「でなければ、俺はお前達を始末するためにsenseiと戦う事になります」
「でなければ、俺はお前達を守るために生徒と戦うfeather目になる」
Zohnaを抱き上げたVandalieuと、背後のDandolipに挟まれたAlexは、自分がDragonの尾を踏んだ事に気が付いた。
何故なら、VandalieuとDandolipの二人共が自分達を戦力に数えていないからだ。
bloodthirstは感じないのに見ているだけで寒気がするVandalieuと、強烈なbloodthirstを放っているDandolipに挟まれ、AlexもTowaも一歩も……eyeballすら動かす事ができなくなっていた。
下手に動けば、冗談でも何でもなく本当に殺される。それは分かる。だが、やはりAlexにはVandalieuはcertainly、背後のDandolip(Randolph)の実力も見当がつかなかった。
試しても、Statusを見ることはできないだろう。そう察しながらも、同じ実践Cookingの実習を受ける事になった偶然を活かし、tacticsを練ってまでVandalieuに【Magic Eye of Great Appraisal】を使用したのは、明らかにAlexのmissだった。
何故そんな事をしたのかと言えば、Alexは生まれ持った【Magic Eye of Great Appraisal】というUnique skillに依存していたからだ。もっとも、それを恥じるべきか否かは意見が分かれるかもしれない。
二足歩行するために、生まれ持った二本の脚に頼り切る事を情けなく感じる者はいないだろう。
【Magic Eye of Great Appraisal】も、Alexにとっては脚同-samaに自分の体に備わったものだ。それに、今まで彼が【Magic Eye of Great Appraisal】でStatusを見ている事を見抜いた者はいなかった。
相手が自分より明らかに強い場合でも、Humanよりも鋭いfive sensesを持つmonstersだったとしても、そして結果的にStatusがmosaicだらけで読み取れない程圧倒的な差があったとしても、Statusが見られていると見破られたことはなかった。
【Magic Eye of Great Appraisal】をActivateするには、相手を集中して見なければならないので、相手に気づかれないように工夫していたが。それも睨みつけていると誤解される事で、troubleを避けるためだ。
それに、Alex自身も十代前半という若さ……幼さで、既にCClass adventurerに匹敵する実力を身につけている。Adventurer’s Guildのadventurerの過半数、DClass以下のadventurerに対して互角以上の力を持っているのだ。
故に【Magic Eye of Great Appraisal】を他者に使う事に対して、危機感を覚えないようになっていた。
それが災いしたのだと気が付く余裕は、今のAlexには無い。彼とTowaは、Gufadgarnが既にmagicを解いており、body part的な拘束が解かれている事にも気が付いていないのだ。
二人が動けないのも、まだ立っていられるのも極度の緊張conditionだからに他ならない。
その二人の背後に立っているRandolphは、苦々しい思いをしていた。
(まさか、このageになってガキに命を握られるとはな。頼むから、BAKANA事はしてくれるなよ)
ガキ……AlexとTowaに、視線を向けずに彼は祈った。
言うまでもないが、彼にとってVandalieuはガキではない。……ほんの少し前まではそうだが、今は違う。『True』Randolphに死を覚悟させる程の、何かである。
(……bloodthirstを感じない。だが、仕掛ければ確実に死ぬ。まるで高い山の崖から地面を見下ろしているような、そんな気分だ)
山も崖も地面も、ただの物質だ。Killing Intentなんて持ちようがない。だが、見ているだけで死神の大鎌で首筋を撫でられているような感覚を覚える。
(しかも、相手はVandalieuだけじゃない)
優れたSpiritual MageであるRandolphは、Animaの声を聴くことができる。それは意思疎通ができるというより、veteranのHunterが山や森の-sama子から気候の変動や災害の兆候を察知するのに近い。
