Moksiの町を拠点に活動するadventurerの一人、Rockはその日も同じDClass adventurer party、『Rock Iron Party』の仲間と狩りにいそしんでいた。
Rock達にとってこのDevil NestsはAdventurer's School校時代から通っており、慣れた狩場だ。
「よし、今日は後何匹かmonstersを仕留めたら帰るぞ」
「そうだな。出来れば夕方には素材を売っておきたいからな」
仲間達も同意する。Adventurer’s Guildの素材の買い取り価格は、どの時間帯でも基本的に変わらない。しかし、肉等は問屋の仕入れが集中する時間帯の前に持ち込んだ方が、guild職員からの受けが良くなるのは確かだ。
「guildに借金がある身としては、順調に稼いでいますってappealしないとな」
「まさか、Weapon Equipmentを新調した直後に親父-sanが大injureするとは運が無いよな。Rock、今度美人のDark Elfが共同templeで講演するらしいから、厄払いに聞きに行ったらどうだ?」
仲間の言葉にRockは厳つい顔を顰めた。
「おい、親父のinjureは俺が不信心だから罰が当たったって言うのか? 俺がmonstersを狩る度神に感謝の祈りを捧げているのは知ってるだろ」
「『God of soldiers』-samaや『God of Thunderclouds』-sama以外にもお祈りしとけ。それに噂じゃそのDark Elf、本当に相当な美人だって聞くぜ」
「嫌だね。そんな暇があるなら、ソロでGoblinでも狩っていた方が未だ有意義――」
ウォオオオオオオオン――
「聞こえたか!?」
「ああ、これは近いぞ。……あっちだ!」
戦いの合間の雑談に興じていたRock達は、離れていない場所から聞こえた遠吠えに顔を引き締めると、荷物を背負い急いでその場所に向かった。
そこには、彼らの予想通りの光景が広がっていた。
狼よりも大きな灰色の毛並みの犬。その口元は、鮮やかな紅いbloodでべっとりと汚れていた。そして足元には仰向けのまま転がる、首元がbloodで汚れている少年。
ただ虚ろな瞳がRock達を映している。
「やはり魔犬か……間に合わなかったか」
魔犬は犬が汚染されたManaによってmonsters化した、Rank2のmonstersだ。body part Abilityは狼と同じかそれより若干強い程度で、特殊なAbilityも無い。そのため戦闘に慣れてきたばかりの新人adventurerでも倒せるmonstersだ。
そしてDevil Nestsに犬が迷い込む頻度は低いので、数自体も多くはない。
だが魔犬は通常の犬はcertainly狼よりもHumanに対して凶暴で、多少傷ついても全く怯まない。毎年油断した新人adventurerが犠牲になっている。
そして人を殺した魔犬は、勝利と喜びの遠吠えをあげる。先ほど聞こえた咆哮がそれだと思ったRock達は、急いで駆け付けたのだが……。
「child一人で狩りをするのを許すなんて、Adventurer’s Guildは何を教えてるんだ!」
「言うな。新人でもchildでも、adventurerになった以上全てはSelf責任だ。monstersを甘く見たこいつが悪い」
そう言って激高する仲間を諭しながらも、Rockは剣と盾を構えた。それに対して魔犬が低く唸り声をあげる。
「だが、仇ぐらいは取ってやらないとな。とんだ狩の締めになったが――」
「あのー、すみません、早まらないでください。何か勘違いをしていませんか?」
「これもadventurerの宿命……って、死体が喋った!?」
「生きてます。死体じゃありません。ただTamed Monsterとじゃれていただけです」
Vandalieuは驚いて後ろに下がるRock達を、仰向けの姿勢で見上げ、そう言った。
何度目かの狩りで、FangはVandalieu達の手助けを得ずにGiga Bird……fangsとclawsがWeapon Equipmentの鶏がmonsters化したRank2のmonstersを狩る事に成功した。
そしてそれを褒められた喜びのあまり咆哮をあげてVandalieuを押し倒し、Giga Birdのbloodで汚れたままのtongueで彼の顔や首を舐めていたのだ。
そこに勘違いしたRock達が駆けつけてきたのである。
そうした事情を話すと、Rock達は狐につままれたような顔をしたが、「そ、そうか」と納得した。
実際Vandalieuは生きているし、Rock達からはFangや木で隠れて見えなかったが、Giga Birdの死体や狩ったmonstersが乗せられている荷車もある。
そして気がつくのが遅れたが、FangはTamer guildでTamed Monster用に販売している首輪をつけていた。
違和感を覚えないでもないが、Rock達が怪しんで追及するような事は何も無い。
「勘違いして悪かったな。しかし、お前みたいな目立つTamerがAdventurer’s Guildにいたならすぐ噂になりそうなもんだが、今まで聞いた事がないんだけど」
Tamerのadventurerと言うのは、珍しい存在だ。raceによって凶暴性に差こそあるが、基本的には人類の敵であるmonstersを使役するのだから、Warriorよりもずっと少ない。
少なくともVandalieuのような目立つ容姿で、しかも十を少々過ぎた程度のageで魔犬をTamerしているようなTamerなら、将来の有望株として噂になっていないのは不自然だとRockには思えた。
(こうして面と向かって話していても異-samaなほど存在感を感じないが……もしかして存在感が無いから噂にならなかったのか?)
