あの講演を聞いてから二日後、彼の姿は町の外にあった。
思えば、Moksiの町から出たのは何年ぶりだったろうか? 厳密に言えば町を守る壁の補修手伝いの依頼を何度か受けたから、実際にはそれ程の年月は経っていないのかもしれない。
しかし彼には十年ぶり以上に感じた。冬の冷たい風も心地良い。昨日から積もった雪を踏みしめる感触を味わう度に、あの頃を思い出させる。
そして漂うbloodの臭いと、命を失った死体が転がっている光景がどうしようもない程愉快だった。
「そうだ、俺はまだやれるんだっ。終わってなんかねぇ、片腕でも、Goblinくらいやれるんだ! くく、はははッ!」
Left Armに持った肉厚の剣に付いたbloodを苦労して拭いながら、Simonは笑みを零した。
ここ最近、Simonの懐はVandalieuからの使いの報酬で温かかった。彼から渡されるmonstersの討伐証明部位の数と質は、日が経つごとに上がったからだ。初日はRank1から2だけだったが、二回目にはRank4のKobold Generalまで混じっていた。
それだけで日雇い仕事一週間分の収入なのに、他にも袋の中にOrcやGoblin leader等Rank3のmonstersも複数あった。
彼が現役で、partyを組んでいた頃でもこれ程の数のmonstersを一日で狩った事は無い。それは素直に凄いと思う。
その彼の成果をAdventurer’s Guildに運ぶだけで、半分を受け取る事が出来る。たいした労力も無く、危険も冒さず、十分すぎる金が手に入る。Fortuneだと思う。
しかし、SimonにとってFortuneなだけでは無かった。
Adventurer’s Guildに出入りする度に、嫌な視線を向けられるのだ。
これまでも日雇い仕事を受けるため、SimonはAdventurer’s Guildに定期的に通っていた。その時隻腕の彼に向けられるのは、憐憫や嘲笑の視線だ。
adventurerになって三年目の十代後半になった頃。やっとまともな装備を買い揃え、DClassへ昇格するための試験に合格してこれからという時にSimonは利き腕を肩から失った。
その衝撃は大きかったが、彼もすぐに諦めた訳ではない。Moksiには腕の良いalchemistも居たため、何とかmagic itemの義手が手に入らないかと、当時partyを組んでいた仲間と奔走したのだ。
性能が良いmagic itemの義手があれば、日常生活を送るのに不自由が無いのはcertainly、まだadventurerとして戦える。
だがmagic itemの義手を購入するのに必要な金額は、性能が悪い物でもSimonたちが想像していた金額の十倍以上が必要だった。
当時まだDClass adventurerになったばかりのSimonには、まとまった額の貯蓄は無い。仲間全員のpropertyをかき集めても、頭金にも満たなかった。
guildから借金しようにも、DClass adventurerになったばかりのSimon達に大金を貸せる訳も無い。
それでも暫くは諦めずに奮闘した。Left Armで剣を使えるように訓練をし、他の役割……盾職への転向やmagicの習得を試みた。
だがそれらは上手く行かず、Simonは足手まといになるとpartyから抜けた。仲間達はその後Moksiから去り、そのままnameも聞かないのでどうなったのか分からない。
名を上げる前に死んだのか、別のDuchyでCClassぐらいに昇Classして程々に活躍しているのか、adventurerを辞めて他の職に就いているのか。guildで聞けば教えてくれたかもしれない。しかし Simonは調べようとはしなかった。
この町に一人残ったSimonは惰性で生きていた。最初の頃は他のadventurerのポーター……荷物持ちをしたり、Production relatedの職に就こうとしたり、真っ当なHumanとして生きて行けるよう努力していたと思う。
しかし何時の頃からか酒の量が増え、住んでいる場所が表通りの安宿からSlum街の廃屋に移り、身だしなみにも最低限しか気にしないようになっていった。
そして気がつくと昔使っていた剣や鎧は生活費の為に消え、すっかり「Slumに棲みついた落伍者」になっていた。
彼が現役のadventurer達から憐れまれ、嘲笑されるのは無理も無い事だろう。
そんなSimonが大量の討伐証明部位をAdventurer’s Guildに持ち込んだのだ。目立たない訳がない。そのためadventurerではないがTamerで、Food Stallで使うための食材を自力で狩り集めているDhampirの少年に彼が雇われている事も、すぐに広まった。
adventurerでは無いVandalieuが食材とはいえ、素材を自力で集めてしまう事はAdventurer’s Guildから見ればあまり喜べない状況だ。
事情を知らない依頼者が、「adventurerでもないchildが狩る事が出来るmonstersの討伐に、何故こんな高い依頼料を払わなければならないのか」と言い出しかねない。
