安藤Misaは『Earth』で死に、Rodcorteによって『Origin』にreincarnationさせられる際、Bodyを気体に変化させる事が出来るAbilityを与えられ、Misa・Andersonとなった。
RodcorteはAbilityの事を『Cheat Ability』だと認識していたようだが、彼女の認識では超Abilityの類のように感じられた。他のaptitudeのあるHumanがどんなに努力しても手に入れられない力を、生まれつき与えられたのだから、十分ズルいAbilityかもしれないが。
そして『Origin』で『The 8th Guidance』の一人である発火Ability者、Baba Yagaによって死体も残さず焼き殺されてしまった。
当時の彼女はBody全てを気体に変化させても、無色透明になる事が出来なかったのと、何より地下hideoutと言う閉鎖spaceで彼女に見つかった事が命取りになった。
Baba Yagaと彼女の相性が致命的に悪い事は、事前に分かりきっていた。
Bodyを完全に気体化してしまえば、物理的な攻撃ではMisaは傷つけられない。しかし炎は天敵だった。燃焼によって気体が変化してしまうと、MisaはBodyを失ってしまうからだ。
【Sylphid】の力を使わず、訓練で身につけたmagicや戦闘技術を活かして戦う方法もあるが、Baba Yagaの瞬間的な、そして激しい爆発を防ぐのは彼女には難しかった。
だからtacticsでは、徹底的にBaba Yagaを避けるはずだった。Baba Yagaから離れた場所をキープし、数秒先のaccurateな未来を見る事が出来る【Odin】の狭間田彰と行動を共にし、『The 8th Guidance』、特にPlutoの死体を持ち帰るはずだった。
しかし Baba Yagaが予定外の地点に居たために、彼女と狭間田彰はBaba Yagaが投げた携帯用の有機物……油が入ったPet bottleを爆発させた事で、焼き殺されてしまった。
そしてこの『Lambda』にreincarnationさせられ、Misa Andersonとなった。
(……それでやっているのが野次馬と同じとは……やるせないわね)
今、Misaは『Sylphid』の力でBodyを完全に気体化させてMoksiの町のOpen Plaza上空から、地上を見下ろしていた。
地上では大勢の野次馬が騒ぎながら、『剛腕』のGordon対『Hungry Wolf』のMichael、そしてSimonとNataniaの決闘が始まったところだ。
決闘を行っている本人達はcertainly、周囲の野次馬も……その最前列で決闘の行く末を眺めているVandalieuもMisaの存在に気がついてはいなかった。
それを考えれば、やるせなさも薄れる。
(努力ってものも、やってみるものね)
『Origin』では完全に透明になる事が出来なかったし、訓練された警察犬や軍用犬に気がつかれる事もあった。しかし、Misaは【Lambda】にreincarnationしてから【Sylphid】の力をより高めることに成功した。
完全に無色透明になる事や、犬よりも鋭いSense of smellを持つ高Rankのmonstersも察知できない隠密性を手に入れた。他にも気体のconditionでもmagicを使えるようになったし、物もある程度動かせる。
Elfと言うWind-Attributeに親しい体質の者が多いraceのBodyを選んだimpactもあるだろうが、全てはこの約二年の努力と研鑽の賜物である。
そして【Odin】のAkira Hazamadaが編み出した、Manaや生命反応を隠すmagicをかけてある。ここまですればVandalieuでも気がつかないだろう。そう思うのだが、Misaは決して彼と視線を合わせないように注意していた。
(調査対象から目を逸らしながら調査しろなんて矛盾もいいところだけど……【Death Scythe】みたいに消滅するのは御免だわ)
Misaの脳裏に浮かぶのは、自分達を出し抜いて手柄を独占しようとしたReincarnator、【Death Scythe】のKonoe Miyajiだ。彼はVandalieuのheartとlungの動きを止める事に成功したが、何らかの攻撃を受けて魂を砕かれて消滅してしまった。
