父である前Jahan Dukeは妻の不貞を疑い、母は父に疑われるのはHadrosが醜く(Giant raceに)生まれたからだと我が子を憎んだ。
だが、HadrosはGiant raceである事以外は両親やJahan Duke 家の特徴を強く受け継ぎ、母に掛けられた疑いは彼が成長するにつれ薄れていく。だから、Hadros一人が出来損ないと疎まれた。
幼いHadrosは何故自分が疎まれるのか分からなかった。彼は優秀で、勉強もEtiquetteも、Sword Techniqueや馬術、狩猟や芸術でさえ、正室の子として受けた教育によって全て水準以上にできた。
だがfamilyからは褒められも、認められもしなかった。
何故ならHadrosがchildの頃のJahan Duchyは、以前のAlcrem Duchyや現在のHartner DuchyよりもVida's New Racesに対する差別意識が強いDuchyだったからだ。
もちろんOrbaum Elective Kingdomの一部なので、Vidaへの信仰は認められていた。しかし信仰するVida's New Racesは全て労働階Classとされ、住む場所も仕事も制限されていた。
GuardやKnight、官僚、Chamber of Commerceの経営者、そしてNobleは完全にHumanとElf、DwarfのHumanとされるraceのみで構成されていた。
Humanの中にも地位の低い労働階Classの者はいたが、地位の高いVida's New Racesは一人も存在しない。
そんな二分化された社会でHadrosは、Dukeとその正室の実の息子として生まれたのだ。生まれた時はGiant raceとしては極端に小さかった事で、「大きなHumanの赤ん坊」に見えなければ、闇に葬られていたかもしれない。
抑圧されていたVida's New RacesやVida believerのHumanは、Hadrosが成長し優秀さを見せれば自分達の代表のように喜び、Jahan Duchyを変えてくれることを期待した。
だが、その期待が強まれば強まる程、Hadrosが最も評価されたい褒められたい相手である父や母は、Hadrosを将来自分達を打倒せんとする不穏分子のように思い、彼よりもできの悪い brothers達の教育に力を入れ、愛情を注いだ。
その状況が変わるきっかけは、HadrosがAlda templeに入信し、Alda templeの聖典を諳んじるほど学び、Jahan DuchyのAlda Temple Headが称賛した事だった。
その時、初めてHadrosの両親は息子を褒めたのだ。そして彼は、どうすれば最愛の両親やfamilyから愛され、家臣たちの信頼を勝ち取る事ができるのか気がついた。
それからのHadrosは、良きAlda believerとなった。法と秩序を守り、領民を守るためにKnight団の先頭に立ってmonstersと戦い、mountain banditを討伐し、Vampires serving Evil Godsのorganizationを壊滅させ、厳しい雪国であるJahan Duchyの食糧問題や財政を解決するために奔走した。
brothersたちの中には、特に彼のすぐ下の弟や妾腹の兄などは「Vida's New Racesに生まれついたHadrosは、公peerageに相応しくない」と訴えた。しかし、Hadrosは良きAlda believerとして積み上げた実績を持って彼らを叩き潰し、公peerageに就いた。
それから約百年が過ぎ、既に父も母もそして他のbrothers sistersも土の下だ。それでもHadrosは良きAlda believerでいる事を止めようとは思わなかった。何故なら、彼はそれ以外に生き方を知らない。それ以外に、Jahan Duke 家の一員として相応しく在る方法を知らないのだ。
「私は、それに疑問を覚えなかった。意識すらしていなかった。この百年の間に、Amid Empire軍と直接矛を交えた事は何度もある、Giant raceがAlda believerを名乗るのかと侮辱を受けた事は数知れない。
だが、私は我がJahan DuchyのAlda templeの教えこそが、私をHonorary High Priestに任命したtempleの教えこそが正しいAldaの教えだと信じていた! ……それは、間違っていたのか?」
「Vida believerの俺に相談する時点で、相談相手の選択を間違っている気がしなくもないですが……間違ってはいないと思いますよ」
いつの間にかHadrosに両肩をがっしりと掴まれているVandalieuは、やや悩んでからそう答えた。
「間違って、いない……だと?」
「ええ、少なくとも俺はそう思います」
いくらDuke 家、Jahan Duchy最大の権力者の家に生まれたとはいえ、childはchildである。社会体制やfamilyの偏見をどうにかできなかったとして、Hadrosを責めるのは間違いだろう。
childが両親やfamilyからの愛情を求めるのは普通の事で、そのための手段を見つけたのなら、それを実行するのは当然だ。特に、それが自分とfamilyが属する社会で、正しいとされている事なら。
HadrosはAlda believerでReconciliation Factionですらなく、自領ではVida's New Racesに対して差別的な政策を続けている。が、別にVida's New Racesから厳しい税を取っているわけではないし、意味もなく殺している訳ではない。職業や住む場所を制限しているだけだ。
