Guardの、特に新米の仕事は大変だ。その中でも最も大変なのが、冬の季節に行う町の門番だとKestは思っていた。これに比べれば町のpatrolや喧嘩の仲裁、犯罪の捜査やnight道端で寝てしまった酔っぱらいの回収作業も楽な物だ。詰所の牢番や書類仕事なんて天国である。
何故なら門番は気が抜けないのだ。他の仕事で気を抜いている訳ではないが……特に緊張を強いられる。
町に出入りする大勢の人々のcheckを迅速に、しかし注意して行わなければならない。遅れれば並んでいる人達に嫌そうな顔をされ、adventurerの場合あからさまにclicking tongueしてくる奴までいる。
何より辛いのが、寒さだ。一月だからまだマシだが、朝早くから門番をしているKestのbody partは冷え切っていた。
(は、早く昼飯を食べに行きたい)
あの不可解な騒動のせいで遅れているが、もう少しで夕番のsenpai達と交代の筈。彼はそれを心待ちにしながら仕事を続けていた。既に昼をやや過ぎた時間帯であるため町から出るadventurerも、入る商人も少ない時間帯で忙しくはない。
(だけど、動いてないと寒いんだよな~っ)
寒さを紛らわせようと小さく足踏みをするKestだが、すぐにsenpaiのAggarから叱責を受けた。
「Kestっ、門の前でそわそわすんな! Guardだったら用の無い時は置物みたいにじっとして、周囲に気を配れ!」
そう言うAggarは槍を片手に持ったままビシっと立ち、周囲や街道の向こうに視線を向けている。mountain banditから命からがら助かった少年に賄賂をdemandし小銭を巻き上げ、「tonightの飲み代だ」と小さく笑うようなsenpaiだが、こういう時はしっかりしている。
……ここが失態を隠しにくい場所だから、勤務態度が不真面目だと最悪首になってしまうからだが。
「お前はBeastmenだろ! 自前のfurで暖でも取ってろ、この猫ヤロウめ!」
しかも、当然のようにrace的な侮辱を放ってくる。しかしこれも新人の宿命だと、Kestは口元に引き攣った笑みを浮かべ軽く抗議するだけでenduranceした。
「senpai、俺は狼のBeastmenです。それにfurなんて耳とtail以外には手足に少ししかありませんよ」
「口答えするな、犬なら犬らしくしろ!」
……これも仕事、これも仕事、今の内だけ今の内だけ。脳内でその言葉を呪文のように繰り返して苛立ちを抑えるKest。
そうして落ち着いた彼が視線を街道に戻すと、向こうから女が一人やって来るのが見えた。hood付の外套をHaoriって、荷物を背負って俯き気味に歩いてくる。護衛を雇えない新人peddlerにしては荷物が少なく、adventurerにしては武装していない。
そして町に着く時間帯が中途半端だ。怪しいと言えば、怪しい。
だが怪しくないと思えば、それまでだ。単に満足な装備を買えない新米adventurerが、寝坊したのもしれない。
「身分証を」
だからKestは普通に身分証の提示を求めた。
「すみません、持っていないんです」
思っていたより優しげで綺麗な声だが、それで気を抜くわけにはいかない。Kestは事務的な態度で説明を求めた。
「それはどう言う事ですか?」
「はい、実は――」
すると女は答える途中で目深に被っていたhoodを降ろして顔を見せた。
冬の冷たい空気に不似合いな、褐色の肌と先端のとがった長い耳がKestの目に映った。femaleは、Dark Elfだったのだ。それも、とても美人な。
「実は私、里から出て来たばかりなんです。だからどのguildにも所属していなくて」
優しげな声に、穏やかな紫紺の瞳。艶やかな肌に、鼻腔をくすぐる甘い香り……。
「あの、Guard -san?」
「っ! な、なるほど。それは仕方ないですね」
Kestははっとして我に返った。senpaiのAggarがいるのだ、折角 Alda Reconciliation FactionとChurch of Vidaのお蔭でBeast raceの彼もGuardに就職できるようになったのだ。美人に見惚れて評価を落としたくない。
