【Capital of the Sun】Talosheimの東西にそそり立つMountain Rangeの壁面には、Champion Zakkartが遺した秘伝のAlchemyを用いて作り上げたMercury Mirrorが存在した。このMercuryに似た液体金属で出来た鏡で太陽光を地上に向けて反射する事で、Talosheimは平地と変わらない日照時間を確保していた。
そして年三回取れる細長い米(Earthのインディカ米に似ている)を栽培し、大飯食らいばかりの民のstomach袋を満たしたのだ。
国土の半分以上をDevil Nestsに覆われた土地であったが、そのお蔭かこの地の作物は育ちが早く収穫量も他の土地で育てる物に比べると三割は多かった。
しかし、Mirg Shield Nationとの戦争で田畑はmonstersが闊歩する草原と成り果て、Mercury Mirrorは全て破壊されてしまった。
そんな悲しい歴史はin any case、今日も休養中のVandalieuは遊ぶための工作に励んでいた。
「King、何作ってる？」
そうしていると、何時の間にかBlack GoblinやAnubis、Orcusといった新種のchild達が集まって来た。
生まれてからまだ数か月だというのに、もうVandalieuより小さい者は一人もいない。monstersの成長paceは速いと聞いてはいたが、実際に見ると驚愕に値する。
これでもBlack GoblinはPure-bornのGoblinの成長速度よりだいぶ遅いと聞いて、更に驚かされた。
「Weapon Equipmentか？」
「違うよ、Braga」
Vandalieuが【Golem Transmutation】で形を整えている円盤状の木を見て、ブーメランの-samaな投擲Weapon Equipmentだと思ったBraga、Black GoblinのchildだったがこれはWeapon Equipmentではない。
「分かった、皿だ」
「ふご？ 最近、kaa-sanが使う葉っぱの代わり？」
精悍な顔つきの犬の頭を持つ少年、Anubisの少年Zemedoと既にHumanの成人並の大きさがあるOrcusの少年Gorbaが皿だと見当を付けるが、それも違う。
「じゃあ何なの？ あたし達にも教えてよ」
Zemedoの双子の姉……だったかImoutoだったか、とりあえず双子のMemedigaにVandalieuは「玩具だよ」と答えた。
『玩具？』
声を揃えて首を傾げる友達の前で、Vandalieuは木製円盤のbalanceの微調整を行い、やっと納得したのか最後に円盤の縁を横に置いた樽の中身……ラバーGolemの一部を使って当たっても痛くない-samaに覆って行く。
これでかなり荒削りだが、完成だ。
「これはFrisbeeと言う玩具だよ」
Vandalieuが作っていたのは、Frisbeeだった。
これまでBone Wolf達と遊ぶときは棒を投げていたのだが、EarthのようにFrisbeeを使った方が面白いのではないかとふと思ったのだ。
このLambdaでは基本的にスポーツや玩具と言った娯楽は未発達だ。まだ陸上競技や格闘技なら国を挙げての大会も開かれているし、人形やヌイグルミといった玩具もある。
だがFrisbeeやBallの類は無かった。……まあ、探せば何処かに在るのかもしれないが。
だからとりあえず自作してみたのだ。幸い木材は有り余るほどあるし、更に幸いな事になんとゴムの木があったので天然ゴムからラバーGolemを作り出し、滑り止めや緩衝剤に使う事が出来た。
「このFrisbeeは、投げて――」
「ぶつけ合って、倒した方が勝ちなのか？」
「……投げて、受け取って、投げ返すのを繰り返して遊ぶ玩具だよ」
発想が物騒な友達に「最初に作るのはBallの方が良かっただろうか？」と思うVandalieuだったが、彼は球技が基本的に嫌いだったのであまり作りたくなかったのだ。
学校でBocchiだった彼にとって、球技は体育で行う「苦痛」でしかなく、人気者の活躍を見せつけられる物でしかなかったからだ。
「とりあえず、俺が手本を見せるから投げてみて」
その日、訓練兼monstersの駆除から戻ったBasdiaはVandalieuに声をかけようと思っていたら、偶然その場面に遭遇した。
「Van？」
ひゅんっと空を回転しながら飛ぶ小さな円盤を追いかける、Vandalieu。
その円盤をキャッチすると、彼はそれを離れた場所にいる新種のchild達に向かって投げ返す。