そうでなくても、既得権益を侵されるのは面白くない。
しかし当然だがVandalieuはAdventurer’s Guildに来ないので、その使いのSimonにguildからの不満が圧し掛かって来る。
それとなく食材の調達をAdventurer’s Guildに依頼するか、adventurer登録をするようVandalieuに伝えろと言われた事もある。
そして現役adventurerが彼に向ける視線は、嘲りから侮蔑へと変わった。上手くVandalieuに取り入り、利用して甘い汁を吸っていると思われているのだ。
……事実、甘い汁を吸っているので言い訳は出来ないが。
だが嘲りも侮蔑もこの十年でSimonはすっかり慣れていた。だからその場では不快に感じても、気にする事は無かったのだが……Darciaの講演を聞いて思ってしまったのだ。
生きてさえいれば、人はやり直せる。なら自分もあんな扱いを受けなくて済む、まともなadventurerとしてやり直せるのではないだろうかと。
気がつけばSimonは金を持って酒場では無く、Weapon Equipment屋に向かっていた。そこで剣を一振り買って、二日鈍りきったbody partを動かした。
そして今日、町をVandalieuと鉢合わせしないようにtimingを計って町を出て、Devil Nestsの外で一匹だけでうろついていたGoblinを見つけては、狩っていた。
「へへっ、この分なら、一月もすれば……Rank2までは行ける。後は昔の勘を取り戻して、Left Armでも戦えるようになれば……Rank3だって夢じゃねぇ」
adventurerとして稼ぎ、生活するためにはやはりRank3以上のmonstersを狩れなければ苦しい。Slumで生活するにはRank2のまででも十分だが、このbody partで危険な仕事を熟した結果が今までと変わらない生活では意味が無い。
目標を見据え、それに近づいている事を実感して笑うSimonだったが、額には汗が浮かび呼吸する度に肩が上下していた。
長年の不摂生によるEnduranceの低下は、本人が思っているよりも深刻だったようだ。
このworldにはStatus systemが存在し、skillがある。そしてskillは、一度獲得すれば生涯に渡って有効だ。
だがそれは、skillの所有者自身のbody partがどんなconditionでもlevel通りの実力を発揮できるという事ではない。
Muscular Strengthが衰えれば剣を振るう速さや力が損なわれるし、勘が鈍れば剣捌きも鈍るのだ。
しかし Simonは自分のconditionを顧みず、Goblinの耳を切り落とし、そして不器用ながらGoblinのDismantlingを始める。
「まさかGoblinの肉を態々持って帰る事になるとは思わなかったぜ。へへっ、これであのガ……Vandalieu -sanにも俺がパシリだけじゃないって見直させ――!?」
はっとしたSimonは、Goblinの死体から離れて剣を構えた。その視線の先には、狼の群れがいた。
「狼……クソ、bloodの臭いに誘われて来たのか」
現れたのは、monstersではない普通の狼である。Devil Nestsの外で活動していた狼達が、SimonがDismantlingしている途中のGoblinの死体に誘われて現れたのだ。
数は十頭よりも少ない程度で、どの狼もやせ気味に見える。恐らく冬で十分な得物を取れてないのだろう。それでSimonが倒したmonstersのおこぼれに預かろうとしているのだ。
(分が悪い……ここは引くしかねぇ)
Simonはそう判断して、狼を睨みつけたままゆっくりとGoblinの死体から後ずさって離れる。
狼はmonstersではないが、Rankに当てはめれば2であり、それが十頭弱。とても今のSimonが追い払える相手ではない。
ただFortuneな事にmonstersでは無いので、狼はHumanを殺す事に拘らない。Goblinの死体をくれてやれば、戦わずに済むはずだ。
そうSimonは思ったが、狼たちは違う判断をしたらしい。ゆっくりと遠ざかろうとする彼を囲むように群れを展開させた。それを見たSimonの顔が引きつった。
「こいつ等、俺を簡単に殺せると思ってやがるのか!」
狼たちはGoblinの死体だけでは無く、隻腕でFatigueした-sama子のSimonも獲物に定めていたのだ。
Simonの叫びにtimingを合わせたかのように狼がfangsを剥き、群れの中の一頭がまず彼を押し倒そうと襲い掛かる。
「く、クソっ、【Instant Response】! 【Single Flash】!」
何年振りかにActivateさせたMartial Artsで反応速度を上げ、最初に飛びかかって来た狼の頭に向かって剣をSingle Flashさせる。
「ぐぅっ!?」
だが剣を振るった腕から痛みが走り、Simonの攻撃は狼からずれてしまった。咄嗟に狼のtackleを回避しようとするが、足がもつれて転倒してしまう。
(な、何でだ!? Martial ArtsはActivateしたはずなのに!?)