そして反射的にAggarの方に視線を向けると、思ったより近くに難しい顔をした彼がいた。しまった、また怒られると思うKestだったが――。
「なるほど。では、まずおnameを伺ってもよろしいですか?」
……杞憂だったようだ。あの顔は自分に怒っているのではなく、femaleに向けて自分を良く見せようと顔つきを引き締めた(つもり)だったのだとKestは理解した。
「はい、私はDarciaと言います」
「なるほど、Darcia -sanですか。これまで幾つか町や村を通ったと思いますが、そこで身分証を手に入れようとしなかったのは何故ですか?」
「はい、それは――」
AggarはKestを無視してDarciaに話しかけ続ける。少しでも長く彼女を引き止めたいのか、普段ならしない質問までしている。
(好かれたいなら逆効果だと思うけどなぁ。それに、視線が分かり易すぎる)
傍で見ているKestにも分かるほど、Aggarの視線はDarciaの美貌と豊かな胸の辺りを行ったり来たりしていた。
「それで、この町にはどんな御用で?」
「ええ、息子の-sama子を見に」
しかしその質問にDarciaが答えた途端、目に見えてAggarの気分は盛り下がったようだ。
「そ、そうですか。息子-sanが……」
「それより随分厳重なんですね。町で何かありましたか?」
Aggarの長い質問を、「厳重な警備体制」だと誤解したのか、それとも何かを感じ取ったのかDarciaがそう尋ねて来たが、肝心のAggarは気分が盛り下がったため答えるつもりは無いようだ。
「事件と言う訳じゃないですが……町の合同templeで祭られているAlda -samaのIdol Statueが持っていた書物が突然砕け散り、AldaのPriest -samaが白目を向いて倒れてしまって」
「まぁ♪ ……それは大変ですね」
口元を手で隠して驚くDarciaの声が一瞬弾んでいるように聞こえたが、Kestは気のせいだろうと思った。
「ええ、幸いPriest -samaはすぐ意識を取り戻したそうですけど、大事を取って休んでいるそうです。senpai達は町の皆がpanicを起こさないように、落ち着かせて回っているんです」
実際にはPriestはまだfaintedしたままだ。しかも、倒れる前に「worldの終わりだぁぁぁ!」と絶叫していた。
そのため合同temple内はpanicに陥り、それが町中に伝播する前に何とか他のClergymanが人々を落ち着かせ、Guard隊の努力もあって何とか事態は沈静しつつある。
「そ、そう。それは本当に大変ですね」
「ええ。何年か前も『God of Ice』YupeonのIdol Statueがblood涙を流した事があったんですけど……あの時も大変だったみたいです」
「ソウデスカ~」
「あ、すみません。長々と引き止めてしまって」
Darciaの視線が泳ぎだしたのを、町にいるという息子が気になっているからだと解釈したKestは、そこで話を打ち切った。
「では、身分証が無い成人の通行税は十Baumになります」
「はい、分かりました」
Darciaが懐から出した財布から出した十Baum貨をKest――では無く、revived Aggarが受け取った。
「確かに受け取りました。ようこそ、俺達のMoksiの町へ」
「え、ええ、どうも」
態々手を握って通行税を受け取ったAggarに戸惑いながら、Darciaは町に入って行った。
「senpai、幾らなんでもやり過ぎなんじゃないですか? 隊長にどやされても知りませんよ」
「喧しいっ、お前は黙って立ってろ。グフフ、考えてみりゃDark Elfは寿命が長いしな。その息子だってとっくに大人だろ。それに夫の事を口に出さなかったって事は……」
何か良からぬ事を考えているらしいAggarに、Kestは溜め息をついた。直接連絡先を聞き出した訳でも脅した訳でもないので、彼が勤務時間外にDarciaを探しだしナンパする事は別に咎められるような事ではないのだが。
(幾らAggar senpaiでも、滅多な事はしないだろう。こんな人でもGuard隊の一員なんだし)
そう思って視線を街道の向こうへ戻したKestは、ふと気がついた。
(そう言えば、この町にDark Elfっていたっけ?)
