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Chapter 314: 試験後半開始と、再度試されるTamer guild

 時間はHero Preparatory Schoolの試験日から半年ほど遡る。

 個人の力ではどうしようもないしがらみによって、したくもない事をしなければならない事が人にはある。

Adventurer's School校の臨時教員だと?」

 Orbaum Elective KingdomのSClass adventurer、『TrueRandolphにとってそれは学校への就職だった。


「そうだ。certainly、普通のAdventurer's School校ではない。私が校長をしている通称Hero Preparatory Schoolの臨時講師を、是非とも頼みたい」

 そうRandolphに要請しているのは、珍しく大Nobleではない。威厳を感じさせる、整った容姿だが美女よりも女傑と表現したくなる雰囲気のElffemaleだ。


 その正体は三男四女以下が多いとはいえNobleyoung childも入学し、卒業生の多くがCClass以上……一定以上のaptitudeの持ち主か、努力でaptitudeを補った者しか辿り着く事が出来ない領域に至る学校の長だ。

 政治や軍事に直接口を出す事はないが、その発言力はそこらのEarlMarquisを上回る。


「だから-kunは黙って首を上下に動かせ、Rand

adventurer時代のあだ名を使うな、Meorilith

 そして『TrueRandolph同時期に活躍し、時には共にpartyを組んでAdventureを繰り広げた元AClass adventurerである。


 Randolphはソロ、一人で活動する事が多かったadventurerとして知られているが、他のadventurerと組んだ事が無いわけではない。その中でMeorilithは、最も頻繁にRandolphと組んだ女adventurerとして知られている。


「つれないな、何度も情熱的なnightを過ごした仲じゃないか。-kunが淹れてくれる朝のお茶の香りは格別だったのに」

 そのためMeorilithの事をRandolphlover、内縁の妻、情婦だという憶測がまことしやかに飛び交っており、今では半ば公然の秘密扱いにされている。


 『TrueRandolphを主役に据えた劇では、Meorilithheroineとして女優に演じられるのは鉄板であり、Bardは「夫婦になる事が考えられない、仲間でありライバルでもある今の関係が最良なのだ」と二人が結婚しなかった理由をもっともらしく歌いあげている。


 Randolphadventurerを表向き引退した後、ElfであるMeorilithHero Preparatory Schoolの校長に就任する事をRoyal Nobility達が認めたのは、Randolphに対する繋がりを維持するためだったとも言われている。


「嘘をつくな。俺が薬草茶を淹れる度に、鼻が曲がりそうだと文句をつけていたのを忘れたのか?」

 そして、それはかなりの部分で事実だった。

 Randolphも男である以上libidoはある。そして相手は彼と繋がりを持とうと企むNobleや商人が背後にいる女より、Meorilithのような自分に近い実力を持つ同業者の方が色々な意味で良かったのだ。


 ちなみに結婚しなかった理由は性格の不一致である。nightだけならともかく、昼も生活を共にして関係を続けられるとは考えられなかったのだ。お互いに。


「私は格別だったと言っただけで、良かったとは言った覚えはない。

 それはともかく、期間は今から約二年だ。よろしく頼む」

「待て、引き受けた覚えはないぞ。前にやった時、二度としないと言ったのを忘れたのか?」


 Randolphは以前もMeorilithからの依頼で講師として彼女の学校に勤めた事があった。しかし彼はadventurerを望んで引退した身であり、現役のadventureradventurer志望のchildは好んで関わりたい存在ではない。

 それにadventurerは死亡率の高い危険な仕事だ。実力があろうがaptitudeに恵まれていようが、それは変わらない。


 そのadventurerに仕立てあげるために少年Shoujoを鍛えるのは、Randolphにとって気持ちのいい仕事ではなかった。……Nobleから依頼される仕事と比べれば、まだマシではあるが。

