「Mashkzarが逃亡したのか!? 誰の仕業だ!? 見張りの連中は何をしていた!?」
Amid Empireの城の玉座の間に、妙に甲高い怒鳴り声が響いた。
怒鳴り声の主は新Amid Empire Emperorの座に就いた、Iristel Duke 家の長男、Salazar・Iristelである。
「どうやら『Storm of Tyranny』の仕業のようです。『Fifteen Evil-Breaking Swords』からの報告によれば、前Emperorは拉致されたようです」
「ひっ! Schneiderかっ!? こ、この城の守りは万全であろうな!?」
「certainlyでございます、Emperor陛下! この城の守りは万全です! 偉大なるAldaに選ばれたEmperor陛下を傷つけられる者など、存在いたしません!」
Schneiderの名を聞いた途端、見苦しいほど怯えて玉座から落ちそうになるSalazarを、秘書官という役職名の太鼓持ち達が宥めにかかる。
しかし、それもSalazarの青ざめた顔にcomplexionを取り戻させることはできなかった。
「Adventurer’s Guildは何をしておる! 奴をどうにかできんのか!? 神's Divine Protectionを受けたHero達はどうした!? 『Fifteen Evil-Breaking Swords』は!?
Alda Grand Templeは何をしているのだ!」
喚き散らすSalazarを落ち着かせようと懸命に宥める秘書官達。Salazarも分かっていた。自分が言っているのはidiotげた事なのだと。
Mashkzarが帝位にいた時も、Schneider率いる『Storm of Tyranny』には手を焼いていた。その状況が、自分がEmperorになった事で変わる訳がないのだ。
たしかに、Adventurer’s GuildのAClass adventurer達や神's Divine Protectionを受けたHero達、そして『Fifteen Evil-Breaking Swords』にAlda Grand Templeの戦力を結集させれば、Schneiderを倒せるかもしれない。しかし、どうやって結集させるのか?そして結集した戦力をどんな方法でSchneiderにぶつけるのか?
それはいくら考えてもSalazarには分からなかった。……そもそも、それを実行する権限は彼には無いのだが。
「クソっ、何が神に選ばれた、だ……余を選んだのは神ではなくtempleであろうが!」
Salazarには十分な知識と経験、そして才覚がある。……Iristel Duke 家の当主を継ぐには。
Iristel Duke 家は、Marme Duke 家と同-samaに建国以来Amid Empireを支えてきた大Nobleで、当主は帝位継承権を持つ。領地があるのはEmpireの西側、属国であるGrain Nation Yondoとの国境を接する地域である。
Grain Nation Yondoとは、広大な耕作地を持つFarmingに適した国であり、Empireのstomach袋を満たす食料をProductionしている属国だ。つまり……Iristel Duke 家は平和な、脅威となる敵国とは遠い地に領地を持つNobleなのだ。
そのIristel Duke 家を継ぐはずだった長男のSalazarは、Iristel Duke 家を運営するには有能な人物だった。だが、Empire全体を治めるEmperorとしての才覚は無かった。
そして、それは今のEmpireの上層部とAlda Grand TempleのCardinal以上の者達、全員が知っていた。それでもSalazarをEmperorにしたのは、彼が傀儡として都合が良かったからである。
(クソっ、余が政治の都合でEmperorにされたのは、余自身が一番分かっている! Marme Duke 家から新しいEmperorを出すと新PopeのEileek・Marmeとの関係があからさますぎて、人心が離れる。かといって他のDuke 家はMashkzarとの関係が深い、それで私が選ばれた! 毒にも薬にもならない、都合の良い傀儡として!)