北にあるAlcrem DuchyのHumanやDwarfは、白い肌をしている者の方が多い。Dark Elfがいれば目立つはずだが、Kestは聞いた事がなかった。
(いや、でも息子-sanもDark Elfとは限らないか。他のraceとの混bloodとか、養子とか……そう言えば、同じ瞳の色だったな)
ふと数時間前に門を通った隻眼の少年の無事な方の瞳も紫紺だった事を思い出したKestだったが、流石に関係無いかと考え直し、仕事に戻ったのだった。
肉のbody partを持たない『God of Law and Life』Aldaは、簡単に意識を失う事は無い。そのため、body partの内側から槍で貫かれるような激痛にもfaintedする事は出来なかった。
『……むぅ……!』
自らの力を込めた特製のDungeonの約三分の一を破壊されたAldaは、Divine Authorityを砕かれた時よりも大きく深いDamageを受けていた。
だが以前Spirit Cloneを砕かれた『God of Ice』Yupeonの時よりは、地上に及ぼすimpactを小さくする事は出来た。
受けた分のDamageも、数年以内に回復するだろう。originally Yupeonとは地力も、信仰しているbelieverの数も段違いなのだから。
『……報告せよ』
『我が主Aldaよ、やはり今は休まれた方が……』
『我等は神。数日休んだところで何も変わらん。故に、報告を。『Five-colored blades』はどうなっている?』
休息を取る事を促す神を振り払い、彼は報告を求めた。今は休憩などを取っている場合では無いのだ。
『『Five-colored blades』の内、JenniferとDaianaは『街』にて待機しています。二人の心身及び魂に傷はありません。すぐにでも戦線にrevivalする事が可能です。ただ……』
Vandalieuが【Soul Devour】を使わなかったため、二人は無事に『街』でrevivalしていた。
『GhoulやMajin Race共を討伐した事について悩んでいるようです。これまで通りに戦う事ができるかどうか』
VandalieuによってGhoulがVida's New Racesであることを知った二人は、Curatosの消滅により再現された人々がいなくなった『街』で、これからどうするか議論を交わしているらしい。
ならDaianaは彼女が信仰する『Goddess of Sleep』Millが直接声をかけるべきなのかもしれない。彼女達はただのbelieverでは無く、Godsに選ばれたHeroなのだから。
『HeinzとDelizahの魂は、我がDivine Realmで休ませています』
しかし彼女の手はHeinzとDelizahの面倒を見るために塞がっていた。二人はVandalieuから何度も【Soul Devour】skillの効果が乗った攻撃を受け、魂に傷を負っていたからだ。
このままでもMemoryや人格、そしてStatusに障害が残る程ではないが、突発的に意識が混濁し、手足が麻痺する等の症状が出るだろう。本来は数か月、大事を取って一年は休ませるべきconditionだ。
『Delizahは後数日も休ませれば問題無いでしょう』
しかし眠りを司るMillのDivine Realmに招かれての治療をうけているため、魂の傷も回復可能なら数倍から数十倍早く回復する事が出来る。
『しかし、Heinzの回復には数か月かかるでしょう。Joshuaが守ったとはいえ、その後魂だけのconditionでVida’s Incarnationの攻撃を受けましたから。
それに、psychological傷も関係しているようです』
だがHeinzのconditionは良いとは言えなかった。やはりDarciaの一撃で受けたDamageは小さくなかったようだ。
しかし Edgarよりはずっと軽いconditionだ。
『Edgarは……現在Rodcorteが処置をしています。消滅したLukeのsoul fragmentを使って、彼を治せないかと』
『God of Judgement』Niltarkはemotionsを感じさせない声でそう報告した。
『Five-colored blades』の中で最も重傷を負っていたEdgarは、『街』に戻って本来のBodyに戻っても殆ど動く事が出来なかった。それどころか意識が混濁し、自分のnameも忘れかけていた。