 それに、Emotionalにもやりたくない理由がある。


「理想や夢に瞳を輝かせている若者達が、昔の自分と重なるから嫌なのか?」

「……その通りだ」

 何もかもお見通しなら、態々口にするなと目でMeorilithに文句を言うRandolph。内心では夢物語を語った過去の口の軽い自分を盛大に罵倒しながら。


「実力と金があれば何でも叶う、故郷を取り戻せると信じていた世間知らずのガキだった事は、俺にとって忘れたい過去だ」

 Randolphの故郷は森の中のElf達の集落だった。Human社会とは細々とした交流があるだけの、自然を活かした素朴だが豊かな暮らしを営む一族だった。


 その平和な日々は、森から離れた場所にあったDevil Nestsrunawayによって破られた。増え過ぎて溢れだしたmonstersの群れは、次の住処としてRandolph達が暮らしていた森に狙いを定めたのだ。

 集落には腕利きのArcherSpiritual MageLight WarriorUnarmed Fighterが何人もいた。しかし monstersの数が多すぎて持ち堪える事は出来なかった。


 そして少なくない犠牲を払い、幼かったRandolphも含めたElf達は森から逃げ出した。そして交流のあったHuman達……Orbaum Elective Kingdomを頼って移住したのだ。

 Randolphはこの時、いつか故郷を取り戻すと固く誓った。そして彼は、その誓いを忘れずにいられるだけのaptitudeに恵まれていた。


 成人してadventurerとなって壁にぶつかる事なく己を高め続け、金を稼いでBClass adventurerにまでなるのに時間はかからなかった。ただElfでありHumanよりも成長のSpeedが遅かったため、故郷の森はすっかりDevil Nestsと化しており、Dungeonも発生していた。

 だがmonstersRandolph一人でも倒せる程度であり、Devil NestsDungeonを浄化するのに必要なのは数だけだった。


 Devil NestsDungeonの浄化には、miasmaの発生源であるmonstersを徹底的に駆除しなければならない。Devil NestsDungeonで最も強い主やボスを倒しても、GoblinHorn Rabbit等の雑魚がそのままならmiasmaによる汚染は止まっても、無くなりはしない。

 いずれDevil Nestsには新たな主が現れ、Dungeonには数日から数か月で新たなボスが出現してしまう。


 そのためDevil NestsDungeonmonstersが常に存在しないか、一percent未満のconditionを維持しなければならない。その間に浄化する事でDevil Nestsは普通の土地になり、DungeonDecayするのだ。なお、浄化に必要な時間は汚染がどれ程進んでいるかによって決まる。


 Demon continentのように自然本来の姿から大きく変化してしまったDevil Nestsの場合は、この方法ではどれだけの年月が必要になるかも分からない。しかし Randolphの故郷だった森のようにmonstersが発生するだけで、それ以外は自然の森と変わらないようなDevil Nestsなら数日程度で済む。


 その数日分協力してくれる仲間を募るため、Randolphは十分な人脈と金を持っていた。guildに話を通して協力者を募り、templeに高額な布施を払ってClergymanの派遣を願い、同郷の仲間達にも声をかけた。これで故郷を取り戻せると彼は信じて疑わなかった。

 しかし、その期待は無残に裏切られる事になる。


 Devil Nestsと化した故郷の森からはある難Diseaseの特効薬となる、Devil Nestsでのみ発見される薬草が発見されたのだ。そして発生したDungeonからは、MythrilAdamantiteの鉱石をMining可能な階層があった。

 どちらも今では森のあるDuchyの重要な産業となっており、Randolphの浄化事業に待ったがかかったのだ。


 そうなるとAdventurer’s GuildもBClass adventurerRandolphの発案だとしても、協力は出来なくなる。それに森とDungeonは少なくないadventurerの狩場となっており、個人でRandolphに協力してくれる同業者は殆ど居なかった。

 あれだけmonstersの撲滅とDevil Nestsの浄化を熱心に説くAlda templeも、Randolphの故郷の森の浄化には及び腰になった。「人々の生活の糧を奪う訳にはいかない。それよりももっと浄化すべき危険なDevil NestsDungeonは他にある」と言って。


 そして彼にとって何より衝撃的だったのは、同郷の仲間達が誰もRandolphに協力しようとしなかった事だ。


 森がDevil Nestsとなってから約百年。それはElf達にとっても短い時間ではなく、彼等は新しい生活基盤を築いて逞しく生きていた。

 故郷が戻ってもそこで暮らすには、折立て直した生活を捨てて一からやり直さなければならない。それを覚悟しても、他のElf達も戻ってくる保証は無い。


 そう考えたElf達は新しい生活を選び、Randolphの元に集まる者はいなかった。

 故郷を何としても取り戻すと誓ったのは、自分一人だけだったと思い知ったRandolphは拭い難い挫折を味わった。今までの人生を、積んできた研鑽を、全て否定された気がした。


