VandalieuがFood Stallを開店してから二週間がたったその日の朝方、商業guildのサブMasterのYosefは執務室で顔中の皺が2x Augment Multiplierする程渋い顔をしていた。
「ぬ゛ぅぅぅ、あの生意気なクソガキめ……!」
彼が唸り声をあげて罵る対象は、certainly Vandalieuだった。
「奴が儂の提案を蹴ってつまらん商売なんぞ始めるからいかんのだ。儂は奴の為にもなると思って声をかけてやったと言うのに……あの恩知らずめっ」
Elective Kingdomで現在確認されている二人目のDhampirであるVandalieuにYosefが提案した、Alda Reconciliation Factionとの接触。それは、Alcrem Duchyで主流派になりつつあるAlda Reconciliation Factionの主だった人物、特に『Five-colored blades』とのconnectionを手に入れたいがためのものだった。
たしかに、結果的にはVandalieuにも利益がある試みだ。Alda Reconciliation Factionの保護や、SClass adventurerの後ろ盾を得られるという本人にとっては邪魔でしかない事ばかりだが。しかし Yosefが彼の抱えている事情を知っている筈もないので、それに気がつかなくても仕方がないとも言える。
だがVandalieuに提案した当時のYosefの頭の中には、Vandalieuの為なんて言葉はfragmentも存在しなかった。単にSelfを正当化するために自分自身のMemoryを捏造してしまっているだけである。
その自覚が無いYosefは苛立ちのあまり大声を出しそうになるのを堪えるため、口を片手で押さえた。Earl 家出身の彼だが、サブMasterである彼の執務室はGuild Masterのroomよりも大きさや豪華さ、そして防音性という面では下なのだ。
(しかも儂がどれだけ教育してやっても、謝りに来るどころか逆らい続けておる!)
Yosefの言う教育とは、彼がVandalieuに対して行っている嫌がらせの事である。ただし、比喩表現や皮肉ではなく、Yosefは本気で教育だと思っていた。
生意気なガキに世間の厳しさを教え、目上の者の言う事を聞く大切さを教えてやるための教育だと。これまでも鼻持ちならない若造には繰り返しやって来た事だ。
しかし Vandalieuは反省してYosefに謝罪し、提案を受け入れさせてくださいと頼みに来る-sama子を一向に見せない。仮登録を済ませた後商業guildに寄りつきすらしない。
妨害しているはずのFood Stall業は、何と狩りを行い自力で食材を手に入れるばかりか、最近ではGoblinやKoboldの肉を食用に加工する驚異的な技術を使って、他のFood Stallを傘下に収めてしまった。
更に野良犬やGiant RatをTamerしたかと思えば、Rank upさせてTamer guildから期待の新人として注目されている。
未確認の情報だが、昨日にはmonstersを新種にRank upさせたらしい。Guild MasterのBachemが都に向かったのも、VandalieuをTamer guildで囲み込むためguild本部に働きかけるためだと噂されている。
(だがTamer guildの事はどうでもよい。問題は、Goblinの肉だ!)
古来より……それこそHeroic God Bellwoodが生きていた当時から、臭くて不味いGoblinの肉を食料に出来ないかと、今まで数え切れないほどのMageやalchemist、Nobleやadventurer、市井のChefが試みてきた。
そして数え切れないほどの挫折を繰り返してきたのだ。歴史上幾つかの加工法やCooking法は発見されたが、そのどれもがcostがかかり過ぎて現実味の無いものだった。Goblinの肉を不味くは無い程度の味にするために、多くの手間と大量の調味料や香辛料を必要とするのでは、食糧危機や貧民対策にはとても活用できない。
(しかし、そのGoblinの肉を食用にする術をVandalieuは知っていた。Ghoulのwisdomらしいが……いったいどうやって聞き出したのだ? やはりTamerしたのか? それとも母親がいたDark Elfの里がGhoulと通じて……いや、そんな事はどうでもいい。filthy貧民相手の商売だが、その技術が手に入れば食料問題で頭を悩ませているNobleから金を搾り取る事が出来る! だと言うのに……あの母子め! 奴らは本当に商売をするつもりがあるのか!?)