そして彼にAdventしていたNiltarkのHeroic spirit Lukeは、程なくして消滅してしまった。
自分のsoul fragmentをEdgarの治療に使えるなら使えと言い残して。
その遺言を尊重して、魂の専門家であるRodcorteに治療を依頼した。……かなり渋られたが、『協力すると言ったはずだが?』とAldaがねじ込む事でやっと治療を約束した。
ただ元通りになるかはRodcorte自身にも分からず、時間がどれだけかかるかもやってみないと不明。
これで『Five-colored blades』全員が活動を再開できるのは、何時になるか分からなくなってしまった。Edgar以外の四人だけなら数か月で可能だが――肝心のDungeonが、それもこれから彼らが挑戦するはずだった六十六階層から先が半壊している。
そして無事な階層でもDungeonを管理していた『God of Records』Curatosが消滅した事により、Heinz達の前に試練として立ちはだかるCopyが創れないconditionだ。現状はTrapもTreasure Chestも無いDungeonであり、長大なだけの散歩courseと化している。
これではHeinz達を今以上に強くする事は出来ない。
今回の戦いで、今のVandalieuなら状況さえ整えばある程度戦う事が出来ると……その状況が整う事を期待するのは間違っている事も、分かっている。
『Aldaよ、Heinz達の修行をここで打ち切り、数か月後に聖戦を行うべきでは? それなら奴はまだMoksiの町に留まっているやもしれませぬ』
『そうです。我々が育てているHero達を集結させ、回復したHeinz達をその先頭に立たせれば勝機はある筈』
そう若いGodsが訴えるが、Aldaが答える前にNiltarkが『Shut Up』と言って立ち上がった。
『……下策で我等の主を煩わせるな』
『げ、下策!?』
『Niltark -dono、如何にあなたと言えどその言い方はあんまりではありませんか!』
『ご自身のHeroic spiritが消滅したからと言って、我々に当たるのは止めて頂きたい!』
口々に言い返す若いGodsに対し、Niltarkは怒りよりも呆れを浮かべた。
『ならば問う、『God of Good Weather』Alchamよ。その聖戦で我々はどれ程の戦力を集められるのだ? Orbaum Elective KingdomのAlcrem Duchy、Moksiの町に』
『無論、数か月もあれば全ての戦力を集める事が可能です。全てのHero達の力を結集させ、各templeの戦力も導入できるでしょう。Heinzを立てれば、己が敬虔なVida believerと思い込んでいる者達やVida's New Races、それに普段はtempleに寄りつかぬadventurer達も戦列に加わるでしょう』
そう述べるAlchamに、Niltarkはこれ見よがしに溜め息をついた。
『それが不可能だと何故分からん? 汝も神の一柱なら、理解できるはずだが』
Alda's FactionのGodsがVandalieuを倒す為に育てているHero達。彼等の多くはただのGuardやApprentice Knight、新人adventurerやMageのpupils等だったが、blessingsを与え鍛えた事で成長しつつある。
彼らを集めれば確かに戦力には成るだろう。しかし、彼ら全員がOrbaum Elective Kingdom内にいる訳では無い。半分程がAmid Empireの勢力圏に今もいる。
そのEmpireの勢力圏にいるHero達が、敵国のOrbaum Elective Kingdomの町に集結する。どう考えても国境があるSauron Duchyで、武力によって止められるだろう。
そして密入国させる手もあるが……数か月の間にHero本人だけで数十人。その仲間を含めると数百人だ。幾ら何でも多すぎる。
『まさかGufadgarnのように【Teleportation】させれば良い、等と世迷言を言い出すまいな? space attributeのGodsの長ZuruwarnはVida's Factionである事が判明している。attributeの管理に集中している彼らに助力を得る事は出来ないし、出来たとしても求めるべきでは無い。……せっかく育てたHero達が、何処に飛ばされるか分かったものではない』