「……あの時の事は私も覚えている。力が及ばず、すまなかったな」

「やめろ。お前に謝られると、俺の立つ瀬がない」

 あの時Randolphに誰も協力しようとしなければ、彼は今頃Orbaum Elective Kingdomから見切りをつけていたかもしれない。


 だがMeorilithを含めた数人のadventurer仲間や、理解を示したNobleがいた。

「声をかけて協力を依頼したのは俺だ。そして諦めたのも俺自身だ。それだけの話だ」

 だから、その後もRandolphadventurer稼業を続けた。目的を失ったが、それ以外の生き方を知らなかったから。adventurerを辞めて無神論者になったのは、それからSClassにまで至って十年か二十年が経ってからだ。


 ただ疲れたのか、それとも強くなればなるほどElective Kingdom Nobleとの付き合いが増えて不自由になっていく事に嫌気がさしたのか、そうした付き合いを通してHumanの負の側面を見過ぎたからなのか。はっきりとしたきっかけは、Randolph自身も覚えていない。


 もし彼が諦めずに活動を続けていれば、BClassではなくAClassや、それこそSClassに昇Classしてから改めて故郷の森の浄化事業を呼びかければ、DukeAdventurer’s Guildも協力したかもしれない。同郷のElf達が帰って来なくても、彼の名声に惹かれた他のElf達が移住を希望したかもしれない。


 しかし、それをRandolphは望まなかった。

(辞めたきっかけは……俺が望んだ故郷は永遠に戻って来ないと、やっと諦めがついたからかもしれないな)

 今になって考えると、そんなところだろうとRandolphは思った。


「昔話はこの辺りでいいだろう。悪かったな、話を脱線させて。

 それで、何故俺に講師をやらせたいんだ? お前の事だ、何か理由があるのだろう」

 そして強引に話題と意識の軌道を修正する。


「ああ、certainlyだ。我が校の講師になりたいという者は、幾らでも居るからな」

 Adventurer's School校の講師や教官は、引退したadventurerにとって垂涎の転職先だ。だがHero Preparatory Schoolの講師や教官は普通のAdventurer's School校とは給与額が数倍は違う。

 それに生徒の親であるNobleや大商人とのコネが出来れば、講師からお抱えの護衛や武術指南役に転職する事も狙える。


 それ以外にも単純にaptitudeある若者を指導したいという情熱的な現役adventurerが、一時的に活動を休止して講師になる事もある。依頼と言う形で臨時講師を頼む事も珍しいが、無いわけではない。

 しかし Randolphのような複雑な立場のSClass adventurerに依頼する事は滅多にない。


「実は、Sauron Duchyで旧Scylla Autonomous Territoryの奪還のために軍をorganizationするらしい。それにお前を参加させようと企んでいるそうだ」

「それは知っていたが……Rudelの若造がか? 俺の見立てより、面の皮が厚かったようだな」

 Randolphは自分の忠告を無視した若きDukeの顔を思い浮かべたが、Meorilithは首を横に振った。


Sauron Duke以外のDukeだ。HartnerJahan、それにDuke Farzonが特に熱心らしい」

「……どれもAlda信仰が盛んなDuchyだな。Hartnerは奪還戦で俺に戦果を挙げさせて、Vida寄りのSauron DuchyAlda寄りにさせたいというところか」


 Darciaが聞けば苦笑いを浮かべただろうが、Sauron DuchyVida's New Racesを排斥する風潮が強いがVida信仰の盛んな土地柄だ。Vida教反Vida's New Races派とでも呼べばいいのかもしれない。