そんな失礼な事を考えているRockに、Vandalieuは答えた。
「俺はadventurerじゃありませんから。商業guildに仮登録中で、Tamer guildの準組合員です」
「adventurerじゃないのか!? それにTamer guildの準組合員って……この魔犬は、まさか今日Tamerしたのか!?」
「いいえ、このFangはSlumの野良犬です。今日Devil Nestsに来たら、魔犬に変異しました」
Vandalieuの、嘘は言っていないが肝心な部分は伏せたままの説明に、Rock達は驚いて目を丸くした。
「ついさっきmonstersになったのか!? それは……凄いな」
正直に言えば、信じ難い。しかし、RockはVandalieuの嘘に限りなく近い説明……ただの犬だったFangがDevil Nestsに入った途端monstersに変異したという主張を否定する知識が無かった。
鶏やウサギ、そして犬等の動物が穢れたManaに汚染されてmonstersに変化するのはRock達adventurerに限らず、このworldに生きる人々なら誰もが知っている事だ。
しかしその瞬間を直接見た者は殆ど居ない。汚れたManaと言って目に見える訳ではないし、動物がどれ程の汚染に耐えられるのか誰も知らないのだ。
古の時代から解明しようとMageやalchemistが試みてみたが、彼らの研究は「動物の個体差と、穢れたManaの密度やattributeによる」という曖昧な記述で終わっている。
だからDevil Nestsに連れ込んだ犬がその日のうちにmonstersになっても、否定する材料が無いのだ。
……ちなみに、飼育している動物が偶然monsters化してしまっても、飼い主を罰する法律は無い。monsters化した動物が他人を殺傷し、propertyを損壊させた場合の賠償責任を負うだけである。
「まあ、SlumでGoblinやKoboldの耳の切れ端なんかを食べている内に汚染されていたのかもな。それで今日Devil Nestsに入って限界を迎え、変異したって事だろう。
じゃあ、行くか」
「そうだな。色々聞いて悪かったな。魔犬はRank2の中じゃweak monstersじゃないが、この辺りには時々Rank3のmonstersや、GoblinやKoboldの群れが出る事がある。気を付けるんだぞ」
adventurerでは無く、appearanceからは武装しているように見えないVandalieuの狩猟方法を、Fang頼りのものだと解釈したらしいRock達はそう忠告して、自分達も狩りの続きをするために離れて行った。
「……良い人たちで助かりましたね。じゃあ、俺達はそろそろ帰りましょうか」
「ウォン!」
「荷車を引きたい? 確かにそうして貰うと、傍から見た時の『Tamerされているmonsters』っぽさが増して、誤解を受ける可能性が減りますね。
ちょっと待ってくださいね」
【Thread Refining】で吐いた糸でFangと荷車を繋ぐ紐と犬具を、Vandalieuは瞬く間に作った。
そしてMoksiの町の門に戻ると、荷車を引くFangが魔犬になっている事と、乗せられたDismantling済のmonstersを見たKest達Guardにとても驚かれた。
「ま、まさか仕入れって肉の方だったのか……」
「ええ、香草の採取もしましたけどね」
荷車にはmonsters以外にも串焼きのタレに使う香草も乗せられていた。……accurateには、Devil Nestsに入った後Vandalieuが【Tree Caster】のJob効果でbody partから生やした香草を荷車に乗せて、「Devil Nestsで採取した」と言い張っているだけなのだが。
これでVandalieuが使っている香草の出所を誰かが探ろうとした場合、Vandalieuの周囲ではなくあのDevil Nestsを無意味に探し回る事になるだろう。
「ええっと……こういう場合は、良いんですか、senpai?」