そのAnima達がいつになく騒いでいるのに気がついたRandolphは、非常事態だとIntuition的に悟って騒ぎの元凶の元へ駆けつけようとした。だが、その途中で高度なspace magicによるものと思われるBarrierに阻まれた。隠していた実力を発揮して、そのBarrierは強引に破ってきたが……VandalieuはSpace-Attribute Magicが使えないはずである事を、Randolphは知っていた。
(VandalieuがSpace-Attribute Magicを使えるのを隠していたと考えるより、腕利きのSpace-Attribute Mageがどこかに隠れていると考えるべきだな。数秒であれほど強力なBarrierを張る事ができるmonster並みの術者が、すぐ近くに。
勝ち目は無いな。それどころか、俺が時間を稼いでAlex達をその間に逃がすのも不可能だ。Space-Attribute Mageに止められる。強いて言えば、奴が抱きかかえているZohnaが弱点なんだろうが――)
生徒であるZohnaを狙えば、Randolphが戦う意味そのものが無くなる。
Randolphがここにいるのは、Meorilithに学校の講師として雇われているからAlexとTowaを守る義務があるからだ。なのに、同じ生徒のZohnaを狙ってVandalieuの隙を突こうなんて、本末転倒だ。
しかも、やったところで勝ち目が増えるとは思えない。ただの悪足掻きだ。とてもやる気にはならなかった。
一方Vandalieuは、Randolphと対峙した事で冷静さを取り戻しつつあった。Randolphのbloodthirstを正面から受け止めながら、Alex達を殺さずに、穏便に済む方法は無いかと考えている。
(幼い頃はあれば便利だと思っていた、【Magic Eye of Appraisal】のSuperior Skillらしい【Magic Eye of Great Appraisal】を持っているとは驚きでしたが……Statusを見られたのは不味かった)
Alexが何かMagic Eye系のUnique skillを、それも攻撃的なものではなく対象のaptitudeや素質といったものをVisualizationするskillを持っているのではないかとは、前々から考えていた。
それだけなら、PauvinaをMagic Eyeで見た事も含めてAlexを殺さなくてはならないかもしれないとは、Vandalieuも考えなかった。
競争相手の情報を得ようとするのは当然だ。有効なskillを持っているのなら、使うだろう。
それが国同士の諜報活動によるものなら、殺し合いを含んだ暗闘に繋がる。しかし、VandalieuとAlexが争っているのは、学校の成績である。
それで殺し合うつもりは、Vandalieu達にはなかった。
しかし、Statusを全て見られたかもしれないとなれば話は別だ。『Great Demon King』等のsecondary nameやJob、物騒な名称のskillの存在を知られ、その情報を何らかのorganizationに流されたら大scandalにdevelopmentしかねない。
そうなると、Vandalieu達だけではなくAlcrem Dukeに迷惑がかかる。それは避けなければならない。
しかし、今の学園生活も楽しいので、できれば今の環境を失うのは避けたい。そのうえ、sensei(Dandolip)まで駆けつけてきてしまった。ただ者ではないと思っていたが、GufadgarnのBarrierを一瞬で突破してくるとは想定以上だ。何故SClass adventurerになっていないのか不思議なくらいだ。
全力で戦えば、勝てない相手ではなさそうに思える。Gufadgarnや、【Body World】にいるLegionの力を借りれば、確実に勝てるだろう。
しかし、その過程で発生する攻撃の余波や轟音によって、他の生徒が巻き込まれる可能性が高い。
(ああ言ったものの、こいつらのせいでDandolip senseiと戦うのは割に合わない)
そう考えているVandalieuの腕の中にいるZohnaはひたすら混乱していた。Vandalieuを誘惑していたら、突然Ohime-sama抱っこされたと思ったら、恐ろしい速さで走り出し、気がついたら今の状況である。
(い、息が……っ! 死んじゃうぅ!)
状況を理解するどころか、Randolphのbloodthirstを浴びて息をすることもできない。Zohnaの視界はぼやけ、次第に気が遠くなっていく。
(あれぇ? お花畑に川が見える? うわぁっ、大勢のVandalieuが川から上がってきて通せんぼし始めた!?)