 そのSauron Duchyの真南にあるHartner Duchyとしては、経済や政治だけではなく信仰も協力的にしたいのかもしれない。


 Jahan Duchyは、originallyVidaAldaよりもBotin信仰が盛んな土地柄だったが、現Dukeの代になってからAlda信仰に力を入れ始めた。

 atavismGiant raceとして生まれてきた現Dukeは、Aldaを強く信仰してみせる事でNoble達を纏めなければならなかったのかもしれない。


Jahanは……憶測は出来るが、はっきりとは分からないな。Farzonは、あの若造の代わりに俺を雇いたいのだろう」

 RandolphJahan Dukeとは殆ど面識がないので、詳しくは分からないが。

 Duke Farzonは、この会話がされている頃はまだDungeonの中にいるHeinzの代わりに、Randolphを雇いたいのだろうと思われた。


「だから私が雇ってやろうというのだ。私なら他のDuke 家が何を言ってきても、どうとでもなるからな。さすがに複数のDuke 家が連名で抗議してきたら厄介だが、そうはならないだろう」

「それほどDuke連中の仲がいいなら、最初から連名で俺を雇おうとするだろうからな。分かった、引き受ける」

「随分あっさりと依頼を受けてくれるじゃないか。実は金欠だったのか?」


「いや、俺としてもSauron Duchyには関わりたくないだけだ。それに……まさか奴等もCenterには来ないだろうからな」

「奴等?」

「最近教えを受けたsenseiと、その関係者だ」


 まだVandalieuDemon KingContinentBotinsealedを解く前。この頃、RandolphVandalieuCenterHero Preparatory Schoolに入学するつもりだとは知らなかった。

 Meorilithも同-samaに知らなかった。Alcrem DuchyAdventurer’s Guild本部では、推薦状を書いてVandalieuに渡していた。しかしAlcrem DuchyAdventurer’s Guild本部がそれをHero Preparatory Schoolに連絡する事はない。


 そのためVandalieuHero Preparatory Schoolの入学試験を受けるつもりだと、Randolphが知ったのは新しい偽名と変装を決めた後だった。




(こいつ等……いや、奴は今更Adventurer's School校なんて入って、何を学ぶつもりだ?)

 髪の色を赤に変え、Dandolipと偽名を名乗ったRandolphは死んだ瞳でVandalieuがいる辺りを眺めた。

 受験生の中で最も背が高いPauvinaに捕まれて……抱き上げられているので、すぐに気がつく事が出来た。


 Randolphが噂で聞いたVandalieuの武勇伝と、実際に会って話した時にconjectureした技量からconjectureすると……どう考えても、この学校で彼が学ばなければならない事は思いつかない。

(人脈作りか、それともOrbaumで何かするためのcamouflageか? まさか、MoksiAlcremのようにOrbaumConcertを開催し、自分達のfanを増やすtacticsの布石か? ……あり得るな)


 自身もKanakoEntertainment Pathに半ば導かれているRandolphからすると、Concert開催は現実的なtacticsだった。

 Orbaum Elective Kingdomの首都には、全国から商人やadventurermercenary、そして各DuchyNobleも集まる。それに、来年にはElected King選挙が開催される予定である。


 今から首都を押さえておけば、そのinfluenceElective Kingdom中に広がるはずだ。

 しかも、やるのはただのConcert。違法な薬物も、法で禁じられた禁術も使わない、ただ歌って踊るだけの合法的な催し物だ。

 誰も捜査しないし、したところで何も掴めない。阻止する法的な根拠だって無い。


(……だとしても、防ぐ気には全くならないが)

 その上、Randolphがそう思う程邪魔をする動機を作り難い手段だった。何せ、やるのはただのConcertだ。そして、現在の段階で分かっているVandalieuの目的も同-samaだ。


 国転覆やworld征服ならともかく、ただの布教活動。そしてVida's New Racesの権利獲得……つまり、政治活動である。

 どちらもRandolphにとっては関心のない話だ。それよりも彼が気になるのは、自分の正体がVandalieu達にばれていないかどうかだった。


(Dandolipという偽名もこの変装も、既に学校関係者に見せていたから変える訳にはいかなかったとは言え……もっと凝るべきだったな。せめて、ElfではなくHumanに変装するべきだった)

 そう後悔しながら眺めるが、Vandalieuからは特に何の反応も見受けられなかった。全く気がつかなかったとも考え難いが、今確かめる訳にはいかないRandolphは壇上から下がると、試験官としての仕事に戻った。