「何かの、訓練か？ いや、休養中だから遊びか？」
一瞬自分に向けて投げられた投擲Weapon Equipmentをmidairで掴み取り、投げ返しCounterを行う訓練かと思ったBasdiaだが、彼らの雰囲気が訓練とは異なっている-sama子なのでそのまま立ち止まって-sama子を見る事にした。
そうしていると、どうやらあれは遊びらしいと分かった。観察しているだけのBasdiaには、何が楽しいのかいまいち分からなかったが。
「行くぞKingー」
すると、円盤を持ったOrcusの少年が腕を大きく振りかぶり、投擲した。
【Mysterious Strength】skill持ちで生来のMuscular Strengthも高い彼の投擲によって、円盤が速く、何よりも高く飛ぶ。
「あっ、これは――」
Vandalieuが受け取るのは無理だ。そう思ったBasdiaだったが、何とVandalieuは走り出した勢いそのままに近くの廃墟の壁を、両手足を使って四足獣の如く駆け上がったのだ！
magicでも使ったのかと思ったが、どうやらclawsを使っているらしい。
「細い見た目に反して力もあるし、Van本人が思っているより俊敏だ。流石は私が二番目に産む子の父にと見込んだ男だ」
うんうんと頷いて一人Vandalieuを改めて見直すと、邪魔をするのもなんだからと彼に話しかけるのは後にしてその場を離れた。
尚、FrisbeeはGhoulやBlack Goblin、そして特にAnubisの間で流行する事となる。しかし、Undead GiantやOrcusの間では、ウケは微妙だった。
現在Talosheimには、大量の物資が運び込まれていた。
その九割以上がBorkusを先頭にTalosheimの町からDevil Nestsを駆逐するために働く、Undead Giant達の働いた結果得られた産物である。
大量のmonstersの肉に素材、木材、薬草や香草、後Mirg Shield Nationが放置、若しくは見つけられなかったTalosheimの物資等も運び込まれる。
その殆どは有効利用……されるよりも圧倒的に増えていくpaceが速いため、Vandalieuが【Preservation】のmagicをかけた後は山になっている。
中には続々と集まってくる二百年前のOrbaum Elective Kingdomの通貨……大小の銅貨や銀貨等、使いようが無い物も多かったが。恐らく、金貨以上の価値がある物はMirg Shield Nation軍が持って行ったが、銀貨以下は持ち帰る手間を考えて放置されたのだろう。
これらは磨いてOrbaum Elective Kingdomに持ち込めば、損傷が激しい物以外は通貨として使えるはずだ。二百年の間に通貨の改定が行われたかもしれないが、最悪でも銅や銀としての価値が残るはずだ。運が良ければ、Earthで居たような古銭maniaの間でプレミアが付いているかもしれない。
でも今は本当に使い道が無い。
「どーしましょうか、これ」
「どうにもなりませんわ。とりあえず、Van -samaがOrbaum Elective Kingdomに行く時まで保管しておきましょう」
Adventurer’s Guildの廃墟に在った転職roomで無事元の『Arms Artisan』にJob changeして戻れたTareaは、Vandalieuに背中を揉まれながら言った。
「通貨の改定は滅多に行われませんから、大丈夫だと思いますけど……私、Orbaum Elective Kingdomの事は詳しくなくて。Katia達に聞いても……あ、そこ、もっと強く……」
「そうですねー、何せ敵国同士で、最近戦争したばかりらしいですし」
通常隣国ならある程度の行き来があるものだが、生憎Katia達がHumanだった頃活動していたBalchesse Viscount領はOrbaum Elective Kingdomの国境と接していなかった。
いや、国境を接していてもMirg Shield NationとOrbaum Elective Kingdomは一部の闇商人以外殆ど交易が無いらしい。
建国当時からの敵国同士で、更に数年前に凄惨な殺し合いの末Orbaum Elective KingdomのDuchyを大きく削り取ったらしいので、とても商いが出来る空気ではない。
それで国が回るのかと言うと、回るのだ。Amid Empireは Bahn Gaia continentの三分の一を……Humanが住める場所だけなら半分を実質支配していて、更にContinentから近い島国や、他のContinentとは盛んに交易している。