その時Vandalieuは地上、Konoe MiyajiはRodcorteのDivine Realmと本来ならmagicでも干渉できない所に居たのに。Konoe Miyajiの場合は視線を介するCheat Ability【Death Scythe】があったが、VandalieuにはAbilityが与えられていないはずだったのに。
それをRodcorteは何らかのskillの効果だとconjectureし、Misa達もそう解釈していた。
そのskillの効果は、視線を合わせただけで相手の魂を砕かれるとか、致命傷を与える事が出来る程強力ではないはずだ。もしかしたら効果を発揮するためにはいくつかの条件を満たさなくてはならず、今ここでMisaがVandalieuと視線を合わせても、skillの効果は発揮されないかも知れない。
しかし、それを自分の命と魂を賭けてまで探るつもりはMisaには無かった。
それにVandalieuの周囲の情報を探るだけでも、十分価値がある。価値があるのだが――。
(ダメだ……あのGordonって男じゃ、相手にならない)
Vandalieuの仲間と戦っている『剛腕』のGordonの実力を、Misaはそう評価した。
CClass adventurerとしては、悪くない。secondary nameの通り腕力に物を言わせるPower重視の前衛、フォワードとしては十分なのだろう。
体捌きからconjectureしても、【Unarmed Fighting Technique】skillもそれなり……恐らく3から4levelぐらいだろう。彼が拳を繰り出すたびに、空気が唸りをあげる。
「はい、one two、one two! 脇をもっと絞めなさぁ~いっ!」
だがMilesに軽くあしらわれている。それどころか、Trainerの真似までされてからかわれる始末だ。
「ふ、ふざけや……おごっ!?」
Gordonは激高し、ますます激しく拳を繰り出すが、動きが荒くなった隙を逆にMilesに突かれてしまった。
「脇を締めろって、言ったでしょう?」
十分手加減したMilesの一撃が、Gordonの肋boneが折れない程度にthrust刺さる。感じ取った痛みと衝撃、そしてMilesの力量に、Gordonの顔が青ざめる。
(気がつくのが遅いわね。……いや、Slum街の纏め役程度だと思い込んでいたら無理も無いか)
『Origin』では、腕利きのmercenaryや軍の特殊部隊の隊員でも、gangやmafia相手に過度の油断はしない。knife程度ならまだしも、軍の横流し品の銃やmagic媒体を持っていれば十分脅威だからだ。
それに、結局同じHumanなので急所に一撃を入れられたら相手が誰でも終わりなのは変わらない。
しかし、『Lambda』ではCClass以上のadventurerとgangやmafiaの差は、呆れるほど大きい。adventurerはDClassであっても毎日のように熊相手に狩りを行い、ある程度の安全マージンを取って勝つ事が出来るのだ。CClassになると、熊程度なら一撃でslaughterする事が出来る。
『Origin』の基準で見れば、超人である。
対してこのworldの犯罪organizationのHumanは、余程大規模なorganization……それこそPure-breed Vampireが裏に居るようなorganizationでなければ、直接の武力はDClass adventurer崩れの用心棒がいれば良い方でしかない。
certainly探せばBClass adventurer以上の戦闘力を誇るAssassinや、用心棒もいるだろう。罪を犯して裏社会に潜むしかなくなった元AClass adventurerもいるかもしれない。
だがSlum街や歓楽街の顔役程度なら、adventurerとの力量差は圧倒的だ。Gordonもそう思ったのだろう。この『Hungry Wolf』は、自分にとっては大口を叩くしか能の無い木偶の坊だと。
実際は、逆だった訳だが。
「どうしたの? give upする? だったら許してあげてもいいけどぉ?」
「クソが……!」
呻いて下がったGordonはMilesの安いProvocationに顔を怒りで歪めるが、動けないでいた。自分では勝てない事が分かってしまったからだ。
「どうしたんです、Gordonの旦那!?」