 午後からの試験は、戦闘Abilityadventurerとしての基礎的な知識や技術がどの程度あるのかを図る試験だった。

「聞いていた通りの試験ですね」

 試験の難易度は、Vandalieuから見ればかなり低かった。


「フッ、怖気づいたのか? それなら今からでも普通のAdventurer's School校に行くんだな」

 ただそんなVandalieuの呟きを聞き取った他の受験生が、そう鼻で笑って言うぐらいには難関であった。


 本来ならAdventurer's School校に入学試験は無い。adventurerとして活動するのに必要な戦闘力や技術、知識を持たない者が入学するのだから。しかしHero Preparatory Schoolにはそんな普通の生徒は必要ない。


 普通のadventurer志望のchildでは、絶対に受からない試験ばかりだ。Nobleyoung childはこの日のためにInstructorや武術指南役を雇って学ぶのである。


「それとも、Unique skillか何かで加点してもらっているのかな? ああ、-kunTamerだったな、それでか」


 しかし、ただの難関試験ではUnique skillを持っている一般人出身の受験者を取りこぼしてしまう。そのため、Unique skillや他にaptitudeを示すものを持っていれば試験の結果に加点される制度となっている。

 先程から声をかけている少年は、その制度でVandalieuが加点を受けていると思ったようだ。


「はい、その通りです」

 そして、それは事実だった。Vandalieuは自身のUnique skillについて学校側には黙っているが、学校側は彼が『Genius Tamer』と呼ばれる程のTamerである事を高く評価した。Dhampirという希少なraceである事も含めて、ただ入学するだけなら十分な加点が既にされている。


 だから試験を受けないでという、RandolphMeorilithからの無言のmessageだったのだが、Vandalieu達は全く気がつかなかった。


「やはりか。汚らわしいmonsters頼りのTamerめ、これだから……」

 この少年はNoble出身で、本気でadventurerになろうとしている訳ではなかった。Baron 家の四男であるため、箔を付けてからKnight団に入団しようと考えており、そのため悪い意味でNobleらしい差別意識の持ち主だった。


 しかも、学校及び試験で起きた事に実が関わってはならないというHero Preparatory Schoolの暗黙の了解と、生徒は平等であるという規則を利用する狡猾さがあった。

 Honorary Earlの息子という立場でBaronの息子の自分に今やり返す事は出来ないし、後になって親に泣きついても同-samaだと考えているのである。


「……な、何だ? 何が言いたい?」

 だが、彼が警戒するべきなのはVandalieuではなく、Pauvinaだった。彼女は、じっと少年を見下ろした。

-kun、何の試験を受けるの?」

 そして、そう尋ねた。尋ねられた少年に正直に答える義理は無かったはずだが、答えなければ逃げたと思われるとでも思ったのかもしれない。


「け、剣と盾、それに弓だ!」

「そっか。分かった。じゃあ、あたしも同じ試験を受けるね!」

「な、何!? どう言うつもりだ!?」

「じゃあ行ってくるね、Van!」

「行ってらっしゃい。無理をしない程度に頑張って」

 PauvinaVandalieuをその場に降ろすと、のっしのっしと軽快な足取りで試験を受けに向かった。


「な、何だったんだ?」

 その後を追うように、少年が困惑したまま歩き出す。Vandalieuは、彼が受ける全ての試験でPauvinaが彼より上位の成績を取るだろうことを予想した。


appearancerace、出自以外で目立つ予定は無かったのですが、突っかかってこられては仕方がない。

 Pauvinaなら、『無理』じゃない程度に抑えてくれるでしょう」

 試験の的を粉砕するとか、試験官を意識不明の重体にするとか、そんな事にはならないだろう。


 そう信じてVandalieuは自分が受ける試験に向かった。

 【Archery】や【Throwing Technique】等遠距離攻撃を審査する試験では、投げknifeを使って他の受験者達よりも少し良い成績を出した。

 接近戦を審査する試験では、【Staff Technique】で受けたら試験官に変な顔をされた。


clawsは使わないのかね?」

「はい、clawsはこんな感じなので」

 そう答えたVandalieuknifeよりも長く鋭いclawsを伸ばすと、試験官は口元を引き攣らせた。


「それは、knifeよりも切れそうだな。しかもDhampirは【Mysterious Strengthskillも持っていると聞く。たしかに、【Unarmed Fighting Technique】の審査をするには、試験官に訓練用ではなく本物のDefense Equipmentを着せないと危ないな」

