崩れた壁に埋もれたRokudouは、立ち上がりながらも愕然としたままだった。
「BAKANA……この私が、神となったこの私が……Amemiyaでも娘に憑いているAmamiya Hirotoでもなく、ただのガキに……!?」
自分を一発のmagicで吹き飛ばして壁にめり込ませた。それがこれまで最大の脅威として認識していたAmemiya Hirotoや、最近になってようやく認識したAmamiya Hirotoだったのなら、彼は納得しただろう。
『思い知ったか! このハ~ゲ! ハゲ道!』
だが、それをしたのはAmemiya Hiroshi。Amemiya Hirotoの息子だった。
Rokudouが知る限り、Amemiya Hiroshiは特別ではない。彼が調べたところ、ReincarnatorのCheat AbilityやFortuneはbloodによって遺伝されない。それ以外にbody part的な素質は遺伝するが、それだけだ。ほかのchildよりaptitude豊かになる可能性が高いだけで、同じくらい優秀なchildはこのworldにいくらでもいる。
Amemiya Hiroshiもその例外ではない。たしかに、あと十年あれば、彼はCheat Abilityを除けば【Bravers】のmemberに引けを取らない実力を持つ立派なWarriorになったかもしれない。Rokudouも警戒する捜査官や、科学者、Mageになれるかもしれない。
だが、今はただの少年のはずだ。同じ年頃のchildの中では抜きんでていても、『Ark Avalon』となったRokudouにとっては誤差の範囲でしかないはずだ。
「その貴-samaが、何故……がはっ! ぐぅっ」
Rokudouは吐bloodすると、Hiroshiの放った【Mana Bullet】が直撃した胸部を押さえた。肋boneが折れ、boneがlungに刺さっている。それに気がついた彼は、さらに驚愕した。
(とっさに張ったBarrierがなければ、肋boneだけではなくheartとlungを叩き潰されていたかもしれない! 神になった私が、何故っ!? ……そうか、わかったぞ)
「Rokudou -san!?」
「心配は無用だよ、Moriya。この程度の傷はすぐに治る」
originally生命attributeは使えなかったRokudouだが、今は他のattributeの回復magicも使えない。しかし、『Ark Avalon』は最初から回復magicが使えなくなることを予想して、対策を盛り込んでから培養されたBodyだった。
Rokudouの想定よりはやや遅れているが、驚異的な速さでlungと肋boneは再生しつつある。
『父-san、大丈夫? injureしてない?』
「ああ、大丈夫だ、Hiroshi。それより、その格好は……僕達のSuitと同じ物か。彼からもらったのか?」
『うん、父-san達みたいなのが良かったんだけど、防御特化だからってBandaが』
Amemiyaの方は、見た目だけならRokudouよりも悪役らしい格好になったHiroshiと会話を交わしていた。そして、安心した。
「そうか、彼が防御特化とまで評したSuitなら、大丈夫だな」
『でも、格好悪くない? Bandaの奴、絶対目が多い方がクールとか、そんな勘違いしてるよ』
「そんな事はないさ、決まってるよ。最近の漫画や映画じゃ、見た目は悪そうだけど心の優しいCharacterに人気が出るそうじゃないか。それと同じさ」
『父-san、見た目が悪そうにしても限度があるよ』
『親子の会話の途中で恐縮ですが、今のうちに追撃しなくていいのですか?』
Hiroshiが出てきた壁の穴から、Bandaが現れた。背後にはMariもいる。
「Papaっ! 兄-chanは、NYORONYOROがあればもっと格好良くなると思う!」
そしてBandaの中には冥もいる。
「-kunか。HiroshiにまでSuitをありがとう。助けに行った被害者と、Ulrika達は?」
『Hiroshiに手伝ってもらって、安全地帯を作ってきました。悪のMageの研究所はいいですね、使える物資に事欠かない』
Rokudouが放ったShockwave of Deathのように、Death-Attribute Magicに対する本格的な防御が施されたroomはこの施設に存在しない。
そのため、Transformation Equipmentを着たHiroshiに適当な床や壁を剥がしてもらい、Bandaが研究室等から集めた素材まで惜しみなく費やして、【God Alchemy】でmagicを付与して即席の対Death-Attribute Magicシェルターを作り上げた。
