握り拳を天に向かってthrust上げている格好は、何を指しているのか。
三つの異なるworldを知るEndou Kouyaは、奇妙に思えた。なぜなら、三つのworldでそれはだいたい同じ意味だからだ。
『worldが異なっていても、人は人という事なのかもしれないな』
姿形や体の構造が似ている以上、Mental構造やそれによって形作られる社会や価値観が似るのは、道理なのかもしれない。
『Kouya、それは現実逃避?』
『……まあね』
同僚の泉の言葉に我に返ったKouyaは、喝采をあげているような恰好のままfaintedしているRodcorteを眺めた。
『しかし、よく、Rokudouの魂を回収できたもんだな。できるかどうかわからないって言っていたのに。だって、神になったんだろう? Rokudouの奴』
Aranがそう言いながら、動かないRodcorteの握り拳に視線を向ける。あの中にRokudou Hijiri、そして、Moriya Kousukeの魂があるのだ。
RodcorteはCircle of Reincarnationを司る神だが、神の魂は彼の管轄外で今まで扱う事もなかった。『Lambda』にはoriginally Humanだった神が存在する。Rodcorteによると、その神がHumanだった頃に魂を扱っていたとの事だ。
しかも、Rokudou Hijiriは神になっただけではなく独自のCircle of Reincarnation systemまで構築していた。いや、Circle of Reincarnation systemを構築できたから神になったのか。
そのため、本来ならRodcorteはRokudouの魂に手も足も出せないはずだった。
『Rokudouが死んだことで、彼のCircle of Reincarnation systemが機能を停止したからだろう。神というのは一度なってからも、何らかの理由で零落する事があるそうだから、それがRokudouの場合はCircle of Reincarnation systemだった。それが彼の死によって機能を停止したため、Rokudouは神から人に零落した』
神となった存在は、何があろうと永遠に神であり続けられる訳ではない。信仰する存在がいなくなり、Mythやlegendが廃れてしまう等、何らかの理由があれば零落してしまう。
Rokudouの場合は、彼を神たらしめていたのは彼自身が作り上げた独自のCircle of Reincarnation systemだ。しかし、それはRokudouにとって『Ark Avalon』に生まれ変わるための装置でしかなく、神となる過程で必要な物としか考えていなかった。
故に、Rokudouは『Ark Avalon』にreincarnationした後、用済みになったCircle of Reincarnation systemに全く注意を払っていなかった。systemを維持するための仕組みや、彼以外にも使えるように調整する事を全く考えていなかったのだ。
そのため、彼自身が死んだ瞬間に、RokudouのCircle of Reincarnation systemは機能を停止したのだ。
物質的な装置としては、まだ『Origin』に存在し続けているはずだ。しかし、Humanだった頃のRokudouのMemoryによると、あの装置はRokudouを『Ark Avalon』にreincarnationさせることに特化していて、彼以外があの装置を利用してreincarnationすることはほぼ不可能であるらしい。
そのため、『Origin』に残っている装置を使って誰かが再び神になる事はないだろう。装置を解析して得た情報から、新たな装置を設計する事ができれば別だが……装置の存在を知ればAmemiya達がdataごと破壊するだろうから、ひとまずは安心だ。
『じゃあ、あの拳の中にいるRokudouは、ただの人の魂ってことか』
『人ではあるが、元神の魂だ。Manaの量は変わっていないだろう。death attributeも持ったままだと思う。今のところはだが』
『じゃあ、単に分類が神から人に戻っただけなのね。……『Lambda』にreincarnationするときもこのままだと思う?』
『Lambda』にreincarnationする時、Rokudouが神か人かどちらなのかによって大きな差が生まれる。神なら、Status systemの範囲外。Jobに就くことはできず、skillを獲得することもできない。だが人なら、Jobに就いてskillを獲得することができる。
後者ならRokudouのCheat Abilityである【Increased Learning Speed】と【Unlimited Development】が、『Origin』以上の力を発揮するはずだ。
『さすがにそれは私の【Oracle】でも分からないな。another worldからreincarnationしてきた神だった人物に対して、Statusを司るGodsがどう解釈するか次第だ。
それに、Rokudouがあのままreincarnationできるのかも分からないし』