「……これはまずい」
Zohnaが臨死体験をしている事に気がついたVandalieuは、彼女が発している濃厚な死のsignを霧散させた。
「sensei、bloodthirstを抑えてください。彼女が苦しそうなので」
「それは分かるが、この状況でか?」
明らかにZohnaよりも苦しそうなAlexとTowaをガン無視して言うVandalieuに、Randolphは思わず言い返した。
「bloodthirstを抑えてくれれば、二人の命だけは保証します」
「……いいだろう」
Randolphも言葉通り、構えを解いてbloodthirstを抑えた。
「ひゅぅっ」
「かはっ!」
「……あれぇ? 他のVandalieuは?」
緊張から解放されたTowaが息を吐きながら倒れ込み、Alexは何とか持ち堪えた。Zohnaは臨死体験からは戻ってきたが、これから状況を把握するところである。
「Alex、Towa。Zohnaはともかく、お前達は気を抜くな。お前達は、まだ命しか保証されてない」
そしてRandolphはbloodthirstを抑えただけで、状況を楽観視はしていなかった。実際、Vandalieuは最悪の場合はAlexとTowaに【Mind Encroachment】で洗脳を施して……廃人にして口を封じるつもりでいる。
Alex達はそこまでは想像できなかったが、Randolphの言葉に込められた緊張を感じ取って、気を引き締める。
「では、質問です。伏兵……お前達にparty member以外の仲間はいますか?」
それを待っていたかのように、Vandalieuは質問を始めた。
「伏兵? いや、partyの仲間だけだ」
「次に、お前はどこかのorganization……Adventurer’s Guild以外の諜報機関や犯罪organizationに属しているか、協力関係にありますか?」
「……? いや、Adventurer’s Guild以外のorganizationに関わったことはない」
「では、Nobleやその家臣、temple関係者に雇われていますか?」
「いや、雇われていない。俺も、俺の仲間も」
段々何を疑われているのか察し始めたAlexとは別に、Vandalieuは若干困惑していた。organizationにも属さず、依頼されていた訳でもない。なのに、何故自分のStatusを見るような危険な真似をしたのか。それがVandalieuには分からなかった。彼は、Alexが【Magic Eye of Great Appraisal】に依存している事を知らないのだ。
先ほど見たAlexのStatusには、神's Divine Protectionや【Familiar Spirit Advent】skillは無かった。そうである以上、Aldaを支持する神のHero Candidateではないと考えたが、念のために尋ねた。
「Oracleを受けた事はありますか?」
「しんたくって、Oracleの事か!? いや、そんな覚えはない」
blessingsを持っていなくてもOracleを受ける事はできる。そう思いついて尋ねたが、やはり違ったようだ。
「では、何故俺のStatusを見ようとしたのですか?」
その質問にAlexは「やっぱり、気がついたのか」と納得し、RandolphはAlexに、ZohnaはVandalieuに思わず視線を向ける。
「Statusを、見るだと?」
では、自分の正体も既に知っているのか?と思うと同時にVandalieuが性急で物騒極まりない行動をとったのも納得だと、Randolphは思った。
圧倒的な力の持ち主の秘密を知ってしまった者が命を狙われるなんて話は、よくある。今回はそれが、過去の犯罪歴や秘密のLoverや隠し子の存在ではなく、VandalieuのStatusだったという事だろう。
VandalieuのStatusにどんな秘密が隠されているのかまでは知らないが……いや、今のVandalieuの反応から考えると、知りたくもない。Alexが妙な事を口走りそうになったら、chinのboneを蹴り砕いてでも止めよう。
「Statusを見るって、本当なの?」
「ええ、彼は【Magic Eye of Great Appraisal】というUnique skillを持っています。【Magic Eye of Appraisal】のSuperior Skillでしょう。
彼が学校でaptitudeのある仲間を見い出すことができたのも、そのMagic Eyeによるものでしょう」
「マジっ!?」
一方、そのAlexの秘密はVandalieuの口からペラペラと明かされていた。Randolphも、そういう事かと頷いている。
