『時間はかかりましたがやり遂げましたな、Bocchan!』
『おぉぉぉぉぉん!』
『Vandalieu -samaっ、一段と素敵になったわよ!』
『串焼き屋もVida believerを増やす足がかりも出来て、順風満帆ですね!』
『うおおおおんっ! 私のような者がこの一大事業に関わる事が出来、感激です!』
『おめでとう、Vandalieu。新しい姿を皆に見せてあげて』
皆の歓声を浴びながら、Vandalieuは立ち上がった。
その魂の姿は以前の形状……人体を構成する器官と【Demon King Fragment】が数も位置も出鱈目に配置され、無理矢理人型に押し込まれたような姿よりもずっとすっきりしていた。
遠目に見ただけなら、Giantな鎧やfurを纏ったWarriorかMageに見えるだろう。だが注意深く見れば、鎧を着ているにしては細身過ぎる事が分かる。
そして近づけば、その異形さは隠しようがない。鎧に見えたのは硬質なexoskeletonやcarapaceであり、装飾に見えたのは角やcompound eyes。マントに見えるのはfeatherやepidermisで、二本の脚に見えたのは何本ものArthropod Legsが束になっているだけ。
盾を構えているように見えるLeft Armは、Giantなcarapaceにexoskeletonからthrust出たboneが絡み合ったもの。そしてclawsが伸びた右手に握られている脳のような柄頭の杖は……よく見えればcountlessの脳がnerveを絡めあって纏まった球体と、それから伸ばしたtongueを握っているだけ。
そして頭部にはfangsの生えた口と、Giantな目とMagic Eye、そして髪とantennaが生えている。
関節の隙間から見える体内は、押し込められたblood vesselが脈打ち、内臓が蠢いていた。時々ぽろりと、eyeballや不思議な色の液体が垂れている。
そして常に……鼓動や脳波のように魂の奥底から発生し、blood液の如く循環するdeath attributeのMana。
『前よりは動きやすいので助かっています。皆、良い仕事をしてくれました』
『本人もそう言っているし、よく組み上げられたようでござるな』
『よし、完成を祝って皆で万age三唱だ!』
『ばんざ~い!』
『『『ばんざーい』』』
そして魂の再構築に参加していた皆と、Giant Vandalieu。そして途中から組み立てに加わっていたcountlessの小さなVandalieu達は万age三唱で完成を祝ったのだった。
ぱっと目覚めたVandalieuはまず自身のStatusを見て、Manaが完全に回復している事を確認した。
しかし彼は訝しげな-sama子で首を傾げる。
「どうしたの、Vandalieu? まだ具合が悪いなら、kaa-sanのbloodを飲む?」
隣のベッドで眠っていたDarciaがそう尋ねた。
「いえ、そうではなくて……夢の中で魂の組み立てが終わったのなら、皆と混じって万ageをしていたcountlessの俺は何なのかと思って」
自身の魂のconditionが理解できず考え込んだVandalieuだったが、一分もすると別に害はないのだから別にいいかと考え直したのだった。
同時刻、『Goddess of Sleep』MillとそのDivine Realmで治療を受けているHeinzは、遠くから響いて来た異-samaな咆哮を聞いていた。
『あの恐ろしい声は一体!?』
『私のDivine Realmにまで響く咆哮……眠りや夢に関係するDemon King ArmyのRemnants? いえ、恐らく……Heinz、あなた達を倒しCuratos -donoを喰らい、Vidaと手を組んだあのDemon Kingがrevivalの咆哮をあげたのでしょう』
『そんなっ、こんなにも早く! 彼は、やはりHumanが越えてはいけない領域に存在しているのか……!』
咆哮は既に聞こえなくなっていたが、Heinzが覚えた戦慄は中々収まりそうになかった。
《【Mana Enlargement】、【Mana Recovery Rate Increase】、【Vitality Enlargement】、【Bloodwork】、【Cooking】、【Realization】、【Super High-speed Thought Processing】、【Demon King】、【Group Thought Processing】、【Group Manipulation】、【Soul Form】skillのlevelが上がりました!》
《【Strengthened Attribute Values: Ruling】skillを獲得しました!》
《【Multi-Cast】skillが【Simultaneous Multi-cast】skillに、【Mana Control】skillが【Precise Mana Control】skillにAwakeningしました!》