RokudouはDeath-Attribute Magicを習得するだけではなく、独自にCircle of Reincarnation systemを作り上げた。Rodcorteにとってはsystemの存続の障害どころか、神としての存在を揺るがしかねない存在だ。
Vandalieuがsystemを脅かすBugなら、Rokudouは商売敵になりえる存在なのである。
もっとも、RodcorteとRokudouでは作りあげたCircle of Reincarnation systemの規模と精巧さに、天と地ほどの差があるが。
『だが、reincarnationはさせるつもりだったんじゃないか? 態々魂を回収したんだし』
Aranが言うように、RodcorteはVandalieuに食われる前にRokudouと、結果的にMoriyaの魂を回収した。彼の魂を食らうためにVandalieuが伸ばして薄くなった部分をついて、barely魂を手に入れたのだ。
その直後、KatouとShizakiの魂が食われた。Rodcorteは二人に与えていた自身の力の一部も食われ、その激痛でfaintedしてしまったのだ。
『いや、reincarnationさせる気はないがVandalieuに力を与えないために回収しただけかもしれない。まあ、今更な気もするが』
Vandalieuが『Origin』に魂だけのconditionでAdventしたことで、Rodcorteはその魂の中にかつてのReincarnator達の魂だったものを感じ取った。そして、その中に自身が与えた力も含まれている事にも気が付いた。
改めて考えてみれば、なにも不思議な事はない。VandalieuはReincarnatorの魂を食らう際、Reincarnatorに与えたRodcorteの力も食っているのだ。これまでVandalieuが他のReincarnatorのCheat Abilityを使っている姿を確認していないから、そのままAbsorptionして我が物にしているのではなく、単に強大なManaの一部となっているだけかもしれないが。
ただ、万が一という事もある。RokudouのCheat AbilityをVandalieuが手に入れれば、彼の常識を無視した成長がより激しくなる可能性が高い。そう恐れたRodcorteは手を打ったのかもしれない。
ただ、今更Vandalieuの学習Abilityがincreaseしても大きな変化はないようにKouyaには思えた。誤差の範囲とまではいわないが、そうならないよう必死になって防ぐ程の違いはないだろうと。
そして【Unlimited Development】は……Vandalieuに関しては最初から備わっていたとしか思えない。それを再び手に入れたとしても、何も変わらないだろう。
『もしくは、ただRokudou達四人の魂を喰われるのを防ぎたかっただけかもしれない。実際、二人喰われてfaintedしているし』
『それもあるかもしれないけど、私はこれが対Vandalieu用の戦力として使えるReincarnatorを確保できる、最後の機会かもしれないと考えたから必死になったんじゃないかと思う』
『ああ、たしかに』
VandalieuがAmemiya達と何を話したのか、Familiar Spiritである泉達はAmemiya達のMemoryやfive sensesから知る事ができる。それで、彼らが和解に近い形で協力体制を築いている事が分かった。
Vandalieuからすれば、冥とHiroshiの幸福を優先しているだけで、Amemiya coupleと分かり合ったつもりは全くないのだろう。しかし、Amemiya coupleの方はVandalieuを信用し、ある程度以上は信頼しているはずだ。そうでなければchild達を預けない。
親友だと信じてきたRokudouや仲間に裏切られた直後で、world規模で信用できる国家やorganizationが他になかったため、相対的にVandalieuに対する信用が強くなっただけとも考えられる。それでも、Amemiya達が今更Vandalieuと敵対することはありえないだろう。意見の対立ぐらいはするだろうが、Amemiya達の方から暴力を伴う本格的な敵対関係になるとは考えにくい。
それこそ、reincarnationする前にRodcorteによって人格やMemoryを消去され、reincarnation後にAlda templeで価値観を刷り込まれでもしない限りありえないだろう。
まあ、そこまでされた場合はAmemiya HirotoとAmemiya Narumiだった人であって、Amemiya HirotoとNarumi本人だとは言い難いが。
それはAmemiya coupleだけではなく、あの場にいたIwaoとDerrickも同-samaだろう。逆に、あの場にいなかったBaker達他のmemberなら可能性はあるが……Amemiyaから何があったのか聞けば、その可能性も低くなるはずだ。
中にはAmemiyaと違って、宗教的な価値観からdeath attributeにかかわる存在を全否定する者もいるかもしれない。だが、いたとしてもRokudouが特に脅威としてみなかった、有象無象のReincarnatorの一人だ。