そのため経済的にも食料的にも困っていないのだ。
Orbaum Elective Kingdomの-sama子は分からないが、maybe Amid Empireと同じ理由で困らないのだろう。あそこのDuchyはoriginallyは別々の小国だったのだし、Elective Kingdom側からContinent外の国と交易する事も出来るだろうし。
それを考えると、VandalieuがEvbejia近辺のmountain banditから強奪した通貨をElective Kingdomに持ち込んで換金しようという考えは、実行しない方が良さそうだ。
勿体ない気がするが、鋳潰して金属塊にしてしまった方がいいだろう。
「後でDatara親方に頼む事にします」
Dataraとは、生前Blacksmith師をしていたUndead Giantの老人だ。彼は二百年鎚を振るい続けていた……まあ、振るっていただけだが。
Vandalieuに会って若干正気と生前のMemoryを取り戻し、今は自分の仕事場を直そうと悪戦苦闘している。
色々と道具がCorrosionしてしまい、一から作らなければ仕事にならないのだ。
「それが良いですわ。私、金属はまだ扱えませんもの」
Tareaは腕の良いArms Artisanでskill levelも高い。しかし、金属の扱いは苦手だった。
Lambda worldのArms Artisanとは、monstersから取れる素材を主な材料にWeapon Equipment Defense Equipmentを作る職人の事を指す。Earthでimageする金属を鍛造して剣や刀を作る刀BlacksmithやWeapon Smithingとは異なり、金属をあまり扱わない。使ってもMythrilの粉やOrichalcumのfragmentを触媒にしたり、鉄を留め金にしたりして使うぐらいだ。
一方金属を主に使うのがBlacksmith師で、銅や青銅、鉄、AdamantiteやMythril、Orichalcum等の金属をベースに、monstersの素材は触媒などのオマケ程度にしか使わず武具を作る職人だ。
この二つの職種は、使うskillも道具も異なっている。
特にTareaの場合、Ghoul化してからは金属資源の乏しい密林Devil Nestsで腕を磨いて来たので、金属を扱ったのは二百数十年前だ。
「道具さえあれば、何か作る訳でもなく鋳潰すだけなら出来るとは思いますのよ？ でも専門家が居るならそっちに任せた方が良いですわ」
「ですよね。それに頼まないとDataraが臍を曲げそうですし」
Dataraは、気難しい老人だった。自分ではなく金属の扱いの拙いTareaに頼んだと知ったら盛大に臍を曲げてしまい、しかも emotionsがrunawayしやすいUndeadであるため何時までも曲がったままである可能性があった。
それに気難しい老人の類から外れず、怒ると怖そうだ。
「しかし、面目在りませんわ。張り切り過ぎて……んぅっ……腰を痛めてしまうなんて」
一方、見た目は二十age前の怖くない二百六十四ageのTareaは、腰を痛めてダウンしていた。
Adventurer’s Guild跡のJob change roomが使えるようになったので、Tareaを含めたGhoulは皆Jobに就いていた。
Jobとは、Demon Kingが現れる前から存在するGodsからHumanに与えられた祝福であるとされている。だから当然monstersはJob change出来ない。SamやNuazaのような元HumanのUndeadであってもだ。
しかし GhoulはVidaがVampireと共に生み出した新raceの一つ。半ばmonstersだが、残り半分はHumanであるためJob changeが可能だった。
それはGhoul化した後もTareaやKatiaが、Humanだった頃に就いたJobのAbility Values補正やskill補正を受け続けていた事から考えても確実だ。
Ghoul達は今までDevil Nestsで暮らし町の施設を使用する事も、また独自に作り出す事も出来なかったJob change roomを、次々に利用して行った。
そしてTareaもfamilyに売られた時に強制的に就かされ、とっくに百levelに到達していた『Prostitute』から、元の『Arms Artisan』にJob changeした。