自由はないし、その事で辛い目に遭っているVida's New Racesはいるだろうが、Hadrosは為政者としてVida's New Racesを含めた領民たちを適度に管理し、彼らを活かしている。
「……Vida believerになればよかったとは、言わないのか?」
「あなたがVida believerになっていたら、ろくなことにはならなかったと思いますよ。childの頃なら最悪の場合暗殺されていたかもしれないし、良くてもDuke 家を追放されていたでしょう。
それに、Duke 家を継いだ後は家臣やMarquis以下のNoble達が納得しなかったのでは?」
Hadrosはaptitudeのある人物だが、社会全体を変えるほどの力はない。もし彼がVida believerとして生きていくことを選んでいたら、今の地位にはいられなかっただろう。
それに、家臣やMarquis以下のNobleはVida's New Racesでありながら誰よりもAlda believerらしいから、彼を信頼してついて来ている。その彼がVida believerになったら、家臣やNoble達の信頼は失われる。
実際には彼の人柄やcharisma性に惹かれている者もいるかもしれないが、それはVandalieuには分からない事だ。
「もちろん、俺はVida believerなのであなたにVidaを信仰するよう説きますし、領民のVida's New Racesのためにできる事をします。
ですが、それはあなたが正しいのかどうかとは、別の話です」
「……てっきり、-kunはもっと強引に改宗を訴えると思っていた」
「焼き鏝や杭で改宗を迫ると思われていたのなら、いくらなんでも心外ですね。それはInsanityの沙汰です。
俺は来る者は拒みませんし、去る者には憑い……引き留めますが、最初から来ない者を無理に引きずり込もうとはしませんよ」
どうしてもAldaを信仰したいと主張する者を、Vandalieuは改宗させるつもりはない。関わる時間が勿体ないので、放置する。
『Goddess of Life and Love』Vida本人としては、もっと熱心に布教してほしいかもしれないが、神には神の都合があるように人には人の都合があるのだ。
「では、何故私と話をしているのだね?」
「別にVida believerはAlda believerと口をきいてはならないという教えもありませんし……宗教家の端くれとしては、人の相談を無視するのは問題でしょう」
「人、か。……私は、Aldaを信仰しなければ人として扱ってもらえなかった。Aldaを信仰する事が、人であるために必要最低限の条件だった。
だが、そうではなかったのかもしれない……人は、何を信仰していても人なのだな。ふふふ、ふはははっ、はははははっ!」
そう笑いながら涙を流し始めたHadrosを見て、Lucilianoはいつの間にか絨毯に座ってAmeliaが淹れた紅茶を飲んでいるLudarioに話しかけた。
「-kunの上司は、だいぶ溜まっていたようだね。師Artisanが塩水漬けにされそうなほど泣いているよ」
「そのようですね。originally生き急いでいるような方でしたが……ところで、あなたはDirector代理では? いつから患者のpupilsになったのですか?」
「accurateには、患者のpupilsがDirector代理をしているのだよ」
「そうでしたか」
当初考えていた予定は、Hadrosがいつの間にか胸の内に澱のように溜まっていたものを吐露した事で、ご破算になった。Vandalieuを過度に警戒する必要がない事が分かったのは収穫だったが。
「それで、-kunはこれからどうするのかね? Alda believerだろう?」
「それはそうですが、Jahan DuchyのAlda templeはVida's New RacesやVida believerを、上司にしてはいけないとは説いていません。
それに、私はClericやPriestではありません。しがない勤め人です。上司についていきますよ」
しがない勤め人の中にも、信仰のためなら今の生活や収入、親brothersや妻や子を投げ捨てる者もいるかもしれない。だが、少なくともLudarioはそうではない。
「もしかして、こうなる事を読んだうえでDarcia・Zakkart Honorary countessは、Dukeのアポを認めたのですか?」
だとしたら恐ろしい、Abyssにも似た叡智だが……。
「いや、師Artisanもその母上も深い事は何も考えていなかったと思うよ。Jahan Dukeに興味はあったようだから、この機会に会って話を聞きたいと思っていただけではないかな?」
そうではないようだ。Ludarioは紅茶の香りで鼻孔を満たし、肩から力を抜いて応えた。
「そうですか……とりあえず、閣下があの-sama子なのでこちらで話を進めましょう。Sauron Duchyに関しては彼女でだいたい分かったので、Telkatanis Prime Ministerが【Demon King Fragment】を集めている事について聞いてもいいですか?」
「ふむ、その話を詳しく聞かせてもらえるかね? っと、師Artisanも言っている事だろう」
「ふふふ、さすがあなたね。もうJahan Duke -samaとあんなに仲良くなって」
VandalieuはAmeliaに見守られながら、Hadrosの腕の中で【Demon King Fragment】について興味深い話を聞いたのだった。