Rodcorteもあまり期待しないだろう。
『なるほど。RodcorteにとってのRokudouの価値が、状況が変わったことで高くなったってことか。後の問題はRokudouが素直に言う事を聞くかどうかって事だが……ダメだったらMemoryと知識を消して、Cheat Abilityを持ったただのHumanとしてreincarnationさせるって手もあるしな。death attributeは、別のattributeの適性を与えれば何とかなるし』
『前、変更はできないって言っていなかった?』
『泉、お役所仕事をしている時と尻に火がついている時じゃ、言動は変わると思うよ。それに、こいつなら『Humanからの質問に対して嘘の答えを口にしたからと言って、何か問題でもあるのか?』なんて答えそうだし』
Rodcorteならそれもあり得ると、泉とKouyaは頷いた。
『まあ、RokudouがどうなるかはRodcorte次第だ。放っておこう、俺達ができることは何もない』
『いや、あると言えばあるぞ。面倒なのが、山ほど』
『……それはもう少し忘れさせていてほしかった』
Aranが振り向いた先には、【Balor】のJohnny Yamaokaや、【Ares】のSugiura Nanayaなど、Rokudou側に付いたReincarnator達の魂がいた。
彼らはそれぞれ膝を抱えて座り込み、頭を抱えてすすり泣いていた。見ているだけで陰気な気分にさせられる光景である。
比較的ましなconditionなのは【Sahadeva】のダーだが、彼も茫然としたまま石像のように動かない。それほどRokudouの敗北が彼らに与えたshockは大きかったのだ。
彼らは全員がRokudouにLoyaltyを誓っていた。そのLoyaltyは、狂信的といえる程強かった。それだけに、Rokudouが念願を叶えて『Ark Avalon』にreincarnationしたときは、心の傷も忘れて喝采をあげていた。
自分達の献身と死は無駄ではなかった。新たな神が誕生する礎となったのだと、【Balor】のJohnnyですら泣きながら歓声をあげてRokudouを称えた。
だが、そのRokudouが敗れた今では本来は強面の顔をくしゃくしゃにして泣き崩れている。
一応、既に来世にreincarnationさせられること等は説明してある。都合よくRodcorteがfaintedしているので、Vandalieuに敵対するのは勧めないと、『Lambda』の彼がどれほど強いのか、そしてどれほど強大な勢力を築いているのかも話して聞かせた。
しかし、彼らの頭の中に入っているかは疑わしい。
『とりあえず、彼らもしばらく放置するしかないだろう。正直、気の毒には思うが慰めてやる義理はない』
自身が信じた存在が敗れ去った事に衝撃を受けているようだが、彼らは全員【Bravers】の裏切り者である。それも、つい最近裏切ったのではない。Murakami達が『The 8th Guidance』と合流する前から、彼らはRokudouにLoyaltyを誓っていたのだ。
Kouya達にとっては、仲間ではなく敵に近い相手だ。死んだ後でも親身に世話をしてやる理由はない。
『まあ、確かに。しかし、それ以外に俺達にできることと言ったら……Circle of Reincarnation systemのmaintenanceぐらいか』
Aranは苦笑いを浮かべながら、数えきれない程のerrorを起こしているRodcorteのCircle of Reincarnation systemを見上げた。
『Origin』にVandalieuの魂がAdventしたために、彼の姿を見た人々が続々と導かれているのだ。中には、彼こそ新世紀の神であると称えるものまで出る始末だ。
Rodcorteにとって幸いだったのは、魂をRealizationさせたVandalieuが不特定多数の人々に向けて言葉を残すようなことをせず、意思も伝えなかったことだろう。
そのおかげで、その異形を目にしてshockを受ける人々は多くても、Guidanceまで得るのはoriginally『The 8th Guidance』believerか、よほどVandalieuのGuidanceと相性が良かった者程度に治まっている。……それでも数万人規模なのだが。
ちなみに、ただ崇めたり関心を持ったりしているだけの人々はそれよりもずっと多く、数百万人規模になる。彼らはVandalieuの魂の異形さに関心や興味を持っているだけなので、導かれてはいない。
だが……もしVandalieuがworld中の人々に向けて何かもっともらしい演説をしていたら、彼らも導かれていたかもしれない。
そうなっていればerrorを告げるアラームは今の数倍から数十倍鳴り響く事になり、Kouya達は会話もできないconditionになっていただろう。
Rodcorteにとって『Origin』はついでに捨てても構わない程度の価値となっていたが、Vandalieuのせいで捨てる事ができなかった以上、systemと接続したままのconditionになっている。それ故のconditionである。