苛立ちを玉座の肘掛けにぶつけるが、拳が痛くなるだけで何の意味もない。今の自分は、Grand Templeの意向を軍やKnight、そして『Fifteen Evil-Breaking Swords』に伝える伝書鳩に過ぎない。
「ですがお喜びください! KallahadのPeria templeの反乱分子の捕縛に成功したと報告が届いております! 大監獄に幽閉するため、現在護送中との事です!」
「やかましい! fanatic共の末路など、余の耳に入れるな! Grand Templeに直接伝えればよかろうが!」
最近、『God of Law and Life』Aldaと同じGreat GodであるPeriaやBotinが、汚らわしいVida’s Divine Protectionを受けたHeroだか聖人だかによって解放されたと、正常なAmid Empire民にとってはInsanityの沙汰としか思えない主張を訴える者が出ている。しかも、それまで信心深い、立派な人物とされていたClergymanが秘密裏にその主張を広めているので質が悪い。
そうした者達をAlda Grand Templeの意向で、反逆罪で捕えるようSalazarが命令を出していた。
(いくらfanaticとはいえ、哀れな。Grand Templeもそこまでnerve質にならずとも良かろうに。PeriaやBotinも、何故自分達のbelieverに、Oracleで真実を伝えない? それとも、狂ったTemple Head達はoriginally Oracleを受け取る事ができない、生臭坊主の類だったのか?)
自身もGodsの長である『God of Law and Life』Aldaと、その姉にしてImoutoであるBotinへの祈りを欠かさなかったSalazarは、bloodを吐くような気分で溜め息を吐いた。
このままでは、自分はAldaによって行き過ぎた権力を握ったAlda Grand Templeの犬として、Empire史上最も愚かなEmperorとして歴史に残る事だろう。だが、それをどうにかする手段は彼の手にはない。
「……反逆の首魁であるTemple Head以外の者、ただTemple Headの言葉に惑わされた者には慈悲を持って扱うようにと伝えよ」
「陛下、しかしそれはAlda Grand Templeの――」
「余の言葉に逆らうか!? 貴-samaも監獄に入りたいか!?」
「ひぃっ!? 畏まりましたぁ!!」
できるのは、こうしてcivil officialに当たり散らしながら、気休め程度にしかならないだろう命令を出して自分の罪悪感を紛らわせる事だけだ。
「ええいっ、気分が悪い! 酒だっ、酒を持て!」
そして酒でSchneiderにいつか殺されるのではないかというhorrorと、自身の無力感を紛らわせながら、内心でGodsに向かって唾を吐く。
Amid Empireの帝室の権威は、Mashkzarの退位からまだ数年と経っていないというのに、驚くほど堕ちていた。
その頃Orbaum Elective Kingdomの首都、OrbaumのHero Preparatory Schoolでは、提出された書類の内容を見たMeorilithが胡乱気な顔をしていた。
「一週間ほど入院する? 当校は単位制だから問題はないが……あのclinicに入院するのか!?」
Elizabethの母親が入院しているclinicの事は、Meorilithも知っていた。正式名称はPsychiatric clinicだが、同じ名称の施設がないため、そして誰もが口にするのを避けるようになったため、今ではclinicとしか呼ばれない施設だ。
そこでは「狂っている」とされた者が入院……幽閉され、その後出てくることはほとんどない。Meorilithも著しい問題を起こしたNobleのyoung childや、ときには当主が入院させられ、そのまま社会から忘れ去られていったのを知っている。
尤も、実際には退院した者がいる事も知っている。……familyからの寄付が途切れて放り出された患者や、familyが治療を諦めて引き取った患者等だが。
しかし、そうした例外を除けば生きて退院した者はいないとreputationの施設だ。
「一週間と期限を区切っているからには、目的があっての事だろうが……あのclinicの中で何をするつもりなんだ?」
「知らん。書類を提出しに来たPauvinaに聞いても、何も話さなかった。ただ……」
Meorilithに問われたRandolphは、溜め息を吐いて続きを答えた。