「早くやっちまってくださいよ!」
「おい、デカイの! 立派なのは図体だけかぁ!?」
Milesの実力を見抜けないGordonの取り巻きや、彼に賭けているらしい野次馬が囃し立てる。
このまま降参すれば、Gordonは大口を叩くだけの見かけ倒しの男と見なされてしまうだろう。それは彼にとって最も避けなければならない事態だった。
もうBasdiaやZadirisを手に入れる事は諦めるしかないが、せめて負ける前に見せ場を幾つか作らなければならない。
「くっ、まずはテメェ等だ!」
そしてGordonは、それまで三対一は抵抗があったため自分達の番を待っていたSimonとNataniaに向かって殴り掛かった。
二人を瞬殺して、野次馬に自分の冷酷さを知らしめようと考えたらしい。
だが彼の拳はSimonの義手によって防がれてしまう。
「ぎっ!? ぐおおおっ!? てめぇの義手は中身まで鉄で出来てんのか!?」
しかも GordonはSimonの義手を、鉄製なのは外側だけだと思い込んで思いっ切り拳を叩きつけていた。
「ええ、師Artisanから重さに関わらず動かせるようになれって言われてましてね。後、やっぱり中身が空だと結構簡単に凹んじまうんでさ」
Gordonも鎧は着たままだったので拳が壊れるような事にはならなかったが、衝撃はかなりのものだったらしい。拳を抱えるようにして後ずさる。
「ちなみに、オレの義肢もSimonの義手と同じくらい頑丈だぜ。覚悟しろ、オラァっ!」
だがずっと怒りを貯め込んでいたNataniaの怒涛の責めを受けて、瞬く間に防戦一方に追い込まれてしまった。
(まあ、新しい仲間だかpupilsだかの実力を測るには、丁度良いけど。しかし鉄の義肢ね……その内、MythrilやAdamantite……そしてDemon King Fragmentの義肢でも作って渡すとしたら、脅威にも程がある。
尤も、今のところはそれ程の敵じゃないけれど)
そうSimonとNataniaの実力を測ると、Misaは決闘から関心を無くした。これ以上見るべきものが出るとは思えなかったからだ。
Misaも、一応はadventurerだ。決闘の暗黙のruleは知っている。それによると基本的にWeapon Equipmentはnone、Martial Artsの使用や【-Surpass Limits-】等の一部のActive skillsの使用は禁止というものだ。
Weapon EquipmentやMartial Artsの使用を許すと、死人が出る可能性が跳ね上がってしまうからだ。……特に決闘を行うadventurerが強い場合、見物人が巻き込まれて大勢が死ぬ可能性がある。AClass adventurer同士の場合は、余波で見物人どころか周囲の建物が倒壊してもおかしくない。
そんな事をしてしまえば、どんな事情で決闘をしていたとしてもadventurerでは無くただの犯罪者である。Gordonもその一線を越えるつもりはなかったのだろう。Nataniaにボコボコにされても斧を抜いたり、Martial ArtsやskillをActivateしたりする素振りは見せない。
MisaとしてはGordonには是非ともその一線を越えて、もっとMilesの実力や、あわよくばVandalieuの力の一端でもいいから見せて欲しいのだが……期待は出来そうにない。
(問題のVandalieuは……完全に観戦modeか。抱きかかえている幼女は……孤児院のchildでは無いわよね?)
Vandalieuの周りや、声からMisaは-sama子を探っていた。
Jessieと言うalchemistは二人のGhoulに宥められて、ようやく落ち着きを取り戻したところ。牛の角とtailを生やしたShoujoは、「膝です! 膝を徹底的に攻めるのです!」と過激な応援をしている。
VandalieuはShoujoとは対照的に、静かにNataniaやSimonの動きを観察しているようだった。
「……?」
だが、何か気になる事でもあるのか、周囲を見回し始めた。何かあるのか、もしかしてHajimeが……Fitunが仕込んだ手下が隠れているのかと、Misaは思わずVandalieuに注目してしまった。
そしてVandalieuが顔を上に向けた。大きく深呼吸をしながら、虚空を見回している。
(……? まさか、呼吸で気がついたの!?)
