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Chapter 331: 横たわるEmperorと這いよるEmperor

 急を要する要件がある。そうSchneiderから呼ばれたVandalieuは、Vida's New Racesbelieverを匿う隠れ里でとんでもない存在を押し付けられた。

「こいつ拉致してきたから、任せていいよな。ありがとう、助かるぜ、この借りはいつか返すからな」

 そう言うSchneiderの前には、目隠しに猿轡をされた上に縄で肩から爪先までぐるぐる巻きにされ、ミノムシのようになったHalf-Elfが転がっていた。


 そして、Schneiderの周りには苦笑いを浮かべるDaltonと、頭を下げたままのLissanaZorcodrioMeldinの姿がある。

「いきなり任される事が決まったようですが、誰なんですか、これ? あなたがこんな扱いをするという事は、悪い意味での大物だとは思いますが」


 Schneiderは一般には物騒で無類の女好きだが曲がったことはしない、無頼な好漢という風に知られている。そしていざこざを起こして飲食店等に出した損害はきっちり(相手から毟り取って)弁済するし、femaleに無理強いをするような事もない。


 そしてVandalieuは実際に彼の人柄も知っているので、彼は意味もなくこんなことはしないと分かっている。だからこんなことをする意味があるのだと理解していた。


「誰だと思う?」

「そうですね……前Emperorの親類ですか?」

 皇位から退けさせられたMashkzarの親類……息子の誰かなら、わざわざ生け捕りにして連れてくるだけの価値と、Schneiderに簀巻きにされる理由がある。


「惜しい! 正解はMashkzar本人だ」

「本人でしたか。それは予想外でしたね……事前に連絡をしてくれても良かったのでは?」

 Vandalieuも、さすがに本人が転がされているとは思わなかった。


「いやまあ、時には拙速が功を奏する場合があるだろ? そんな状況だったのさ」

 Schneiderの言葉に、Vandalieuは「なるほど」と納得した。Mashkzarが監禁か軟禁されている施設の情報を掴んだSchneiderは、相手がそれに気がついてMashkzarを移動するか、いっそ始末する前に拉致する必要性に迫られたのだろう。


 Mashkzarは、VandalieuSchneiderの共通の敵だ。しかし、彼をその場で殺さず生死不明のまま拉致する事で、新たなEmperorに代替わりしたばかりの不stabilityAmid Empireを動揺させる事ができる。

 帝位を退いたといっても、それは円満なものではない。Alda templeの新Pope Eileekが主導した、信仰的Coup d'étatというべきものだ。


 Mashkzarを慕うNobleや商人はまだいるだろうし、今回の件でMashkzarが逃亡に成功し、再び帝位に返り咲くため力を蓄えていると考える者も多いだろう。

 そして新Emperorに従う者は、Mashkzar派と呼ぶべき反乱分子を抑えるのに手を割かなければならなくなる。

 それを狙ったのだろう。


「いや、それは嘘だからな」

「そうねぇ。『Fifteen Evil-Breaking Swords』の動向を探っていたのまでは本当だけど」

「その後、『Fifteen Evil-Breaking Swords』の連中が守っている施設を見つけて、『何かあるに違いない』って殴り込みをかけたら、こいつを監禁していたmansionだったの」

「誠に申し訳ございません」


 だが、DaltonLissana、そしてMeldinZorcodrioによってそれはVandalieuの買い被りだったことがはっきりしてしまったのだった。


「……『自分で面倒を見切れないなら、拾ったところに返してきなさい』と言いたいところですが、重要人物ですからね。

 この場で殺して死体をLife-deadに加工するとかじゃ、ダメですか?」


「それでも俺は問題ないが、そうするか?」

「ふーむ。……いえ、暫くの間は生かしておきましょう。何かで必要な事があるかもしれませんし。では、監禁用の施設を作るので、暫く世話をしておいてください」


Vandalieu -dono、できれば――」

「分かっています、師ArtisanSiegとは絶対に会えない場所で監禁します」


 そう言うと、VandalieuMashkzarを放置して帰る事にした。彼は、Mashkzarに意識があり、自分達の話を聞いている事は理解していた。ただ単に、Mashkzarの心境を考慮する必要を感じなかっただけだ。


 これまでVandalieuMashkzarと直接相対したことはないが、母であるDarciaが火炙りの刑に処せられた法の下でAmid Empireとその属国を治めていた当人である。さらに、その後Boundary Mountain Range内部への遠征をMirg Shield Nationへ命じ、当時占領下にあったSauron Duchyへ『Fifteen Evil-Breaking Swords』に所属する『Five-headed Snake』、『Light Speed Sword』、『King Slayer』、『Insect Army』の四人を派遣した。