 実際には、【Mysterious Strength】のSuperior Skillの【Super Strengthskillを持つVandalieuは、【Demon King Fragment】をActivateさせないままでも本物のDefense Equipmentを着た試験官を簡単にslaughterする事が出来る。


「ええ、そういう訳で【Staff Technique】でお願いします」

 だが、そんな事をfragmentも出さないまま、Vandalieuは【Staff Technique】の試験でそこそこの結果を出した。


 他には薬草と毒草の見分けや、足跡でmonstersの種別を判別できるかの試験等を受けた。どんな方法で見分けても構わないと言われたので、草を舐めて味で見分けたら悪い意味で目立ってしまった。


「舐めて毒草だと分かっても、body partに毒が入っては意味がない。意味がないが……Dhampirは【Abnormal Condition Resistanceskillを生まれつき持っているから、問題はない。

 だが、resistance skillを持っていない者は決して真似しないように。それにresistance skillを持っていても、そのlevel次第では耐えられない強い毒もある! できるだけ、目で見分けるように!」

 そう、遠回しに叱られてしまった。


「はい、sensei

 だが、遠回しだったのでVandalieuは叱られたと気がつかず、ただ教えられたのだと解釈した。

 実際には、Vandalieuが持っているのは【Abnormal Condition Resistance】ではなく【Status Effect Immunity】なので、一滴で象も殺せるDeadly Poisonを樽一杯分飲んでも効果はないのだが。


(周りが真似したら大変だから、こういう場では慎まなければならない。周りへのsignりまで教えてくれるとは、さすがHero Preparatory School)

 そう本人は感心していた。


 そして、Vandalieuが最も危惧していたmagicの試験。

「では、あの的に攻撃magicを当ててくれ」

 試験官が指示したのは、十meter程離れた先に建てられた木製の的だ。他の受験者は、次々に炎や氷、岩の塊や風の刃を放ち、的に当てていた。


 どれも初歩的なmagicだ。中には、炎の槍を放って的を貫いて試験官を驚かせる生徒もいる。

 Vandalieuが目立たないためにはDeath-Attribute Magicも、【Divine Spirit Magic】も使わず、それ以下の結果を出さなければならない。しかし、彼の強大過ぎるManaでは常人と同じ事をするのは逆に難しい。


 No-Attribute Magicのただ球状に集中させたManaの塊を打ち出す【Mana Bullet】でも、普通のMageは握り拳と同じかやや小さい程度。しかしVandalieuが唱えると直径一meterの大玉になってしまう。

 普通のMageManaを測る物差しが一milimiter単位だとすれば、Vandalieuの場合は一meter単位のものしかないのだ。


 certainly、そんなmagicを披露すれば大いに目立ってしまう。今日中にMage guildの幹部が彼の元にやって来て、是非入会して欲しいと頼まれる事だろう。

 その展開は望んでいないので、Vandalieuは他のmagicを使う事にした。


「試験官、投げknifeか石を使っても良いですか?」

「ん? これはmagicの試験だぞ?」

「分かっています。【Telekinesis】でknifeや玉を飛ばし、的に当てようと思いまして」

 物体を動かす【Telekinesis】で飛ばした物を当てるだけなら、的を貫通する事はあっても爆砕するような事にはならない。


「むぅ、回りくどい事を……いや、なるほど。そういう事か。良いだろう、やってみろ」

 だが試験官は、他の意図があると誤解したようだ。Vandalieuは許可が下りた事に安堵しつつも、そういう事とはどういう事なのだろうかと内心首を傾げた。

 そんなconditionで、【Chant Revocationskillを持っていないように思わせるために呪文を唱える。


「見えざる手よ、的を撃て」

 適当な呪文を唱え、knifeを【Telekinesis】で掴んでそのまま十meter向こうの的に向かってthrust立てる。【Telekinesis】のmagicは遠くへ動かす程Manaの消費が大きくなるので、VandalieuManaを最大限努力して抑えればこの程度で済む。