VandalieuはYosefの嫌がらせに屈せず、彼が金を渡したAggar達が付け入る隙も見せず、利益を上げ続けている。その上Darciaは共同templeでFamiliar SpiritをAdventさせた事で、すっかり聖人扱いされている。
町の住人たちの間で二人の好感度は高まり続けている。Vandalieuを『King of the Stalls』、『Genius Tamer』、Darciaを『Saintess』と呼ぶ者まで出る始末だ。
逆に拙いのが、Yosef自身の立場である。
Yosefは今まで貧乏人の集まりであるSlumで、自分がどう思われても構わないと思っていた。しかし Darciaが聖人扱いされている事で、Slumだけではなく町全体から悪い印象を持たれつつある。
そして交易都市であるMoksiでマイナスimageが広がってしまうと、peddlerや旅人から周辺の町や村に……いや、Vandalieu達の知名度を考えれば、他のDuchyまで悪評が広がりかねない。
このままではGuild Masterが帰って来た時に拙い事になる。
(最近の噂では、儂をあのDark Elfに言い寄って振られた腹いせに嫌がらせをするスケベ爺呼ばわりだ! このままでは不味い……だというのに良い手段があるとかなんとか言っていたAggarは、音沙汰が無い。やはり使えん奴だ!)
Yosefは、Aggarをあまり信用していなかった。所詮はただの不良Guardであり、最初に依頼した粗探しが失敗した以上、期待できないと考えていたのだ。
それでも何か妙案があるならと-sama子を見ていたが……どうやら潮時のようだ。
「……こうなれば仕方がない、最後の手段じゃ。謝罪しよう」
そうYosefは決断した。
自分が悪かったと地面に膝をついて謝罪し、Vandalieuが寄りつかないので最近は放置していたが、問屋にかけていた圧力を改めて解くのだ。
「聞けばあの親子は孤児院に寄付を行い、四肢を失ったadventurerを保護しているそうだ。布教に役立てるための美談作りか、そうでなければ余程のお人好しに違いない。
儂が大勢の見ている前で膝をついて謝罪すれば、その場では受け入れるじゃろう。謝罪の言葉に、Vidaの教義を絡めればより効果的かもしれんな」
後はそのまま何かあるまで、大人しくサブMasterとして職務をこなしていればいい。そしてchanceを見つけては、「あの時のお詫びの気持ちです」と役立ちそうな情報を流し、便宜を図ってやるのだ。
それを繰り返せば、今の敵対関係は有耶無耶になるはずだ。
「よし、そうと決まれば早速今から……いや、奴のFood Stallは歓楽街の裏路地に配置したのだった。客が集まる夕方ごろに謝罪に向かうとしよう」
そしてYosefは頭の中でVandalieuとDarciaに謝罪する台詞を考え始めたが、それを邪魔するようなtimingで執務室のドアがノックされた。
「……入れ」
書類を職員が持ってきたのかと思ったYosefは扉に視線も向けずにそう言った。
だが、扉を開けて入って来たのが職員ではなく武装したGuardだと気がつくと、目を丸くした。
「な、何だ、貴-sama等は!? 儂に何の用だ!?」
「商業guild Moksi branchのSub Guildmaster、Yosefだな。逃亡したAggar及び数名のGuardの横領と誘拐教唆の罪で連行する!」
Guard達はYosefに向かって更に驚くべき事をthrustつける。
「わ、儂を連行!? 横領に、誘拐だと!? 何の事だ!?」
身に覚えのない事を糾弾にさらされ、Yosefは混乱し狼狽した。彼は確かにAggarに金を渡して、彼とその仲間数人にVandalieuの粗を探し、見つけたらどんな些細な物でも口実にしてFood Stallの営業を妨害するようにと依頼した。だが、それだけだ。
AggarがGuard隊の金や押収品を横領していようが、誘拐を企てようが、Yosefとは何の関わりもない。頼んではいないし、ましてや唆した覚えは無い。
「そんな証拠が何処にある!? 儂を連行したいのならまず証拠を見せてみろ、証拠を!」
混乱と狼狽は怒りに変わり、Yosefは椅子から立ち上がってGuardに向かって怒鳴り散らした。
「Shut Up! 抵抗はためにならんぞ!」
だがGuardたちはYosefがdemandした証拠を見せる-sama子も見せず彼を取り囲むと、強引に押さえつけて縛り始める。
「貴-sama等! 儂を誰だと思っている!? わ、儂はguildのサブMasterで、貴-sama等が仕えるIsaac Moksi Earlの叔父なのだぞ!? 儂に手を出してただで済むと思って――」
だがGuardたちは取り合わず、Yosefを強引に彼のものだった執務室から連行していく。何故なら、Yosefの身柄の確保は彼らが仕えるIsaac Moksi Earl直々の命令だからだ。
Isaacは、Spy達の奇妙な報告……孤児院の裏口から中に入ったはずのAggar達が、痕跡一つ残さず消えたと言う内容に頭を抱えた。抱えたが、その後Aggar達が行方不明になっている事から、何者かが何らかの手段を用いて彼らを何処かへ拉致し、死体を何処かへ始末したのだろうとconjectureした。