 ……そのうち『King Slayer』は、旧Scylla Autonomous Territoryで『Neck-Hunting Demon』として、『Insect Army』はTalosheimの養蜂場や、芋虫養殖場で活躍しているが。

 それはともかく、Mashkzarも仇である事に変わりない。VandalieuHeinz達ほど殺す必要を覚えないのは、彼が「元Emperor」で、しかも Schneider達に確保されているからだ。


 権力の無いMashkzarは、既にVandalieuにとっても、彼が大切だと感じる存在達にとっても敵ではない。邪魔になれば、自分自身やSchneider達がいつでも軽く踏み潰せる。

 だから、利用価値がある間は生かしておくべきだと思ったに過ぎない。


「どうだ、当人に会った感想は?」

 猿轡と目隠しを外してそう尋ねたSchneiderに、Mashkzarは溜息を吐いた。

「目隠しに猿轡をされたconditionで、会ったと言えるのか?」


idiot言え。あれはせめてもの情けってやつだ。お前がBAKANA事を言わないようにしてやったんだよ」

 床に転がったままのMashkzarに、心外だと言わんばかりにSchneiderが言う。それに対してMashkzarは、その通りだと内心では納得していた。


 なんとなくだが、あの時Mashkzarがどんな事を言っても……黙ったままだったとしても、Vandalieuの苛立ちを煽る結果になった。そんな気がするからだ。




「じゃあ、この辺りの草むしりをしてくれればいいから」

 clinicの職員は、adventurerの少年にそう仕事の内容を指示した。彼が勤めるclinicは、injure人や普通のsickが治療を受けるclinicではない。


 心に負った傷が原因で、幻覚を見たりMemoryを失ったり、別のnameを名乗って別人のような振る舞いをしたり。【Mental Corruptionskilllevelが高くなり、日常の生活にも支障をきたすようになったsickを、閉じ込めておくための施設だ。


 ……名目上は、治療する事を目的としている。職員もその上司も、実際に患者を診断し日々治療しようとしているはずのClericDoctor達も、誰かに問われればそう答えるだろう。

 しかし、このclinicに一度入院した患者が完治して退院した事は、今までほとんどない。


 入院させる側も、完治を期待していない者が殆どだ。彼らが期待しているのは、狂ってしまったfamilyや親類を閉じ込めておく監獄としての働きだけだ。


 実際、このclinicではNobleから自由にしておくと都合の悪い Humanを、sickという事にして閉じ込めるよう依頼され、莫大な賄賂を受け取っているという噂を職員の男も聞いていた。


 さすがにその噂を本気にしてはいないが、そんな噂が流れてもおかしくない程後ろ暗い施設だと彼も思っている。ホールに飾られたGodsreliefも泣いているだろう。いや、誰にも祈られない神の像には、神の意志は宿らないというから、Godsはこの施設と自分達の存在そのものを認識していないかもしれない。俗説だから、本当にそうなのか職員の男は知らないし、それほど興味もないが。


「はい」

 そんなどうでもいい事を考えながらも、職員の男はadventurerの少年に対して仕事の説明を続ける。

「抜いた草はそこに纏めてにするように。枯れたら燃やすから。ここは街の外れだから時々野良犬が出るが、自分から近づかなければ大丈夫だ」


 公共施設や余裕のある商人やNoble 家では、草むしりや落ち葉掃き等の雑用をAdventurer’s Guildに発注する事がある。certainlybody part Abilityに優れたadventurerに手早くやらせるためではない。FClass等のchildや手足を失ったadventurerに対する慈善事業だ。


 ただ、慈善事業なので報酬は高くないし、依頼達成までかかる時間も長く、内容も地味だ。そうした依頼はあまり人気が無く、今回依頼を受けてくれたのもこの少年一人だけだ。……accurateには、Tamed Monsterもいたのだが、患者へのimpactを考えて連れてくるのは遠慮してもらっている。


(そう言えば、上が妙に騒いでいたな。確かに、Dhampirだし、Honorary Noblechildだから何かあるのかもしれないが。

 ああ、そうだ。たしか、何とかってnameの患者と接触しないように見張れとも言われたな。でも、面倒臭ぇな。nameも思い出せないし)