adventurerでは無い未成年者がDevil Nestsに入って狩りをして、獲物を持ちこんで良いのか。そうKestに問われたsenpai Guardは、額を手で押さえて答えた。
「問題無い。別に罰する法律も無いしな……」
危険なmonstersが跋扈するDevil Nestsは、当然危険地帯だ。未成年者はcertainly、戦闘Abilityを持たない一般人が入って良い場所では無い。
だが一般人がDevil Nestsに入るのを禁じる法律はOrbaum Elective Kingdomには無かった。
態々法律を定めて禁じるまでも無く、一般人は普通Devil Nestsに入らない。
だがDevil Nestsは新たに出現する場合や、何時の間にか広まっている事もある。そして外から見た時普通の草原や湖と変わらないDevil Nestsも、珍しくない。
だから近くの森や山が暮らしていた村ごとDevil Nestsと化してしまった村人たちや、偶然迷い込んでしまった旅人や遭難者を罰するのも酷な話だと言う事で、法律で罰せられてはいない。
「Devil Nestsで狩ってきた産物も、持ちこむだけなら税金はかからない。だが……普通だったら暫くお説教を受けてもらうところだぞ」
「はい、狩りでは無く香草を採取するだけだと誤解させるような事を言って、すみませんでした」
素直に頭を下げるVandalieuに、senpai Guardは溜息を吐いて「通ってよし」と言った。
「今回はその魔犬と一緒だったから、見逃すけれどね。またDevil Nestsに仕入れに行く時は、忘れずにその魔犬を連れて行くように。
後、早めにTamer guildに行って準組合員証と正規の組合員証を代えるように」
「はい、ありがとうございます」
「ウォン!」
ほっと安堵している-sama子のKestに小さく手を振って、Vandalieuは急いで家に戻り、仕込みを済ませ、午前中に準組合員として登録したばかりのTamer guildにFangと共に正規の組合員として登録し直したのだった。
Guild MasterのBachemには「-kunにはTamerのaptitudeがある!」と熱烈に口説かれたが、「店を開く時間なので」と何とか退去したVandalieuは、昨日までと同じように店を開いたのだった。
「今日は忙しかったわね。明日からは毎日Devil Nestsに狩りに行くの?」
Chipuras達によってVandalieuがDevil Nestsに行く事を伝えられていたDarciaは、肉を焼いているVandalieuにそう話しかけた。
「はい、明日は狩りに行くつもりです。今日は時間が短かったので、手に入った肉の量が少ないですから。それにこの町の警戒網も若干考え直さないといけないので。
明日、警戒網を外から調整して、更にFangのlevellingも兼ねて数日分の肉と、GoblinやKoboldを狩る予定です」
「ウォン!」
「VandalieuもFangも、頑張ってね。でも、忙しかったらおkaa-sanが狩りに行って来てもいいのよ?」
Darciaはどのguildの登録証も持っていないが、隠れ里で暮らしていたDark Elfだと町の人達には思われている。そのため彼女が、DClass adventurerが狩るようなmonstersを狩って来ても不自然に思う人よりも、「里では優秀なHunterだったのだろう、流石Dark Elf」と思う人の方が多いはずだ。
「それもそうですね……じゃあ、Fangのlevellingが一段落したらお願いします」
「ええ、任せて」
「串焼き一つ」
会話をしている間にも、まばらに客がやって来る。Vandalieu達のFood Stallはこの一週間の間に、美味いとreputationになり、『Hungry Wolf』の関係者以外にもそれなりに客が来るようになっていた。
「はい、一串で三Baumです」
「え? 値下げ?」
客は昨日まで五Baumだった串焼きが急に値下げされた事に戸惑いつつも、三Baumを払って串焼きを購入。そして表通りに戻りながら、改めて串焼きを観察した。
(肉の量は変わってないか? いや、ちょっと増えてる。じゃあ、質が落ちたのか?)
