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Chapter 220: shadowから操る者と、光輝く者達

 浮かべている笑みに人形のような虚ろさを感じさせる孤児院のNunchild達を背後に整列させたBirkyneは、腹心であると同時に精鋭である四人に守られながら、余裕を感じさせる態度でVandalieuに対応した。

「いきなり用件とは性急だね。Self introductionは省くとしても……『これはどう言う事だ?』とか、『彼女達に何をした?』とか、聞きたくないのかな?」


「……あなたが、そう言うまどろっこしいお約束に拘る性格だとは聞いていませんでしたので」

 それに対して身構える-sama子も無く、Vandalieuは案内役だったらしいMashのすぐ近く、Birkyne達の正面に立ったままだ。その姿は無防備で、隙だらけに見える。


「彼の横に行ってくれないか。あの少年とは、反対側の方に。……そして彼が私に何かしようとしたら、私を守るんだ」

「はい」

 しかしBirkyneや彼の腹心達は内心では警戒を最大まで引き上げていた。小声で命令して、Celisを敢えてVandalieuの傍に立たせる事で、少しでも動きを封じようとする程に。


 Vandalieuは、手負いだったとはいえTerneciaを、そしてGubamonは完全に独力で倒したのは事実だ。三人のPure-breed Vampireの中で最も攻撃に優れたTerneciaと、守りに優れSpace-Attribute Magicを得意としたGubamonを。

 今も、虚ろな顔と平坦な声からは信じられない程の重圧感をBirkyne達に対して放っている。


 だからこそ、BirkyneVandalieuに対して余裕があるように見せている。

 犯罪organizationですら生ぬるく感じるような闇の中だ。自分よりweak者を嬲り、食い物にするのが常識。それをしなければ周囲から舐められ自分が貶められ喰われる側にされる。そんな歪んだ縦型社会を創り上げて来た一人がBirkyneだ。


 藁にも縋る溺れる者達の手を何度踏み躙ったか、Birkyneは覚えていない。


「私の人柄を話したのは、Eleonoraか。BellmondMilesは、私の事をそれ程詳しく知らないだろうからね」

 だから自分が踏み躙られ、食われる側になる事をBirkyneは恐れている。そのために、簡単に手を出せないような存在に見せようとするのは、半ば以上Instinctと化している。


「ええ、Eleonoraは俺に良くしてくれています」

 そしてcertainly Vandalieuにも余裕はない。確かにBirkyneが何時来てもいいように備えてはいたが……前触れも無くに侵入された挙句、孤児院の人々を全員人質にとられるなんて想定外だ。


(Space-Attribute Magicで直接【Teleportation】したとしても、Gufadgarnなら気がつく。

 それにMashCelisで調べているけれど、Mentalimpactするmagicや毒やdiseaseInfest生物、それにmagic itemが使われている-sama子は無い。

 一体どうやってここに侵入し、Mash達の正気を奪った?)


 それが分かるまでは簡単にBirkyneと戦う訳にはいかない。その苛立ちが重圧感となってBirkyne達を襲っているのだ。


「あはは、どうしたんだよ、Vandalieu?」

Mash、静かに。Vandalieu -sanBirkyne -sanのお話を邪魔しちゃダメよ」

 この場で最も異-samaなのが、Pure-breed Vampire達に人質にとられ、Vandalieuの異-samaな重圧感にさらされているはずのMashCelis、修道院の人々だろう。


 今も緊迫した空気に気付いた-sama子も無く、緊張感の無い微笑を浮かべて笑っている。それを見て、Vandalieuは孤児院の人々はやはり何らかの方法で操られているのだと確信した。

(Mentalを詳しく調べたいところですが、【Mind Encroachmentskillを使うと俺が本当に隙だらけになってしまう)

『命じてくだされば、我々が隙を作りますが』

『フヘハヘハヘハァ……遂に我々の出番ですか?』


 Telepathyで話しかけてくるChipuras達に、もう少し待つように言うと、その間にBirkyneが口を開いた。

Eleonoraが、良くか……私が躾けた時よりも随分使えるようになっているようだね。-kunに差し向けた時点で、彼女は限界まで鍛えたつもりだったが……その点だけとっても、-kunは並の存在では無かったということだろう。

 だがそれはin any case、私としてはお約束の流れ通り-kunに質問された方が望ましいのだよ。事態をaccurateに知ってもらった方が、話し合いが円滑に進むと思うからね」