そしてその何者かが、Vandalieuかその関係者だろうとIntuitionした。根拠も無く、証拠も無い。用いた手段は高度なmagicを使ったのではないかという、誰でも言える推理未満の想像でしかない。纏めると、「奇妙な事は全て奴が関係している」という決めつけと暴論である。
だが他にAggar達があのtimingで消える理由が思い浮かばない。
そのためIsaacは、Aggarの次に狙われるだろうYosefの身柄を自分達で確保し、罰する事にしたのだ。
Vandalieuに自分達は敵ではない事を示す為、商業guildに借りを作ってでも叔父を生贄に捧げる必要性に駆られたのである。
「こ、これはguildの権利を侵す行為だ! このままguildが黙っていると思っているのか!? わ、儂は無実だっ、これは儂を貶めようとする何者かのTrapに違いないっ、誰かっ、信じてくれぇぇぇ!」
商業guildの建物から連れ出されていくYosefの訴えに取り合う者は、誰もいなかった。
Vandalieuが【Dream Guider】に就いた翌日の朝方、Yosefが連行されている頃。修行に出るため合流したSimonは一目で分かるほど舞い上がっていた。
「師Artisan、聞いてくれっ! 実は……俺、blessingsを手に入れたんですよっ」
そして、そう小声でVandalieu達に打ち明けた。
「……ほほう」
「へ、へぇ……」
「あ、師ArtisanもNataniaも信じてねえな!? 本当なんだぜ、朝起きたら《blessingsを獲得しました》って聞こえてよ、Statusを見てみたら本当にあったんだよ、blessingsが!」
そう嬉しそうに言うSimonに、NataniaとVandalieuは何て返したらいいのか分からなかった。
とても「あたしも持ってる」とか、「そ's Divine Protectionを与えたのは俺です」と、言える空気ではない。
「それで、どんなKami-samaから's Divine Protectionなんですか?」
しかし、そう尋ねられるとSimonは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「それが……Statusを見てもどう言う訳かblessingsをくれたKami-samaのnameが伏せられてんですよ。六文字で最後が伸ばす音だって事しか分からなくて」
どうやらSimonのStatusでは、blessingsは【■■■■■ー's Divine Protection】と表示されているらしい。そのため、彼はそれがVandalieuに与えられたblessingsだとは気がつかなかったようだ。
「もしかしたら剣や戦いに関係するVidaのSubordinate Godかも。実はですね師Artisan、昨日不思議な夢を見ましてね。修業をしている俺の背中を誰かが温かい手で触れて、振り返ると剣を貰ったって言う夢で……。それで目を覚ましたら、blessingsを受け取っていたんで。
眠りと言えばAldaのSubordinate Godの『Goddess of Sleep』Millって相場が決まってますが、なんだかそんな感じじゃなかったんすよねぇ」
そう夢について語り、「師Artisanは知りませんか、VidaのSubordinate Godで夢や剣を司るKami-sama?」と尋ねるSimon。
「……いえ、六文字のnameで夢や剣を司るVidaのSubordinate Godに心当たりは無いです」
Vandalieuとしてはそう答えるしかない。夢の中で彼の背中に触れたのは、手ではなく口から垂れ下がったtongueの先だとか、彼が受け取ったのは剣ではなく零れ落ちた角だとか、そんな真実はとても言えない。
「そうっすか……じゃあ、今度共同templeでそれとなく聞いてみるか……ああ、十数年ぶりに図書館に行って調べてみるのも良さそうですね」
「……アォン」
「ヂュ~……」
FangはそんなSimonに何故気がつかないんだと溜め息をつき、Maroll達三sistersは残念なものを見る目で肩を落とす。
「悪いなぁ、どのKami-sama 's Divine Protectionか教えられなくて」
certainly Fang達の真意はSimonに伝わる訳も無く、blessingsを与えた神のnameを知る事が出来なかったのを残念がっているのだと彼には解釈されたようだ。
「こんな事ってあるんですかね? やっぱり、俺が不信心なせいですよねぇ……六文字で、最後が伸ばす音のKami-samaのnameで考えても、全く思い当らないし」
さっきまでの明るさから、一転して落ち込んだ-sama子で肩を落とすSimon。Vandalieuは彼に「気にしないでください、そういう仕-samaなのです」と教えようか迷った。
「でもまあ、blessingsをくれたって事は俺に期待してくれているって事だ! これからも師Artisanの修行を頑張って、腕を取り戻してやり直せば、きっとKami-samaのnameも分かるようになるに違いねぇ!