反応速度が上がった事で、Simonの目には倒れた自分に圧し掛かろうとする狼の姿がはっきり見えた。
Simonが思った通り、Martial ArtsはActivateしていた。だが衰えMuscular Strengthが落ちていた腕が、剣を素早く【Single Flash】させる事に耐えられずに痛みを訴え、やはり衰えていた脚がMartial Artsで上げた反応速度に対応する事が出来ずにもつれてしまった。
(そんな!? 俺はこんな所で終わるのかよ!?)
狼が自分を噛み殺す為に首に迫るのを見て、Simonは叫び声をあげた。
「た――」
「ヂュ~っ!」
低いmouseの鳴き声に似た鳴き声と同時に、Simonに圧し掛かっていた狼が「ギャイン!?」とscreechをあげて吹き飛んだ。
驚くSimonの視界に映ったのは金属質な光沢を放つ長いtailとfurを生やしたGiantなmouseだった。
「な、monsters? だがmouseってまさか……」
「ヂュウゥゥゥ!」
「ギィィィィ!」
Simonが起き上がる前に、左右から熱気とcoldを感じた。次の瞬間、炎の弾で狼の一頭が焼かれ、coldの弾で氷漬けにされた。
そして燃え盛る炎を纏っているmouseと、逆にcoldを漂わせる液体を纏ったmouseが左右から現れる。
「三匹って事はやっぱり……」
「GUOoooooo!!」
誰に助けられたのかSimonが理解すると同時に、空気を震わせる恐ろしい咆哮が響いた。数を減らした狼の群れは、screechをあげて逃げ出す。
「言い遅れましたが、助太刀しました」
そして珍しい灰色の毛並みをしたHellhoundの背に乗ったVandalieuに声を掛けられて、Simonは自分が助けられた事を確信し、安堵の溜め息を吐いた。
VandalieuがSimonの危機に駆けつけられたのは、偶然であった。昨日はDarciaと狩りをしたので、今日はFang達のlevellingをみっちりするためいつもより早めに狩りに出かけ、そしてRank upも達成したので帰る途中に、偶然通りかかったのだ。
「なるほど、それでGoblin狩りを」
「ええ、年甲斐も無く熱くなっちまって……」
事情を聞いたVandalieuは、Fatigueが抜けず座り込んでいるSimonの腕に触れながら話を聞き出していた。
「恥ずかしい話、今でも足の震えが止まらなくて……情けねぇ」
「ブRank、相当長いのでしょう? なら無理もありませんよ。それにFatigueもあるようですし」
「ええ……でも、こうしてBocchanと話しているだけでだんだん楽になって来ました。へへ、これじゃあどっちが年上か分かりゃしない……」
「だから、それはFatigueが回復しているだけですって」
Vandalieuは嘆くSimonにそう言葉をかけた。実際、Vandalieuは【Out-of-body Experience】で出したSpirit Formを彼の腕から体内に侵入させ、Spirit Formによる診断とmassage、Fusionによる治癒力のEnhanced (1)を行っていた。
本来ならSimonに受け入れる意思があるか、逆に意識不明でなければSpirit Formを侵入させる事は出来ない。だが今の彼はEmotionalに落ち込んでおり、抵抗する気力が全く無いのでこっそり治療する事が可能だった。