「……話し合いですか? 人質を取っておいて?」

「取引と言っても構わない。私が提供するのはこの孤児院のDirectorからNun、孤児に至るまでの全員と、ついでにその他大勢もつけよう。

 顔もnameも知らない他人の命が-kunにとってどれだけの価値があるのか、私は計りかねているが……Vidabelieverとしては助かる女childの数は多いに越した事がないだろう?」


 Birkyneの言葉で、Vandalieuは彼がとった人質はこのMoksiの外にも居るのだということに気がついた。

「……『これはどう言う事だ?』、それと『彼女達に何をした?』」

 Birkyneが言った質問の例をそのまま返したVandalieuに、彼は小さく笑うと答えた。


「我々『Evil God of Joyful LifeHihiryushukakaを奉じるVampireは、何かと生贄を必要とする。その度に人を攫っていたのでは面倒だから、古来より人を扱う商売や施設運営をしてきた。mountain banditmercenarySlave商人、娼館、奥の修道院、そしてここ千年は孤児院を経営する事が多い」


 SlaveProstitute、俗世を捨てた修道女よりもずっと、孤児という存在はBirkyneVampireにとって都合が良かった。特に貧民が寄り添うSlumの孤児院は最高だ。

 物心つく前のchildを収容して使う時まで施設の中で管理でき、大人になるまで消費する機会が無かったとしても、そのまま施設の外に放り出してしまえば良いだけ。


 多くの人は孤児達に見向きもしないから、不意に消えても認識すらされない事も少なくない。そこまででは無くても、diseaseinjureで死んだ事にすれば、Guardも詳しく調べようとはしない。

 SlaveProstituteや修道院だと、施設に入る前の知り合いや親族が訪ねてきて、取り戻そうとする事がある。そうしたtroubleが元で、施設の正体が暴かれてしまった事は、一回や二回では無い。


 施設を運営しているVampireも、本音を言えば面倒な事態になるぐらいなら畜の一匹や二匹気前良く渡したいのだが……それはそれで怪しまれるのだ。Slaveを格安で譲るSlave商や、金が足りないのにProstituteを身請けさせてやる娼館、そして修道女に還俗を勧める修道院。同業者や関係するguildtempleから奇異の目を向けられるのは避けられない。


 しかし、孤児院の場合はそうしたtroubleが起こる事は滅多にない。originally身寄りがないchildや、親類がいても引き取って育てる程の余裕の無いchildが孤児になるのだ。極偶に離れた場所で暮らしていた親類が引き取りに来たり、養子を求める者が孤児を求めたりするが、その時は求められるままに渡してやれば良い。

 孤児院の孤児が引き取られるだけだ。誰も怪しんだりはしない。


 だからBirkyne達は生贄や新たなVampire Candidateを確保するための施設として、-sama々なで孤児院を運営していた。

「ここもその一つと言う訳だよ。最近乗っ取ったのではなく、創設者が建てた頃からずっと。十年ほど前、勘のいいAldaPriestに目を付けられた事以外は問題無く運営してきた。

 もっとも孤児の数にも限度があるから、他の種類のorganizationも多少は維持している。Eleonoraを見つけた鉱のようにね。彼女にこの仕組みについて教えなかったのは、Fortuneだったと思っているよ」


 そう言いながらBirkyneは、Nun Bestraの肩に手を置く。

Vidaを信仰している事にしているのは、『Goddess of Life and Love』の看板が孤児院にとって都合が良いだけで他意は無い。Aldaに関係するGodsだと、大体のに関連するtempleがあるから寄付だの施しだの引き取り手の斡旋だのと、何かと干渉されて面倒なのさ。人形を管理するのにはね」


 そう言いながらBirkyneは手をBestraの肩から腰に移動させ、抱き寄せる。言葉通り、彼女は自分の人形だと見せつけるように。

(……おや?)