『もしもの時のためにUlrikaと、彼女を宥めるためにGabrielを置いてきました。またShockwave of DeathをRokudouが放っても、平気でしょう』
そう答えながら、Bandaは戦況を見回してこう続けた。
『Hiroshi、BokorとYuki Joroを助けに行ってくれますか? 彼のTransformation Equipmentは、あなたのEquipmentほど丈夫ではありませんから』
『えっ、俺でいいの!?』
『大丈夫です。両親には俺から言っておきますから』
「冥からも言っておく!」
『いや、目の前にいるし』
そんなHiroshiをAmemiyaは苦笑いを浮かべて見送った。Hiroshiの防御特化のTransformation Equipmentは耐寒性も優れており、Moriyaが作り出したcoldのArtificial Spirit Ymirの攻撃を防ぎきり、難なくBokorと交代することができた。
そして、BandaがHiroshiにそれを頼んだのは彼を気遣う故だ。以前とは違う姿とは言え、一度は尊敬していたRokudouとこのまま相対させ続けるより、しょせん人工のManaの塊であるYmirの相手をさせた方が彼のstressは軽くて済むだろう。
「ありがとう」
『それより、Department of DefenseがPlutoの死のManaで包まれたときに使った、生命attributeとLight AttributeのManaを合わせたmagicは使わないのですか? それなら、RokudouのDeath-Attribute Magicにも対応できるはずですけど』
それを察したAmemiyaの礼を無視して、Bandaは尋ねた。『Blue-flame Sword』のHeinzが使った対Death-Attribute Magicと同じ原理のmagicなら、RokudouのBarrierも難なく破れるはずだと。
「残念だが、あれは無理だ。あれを使うには二つのattributeを一つのmagicに収束し、維持するのに集中しなければならない。そのため、僕はそれ以外の事ができなくなる。
あの時は術者のいない、ただ漂っているrunawayしたManaにぶつけるだけで良かったが……」
『Rokudouのように動き回る敵には無理ですか』
「習熟しようにも、使う機会がなかったしね。Undead関連のmissionはRokudouが他のmemberに振っていたし。maybe、切り札を持たせるのが嫌だったんじゃない?」
Mariの言うように、『The 8th Guidance』が壊滅してからはdeath attributeのManaは以前に創られたmagic itemに付与されたものだけで、Amemiyaが相手をするようなmissionはなく、腕を磨く必要性はほとんどなかった。
それに、runawayしたPlutoのManaという例外を除けば、Limited Death-Attribute Magic師と戦うのは他のattribute magicやWeapon Equipmentだけで充分だったという理由もあり、Amemiyaはそのmagicに集中して技を高める必要がなかったのだ。
「『The 8th Guidance』のRemnantsがいるらしいと聞いてから、多少はTrainingを積んだから、少しは動きながらでも使えるが、Rokudou相手には難しい。期待を裏切ってすまないが」
『そのEquipmentを身に纒っていれば、多少は使えるようになるかもしれませんよ。magic媒体としての性能には自信があるので』
「そうか、じゃあ試してみよう」
「話は一段落したかな? なら、私に代わってもらいたいな。worldで初めてDeath-Attribute Magicを習得したMageと、この『Ark Avalon』を生み出すのに貢献してくれた失敗作と、話がしたいのでね」
Amemiya達が話している間に傷を再生させたRokudouが、そう話しかけてきた。
『俺は話すことは何もありませんが』
「僕も。childの前で恨み言を言うのもみっともないし」
「そうか、それは残念だ。先達に私のmagicの技を見てほしかったのだが……このようにね!」
Rokudouは、見せつけるようにして再び黒いShockwave of Deathを放った。しかし、既にそれが効かないことを知っているAmemiya達に動揺はない。
しかし、Bandaはclicking tongueの代わりのようにArthropod Legsの一つを床に打ち付けた。