(腕は筋を痛めただけ、後は掠り傷。内臓は長年の不摂生のせい。脳は……むぅ)
「ところでそっちのFangと、たしかMaroll、Urumi、Surugaでしたっけ。随分姿が変わってますが、Rank upですかい?」
VandalieuのSpirit Formに体内から癒されると同時に頭の中まで探られているとは知らないSimonが、Fang達に視線を向ける。
視線を向けられたFangはVandalieuの横にお座りの姿勢で待機し、Maroll達は狼の内臓を貪り食っている。
「ウォン」
Black DogだったFangは、Rank4のHellhoundにRank upしていた。body partの大きさは牛程になったが、毛の色が変わっていない。
Hellhoundはadventurer達の間ではよく知られたmonstersで、炎の息と犬とは思えない獰猛さと凶暴さで有名だ。そのため、腕利きのTamerでもTamerするのは難しいとされている。
だが犬からRank upを繰り返してHellhoundになったFangには凶暴さは無いように見えた。……咆哮をあげていた時は、正体を察していたSimonでも思わず竦みあがるほど恐ろしかったが。
今彼の足が震えている理由のいくらかは、Fangのせいかもしれない。
だがBlack DogからHellhoundにRank upしたFangよりも、Maroll達に起こった変化は劇的だった。昨日まで彼女達は、三匹ともRank3のマーダーラットだった。
鋭いfront teethでHumanをeating preyする貪欲なmonstersで、mouse系で知られているraceでは最強とされるmonstersだったのだが……今のMaroll達は明らかにマーダーラットではない。
「「「チュゥウゥン☆」」」
話題が自分達に向いていると気がついた三匹は、狼の内臓を貪るのを止めてSimonに向かってあざとい鳴き声をあげて見せた。
口元がbloodで真っ赤だが。
「はい、それぞれFangと同じRank4にRank upしました。Marollは火鼠、Urumiは濡れ鼠、そしてSurugaは鉄鼠(てっそ)らしいです」
raceが変わったMaroll達は、それぞれのfurをname通りに変化させた。Marollは炎を、Urumiは液体やcoldを纏い、Surugaはfurその物を金属に匹敵する硬さに変える事が可能なようになった。
元がただのmouseとは思えない変異っぷりだ。
「聞いた事がありますか?」
「いや……知りやせん。この辺りには居ないのか……もしかしたら新種なんじゃ!? だったらTamer guildやAdventurer’s Guildに報告すれば賞金が手に入りますぜ!」
そうSimonが言うところを見ると、恐らくMaroll達は新種のようだ。濡れ鼠はin any case、火鼠と鉄鼠は『Earth』の昔話等で妖怪の一種として聞いた事があったので、そうではないかと思っていたのだが。
(そうなると、Maroll達が今のraceにRank upした原因は俺か。『Earth』に行って、知識を手に入れたからかな?