 だが、腰に手を回され抱き寄せられたBestraの頬が強張ったのにVandalieuは気がついた。


 そしてVandalieuの横に立っていたNun Celisが、ツカツカとBirkyneに歩み寄ると……Bestraを抱き寄せている彼の手の甲をギュッと抓り上げた。そしてにこやかに微笑む。

Birkyne -sanNunを抱き寄せないでくださいね」

 彼女の行動に四人のNoble-born Vampire達の緊張が頂点に達するが、抓られた本人は「これは失礼」と言ってBestraの腰から手を放した。


Birkyne -san、幾らあなたでもNunを口説かれては困ります」

「や~いっ、Birkyneのオッチャンのスケベ~!」

 やれやれといった-sama子で苦情を言うDirectorに、囃し立てるchild達。それに対してBirkyneは、数秒とかからず元の色に戻った手の甲を隠して、苦笑いを浮かべて言った。


Shut Up

 その瞬間、ピタリと孤児院の人々の動きが止まった。Directorchild達、そしてVandalieuの近くに戻ったCelisMashも、まるで文字通り人形のように表情を無くして硬直している。


「さて……見て貰った通り、彼女達は――」

「俺がこのに来るずっと前から、お前の支配下にあった。ただし、人格は本人のもので、皆に俺を騙しているつもりはなかった。Mashchildだけでは無く、NunDirectorも。

 洗脳されていてお前にとって、都合の良い人形にされていると」

 VandalieuBirkyneの話を遮ってそう告げると、彼は一瞬驚いた後笑みを深くした。


 どうやら、Vandalieuconjectureは正解だったようだ。

「洗脳……良い言葉だ。another worldでは頻繁に行われているらしいね、Bellwoodがよく口にして、Zakkart達を怒らせていたよ。今思えば実際に洗脳していたのは、Bellwoodの方だと思うけどね」

 そう言って孤児院の人々を洗脳している事を認めるが、洗脳は本来簡単に出来る事では無い。【Mind Encroachmentskillを持つVandalieuは、経験からそれを知っていた。


「さっき『Shut Up』と命令していた-sama子を見たところ、皆を洗脳したのはお前自身の筈。どうやって皆を洗脳した?

 後、Nun CelisVampireですか?」

「……おや、どうして彼女がSubordinate Vampireだと気がついたのかな?」


「さっき彼女に抓られた時、手の甲が赤くなったでしょう。普通のNunではwhole body全霊の力を振り絞っても、棍棒で殴られても傷一つ負わないPure-breed Vampireの手の甲を腫らせる事は出来ません」

 Spirit Formmagicで探っている間、彼女はHumanだと思い込んでいたので気がつかなかったが。


 前半の質問を無視して聞き返したBirkyneに、Vandalieuはそう答えた。

「なるほど。演出が仇になったな……そうだ、この孤児院のNun CelisBestraSubordinate Vampireだ。私のbloodを与えた訳ではないけどね。

 良くできているだろう? Sunlightを浴びても平気で、瞳の色も紅ではないし、Vampireである自覚も無いから演技する必要も無い」


 約百年前、GubamonSunlightを浴びても問題無く行動できるSubordinate Vampireの僕……Vandalieuの父親であるValenを手に入れた。

 それを聞いたBirkyneは、自分も昼間から行動できるVampireの僕が欲しくなり、暇潰しも兼ねて実験を始めた。


 まず百人程のchildを集め、日の光を浴びせた。Sunlight浴という生温いものでは無く、火傷を負うような強いSunlightmagicで作りだして浴びせ、magicで傷を治す。それをchild達が【Sunlight Resistanceskillを獲得するまで何日、何か月でも繰り返した。


 そしてchild達が【Sunlight Resistanceskillを獲得したらある程度育てた後、Vampire化させる。それでSunlightを浴びても平気なVampireを人為的に作り出せるはずだった。

 しかし結果は、九割以上のchildが耐えられずに死ぬという苦いものだった。CelisBestraは死ぬ前に【Sunlight Resistanceskillを獲得した、数少ない成功例なのである。


 あまりにも成功例が少なかった事と、完成まで時間がかかった事でBirkyneの興味が他に移ったためValenのような工作員にはされなかった。

 その代わりに彼女達はSubordinate Vampireにされ、Memoryを改竄された後孤児を管理するNunとして派遣されていたのだ。

 もしBirkyneに洗脳されていなければ、彼女達はVandalieuを見た瞬間に導かれていただろう。


(だが……気のせいか? さっき私を抓った時の力の強さは? 確かにこいつ等はSubordinate Vampireだが、戦闘の訓練も何もさせていないはず)

 Vandalieuには何でも無いように答えたBirkyneだが、Celisに抓られた時若干だが動揺を覚えていた。精々Rank3の、戦闘職のJobに就いていないはずのCelisが、Pure-breed Vampireに僅かとは言え傷を負わせるものだろうかと。