空気と一体になっている彼女だから、離れていてもVandalieuの呼吸音を聞きとる事が出来た。
そしてその可能性に気がつく事が出来た。
あの【Demon King's Nose】は『Five-colored blades』のHeinz達がsealedしたから、VandalieuはAbsorptionしていないはずだ。だが、あのfragment以外のSense of smellや呼吸器関係のfragmentを、既にAbsorptionしているかもしれない。それが何らかの力を発揮して無臭で、ManaやVitalityの反応もmagicで隠している自分の存在を察知したのかもしれない。
(逃げないと危ない!)
Misaは風に乗ってMoksiの町の上空から逃げ去った。
「Vandalieu -sama、どうしたのですか?」
「変な臭いがしたので気になっただけですよ、Juliana」
そう言いながら、Vandalieuは上を向いていた顔の向きを前に戻した。変な臭い……signの正体が【Sylphid】である事は、何となく察している。
Vandalieuは同じReincarnatorでoriginallyはMisa達の仲間だったKanakoやDoug、そして『Origin』で彼女を殺したBaba Yagaから【Sylphid】のAbilityについて聞いている。
それによると、【Sylphid】が気体に出来るのは自分自身のBodyだけで、身に着けている物は気体に出来ない。また、body partを全て気体にしても完全な透明になる事は出来ない。白く薄っすらと……良く言えば風のAnima、悪く言えば亡霊のように肉眼でも見る事が出来るらしい。
だがKanakoの【Venus】やDougの【Hecatoncheir】、Melissaの【Aegis】がそうであったように、同じRodcorteが与えた力である【Sylphid】も訓練次第で成長させる事が出来るはずだ。
【Sylphid】の成長性を警戒したVandalieuは、Misaがbody partを気体にしたとしてもVitalityやManaの反応を探知できるDemon King FamiliarやGolemを作って、町の外周部や幾つかの建物の屋根に取り付けておいた。
しかし、それらの反応は無かった。もしかしたら、さっき感じたのは気のせいかもしれない。
「……Gufadgarn、何か分かりましたか?」
「いいえ、Vandalieuよ。私は何も感知しておりません」
Gufadgarnが感知していないのだから、やはり気のせいかもしれない……とは思わなかった。
丁度ついさっき『Flame Blade』の怪しい動きと、Hajime Inuiと推定される人物が近くにいる事を聞いたばかりだ。気のせいだと思い込むのは、timing的に難しい。
恐らく、【Sylphid】は『Origin』では不可能だった事を可能としたのだろう。それがAbilityの成長によるものか、それとも他の要素のimpactかは不明だが。
そして透明でManaも漂わせていないのなら、ただの空気と同じだ。いくらGufadgarnでも、空気の流れ全てを感知する事は不可能だ。
(しかし、透明で臭いもしない、ManaもVitalityも隠せる相手をどうやって警戒すればいいのやら。まさか、町全体をBarrierで覆って外界との流れを遮断する訳にもいきませんし)
Moksiの町を外の空気と隔離してしまえば、Misaが【Sylphid】の力を進化させていても彼女の侵入を防げるだろうが……下手をすると町の住人が酸欠で死にかねない。
……そもそも空気を遮断する、つまり物理的なBarrierを張ると町の人達にもすぐ気がつかれてしまう。とても出来る事では無い。
GolemやDemon King Familiar、そして霊の監視網はあるが、流石に空気を見分けるのは無理だ。
ただし、ではこれからMisa Andersonの侵入を防ぐ手立てはないのかと言うと、そうでもない。
「皆、これからも大事な事は、Dungeonの中で行いましょう」
その手立ては、重要な話や行動は屋外ではなく屋内で行うという、基本的な事だった。
【Sylphid】はbody partを気体にするAbilityなので、恐らく僅かな隙間があればMisaは家だろうが砦だろうが、内部に侵入する事は可能だろう。しかし、侵入した後内部で彼女が動けば、屋内で不自然な空気の流れが生じる。