「きっと、治療行為だろう。Alcrem DuchyのMoksiの町に潜入した時に調べた情報だが、俺が殺すのを止めた生きる屍になった女を、奴は数時間で会話できるほどにまで回復させたらしい」
Minotaurに囚われていたJuliana Alcremの事を話すRandolphに、Meorilithは胡乱気な顔つきのまま更に問いかけた。
「それは……良い事だな。完治が難しい患者を治すのだから。だが、Vandalieuにそれが可能だったとして、何故そんな事をこの時期に行う? 別に文句があるわけではないが、一週間でできるのなら、学校に入学する前に済ませても……いや、卒業してからでも構わなかったろうに」
MeorilithはElizabethの母親がclinicに入院している事を知らない。OrbaumのNoble達にconnectionを持つ彼女だが、諜報機関の真似事をしているわけではないからだ。調べようと思えば調べられるだろうが……生徒の秘密を全て探り出す必要はないし、そうする事で「生徒の弱みを探り出して、何か企んでいる」とNoble達に認識されるのは不利益しかない。
「さあな。だが、良い事かは分からないぞ。これがDiseaseやinjureならともかく……心は他人の目にも、そして患者本人も見えない。壊れた心が治ったのか、それとも別の形に壊されただけか、判別がつく奴があのclinicにいるとは思えない」
Randolphはそう言って、疲れたような溜め息を吐いた。
「別にVandalieuを信用していないわけじゃない。仮にも生徒だからな。滅多なことはしないだろうが、面倒な事になるはずだ。
お互い、今から覚悟しておいた方がいいだろう」
短い診察の後、Vandalieuが通されたsickroomは、扉が分厚く鍵も厳重であり、内側から開くことができない。覗き窓はあるが、それも内側からは開けられない構造になっている。それ以外は、Nobleの私室だと言われても不自然ではない豪華なものだった。
柔らかそうなベッドに、上質な木材を使っている机や椅子、衣服を収納するためのdresser。窓には鉄格子が嵌まっているが。
『ここにいるDoctorをself-proclaimedする者達の眼は、腐っていますな。Vandalieu -samaを狂人扱いとは』
『き、きっと、俺達の事が見えたとしても、狂人扱いするに違いないぃ! 狂っているのは奴らの方だぁ!』
応接室でくねくね踊っていた光る人達の内二人、Light AttributeのGhostである『Fighting dog』のDarockと、『Lunatic Dog』のBellquertは憤慨した-sama子で口々にPsychiatric clinicのDirectorと、Vandalieuを診察した医師を罵った。
「まあまあ、誤診するように誘導したのはこちらですから。……診察した専門家の医師の態度はどうかと思いますが」
Alcrem Dukeに書いてもらったintroduction状を目にしたDirectorが、入院を許可したのは当然だ。しかし、その後自分を診察した医師が、「か、完全に正気を失っている! 手の施しようもない!」と叫んだ事に対しては不満を覚えたVandalieuだった。
一目見ただけで、演技も何もしない内に狂人扱いとはどうなのか?
「あれでは俺が本当に正気を失っているようではないですか。そう思いますよね?」
『いやはや、全くですな』
『そうですよね。見ただけで腰を抜かすなんて』
『【Spiritualist】かもしれないって思われなかったのは、好都合だけど』
Darockのように、ChipurasやPrincess Levia、そしてOrbiaもVandalieuの言葉に同感だとnod。なお彼らはlevelの差はあるが、全員【Mental Corruption】skillを持っている。
『素行が悪すぎて放置できないNobleのyoung childなんかを、死ぬまで飼い殺しにする施設としても使われているらしいんで、専門家といっても名ばかりなんじゃないですかね?』
そう言うKimberlyも【Mental Corruption】skillを持っているのだが、自分やVandalieuが正しい意味で「狂っている」とは思っていない。
良い意味で、crazyだとかcrazyてるとは思っているが。
『ところでボス、ここに入ってするのはあの子の母親の治療だけですかい? この施設、かなりきな臭いですぜ。まあ、Empireにも似たような施設はありましたがね』