『Origin』の大勢の人々の命を守ったVandalieuの行動は、巡り巡ってRodcorteのsystemに大きな負荷をかけることに成功していた。
『結果、Rodcorteじゃなくて俺達の仕事の量が増えるのか』
『仕方ないでしょう。本人はfaintedしたままなんだから』
そう愚痴をこぼしながら、Aran達は慣れた手つきでsystemのmaintenanceに取り掛かった。
《【Knight】、【Issun-bōshi】を獲得しました!》
《【Golem Creation】に【Issun-bōshi】が、【Soul Breaking Arts】に【Knight】がintegrationされました!》
『Origin』での一件を終えたVandalieuは、Pauvinaと一緒にAdventurer's School校の入学式に出席していた。another worldでどれだけ大変なことがあろうと、学校は関係なく始まるのだ。
『諸-kun、私が求めるのはただ二つ。それは良い成績を取る事でも、成長する事でもない。それは当校に入学し、adventurerを目指す以上当然の事だからだ。諸-kunは同世代の少年Shoujoの中では優れた素質を持っているのは、紛れもない事実だ。しかし、それだけでadventurerとして活躍するには不十分である!』
普通のAdventurer's School校では入学式は短く簡素だが、Hero Preparatory Schoolともなると校長senseiからの訓辞も含めてしっかりと行われるようだ。
magic itemで声を大きくしたElfのfemale校長が、朗々と語る。
『故に、私が求めるのは『当校の生徒である間、生まれの違いを忘れ、学友と互いに研鑽に励む事』、そして『卒業後も死なない事』だ! 後者は私が言わなくても熱心に行うだろうから、前者を特に守るように』
どうやらこの学校では、毎年Nobleのyoung childやIllegitimate Childが入学するため身分の違いによる生徒間の衝突が起きているようだ。adventurerとはbloodlineの良し悪しではなく実力が問われる職業だが、学校という小worldの中ではそう上手くはいかないらしい。
「Van……senseiの話、長くて……ちょっと眠くなってきた」
「Pauvina、senseiの話はまだ短い方ですよ」
『Earth』でVandalieuが受けた校長senseiの話よりは、Meorilith校長の話はずっと短い。
しかし、こうしたことに慣れていないPauvinaには限界が近付いているようだ。
「Vanは平気なの?」
「『Earth』では平気ではありませんでした。しかし、今になって考えると……やはり眠くなりますね」
Meorilithの話が短く、内容のあるものだったとしても「校長の話」は聞いていると眠くなるものらしい。
【Status Effect Immunity】skillを持つVandalieuに睡魔を覚えさせるとは、ある意味では強力な催眠兵器なのかもしれない。
「そういえばVan、一人で平気?」
Pauvinaと一緒に受験したVandalieuだったが、入学試験の成績の結果二人の教室は分かれてしまった。
この校長の話が終わったら、class毎に教室に分かれてまず座学という名の雑談。classmate同士の顔合わせとしてWeapon Equipmentやmagic、skillなどの得意分野について発表し、partyを組む際の参考にする。次に訓練でこの日は終わりだ。
つまり、授業の合間を除けばPauvinaがVandalieuに会えるのは学校が終わってからになる。
「大丈夫……だと思います。皆がいますから。PauvinaにもPrincess LeviaとOrbiaを付けてありますよ」
『任せてください!』
『ぐ~……っ!? あ、話し終わった?』
Princess Leviaは頼もし気に胸を張って請け負い、OrbiaはGhostなのに催眠兵器に屈して眠っていたようだが慌てて顔を上げた。
そしてVandalieuの周囲にも、JaneやKimberly、Chipuras達attribute Ghostに、背後にはGufadgarnもついている。
一人に見えるだけで彼は大勢の仲間に囲まれているので、教室でsenseiに「好きな人と二人一組になってください」と言われて誰とも組めなかったとしても、耐えられるはずだ。
「それに、いざとなったら体内のみんなと話すのに意識を向けますから」
「その『いざとなったら』って、心の問題だよね?」
「そうとも言います」
Vandalieuの【Body World】の中には、今も冥やHiroshi達が入っている。実際、催眠兵器によって催される睡魔に耐えられたのも、彼らと【Body World】のVandalieuやDemon King Familiarが話しているからだ。
立ち入り禁止区域にしていた『Origin』と同じような環境に整えた【Body World】は、急ピッチで再改造が進められていた。