 職員の男の職業意識は地を這うように低かった。何故、雑用仕事のために雇ったadventurerを見張らなければならないのか。その間に自身の仕事を終わらせた方が、自分にとって得じゃないか。


「それと、建物の中から患者に話しかけられても、無視してくれていいからな」

 男はそう言うと、adventurerの少年……Vandalieuを見張る事無く、自分の仕事をしに向かった。それで、この少年はもし患者が話しかけてきても無視するだろうと思ったのだ。


 ただ、それは大きな間違いだった。

「はい、分かりました」

 職員の男は少年の方から患者に話しかける場合の事は、何も言っていなかったのだ。




 Hero Preparatory Schoolの実習では、実際にAdventurer’s Guildで依頼を受けるという課題がある。

 もちろんHero Preparatory Schoolの生徒でDClass adventurerに匹敵する力を持っているといっても、在学中は未成年扱いなので、monstersや賊の討伐依頼は受けられない。

 Orbaumの街から離れる護衛依頼も同-samaだ。


 そのため、街の周りの通常の草原や林での薬草採集、monstersではない普通の獣を狙った狩り、等の依頼を選ぶ生徒が多い。

 Vandalieuもそうしようと思ったが、彼がAdventurer’s Guildに入った時にはそうした依頼は既に他の生徒やadventurerが全て受けていた。


 なので、Vandalieuは依頼を貼り出すボードに残っていた、「clinicの裏庭の草むしり」という仕事を受けたのだった。




「それでね、エリ、この人ったら窓から入ってきたのよ。格子をぐにゃって曲げて。もう驚いちゃったわ」

「へぇ、あの鉄格子を、ぐにゃっと曲げて」

「……奥-sama、格子は曲がっていないように見えますが?」


 Ameliaは、誰かが織ったらしい赤い花の王冠とネックレスをして幸せそうに微笑んでいる。

 ElizabethMaheriaは、花で飾られた母が指さしている窓に嵌まった鉄格子に視線を向けた。Ameliaの認識では彼女を侵入者から守るために、そして実際は患者がsickroomから出ないためにsickroomの窓には全て鉄格子が嵌められている。

 それは表面に錆は浮かんでいるが、Ameliaを閉じ込め続けていた。曲がっている-sama子は、全くない。


「それがね、私が『そんな事をしたらServantの人達が困ってしまうわ』と言ったら、またぐにゃって逆に曲げてまっすぐに戻してしまったのよ。

 

 面白いでしょう、うふふふ」


「まあ、そうなの。本当に面白いけど、不etiquetteじゃないかしら、『お父-sama』?」

「ええ、Elizabeth -samaの言う通りです。ですよね、『旦那-sama』?」

 楽しそうに笑うAmeliaと、据わった瞳である人物を見つめるElizabethMaheria。彼女達の前には、紅茶で満たされた四つのカップが置かれている。


 普段は、そのうち三つしか飲まれない。だが、この日は四つ目のカップに手を伸ばす人物がいた。

「言われて見れば、窓からroomに入るのは不etiquetteでしたね。これからは注意します」

 そうVandalieuは言いながら、カップに口をつけた。中々良い茶葉を使っている、と思う。

何故こうしてAmeliaに「あなた」と呼ばれ、ElizabethMaheriaに無形の圧力をかけられているのか、思い出していた。




 Vandalieuclawsを伸ばした両手を振るって、芝刈り機のように雑草を刈っていた。そして、手早く刈り取った草を指定された場所に運んでいく。

 その途中で、窓から外を眺めているfemaleの姿に気がついた。


 彼女がいるsickroomは二階で窓は小さく、更に鉄格子が嵌まっていたので彼女の姿をしっかり見ることはできなかったが、患者である事は何となく理解した。

 その瞳があまりにも寂しそうだったからだ。


 そこで、Vandalieuは急いで草むしりの仕事を終えると、clinicの壁を這い上がった。何故なら、clinicの中では患者を驚かせてしまうので、magicを使わないように言われていたからだ。……magicさえ使わなければ構わないと解釈されてしまっているが。