「治療はしますが、Kimberlyが言うようにこの施設は良くない噂も多いですから、それも調べましょう」
Kimberlyが言うまでもなく、少し調べただけでこのclinicの良くない噂を聞くことができた。噂は噂だが、火のないところに煙はたたないとも言う。
「ここは、直接入った方が調べやすいですからね」
腐ってもclinic……職員にも患者にもその意識は薄いが、templeの系列施設である。おそらくtempleの方でも、organization下に変な施設をくっつけられたという程度にしか思ってないだろうが、体裁だけは整えられている。
alcohol Disinfectでもするように定期的に聖水を撒いたり、岩塩でできた神の聖印を施設の隅に置いて簡易的なBarrierを張ったり、霊に対する対策が行われている。
そのため、weak霊は出入りできないのだ。
「俺の演技を見破る……どころか、演技をする前に狂人だと決めつける等、この施設の治療水準は信用できません。Ameliaに与えている薬にしても、もしかしたら悪化させる成分が含まれているのかも」
clinicに患者の治療に真剣に取り組んでいるDoctorがいたら、激怒するか膝から崩れ落ちるだろう事を言うVandalieu。しかし、この場で彼の言葉に反論する者は存在しない。
Vandalieuの背後のspaceの狭間に潜むGufadgarnは【Mental Corruption】skillを持っていない。しかし『Evil God of Labyrinths』である彼女は、人と大きく異なる存在だ。健常という言葉が表すMental conditionが、人と異なりすぎているのだ。
「では、まずはAmeliaの所に行きましょうか。留守番を頼みますね」
Vandalieuのshadowから、どろりとした何かが溢れ出した。
数人のclinicの職員達……Vandalieuが草むしりをするのを見張るはずだった男もいる……は、Vandalieuのsickroomの前で見張りに立っていた。
ただ見張っているのは、sickroomに誰も入らないようにするためではない。sickroomからVandalieuが抜け出さないようにするためだ。
「……なあ、俺達っている意味あるのか?」
「愚痴を言うな。ウザってぇ」
「愚痴でも言わないと、やってられねぇよ。こんな仕事」
ただ、その勤労意欲はやはり低かった。なぜなら、彼らにとってVandalieuを見張る意味が理解できなかったからだ。
この施設のsickroomは、監獄としても通用するほど頑丈に作られている。扉と壁はCClass adventurerでも破れない。
壁や床、そして天井に使われている石材は普通の石ではなく、高度なEarth-Attribute Magicで圧縮した鉄より硬いEnhanced (1)石材。柱は木材ではなくObsidian Iron製。そして壁紙の下には対magic防御を高めるために、特殊な染料でmagic陣が描かれている。
そして扉は壁よりも更に頑丈で、Minotaurが体当たりを繰り返してもビクともしない。鍵だって、一流の職人とalchemistに作らせた一Class品だ。
Vandalieuはsickroomの内装や設置された家具を見て、Nobleの私室と評したが、実際にはNobleの私室以上の金が使われている。そのため、面会に来たfamilyが逃がすか、職員と通じでもしていない限り、患者がsickroomから勝手に出たことはない。
それを職員達は知っていた。
だから、彼らは自分達が見張る必要があるとは思えないのだ。
「そもそも、お前が見張りをさぼったりしなければ……」
「仕方がないだろっ! 誰がcrazyた奴らに好き好んで関わろうとすると思うんだよ!」
彼らが見張りをさせられているのは、昨日の一件と、DirectorがRimsand EarlからAmeliaに接触させるなという要望を覚えていたからだ。
「それに、昨日とは状況が違うだろ!」
たしかに、昨日はいつの間にか中庭から施設の中に入り込んでいた。恐らく、sickroomにも入っていただろう。しかし、それは見舞いに来ていた彼と知り合いの訪問者(ElizabethとMaheria)が中に入れたからだろうと、彼らは考えていた。
「まあ、たしかにそうだが……相手はHero Preparatory Schoolの生徒で、今も何かと噂になっているDhampirのTamerだ。Directorが警戒するのも、無理はないんじゃないか?」
「ああ、しかも昨日の今日だからな。何か企んでいると思うのが自然だろ」