通気ダクト等がある大きな建造物の中なら自由自在に動き回れたかもしれないが、普通の戸建て住宅Sizeで、家自体がGolemと化しているVandalieuの家では難しいだろう。
そして、家の地下室に作ってあるDungeonの場合は更に完璧だ。何せ出入り口はGufadgarnが創らなければ、地下室に一つしか無いからだ。Misaがいくら【Sylphid】でも、space的に繋がっていない場所には入れない。
そして一か所の出入り口だけを見張れば良いのなら、空気でも気がつく事が出来るだろう。
……一番楽なのはMisaが慢心するか手柄に焦るかして、情報収集ではなく暗殺を試みる事なのだが。そうすれば、【Danger Sense: Death】で気がつく事が出来る。
まあ、Vandalieuとは何の関係も無い者を狙われると気が付けないので、その展開はあまり望ましくないが。
(無関係な人達を助けるために命を賭けるつもりはありませんが……俺、一応『Goddess of Life and Love』のMikoですからね。それに、社会的信用がせっかく手に入りつつあるところですし)
「分かりました」
『はい、陛下』
そう思考するVandalieuに、JulianaやGhostのPrincess Levia達がnod。
一方決闘の方は、ややVandalieuの予想外の展開となっていた。……Gordonの受けているDamageが少ないのである。
「このクソ雌猫があああああ!」
怒りで真っ赤になったGordonがNataniaに向かって突進し、彼女に太い腕を力任せに叩きつけようとする。
Martial Artsこそ使っていないものの、その拳にはOrcぐらいなら一撃で倒す程の力が込められている。
「あらよっと」
それをNataniaは軽やかに身を翻して回避すると同時に、足払いを仕掛けてGordonの巨体を石畳の上に転がす。
「く、クソォ!」
そして転倒したGordonは、擦り傷を増やしてすぐ立ち上がろうとする。
「鉄の義足で力任せに足を叩き折るのではなく、あの男の力の流れを利用して足を払っているのか」
「最初はボコボコと殴っているだけかと思ったが、義肢を完全に自分自身の一部としておるようじゃな。一カ月もかからずここまで使いこなせるようになるとは、見事じゃのう」
BasdiaとZadirisがそう評する程、Nataniaは義肢を巧みに操っていたのだ。野次馬の中に混じっているadventurerもそれを理解したのか、感心している-sama子の者が何人もいる。
ただの無機物では無く、自分自身のSpirit Formの一部を宿らせて動かす義肢だからこそ、自分自身の意思と感覚をそのまま伝えて操る事が出来る。
「す、すごい……あんな義肢、都のMage guildのAlchemyの学部長でも作れませんよ!」
義肢をmagic itemだと思っているJessieが、興奮した-sama子で決闘を見ながらそう断言した。実際あの義肢を作るのに必要なのは金属の加工技術なので、確かにAlchemyの学部長でも作れないだろうが。
「思っていたよりpupilsが成長して嬉しい……始まる前は、鉄の義肢であの男のboneを何十本か殴り砕いて終わりかなと思っていたのですが」
「……ボス、あいつの罵詈雑言、聞き流していた訳じゃないのね」
「それはcertainly。俺をmonster呼ばわりするだけでは無く、目に見える俺の仲間とpupilsに一通り罵声を浴びせましたからね、あいつ。BasdiaとZadirisの事も、Ghoul共としか呼ばないし」
他人に一言二言憎まれ口を叩かれた程度なら、Vandalieuもそれ程気にしない。だが、幾らなんでも限度がある。
それにGordonは暴力で我を通してきたような種類のHumanだ。なら暴力で撃退しても問題無いだろう。
「pupilsの良い組手相手になってくれましたし、決闘のruleは守っていますから今回は俺も忘れる事にしますけど。
……だから肉団子や肥料、迷宮行きはnoneです」
Vandalieuの後半の呟きに、彼の中にいるQuinnやEisen、そして潜んでいるGufadgarnが残念そうなsignを返す。
「Natania、そろそろ行きましょう」
それに、Gordonを笑いものにし続けるのもなんだと、Vandalieuが声をかける。
「だったら俺にやらせてくれ」