だとすると、もしFangが双子だったら今頃Hellhoundでは無く狛犬に変異していたかもしれませんね)
そんな事を想像している間に、Simonの腕の治療は終わり、Vandalieuは彼から手を離した。
「もうそろそろ大丈夫だと思います。立てますか?」
「ええ、何とか……いや、面倒をかけてすみませんでした。礼と言ってはなんですが、そこのGoblinとこれを」
ふらりと立ち上がったSimonは、自分が倒したGoblinの死体を指差し、更に剣を鞘に納めてからそれをVandalieuに差し出した。
「安物ですが、今持ち合わせが無いもんで……まだ殆ど使ってないから、Weapon Equipment屋なら幾らかで買い取ってもらえると思います」
「良いのですか? adventurerとしてやり直すのでは?」
「ええ、自分の身の程ってものが分かりやした。俺には、この生き方は向いてなかったんでしょう……やり直すにしても、他の生き方でやってみます」
Simonは狼に殺されかけた事で、すっかり心が折れていた。Darciaの講演を聞いて奮い立ったが、その息子に命を助けられたのはきっとDestinyなのだ。自分はadventurerと言う職業に向いていないと言う、Goddessの思し召しなのだと、思い込もうとしていた。
certainly「他の生き方」に心当たりは無い。過去にそうしてやり直そうとして、失敗したのが今の彼なのだから。
せめてProduction related Jobに就ければ違ったのだろうが……今のSimonのJobは【Swordsman】でlevelは10。次のJob changeまで90もlevelを上げなければならない。
その上、Simonは成長の壁にぶつかりlevelが上がり難くなっていた。
昔の仲間達もせめてJob changeが出来るようになるまではと彼を助けようとしたが、戦闘以外ではExperience Pointを殆ど稼げない上に、壁にぶつかってlevelの上がりが亀の歩みより遅いと言うx2苦に耐えられず、Simonの方から身を引いていた。
「せめて、俺にBocchanみたいにTamerのaptitudeがあれば利き腕が無くても何とかなったのかもしれませんが……こればかりは仕方ねぇ。すみませんが、暫くでいいのでまたパシリにでも使ってやってください」
「いえ、やり直したいなら手を貸しますよ。人生を変えようと思う程kaa-sanの講演に感じ入ってくれたのですし」
しかし Vandalieuは彼から剣を受け取ろうとはしなかった。
「えっ? もしかして俺にTamerとしての手ほどきを!?」
「いえ、それは教えたくても教えられない類のものなので無理です。俺が手伝うのは、あなたが利き腕を取り戻す事についてです」
「俺の腕を!? そ、そっちの方が驚きですが……腕の良いalchemistに知り合いでも?」
実はVandalieu自身も『腕の良いalchemist』なのだが、それを置いておいてSimonへVandalieuは話しかけた。
「全てはあなたの努力とやる気次第です。ですが、それさえあれば最高の腕が手に入ると約束しましょう」
VandalieuにはSimonに腕を取り戻させる、心当たりがあった。それはChampion Zakkartが創り出した『Lambda』版万能細胞、『The root of life』の使用……では無い。
あれを使えばSimonは確かに腕を再生する事が出来る。しかし彼の場合は腕を失ってから時間が経ちすぎていた。脳がRight Armを動かしていた事をすっかり忘れてしまい、必要な細胞が無くなっているか、残っていても腕を動かす事以外の機能を果たしている。
これでは利き腕を取り戻しても、Simonが腕を動かすには長いリハビリが必要になる。日常生活ならまだしも、戦闘で通用する器用さとMuscular Strengthを取り戻すのは、何十年かかっても難しいかもしれない。
Bellmondのtailの時は脳まで回復させることができたが……それは彼女が高いRegenerative Powerを持つVampireだったからだ。HumanのSimonの脳に同じことをするのは難しい。
だからSimonには、義手を動かす事が出来る最高の秘訣を教えるつもりだ。
「特別なaptitudeや素質は必要ありません、必要なのはただただ結果が出るまで俺の言葉を信じてついて来る事だけです。ただ、後で人から気味悪がられ、好奇の視線を向けられる事になると思います」
あまり具体的ではないVandalieuの説明を、Simonは真剣に聞いていた。彼はVandalieuの事をあまり知らないし、長く言葉を交わしたのも今日が初めてだ。しかし Fang達を見れば彼が色々と規格外の存在である事には察しが付くし、何より彼に人生をやり直す決意を抱かせたDarciaの息子だ。
いい加減な事は言わないだろうという確信があった。
「……originallyあんた達親子に会わなけりゃあ、今でも日雇い仕事で何とか食いつなぐだけの死んだような人生だったんだ。
このSimon、つまらねぇ命ですがお預けします」
そう、Simonが言い終わると同時に彼の中で大きな変化が生じた。
body partから重さが消えたように軽く思え、頭はすっきりと冴えてwhole bodyには力が漲っているのを感じる。
「お、おおっ!? こいつは……あんたについて行くと決めた途端、生まれ変わったような感じだ! 今なら狼だって逆に跳ね飛ばしてやれそうですぜ!」