さあ、修行に出かけやしょう!」
だが、再び元気になると門に向かって歩き出した。その後を「仕方ない後輩だな」とか、「まあ、その内気がつくでしょ」と言いたげな-sama子のFangやMaroll達が続く。
「……思ったよりも気がつかないものなんですね」
「最初に表示された文字の関係もあると思うけど、普通は気がつかないよ、師Artisan」
Vandalieuの呟きに、彼に背負われているNataniaが囁いて答えた。
Lambdaの人々にとって、blessingsはGodsから与えられるもの。本来Statusは重要な個人情報だが、手に入れると嬉しくて思わず親しい者に打ち明けてしまうくらい、特別なUnique skillなのである。
成長の壁を超える難易度の緩和等、具体的な効果以外にも、自分はGodsに認められ、選ばれたのだという優越感を刺激されるのだろう。
そんなblessingsが師Artisanから与えられたものだとは、やはり夢にも思わないようだ。
「オレだって夢に現れたのが師Artisanだとは思わなかったし……起きてからStatusに表示されたのがヴなんとか's Divine Protectionだったからもしかしてとは思ったし、すぐ教えてもらったから納得したけど」
Nataniaが見た夢は、仲間だと思っていた『Flame Blade』に囮にされ、Minotaurに襲われる夢だった。今まで何度も見て来た悪夢だったが、その途中で上からGiantな黒い足が降って来た。
足はMinotaurを踏み潰し、『Flame Blade』の連中を蹴り飛ばした。そして地面に倒れ込んでいたNataniaが空を見上げると、異形のgiantが自分を覗き込んでいた。
giantはboneばった手で丁寧に彼女を拾い上げ、温かい液体で包んでくれた。その液体……紅いbloodはNataniaの中に入り込み、そしてbloodは彼女の一部になった。
彼女がその夢から目覚めた時、Simonと同じくVandalieu’s Divine Protectionを受けていた。ちなみに、Julianaも同じようにblessingsを受けており、感極まって泣き出す彼女が落ち着くまでやや時間がかかった。
「ところで、blessingsを貰えたのは嬉しいけど……師Artisan 's Divine Protectionって修行に関係あるの? tongueが伸びるとか、そんな変な効果じゃないよな?」
「んー……maybe大丈夫じゃないでしょうか? まあ、tongueも伸ばそうと思えば伸ばせるようになるかもしれませんが」
心配そうなNataniaに、頼りない答えを返すVandalieu。しかし、彼女とSimonはその日の修行で見事に【Spirit Form】skillを獲得した。
「うおおおおっ!? 腕が、腕が動くっ! 自分の意思で、この鉄の義手が思い通りに動くぜ、師Artisan!」
「オレも、オレも歩けるよっ! まだ、ちょっとふらつくけど!」
Simonの義手に彼のSpirit Formが宿った事によって、彼の意思のままに動き出した。同じように、Nataniaも二本の義足を使ってぎこちないが、立ち上がって歩き出している。
その-sama子を見て、Vandalieuは手を叩いて拍手しながら二人を祝った。
「おめでとう、これで修行のFirst段階は完了です。Nataniaは動かす部分が多いのでもっと練習が必要ですが、この分なら数日で本物の四肢のように義肢を動かせるようになるでしょう」
その言葉にSimonとNataniaは思わず涙ぐんだ。
「では、早速第二段階に入りましょう。俺との戦闘訓練と、自主練習を交互に行います」
「「はい、師Artisan!」」
だから胸の高鳴りのまま、そう元気良く返事をしたのだった。
そして昼を少し過ぎて町に戻る頃にはSimonはFangに、NataniaはVandalieuに背負われて運ばれていた。
「し、師Artisan、めちゃくちゃ強かったんですねぇ……」
「オレは殆ど型の練習だけだったけど……明日大丈夫かな?」
Fatigue困憊の二人は、Vandalieuとの模擬戦の結果、力量の違いを自覚して驚いていた。
SimonはVandalieuを只者ではないと思っていたし、話を聞いていたNataniaは彼がAClass以上の実力を持っていると知っていた。
しかし想像するのと体験するのでは、やはり違うようだ。
「何より、何であんな事出来るんですかい? Spirit FormをMaterializationさせたり、千切って投げつけてきたり……」