「これでHumanだった時夢だった『Renowned』や『Artisan』に成れますわ！」
っと、とても喜んでいた。『Renowned』や『Artisan』はEarthでは腕利きの職人を賞賛する呼び名だが、LambdaではArms Artisanのような職人系Jobの上位に共通して存在する上位Jobらしい。『Artisan: Arms Smith』や『Arms Smith: Artisan』と表示される。
それでExperience Pointを獲得してlevelを上げるためにも、RaptorやFlying Sharkなどの未知の素材の加工に取り組んでいたのだが、張り切り過ぎてしまったという訳だ。
「気持ちは分かりますよ」
Jobに就けなかった気持ちはよく分かる。本当に。
そう言いながらVandalieuはTareaの腰の痛みをDeath-Attribute Magicで麻痺させて、body partの一部を【Spirit Form Transformation】させて彼女のbody partに潜り込ませ、強張ったmuscleを解して行く。
『Earthでこれが出来たら、すぐに店が持てたかもしれないな』
低周波massageよりも確実にmuscleの凝りを解せます、Spirit Form massage。……ダメか。
後muscleの強張りを解しながら、同時にTareaの健康conditionもこっそりcheckするが、これは問題無さそうだ。内臓の機能が低下しているsignはない。
「あっ」
気が付かれたかな？
「ふと思ったのですけれど、Van -samaの【Golem Transmutation】で金属は操れませんの？ Golemには銅や鉄、Mythrilで出来た物も居るはずですけれど」
どうやら違ったらしい。別に悪い事をしている訳ではないが、内心ほっとしながらTareaの質問に答える。
「できますよ。石よりもManaを使いますけど。Mythrilは試す機会が今まで無かったけど、maybe可能かと」
Human社会に参加できず、金属に触れる機会が限られていたのはVandalieuも同じだった。しかし、僅かな鉄で試した事があり、その時は無事掌SizeのIron Golemを作る事に成功した。
「でも形を大まかに変える以上の事は、まだ出来ない。竪穴式住居を建てるとか、石造りの家を修理するとか、曲がった鉄の棒を元通り真っ直ぐにするのは出来るけど、例えば……」
【Golem Transmutation】で銅貨を操り、形を変えて剣を作って見せる。
「なるほど、これはダメですわね」
Tareaは一目見てこの銅の剣は使い物にならないと分かった。何故なら、それは剣の形をしているだけの銅の塊に過ぎなかったからだ。
刀身には刃が全く無く、これでは小枝一本斬る事は出来ない。刃物では無く、ただの細い鈍器でしかない。
「こんな感じです。石や土でも人そっくりな像を作るとか、細かい細工を施すとかはできません」
そう言いながら土や石のGolemでTareaに似せて人形を作ってみせるが……確かに女の形はしているのだが、顔の造作が大雑把で、指などの細かい箇所の作りが荒い。
このように【Golem Transmutation】では、細かい事はまだ出来なかった。住居の建設でも、竪穴式住居ならin any case Earthの住居のような複雑で高度な物はまず作れない。
Weapon Equipmentを作るのでも、頑張って溶けた金属を型に流し込んだだけの物……鋳造品が精々だろう。それすら型自体は用意して貰わないと不可能だ。
出来るようになるには【Golem Transmutation】以外に、それぞれ【Blacksmithing】や【Carpentry】等のskillが必要になるのだろう。実際、【Golem Transmutation】で竪穴式住居を作っていたら【Carpentry】skillを身に着けた。あれは【Carpentry】技能を身に着けるための経験を積んだ、つまり【Carpentry】skillを使ったという事だろう。
「まあ、金属から不純物を取り除く事は出来るんですけど……こんな風に」
そう言うと銅の剣がブルブルと小刻みに震え出し、見る見るうちに塵のような物がぽろぽろと落ちる。そして銅の剣は、さっきまでとは別物のように、キラキラと輝き出した。
「こ、これは銅ですの！？ まるで宝石のように輝いて……Van -sama、これは凄い事ですわよっ、ここまで銅の純度を高められる製法があれば、鉄で同じ事が出来るならworld中が欲しがる技術ですわ！」