お手、お代わり、伏せ、待て等の指示に従い、更に後ろ脚だけで立ち上がりVandalieuの言葉通りに歩いて見せるFangの姿を見て、Tamer guildの職員は感嘆の声を上げた。
「素晴らしい。他のTamerの師事を受けてもいない、その上初めて動物を飼った少年が、ほぼ野犬に等しいSlumの野良犬をたった一週間で躾けるとは!」
「……この子は賢いですからね」
褒められている筈なのに、あまり嬉しくないなとVandalieuは思った。それは彼自身がFangに芸を仕込み、躾を行う過程で苦労した事が全く無いからだろう。
何故ならFangは一度指示した事は、一つの事を除いて直ぐ理解したからである。Vandalieuにとっては、本当にFangが賢いだけなのだ。
「ワン! ワン!」
だが、実際にはFangは特別な犬では無い。寧ろ、野良犬としては平均よりも下の部類だ。だから餌が取れず飢えてVandalieuが買った家の裏手に彷徨いついたのである。
しかし Vandalieuの飼い犬になった時から、彼はGuidanceの効果を受け、通常の犬の枠に収まらない程のAbility Values補正を受けていた。そのimpactで知能も高くなっていたのである。
「確かに犬も賢いようだが……もしかして、-kunがDhampirである事も関係しているのか? Vampireの中には狼や蝙蝠にTransformするだけでは無く、それらの動物を使い魔にして自由自在に操る力があると聞いたが」
「Vampireが狼や蝙蝠にTransformできるのは本当みたいですが、後半は迷信らしいですよ。もしくは、単にHumanだった頃TamerだったVampireがいるだけかもしれません」
「そうなのか……。いいだろう、合格だ。準組合員として認めよう」
Tamer guildの職員はそう言うと、Vandalieuに登録証と首輪を一つ手渡した。
よく勘違いされるが、Tamer guildはmonstersを飼いならして使役するTamerだけのguildでは無い。monstersだけでは無く、Human以外の動物を何らかの手段で使役する全ての者に登録する資格が与えられる。
猿回しの猿使いや、笛でヘビを操るヘビ使い、牧羊犬と羊を巧みに操る羊飼いも、広い意味ではTamerなのである。
尤も、そうした大道芸人の類や羊飼いが実際にTamer guildに登録する事は少ない。
登録は可能でも、使役しているのがTamed Monsterと呼び難い動物だけだと準組合員にしかなれないからだ。どれだけ経験豊かで腕の良い猛獣使いでも、Rank1のmonstersに芸を仕込むのがやっとの若造よりもguildでは下の立場なのだ。
そうした制度を昔から採用しているため、Tamer guildではどうしてもmonstersを使役する者達が幅を利かせており、登録しても動物しか使役出来ない者には利益が殆ど無い。
例外的に、腕利きのCouch Drivingや猟犬を躾けるのが上手い犬使い等がguildに登録し、Nobleや裕福な商人の元へと就職の斡旋を希望しているぐらいである。
「これで-kunは準組合員だが、monstersを扱う予定でもあるのか? Food StallのWatchdogにその犬を使うぐらいならTamer guildの登録は要らないし、ただ犬の扱いが上手いだけじゃ斡旋できる仕事は殆ど無いから登録する意味は無いと思うぞ」
「俺達がFood Stallをしている事をご存知でしたか。あまり目につく場所ではないと思いますが」
「そりゃあな。この国で二人目のDhampirに、Dark Elfの美人がやっているFood Stallだ。話題にならない方がおかしいだろう。
俺も嫁-sanの機嫌を損ねる心配が無かったら、歓楽街に一度見に行きたかったぐらいだ」
Food Stallを開店して一週間が過ぎ、VandalieuとDarciaは既に町の有Adeptになったようだ。……もうすぐDarciaが共同templeで講演会を行う日なので、一週間後には近隣の村にまで知られる程有名になっているかもしれない。
そんな有AdeptにTamer guildの職員は不思議そうな顔で続ける。
「monstersを使役できる心当たりがないなら、登録するだけ損じゃないか? 守らなきゃならない規則が増えるだけだぞ」
guildの組合員はTamerしたmonstersや動物に関するいくつかのruleを守らなければならない。使役しているmonstersや動物が正当な理由無く他者に損害を与えた場合相応の賠償をしなければならない等、そうした常識的な規則なので、Vandalieuは不自由だとは思わないが。
「準組合員でも、登録しておけば身分証にはなりますし」
「身分証って、商業guildに仮登録しているなら必要無いだろうに……あ、確かに必要になるかもな。あいつに目を付けられていたのか。なるほど、道理で仮登録の未成年が歓楽街の裏路地なんて場所を割り当てられる訳だ」
どうやら職員の男は、商業guildのSub GuildmasterのYosefが、Vandalieuに嫌がらせをしている事を察したようだ。