Towaは、masterの重要な秘密を話すVandalieuを思わず睨みつけるが、Vandalieuは視線も向けない。
「な、なによっ」
ただ、Zohnaがビビったので口を開いた。
「俺は手に入れた情報を仲間と共有しているだけです。競争相手にStatusを見る事ができる奴がいたら、仲間に注意喚起をするために教えるのは当然でしょう? それと……自分の立場が分かっていますか?」
「そーよ、そーよっ!」
ジワリと、滲み出るようにVandalieuから再び死のsignとしか言いようのないものが発せられる。腕の中のZohnaだけは感じないようsignの出し方を調整するなど、器用なことまでやって。
途端にTowaは青ざめて耳を力無く垂らし、Towaの態度に気がついたAlexも、彼女を止める前に動けなくなってしまう。
「悪いが、大目に見てやってくれ。こいつらにはお前の放つsignの怖さが、まだピンときていない。俺のbloodthirstの方が印象に残っているんだろう」
「なるほど。では……」
周囲を見回したVandalieuは、適当な岩に目を付けた。荒野からthrust出たような岩は、二頭立てから三頭立ての馬車程度の大きさがあり、距離は三十meterほど離れている。
「【Mana Bullet】」
その岩に向き直ったVandalieuは、人差し指を岩に向けて【Mana Bullet】を放った。
「「「「っ!?」」」」
その瞬間発生した、Giantな黒い球体にAlexとTowaはもちろん、Randolphも度肝を抜かれた。
直径一meterのGiant Mana Bulletは、そのまま岩に向かって飛んでいき……岩を削り取って大穴を空けた。
magic媒体もなく、呪文の詠唱もしなかった、初歩的なmagicのAttack Powerではない。同じ事をするのに、自分だったらどれ程のManaが必要か、反射的に計算するAlexに向かってVandalieuは告げた。
「次、質問に答える以外の事をしたら、あれと同じmagicを撃ちます。嘘をついても、答えるのを拒否しても、誤魔化そうとしても、撃ちます。
理解しましたか?」
「「「はいっ」」」
実力差を分かりやすく示されたAlexとTowa、そして何故かZohnaまで揃って返事をする。
「では、何故、俺のStatusを見ようとしたのですか? その目的は?」
「それは……確かめずにはいられなかったからだ。もうPauvina -sanや-kunのTamed MonsterのStatusは見た……見ようとした。だが、今の俺の実力じゃあ何も見えなかった。
-kunのStatusも同じだろうと思ったが、それでも-kunがElizabethのpartyに入っている以上、試さずにはいられなかったんだ」
Alexはchildの頃から【Magic Eye of Great Appraisal】を使いこなしていた。そのため、Statusを見る以外で他者の実力を読み取るAbilityが、いわゆる眼力が全く育っていなかった。
そして、Statusを見られるため対象の強さを数字というはっきりした基準で測る事に慣れきってしまった。
だから、Vandalieuの実力を知りたければ【Magic Eye of Great Appraisal】を使う以外に無く、また「教官に教えられるぐらいだから教官よりもずっと強いはずだ」という、曖昧なconjectureでは耐えられなかったのである。
「……何も見えなかった? 【Magic Eye of Great Appraisal】なのにですか?」
しかし、Vandalieuが注目したのはAlexの心情ではなく、彼が言った「何も見えなかった」という言葉である。
「ああ、【Magic Eye of Great Appraisal】は俺とあまりにも実力に差がある相手のStatusは見る事ができないんだ」
「では、俺のStatusは?」
「mosaicだらけで、何も読み取れなかった。skillの数やManaの桁がとんでもないことは、分かったけど」
「……なるほど」
VandalieuはAlexに対する警戒をほぼ解いた。どうやら、彼はただの学生で【Magic Eye of Great Appraisal】も学校内で成績上位者になるための競争以外でほぼ使っていないようだ。
そして何より、Vandalieu達のStatusは、Alexとの実力差が開きすぎているため【Magic Eye of Great Appraisal】でも見る事ができないという。
どうやら、Alex達を殺すことはcertainly、脳改造する理由も無くなったようだ。
『嘘はついていないかと』