「もしもし、どうかしましたか?」

「っ!? あなた!?」

 窓から外を眺めていた、三十過ぎに見えるfemaleVandalieuに声をかけられると、驚いたようにのけぞった。そして叫んだ。


「あなたっ、そんなところにいては危ないわっ! 落ちてinjureをしたらどうするの? 早くroomに入って!」

「あ、はい」

 言われて見れば確かにそうだと思ったVandalieuは、femaleの言う通りにroom……彼女のsickroomに入る事にした。


 鉄格子を【Golem CreationskillGolem Transformationして曲げて、開けてもらった窓から肩や腰の関節を外して蛇のように入り込む。


 そして床の上でゴキメキと関節を入れ直し、femaleに言われて鉄格子も元の形に戻した。

 そしてroomに入ったVandalieufemale……Ameliaに歓待され、そのまま話し込むことになったのだ。


「あなた、今日はどんなお仕事をしていたの?」

「はい、草むしりをしていました」

「草むしり? そんな事あなたがしなくても……」

「誰かがしなければいけませんし、頼まれましたからね」


「あなた……そうね、今は耐えendureばないと。なのに私ったら……ごめんなさい、あなた」

「いえいえ、そう自分を責めないでください」

 そう話しつつも、VandalieuAmeliaのいう「あなた」の意味が、自分の思っている「あなた」とは異なっている事を察しつつあった。


(そう言えば、心のDiseaseを治療する専門施設でしたね。つまり、この人は恐らく夫と俺を混同しているという事に……かなりの重症ですね)

 Ameliaの夫がどんな人物なのか、Vandalieuは知らない。しかし、自分とは似ても似つかない人物である事は間違いない。


 それなのに違和感を覚えた-sama子もなく、会話を続けているのだ。重症で間違いない。

「ありがとう、あなた……何故かしら、あなたとこうして話をするのがすごく久しぶりなような気がするの。昨日も、一昨日も、あなたとこのroomで過ごしたのに」

「それはきっと、俺が窓から入ってくるなんてchildのようなことをしたからでしょう」


 重症のようだから、VandalieuAmeliaに話を合わせる事にした。幻覚か妄想かは知らないが、彼女が信じているものを否定してはいけない。否定すると、怒りや困惑のあまり狂乱して暴れだすか、shockfaintedしてしまうかもしれないからだ。


 正気を失っている霊やGhostで、その手の事は学んでいる。……どうすれば治るのかは、分からないが。


「そうかしら……ええ、きっとそうね。そう言えば、外ではどんなお花が咲いているの?」

「今の季節は、こんな花が咲いていますよ」

 VandalieuAmeliaに手を差し伸べると、そこから幾本もの芽を芽吹かせた。【Group Shadow Binding Techniqueskillで生やした植物は、瞬く間に成長し色とりどりの花を咲かして見せた。


「まあっ、素敵な手品! まるで小さなお花畑みたい。思い出すわ。childの頃、あなたと一緒に花畑で遊んだことを」

 そう言うAmeliaだが、彼女がchildの頃に夫……Elizabethの父親である前Sauron Dukeと、会っているはずがない。彼女と前Sauron Dukeとは、父と子程のageの差があるのだから。


 Elizabethが薄々察しているように「あなた」を指すのは前Sauron Dukeではなく、Ameliaが思い描く理想の夫だったとしても、Memoryと妄想の混同が進んでいるのかもしれない。

 しかしVandalieuはそうした事を知らない。


「ええ、覚えていますよ」

 VandalieuAmeliaに話を合わせながら、花を更に咲かせていく。そしてtentacleを生やし、それで赤い花を選んで摘み、花の首飾りと王冠を編んでいく。


「あなた、なんだか指が増えていない? 何故指が増えたの?」

「それはですね、あなたにプレゼントするための花の王冠と首飾りを作るためですよ」


「まあ、ありがとうっ! じゃあ、私も……あら? このお花、あなたから直接生えているようだけれど、何故お花が生えているの?」

「それはですね、あなたに見せるために生やしたからですよ」


「私のためにっ? ああ、ありがとう、あなた! ……あら? あなたってこんなに小さくて、軽かったかしら?」

 感極まったAmeliaに抱きしめられたVandalieuは、特に動揺せず答えた。

「最近苦労していましたからね。少し痩せたのかもしれません」


 『Five-colored blades』に保護されているDhampirShoujoであるSelenから心のこもったletterは届くし、親しいSClass adventurerSchneiderは事後承諾で前Emperorを拉致してくるし、Vandalieuの苦労には終わりが見えない。

 letterには返事を二通……Selenに対して当たり障りのない内容のletterを、そして『Five-colored blades』には呪詛を込め、最後に「次、letterを送ってきたら返事にMirg Shield Nationの事を書く」と警告したletterを書いて出した。


 前EmperorMashkzarは、冥達とは別の『Body World』を一つ封鎖して、丸ごと監禁施設にする予定だ。絶対に逃げ出せず、情報を探る事もできず、外から干渉する事もできない。完全な監獄である。