『では、我々のbelieverからspace attributeの神に至った者の力を頼れば問題ないはず!』
残っているspace attributeのGodsに『worldの維持管理を磐石な体制に近づけるために』と、Alda達は資格のあるbelieverをspace attributeのGodsに加えていた。
当初は言葉通りの目的で、数が大幅に減ったspace attributeの神を補うためだったが、この局面になった以上利用しない手はない。
『戯けるな、圧倒的に数が足りない。一度や二度ならまだしも、彼らに地上で連続して力を使えというのか? そんな事をさせれば消滅してしまうぞ』
ただ、その数は圧倒的に少なかった。
『う……!?』
AlchamはNiltarkに言われて初めて地上の現実問題に気がついたのか、短く呻き声を漏らして視線を逸らす。
ちなみに、Human達のMageに頼るのは論外である。他人を、それも長距離の【Teleportation】が可能なSpace-Attribute Mageは、ほぼ全員国や有力Noble、そして規模の大きなtempleに抱えられている。
彼らに協力を求めるとそれぞれのorganizationに情報が伝わり、間違いなく大事になってしまう。
下手をすればAmid EmpireとOrbaum Elective Kingdomの大戦争にdevelopmentする。最悪、EmpireのHero達とElective KingdomのHero達がお互いに殺し合う事になってしまうのだ。
何せ建国以来bloodでbloodを洗う敵国同士。お互いを憎む理由は何処にでも……templeにすら転がっている。
本来ならそうした二国の垣根をAmid EmpireのAlda Grand Templeの新Pope Eileek、そして修行を終えBellwood's SuccessorとなったHeinz、両者を橋渡しにして乗り越えDemon King討伐の為に人類が一つになる。そんな目論見があったのだが……。
『それに、数か月程度ではVandalieuを倒す戦力は集まらん』
Edgarの抜けた穴以外にも、HeinzはHeroic spirit Joshuaを喪った。そのため【Heroic Spirit Advent】skillを使用してもFamiliar Spiritしか呼べないconditionだ。
certainly AldaにはJoshua以外にも何柱ものHeroic spiritが存在する。しかし、Joshuaがいなくなったから代わりのHeroic spiritをと言う訳にはいかない。
生前HumanだったHeroic spiritには人格があるため、Familiar Spiritと違い相性という物が存在する。相性の良いHeroic spiritでなければ、body partに降ろす事が出来ないのだ。
そしてHeinzに最も相性の良いHeroic spiritが、Joshuaだったのである。
『ですから、その低下した分の戦力をHero達が――』
『低下した分をHero達が補ったとしても、不利な状況から解き放たれ本来の力を取り戻し、戦力を集める事が出来るようになったVandalieuの前には意味が無い』
『不利な状況ですと? あの時Heinz達は不意の襲撃を受けたのでは?』
Niltarkの言葉に疑問を呈する神に、『Goddess of Sleep』Millが代わりに答えた。
『逆です。確かにHeinz達にとってもあの戦いは予期せぬものでしたが、recordを見る限りVandalieuにとってもそれは同じだったのでしょう。
精巧に再現されていても偽物のBodyを魂のRealizationで補わなければならず、周囲には自分以外配下のいない状況……Gufadgarnとあの『Vida’s Incarnation』の介入こそありましたが、彼は戦いの間ずっと不利な状況にあったのです』
Millの説明に、Alchamを含めた若いGodsの顔色が悪くなる。なら数か月後、countlessの配下を揃えて待ち構えているだろうVandalieuの戦力は、どれ程に膨れ上がっているのかと。
『Niltark、Mill、そこまでにせよ』
それまで黙ってGodsの会話を聞いていたAldaが口を開いた。
『Alchamよ、汝らが焦る気持ちも分かる。Vandalieuは、戦闘Ability以外の全ての点でDemon King Guduranisを越えている。Godsの魂を喰らったのを見て、焦らずにはいられなかったのだろう』