 しかし、思考に没頭している暇は無いとBirkyneVandalieuに向けて言葉を紡ぐ。

「だが、-kunにとっては彼女達がVampireかどうかは重要な事ではないだろう? 重要なのは、私は-kunに彼女達を……-kunが知るままの彼女達を、私は提供できるということだよ」

 ここがBirkynetacticsの要だった。彼は人質を取ったのではない。Vandalieuが勝手にBirkyneの所有物と仲良くなっただけなのだと理論をすり替え、更にそれを差し出すそぶりを見せ交渉に持ち込むのだ。


 その下準備の為に、BirkyneHuman牧場とも言えるこの類の施設全てで飼っているHumanを改めて洗脳した。

 Vandalieuの特徴を幾つか教え、それに複数当て嵌まる存在に出会ったら『近づけ』と。Vandalieuがどのに現れても良いように。


 あの日、Mashが数あるFood Stallの中からVandalieuFood Stallから盗みを働こうとしたのも、『近づけ』という雑な洗脳のimpactがあった。……まさか窃盗の対象にするとはBirkyneも思わなかったが。

 その後は、『近づけ』という洗脳がBirkyneの意図通りに効果を発揮して孤児院全体がVandalieuの庇護下に入る事に成功した。


 それをBirkyneが確信したのは、つい先日のあの事件。Spyと思しき者が孤児院に侵入し、何もせず退散した事と、不良Guard Aggarが手配された事を知ったからだ。

(細かい事情は分からないが、こんな奇妙な事が起きた理由はVandalieuが何かしたからだ。そのAggarというGuardから、自分達の手を汚して孤児院を守ったに違いない)

 そう、Isaac Moksi Earlと同じ理論でconjectureしてtacticsを実行に移したのだ。


「彼女達の命が惜しいなら、なんて脅迫はしないよ。確かに-kunと私は敵同士だった。だが、ここ数年Alda達が今までにない程活発に動いている事は事実だ。それについては、-kunの方が詳しいだろう?

 当然だがAldaとそのbeliever達は我々にとっても敵だ。今の情勢では、お互い潰し合う事は避けるべきではないかな? 手を組む事は出来なくても、不干渉……不可侵の約束を取り交わす事がreason的だ。そう思うだろう?」


 そう尤もらしく語るBirkyneを、Vandalieuはただ静かに観察していた。そして傍らのMashCelisを調べつづけながら、幾つかの仮説を検証していく。【Super High-speed Thought Processing】と【Group Thought Processingskillを持つ彼には、Birkyneのお喋りは十分すぎる時間だ。


「その誠意の印に、私は彼女達を-kunに提供しよう。洗脳についても、-kunの望む通りにしようじゃないか。Memoryを取り戻させても良いし、私に飼われていた事を忘れさせても構わない。何なら、-kunの虜に変えても良い。

 どうだね? さあ、望みを言って――」

「断る」

 Vandalieuは、Birkyneの誘いを切り捨てた。何故なら、彼の交渉に見せかけた脅迫には、一考の価値もないからだ。


 Birkyneの言葉に頷けば、MashCelis達をこの場は助けられるかもしれない。だが、洗脳を解く事が出来なければ意味が無い。Birkyneは洗脳を解いても良いと言っているが、それが嘘では無い保証は無い。

 Birkyneが解いたと口で言っても、実際には洗脳されたままかもしれない。Birkyneが一言命令するだけで、また操られないという保証も無い。


 だから、VandalieuBirkyneに向かって一歩踏み出した。


「まあ、落ち着きたまえ。もしかして、私を殺せば洗脳が解けると思っているのだったら、それは早まった判断だよ。それとも、彼女達を自分で更に洗脳するつもりかな?」

 Vandalieuの拒絶に対して腹心のVampire達が反射的に身構えるが、まだBirkyneの顔には笑みが浮かんでいる。


「そう言う訳でもありません」

 二歩目を踏み出す。Mortor達腹心のVampireの顔が、horrorと畏怖に歪む。Birkyneの笑みも、不自然に引き攣った。


「彼女達が死んでも、Undeadにしてrevivalさせる……いや、『The root of life』を使って蘇生させるつもりか? だったら辞めておいた方が良い。-kunが来る前に、そこの二人以外の全員に聖水を飲ませておいた。死んだ途端、Reincarnationの輪に還ってしまうぞ!」