だが、Nataniaの代わりにSimonがそう言って前に出る。それまでGordonを一人で相手にしていたNataniaは、もう気が済んだのか「分かった」と兄pupilsにあっさりと獲物を譲る。
「ふ、ふざけやがって……!」
Nataniaにいいように扱われ、彼女の実力を見抜く目を持たない野次馬からGordonは「転んでばっかりじゃねぇか!」、「酔っ払ってんのか!?」と野次られている。
『Hungry Wolf』に勝てないから女Ghoulは諦めて、NataniaとSimonを倒して面子だけでも保とうとした彼の狙いは、もう破綻している。
破綻しているのだが、そこで諦められるほど彼は潔くなかった。
「テメェなんざ、そのRight Armにさえ注意すれば簡単に倒せるんだよぉ!」
怒りに頭を沸騰させたGordonが、Simonに掴みかかる。まず義手を掴んで動きを封じるtacticsのようだ。
「そうかい、じゃあ預けるぜ」
だがGordonがSimonの義手の手首を掴むと、義手は肘の部分であっさりと、何の抵抗も無く外れてしまった。勢いをつけて掴んだGordonは、堪らず体勢を崩してしまう。
そしてがら空きになったchinに、Simonの左の……生身の拳によって放たれたアッパーが入る。冬空を見ながら取り巻きの「旦那ぁ!?」と言うscreechを聞いたGordonは、そのままfaintedしたのだった。
その後、公衆の面前で大恥をかいた『剛腕』のGordonは、Vandalieu達が誰も被害を訴えなかった事もあってAdventurer’s Guildから罰せられる事は無かった。
普通なら他人のTamed Monsterを脅し取ろうとし、更にadventurerではないGuild Masterの娘に決闘をdemandする等、良くてもこの町のguildの出入り禁止は確実だったのに、何の罰則も受けずに済んだ彼とその取り巻きはFortuneだっただろう。
尤も、それは温情からと言うより、これ以上罰する必要はないからだったが。
交易都市の大Open Plazaで行われた決闘騒ぎの-sama子は瞬く間にMoksiの町と、更に周辺の町や村に知れ渡り……彼は「チンピラに負けたCClass adventurer」、「引っ掛けようとしたDClass adventurerのBeastmenの女にのされた」「Guild Masterの娘に決闘を挑み、代理で戦った隻腕の男に負けた」等、面白おかしく語られてしまい、Gordonの面子は地に堕ちたのだった。
Gordonの『剛腕』のsecondary nameが解除されたのは、決闘から数日後であった。
風の流れを辿って、回り道をしながら仲間が隠れているhideoutに戻った。そこはMoksiの町からやや離れた、Devil Nestsでは無い自然の山の中に作った洞窟である。
Alcrem Duchyに入ってから人里には一回も寄らずに来て、更に獣やmonstersを狩るような事もしていないので、Vandalieuもまだここには気がついていないだろう。……気がついていたら、とっくに自分達は殺されている筈である。
Misaは無事逃げられた事に安堵すると、【Sylphid】の力を解除した。
すると杖を持ち、皮鎧を着たElfのShoujoの姿が現れる。
『Origin』で生きていた頃は着ている服や持っている物は一緒に気体に出来なかったが、今は服や鎧、手に持てる物ぐらいなら一緒に気体にする事が可能だ。
背負っている荷物は無理だし、重い板金鎧等は着ていても気体には出来ないが。
「戻ったわ。三日前に町の噂を拾った時と大体同じよ。詳細は今から説明する」
「ああ、頼むぜ」
【Odin】のAkira Hazamadaと、【Chronos】のJunpei Murakamiは、Misaの報告を聞きながらメモを取ったり、Moksiの町の見取り図や、町周辺のmapらしい物に何かを書き込んだりしている。
「しかし、本当に串焼きFood Stallをやるなんて、何を考えてるんだ? 最初はAlcrem Duchyを自分の国に併合するつもりなのかと思ったら、そんな陰謀は全く無さそうだ。
俺達を誘き出そうとしているのは、大体察しが付くが……理解しがたいぜ」
報告を聞き終えたAkiraが、訳が分からないと頭を押さえた。