なぜなら冥達が全員『Lambda』でも生きていけるようになる処置を受け入れたからだ。
「父-san達はできるだけ早く元のworldに帰れるようにするって約束してくれたけど、maybe一か月や二か月どころか、来年になっても無理だと思うんだ」
とHiroshiが言って処置を受けた。ずっとVandalieuの中にいるのもなんだしと。
そのため、役目を終えた立ち入り禁止区域は他の【Body World】と同じ環境に戻されることになったのだ。
そして彼女達の適応力は体だけではなくMental面でも発揮されていた。
『人のふりをしなくていいから、作業paceが上がりましたね』
『皆が早く慣れてくれてよかった、よかった』
当初、Vandalieuは移住した冥とHiroshi以外の実験体や被害者達がDemon King Familiarの異形さに怯えることがないよう、Demon King Familiarを偽装させていた。
雑な着ぐるみモドキや布で体を覆って姿を誤魔化し、手足の数を隠し、Humanらしい動きを心掛けた。しかし、そうすると当然肝心の作業効率が落ちる。そもそも、main bodyであるVandalieuが演技のできない性格だ。下手な演技をどうにかするために意識が割かれてしまう。
それをしなくてよくなったので、Demon King Familiar達は生き生きとcompound eyesを輝かせ、countlessの腕やtentacleを使って作業していた。
Vandalieuはその作業風景を離れた所から、不備が無いか見守っていた。……彼自身の感覚では作業しているのも見守っているのも自分自身なので、主観的にはややこしいが。
「遠くからこちらを眺めるRicklentと、彼女の三つの肩にZuruwarnが前足やtailを置いて慰めている夢を何度か見ながら作った場所でしたが、必要だった時間は短かったですね」
「なあ、RicklentとZuruwarnって誰?」
「このworldのKami-samaです」
立ち入り禁止区域を『Origin』のworldと同じ環境にするため、Vandalieuはまず区域内に『Origin』には存在しないtime attributeのManaが入り込まないよう徹底的に細工を施した。
それで『Magic God of Time and Arts』Ricklentが拗ねてしまったらしい。三人の美女、もしくは老人と青年とchildの姿を持つRicklentを慰めるのは、よく行動を共にする『God of Space and Creation』Zuruwarnでも大変だっただろう。
『ほかにも空気の成分とか、植物、菌などに気を使いました。気温と湿度にも』
『まあ、再現したのは空気だけで、後は雑菌やvirusを【Sterilization】して済ませましたけど』
Demon King Familiar達がそうHiroshiに話しながら、通り過ぎていく、彼らも複数の脚やtentacleを伸ばして刻印されたmagic陣を消したり、物資を運びだしたりで大忙しだ。
「そういえば、Amusement Parkも作ってくれたって本当? それもなくしちゃうの?」
「ええ、Amusement Parkも作りましたよ。移転させるだけで、Dismantlingはしません。attractionの動力は電気ではなくManaとDemon King Familiarによる人力ですが」
冥やHiroshiの遊び場の一つとして、Vandalieuは玩具だけではなくAmusement Parkも小規模だが作っていた。ただ複雑な機械は作れないので、電気で動くモーターではなくManaで動くmagic itemか、Demon King Familiar達がペダルやレバーを漕いだり回したりして動力を補っている。
「……人力?」
「メリーゴーラウンドなどの乗り物系は、だいたいDemon King Familiarが動かしています。Manaで動かすよりも楽でしたから」
禁止区域内では、念には念を入れて『Lambda』の霊を宿らせて作ったGolemを使っていない。その代わりをDemon King Familiarが担っていた。
木馬や馬車がmusicと共に回るメリーゴーラウンドの下では異形のDemon King Familiarが歯車を回し、musicを奏でている。お化けmansionのお化けの人形の中身も、Demon King Familiarである。
「いや、そうじゃなくて……人?」
ただ、Hiroshiが疑問に思ったのはそこではなく、Demon King Familiarの労働が動力を担っている事を『人力』と評す事に対してだったらしい。
「Hiroshi、Bandaに慣れているからそう感じるのかもしれませんが、俺はHumanです。だから、俺のCloneのDemon King FamiliarもHumanです」
「ええ~、そうかな~?」
Vandalieuの暴論に疑問を呈すHiroshi。納得してくれない彼に、Vandalieuは無表情のままどうしたものかと困った。
(HiroshiはMe-kunと違って、にょろにょろが効きませんからね。お菓子での買収を考えるべきでしょうか?)