ちなみに、Alexの言葉に嘘が無いかどうか判別しているのは、両目とも節穴のVandalieuや、Humanの機微に疎いGufadgarnではない。『Fighting dog』のDarockである。
生前は戦闘要員であり、ChipurasやIslaのような潜入工作の経験は浅く腹芸は苦手とする彼だが、全くできないわけではない。その経験から、Humanが嘘をつく時の癖を覚えており、それを活かしてAlexの言葉の真偽を判別していたのである。
……本来ならこの役目に相応しいのはChipuras、そして次にKimberlyなのだが、二人はそれぞれElizabethやMact達の護衛をするためVandalieuから離れていた。
ならそもそもDarockを護衛に派遣し、ChipurasかKimberlyのどちらかを残せばよかったのではないかというと、それは違う。
Darockは、Vandalieuの関係者やVidal Magic Empireの民以外のHumanを下等生物と見ているため、単独行動をさせるのが不安だったのだ。
『それでVandalieu -sama、この小僧と小娘はどうしますか? Magic Eyeを採取した後に抵抗できないよう処置を施し、生きたままLucilianoに渡してUndeadとの交配実験に使うのが良いのではないかと愚考いたしますが』
『Darock、それだとDandolip senseiと殺し合う事になるじゃないですか』
『【Teleportation Gate】で奴を【Body World】の一つに追い込み、そこで始末すれば、誰にも気がつかれないかと……そうか、このDandolipのような有力な教職員を篭絡し、やがてはHero Preparatory School全体を牛耳る計画なのですね!』
『……何故学校を牛耳る必要が?』
忠実で面白いGhostなのだが、目を離せないのが玉に瑕である。
DarockとそんなTelepathyをしながら、Vandalieuは今回の一件を穏便に終わらせることにした。
「あなたが俺のStatusを読み取る事ができなかったのは、理解しました。しかし、今後実力をつけたら俺達のStatusも見られるようになるでしょう。
それを防ぐためには両目を抉る……いえ、他の仲間も含めて全員殺すのが最も簡単ですが……」
そう言うと、AlexとTowaの顔から音を立ててbloodの気が引いた。Randolphも苦虫を噛みつぶしたような顔をして、いざとなれば間に入ろうと身構える。
「ですが、それをするとDandolip senseiと殺し合わなきゃなりませんし、結果的に俺の学校生活が終わってしまう可能性が高いので、契約を交わしましょう」
「契約?」
「ええ。まず、【Magic Eye of Great Appraisal】を今まで通り、自分の意志と責任において自由に使って構いません。
ですが、その結果得た情報をお前の仲間……party member以外に伝える事を禁止します。親、brothers、lover、依頼人、関係のあるNobleや商人等、全てに」
「っ!? それは……」
驚いたように目を見開くAlex。Vandalieuはふと思い出して、付け加えた。
「今までのように、【Magic Eye of Great Appraisal】で見たと言わないで、aptitudeを眠らせている人を勧誘するのは構いません。
それと、何らかの事情でpartyから別れる人が出た場合は、別れた後もこの契約を守ってもらう事になります」
「いや、そうじゃなくて……」
「ねぇ、そんな事で良いの? それだと、こいつらは今まで通りなんじゃない?」
戸惑うAlexの声を遮って、ZohnaがVandalieuにそう尋ねた。彼女の言う通り、Alex達はEven now【Magic Eye of Great Appraisal】で見た情報を仲間以外には漏らさないように徹底していた。
Statusの情報なんて、普通は出回らない。己の実力を喧伝するために故意にStatusの一部を明かす者もいるが、それぐらいだ。例外として、guildの職員が情報を流した場合だが、そんな事は滅多に……起きたら歴史に残る大事件としてMemoryされるほど、起きない。
そんな希少な情報の情報源だとばれたら、Alex達の内誰かが【Magic Eye of Great Appraisal】の持ち主だと悟られてしまう。力のあるNobleや犯罪organizationが動き出し、Alexを囲い込むか、そのMagic Eyeを抉り取って奪うか、そのどちらも不可能なら他のorganizationに渡る前に始末しようとするだろう。