「それで念のためにうちのguildでも登録してくれたわけか。うちとしては都合が良いが、災難だったな。だが安心してくれ、幾らSub Guildmasterでも口実も無いのに問答無用でguildを脱退させる事は出来ない。
それにもし辛くなったら商業guildを脱退して、いつでもTamer guildを頼ってくれ。私がTamerとして手ほどきしてやるからな!」
そう言って職員の男は胸を張って見せる。
しかし既に準組合員になったVandalieuは、体内に装備しているPeteやKühlを出せば……もっと地味に済ませたいならTalosheimで飼育している魔ガモやCapricorn、この前monstersに変異した実験動物のどれかを連れて来てもらえば、彼から手ほどきを受けなくてもTamerとして認められるはずだ。
「ありがとうございます。その時が来たら頼らせてもらいます」
しかし純粋に男の善意が嬉しかったので、素直にそう頷いた。
「ああ、何か相談したい事があったら職員にGuild MasterのBachemに取り次ぐよう言ってくれ!」
……どうやら、ただの職員だとVandalieuが思っていた男は、Tamer guildのMasterだったようだ。
maybe、噂のDhampirがguildに現れたので自ら担当になったのだろう。
「……くぅん」
「……はい、お願いします」
Tamer一本に絞るのは、絶対にやめよう。この気の良いGuild Masterよりも、実は高位のmonstersをTamerしているVandalieuはそう決めたのだった。
Fangに支給された首輪を付けた後、Vandalieuは串焼きにする肉を仕入れるために肉屋に向かっていた。
『陛下、Isla -sanは大丈夫ですか?』
『Eleonoraも、危なそうじゃない? 後Bellmondも』
首輪を付けて誇らしげなFangを見ながら、Princess Leviaが心配そうに尋ねる。
現在犯罪organizationに潜入しているIslaは、Undead Transformationした後Vandalieuから『The Eclipse Emperor’s Hound』のsecondary nameと首輪を貰うために三年も雌伏の時を過ごしたVampire Zombieだ。そしてEleonoraとBellmondも、Vandalieuから首輪を受け取るためには努力と献身を惜しまなかったVampireである。
ただ幾ら彼女達でも、本物の犬であるFangにjealousyする事は無い……とは言えなかった。
『フグググ! かつて『Five Dogs』一の『Distinguished Dog』と呼ばれたこのChipurasが、最早嵌める事は叶わない首輪を! この犬めが!』
Chipurasがjealousyに輝きながらFangを睨んでいるからだ。生前は彼もVampireで、しかも IslaやBellmondの同僚である。
「Chipuras、悪口になっていませんけれど抑えて。Isla達には家に遊びに来た時に話しておきましたから、表面上は大丈夫です」
『ボス、つまり本当は大丈夫ではないと?』
「折を見て家に呼んで、苦労をかけているお礼をしようと思います」
Kimberlyに小声でそう答え、Vandalieuは(spirit silverで首輪を作る事が出来れば、Ghostでも嵌める事が出来るかな?)と考えつつ肉屋に入った。
肉屋と言ってもVandalieuが利用するのは、一般の客以外の事業者も利用する肉問屋だ。天井からフックで捌かれる前の肉が吊るされ、職人達が大きな包丁でchunk of meatを客の注文通りの形にする、生々しい光景が広がっている。
「すみません、串焼き用の肉をお願いします。Horn RabbitとGiant Rat、後あったらギー鳥も」
同じ注文を繰り返して来たので、既に店の従業員とは顔見知りであり、これで十分通じるはずだった。不愛想な店長が「はいよ、適当に持って帰りな」とDryingした木の葉や皮で包んだ肉を出し、それと引き換えにVandalieuは料金を支払う。
それだけの筈だった。
「……悪いが売り切れだ」
だがこの日店長は渋い顔と声でそう答えるだけで、肉を包もうとはしなかった。
「売り切れですか? では、そこに吊るされているGiant Ratの肉は?」
「そ、それは……別の客の予約が入っている。お前-sanには売れねぇ!」
「ならそっちのHorn Rabbitの腿肉は?」
「こ、これは半人前が捌いて傷つけちまった肉だ! とても客には出せねぇ!」
「じゃあ、そっちの猪の肉を頼めますか?」
「あ、あれは昨日の売れ残りだ! 悪くなっちまってるから渡す事は出来ねぇ!」
「ではクセが強くて好みが別れますが、そこの熊肉をください」
「あれは……って、なんでお前みたいなガキが肉の見分けを付けられるんだ!?」
そう聞き返されたVandalieuは平然と答えた。
「そんな事を言われても、分かるから分かるとしか」