「しかも、投げ飛ばした後もSpirit Formが動くなんて、tricksだよ。どうなってんのさ、師ArtisanのSpirit Form」
だが、Vandalieuは二人が想像していたよりも単純に強いだけでは無く、Spirit Formの使い方がHuman離れしていたようだ。
「skillは同格か格上の相手と訓練した方が上がりやすいですからね。俺も初めてする戦い方なので、張りきりすぎたかもしれませんが」
VandalieuはmagicもWeapon Equipmentも使わず、主にSpirit Formを使って二人に訓練を施していた。二人の伸ばしたいskillと同じskillで相手をする方が良いと思ったからだ。
「それに、二人とも【Spirit Form】skillを獲得して実戦に活用している段階で俺の同類ですよ。普通の人から見れば、十分人外の類です」
Vandalieuのその言葉は、半分正解で半分は不正解だ。
Spirit Formの形を強引に変えるとMentalに相応のimpactが出て、最悪発狂してしまう。Spirit Formをbody partから押し出されたSimonとNataniaにそれが起きないのは、二人のSpirit Formが五体満足だったときの形に戻っただけで、人型から逸脱して変形した訳ではないという理由だ。
対してVandalieuは人型から逸脱どうこうという段階をとっくに超えて変形を重ねている。形の無いSlime状と言い表すしかない。
そのため二人とVandalieuは同類ではあるが、その段階は大きく異なっている。……彼は最終的には二人共自分と同じ段階まで引き上げる(?)つもりだが。
「それに、これから【Materialization】や【Long-distance Control】skillを獲得してlevelを上げ、Spirit Formを維持するためにManaを上げて行けば、二人にも同じ事が出来るようになりますよ」
そのためにSpirit Formで出来る事を今日のような模擬戦で見せ、体験させる。そして自分も同じ事が出来ると思わせる。
Spirit FormはBodyと違い、完全に想像力、意思の力の領分だ。限度はあるが、出来ると思って目指せば本当に出来るようになるはずだ。
「確かに……戦えるbody partに戻るだけでもFortuneだけど、どうせならCClass……いやBClass以上を目指してみたい!」
「オレも。元通り戦えるようになるだけじゃ、恩返しできるか分からないし。ユリ……Juliaに置いて行かれるだろうし」
「うんうん、その意気です」
汗の浮いた顔でそう目標を掲げる二人に、Vandalieuは満足気に頷きながら門に連れ帰った。
「お帰り、今日の訓練はきつかったみたいだな」
門ではKestが一人で番をしていた。
Vandalieuが昨日今日と片腕のSimonや、四肢の無いNataniaを外に連れだしている事を知っている者達は奇妙に思っていた。一体外で何をしているのかと。
だが、VandalieuやSimonに聞けば訓練だと返事が返ってくるため、多くの者は彼が二人にTamerとしての訓練を施しているのだと誤解して、そのまま納得していた。……Moksiの町で有名なVandalieuは、Mageでは無く、Food Stallの経営者とTamerとしてしか知られていないからだ。
Tamerのadventurerの中には戦闘をTamerしたmonstersに任せる者も少なくなく、それなら片腕のSimonや、四肢の無いNataniaでも生きていく力になるだろうと思われたのもある。
疲れきっている二人は義肢を外してFangとVandalieuにそれぞれ背負われているので、その誤解が解けるのは明日以降になるだろう。
「はい。ところで、幾ら人の出入りが収まる昼でも、一人しかいないのは不用心なのでは?」
「Aggarってsenpaiは、またサボってんのか?」
「いや、それが、ちょっと今日は人手不足なんだ。う~ん……あまり話さないよう言われているんだけど、Vandalieuも関係者と言えば関係者だからなぁ」
何故門に一人しかいないのか尋ねられたKestは、一旦は答えを濁したが、暫く考えた後話す事に決めたようだ。
「実は、Aggar先ぱ……Aggarと他四名のGuardが不正に手を染めている事が分かったんだ。いや、何を今更って思うのは分かるけど、押収した毒物の横領に……どうやら人身売買にまで手を出そうとしたらしくて、孤児院の孤児を誘拐しようとしたらしい」
「な、なんだってー」