 とりあえず、Schneiderにはポージングを頼もうとVandalieuは思った。当人は「年寄りの体なんて見て何が楽しいんだ?」とたわけた事を言って拒否しようとするだろうが。


「そうだったのっ! それなのに私はdiseaseで……ああ、ごめんなさい、あなた。あなたにもエリにも、Maheriaにだって苦労をかけっぱなしで!」

「気にしないでください、俺もエリもMaheriaも、あなたの事を想ってする事を苦労だとは感じていませんよ」


 そう答えながら、Vandalieuは気がついた。femaleElizabethに似ている事に。

 そして、完成した花の王冠と首飾りをAmeliaにプレゼントしたところで、Elizabethsickroomの扉をノックした。




 そうした経緯を、Ameliasickroomのすぐ外の廊下に連れ出されたVandalieuは説明したのだった。

「なるほど……あんたが母-samasickroomにいた理由は分かったわ」

「ご理解いただけて幸いです」

 Maheriaに母の相手を任せて、Vandalieuから事情を聞きだしたElizabethは納得した。納得したが、これからどうしたものかと腕を組んで難しい顔をしていた。


whole bodyの関節を外してあの窓から入るとか、花を出す手品とか、随分器用ね。scout職でもやってけるんじゃないの?

 でも、それはともかく……Vandalieu、お願いだからこのことは黙っていて!」


「分かりました」

「……本当? Alcrem Dukeに話したりしないの?」

「しませんしません」

 首を横に振るVandalieuElizabethに言われなくても、VandalieuAmeliaの事を不用意に言い広めるつもりはなかった。


 Elizabethが見栄のためだけに、母がMentalDiseaseんでいる事を秘密にしたいのなら、別の事を提案したかもしれない。

「おkaa-sanのために、秘密にしておきたいのでしょう? なら、俺も協力しましょう」

 Mentalに変調をきたした者に対する偏見が、世間では根強い。adventurermercenaryなどの間ではそうでもないが、Royal Nobilityの社会では特にそうだ。


 ElizabethAmeliaの事をparty memberにも黙っているのは、彼女自身の見栄もある。だが、そうした偏見から母を守りたかったからという理由もあった。


「……Amid Empireの追手から、大した護衛もついていない私達が逃げられたのは、母-samaSoldierたちに体を差し出したからじゃないか。そんなidiot idiotしい噂を流す奴らがいたのよ。

 それを私が知ったのは、母-samaがここに入院してからだけど」

 だから、Vandalieuの言葉にほだされたのか、それまでMaheria以外には黙っていた心の奥底の秘密を、Elizabethは思わず吐露していた。


「誰が噂を流したのかは、大体分かってるわ。Rudelと、その下の兄のVeedal以外、噂を流して得する奴はいないもの。

 未亡人の母-samaが再婚する可能性を潰しておきたかったんでしょ。妙なNobleSauron Duke 家の外縁になられては困るから」


 ElizabethSauron Duke 家に認知された娘だ。その母親と再婚した者は、Sauron Duke 家の一員ではないが、一定以上のinfluenceを持っているとみなされる。それを嫌ったのだろう。

 噂を流した者が狙ったのはありもしない醜聞をでっちあげる事で、それでAmeliaMentalDiseaseんでclinicに入院するとまでは想定していなかっただろうが……別にそうなっても彼らにとっては好都合なだけだっただろう。


 実際には、Rimsand EarlAmeliaの入院には関係しているのだが、それはまだElizabethも知らない事だ。


「だから、母-samaがああなったのが知られて、また母-samaが傷つくのが怖いのよ。私の事が分からなくなってしまったら、どうしようって……」

「たしかに、重症のようですからね。いつ頃から入院を?」


「今年で五年になるかしら……その間どんどん悪くなっているの。まるで、ゆっくり坂を落ちているみたいに」

「なるほど。どんな治療をしているのか、調べた方が良いかもしれませんね」

「詳しくは知らないけど、毎日薬を処方されているみたい……って、なんでそんな事を気にするの?」

「もちろん、Amelia -sanの治療を手伝うためです」


 心のDiseaseの治療には、時間がかかる。中には一度のカウンセリングやちょっとしたことをきっかけにして、快方に向かう場合もあるが、逆に一生かかっても治らない場合もあり得る。