「そうかな、あの女に入れ込んだだけかもしれないぜ。年増だがなかなかの美人だ、俺が担当だったら『今日の薬です』って言って一服盛って、頂いちまうんだがなぁ」
「……あのDhampirの小僧より、こいつを見張るべきなんじゃないか?」
「いや、あの患者なら一服盛る必要はないだろ。完全にcrazyてるぜ。一度、『今帰ったよ』って夫のふりをしてsickroomに入ったら、『おかえりなさい、あなた』って歓迎してくれたぜ」
「な、なにっ!? やったのか!?」
「やるつもりだったが、あの女と話しているうちに怖くなったから紅茶をご馳走になっただけで、すぐsickroomを出たよ。あの女、俺に話しかけているはずなのに、俺を見ていないし、返事もろくに聞かないまま会話を続けるんだぜ? 今思い出しても寒気がする」
「もう人の見分けもついてないのか。あの女にとっては、それらしい事を言う男は全員愛しの『あなた』に見える訳だ」
「しかも、誰もいないときは見えない何かを『あなた』って呼んでるようだしな。全く哀れだぜ」
「いいな。じゃあ俺も今度愛しの『あなた』になってくるか」
「気をつけろよ。そう言う患者は突然『あなたは誰!? 私の夫じゃない!』って言いだして、暴れだすんだぜ。噂じゃあ十年前、女の患者に手を出そうとして、食事用のknifeで目を刺された奴がいるらしい」
「うわ、怖ぇ。やっぱり金を払っても娼館でまともな女を抱いた方が良いな」
そんな下世話な雑談を続ける内に、職員の内一人が「時間だ」と呟いた。そして、彼はノックもせず扉の覗き窓を開ける。
『……』
覗き窓からは、ベッドに腰かけてこちらを見つめ返すVandalieuの姿があった。
「こんにちは、何かご不便はありませんか?」
優しい職員らしいSmiling Faceと柔らかい口調で尋ねる。するとVandalieuは、無言のままだったが首を横に振った。
「そうですか。何か必要なものがあったら遠慮せずおっしゃってください。もう暫くしたらお食事を持ってきますので」
男は、そう言って覗き窓を閉じた。
「……よし、問題なしだ」
「要注意人物であると同時に、Alcrem Dukeからのintroduction状付きのVIPだってのが面倒だな」
不必要なほど厳重に見張りながら、同時に貴人として扱い続けなければならない。この施設にとってVandalieuは面倒な患者だった。
『ぶぐるるるるるぅ』
そして、実はVandalieuはもうこのroomにはいなかった。
『るぅぅぅ。職員の中に、危険人物がいる。注意が、必要』
「ああ、だけどsickroomの中からじゃ声しか分からないな。外に出て、顔を探ってくるよ、Kühl」
『頼んだ、Ghost』
そして、roomの中にいるVandalieuでない存在は、一つではなかった。
『任せろ……隙間を通るのはお前と同じくらい得意だ』
黒人の青年の姿をしたLegionを構成する人格の一つであるGhostは、どろりとした肉の塊の姿に戻り、roomの細い通気口から外に出ていく。
『特に、最近は細長くなるのが得意になった。丁度いい』
【Golem Creation】でsickroomの天井や壁をGolemにして形を変化させ、Vandalieuは二階にあるAmeliaのsickroomにたどり着いた。
途中、道草を食って友達を増やす事になったが。Gufadgarnに【Teleportation】させてもらえば良かった事に気がついたのは、彼女のsickroomに辿り着いた瞬間である。
「まあ、今日は壁からなんて、驚いてしまったわ。でも、どうして扉から入らないの?」
「ここの職員の人達にばれると、怒られてしまいますからね」
嬉しそうに微笑むAmeliaに、そう答えるVandalieu。患者同士が会うのはcertainly、他の患者のsickroomに入る事もこのclinicでは禁止されている。
「そうね、面会時間はすぐ終わってしまうものね。ElizabethとMaheriaも、それですぐ帰されてしまうのよ」
それをAmeliaは、面会時間の事を言っているのだと解釈したようだ。
「じゃあ、誰か来たらベッドの下やclosetの中に隠れるの? うふふっ、まるでchildの頃に戻ったみたいね」
「そうしましょう。大丈夫、かくれんぼには自信があります。それでAmelia -san」
「あなた、Amelia -sanだなんて……他人行儀だわ。Ameliaって呼んで」
「……Amelia」
脳内で怒ったElizabethに両頬をこれでもかと抓られる自分を想像しながら、Vandalieuがそう呼ぶと、Ameliaは花のような笑みを浮かべた。