「Hiroshi、何をしている。授業が始まっているぞ」
その時、Hiroshiを探しにGabrielがやってきた。
「えっ!? 俺も受けないとダメなの!?」
「ダメなの」
HiroshiやGabrielを含め、Vandalieuが保護したRokudouの被害者の大半の未成年者の為に、臨時で学校が作られていた。Instructorは冥が作ったUndead達で、『Origin』の国語や数学を中心に習う予定だ。
将来、『Origin』へ戻ると決めた時不自由しないためだ。death attributeの力を与える処置をまだ受けていない被害者なら、過去を隠せば『Origin』に戻っても普通に暮らすことができるかもしれない。
尤も、大半が『Lambda』に移住することを決めているので、念のために過ぎないが。
「ちなみにHiroshi、『Lambda』の言葉やmagic、legendについて教える授業も始める予定ですから、-chanと受けてくださいね」
「それは面白そうな気がするけど、勉強って考えると微妙な感じがする。それよりさ、magicの修行をまた見てくれよ!」
「勉強の後でなら見ましょう」
本意ではないが、Amemiya coupleの信用には応えなければならない。それがなくても教育を受けることはHiroshiにとって将来のpropertyになるので、受けさせるつもりだが。
もちろん、Vandalieu本人が学校にプレッシャーを覚えている事は棚の上に置いておく。
「約束だぞ! 嘘ついたら崇めてやるからなー!」
「あまりわがままを言うな!」
Vandalieuにとっては恐ろしい脅し文句を叫ぶHiroshiの手を、Gabrielが引いて学校へ連れていく。
ちなみに、Instructorは『Origin』で大統領や長官を務めたElite達のGhostだ。いい大学を出ているので、生前は国を裏切った売国奴でもそれなりに頑張ってくれるだろう。
GabrielとHiroshiを見送った後、『Body World』のVandalieuはUlrikaやMariの所へ向かった。彼女達には普通の意味での勉強は必要ないが、他の勉強……accurateには勧誘が行われているのだ。
「なるほど、最近の『Origin』はそうなっていたんですか……まさかあの子が電撃debutしてそのままtop Idolの地位を確立するとは。
誰がプロデュースしたのか、知ってます?」
「いや、私は知らない。さすがにIdolの話は、Rokudouのshadow武者をするのに必要なかったから」
「私も詳しくは……。冥-chanと見たアニメの主題歌を歌っているのが、そのIdolだったからnameを憶えていただけで」
「……二人ともIdolに関心がないのに、よくnameまで覚えられたわね。私はJackと会うまで歌手のnameなんてほとんど覚えられなかったのに」
ただ、草原にランチマットを敷いて二人と話しているKanakoと瞳は、まだ本格的な勧誘には入っていないようだったが。
「そうですか。実は、彼女はIdol時代のsenpaiの娘-san、つまり二世Entertainment人なんですよね。だからちょっとだけ気になって」
「……Kanakoって『Earth』と【Bravers】以外では社交性というか、人付き合い上手かったのね。imageがかなり変わったわ」
「同じく」
MariとUlrikaは、再会した【Venus】のTsuchiya Kanakoが以前と印象が異なる事に戸惑っていた。
「まあ、あたし達が死んでから結構経ってますからね。四年……いや、五年でしたっけ?」
「覚えてないのか?」
「はい。永遠の十五ageになったので、ageを数えるのは止めたんです」
「私は数えているわ。Jackと一つになってから、毎日が記念日だもの」
「……Kanakoより瞳の方が変わったかもしれないわね。まるで別人だわ」
Kanakoと瞳は、再会したMariとUlrikaに気さくな態度で接した。「Amemiya達なら、まあ上辺だけでも一言謝った方が穏便に済むだろうけど、あなた達なら別にいいでしょう」とKanakoは言い、Mariはそれに「そうしてくれると助かるわ」と応えて受け入れたのだ。
なお、冥は四人とBandaに見守られて、Giantな肉色の粘土……Legionを伸ばしてNYORONYOROを作成している。
「永遠の十五ageなら、Kanakoの誕生日Cakeはもう焼かなくていいですか?」
「っ!? ageを数えるのと誕生日は別だって、前にも言ったじゃないですか!」
Vandalieuがそう言って会話に入ると、Kanakoは慌てて今年もCakeを獲得するために抗議の声をあげる。その-sama子を見てMariとUlrikaは苦笑いを浮かべた。
二人は既にKanakoがVandalieuの婚約者の一人である事をKanako本人から聞かされ、腰が抜けるほど驚いた後だった。
(『Earth』で助けられたからって探していたNarumiが『Me-kunとHiroshiの母親』で、『Earth』では同じclassだっただけのKanakoが『Kanako』。何が起こるか分からないのが人生って言うけど、本当に分からないものね)