立ち上がってその場で飛び跳ねるSimon。彼はこの瞬間、Vandalieuに導かれたのである。
一昨日Darciaの講演を聞いて感銘を受けたSimonだが、その時点ではまだVandalieuのGuidanceの対象外であった。
何故なら、Darciaがtempleで説いたのはVandalieuの人生観や価値観ではなく、Boundary Mountain Range内で教えられている『Goddess of Life and Love』Vidaの教えだからだ。
ただVidaを信仰しているだけでは、VandalieuのHell Demon Creation Pathへ導かれた事にはならないのだ。今のSimonのようにVandalieuについて行くと決意するか、Undeadのように強く惹かれない限り。
……なので、Gobu-gobuやKoboldの蒸し焼きについて教えたFood Stallの店主達は既に導かれていたりする。
「きっと気力が充実したのでしょう。この分なら明日からの修行もがんばれそうですね」
そしてVandalieuはSimonに、導かれてbody part Abilityが上がった事に驚いていた店主達と同じような言葉をかけて誤魔化すのだった。
「certainly! でも、明日からなんですかい?」
「ええ、必要な物を用意しなければなりませんし……tonightの分の仕込みがありますから」
しかし Food Stallの営業も疎かにしないVandalieuだった。
Vandalieu達はSimonを助けるために、獲物を乗せた荷車をその場に置いて駆けつけていた。そのため、町に帰る前に取りに戻る事になった。
Simonは他のmonstersに荒らされているのではないかと心配したが、大丈夫そうだ。
「何かmagicでも使ったのか……底が知れないお人だよなぁ」
「ワン」
Vandalieu達を待つSimonが、自分の護衛を命じられたFangに話しかける。
実際にはmagicを使ったのではなく、Chipurasに荷車の見張りに残ってもらっただけなのを知っているFangだが、詳しく話はしない。……Rank upしてもHumanの言葉が話せるようになった訳ではないので。
ちなみに、Human嫌いのFangだが自分と同じようにVandalieuに導かれた存在に対しては親近感や仲間意識を覚える為、敵意や過剰な警戒心は覚えないようだ。
Fang自身はそれを、SimonがappearanceはそのままにHumanではない別の存在になったからだと解釈していた。
「数日でHellhoundになったお前程じゃないが、俺も生き方を変えられるって気がしてきたぜ」
「ワンっ」
そしてFangにとってSimonは初めてできた後輩なので、対応は柔らかかった。「その意気だ、後輩」と言うかのように鳴いて励ます。
だが穏やかな時間は不意にかけられた声によって終わった。
「HellhoundをTamerしているのか。どうやら、腕利きのTamerらしいな」
前触れも無く聞こえた声に、Fangが素早く立ち上がりSimonを庇う。その-sama子に声の主……Randolphは感心したように頷いた。
命令された訳でもないのにmasterを庇い、しかし襲い掛かっては来ない。獰猛さと凶暴さで知られるHellhoundをよくここまで仕込んだものだと。
そう、彼はSimonをTamerだと勘違いしたのだ。
「い、いや、別に俺は――」
突然現れたadventurerらしいHumanの男に戸惑うSimonが動揺しながら答える前に、Randolphは一方的に用件を述べた。
「悪いが、一つ依頼をしたい。この二人をAdventurer’s Guildまで届けて欲しい」
そしてRandolphはWind-Attribute Magicで浮かせていたNataniaとJulianaを、自分の背後から前に出してSimonに見せる。
「なっ!? こいつは酷ぇ……っ」
布でbody partを包まれているが、二人に四肢が無い事は一目見れば分かった。特にJulianaの方は、SimonとFangを前にしても、虚ろな眼差しを向けるだけで反応らしい反応が全く無い。
「だったらAdventurer’s GuildよりHealing Mageの施術院の方が……いや、templeの方がいいか!?」
「待ってっ、落ち着いてくれ! 傷は大丈夫だからっ、Adventurer’s Guildまでオレ達を連れて行って欲しいんだ! オレはNataniaで、こっちはJulia……そう、Julia -sanって言うんだ。実は――」
自分よりも深刻なconditionの二人の姿に気が動転しているSimonに、Nataniaが慌てて事情を話し始める。
Randolphはそれを黙って見守っていた。NataniaにはJulianaの事を、Minotaurの群れに襲われて捕えられた先で出会った女で、『Julia』と言うnameしか知らない事にするように言ってあった。
Minotaur Kingに関しての処理はAlcrem Duke 家と都のAdventurer’s GuildのMasterが行うのでMoksiの町のguildに報告する必要はない。
このまま彼女達が、ただの不幸なMinotaurの犠牲者になってSimonが依頼を受けるのを見届けたら、そのまま消えるつもりだった。
だがNataniaの話が終わる前に、Randolphは背中に氷を差しこまれたかのような寒気を覚えた。
(これは……Demon King Fragmentが反応している!?)