そう嫌な予感を覚えつつ肉に齧りついた瞬間、客はそれが間違っていた事を知った。味が、明らかに上がっていたのだ。
「うまっ!? 何で安くなって量も変わっていないのに、美味くなっているんだ!? も、もう一本っ!」
一度は表通りに戻りかけた客は、身を翻してもう一本串焼きを購入していった。
(……仕入れの方法を変えましたからね)
問屋で購入するのではなく、自分達で直接食材を狩り、加工しているので購入費がただ。そして働いているのはFangとVandalieuなので、人件費もかからない。
そのため、実は一串三Baumでもしっかり利益は出ている。
そして昨日より美味くなった理由は、単純に串焼きの肉が上質になったのが原因だ。昨日まで串焼きに使われていたのは、Giant RatやHorn Rabbit等Rank1のmonstersの肉。対して、今使っているのはGIANT Horn RabbitやGiga Bird等Rank2のmonstersの肉である。
基本的にmonstersはRankが高い程肉の味や素材の有用性が上がる。Rank1から2に変わっただけでは劇的なほどの差はないが……そこにVandalieuの【Cooking】skillが加わればそれも変わる。
劣る食材でも美味いCookingにするのがChefの腕の見せどころかもしれないが、やはり良い食材を最初から使った方が美味いCookingを作れるのだ。
「一体なんでこんなに美味くなったんだ!?」
「今朝、【Cooking】skillのlevelが上がったのですよ」
「なるほど!」
ただ長々と説明する程暇ではないので、Vandalieuは味が上がった理由の中で、最も説明が短くて済む事だけを客に説明した。
『え~、詳しく説明しないの? Yosefの悪評を広めておけば、いざって時に都合が良くなるかもしれないのに』
Yosefが各問屋に圧力をかけた事が広まれば、ただでさえ悪い彼のreputationを更に落す事が出来る。そうOrbiaは主張するが、Kimberlyがそれを宥めた。
『Orbiaの姉-san、それをしちまうと昨日までボスが取引していた肉屋のreputationも落ちるんで、それを嫌ったんじゃないっすかね?』
『ああ、あの人本当は良い人っぽいですよね』
生活の為にYosefの圧力に屈した肉屋の親父に、Vandalieuは若干だが配慮していたのだった。
『なら仕方ないか』
そう話していると、表通りでは無くSlum街の方から薄汚れ所々破れた外套をHaoriった、髭面の痩せた男がFood Stallに近づいてきた。
「いらっしゃいませ~」
「いえ、俺は客じゃなくて……『Hungry Wolf』の旦那からintroductionされた、Simonってもんです」
Simonと名乗った髭と垢のせいでageが分かり難い男は、卑屈な笑みを浮かべて頭を下げた。
「まあ、あなたが。Vandalieu、Michael -sanがintroductionしてくれた人が来たわよ」
「へい、よろしく頼みます。でも、俺みたいな死に損ないに何の御用で? 仕事が頂けるなら、喜んで働きますが……役に立てるとは思えませんがね」
Simonがそう言って更に卑屈な笑みを大きくする。しかし Vandalieuは、「そんな事はありません」と言って首を横に振った。
「Adventurer’s Guildの登録証はまだ持っていますね?」
「ええ……これがあれば、利き腕が無くても日雇い仕事にもありつけるもんで」
『Hungry Wolf』のMichaelことMilesにintroductionしてもらったこのSimonと言う男は、originallyはadventurerだった。しかし、引退できるpropertyが貯まるずっと前に、利き腕を喪う大injureをして戦えなくなってしまった。
今では町の清掃等、本来ならまだ戦闘Abilityに乏しい新人adventurer用の日雇い仕事をして何とか食いつなぐ生活をしている。いわゆる、落伍者である。
「では、これからAdventurer’s Guildでこの討伐証明を買い取ってもらって来てください」
そんなSimonにVandalieuが頼む仕事は、今日Devil Nestsで狩って来たmonstersの討伐証明部位をAdventurer’s Guildに売りに行く事だった。
「えっ? 討伐証明部位をですかい? 一体なんでそんな事を、態々他人に? ……仮でも登録証があれば、すぐ買い取ってもらえるでしょうに」