外に展開しているVandalieuの魂の負担が増えたからだ。しかも、外ではまた他の基地から来たらしい戦闘機が蠅のように飛び回っていて、負担は増えるばかりだ。
Rokudouの魂を砕くために施設の中に入りたいのだが、それがまたできなくなってしまった。
「どうかな? 外の-kunに防がれてしまう程度の術だが、なかなかのものだろう? 少なくとも、そこの失敗作や-kunには使えないようだが」
『……まあ、たしかに使えませんが』
「う~っ」
得意げなRokudouに、苛立ちが籠った視線をBandaの代わりに向ける冥。彼の内心のemotionsは、彼女が代弁しているのでとても分かりやすい。
そして『Shockwave of Death』は、Rokudouが言う通りBandaやVandalieuにとっても、『使えない』術だった。
『俺はManaが大きいために、どうしても制御力がいい加減ですからね。お前のように、配下を対象外にするような器用なことができない。使ったら、自分でも把握しきれない範囲にわたって無差別に攻撃してしまいかねない。だから使えないだけです』
ただ、それは攻撃手段として使えない……有用ではないから使わないだけだった。
Vandalieuが『Lambda』worldで同じことをすれば、百億以上のManaを込めたShockwave of Deathが全方向に向かって放射され、無関係な人々だけではなく彼の仲間すら巻き込まれてしまう可能性が高い。
そうでありながら、Shockwave of Deathは大雑把な攻撃でしかない。雑魚にとっては逃れようのない広範囲の無差別攻撃だが、Vandalieuが警戒するような実力者にとっては大量のManaを薄く延ばして放つ雑な攻撃でしかない。Barrierを張るなり、攻撃magicを放って衝撃波に穴をあけて潜り抜けるなり、何らかの方法で回避してしまうだろう。
たとえば、Trial's Dungeonに入る前のHeinz達なら殺せたかもしれないが、今のHeinz達にはとても通じないはずだ。
そんな雑な術を仲間の犠牲前提で使うよりは、他の指向性のある術や【Demon King Fragment】を使って戦った方がよほど有用だ。
『まあ、あなたが使う分には間違っていないと思いますよ。少ないManaで俺のmain bodyを抑えられる、小賢しいがtactics的には正しい選択です』
「……言ってくれるじゃないか」
Bandaの評論にRokudouはprideを傷つけられたが、冷静さを保とうと顔を僅かに歪めるだけに留めた。
『いや、自分を棚に上げてMariを失敗作呼ばわりするあなたほどではありません』
だが、次のBandaの言葉によってRokudouの自制心に大きな亀裂が入った。
「それは、どういう意味だ? 私が、この『Ark Avalon』がそこの失敗作と同じだとでも言いたいのか!?」
以前の彼なら、『Undead』との遭遇以後十年以上に渡って野望を隠し、表と裏の顔を使い分けていた頃の自制心があれば、この程度の事で動揺を露にすることはなかっただろう。
だが『Ark Avalon』に自力でreincarnationし、それまでとは比べ物にならない力を手に入れた彼は、BodyだけではなくMentalにも変調をきたしていたのだった。
今の彼は、以前の自制心を持ち合わせていない。
「childの操り人形風情が! いいだろうっ、貴-samaを操るAmemiya Meiを殺し、この世にしがみつく貴-samaを消し去り、私こそが唯一のDeath-Attribute Mageとなる!」
『Mariを失敗作呼ばわりするだけでなく、Me-kunが俺を操っているとは……苛立ちのあまりKilling Intentを覚えますね』
そして、Bandaの自制心も振り切れる寸前であった。
Vandalieuの一部であるBandaは、彼と同じ人格の持ち主である。つまり、身内贔屓で過保護な性格の持ち主だ。
それが取るに足らない有象無象からならともかく、RokudouのようなMariを苦しめ冥を狙う張本人の口から彼女達を侮辱する言葉が出るのは、彼にとって耐えがたい事なのだ。
だが、体からdeath attributeのManaを漲らせて攻撃magicを唱えるRokudouとは違い、激高することはなかった。
『では、Rokudouの相手をお願いします』
「……Provocationするだけして僕に任せるのか。いや、最初からそのつもりだけど」
『Me-kunとMariも援護しますから』
「Papa、がんばって!」