「なあに、あなた?」
「昨日は突然帰ってしまってすみませんでした」
「あなたったら、今日はそればっかりね。気にしないで、私もあなたの妻ですもの。あなたが忙しいのは分かっているわ」
そうAmeliaは答えたが……Vandalieuが彼女の前に現れたのは、ついさっきである。
Vandalieuは、自分の代わりに謝罪をしてくれた「あなた」に感謝しながら、会話を続けた。
「ありがとうございます、Amelia。でもあなたの理解に甘えすぎては、良い夫とは言えませんね」
「良いのよ、無理に良い夫になろうとしないで。私は、良い夫じゃなくてあなたを愛して結婚したのですもの」
「ありがとう、Amelia。一つ、お願いしてもいいですか?」
「なあに、あなた?」
「抱きしめてください」
すっとVandalieuが両腕を広げると、Ameliaは満面の笑みを浮かべて椅子に座ったままだが抱きしめた。
「あら、なんだか良い香りが……」
「きっと、香の残り香でしょう」
Vandalieuはtongueから感覚を鈍くするweak毒を気化させ、麻酔代わりにしながら抱き合っているAmeliaの体を診察した。【Spirit Form Transformation】させた体の一部を伸ばして、体の中から彼女に何か異常が起きていないか探る。
(Bodyの衰弱は、運動不足によるもの。boneやmuscleが弱くなっているのも、そのせい。もっとSunlightに当たった方が良い……内臓、異常なし。nerve、機能的には異常なし。心lung機能、異常なし。
脳は……異常あり?)
Ameliaのconditionはざっと調べただけだと、sickroomに監禁されているfemaleとしては健康な方だった。体から毒物も検出できない。
どうやら、毒を消す【Disinfect】のmagicをかけるだけで正気に戻せるような、簡単な話ではないようだ。だが、ただの心のDiseaseではなさそうだ。
(脳のMemoryに関する機能と、認識力が不自然なほど弱まっている。Mentalではなく、脳の機能として弱まっている。その結果、Mentalにimpactが出ているのでしょう。
つまり、薬がAmeliaの心のDiseaseを悪化させている。……治療には時間がかかりますね)
Ameliaの脳の機能を回復させても、それは壊れたMemoryが戻る事には繋がらない。Memoryが壊れたまま機能が回復し、それ以後はMemoryの改変や誤認をしなくなるだけだ。そして認識力が戻れば、「あなた」はもう見えなくなる。
その結果、AmeliaのMentalは現実を受け入れられず、Decayしてしまうかもしれない。
(まず、Mentalをstabilityさせる。それから脳の機能を徐々に回復させる。そして、これ以上薬は飲ませない。
……一週間で治るでしょうか?)
これから一週間でAmeliaの治療はcertainly、彼女が飲んでいる薬を調べ、clinicを調べ、このsickroomに来るまでに増えた友達も治療しなければならない。同時に、汎用Transformation Equipmentの量産やDianaのTransformation Equipmentの仕上げ、そしてMashkzarを監禁するための施設を作らなければならない。
大忙しだ。
(もう、Mashkzarの監禁施設は本人に建ててもらっていいでしょうか? 【Body World】の一つに、材料とCarpentry道具だけ置いて。
彼も俺と同じEmperorなら、それで十分でしょう)
さすがのVandalieuも、思わずそんな事を考えるほどの過密scheduleである。
その時、ドアがガンガンとノックされ、すぐに覗き窓が開いた。
「奥-sama、昼食のお時間です」
「あ……ありがとう」
職員は頬の赤いAmeliaを少し奇妙そうに見つめていたが、あまり気にせず扉を開くと、昼食が乗ったwagonを運び入れ、tableの上にそれを手早く並べた。
「では、後程片付けに参ります」
そう言って職員が出ていくと、Ameliaはほっと息を吐いた。
「あなた、行ったみたい」
「ええ、barelyでしたね」
そう答えながら、天井に張り付いていたVandalieuは音もなく床に着地した。
「では、一緒に食べましょうか。……この食事ではなく、こっちの食事を」
Vandalieuは念のために【Body World】で用意していたCookingを取り出し、薬が入っているかもしれないCookingと取り換え始めた。