困惑するSimonが言う通り、Adventurer’s Guildに登録していれば誰でも討伐証明部位は買い取ってくれる。態々、adventurer崩れの乞食をintroductionしてもらってまでする事ではない。
「俺達は誰も持っていませんから」
しかし Adventurer’s Guildは登録証を持っていない者からは一切討伐証明部位を買いとってくれないのだ。
「だったら登録して来れば……いえ、何でもないです。やらせていただきます」
困惑したままのSimonだったが、VandalieuやFood Stallのshadowで自分を睨んでいるFangの視線から何かを感じ取ったらしい。困惑や疑問を脇に押しやって、頭を下げた。
恐らく変に興味を覚えれば自分の身が危なくなるとか、そんな誤解をしたのだろう。
「では、これが討伐証明です。買い取ってもらったらここに戻ってきてください。その後、買い取り金額の半分を取り分として渡します」
「へい、分かりま……こ、こんなに!? すぐに行ってきます!」
討伐証明が入った袋を受け取ったSimonは、顔を輝かせてAdventurer’s Guildへ小走りで向かって行った。
Rank1や2のmonstersの討伐証明部位の買い取り価格は、たいしたものではない。だが袋の重さからある程度の数があると分かったのだろう。それだけあれば半分にしても日雇い仕事数日分の収入になる。暫く飢えなくて済むはずだ。
Simonがやる仕事の内容を考えれば、破格の報酬である。しかし Vandalieuにとって討伐証明部位を買い取ってもらって稼いだ金は、「商売で得た収入」でないため帳簿につけるわけにはいかない。だから無意味な金銭である。
そのため、Simonを雇ったのはボランティア同然であり、彼に渡した残り半分の金も孤児院への寄付に使うつもりである。
「これで俺達の周囲にSpyを派遣している領主も、俺達の資金が潤沢である事に対して納得してくれれば良いのですけど」
「この町に来る前からmonstersを狩っていて、それを売却したお金でFood Stallや家の購入資金を貯めたって思ってくれたら嬉しいわね」
そして最後の理由は、監視されているconditionで少額でも資金を調達して見せる事で、領主が持っているかもしれない自分達への不信感を薄れさせられたらいいなと言う気休めである。
「へへっへ、本当だって。今頃Food Stallで肉の無い串焼きでも売ってるか、店を畳んでるかだろうぜ。俺達はそれを確認するだけでいいのさ」
「それでYosefの旦那から金が貰えるって訳か」
そしてSimonと入れ替わりに裏通りに入って来たのは、三十代前後のHumanの男達。その中の一人に、VandalieuとDarciaは見覚えがあった。
Aggarである。
今までは離れた所からFood Stallを眺めて悔しげな-sama子で立ち去るだけだったAggarは、仲間を引き連れて強気になったのかそのままVandalieuのFood Stallに近づく。
そしてニタニタと嫌味っぽい笑みを浮かべて話しかけてきた。
「久しぶりぃ、Vandalieu -kun、Darcia -san。商売の方は――順調そうじゃねぇか!? 何で肉を焼いてんだよ!?」
だが、Vandalieuが昨日までと同じように串に刺さった肉を焼いているのを見ると、口調と表情が一変した。
「おい、どうなってんだ、Aggar? 少し-sama子が違うぜ。こいつ等なんで平気な顔で商売してるんだ?」
「そうだ。Dark Elfがコブ付きとは思えないぐらい美人だって事とガキが不気味な事しかあってないぞ」
Aggarが引き連れて来た仲間二人も同じように表情を変えて、彼を小声で問いただし始めた。
「何でって……それは串焼き屋のFood Stallだもの。何もおかしい事は無いと思うけれど」
Aggar達の-sama子がおかしいと、Darciaが若干引き攣った営業スマイルを浮かべてそう答える。……耳が良い彼女は、小声で交わされている彼らの会話が聞こえているのだ。
しかし Aggarの耳にはDarciaの声は届いていないらしい。彼はせわしなく視線を動かしながら何か考えると、唐突に叫んだ。
「そうかっ! それは犬の肉だな! あのWatchdogを潰して肉の代わりに――」
「ウォン! ウォンウォンウォン!!」