Bandaの胸元から顔とステッキを持つ手を出した冥の声援を受けながら、Amemiyaは再びRokudouと戦うために前に出た。
「貴-samaは、私にとってもはや脅威ではない!」
そう叫びながら、Rokudouが青白い炎の矢を放ち、青白い炎の鞭を繰り出す。触れれば体温を奪われ、死んでしまうだろう。
「それは驕りすぎだ!」
Amemiyaはその青白い炎に対して、Water-Attribute Magicの乱射で応じた。熱を含まないcoldの矢や槍に、Rokudouの青白い炎は効かない。しかし、RokudouはAmemiyaの攻撃magicが届く前に、自身を中心にBarrierを張り巡らせた。
「私は『Undead』……Amamiya Hiroto以上にDeath-Attribute Magicを使いこなしている! 奴が使った術は、全て使うことができるのだ!」
Rokudouが叫ぶと同時に、【Magic Absorption Barrier】がAmemiyaの攻撃magicを消し去る。
「くっ、【Life Light Sword】!」
Amemiyaは自身の攻撃失敗にclicking tongueをしつつ、Light Attributeと生命attributeを合わせた刃を作り出した。これが、彼が対『The 8th Guidance』のRemnants用に最近編み出したmagicだ。
以前は手から照射する事しかできなかったが、手元に留めて近接Weapon Equipmentとして扱い続けることができるようにしたのだ。
(このSuitのおかげか、今まで使っていたmagic媒体で唱えた時よりもずっとstabilityしている。これならいけるか!?)
Amemiyaは剣を振るって青白い炎をかき消し、鞭を切断する。
「なるほど! -kunも研鑽は怠らなかったようだ! だが、私にmagicで勝てると思うことこそ驕りだ!」
しかし、Rokudouは黒い雷やcrystalを作り出し、Amemiyaに向かって放ち続けた。かわしきれないそれらを【Life Light Sword】で叩き落とすたびに、AmemiyaのManaは削り取られていく。
「その対Death-Attribute Magicの効果は絶大だ! だが、私を間合いに収めるまで保つか――」
『Me-kun、今です』
「起きて!」
「おわっ!?」
勝ち誇るRokudouの足元の床が、忽然と消えた。ステッキを振った冥によって、霊が床にPossessionしてGolemと化し、形を変えたのだ。
「ぐっ、おおっ!? お、落とし穴だと!?」
穴はRokudouのlower bodyがすっぽり入る程の深さだったため、転落して体を打ち付ける事はなかった。しかし、前触れもなく地面が消えたため、彼の体勢は大きく崩れた。
それはAmemiyaが接近するのに十分な隙になった。
「すごいな、うちのchildたちは」
そう言いながら、素早く剣をRokudouの頭部に向かってthrust出す。
「くっ! いつから貴-samaの家ではmonsterに家庭Instructorをさせるようになったんだ!?」
「さあ、accurateなところは僕も知らない!」
とっさに【Magic Absorption Barrier】を盾のように張って剣を防ごうとするRokudouだったが、Amemiyaの対death attributeの剣はBarrierをやすやすと切り裂いてしまい、目隠しほどにしか使えない。
武術でもRokudouはAmemiyaに引けを取らない、『Ark Avalon』となったことでbody part Abilityが上がった今では僅かに上回っている。
しかし、lower bodyが穴にすっぽり入っていて動きが取れないconditionでは、Amemiyaの剣をさばき続けることはできない。
致命傷には程遠いが、Amemiyaの剣がRokudouの体に幾筋もの傷を刻んだ。
「ぐううううう!」
その傷はHiroshiの【Mana Bullet】によるものよりもずっと浅かったが、Rokudouに鋭い痛みを与え、また傷口から流れる青黒いbloodは止まるsignがなかった。
Death-Attribute Magicを使うのに適したBodyを創ろうとするあまり、彼のBodyはdeath attributeのManaを含みすぎていた。そのため、【Life Light Sword】の攻撃に極端に弱くなってしまったのだ。
「Rokudou -san!」
とっさにMoriya達が駆けつけようとするが、今度はそれぞれを相手にしているDerrickたちがそうはさせまいと押さえにかかる。
「くっ、邪魔なんだよぉ!」