stomachの中の聖水が効果を発揮するか検証した訳でもないでしょうに、よくやりますね。無駄な工夫だと思いますけど」


 そう返しながら更にもう一歩踏み込む。Mortor達が堪らずfangsを剥き、clawsを伸ばして戦闘態勢をとる。

「と、止まれ! このHuman共がどうなっても本当にいいのか!?」

「そうだっ、これを見ろ!」

 clawsを伸ばした手で、Elf出身のNoble-born VampireBestraの首を掴み、締め始める。


「……!」

 Birkyneに『Shut Up』と命じられているBestraは、人形のように動かないままだ。呼吸と顔色だけが、彼女のconditionを表している。

「幾らこの女がSubordinate Vampireでも、この我が本気を出せば一瞬で首を握り潰す事もできるのだぞ!? どうせ殺されるのなら、道連れにしてくれる!」


 そうElf出身のNoble-born Vampireが叫ぶと、Vandalieuの歩みは一旦止まった。彼が本気だと思ったのか、それとも単にこれ以上近づかなくても良くなったのかは不明だが。


「部下が見苦しい真似をしてすまないが、彼の言う通りだ。それに、私が裏で運営している孤児院はここだけじゃない。このAlcrem Duchyだけでも、後二つある。 Bahn Gaia continent全体ならもっとだ。

 見ず知らずとは言え、-kunはこの場に居ない孤児達を見捨てるのかね?」


「お前の洗脳術は、直接命令しないと効果を発揮しない……accurateには、お前がその場に居ないと新しく命令を出せない。だからお前がここに居る限り、お前が操れるのはこの孤児院の人々だけです。お前が此処で何を喚いても、この場にいない人達にimpactは出ない」

 そうVandalieuが断定すると、Birkyneの表情が凍りついた。


「……何故、そう思うのかな? 根拠はあるのかね?」

「俺達の経験と知識によるconjecture。そしてお前自身です」

 万能のmagicskillは存在しないと、Vandalieuは知っている。特にHumanの洗脳なんて難易度の高い術に穴が無いはずはない。


 Eleonoraの【Charming Magic Eyes】は視線を外したら解けてしまうし、他のmagicでも長く維持する事は出来ない。Vandalieuの【Mind Encroachmentskillでも、簡単ではない。

 それをContinent中に幾つもある孤児院の孤児達、合計で軽く千を超えるだろう数のHumanを完全無欠に操るのは不可能だろう。


 VandalieucertainlyChipuras達のconjectureでは「想像を絶する程高度なmagicなら可能」だが、「それをBirkyneが持っているとは到底思えない」との事である。


「そもそも、それが可能だったらお前達は何故ここに姿を現したのですか? 俺がちょっと近づくだけで、そんなに怯える程怖いなら、遠く離れた場所から誰かを腹話術の人形のように操って、自分の意思を伝えれば良かったはず。

 操るのに声だけでいい場合でも、離れた場所と通信できるmagic itemを使えば済む。高価なitemですが、お前等なら幾つか持っているでしょう」


 そうでないということは、遠隔から操るのは不可能。更に声だけでも無理。どう言う理屈で操っているか詳細は不明だが、対象の近くにBirkyne本人がいる必要があるのだろう。

 それでよくContinent中に散らばった孤児やSlaveを操れる物だと思うが、恐らくVandalieuGufadgarnの警戒網をすり抜けた、特殊な移動手段を用いているのだろう。彼がSpace-Attribute Magicの使い手だとはEleonoracertainlyChipurasや、魂を砕く前のTerneciaGubamonでも知らなかったので、恐らくmagic itemUnique skillによるものだと思うが。


「納得したのなら……その手を離せ」

 Vandalieuの額が蠢き、skinに切れ目が生じ内側から禍々しいeyeballが四つ出現する。

「うぅっ!?」

「こ、これは……!?」


 四つのeyeball、【Demon King's Demon Eye】にそれぞれ睨まれたNoble-born Vampire達が、heartを直接掴まれたようなhorrorに硬直する。以前Darciaに声をかけた成金に向けた時のような加減は、一切していない。

「手を、離せ」

 ガタガタと震えながら、ElfNoble-born VampireBestraの首から手を離す。手を離せば自分の身が危険になる事が分かっていても、Instinctthrust刺さるhorrorに逆らう事が出来ない。