「うおっ!? 何でWatchdogが生きて、しかも大きくなってんだよぉっ!?」
凄まじい風評被害を店先で叫ぼうとしていたAggarに対して、Food Stallのshadowに隠れていたFangが猛烈に吠えた。
表通りから姿が見えると客に怯えられるかもしれないと配慮して、自主的に待機していたのだが流石に放置できないと思ったらしい。
しかし腐ってもGuardと言うべきか、大型犬並のFangにfangsを剥いて吠えられてもAggarは無-samaに転倒するような事にならず、咄嗟に後ろに下がって身構えた。
「ご覧の通り、うちのFangは元気です。Aggar -san、勤務明けに同僚の皆-sanと歓楽街に遊びに来たようですが……俺のFood Stallに肉があると、何か不都合でも?」
そのAggarにVandalieuは、【Demon King's Demon Eye】を使いながら問いかけた。
「べ、べべべっ、別に何でもねぇよ。い、行くぞ、お前等!」
「わ、分かった!」
「待ってくれよぉっ!」
だが以前睨みつけた成金よりも戦闘経験がある分Aggar達はhorrorに対して胆が据わっているのか、それともVandalieuが加減しすぎたのか、彼らは真っ青になって声を震わせただけで、自分の脚で退散していった。
「もう少し本気を出せばよかったでしょうか?」
『仕方ないんじゃないっすかね? 奴らが店先で失禁や脱糞しながらfaintedでもしたら、それこそ面倒ですぜ』
「あの人達……Yosefに雇われて来たのよね?」
「Demon King Familiarを通してEleonora達から教えてもらいましたからね。Yosefの家のServantがAggarに接触したと」
Aggarはただ素行が悪い Guardで、人格的にもAbility的にもそれだけの存在だ。ただ、犯罪organizationのHumanの間では、賄賂を渡せば便宜を図ってくれるGuardの一人として知られている。
YosefがVandalieu達への度の越えた嫌がらせの為に、金で雇ったのだろう。
先程仲間を引き連れて来たのは、肉を仕入れられなかったはずのVandalieuがFood Stallを営業しているか確認し、営業していたら代わりに怪しい物を売っているんじゃないかと難癖をつけ、店を閉めるよう脅すつもりだったのだろう。
仮登録から正規の組合員になれるかの審査を妨害するために。
……Aggarと彼が連れて来た仲間達は、ついでにDarciaにも手を出そうと企んでいたようだが。
『あの三人は始末しても良いのでは?』
「う~ん、確かに不愉快ではあるのですが、殺す程かと考えると……微妙なんですよね」
Yosefは自分の意思で、Sub Guildmasterの権力まで使って、度が過ぎた嫌がらせをしている。しかし Aggarははした金で雇われただけの小物だ。
Yosefは闇に葬れば暫く似たような奴は出てこないだろうが、Aggarの場合は葬っても似たような小者が次々に現れるかもしれない。
それに腐ってもGuardであるため、不審な死に方をしたり行方不明になったりすると、大掛かりな捜査が行われるかもしれない。
「そうね……もう少し実害がないと微妙かもしれないわね」
本来なら危機感を覚えるべきDarciaも、Aggarを不快だが殺す程の存在ではないと認識していた。今の彼女は並の痺れ薬や睡眠薬ならジョッキ一杯飲みほしても体調に変化は無く、細腕に秘められた腕力を発揮すれば、並のKnightなら一撃で楽々と撲殺できる。
そのためAggarの興味が自分に向いている内は、別にいいと思っていた。
『ふ~む、確かに我々が始末するとVandalieu -sama達がGuardに、腹を探られる事になるかもしれませんな。どうせ何も探り出せないのだから、大人しくしていれば良いものを』
『そう言う訳にもいかないでしょ、仕事なんだし。……仕事と言えば、今もいるんだよね? 領主のSpy』
『じゃあ、この嫌がらせの事を領主-sanはもう知っているんですよね。なら領主-sanがどうにかするべきですよね、自分の叔父と、自分が治める町のGuardの問題なんですから』
『確かにそりゃそうだ。でもボスが平気な顔をしていると、大した問題じゃないと思って動かないかもしれませんぜ。ボス、あの建物の二階の窓に向かって、『嫌がらせが辛いなー』って言ってみたらどうです?』
「……それ、そこにいるSpyの人達をおちょくるだけじゃないですか」