穏やかなAldaの声に、Alcham達若いGodsが落ち着きを取り戻し、『申し訳ありませんでした』と一礼する。
彼等にとって魂を消滅させる存在を見るのはVandalieuが初めてだ。不滅の存在となったはずの自分達神を滅ぼしうる敵がいる事に動揺し、焦ってしまったのだ。
実際ただ砕く事しか出来ず、それも魂一つ砕くのに数秒から数十秒の時間が必要だったGuduranisとVandalieuは違う。
攻撃すると同時に魂を傷つける事が可能で、そのまま滅ぼす事が出来る。あの【World Breaker Hollow Cannon】なら、Humanなら一度に何百人でも魂を喰らう事が出来るだろう。
『今は、Heinz達を癒し、Curatosが残したDungeonで彼らをBellwood's Successorに相応しい……Vandalieuとの戦いで中心戦力となる存在に育てなければならない』
『God of Records』Curatosが残した彼が記したrecordのCopy。それを彼の代わりに他の神が使えば残っているDungeonの階層で、再びCopyを創り出す事が可能だ。ただ、Curatos程精巧には出来ないが。
彼の配下だったFamiliar Spiritを総動員しても、Curatosの抜けた穴を塞ぐ事は出来ない。
『不安は残るだろうが、それまでの間は彼等が時間を稼ぐだろう。……RodcorteのReincarnatorや、この場にも居ないFitunがな』
Vandalieuは夢で、大量のblockに囲まれたconditionでどうしたものかと首を傾げていた。
これを組み立てなければならないのは、分かる。しかしどう組み立てたらいいのかが分からない。
『まあ、分からないなら考えながら作りましょうか。でも、まずはblockを組み立てるために、手を組み立てないといけませんね』
がちゃがちゃぐじゅぐじゅと組み立てる。大きい手、小さい手、指の多い手、長い手、用途によって使い分けるために、沢山の手を作る。
『次に、目を……いや、脳を組み立てましょう。目はその後で』
どうやって組み立てるか考える脳が必要だ。だから適当なblockで脳を組み立てていく。丸、三角、四角、脳は多い方が良いだろうから、幾つも作っていく。
そうして必要だと思う部位を、必要だと思う数だけ組み立てていく。そしてVandalieuが気づくと、良く分からない事になっていた。
『これは目だったかな? それとも足? いや、heartだったかも……いや、きっとspineだ。そうに違いない。でも自信が無いですね』
組み立てた部位が何だったのか分からなくなってしまったのだ。このまま部位を組み合わせて自分を作るのは間違いではないだろうか?
『Vandalieu、何が正解で何が間違いだなんてことは誰にも分からないの。だから、あなたの思うままの形になって良いのよ』
ふと優しい声が聞こえたと思って周囲を見回すと、今まで気がつかなかったが沢山の仲間達がいた。
Bone ManやKnochenが組み立てた部位を、Samのcarriageに乗せている。
ZadirisやBasdiaが部位を組み立て、Tareaが作り直している。Lucilianoはせっかく作った部位をバラバラにしてしまうが、Irisがそれを回収して捏ね回してお団子を作ってくれた。
Jeenaは別々の部位をくっつけようとして力を入れ過ぎて潰してしまい、Zandiaはその破片を集めて混ぜ始めた。
EleonoraやBellmond、Islaが自主的にVandalieuを組み立て始め、それにPauvinaが転んで壊してしまう。
Princess Leviaがblockを焼いて焦げ目を付け、Orbiaがドロドロに溶かし、Quinnが蜂の巣状に組み立て、Eisenがお食べとVandalieuに食べさせようとし、KanakoがVandalieuの上に立って歌を歌い始めた。
他にも皆思い思いにblockを組み立てている。
とてもとても、楽しい。
「……ここは何処でしょう?」
目覚めたVandalieuが見たのは、綺麗な天井だった。roomも、『Starling Inn』の大roomより狭いが上等な物になっている気がする。
そして後頭部が温かい。
「おはよう、Vandalieu」
「kaa-san?」
Vandalieuは、Darciaに膝枕されていたのだった。