「交渉は決裂か……認めよう、確かに私は失敗した」

 Birkyneの経験上、対象の大切な存在を手の内に握っていれば、どんな相手とも交渉する事が出来た。それは相手のfamilylover、友人だけじゃない。他人には何の価値も無い形見の品だったり、貴重な資料だったり、金銭だった事もある。


 Vandalieuにとっては、身内だとBirkyneは判断した。だから彼はこんな回りくどいtacticsを実行して、自分が飼っていたHuman達を、Vandalieuが身内と認識するように手を打ってきたのだ。

 だが予想よりVandalieuが動揺せず、こちらの手の内を見抜いてしまった。また【Demon King Fragment】が増えていたのも計算外だった。


「だが……かかったな、このクソチビが! 結局ボクがどうやってブタ共を操っているか、見抜けなかっただろう!? その身で味わえェ!」

 Vandalieuがまた一歩踏み出したと同時に、Birkyneが甲高いhistericalな怒鳴り声をあげた。


 その声に応えて、Vandalieuが踏んだ彼のshadowがまるで生き物のように蠢き、何と彼の足に絡みついた。

 BirkyneshadowはそのままVandalieubody partの表面を枝分かれしながら登り、一瞬で頭部にまで到達した。その-sama子は、黒い蔓植物に巻きつかれたように見えた。


「…………なるほど」

 その途端、Vandalieubody partの自由が利かなくなる。口は聞けるし、eyeballも動かせる。だがそれ以外が動かない。


「やったぞっ! Birkyne -samashadowが奴を捕えた!」

「流石の貴-samaも、怒りで我を忘れていたようだな! Birkyne -samaに正面から近づくとは!」

 Noble-born Vampire達があげる喝采を聞きながら、Birkyneは汗の滲んだ顔に会心の笑みを浮かべていた。


「こいつ等の言う通りだ。私のshadowに足を踏み入れるとは。でもまあ、こうなるかもしれないと予想はしていたよ」

 Birkyneは口調と一人称を普段の紳士を気取っているものに戻して、語り出した。


-kunは【Abnormal Condition Resistance】だけでは無く、確実に【Mental Corruptionskillを高levelで所有しているだろうし、Hartner DuchyMage guildの上層部のHuman共のMentalを操っていたようだからね。

 明らかに操る側だ。私がどんな方法で人形達を操っているか分からなくても、自分なら大丈夫だと驕っていたのだろう?」


「もう分かりました。【Demon King Fragment】の力によるものです。これは、【Demon Kingshadow】と呼べばいいので?」

 Vandalieuがそう返すと、Birkyneが被り直した紳士の仮面に、大きなヒビが入った。端正な美貌でも隠せない程憎々しげに口元を歪める。


「そうとも、私が十万年前に手に入れた【Demon Kingshadow】の力だ。この力で、私はこれまでのし上がってきたのさ」

 十万年前Aldaとの戦いに敗れ、Vidaと逸れたBirkyne達三人のPure-breed Vampire達は、生き延びるためにVidaから任されていた【Demon King Fragment】のsealedを解いた。


 そしてTerneciaは【Demon King's Horn】を、Gubamonは【Demon King's Carapace】を、そしてBirkyneは【Demon Kingshadow】を手に入れた。

 【Demon Kingshadow】はnameからも分かる通り、特殊なfragmentだった。本来物理的に存在しないGuduranisshadowが、何故他のBodyfragmentと一緒にsealedされていたのか。それをBirkyneは奇跡か悪夢のような偶然によるものだとconjectureしていた。


 Bodyとは別にsealedされたはずのDemon Kingの魂の一部が、偶然紛れ込んだのだと!