はっとして懐のOrichalcumの小瓶……【Demon King Fragment】のsealedを確認すると、小刻みに振動していた。Infestする宿主も無く、sealedされているfragmentが何かに反応しているのだ。
『God of Law and Life』がまたEclipseでも起こしたかと空を見上げるが、その-sama子は無い。
(だったら何だ!? 最近宿主を乗っ取った【Demon King Fragment】がBoundary Mountain Rangeの方向に向かう事件が起きているのは知っているが……ここはAlcrem Duchyだぞ!? sealedされたfragmentが反応する程Boundary Mountain Rangeに近くはないはずだ!
いや、原因を考えている暇は無いか)
Randolphが施したばかりの【Demon Kingのfallopian tubes】のsealedは持ち堪えられそうだが、Minotaur Kingが儀式に使おうとしていた古い方の【Demon King Fragment】のsealedは、このままだと解けてしまうかもしれない。
sealedが解ければ、fragmentは宿主としてHellhoundやSimon、そしてNataniaやJulianaを狙う可能性がある。
「おいっ、これが依頼料だ。こっちはこの二人への餞別。頼んだぞ!」
RandolphはSimonにMinotaurから採取したMagic Stoneを一つ、Natania達への餞別にMinotaur MageのMagic Stoneを幾つか渡すと、すぐにWind-Attribute Magicの【飛翔】で空に飛んで行ってしまった。
「待ってくれっ! いきなりどうし……ああ、行っちまった。どうしたんだい、あの旦那は?」
「……さあ、どうしたんだろう?」
Simonと地面に降ろされたNataniaはRandolphが飛んで行った方向を見上げ、呆然と彼を見送る。その傍らで、Fangが静かに安堵していた。
彼はRandolphが圧倒的強者である事を感じ取っていたのだ。そのため暢気な後輩に注意する事も思いつかない程、EmotionalにFatigueしていた。
「まあ、あんた達をAdventurer’s Guildに運ぶのはいいが、ちょっと待ってくれ。こいつのごmaster -samaで、俺の……なんだろうな? ボス、sensei、師Artisan……そう、修行をつけてもらうんだから師Artisanだよな。
師Artisanが来るから」
「師Artisan? こいつはあんたがTamerしている訳じゃないのか?」
「ああ、もうすぐ――お、あれだ!」
そしてRandolphと入れ替わりになるように、それぞれ別の荷車を引いたVandalieuとMaroll達が戻ってきた。
「おや? 何かあったみたいですね。事情を聞いても良いですか?」
「はい、師Artisan! 実はついさっき見覚えのないadventurerがこの二人を連れて現れて――」
「なるほど。Natania -sanとJuliana -sanですね」
「な、何でnameを!?」
Nataniaが自分はcertainly、誰も言っていないはずのJulianaのnameまでVandalieuが口にした事に驚愕の表情を浮かべる。
(俺としては、戻って来たらpupilsが増えていた事の方が驚きなのですが)
「とりあえず、残りの話は道中で聞きましょうか」
「分かった、話せる事は何でも話すよ。でも、この人はJuliaだ。Julianaってnameは、出さないでくれ。頼むよ、助けると思って」
Vandalieuにそう頼み込むNatania。それに対して彼は頷いた。
「はい、certainly助けますよ。……なるほど、それは大変でしたね」
しかし Vandalieuが主に見ているのはNataniaでは無く、Julianaの周囲に漂っているKnightや村娘だったらしい霊達だった。
『Juliana隊長と、隊長が殺されないよう説得してくれたこの娘を助けてくれ』
『オ願イ、助ケテ。ケテ、ケテ、テテテテ……』
『アア、Kami-sama……Kami-sama、助ケテ……』
「大丈夫、大丈夫、安心してください」
霊達と、NataniaにVandalieuはそう言って繰り返し頷きかける。originally Simonを助ける予定だったのだ。一人が十数人から数十人に増えるだけだ。
・Name: Simon
・Race: Human
・Age: 27
・Title: none
・Job: Swordsman
・Level: 10
・Job History: Apprentice Warrior、Warrior
・Passive skills
Enhanced Muscular Strength:2Lv
Detect Presence:1Lv
Hunger, Disease and Poison Resistance:2Lv
Mental Resistance:2Lv