純粋な技術だけで純度百％にすることは、Lambdaではまだ不可能だ。高位のEarth-Attribute Mageですら、殆ど成功した例は無い。歴史上、純度百％の金属を作り上げた術者は居たが、その量は極微量でとても産業に活かせる量ではなかった。
だから、Vandalieuが純度百％の鉄を作り上げる事が出来るなら、そんな歴史上の高位Mageと肩を並べる……いや、超える可能性がある。
しかし Vandalieuはそれを誇る-sama子は無かった。
「確かにそうでしょうけど、すごい疲れるんですよ、これ」
「あ、Manaを多く使うのですわね」
「いえ、頭がすごく疲れるんです」
コテンっと、VandalieuはTareaの背中に横たわると彼女の背に額を付けた。その熱さにTareaは驚いて思わず声を上げた。
「熱っ！？ Van -samaっ、火傷しそうなくらい熱いのですけど！？」
「こういうの、magic熱って言うらしいです。Intelligenceの限界を超えて無理に複雑な術を使うとこうなるとか」
Statusで表示されるIntelligenceは、magicやMartial Artsを制御し処理するための容量やSpeedを表す。その限界を超えると、computerを酷使した時のように熱が出るのだ。
Vandalieuが今Tareaに見せたように銅の純度を【Golem Transmutation】で上げるのには、Manaはあまり使わない。他のMageならin any case、一億を超えるManaを持つVandalieuからすれば、本当に僅かな量だ。
具体的にやっている事は、中学の科学だ。銅から銅以外の物質を弾き出す、そんなimageで錬成しているだけに過ぎない。
鉱物を操るEarth-Attribute Mageが今まで鉱物の純度を上げる事が出来なかったのは、単に金属の分子構造を知らなかったからだろう。電子顕微鏡の無いfantasy worldなのだから無理も無い。
だが、分子という概念を知っているVandalieuが一キロ程の銅の純度を百％にしただけで、意識が朦朧とするぐらい熱が出るので、やはり術自体難しいのだろう。
『若しくは、単純に俺のIntelligenceが低いのか。何か上手く工夫できる方法がある気がするんだけど……ふぅ、Tareaの背中が気持ち良い』
熱を奪う青い炎の【Demon Fire】を自分の周りに灯しつつ、Tareaの背中に額を押し付けていたVandalieuは、ふとある事に気が付いた。
「そういえばTareaの……」
「は、はいっ、私の？」
「二の腕って、太くてムキムキしてますよね」
「そこですの！？ もっと他の場所でも良いんですのよ！？ Van -samaならちょっと手が滑っても、私気にしませんわ！」
「他……背中もムキムキですよね」
Blacksmithingのように鎚を振るう訳ではないが、Arms Artisanも仕事で結構力を使う。そのため、Tareaは見た目より腕や背中にmuscleが付いていた。……それを隠すために、二の腕や背中が隠れる服や、見え辛くするための装飾品を付ける事が多いため、気が付く者は少ないのだが。
「いやああああっ！ なんでよりによってそんな所ばかり！？」
顔を覆って悶えるTareaだが、Vandalieuは普通に褒めているつもりだった。何故ならmuscleは素晴らしいからだ。Power for Justice、Power for Beautiful、Power for Muscleである。
そこまで極端に考えなくても、程よく引き締まったBodyというのはやはり魅力的なものではないだろうか？
「も、もうmassageはけっこ――お゛う゛ぐっ！？」
しかし、Vandalieuが背中に乗っているconditionで悶えたのが悪かったのか、Tareaの腰からゴキっという嫌な音が聞こえた。
「……boneに異常none。ギックリ腰です」
パタリと動かなくなったTareaに、再びmagicで痛みを麻痺させて患部の熱を取っていく。
【Pain Resistance】skillを持つGhoulすら半ば失神させるとは、ギックリ腰恐るべし。
因みに、この時Lambdaで初めて『ギックリ腰』という名称が使われ、このTalosheimから長い年月を経てContinent中に広まっていく事になるのだが、この時は誰もその事を知らないのだった。
「坊や、ここにおったか。……それでそこで横たわっておるのはなんじゃ？」
「腰を痛めて動けないTareaです」