「ウォン!」
雰囲気が相談から雑談へと移っているVandalieu達に、唯一Aggarを脅威だと感じているFangが鳴き声を上げる。
二度と近づかないようにするべきだと主張しているようだ。
「大丈夫です、Fang。あいつ等は直接的な暴力に訴える事は出来ません。YosefもAggarも、それぞれの立場と権力、権限が最大のWeapon Equipmentで、それ以外は大した事ありません」
Yosefなら商業guildのSub Guildmasterで領主の叔父である事、AggarならGuardである事。彼らはそれを利用してVandalieu達に嫌がらせをしている。
だが、逆にそれから大きく逸脱するような事は出来ない。もしそれをしてしまったら、逆に自分達の首が締まるからだ。
「まあ、その辺りの事に気がつかなかったり忘れたりするのがHumanですが。……俺も気をつけないと」
「ワン?」
そう自分に言い聞かせるVandalieuを、Fangは不思議そうに見つめた。御masterはHumanじゃないのに、何故気をつけるのかと。
彼がVandalieuに何度言われても理解しなかった事。それは、Vandalieuが「自分はHumanである」と本気で思っている事だった。
Moksiの町から離れたDivine Realmで、『Goddess of Life and Love』Vidaは親しいbrothersにしてsisters達と卓を囲んでいた。
『魂の再構成が無事終わったか。この一週間がVandalieuにとって最大の隙だったが、これで一息つく事が出来る』
『Magic God of Time and Arts』Ricklentが安堵の溜め息を吐く。
『隙ではあるけれど、Alda達にはthrustようがない。たった一週間じゃ、Hero達をあの戦いの後すぐ動かしても、最初からAlcrem Duchy内に居る者達ぐらいしか間に合わない。Reincarnatorにしても周辺には居ないようだし、Birkyneは拙速に動く性格じゃない。
Ricklentは心配性が過ぎる』
荘厳な装飾が施された銀の杯を磨きながら、『God of Space and Creation』Zuruwarnが言う。
『……Heroic spiritや神が直接Adventする可能性もあったのでは?』
そう主張するのはVida達の新たなるbrothers……元Demon King Armyで現Vida's Factionの『Evil God of Labyrinths』Gufadgarnだ。他のGodsが本来の姿のまま集まっているのに対して、彼女は寄り代に宿ったままDivine Realmに存在していた。
『その可能性は無いわね』
しかし Vidaは彼女の意見に首を横に振った。
『Vandalieuを狙ってMoksiの町にHeroic spiritや神をAdventさせても、あなたがVandalieu達を連れてBoundary Mountain Range内部に【Teleportation】で逃げたら、bone折り損だもの』
地上にAdventする際に消耗するenergyの量を考えれば、boneを折るどころか瀕死の重傷損である。Vandalieuの近くにGufadgarnがいると知っているなら、とても実行できない。
『それに、VandalieuがAlda達のDivine Realmに攻め込んだならともかく、Alda達Godsが地上にAdventして直接戦う事はまず無いだろう。
我らの兄にして弟たるAldaは、Vandalieuをworldの為と称して倒そうとしている。だが、Vandalieuを倒す為にworldを滅ぼす危険を冒す事は無いだろう』
Ricklentが言う通り、Godsはworldの維持管理に必要だ。その必要なGodsが消滅し、若しくは維持管理に携われない程消耗する危険を冒すのは、Aldaも望んではいない。
certainlyある程度の余裕があるし、多少足りなくなっても千年以上は持つ。しかし、もし想定以上に活動可能なGodsが減ってしまったら……最悪の場合数秒後にworldは崩れて消滅する。
『でも、数秒後にworldが崩れて消滅するのは、Aldaだけじゃなく我々も全員消滅した場合だから、やはり-kunは心配し過ぎだと思う』
『汝が楽観的すぎるのだ。それよりも、その見慣れない杯はなんだ?』