・Active skills
Sword Technique:3Lv
Armor Technique:2Lv
-Surpass Limits-:3Lv
Coordination:2Lv
Dismantling:1Lv
Housework:1Lv
隻腕の元adventurer、Simon。skill自体はDClass adventurerとしては平均的だが、長年の不摂生のせいでEnduranceが落ち、勘が鈍っている。そのためMartial ArtsをActivateしても正常な効果を発揮できないでいる。
Slumで何年も暮らしていた為、【Hunger, Disease and Poison Resistance】を、そして腕を喪った事でadventurerの道を諦めた事と先の見えない生活へのdespair感から、【Mental Resistance】skillを獲得している。
【Mental Corruption】skillでは無い事が、彼は根が善人で前向きな人物である事を示している。
・Name: Natania
・Race: Wildcat-species Beast race
・Age: 17
・Title: none
・Job: Unarmed Fighter
・Level: 27
・Job History: Apprentice Warrior、Warrior
・Passive skills
Night Vision
Enhanced Body Part:claws:2Lv(Lost!)
Enhanced Agility:3Lv
Detect Presence:3Lv
・Active skills
Throwing Technique:1Lv
Silent Steps:2Lv
Unarmed Fighting Technique:3Lv
Armor Technique:2Lv
-Surpass Limits-:3Lv
Dismantling:1Lv
Trap:1Lv
・Status Effect
四肢欠損
Wildcat-species Beast raceの女adventurer。等ClassはD。今までソロで活動していた為【Coordination】 skill等を身につけていないが、代わりにscout職のskillも獲得している。
ただ両手足が無い為、skillの多くを使えないconditionにある。このままのconditionで長く時間が過ぎると、脳が委縮してEnhanced Agilityなどのskillは失われてしまうかもしれない。
ちなみに、彼女に四肢欠損のStatus Effectが出ているのにSimonに隻腕のStatus Effectが表示されない理由は、Simonが腕を喪ってから時間が経ちすぎており、腕が無いconditionが正常であると認識されているためである。
・Name: Juliana Alcrem
・Race: Human
・Age: 20
・Title: 【AlcremのPrincess Knight】
・Job: Senior Knight
・Level: 34
・Job History: Apprentice Knight、Sub-Knight、Knight
・Passive skills
Strengthened Attribute Values: Under Command:3Lv
Strengthened Attribute Values: Mounted:3Lv
Spear weapon equipped, then Attack Power Enhanced (1) : Medium
Strengthened Defensive Power while equipped with metal armor:中
・Active skills
Spear Technique:5Lv
Armor Technique:4Lv
Shield Technique:4Lv
Mount:3Lv
Coordination:3Lv
Etiquette:3Lv
Commanding:2Lv
・Status Effect
四肢欠損
Infest:卵
Mental Decay
現Alcrem Dukeの末のImouto。既に継承権は放棄しているが、れっきとしたDuke 家の一員である。
Knight団に所属し、一部隊のCommandingを任されている。その実力はAdventurer’s Guildの等Classに当てはめるとCClassに至っており、将来を嘱望されていた。
ただ現在はNatania同-samaに全ての四肢を欠損しており、更に【Demon Kingのfallopian tubes】によってuterus内には幾つものMinotaur Kingの卵を植え付けられている。
その際のshockによりMentalがDecay conditionであるため、もしbody partを元通り治す事が出来ても以前の彼女に戻るかどうかは分からない。