新しい環境で、手に入る材料と限られた経費で最大限美味しい物を作ろうとしたのが良かったのだろう、最近Vandalieuの【Cooking】skillのlevelは、8に上がっていた。一流店のmainシェフも余裕で務まる腕前だ。
そのため完全に未知の食材ならin any case、Cookingした経験のある肉のappearanceや僅かに残るbloodの匂いで見分ける事は、彼にとって難しい事では無かった。
「……今うちにある肉はそう珍しいもんじゃないが、分かるのか。お前」
そうした事を部分的に察したのか、肉屋の店主は顔を複雑に歪めた。だがVandalieuの注文に応える意思はないらしい。
「悪いが、お前にうちの肉を売る事は出来ねぇ。この店が町唯一の肉屋だったら強がりも言えるが、この町にはうち以外にも肉屋がある。とても逆らえない。
そういう訳だ。お前みたいなガキに大人がやって良い事じゃないが……」
そう言って頭を下げる店主。
その頭部を数秒見つめたVandalieuは、頭を下げ返した。
「分かりました。無理を言って失礼しました」
そして何も抗議せず、大人しく店から出て行く。その背に店主が慌てて声をかけた。
「他の肉屋に行ってもきっと無駄だ! もしかしたら魚屋にも話が回っているかもしれない。だが、Adventurer’s Guildで直接話を付けられれば、何とかなるかもしれない。
うちも、Hunter以外にはAdventurer’s Guildから肉を仕入れているからな」
「なるほど。ありがとうございます」
そして店を出たVandalieuは、外で待たせていたFangの頭を撫でると、Adventurer’s Guildへ歩を向けた。
『陛下、どう言う事ですか?』
「maybe、Yosefが嫌がらせを一段階強めたのでしょう。俺に対して食材を売らないよう、各問屋に圧力をかけたのです」
『ええっ!? それって悪い事じゃないんですか!?』
『Van -kunっ、Guardっ! Guardに通報しよう! 面倒ならアタシが溺死させるし!』
驚くPrincess Leviaと激高するOrbia。それを抑えるようにKimberlyが『いや、通報は無駄だと思いますぜ』と発言した。
『あの商業guildのSub Guildmaster、こういう事には慣れてるに違いねぇ。証拠になりそうな書類の類は最初から作ってないに決まってますぜ。
さっきの肉屋の親父のところへも、使いをやってボスに肉を売らないように口で遠まわしに脅しただけでしょう』
『そうしておけば、いざ追及された時もしらばっくれる事が出来る。私もよく使った手口です』
『Chipuras -san……』
『そういう訳ですのでVandalieu -sama! Yosefを始末する方向で行きましょう! 奴が嫌がらせにめげない我々に業を煮やし、Food Stallを営業できないconditionにして審査を失格にさせようとしている事は明白です!』
「まあ、俺も一応『maybe』と付けましたけど、Yosefとその手先の仕業で確定だとは思いますが……」
VandalieuもChipurasの主張に頷いた。状況証拠しかないが、現在この町で食材を扱う問屋に圧力をかける事が可能で、だがAdventurer’s Guildには圧力をかけられない人物と言えば、Yosefぐらいだろう。
「でも、今からYosefを闇に葬ってもすぐに食材が買える訳じゃありませんし……殺してIslaに【Shape-Shift】して入れ替わって貰うのも、後々辻褄を合わせるのが面倒ですからね。
Yosefに何かあった時、捜査側に一番疑われるのは怪しいDhampirである俺でしょうし」
自分の怪しさを理解しているVandalieuは、だからYosefは放置し続けると言った。
「Yosefに何かあるのは、俺達が表向きは町を後にしてからの方が望ましいですから」
『……そういう事ならば。何、Adventurer’s Guildで食材が手に入れば問題ありませんからな。多少高くなるかもしれませんが、そこは前もってMilesに串焼きを大量購入するための金を渡しておけばいいだけの話ですし』
『そうだね、今の内だけだって思えば……』
『逆に哀れに思えるってもんでさぁ……キヒヒヒ!』
「皆、bloodthirstは抑えてくださいね。Fangが緊張しています。adventurerの人達に気がつかれても面倒です」
そう話しながら辿りついたAdventurer’s Guildの前で、再びFangを待たせる。Tamerした生物は基本的にguildに連れて入れない規則なのである。
「くぅん」
まだHuman嫌いが抜けていないFangが不満そうに鳴くが、こればかりは仕方ない。
「Orbia、Fangについていてあげてください」
『は~い! ほら、アタシが一緒だから安心しなよ』
姿を消したまま、しかし声は聞こえるようにFangの耳元で囁くOrbia。彼女にFangを任せて、Vandalieuはguildの中に入った。
Adventurer’s Guildは、昼近くになっていたので空いていた。それでも町で噂になっているVandalieuを知っている者は多いのか、依頼が張り出されているボードを眺めているadventurerや、Counterの奥にいる職員が好奇心の浮かんだ目を向けた。