『マイ杯。これでColaを飲む予定』
『……Vandalieuはお忙しい、あまり急かすな』
『Zuruwarn、Colaって甘いエールみたいな飲み物よね? だったら、泡が零れないようにもっと深い器の方が良いんじゃないかしら?』
一応真剣な議論をしていたはずのDivine Realmの空気が、一気に緩んだ。
『ともかく、これで魂の形が整えられた。これからはdeath attributeの力もより扱いやすくなるだろう』
『これまではRodcorteが適当に纏めたせいで形が歪だったから……今もHumanの魂として見れば異常ではあるけれど』
『originally無理だったのだろう。砕かれたsoul fragment四人分を、一人のHumanの魂に再構成すると言う試み自体が。
Human達がManaを持たない『Earth』では表面上は問題無かったようだが……magicが存在する『Origin』でdeath attributeに目覚め、そのまま我が創ったStatus systemが存在する『Lambda』にreincarnationさせた事で今のconditionとなった』
『彼のDeath-Attribute Magic……【Hell King Magic】skillはPassive。Vandalieuにとってdeath attributeの力は鼓動や呼吸……いいえ、boneやmuscle、内臓と同じ事。意識しなくても使える機能なのよ』
Humanは脚の構造を知らなくても立てるし、内臓の仕組みを知らなくてもそれを機能させる事が出来る。
Vandalieuにとってdeath attributeの力は、それと同然だとStatus systemによって定義されていた。
『万が一、Vandalieuがreincarnationするような事になっても、彼の魂からdeath attributeの力が離れる事は二度とないだろう。再び『Earth』のようにManaが存在しないworldでも、それは同じはずだ』
『彼の行く末が楽しみだけど、その分目が離せないけれどね』
そうVandalieuについて話し合うVida達に、一旦口を閉じていたGufadgarnが問いかけた。
『Great Godたちよ、確認したい。Vandalieuの魂の再構成はあれで終わったのだろうか? 零れている部分や、countlessに分かれている部分があるようだが』
GiantなVandalieuの一部から液体やeyeballが零れ落ち、周囲には手乗りSizeから三meter強までの大小-sama々な形のVandalieuが群れていた。
あのconditionのままでいいのだろうかと、Gufadgarnは心配しているらしい。
『大丈夫よ、あの零れている液体とeyeballはオーラと言うか……Zantarkのbody partから発散されている炎と似たような物だから。
後、main bodyとは別のVandalieu達はFamiliar Spiritやblessingsの役割を果たす為に分離しているだけよ』
『これからblessingsを得る者の夢の中に現れ、一体化するのだろう。現時点ではそれ以外の働きは無いようだが』
だがVidaやRicklentの見立てでは、問題無いらしい。
このworldのGodsがそう言うのだから、そうなのだろうとGufadgarnも『分かった』と頷いた。
『さて、GufadgarnがようやくBoundary Mountain Rangeの内側に入れてくれたし、暫くゆっくりしたいけれど……revivalが迫っているはずのPeriaの-sama子を見たり、Botinがsealedされている場所を探したり、人々がAlda派からVida's Factionに転向するように仕向けたり、色々大変だ』
『最後は、ほぼbeliever達に任せる事になるだろうが。Oracleを授けても、夢の中に出ても、結局何を選択するかはHuman自身の意思に委ねられる。委ねるべきなのだ』
『そうね、私も今まで寝ていた分、Human社会のCleric達をしっかり導かないと。……でも予想以上にOracleを受け取ってくれる人が少ないのよね。self-proclaimed私のbelieverでも、実際は違う人が結構いるし』
『では、私は再びVandalieuのshadowとなろう』
Godsはそれぞれの役割に戻り、Divine Realmには再び静けさが戻ったのだった。