 だから、約五年間快方に向かわなくても、無理はない。そう考えられるのは、Mental医学が進んでいる『Earth』や『Origin』の話だ。


 治療法が確立していない『Lambda』では、本当に効果のある治療をしているのか疑うべきだろう。治療内容について、親族であるElizabethに説明もしていないようだし。


「手伝うって、いいの? 同じpartyを組んでいるからって、そこまでしなくていいのよ。大したお礼も出来ないし」

「構いません。ただ、俺がやりたいからやるだけです。Elizabeth -samaが止めろと言っても、やります。ただ、完治するとまでは保証できませんし、あなたの知る元のAmelia -sanに戻るかも分かりませんが」


 Mentalの治療というのは、Vandalieuにとっても難しい事だ。全てのtraumaを無くした結果、MentalDecayして物言わぬ廃人となる可能性もある。

 最近負った心の傷ならまだしも、昔の傷なら尚更だ。


 だから、時間をかける必要がある。【Metamorph】のMariの時は、soul fragmentを移植しても年単位の時間がかかった。Ameliaも、完治には数年かかるかもしれない。


「ありがとう……。でも、人の母親をnameで呼ぶのはやめて」

「ふぁい」

 感激しつつも、母親のname-san付けで呼ぶVandalieuの頬を引っ張るElizabeth


「それに、手伝うって言ってもどうするつもり? ここ、family以外の面会は普通はできないのよ?」

「それについては考えがあります。とりあえず、明日から一週間ほど学校を休もうかと。その間の特訓については、Pauvinaに頼んでおきます」


「考えって――」

-kunっ、困るじゃないか!」

 ElizabethVandalieuから話を聞き出そうとしたその時、廊下の向こうから慌てた-sama子の職員が駆け寄ってきた。


 後ろ暗い秘密がある施設の職員である彼は、Rimsand EarlからAmeliaVandalieuを近づけないよう指示を受けていた。

 だが、timingが合わずclinicAdventurer’s Guildに既に依頼を出しており、その依頼にVandalieuが応えてしまった。見張りを命じた部下はサボっており、慌てて探したら施設の中で、それも近づけるなと命じられた患者のroomの前で発見したのだ。これが慌てないはずがない。


-kunHonorary Nobleyoung childだからと言って、特別扱いはしないよ! さっさと出ていきなさい! 素直に出ていくなら、Adventurer’s Guildに報告はしないでおいてやる!」

「分かりました。Elizabeth -samaAmelia -sanによろしく言っておいてください」

 そして、Vandalieuは素直に摘まみだされていった。


「考えって、本当に大丈夫なの?」

 連れていかれるVandalieuを茫然と見送ったElizabethは不安を覚えたが、明日Pauvinaから話を聞けばいいかと思い、母に『お父-sama』は急な仕事が入って帰られたと伝えた。


 一方、職員はVandalieuを摘まみ出した後、冷や汗を拭っていた。

「はぁ……何とかなったか。念のために、今日の薬は控えた方が良いかもしれないな。roomに何か仕掛けていったかもしれない」

 使い魔を使っての盗聴や盗撮はよくある手段だ。薬を与えるのは、そうした事がないか入念に調べてからにするよう報告しよう。一度や二度、薬を止めたところでimpactはないはずだ。


 そう考えて職員はclinicの奥に戻って行った。




 翌日、Vandalieuの姿はAmeliaが入院しているclinicの、応接間にあった。


「それで、ご子息の入院を希望するとのことですが……」

「はいっ! 最近息子のVandalieuが心をDiseaseんでいるようなので、是非入院させてほしいんです」

 引き攣った笑みを浮かべているDirectorに、Darciaは力強く力説した。


「ねえ、Vandalieu?」

kaa-san、光る人達と水や炎の人達が、クネクネ踊っているよ。それに体の中から、歌声が聞こえるんだ」

Director sensei、昨日からこの通りなんです」


 暇なので冥に見せるdanceの練習をしているGhost達と、Body WorldlessonをしているKanako達の事を口にするVandalieuだが、Directorには確かにMentalDiseaseんでいるようにしか見えなかった。

「そ、それは重症ですな。Alcrem Duke -samaからのintroduction状もありますし、入院を許可しましょう」

 Rimsand Earlからの要望は、当然Directorも知っている。だが、clinicである以上患者を……それもDuke 家からのintroduction状付きの患者を断るわけにはいかず、受け入れるしかないのだった。


(何を考えているのかは知らんが、あの患者とは別の階のsickroomに入れて見張りも付ければ大丈夫だろう)


 彼が、それは大きな勘違いだったと気がつくのは暫く先の事である。



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