だがその知名度のお蔭で、Fortuneにも機嫌の悪い Ghostを漂わせているVandalieuに絡むadventurerはいなかった。
「ようこそ、Adventurer’s Guildへ。御用件をお願いします」
「すみません、eating meatを買いたいのですが余っている肉はありませんか?」
Vandalieuは適当な受付嬢に用件を告げながら、身分証である商業guildの仮登録証を見せた。
「すみません、eating meatは今の時間はちょっと……」
しかし、受付嬢から良い返事を聞く事は出来なかった。まさかYosefの圧力かと思ったVandalieu達だったが……ただ時間帯の問題だったようだ。
Adventurer’s Guildが取引するeating meatは、当然だがadventurerが狩って来る物だ。そしてadventurerの多くは朝に依頼を受け、日が沈む前に町に戻ってくる。そのため、問屋が肉を仕入れるのは夕方からなのだ。今は昼前で、早すぎる。
朝方戻ってくるadventurerもいるが、そうした者達が納めたeating meatを買うには今は遅すぎた。
eating meatは生物なので、悪くならない内に問屋やCooking店に引き取ってもらおうとAdventurer’s Guildは努力しており、その結果纏まったeating meatの在庫は残っていなかったのだ。
「では、討伐証明部位の買い取りは可能ですか?」
Vandalieuは普通のeating meatは諦め、Adventurer’s Guildがadventurerからmonstersを討伐した証明として買い取る、討伐証明部位は手に入らないかと考えた。
討伐証明部位の殆どは、monstersの耳やtailの先端等食材やAlchemyの素材にならない部位だ。しかし SlumのFood Stall等ではGoblinやKoboldの耳や、Giant Ratのtail等を刻んで団子にした物をCookingして出している事からも、買取りが可能だ。
Adventurer’s Guildでは焼却処分に必要な手間と燃料代の節約になり、慈善事業にもなるのでただ同然で売っているそうだ。
Vandalieuは以前、Adventurer’s Guildは集めた耳からmonstersのraceをどう見分けているのか、そして買い取った耳をどうしているのかと疑問に思っていたが、その答えの一例がこれだ。
「すみません。それも……引き取り先が決まっているので」
しかしそれも先約があるらしい。ただ同然の討伐証明部位と言っても、無限にある訳ではない。しかし SlumのFood Stallではそれが無いと商売が出来ない。そのため、前もって引き取り先は決まっていて、その日入った討伐証明部位を均等に分ける仕組みになっているそうだ。
「ええと……依頼を出されますか? 運が良ければ、数時間で食材が手に入ると思いますが」
「有りがたい申し出ですが、それは難しいでしょう」
guildの中には殆どadventurerはいない。依頼を出しても、今からたいした儲けにならないGiant RatやHorn Rabbitの肉を大急ぎで持ってきてくれるようなadventurerはいないだろう。
破格の報酬を提示すれば可能だろうが……経費として帳簿に付けなければならないので、春の審査で拙い事になる。
「分かりました。また機会があったらその時はお願いします」
Vandalieuは一礼してCounterから離れ、「またのご利用をお待ちしています」と言う声を背に受けながらAdventurer’s Guildを出た。
『どうします? 今日のFood Stallはお休みする事にして、夕方改めて食材を買いに来ますか?』
『それとも、いっそpolicyを変えてTamer guildにしておきますか? 商業guildと違って、あのGuild Masterは好意的なようですし』
「いえ……なんだかここで諦めたらYosefに負けたようで気分が悪い。俺やkaa-san、皆で始めたFood Stall稼業をこの程度の嫌がらせで躓かせる訳にはいきません。
食材は、力づくでも取りに行きましょう」
その日Kestは町の門で番をしながら、先程覚えた嫌な予感を忘れられずにいた。
朝番で交代したsenpai GuardのAggarが、妙に機嫌が良かったのだ。しかも、「これで、あと少しであの女が手に入る」とか不穏な事を囁いていたのを聞いてしまったのだ。
(senpaiが言うあの女って、まさかVandalieuの母親だったDarcia -sanじゃないだろうな? 幾らsenpaiでも、『Hungry Wolf』なんて大物が眼を付けている人にちょっかいを出すとは思えないけど……。いや、そもそもsenpaiなんかより、その『Hungry Wolf』のMichaelに目を付けられているDarcia -sanと、Vandalieuは本当に大丈夫なのか!?