元気はつらつとした-sama子のZadirisが顔を出したのは、Talosheimが早い夕方を迎えた頃だった。
「腰をやったじゃと？ 年寄り臭いのぅ」
「きぃぃぃっ、私より三十上の癖に！ あなたもギックリ腰になればいいのですわ！」
「ぎ、ギックリ？ まあ、呪われた事は分かるが」
痛みはVandalieuのmagicで麻痺させられていても、実際には治った訳ではないので大人しく療養しているTarea。
Zadirisがよく見ると、Vandalieuの腕がTareaの腰と同化していた。
「……何をやっておるんじゃ？」
「Spirit Form同化療法です。こうしてSpirit Form Transformationした俺のbody partと同化すると、【Rapid Healing】skillをTareaにも使えるようになるんですよ。
俺って回復magicが使えないので、何かできないかなと思って色々試したら出来たんですよ」
「フッ、フフフ、羨ましいですか？ こうして私はVan -samaと一つに……いやーっ、揺らさないでっ！ やめなさい、この偽小娘！」
「年長者を敬わんからじゃ。まったく」
軽口を叩こうとしたTareaにscreechを上げさせて満足したZadirisは、真面目な表情になるとVandalieuに耳打ちした。
「やはり、寿命かのぅ？」
「いえ、ただのAgingかと。死相は見えないから、無理をしなければ大丈夫だと思うんですけど」
「……しそうじゃな、無理」
「そうですね。近い内に、【Youth Transformation】するか聞いてみましょう」
続けて腰を痛めたのはただ単に癖になっているだけかもしれないが、Agingが進んでいる事が疑われた。気にし過ぎかもしれないが、思い切って死相が出る前に若返らせて元気になってもらった方がいいだろう。
「そういえば、訓練の方は？」
「うむ、順調じゃ。儂も百levelになったので明日またJob changeする予定じゃよ」
Job changeを果たしたGhoul達は、まず『Apprentice』Jobに就いた。この『Apprentice』とは『Apprentice Warrior』や『Apprentice Mage』、『Apprentice Arms Artisan』、『Apprentice Maid』等、あらゆるJobに存在する。
文字通りApprenticeなので、Ability Valuesやskillにかかる補正もweak。だが若干補正がかかるskillの幅が広いので、このJobで自分の向き不向き等を考えながら訓練を積み、skillの取得を目指すのだ。
そのApprenticeをZadiris達Ghoulは僅か数日でlevelを限界まで上げてしまったが、これは特殊な例だ。
Apprentice Jobに就いたHumanは、普通なら一般人に毛が生えた程度の力しか無い。そのconditionからWeapon Equipmentの使い方を木剣や木槍で練習し、模擬戦を行い、指導者が見守る前でRank１のGoblinやBigフロッグ、Living Bone等と戦い、Experience Pointを稼いでいく。
ただGhoul達はoriginally monstersとしてRank３以上の力を持ち、既に戦闘用のskillを幾つも獲得している。そのため、HumanのApprentice Warriorだったら一方的に殺されるしかないNeedle Wolf等を討伐し、大量のExperience Pointを手に入れる事が出来るのだ。
Zadirisも他のGhoulと共にFlying SharkやRaptor等のmonstersを倒し、早々に『Apprentice Mage』の百levelとなっていた。
因みに、monstersとしてのlevelは上がっていない。どうやらExperience Pointは『Job Experience Point』と『monsters Experience Point』が別々に入って来るらしい。
「坊やも早く試したいじゃろうが、今はのんびりする事じゃ。Tareaの腰が治る頃には、約束の誕生日を迎えるじゃろう」
「まあ、どうなるかわかりませんけど」
【Cannot learn existing jobs】のCurseにかかっているVandalieuは、既にこのLambdaで確認されているJobに就く事が出来ない。
なので試してみたいとは思っていたが期待半分、Job changeできないのではないかという不安半分だった。
まあ、その時はUndeadやGhoul達のEnhanced (1)育成に集中しよう。