 普段Artillery Techniqueで使っているように、自分の近くで対象を【Telekinesis】で弾き飛ばす方法だとしたら的どころかその向こうの壁まで破壊してしまうだろう。


knifeを自分の近くで弾く事でManaの消費を抑え、更に、的にknifethrust刺すAttack Powerと【Mana Control】の技術を見せつけるとはな。

 見事だ!」


 そして、受験者の中でもtop classの高評価を得てしまった。制御技術なんて見せる気はなかったのに。


「解せぬ」

 しかし試験は終わってしまった。結果に納得できなくても、やり直す事は出来ない。

Van~、終わったよー」

 そこにPauvinaが満面の笑みを浮かべて帰って来た。あの少年の姿はない。代わりに、何故かあの少年が持っていた剣を持っている。


「どうでした?」

「全部、あの子よりいい結果を出してきたの! そうしたらね、何でか分からないけど剣をくれるって。それで貰ったらちょっと慌ててたけど」

「……maybe、彼は比喩的な意味で剣を捧げると言ったつもりだったのでしょうね」


 どうやらあの少年はprideを圧し折られるどころか、Pauvinaに対してLoyaltyを誓う程屈服してしまったようだ。


「とりあえず、その剣を返しに行きましょうか」

「うん、そうする。Van、あたしやっぱり剣より棍棒の方が良い」

「そういえば、どうやってSword Techniqueの試験で彼より良い成績を出したのですか? あの少年、それなりに使えそうに見えましたが」


 恐らく【Sword Technique】や【Shield Technique】のlevelは2か3ぐらいだろう。そしてPauvinaは【Sword Techniqueskillは持っていない。それでどうやって好成績を出したのかと言うと、簡単な事だった。

「試験に使う刃を潰した剣の中で、一番大きなのを片手で振り回したら、試験官の人が『合格だ』って」

「……ああ、それはたしかにそうするしかないですね」


 受験生のchild達が使う事はないだろうが念のためにと用意していた両手持ちのGreat swordを、Pauvinaは片手で軽々と振り回して見せたようだ。

 技術的にはimmatureだったとしても、その圧倒的な腕力を前にした試験官は「打ち合ったら死ぬかもしれない」と思い、思わず「合格だ」と叫んでしまったに違いない。


 Vandalieuは、心から同情した。ちなみに、【Archery】……遠距離攻撃試験の方は普通に【Throwing Technique】で好成績を出したらしい。


「じゃあ、帰りましょうか。途中でTamer guildによって行きましょう。Orlock -sanが復帰したそうですし」

「うんっ! 次はLuvezの番? Rapiéも連れて行っていい?」

「今回はPainだけにしましょう。俺もPeteだけにするので」


 そして試験の結果Pauvinatop classの成績で、そしてVandalieuはそれに準ずる好成績で合格したのだった。


 悠々と試験Venueから去って行く二人の後ろ姿を眺める、総試験官のDandolip……Randolphは困惑していた。

「あの成績は、どういうつもりだ?」

 明らかに実力を隠している。VandalieuPauvinaの本当の力を知らない彼でも、それは分かる。しかし……。


「実力を隠すにしても、何故あんな中途半端な隠し方をする? 何か意図があるのか、それとも単に他の生徒に合わせようとした結果、そうなっただけなのか?」

 そうRandolphは眉間に皺を寄せたが、VandalieuPauvinaは新recordの樹立やVenueの破壊等の目立つtroubleは起こさずに、無事試験を終えたのだった。




 Peteにとって、そのskillを覚えたのは不本意だった。同じskillを覚えたPainに訊いても、やはり不本意だと答えた。

 しかし、彼とPainの主……VandalieuPauvinaは有用なskillだと言う。もしそのskillをもっと磨けば、Humanの街でも一緒にいられると言ってくれた。


 それならばと、PetePainは努力した。そして結果を出して見せた。後はVandalieuの【Body World】の一つで待機すること数日、遂に成果を見せる時が来た。