【Knight】のKatouはspace attributeの鎧でIwaoの銃やmagicによる攻撃を歪曲させ、振り切ろうとする。
「それはお互い-samaだ!」
しかし、spaceを捻じ曲げても回避できない重力の槌をIwaoが放ち、動きを止める。
「childたちが頑張っているのだもの。情けない姿を見せるつもりはないわ!」
【Issun-bōshi】のShizakiが放つGrowした銃弾を、Narumiは危なげなくmagicで作り出した壁で防ぎきる。
「あんたの事は、昔から気に食わなかったの……よ!」
状況を打破しようと、ShizakiはEarth-Attribute Magicで作り出した小さな石の散弾を、Narumiに当たる寸前にGrowして意表を突こうとしたが、それも読まれており彼女が再び作り出したmagicの壁で防がれてしまった。
Katouの【Knight】は鎧のattribute・特性によって弱点があり、それを見抜かれるとweakという弱点があった。そしてShizakiの【Issun-bōshi】は、物体しか大きくできない。そのため、どんなに大きくしても同じ物体で防がれてしまう。
もちろん二人はそうした弱点があっても、【Bravers】のmemberの中では強い部類に入る。弱点があったとしても、それを補える実力と経験もあった。しかし、対するIwaoやNarumiもそれは同じだ。
そしてKatouとShizakiにはRokudouのDeath-Attribute Magicによる付与magicの援護があるが、IwaoとNarumiにもBandaから渡されたTransformation Equipmentがある。
そして、Transformation Equipmentの高性能さから戦況は【Bravers】の方に傾きつつあった。
「くそっ! Amemiyaの家にはmonsterしかいないのか!?」
唯一フリーに見えるのは【Shaman】のMoriyaだが、彼は自身のCheat Abilityで作り出したArtificial Spiritの制御で手いっぱいの状況だ。
IfritもCharonも、JosephとYoudoの善戦によって身動きが取れない。Ymirに至っては、今はHiroshiによって一方的に殴られている。
『このっ! このっ! このぉ!』
腕を振り回すだけの、技など何もない力任せの攻撃。だが、それをしているのはGiantなMonstrosity型の金属製Suitを着ている少年だ。
防御特化のはずなのに、一撃が信じられないほど速く、重い。これで動きに無駄がなければ、Ymirは既に粉々に砕かれていただろう。
しかも、その間にBokorはNanamoriの【Asclepius】で治療を受けており、Yuki Joroは既にIfritの相手をしているJosephの援護に向かっている。
このままではRokudouの救援に向かうどころか、Moriya自身が救援を必要とするのも時間の問題だ。
「手が足りない……!」
Moriyaの悔しげなうめき声が、Rokudouが抱えさせられた弱点を表していた。
本来なら、Rokudouの策が成った時点で【Bravers】は分断されて纏まった戦力を失うはずだったのだ。Amemiya達を始末するのに失敗したとしても、それぞれの居場所は異なっており、Rokudou達の協力者が牛耳る国際的な航空網を使わなければ、合流もままならない。
だが、大型のバンをぶら下げてFlightするMonsterによってAmemiya達は合流しteamを維持することができた。
逆に、Rokudou達はAmemiya達を各個撃破するために派遣した【Balor】や【Sleipnir】、【Ares】、【Artemis】、【Sahadeva】、そして起死回生の一手だった【Copy】まで返り討ちにされてしまった。
そして使い捨ての戦力として使えるはずだった実験体も、裏切り者が出てしまいこの局面では使えない。Undeadは、言うまでもないだろう。
各個撃破を狙ったはずが、逆に各個撃破されてしまい、戦力が不足してしまったのだ。
その事を『Ark Avalon』にreincarnationすることに成功したRokudouは、全能感に酔ったことで、そしてMoriya達も生まれ変わったRokudouへの崇拝によって、忘れ去ってしまったのだ。そもそも、自分達はどうしようもないほど追い詰められていたという事実を。
だが、このままRokudouも終わりはしない。
「私を舐めるなぁっ!」