そうMariが思うほど、VandalieuのKanakoとNarumiの扱いには大きな差がある。Kanakoは仲間だが、Narumiは冥とHiroshiの親……つまり、それ以外の価値を認められていないのだ。
それを知れば、既にAmemiya Hirotoと結婚してVandalieu……Amamiya Hirotoへの思いは既に思い出と変わっているNarumiとしてもいい気はしないかもしれない。もっとも、薄々察しているかもしれないが。
(まあ、私が同情するようなことでもないかもしれないけど)
そう考えて思考を切り替えたMariだが、VandalieuがNarumi達に脳改造を施すことも視野に入れていたと知ったら、しっかり同情する事だろう。
同情するだけだが。Mariにとっても、かつての仲間であるNarumi達より冥の方が大切だからだ。
「まあ、冗談はともかくとして、皆のTransformation Equipmentも作らないといけませんね。Hiroshiはしばらくあの防御特化Typeでいいとしても。希望はありますか?」
「あ、それならJosephやAmemiyaみたいなマントが欲しい。それとHelmetも。……顔や体を隠すときに便利そうだ」
「私は今のままでもいいけど。【Metamorph】を使うとき、一緒に変化してくれると助かるけど、できる? 色だけでもいいから」
「後、Stage映えするようにしないといけませんね」
「「なんでStage映え!?」」
Vandalieuの言葉に、それぞれ希望を述べる二人。だが、ごく自然な口調で口を挟んだKanakoに対して驚いて聞き返した。
「Stage映えは重要ですよ。実際にStage debutするかは分かりませんが、最初から選択肢を狭める事はありません」
しかし、Kanakoは真顔でそう答えた。
困惑する二人に、瞳がニィィっとlipsを歪めてSmiling Faceを作る。
「二人の方から、色々教えてほしいってVandalieuに頼んだのよね。それでVandalieuが『知り合いの』Kanakoと私達をintroductionして、その人選に納得したのよね?」
なら諦めなきゃダメじゃない。そう言外に求めてくる瞳に、MariとUlrikaは自分達がTrapにかけられた事に気が付いた。
「ええっと、まさか私達をIdol debutさせようって言うんじゃないわよね?」
「そ、それはないだろう、Mari。appearanceを若くできるお前はともかく、私なんか普通に三十過ぎのおば-sanだぞ。それに歌もカラオケで歌う程度だし、danceなんて全く経験がない。しかも、Emotionalに不stabilityだ」
「そうよね。私も、danceなんてRokudouのshadow武者をするために覚えさせられた社交danceのmaleパートぐらいしかできないし」
『Origin』でも『Earth』でも、この条件でIdolとしてdebutさせるEntertainment事務所は無いだろう。Mariが【Metamorph】をfull活用すれば別かもしれないが。
「私としてはそのつもりです。二人は期待の新人ですからね! 安心してください、このworldのEntertainmentは『Origin』より未発達ですから競争は激しくないし、後ろ盾はMountain Range並みの頼もしさなので何とかなります」
しかし、『Lambda』のEntertainment Worldで最も有力なProducerーでもあるIdolは、二人が望んでもいない太鼓判を押した。
「本気なの!? 瞳!?」
「あ、私はもうdebutしたから。それで、二人も引きずり込んで同類にしようかなって。
ちなみに、Pluto達も同-samaよ。最近、こうして分裂しても少しの間ならHumanの姿にTransformできるようになってからは、私達だけのStageもあるのよ」
「うああああっ!? 昔の仲間が私をTrapにはめようとしている!? 助けてBandaっ!」
「俺はVandalieuですが、まあ同一人物なので呼び方はどうでもいいとして……実際にIdol debutするかはともかく、歌とdanceでSelf表現をするのは良い事だと思いますよ」
Ulrikaが助けを求めてVandalieuに縋りつくが、残念なことにKanakoの言う「Mountain Range並みに頼りがいのある後ろ盾」とは彼の事だ。
「stressの軽減になりますし、Dancingは武に通じるとも言います。怖がらずにやってみませんか?」
「ああ……分かった……Bandaが言うのなら……やってみよう」
虚ろな眼差しになったUlrikaは、そう言って頷いてしまった。Bandaや冥、HiroshiにMentalを支えられている彼女は、Vandalieuに説得されたことで、「やってみてもいいのではないか?」と考えてしまったのだ。
「……まあ、考えてみれば他の人と同じ事をするgroupに入れば、打ち解けられるようになるかもしれないし」
MariはUlrikaの-sama子に溜め息を吐いた後、そう自分を納得させて頷いた。
この時点では二人とも本格的にdebutする気はないが、Kanakoもそれぐらいは分かっているので今後の算段はつけていた。
(まずは仲間内での発表会。次に親しい友人のhome partyの余興、そしてTalosheimに慣れたらBack Dancer……うん、この流れで行ける!)