「理由を聞かれても、そこまでは調べられなかったから知らないわ。【Sylphid】で外を歩いている人の話し声は拾えるし、多少は聞き耳を立てる事も出来るけど……屋内には入りたくないし、Adventurer’s Guildや、Vandalieuには指示通り近づいていないから」
Misaの情報収集は、屋外で起きた事や、人々が話している事を見聞きして来る程度で、Vandalieu達が考えている通り屋内に入る事は避けていた。
そして、Vandalieu達が考えているよりも周囲を警戒していた。
「それでいい。寧ろ、近づいて気が付かれたら逆に困る」
MurakamiはMisaがMoksiの町に行く前に、Adventurer’s GuildやVandalieuには近づくなと指示していた。少なくとも、すぐ逃げられる距離を維持しろと。
Adventurer’s Guildを出入りするadventurerの中には、偶に【Intuition】skillを高levelで持つ者がいる。そう言った連中は、無色無臭のMisaに【Intuition】的に気がつく可能性がある。
Vandalieuの近くは、言うまでもない。それに、彼はMisaをいつでも封じる事が出来る。
Bodyを気体と化したMisaを捕えるのは、普通は無理だ。事前に【Sylphid】の事を知っていても、人一人分の容量の気体を閉じ込める容器をすぐ用意する事は出来ないし、常に携帯するのもboneだろう。
だがVandalieuの場合【Golem Creation】を使えば、その場で粘土細工を作るのと同じ感覚で密封容器を創る事が出来る。もしくは、単にbloodを流すだけでもいい。
blood液を操る彼なら、捕捉したMisaをblood液で作った泡に閉じ込める事も難しくないだろう。そして彼のbloodは【Demon King's Blood】だ。閉じ込められてしまえば、簡単に出る事は不可能。それどころか、そのまま殺される……滅ぼされる可能性が高い。
「だが、どうするんだ? このままじゃ明らかに情報が足りないぜ」
「……いや、情報は十分だ。十分じゃないが、どうせこれ以上は望めない」
「どういう事? 確かに調べるのは難しいけれど、後何回か同じ事を続ければ、情報も増えるはずよ」
「無理だな。奴らが『Evil God of Joyful Life』Hihiryushukakaを倒したのは、お前達もRodcorteから聞いただろう? だが、町には大きな被害が出た-sama子は無かったそうだな。それどころか、Evil God (M)について噂している奴は一人もいなかった。そうだろ。
つまり、VandalieuはMoksiの町に居ながら、町に何の被害も、そして目撃者も出さずにEvil God (M)を倒す事が可能ってことだ。明らかに奴はDungeonをMoksiの町の中に作っている」
「町中にDungeonを!? あいつ等、あの町をどうするつもりなんだ!?」
このworldの常識から外れるMurakamiのconjectureに、Akiraがギョッとして目を剥く。町の中にDungeonが出現するなんて、町が滅亡してもおかしくない事態だ。
worldにはDungeonの入り口を囲むようにして出来た町、俗に迷宮都市と呼ばれる都市も存在する。しかし、それは、最初から迷宮都市として計画された都市だからだ。
Dungeonからもしmonstersが出て来ても対処できるように内側にも城壁や見張り櫓を建て、Soldierを配置し、住民の居住区画を外側に配置する。
そうした工夫が施されているからこそ、迷宮都市は人々の生活の場として、adventurerの拠点として機能している。
そうした工夫も無くDungeonを勝手に創られたら、余程等Classの低いDungeonでなければ町を維持する事は出来ないだろう。
「町を守るつもりに決まってんだろう」
Murakamiは驚くAkiraにそう答えた。
「奴らは戦場をDungeonに移して戦ったに違いない。どういう状況だったのかは俺も分からないが、space attributeのEvil God (M)であるGufadgarnの力でも使ったんだろう」
Dungeonの中で戦ったのなら、町に被害が無く目撃者がいないのも説明がつく。寧ろ、それ以外につかない。
「なら、ほぼ確実に俺達相手にもそのDungeonを使うだろうな」
「厄介ね……それから、今後の相談なんかもDungeon内部でされたら、私の潜入も無駄ね」