Death-Attribute Magicで酸性の霧を作り出したのだ。Amemiyaは刺激臭を警戒して反射的に距離を取り、その間にRokudouは自身の脳のリミッターを外し、限界以上のbody part Abilityを発揮して落とし穴から跳ねるようにして脱出した。
「無生物を操作する……Undead Transformationさせるmagicか。それぐらい、使い方の見当はついている!」
『Undead』が行っていた、無生物のUndead Transformation。それをMariはDeath-Attribute Mageの『Black Maria』となった後も、使うことはできなかった。
RokudouはそれをMari自身の技術力の欠如、もしくは失敗作であることが原因だと考えていた。
だから、『Ark Avalon』となった今の自分なら、使うことができるはずだと確信していた。
「目覚めよっ! そして私に従え!」
Rokudouの声に応えて、Golemと化した床と天井がAmemiyaとその後ろでこちらを見ているBanda達を襲う……ことはなかった。
「な、なにっ!? なぜ動かない!?」
床や天井はGolemになることはなく、ピクリとも動かなかった。
「めー、-kun」
「うん。目覚めて、そして私に従っちゃえ?」
だが、促された冥がステッキを振るった次の瞬間、驚愕のあまり動きを止めたRokudouの周りの床からcountlessの手が生えて彼の脚をつかんだ。
「っ!? ぐごあっ!」
そして、天井がHammerのようにRokudouの頭部を打ち付けた。そのまま続けて叩き潰そうとする天井から、Rokudouは脚をつかみ続ける変形した床の手を強引に砕いて逃げ出す。
「何故だ、あのchildにできて何故私には、完璧な私にはできない!?」
実際に受けたDamage以上に大きな衝撃をMentalに受けたRokudouが、狼狽のあまり喚き散らす。その彼を冥は不思議そうに見つめた。
「なんでみんながおじ-sanの言うことを聞いてくれると思うの? みんな、おじ-sanが大嫌いだって言ってるのに」
冥の周囲には、Rokudouが使い捨ててきた実験体の霊や、つい先ほど殺した協力者の霊、そして捨て石にした警備のSoldier達の霊が集まり、笑っていた。
彼女の役に立てることを喜び、彼女の敵であるRokudouの無-samaな-sama子を嘲笑っている。だが、Rokudouの目にそのSmiling Faceは見えず、声は耳に届かない。
「何故だ! なぜ霊を支配できない!? 今の私は『Undead』に匹敵するManaと、上回る制御力を持っているというのに!」
なぜなら、彼は死者の霊を認識できるだけだからだ。
その霊が何を思い、何を訴えているのか、そもそも誰の霊なのかも分からない。わかるのは、霊の位置と数だけだ。
それは彼のBodyやmagicの腕に問題があるからではない。彼が死者の霊を区別する存在として認識せず、また死者の霊も彼に認識されたいと思っていないだけだ。
Status systemが存在する『Lambda』風に評するなら、『Ark Avalon』となったRokudouはMariと同-samaに【Death-Attribute Charm】を持っていないのである。
そして、Rokudouはそれに気が付かないまま『Ark Avalon』にreincarnationしてDeath-Attribute Magicを使っている。
「何故私には従わない!? まだ不完全だというのか!? この私が、この『Ark Avalon』が!?」
だから、今の今まで自分が不完全だとは夢にも思わなかったのだ。
「どうやら、ボロが出てきたようだな!」
動揺を露にして喚き散らすRokudouに、容赦なくAmemiyaが剣を振るう。RokudouはとっさにそれをBarrierで防ごうとするが、無駄なことだ。
【Life Light Sword】がBarrierごとRokudouの頬をかすめて耳を削ぐ。
「うぐああああっ!」
とっさに首を逸らして頭を守るだけで精いっぱいだった。以前のRokudouなら、こんなことにはならなかった。明らかに相性が悪い attributeのmagicではなく、他のattributeのmagicを使って回避し、体勢を立て直す。
光と生命以外の全て(Originに存在しない時attributeを除く)のattributeの適性を持つ彼は、巧みに術を使い分けていた。
だが、今はdeath attributeだけしかない。絶大なManaと他のattributeにない特殊性を手に入れた代わりに、他のattributeの適性を失ってしまった。そのため以前の彼にあった応用力が、予期せぬ事態に対応する手段が失われてしまったのだ。