でもあそこでFood Stallを開く以上、『Hungry Wolf』と関わらずにはいられないだろうし……ああ、俺は無力だ)
Kestは顔では勤務に集中しつつも、内心では懊悩していた。
「……Kest、耳とtailをどうにかしろ」
「えっ!? あ、すみません!」
だが心の乱れが耳とtailに出ていたらしい。注意を受け、慌てて耳をぴんっと伸ばす。
「まあ、今は人通りが無いからいい……とは言え何人かは通るか」
Aggarとは違い真面目なsenpaiに言われてKestが振り向くと、そこには手押し車を引いた少年……懊悩の理由の一つであるVandalieuと、見た事のある犬が一頭いた。
「こんにちは」
「ヴぁ、Vandalieu -kun!? ど、どうした? 何かあったのか!?」
「落ち着け、勤務中だ! ……町を出るのかい?」
まさか嫌がらせに耐えかねて町を出るのかと慌てたKestを抑えて、senpai GuardがVandalieuに尋ねる。
「はい、ちょっと仕入れに行こうと思いまして」
そう聞いたKestが改めて荷車のcarriageを見ると、そこには荷物の類は何も無く空だった。
「ああ、Food Stallの仕入れか。そうか、てっきり……いや、何でもないんだ。あまり街道から離れた場所にはいかないようにな。それと普通の草原や林でもGoblinやweak monstersが出る事があるから、注意して。幾ら頼りになるWatchdogがいるからって、油断するなよ」
「っ!? ワンワンワン!」
Fangの鳴き声を「任せておけ」と言う意味だと解釈したKestは、彼の頭を撫でて「ごmaster -samaをしっかり守るんだぞ」と話しかけた。
「Kest、知り合いなのは分かるが送り出す前に身分証を確認しろ。
身分証を」
Vandalieuが差し出した二つの身分証を見て、senpai Guardは少し驚いたように眉を上げた。
「商業guildの仮登録証だけじゃなく、Tamer guildの準組合員証もあるじゃないか。短い期間で良く飼いならしたもんだ。
Tamer guildの組合員は正規でも準でも通行税は五Baum免除される。だから未成年の場合はタダだ。
日が沈む前には戻って来るんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
身分証を返してもらったVandalieuは軽く頭を下げると、空の荷車を引いて町を出て行った。それを見送ってからsenpai GuardはKestに尋ねた。
「ところで仕入れって……何を仕入れるんだ?」
「タレに使う香草だと思いますよ。珍しい風味で……maybe、何処かで採取して来るつもりなんでしょう」
「なるほど。噂のDark Elf秘伝のタレって奴か。俺も一度買いに行ってみようかな」
Vandalieuが仕入れようとしているのは、タレに使う香草だと思い込んでいるKestの説明に、senpai Guardも納得して頷いたのだった。
しかし一方Vandalieuは、そのまま町を出て草原では無く最も近いDevil Nestsに向かっていた。
交易都市であるMoksiには、大規模なFarming地帯は無い。そのため食料の多くを交易、そして狩猟採集で賄っている。
Devil Nestsでの狩りもその一部だ。と言うか、複数のDevil Nestsが近い場所に、その産物を得るためにMoksiの町が作られたのだ。
「さて……あまり町から離れる訳にもいかないので、この湖と森のDevil Nestsにしましょうか。後で町の周辺の監視体制を見直さないと」
そう言いながらVandalieuはFangの首輪を緩め、そして彼に向かって手を差し出した。
「……?」
「ではFang、そろそろ実験は終了です。約一週間、Human社会で俺と生活を共にしてもそれだけでは動物はmonstersに変化しない事がお蔭で分かりました。なので……そろそろ次の実験です」
はっはっとtongueを出したまま呼吸するFangの前で、Vandalieuはclawsを伸ばし、それで自分の腕を傷つけた。