今のAlex達に、そうした権力者達の魔の手から身を守れる程の力はない。
「そうですね。でもまあ、競争相手の情報収集を行うのは普通の事でしょうし、あまり不利な条件をthrustつけると、Dandolip senseiと揉める事になりますし」
Vandalieuもそれは分かっているが、その上での提案だった。彼としては、AlexがAlda's FactionのGodsやどこかのorganizationの手の者でない時点で、殺す必要はないと考えていた。
しかも、AlexはVandalieu達のStatusを読み取る事が出来ないから、何の弱みも握れていない。だが、逆にVandalieuはAlexの弱みを掴んでいる。
「ただ、もし情報を漏らしたら、お前が【Magic Eye of Great Appraisal】を持っている事を明らかにします」
その一言で、bloodの気が戻りかけていたAlexの顔色が再び悪くなった。
「ついでに、『AlexはVandalieu Zakkartとその仲間やTamed MonsterのStatusを見ており、重大な秘密を知っている』という偽情報も流します」
更にVandalieuがそう続けた事で、Alexの顔は土気色になった。
「……まあ、良心的な落としどころだろう。眼も無事で、命も助かり、adventurerとして活動する分には何の不自由もない」
そして、Randolphがそう言いながら自分達の後ろからVandalieuの横に移動したのを見て、これ以上はどうしようもないと悟った。
「分かった。その条件を飲む」
秘密厳守が破られた場合のriskが数十倍に跳ね上がったが、秘密さえ守れれば今までと同じだと自分に言い聞かせて、Alexは何とか立ち直ろうとする。
「Robin達には、俺の口から説明して納得させる。それでいいだろうか?」
「納得しないようなら、言ってください」
「納得させる! 絶対に納得させるから、信じてくれ!」
「……? わかりました」
ちょっと目の前で【Mana Bullet】を放って見せるなど、Alex達と同じことをして実力差を理解させる程度のつもりだったVandalieuは、Alexの必死な-sama子に首を傾げたが、深くは追及しなかった。
「だが……質問していいか?」
「お前が俺のStatusを見ている事に気がついた事なら、俺がMagic Eye系のskillの効果を跳ね返すMagic Eyeを持っているからです。なお、これも契約で守る秘密に加えてもらいます。
また、契約についてなら-sama々な事態があり得るでしょうから、相談してくれれば臨機応変に対応する用意があります」
何故【Magic Eye of Great Appraisal】を見破ったのか情報を与える事で、「ある程度話が通じる相手だ」と認識させて、Alex達が自暴自棄になる事を防止する。契約について相談に応じるのも同-samaの狙いからだ。
……もし将来Alexから実家の母を人質に取られて、情報を渡すしかなかったなんて事を聞かされたとしたら、契約通りの対応ができなくなる可能性が高い。
「いや、そうじゃなくて……そのZohna達はいいのか? 彼女達の方が俺達なんかよりも余程Nobleと繋がっているはずだぞ」
「なぁっ!? あ、あんたっ、余計な事を!」
自分がVandalieuの情報を手に入れるよう家から命じられている事を、今の今まで忘れていたZohnaはAlexの鋭い指摘に動揺し、思わず声を荒げる。
「ひぃっ!?」
そして、Vandalieuの視線が自分に向くと彼の腕の中という逃げ場の無い状況で、引きつったscreechをあげた。
「慌てないでください。そういう事情があるだろうとは、前から分かっていたので」
「何でもするからお願い殺さ――え?」
「Elizabeth -samaはこのCenterのNoble達と繋がりがありますし、senpai達はCenterのNoble 家出身ですからね。情報収集を指示されていない方が不自然でしょう」
Elizabethの発言を誤解したままpartyに入ったVandalieuだが、約一か月もあれば彼女達の背後関係も察する事ができる。……そもそも、Mact達はreal nameを隠していなかったし。
「気がついていたのなら、なんで……?」
「情報収集を家から命令されていて、本人達にそのつもりがあったとしても、些細な事です。他者に対して下心を全く持たずに接するのは、難しい事ですから」
人は誰でも下心を持っている。
一緒に遊んでいて楽しいから、玩具をいっぱい持っているから、格好いいから、頭がいいから、運動ができるから、友達になりたい。そう思うchildは不純で卑しいだろうか?