 このfragmentには、Activateしても物理的なAttack PowerDefense Powerは無い。だが他者を操るという他のfragmentに無い力があった。

「私はこの力の研究と研鑽に夢中になったよ。その内【Demon King Encroachment】が10levelに達したが、この通り私はegoを保っている! -kunのようにfragmentを完全に制御しているのだよ! ハハハハハハ! どうだ、驚いたかい!? 自分だけが特別ではないと知って、自分に失望したかね!?」


 得意気に話すBirkyneの説明を聞きながら、Vandalieuは自身のconditioncheckし、Telepathyで会話して手筈を整えていた。

 【Demon King's Jointed legs】等はbody partから伸ばした途端、動かせなくなる。tongueも、口から伸ばしたら硬直してしまった。どうやら、shadowの形にimpactが出た途端【Demon Kingshadow】の支配力が及ぶようだ。


 一応【Magic Absorption Barrier】を張ってみるが、やはり【Demon King Fragment】には意味を成さなかった。


「無駄さ。Hillwillowに聞いたが、another worldninjaと言う連中が使う術に相手のshadowを縫い付けて動きを封じる【shadow縫い】というものがあるのだろう? それと同じさ! -kunが見かけにそぐわないMysterious Strengthの持ち主でも、【Demon King Fragment】を使っても絶対に抜け出す事は出来ない。

 『Fifteen Evil-Breaking Swords』と戦った時のように、目から光線を放つかい!? それとも自分の一部を爆発させてshadowを消すかね!? やるといい、我々の周りや背後にいるchild達が死んでもいいのならね!」


 もし交渉が失敗した場合の事をBirkyneは想定していた。そのためにMashCelisだけでは無く、孤児院の人々の大多数がVandalieuと親しくなるまで待ったのだ。彼が見捨てても構わないと考える者を一人でも減らす為に。……まさか全員と親しくなるとは思わなかったが、今となっては好都合だ。


「だが、安心するといい。我々は-kunを殺しはしない……いや、殺せないと言った方がaccurateかな。-kunが抱えているcountlessの【Demon King Fragment】が飛び散ったら私の身が危ないし、-kunにはこのままAldaと潰し合ってもらわないといけない。

 そもそも、-kunを殺す方法が分からないのでね。もし殺せたとしても、その瞬間Undead Transformationして襲い掛かって来そうだ。Gufadgarnや、Vida's Factionの連中につけ狙われるのも御免だからね」


 何とBirkyneは、Vandalieuを殺すつもりはなかった。寧ろ、絶対に殺してはいけないと考えていた。だからVandalieuの【Danger Sense: Death】にBirkyneの行動は殆ど引っかからなかったのだ。


 Vandalieuを殺せば、Birkyneにとって最大の脅威は消す事が出来る。だが、それでAlda達が育てているHero達が居なくなる訳ではないし、revivedらしいVidaVida's FactionPure-breed Vampire達が再び眠りにつき、Vandalieuの配下達が大人しくなる訳ではない。

 Alda's FactionVandalieuRemnants、この二つの大勢力に挟まれて圧殺されてしまうのは目に見えている。


「だから強制的に約束してもらうよ、不可侵と不干渉の約束を……-kunの脳にね!」

 ずるりと耳の中に何かが入って来る不快感をVandalieuは覚えた。


Zakkartから脳の仕組みについて、彼が生きている時に聞いた事があってね。【Demon Kingshadow】を使って脳に干渉し、Body的に洗脳させてもらう。これで-kunがどれだけ高levelで【Mental Corruptionskillを持っていても無駄だ。【Abnormal Condition Resistance】は残るけれど……私は今までVampireMajin Raceも洗脳した事がある。skillの効果を超えるまで、念入りにやらせてもらうよ。

 なに、安心してくれ。用済みになったこいつ等は、そのまま-kunに下げ渡してあげるから」


 Birkyneはそう言うが、Vandalieuが所有しているskillは【Abnormal Condition Resistance】ではなく、そのSuperior Skillの【Status Effect Immunityskillだ。だから彼の洗脳が成功する確率は、かなり低い。だが脳を直接弄られ続けられるのは、気分が悪い

(それに、もう必要な情報は手に入れましたし)

 Vandalieuはそう思いながら、【Demon King's Eyeballs】と【Demon King's Luminescent organs】をActivateさせ、足から光線を放った。足元のshadowに向かって。


 その瞬間、body partの一部が自由を取り戻した。

「こいつっ、足にeyeballがあるのか!?」

「一秒でいいっ、動きを止めろ!」

 Noble-born Vampire達がBirkyneの命令に反射的に従い、Vandalieuに飛びかかって動きを封じようとする。その僅かな隙に、再び【Demon Kingshadow】で動きを封じるつもりなのだろう。


 だが、飛びかかったNoble-born Vampire達に向かって、【Death Bullet】が放たれる。【Chant Revocation】で、しかもSimultaneous Multi-castskillで一度に複数放たれるmagicに、Noble-born Vampire達が慌てて下がった。