「そうか、今度は蟲型のmonstersTamerしたのか」

「キシャ~」

「キュー」

 Orlockは、Vandalieuの腕に絡みついたPetePauvinaの手に乗ったPainを見て、どこか達観したような眼差しになった。


Orlock Master! これは世紀の大発見……いや、大偉業ですよ!」

「いや、でもUndeadTamerしたのと比べれば……うん、凄いけど」

「何でそんなに落ち着いているんですか!? 歴史的瞬間ですよ!?」

「まあ、驚いてはいるのだが……」


 Tamer guildの職員が大騒ぎするが、Orlockは落ち着いていた。

「あー、うん。あのmansionの庭に棲みついていた大Centipedeと、GIANT ButterflyTamerしたと言うのだね?」


「「はい」」

 声を揃えて返事をするVandalieuPauvinaしかしOrlockの目にはPetePainがただのRank1のmonstersには見えなかった。


 普通の大Centipedeと比べるとPeteが生えているし、強靭そうなfangsがあるし、時々バチバチとsparkを散らしている。

 Painの方は、featherの模-samaがあまりにも毒々しい。「触れても大丈夫かね?」とPauvinaに問うと、「抑えてくれているから大丈夫だと思う」という答えが返ってきた。


 しかしSizeは普通の大CentipedeGIANT Butterflyである。


「キシャー」

 何故なら【Shrinkskillを使って小さくなっているからだ。Peteの本来のSizeDragonよりも大きいが、このskillを使えばVandalieuの腕に巻きついて袖に隠れる事も出来る。


「まあ、Variantなのだろう。見たところ、-chanと意思の疎通も出来ているようだし……Tamer guildとしてTamed Monsterだと認めよう。

 後で、Mage guildの者が来るかもしれないが、話だけは聞いてやってくれ」


「分かりました。……ところで、最近眠れていますか? 疲れているように見えますが」

「はっはっは、なに、大丈夫さ。昨日まで休暇を取っていたからね」

 達観した眼差しのままそう笑うOrlockに、Vandalieuは木彫りの箱を懐から取り出した。


「このCreamAlcrem Duchyで流通している特産品なのですが、stressで荒れた肌や肩こりに効果があるので使ってみてください」

 このままだとOrlockが引退してしまうかもしれないと危機感でも抱いたのか、そう言ってVCreamを差し出すのだった。




――――――――――――――――――




Name: Pete

Rank: 13

Race: Hell Steel Roaring LightningCentipede King

Level: 77


Passive skills

Hunger Resistance:3Lv

Super Self-Enhancement: Dependent:1Lv(Self-Enhancement: Subordinate awakened into!)

Venom Secretion (Neurotoxin): Jaws:5Lv(UP!)

Wind-Attribute Nullification(Wind Attribute Resistance awakened into!)

Body Super Enhanced (1)exoskeleton:4Lv(UP!)

Monstrous Strength:6Lv(UP!)

Self-Enhancement: Guidance:8Lv(UP!)

Rapid Healing:7Lv(UP!)

Strengthened Attribute Values: eating prey:7Lv(UP!)

Night Vision


Active skills

Silent Steps:1Lv

Fierce Charge:5Lv(UP!)

-Transcend Limits-:4Lv(UP!)

Armor Technique:10Lv(UP!)

Roaring Lightning:5Lv(UP!)

Coordination:8Lv(UP!)

High-Speed Running:2Lv(UP!)

Familiar Spirit Demonic Advent:3Lv(UP)

Shrink:5Lv(NEW!)


Unique skill

Dragon God Devourer:1Lv(Dragon Devourer awakened into!)

Zanalpadna’s Divine Blessing

Vandalieu’s Divine Protection




Skill explanation:Shrink


 【Size Alterationskillの、小さくなる事に特化したバージョンのskillskillの持ち主の幼体、生物として最も小さいconditionの大きさまで小さくなる事が出来る。

 ニワトリなら卵から孵ったばかりのヒヨコSize、犬なら生まれたばかりの子犬Sizeまで。なお、若返る訳ではなく、同じ大きさまで小さくなるだけである。


 そのため一部の蟲型のmonsters、蝶や蛾のmonstersなどは芋虫だった頃と同じ大きさの蝶や蛾になるだけで、芋虫に戻れる訳ではない。

 また、このskillで小さくなっている間はVitalityManaIntelligence以外のAbility Valuesが下がってしまう。


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