美人だから、好みのTypeだから、経済的に恵まれているから、家柄が良いから、その異性に好感や興味を持った。そうしたきっかけで始まった恋愛には、愛は存在しないのか?
そうは言えないだろう。certainly、下心が全く存在しない友情や愛情は存在しないと主張する訳でも、それをくだらないと貶める訳でもない。
ただ、そういうものだと認識しているだけだ。
そして、Vandalieuは『自分達に関する事を調べようとした』というきっかけも、よくある下心の中に含めているのである。
「もちろん、下心だけだったら俺も友達とは思わなかったでしょうけれど……Alex、Elizabeth -samaやsenpai達はお前が思うよりずっと良い人です」
特訓には文句を言わず(特訓中は色々喚いていたが)参加して、学校でも同じwaist purseとして対等に付き合ってくれた。最初は色々危うい言動があったが、付き合う内にそうした事もほとんど無くなった。
何より、VandalieuがTamed Monsterとして連れてきているEisenたちとの関係も良好である。その証拠に、彼女達はEisen達の事を、「Tamed Monster」ではなく「Tamed Monsterの人」と呼ぶのだ。無意識の内に、Eisen達を人として認識している事の表れだと、Vandalieuは解釈している。
「それに、情報収集にしてもあまり熱心だったようには思えなかったので。うちのmansionに入ろうとしないし、半月ほど前開いたAlcrem Duke 家のpartyにも参加していなかったし」
「え、ああ、うん。まっ、まあね」
Zohnaはきまり悪そうに頷いた。Vandalieu達が暮らすmansionに入ろうとしなかったのは、最初は怖かったから。そして、そんなに怖くないのではないかと思った頃にはtimingを逸していたからだ。
partyに出席しようとしなかったのも、ZohnaやMact達はDuke 家のpartyに出席できるような立場ではなかったからだ。……Vandalieuから招待状を貰えたとしても、着ていける程上物のdressやSuitを彼女達は持っていない。
(でも、あたし……誰かからこんなに評価されたの、初めてかもしれない)
そうした誤解を差し引いても、Zohnaは思わずときめいていた。
「……分からない。なんでそこまで彼女達に拘るんだ?」
しかし、説明してもAlexはなぜVandalieuがZohnaやElizabethに拘るのか、理解できないようだった。
「俺達がダメだったのか? もし俺が、最初に声をかけていたら――」
「いや、お前が最初に声をかけようとしたのはPauvinaでしょう。しかも、Statusを見たかどうかした後、何も言わずに立ち去ったじゃないですか」
「うっ!」
自分の指摘に呻き声をあげたAlexに、更にVandalieuは続けた。
「お前はお前が選んだ仲間と、好きにすればいいじゃないですか。経験を積み、腕を磨いて、adventurerとしてachievementを挙げ続ければいい。
俺は俺に手を差し伸べてくれた人と、勝手にやります。お前にとやかく言われる事は、何もない」
これがVandalieuの考え方だった。誰か助けてくれと手を伸ばす人がいれば、手を握ろう。逆に手を握りたい人がいれば、握ってもらえるまで手を伸ばし続けよう。
だが、自分に関わらなくてもやっていける者には、別にそのまま関わらなくていい。
「それでは」
Vandalieuはそう言うと、Alex達に背を向けて歩き出した。
Alexはまだ理解できない-sama子だったが、自分とVandalieuの価値観が異なる事だけは分かったらしい。それ以上声をかけようとはしなかった。
「ここでは何も起きなかったし、俺は何も聞かなかったことにする。だから実習もそのまま続行だ。……残り時間まで九十分を切ったから、遅れるなよ」
そして、RandolphはAlexとTowaにそう言うと、Vandalieu達の後を追った。