「チッ、『行け』!」

 その-sama子を見たBirkyneは、人形達に向かって命令を下した。その途端CelisMash、礼拝堂に集められた孤児院の人々Vandalieuに向かって、何重にも抱きつく。


 その光景は普段ならとても心温かいものに見えただろうが……今はただただ不気味だ。

 その途端Vandalieuが抵抗を止めた。それに、Birkyneの笑みが深くなる。

「フフフ、さっきの部下達に対する攻撃は近くに居たガキと女を避けて、寧ろ自分よりも二匹を守るために放ったものだった。それほど大事な私の人形に、こうやってwhole bodyを抱きしめられればもう抵抗は出来ないだろう?

 そいつらは私が命令しなければ、四肢のboneが折れても-kunを離さない。分かったら大人しく洗脳されるといい。なんなら、何匹か殺してもいいんだぞ!? それが嫌なら大人しくしろ!」


 Birkyneはそう脅迫に、化けの皮を維持できなくなったようだと思いながらVandalieuは言った。

「嫌だからこそ、大人しくはしません。……四人とも、頼みます」

 その声に応えて、それまで姿を見せなかったChipuras達三人が人の団子と化したVandalieuの周囲に現れた。


 Memoryに残っている顔の出現に、Birkyneが眼を見開く。

「『Distinguished Dog』のChipurasに、『Lunatic Dog』のBellquert。『Fighting dog』のDarockまで。倒されたTerneciaの『Five Dogs』を、Ghostにしたのか! ……だが、それがどうかしたのかね?」

 一瞬動揺したBirkyneだが、Undead……それもBodyの無いGhostになった以上、Chipuras達が生前どれ程強力なNoble-born Vampireだったとしても、脅威ではない。


 Mortor達彼の腹心達も同じように考え、Chipuras達に対して悠然と構えている。

 だがそれが致命的な間違いだった。


『どうしたのかね、だと? こうするのだ!』

『ヒャヘハヘハハハハァ!』

『生まれ変わった我々の姿を、その目に焼き付けるがいいぃ!』

 カっと、まるで太陽の化身と化したかのように、Chipuras達のbody partから激しく輝いたのだ。


 それを正面から無防備に浴びたBirkyne達は……Sunlightに焼かれるVampire達は、whole bodyを焼かれて断末魔めいた絶叫をあげた。


「ぐああああああああっ!? Light AttributeGhostだと!? そんなBAKANAっ、目がっ、shadowがっ!? あああああああああ!?」

 Birkyneが端正な顔を焼かれてscreechをあげ、身を捩り顔を押さえる。【Demon Kingshadow】も、Chipuras達の光によって彼の後ろに追いやられていた。


Vandalieu -sama、今です!』

 VandalieuSpirit Formを出してMashCelis……自分に抱きついている孤児院の人達全員を柔らかく包んで【Realization】し、【Flight】で宙に浮かぶ。

 そしてこっそりGolem Transformationさせていた礼拝堂の壁に、【Golem Creation】で穴を作り、そこから逃げる。


「無事の帰還、おめでとうございます。Vandalieuよ」

「ただいま、Gufadgarn。奴が、あなたの言っていた通り動いてくれたので助かりました」

「奴の事はこのworldに来る前から知っているので。多少混ざっているようですが、概ね予想通りだったようで、幸いでした」

 そして、待っていたGufadgarnと合流した。それを確認してChipuras達もVandalieuの元に戻る。


「び、Birkyne -sama、どうします!? 撤退しますか!?」

 狼狽える部下にBirkyneは再生した顔を怒りに歪めて命じた。

「追えっ! 逃げてどうするっ、交渉を纏めるのが無理なら奴らを洗脳して操り人形にする以外、私が生き延びる道は無い!」


 外にGufadgarnがいる以上、何処へ逃げても追われる可能性が高い。Birkyne達にとって逃げは緩慢な自殺と変わらない。

「人形はまだ私の支配下だ! それに、外には人質に出来るHuman共が幾らでもいるだろう! さっさと外に出ろ!」

 Birkyneの怒りの激しさに、逆らえば殺されるとMortor達が壁の穴からVandalieuを追って外に飛び出していく。


 Birkyne自身もVandalieuを追って外に出たが……彼らは礼拝堂から出ても『外』には出られないという事をまだ気がついていなかった。


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