「あうぅ、Van -samaぁ、そんなに私の腰は悪いのですか……」
Curseを知らないTareaがVandalieuの言葉を自分の腰の事だと思い込んでしまったので、ちょっと宥めるのに苦労した。
そして迎えた誕生日。Vandalieuは王城に連れてこられた。
『Bocchan！ 騙されたと思ってこの袋を被ってください！』
『その前に目隠しと耳栓も忘れないでくださいね』
そういいながらRitaとSalireが大きな皮袋と布の目隠しを見せて来た時は、思わず立ち尽くした。
下剋上かと思ったVandalieuだったが、どうやらsurpriseの演出らしく、Super Excitingしながら目隠しをして革袋を被る。見た目は拉致される幼児そのままだ。
『来たな！ お前のために苦労して持って来てやったぜ！』
「我もだ！ 我も獲って来たぞ！」
「まだ見せてもいないのに競うな！」
そして暫くすると俄かに騒がしくなった。Vandalieuは自分が期待していたよりも大掛かりなsurpriseが待っているらしいと、胸を高鳴らせた。
『誕生日おめでとう！』
革袋と目隠しが取られる。すると、そこは王城でもOrbaum Elective Kingdomと交易をするようになってから、Humanの社交界風の立食partyやDancing会を開くために増築された大cafeteriaだった。
広大なspaceにBorkusやVigaro、ZadirisやNuaza、BasdiaにTareaにと大勢が集まっていた。
そして当時は荘厳だっただろうが今は荒れ果て見るshadowもない大cafeteriaの装飾の代わりだというように、colorfulなfeather毛やscaleの死体が幾つも並んでいる。
「これは、恐竜！」
accurateなnameは分からないし、きっとEarthでかつて生息していた恐竜とは色々異なるのだろうが、それらはパッと見て恐竜のboneだった。
Giantなfangsを生やしたTyranosaurusっぽい死体。
一目で鳥や蝙蝠とは違う事が分かる、Pteranodonっぽい死体。
大きな角を生やした、Triceratopsっぽい死体。
背中にboneの板を、tailに棘を生やしたStegosaurusっぽい死体。
角が欠けていたり、腹を縫い合わせていたりと無傷ではなかったが、どれもこれも比較的新鮮そうだ。
「これが私達からの贈り物だ。Vanが竜種ではないscaleが生えたmonstersを欲しがっていると、kaa-sanから聞いて皆で集めていたんだ」
「Dungeonでも結構出て来たからな。ただ腐るからbloodと内臓は取った後だが」
どうやら、ZadirisからVandalieuが恐竜が好きだという情報が流れたらしい。
まあ、恐竜というカテゴリーを誰も知らなかったせいか、Giantなcrocodileやヘビのmonstersや、whole bodyにscaleが生え鋭いfangsと爪を持つ体長三meterほどの一つ目のネコ科っぽい肉食獣という、よく分からない生物の死体が混じっていたが。
しかし、それはVandalieuが覚えた感動を阻害する物ではなかった。
「皆……ありがとう……」
目頭が熱くなった。DungeonやDevil Nestsでbloodや内臓を抜いたとしても、monstersの死体をそのまま持ち帰る事がどれだけ難しいか。maybe Boundary Mountain Rangeを越える時に増産したCurse Carriage達が協力したのだろうが、それでも楽ではなかったはずだ。
『Vandalieu……』
Salireが持って来ていたremainsから、Darciaの霊が現れる。
『kaa-sanね、Even nowうダメだって何度も思ったわ。父-sanが殺されて、私も捕まっちゃって……でもあなたは今日三ageになってくれた。
本当にありがとう。だから、これからも元気で大きくなってね』
今まで数えるのも嫌になるくらい涙を流してきた。怒り、悔しさ、悲しさ、惨めさ、苦痛、憎しみ、悲哀、憎悪、赫怒、怨念。
だけど、喜びで涙を流したのは初めてかもしれない。
それの何と心地良い事だろう。
「ありがとう、kaa-san。ありがとう、皆。これからも、宜しく」
だから生きよう。
そしてkaa-sanを生き返らせよう。
きっとkaa-sanを生き返らせた時に流す涙も、きっと心地良い物になるだろう。
殺されてなどやるものか、死んでなどやるものか。
立ちはだかるなら皆殺して――allyにしてやろう。