bloodが飛沫を上げ、地面に滴る。
「Undeadの交配実験で生まれた個体ではない、普通の動物も俺の一部で変異するのかの実験です」
Fangは眼の前でbloodに濡れているVandalieuの腕の匂いを暫く嗅いだ後、ペロペロとtongueでbloodを舐め取り始めた。
そしてbloodを舐め取り終えると、Fangからミヂミヂと体が軋むような音が響き始めた。
「ウォォォォォォン!」
一回りも二回りも、物理的に大きく成長したFangが雄々しく雄叫びをあげる。緩めたはずの首輪は、彼の首にぴったり嵌っていた。
それを確認して満足気に頷いたVandalieuは、Fangを労うように撫で、そしてDevil Nestsの奥を指示した。
「無事変異もしたようですし、これからlevellingを兼ねて狩りに行きましょうか」
「ウォン!」
大型犬並の大きさになったFangは、誇らしげに鳴くと、高揚感に身を任せて駆けだしたのだった。
「あ、ちょっと待って」
「ウォン! ガルルルル!」
茂みから突然襲い掛かって来たFangに、そのmonsters……GIANT Horn Rabbitは角を振りかざして迎え撃った。
GIANT Horn Rabbitは、Rank1のHorn RabbitがRank upしたmonstersで、Horn Rabbitをそのまま大型犬並に大きくしたような姿をしている。
Rank upの際に草食性から雑食性に変化したが、もっぱら虫や小動物、そしてRank up前同-samaに植物を食べるcowardなmonstersである。
しかし頭部の角は鋭く硬い。突かれれば致命傷になりかねない。
GIANT Horn Rabbitは身を守るため、自分と同じくらいの大きさのFangに向かってその角を振るった。
「ギャインっ!?」
横っ面を角で殴られ、思わず怯むFang。苦し紛れの攻撃があっさり当たった事に驚いたGIANT Horn Rabbitだったが、この好機を逃さず敵を無力化するべく頭を低くし【Charge】を仕掛けようとした。
逞しい後ろ足のmuscleに力が漲る。
「【tongue鋒】」
その頭部が、駆けつけたVandalieuの【Unarmed Fighting Technique】のMartial Arts……伸ばしたtongueによる鋭い一撃によって貫かれ、GIANT Horn Rabbitは絶命した。
「クウゥン、クウゥン」
「ダメでしょう、Fang。俺達は皆の晩御飯、串焼きの材料にするための狩りをしに来たのに、お前がmonstersのご飯になってどうします」
「monstersと戦った経験も無いのに、飛び出して」
「ダメだよぉ、調子に乗っちゃぁ」
「キチキチキチ」
「クゥン……」
危ないところを助けられたFangは、Vandalieuと彼からずるりと姿を現したsenpai達の説教を受けて耳をだらりと垂らした。
「力が漲るのは分かる。だけど、幾ら力があっても経験が無くては勝てない。戦闘の経験を、妾以外を見習ってこれから積みなさい」
「Quinnは自分じゃ戦わないからねぇ……頑張るんだよ」
『ぷぐるるるっ』
「Quinn、Eisen、Kühlがblood抜きをしておいてくれたので、俺はDismantlingにかかります。あ、Fang。途中でおいて来た荷車を取って来てください」
しかしいつまでも叱っている時間は無いので、反省したようだし早速仕事にかかるVandalieu達。
「ウォン!」
Rank2の魔犬に変異したFangの犬生は、まだ始まったばかりである。
・Name: Fang
・Rank: 2
・Race: 魔犬
・Level: 0
・Passive skills
Night Vision
Mysterious Strength:1Lv
Detect Presence:1Lv
Intuition:1Lv
Self-Enhancement: Guidance:1Lv
・Active skills
Silent Steps:1Lv
・Unique skill
ヴァ■■■■'s Divine Protection