「そう言えば、昨日孤児院の辺りが妙に騒がしかったが、そんな事になってたとは……!」
「Vandalieu、驚いたふりはしなくて良いよ。-kunが孤児院に通っている事は俺も知っているから」
KestはVandalieuが驚いた真似をしたのに、苦笑いを浮かべて首を横に振る。きっとNunや孤児達から聞いたのだろうと思い込んで。
「幸いな事に、誘拐は未遂で終わった。Aggar達が塀を飛び越えた先にNunがいて、彼女がscreechをあげたのに驚いて逃げて行ったそうだから。
でも未遂でも誘拐は重罪だ。それをGuardが行うなんて、このままじゃ町の皆に示しがつかない。徹底的に捜査する事になって、今朝から人員の多くが駆り出されているんだ」
「だからって、門に一人しか配置しないのは危ないだろ。その口ぶりじゃ、まだ連中は捕まってないじゃないか? 町から逃げ出そうとしたら、どうやって止めるんだ」
「それは大丈夫。街に入る人を調べるのは俺一人だけど、門の内側に町から出ようとする人たちを取り調べるための検問が設置されているから」
「うへぇ、朝早く町を出ておいて良かったですね、師Artisan」
「そう、ですね」
Aggar達を自分達で処理した事のimpactが、思ったより大事になっていてVandalieuは若干困惑していた。
恐らくEarlやその周辺の者の指図だろうけれど、Nun Celisに目撃されたSpy達を、覆面で顔を隠したAggar達だと言う事にして、そのまま手配したようだが。……彼らは何処まで真実を察しているのだろうか?
(手を出そうとする直前まで待って、Gufadgarn達に孤児院に入ろうとしたら始末するよう頼んだら……その数秒後にSpyが捕まえに来るなんて。何故孤児院に入る前に捕まえてくれなかったのか)
領主側で処分するのなら、一切手を出すつもりはなかったのにとVandalieuは思った。
(孤児院のchildやNunに対する認識の違いだろうか? 皆に怖い思いをさせないようにと俺は考えたけれど、領主側は違ったとか。……諸々の事情があるのは分かるけれど、だとしたら若干不愉快だな)
Vandalieuがそう思っている間に、Kestの話は大体終わっていた。
「ただ、Aggar達はまだ捕まっていないから、十分気を付けてくれ。逆恨みして何かよからぬことを企まないとも限らないから。
おkaa-sanには、特に気を付けるようにと伝えるんだよ」
そのAggarは今頃Gufadgarnの出口無き迷宮を彷徨っているのだが、それを知らないKestは町に潜伏している彼がVandalieu達に良からぬ事を企んでいないかと心配しているようだ。
「分かりました、気をつけます」
それを否定する事も出来ないので、罪悪感を覚えつつもVandalieuは頷いた。……捕まえたGuardの内、Aggarの死体だけでも、発見させた方が良いかもしれないと思いながら。
ちなみに話の間中、真実を知っているNataniaはKestに不審に思われないよう、Vandalieuの背で寝ている演技をしていた。
そして町の中に入って家に帰ったVandalieuは、領主の使いから個人的なお茶会への招待状を受け取ったのだった。
《Vandalieuは、【King of the Stalls】、【Genius Tamer】のsecondary nameを獲得しました!》
《【Spirit Tuning】skillを獲得しました!》
Moksiの町に配してある人形から受け取った情報から、Birkyneはconjectureした。
「そろそろ動くには丁度良い頃合いだな」
情報は酷く断片的だ。しかし、あの町で起こる奇妙な事、説明がつかない事は、全てVandalieuが関係している事だとBirkyneは考えている。
それによると、人形は彼が予想していたよりも上手くVandalieuの懐に入ったようだ。
これ程深く入ったのなら、簡単に切り捨てる事は出来ないだろう。交渉の材料、及び代償にするには十分だ。
「宜しいのですか? このままなら、奴が治めるBoundary Mountain Rangeの内部に至る事も可能だろうと思われます。それからでも遅くないのでは?」
腹心の一人がそう進言するが、Birkyneは「いいや、そこまでの時間は無い」と首を横に振った。
「あまり時間をかけると、Alda達のbelieverが動きかねない。まあ、まさか連中も彼が町で平和的にFood Stall稼業を始めるとは思わなかっただろうから対応には苦慮しているだろうし、地上に彼を倒せるほどの戦力はまだ無いだろう。