Dungeonの中にも空気はあるが……Vandalieuが考えたのと同じ理由でMisaはDungeonの内部に入る事は避けるべきだと考えていた。
「ああ、だから町の方は良い。Hajime……Fitunの方に集中してもらう」
「あっち? あっちの方が難しいんだけど……」
MisaはVandalieu達だけでは無く、【Marionette】のHajime Inui達に対しても【Sylphid】による潜入を行っていた。
彼らは今Moksiの町周辺に、Murakami達と同じように潜んでいる。
徒党を組み、戦力を整えながら。
「あのFitunって戦狂いの神はWind-Attributeでしょ? 手下達の中にも油断できないのが多いし……」
「危険なのは分かるが、頼むしかないな。戦力で奴らに劣る俺達がVandalieuを殺すには、奴らを利用する以外に無いんだからな」
Murakamiのtacticsは、Hajime達を利用すると言うものだった。
certainly、手柄争いをするつもりはない。Rodcorteからは、「誰がVandalieuを殺しても、報酬は全員に与える」と言うOracleを受けている。
足の引っ張り合いをしていては、ただでさえ困難なVandalieuの抹殺がますます困難になると考えたのだろう。
「……最近思うんだが、あいつって殺せるのか? もし殺したとしても、『Origin』の時みたいに瞬時にUndead Transformationして第二ラウンドを始めるだけじゃないのか?」
「弱気になるなよ、Akira。生きている間は手出しできないが、死ねばその瞬間VandalieuはRodcorteの権能の内に入る。強制的にsealedするなりなんなりして、それで終わりだ。
間に合わずにUndeadになったら……すぐさま逃げるしかなくなるがな」
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・Name: Gordon
・Race: Human
・Age: 25
・Title: 【剛腕】(解除!)
・Job: Berserker Axe
・Level: 67
・Job History: Apprentice Warrior、Warrior、Axe Warrior、Unarmed Fighter、Berserker、Magic Axe Warrior
・Passive skills
Enhanced Muscular Strength:7Lv
Endurance Enhanced (1):3Lv
Poison Resistance:1Lv
Peerless Vigor:3Lv
Strengthened Attack Power when equipped with an axe: Large
Detect Presence:2Lv
・Active skills
Axe Technique:6Lv
Throwing Technique:3Lv
Unarmed Fighting Technique:4Lv
Dismantling:2Lv
Armor Technique:2Lv
-Surpass Limits-:5Lv
Surpass Limits – Magic Axe:3Lv
『剛腕』のGordon。優れたMuscular Strengthの持ち主で、その腕で【Axe Technique】を振るいながら【-Surpass Limits-】と【Surpass Limits – Magic Axe】skillをActivateさせて戦う、Berserkerそのものの戦闘styleを持つ。そのAttack PowerはCClass adventurerの中でも上位に位置するのだが……斧も、【-Surpass Limits-】も使えない素手での格闘戦がruleである決闘を申し込んでしまったために、見せ場も無く敗退してしまった。
慢心せずに、相手の力量はきちんと図りましょう。
○Title explanation::剛腕
剛腕の持ち主である事を意味するsecondary name。多くの場合Power Fighter Typeのadventurerや、Knight等が獲得するが、稀に商人や官僚、Nobleが獲得する事もある。
特別珍しいsecondary nameでは無く、King of the Stallsと同じく地域ごとに別の『剛腕』の持ち主がいる事もある。