「よくも、この私の体に傷を……! くらえっ!」
Rokudouは再びmagicで作り出した毒を煙状にして散布し、Amemiyaから距離を取ろうとする。
「くっ!」
Amemiyaはclicking tongueしながらも、毒煙を避けるために距離を取るしかない。彼のTransformation Equipmentを作ったのはVandalieuであるため、death attributeのmagicはある程度防いでくれる。しかし、magicで創った毒に対する備えは十分ではなかったのだ。
『Lambda』ならresistance skillで対応できるため、Equipment自体の対毒性を高めるための技術がおざなりになってしまったのだ。
「めー、-kun」
「はーい、みんな起きてね!」
その隙を補うべく冥が三度床をGolemにするが、Rokudouは落ちる前に素早く床を蹴って飛びのく。
「何度も同じ手を……っ!?」
憎々しげに冥と彼女に憑いているmonsterを睨んだ瞬間、Rokudouは気が付いた。目の前に迫るAmemiyaと、冥によってthrust付けられた自分の不完全さに気を取られていたが、Mariがいつの間にか姿を消していることに。
そして同時に気が付いた。自分のすぐ近くのspaceに何者かが、【Metamorph】で体表を壁や床と同じ色に変化させたMariが潜んでいることに。
「そこだ!」
Shockwave of Deathをそのまま手に留め、さらに【Bloodshed Enhancement】を付与した拳を、隠れ潜んで隙を狙っていただろうMariに叩きつけようとする。
この拳を受ければVitalityを急激に失い、いかに重要器官を【Metamorph】で複製できるMariでも致命傷は免れない。
『ええ、ここです』
しかし、拳を受けたのはMariではなく、【Demon King's Ink Sacs】から出した墨で体の色を変化させたBandaだった。
「っ!?」
『では、お返しです』
四本の手に生えたclawsを、Rokudouの肩と手の甲にthrust刺す。同時に、Arthropod Legsのうち一対を使ってRokudouの足の甲を貫いて床に縫い止める。
「――――っ!?」
Rokudouが激痛のあまり声にならない絶叫をあげると同時に、【Metamorph】でBandaに化けていたMariは元の姿に戻った。その腕には冥と、赤黒いjewelが抱かれている。
「ぷっはぁ! きつかったぁ……呼吸はしにくいし姿勢を保つだけで背筋は痛くなるし……でたらめな構造しすぎよ。ねぇ、Mama?」
「でも、NYORONYOROいっぱいだよ? お目めも多いし」
MariがBandaに化けて入れ替わったのは、Rokudouが「monsterは冥から離れないだろう」と思い込んでいると予想し、それを利用してBandaが攻撃を仕掛けるためのtacticsだった。
そのため冥と彼女に【Mana Transfer】を行うための【Demon King's treasure orb】を残してBandaはMariと入れ替わり、数十meter程離れたRokudouにstealth寄ったのだ。
これも、Rokudouに霊を魅了する力があれば霊達からの警告によって容易く見抜けたtacticsだった。
だが、こうなってはRokudouに先はないとAmemiyaは、そしてBandaも思った。
鋼鉄を飴細工のように引きちぎれるBandaの手から逃れることは不可能であり、助けに入る部下達ももういない。KatouはManaが切れたところをBokorのAbilityによって癌細胞を急激に増殖されて倒れ、ShizakiもIfritを消したYuki Joroの手によってwhole bodyに重度の凍傷を負っている。
そしてMoriyaは全てのArtificial Spiritを倒され、Manaを失い床にへたり込んでいた。
三人とも生きているが、とても動くことはできない。
BandaもこのままRokudouの魂にhorrorを刻み込んでから殺すか、Shockwave of Deathを打ち消すのに忙しいmain bodyに直接渡して魂を砕けば、戦いは終わりだと思っていた。
だから、油断がなかったかと問われたら、首を横に振るしかない。
「こんなところで、私は終わらない。まだ……まだだぁぁぁぁ!」
Rokudouからそれまでよりも一層激しくdeath attributeのManaが迸ったかと思うと、彼は両肩から先と膝から下を引きちぎり、Bandaの腕の中から脱出した!