だが、功を焦った愚か者達がminionsのHeroを集めて、彼が町から出たところを襲撃する可能性はある」
神と呼ばれる存在にも愚か者はいると、Birkyneは知っている。十万年前にBellwoodに扇動されたAldaや、それを見抜けなかったVidaのように。最近では、追い詰められ飼い犬に手を噛まれて死んだTerneciaや、狂乱して自身の手足である配下を自分で始末して離反を促してしまったGubamonがそうだ。
純粋なGodsと、龍やTrue giant、そしてBirkyneのようなPure-breed VampireなどBodyが無ければ存在を保てないDemi-Godは本来別々の存在だが、愚かさという点では違いはない。
「まあ、流石に仮にも自分が選んだHero達にmountain banditの猿真似をさせるとは考え難いが。しかし、Reincarnatorの方はどうか分からない。彼らは神から通常ではあり得ない力を授かっている可能性が高いからね。
Mortor、彼らの動向は掴んでいるかい?」
Dwarf出身のNoble-born Vampire、Birkyneの『四人の腹心』の一人であるMortorは、禿頭に冷や汗を浮かべてmasterに答えた。
「Asagi・Minamiとその仲間二名は、Birgit Duchyに留まっております。捕獲したDemon King Fragmentの研究を、我々のorganizationの息がかかった者が引き合わせたalchemistやMageと研究しており、そこから離れる-sama子はありません。
また、Kaoru GotoudaはDuke Farzon領の港から出て、Laberta Archipelagoに向かう船に乗ったようです。以後、Continentに戻った-sama子はありません」
Vandalieuと接触した事と、その特徴的なnameからReincarnatorと見抜かれた【Mage Masher】のAsagiと仲間の二人と、彼らに接触させた手の者から得た情報と、やはりnameからReincarnatorだと見抜かれた【Super Sense】のKaoru Gotouda。合計四人のReincarnatorの消息をBirkyneのorganizationは掴んでいた。
「ですが……Hajime Inui、及びJunpei Murakamiと他二名が姿を消しています」
その報告にroomを漂う緊張感が一気に増す。「それで?」と先を促すBirkyneの声に、報告しているMortorだけではなく、他の側近達も冷や汗を浮かべる。
「Hajime Inuiはoriginally人里に寄りつかずPursuitが困難だったのですが、どの街や村、そして街道でも姿が確認されていないため、単にDevil NestsやDungeonに潜っているのか、それとも人目をendureんで移動しているのか分かりません。
Junpei Murakamiと他二名は直前まで滞在していた町や村から姿を消して以後、Hajime Inuiと同じように所在を確認できません」
やはりnameからReincarnatorだろうとBirkyneが目星を付けたこの二組は、彼らのorganizationのPursuitを何度も回避していた。
【Marionette】のHajime Inuiは人里に寄りつかないため人を接触させるのはcertainly、継続して監視する事も難しい。Murakami達は単に警戒心が高く、不用意な接触が出来ない。
理由は異なるが、見失ったのは同じだ。
「なるほど……では、今頃Moksiの町の周辺に潜伏しているか、潜伏するために移動しているのだろう」
だがこのtimingで姿を消した時点で、その意図を測るのは容易い。そうBirkyneは考えていた。だからMortorの失態を責めるような事は……ヒステリーを起こす事は無かった。
その事に、腹心たちはほっと安堵する。
「しかし、ReincarnatorはどうやってVandalieuの出現を感知したのでしょうか? やはり、神から特別な力を?」
「それよりも、ReincarnatorがVandalieuに仕掛けるのなら、その結果を見てから動いても良いのでは? 奴らが勝てば丸儲け。負けたとしても、我々には何のimpactもありません」
「それは出来ないよ。彼らが何時、どんな意図でVandalieuに接触するのか分からないんだ。もしかしたら、Kanako Tsuchiya達のように配下になりに行くのかもしれない。……考え難いけれどね」