「ここは『小春日和亭』よ。『Starling Inn』は大roomだったから引き払ってきて、個室をとったの。高Class宿と安宿の中間ぐらいの宿ね」
「それよりも、kaa-sanが何故Moksiの町に? それに肌の色がちょっと薄くなっていますよ。俺をGufadgarnと一緒に助けに来てくれた事は、覚えていますけど」
「覚えてるの!? す、すごいわね、あんなconditionだったのに……」
「Transform杖をActivateさせて、Magical Girlの格好のままで」
「それは忘れて~っ! Stageの上では良いけど、それ以外の場所では恥ずかしいのよ。Gufadgarn -sanがいきなり来て、Vandalieuを迎えに行く事になったから着替える暇が無かったし……ああ、あの人たちにも見られたのよね……Memoryが飛んでいると良いんだけど」
頭を抱えて悶え、何かぶつぶつと呟いているDarciaの膝に頭を乗せたまま、彼女を見上げたVandalieuは、大体の事情を察した。
DarciaはDungeonからVandalieuの魂を連れ帰った後、彼の世話をするためにMoksiの町まで来てくれたのだろう。ただのDark Elfに見えるように【Chaos】skillでskinの色を変化させて。
町に居るはずのBellmondやEleonora達は犯罪organizationを掌握している立場の為、Vandalieuと直接接触して町の人達にそこを見られたらと危惧したのだろう。
Gufadgarnの姿まで見えないのは……気を使って親子水入らずにしてくれたのかもしれない。
「ありがとう、kaa-san。Gufadgarnも。皆にも心配を掛けました」
体内から温かい返事が聞こえる。Darciaも温かい手で、Vandalieuの髪を撫でた。
「body partは大丈夫? Statusに異常はない?」
「body partは……凄く怠いですが、問題無いと思います。Statusは……Manaの回復するpaceが遅いですね。魂がバラバラになって、更に自分で自分を食べるような真似をしたからでしょうか?」
「そうね。でもVida -samaがそうした副作用もあるけど、長くても一週間もすれば元に戻るって言っていたから大丈夫よ」
「そうですか……じゃあ、商業guildに行くのは明日にしましょう」
Manaの量は大体半分まで回復している。これなら普通に活動するのに支障は無い。約一週間で元に戻るなら、動き出して良いだろう。
まさか寝たままMurakamiやBirkyneが誘きだされるのを待つ訳にはいかないし。
「そう、じゃあ明日一緒に行きましょうね。kaa-san商業guildって初めてだから、ちょっとSuper Excitingしちゃう」
「……え、kaa-sanも来るんですか?」
「ええ、certainly。そのために町の表門から入ったんだもの」
どうやら、DarciaはただVandalieuの世話をするために来た訳ではないらしい。
「説法は良いんですか?」
「カナ-chanが新しくmemberを加えるから暫くは大丈夫みたい」
どうやらKanakoは、Darcia不在の状況を利用して、「Darcia -sanとVandalieuの為にも!」と新member Candidate達を説得するつもりらしい。
「それにこの町は良い街ね。Dark Elfだからって買い物を拒否されないし、宿の店員-sanやGuard -sanも良くしてくれたし、裏路地から嫌な目つきで睨まれたりしないし」
どうやらDarciaがadventurerとして活動していたAmid Empire側では、そうした迫害がまかり通っているらしい。
……今からでもEmperorがいる城やAlda Grand Templeを砲撃しようかと、Vandalieuはふと思った。
「まあ、ちょっと困った人もいたけど……一人だけだし」
それを聞いたVandalieuは、根拠は無いが賄賂をdemandしてきた方のGuard Aggarの事を反射的に思い出した。
……今からでもQuinnのchild達の為の肉団子か、Eisenの肥料にしてこようか。
(……いやいや、kaa-sanは綺麗だからその程度の事でいちいち人を殺していたら、大量殺人を犯してしまう)
「どうかしたの?」
「何でも無いです。それじゃあ、明日から一緒に串焼きFood Stallを頑張りましょう」
「そうね。ふふ、楽しみだわ」
こうして誰にも気付かれずにDemon Kingに侵食される町、Moksiの日は暮れていく。