Idolと思うから特別に感じるのだ。感覚をマヒさせて、Stageを生活の一部だと感じさせ意識させない段階までもっていけば、debutは可能だ。
ソロConcertだとか、groupのcenterにとか、そうしたことはdebutした後考えればいい。やはり本人の希望や向き不向きがある。
Stageよりもadventurer(Explorer)として活動し、achievementを挙げる方が向いている人もこれから出てくるはずであるし。
(戦闘訓練の方はZadiris -sanに任せてあるので、彼女ならTransformation Equipmentの装備としての魅力を確実に教えられるはずです)
「じゃあ、二人ともlessonに参加するという事で。
あ、足が崩れてますよ」
「あら、そろそろ時間だ。じゃあ、私はまたみんなの所に戻るから」
足がどろりと崩れ肉色の粘土のようになっているのに気が付いた瞳は、そう言うとTransformを解いた。その途端、彼女は人一人分程度のchunk of meatに戻ると、Legionの方へ這って戻って行った。
『ただいま、みんなあああああ伸ばされるぅ~』
『お帰りぃぃぃあなたも細長くなるのよぉぉ』
『ひとぉみぃちやああん……』
そしてFusionした途端に、冥がNYORONYOROと細長くしてしまう。
「Bandaっ、できた! NYORONYORO Legion、ニョロオン!」
『すごいですね、Me-kun。皆も、Me-kunのために柔らかくなってくれてありがとう』
『彼女はMini-Plutoみたいなものだからね』
『親には異論があるだろうが、あたしらの仲間同然だよ』
Legionと冥の顔合わせも、穏やかに成功したようだ。
Vandalieuの【Body World】は、体外と違ってにぎやかだった。
〇Job解説:Hollow King Mage
【No-Attribute Magic】をSuperior SkillにAwakeningさせたか、Awakeningさせる可能性が高い者が就く事ができるJobの一つ。『Lambda』ではNo-Attribute Magicを他のattribute magicを覚える際の練習代わりや、magicの汎用性を増すための補助として覚える者が多数を占める。そのため、今までattribute magicをSuperior SkillにAwakeningさせたMageは何人も存在するが、【No-Attribute Magic】をSuperior SkillにAwakeningさせた者はいなかった。
そのため、【Cannot learn existing jobs】のCurseを受けているVandalieuでも就く事ができた。
当然新発見のJobだが、Mage guildではNo-Attribute Magicを極めれば【No-Attribute Mage】の上位Jobが出現することは予想していた。
しかし、その予想を確かめるために【No-Attribute Magic】の研鑽に人生をかける者はいなかったようだ。
いくらSuperior SkillにAwakeningしても、平均的な一流のMageのManaは一万程度であり、『Lambda』に存在するmagic媒体(いわゆる杖)の性能では、全Manaを振り絞っても【Hollow Cannon】はcertainly【Hollow Bullet】を撃つことも難しいので、人生の選択として選ばないのは正解である。
〇Job解説:Divine Spirit Mage
神の領域に至ったGhostと協力関係を結び、Manaを提供する代わりにmagicを行使してもらう【Divine Spirit Magic】skillを主に扱うJob。【Spiritual Mage】の上位Jobである【Spirit King Mage】、【High Ranking Spiritual-Mage】などに相当する。
Rank13以上のGhostと協力関係を結ぶか、支配することができる者が今まで存在しなかったため、VandalieuがJobに就く事が出来た。
当然新発見のJobであり、Adventurer’s GuildやMage guildはJobの出現条件どころか、Rank13以上のGhostが実在する事すら確認していない。
〇Job解説:Dungeon Master
Dungeonを作成し、支配している者が就くことができるJob。当然だが、通常の『Lambda』のHumanも、Vida's New Racesも就くことはできない。(一部のVida's New RacesはDungeonに集落を築いているが、それはDungeonを利用して住んでいるだけで、支配している訳ではない)
このJobに就けるのは、未来永劫Vandalieuだけだろう。GufadgarnがJurizanapipe(Lissana)のように、完全にHuman(もしくはVida's New Races)にreincarnationした場合は別だが。