Hajimeの行動はどう考えても強敵に立ち向かうために過酷な修練を繰り返す者のそれだし、Murakami達も明確に標的を意識している事が窺える。
配下に降ったKanakoや、話すだけで引いたAsagiの時のようにはなるまい。
(その割にはnameでReincarnatorだとバレるのはお粗末だが……彼らをこのworldに送り込んだ神の意図の中に、私のような存在の始末も含まれていると考えればそうでもないのか? まあ、奴の事情や思惑は後で考えれば良い事だ)
そう逸れかけていた思考を修正したBirkyneは、tableに置かれていたAlcrem Duchyのmapに描かれたMoksiの町を指で叩く。
「それにReincarnator達の対Vandalieu tacticsが、町ごと吹き飛ばすような極端なtacticsだった場合私の人形がどうなるか分からない。-sama子を見ていたら自分のtacticsに必要な駒が無くなったなんて、間抜けが過ぎるだろう」
BirkyneはReincarnator達、少なくともHajimeやMurakamiの力を侮ってはいなかった。Vandalieuを殺そうと言うのだから、最低でもAClass adventurerと同程度の力があるだろうと見積もっている。
そんな連中が町の被害を考えずに暴れれば、Moksiの町は大きな被害を受けるだろう。その後人形が無事かどうか分かったものではない。
「それに……あまり時間をかけると人形自体にimpactが出かねない。彼は、恐らくGuiderだからね」
Birkyneがそう告げると、Mortor達の顔に先程とは異なる緊張が浮かんだ。horrorだけではなく、畏怖の混じった緊張が。
「まさか、幾らGuiderと言えどBirkyne -samaの人形への支配が揺らぐなど……あり得るのですか!?」
「あり得るとも。何せVandalieuはDemon King Fragmentすら呼び寄せている。今のところは人形達にimpactは出ていないが……」
待てよと、Birkyneは思い直した。もしかしたら、impactはもう出ているのではないかと。
人形達のVandalieuに対する態度……それは前もってある条件に当て嵌まる者に対して近づき、好感を覚えるよう、不自然ではない程度に抱くよう仕込んである。その結果、Vandalieuと人形の関係は良好だが……もしかしてその好意にGuidanceのimpactは出ていないと言えるのだろうか?
(いや、impactが出ていたとしても私が制御できる範囲内なら問題無い。私のfragmentのmain bodyは私の中に、そして切り離した部分は人形の中に宿り続けている。
問題は、無い)
胸中でそう繰り返すと、Birkyneは腹心達に告げた。
「さあ、取引に行こう。Vandalieuは私の人形達を、そして我々は安全を手に入れる。彼が蹴った場合は戦闘になるが……なに、彼が人形達を見捨てられなければ、こちらのものだ」
・Title explanation::King of the Stalls
複数のFood Stallを傘下に収め、営業している通りや地域で指導的な立場に在る者が獲得するsecondary name。類似したsecondary nameが多数存在する。(例:Food StallのQueen、Food Stall General、Food Stall King等)
通常は幾人かpupilsを育てたChefや、Food Stall仲間の意見を纏める顔役的な人物が獲得するsecondary name。活気のある町には大体一人はKing of the Stallsがいる。
補正として、多少だが【Cooking】skillに補正がかかる。
・Title explanation::Genius Tamer
読んで字の如く、Genius的なTamerが獲得するsecondary name。何かGenius的な実績か、素質を見せる事が獲得条件。また、その性質上比較的若いTamerが獲得しやすい。
『King of the Stalls』より珍しいsecondary nameだが、Orbaum Elective Kingdomの場合各Duchyに、十数年に一人ぐらいの割合で『Genius Tamer』が存在する。
このsecondary nameを獲得している時点でTamer関連のskillは十分だろうが、それらに多少だが補正がかかる。
ただこのsecondary nameは補正よりも、Tamer guildで将来の幹部Candidate……最低でもbranch長classになると見込まれているという意味の方が大きい。