その女は生ける屍のように寝台に横たわったまま、天井を眺めていた。
『そろそろ決着が付いたか?』
生ける屍のようにとは、実はただの形容詞ではなく真実だった。その女は死んだばかりの死体にLife-Attribute MagicでVitalityを無理矢理注ぎ込み、鼓動と呼吸を再開させたLife-deadという存在だ。
そして、adventurer【Degenerate】のLucilianoがNoble Orcの動向を探るために、Orcの生態とlibidoの強さを利用して送り込んだ使い魔だった。
Life-deadのあまり鋭くないfive senses、主に聴覚を通して外の状況を探るが先程まで響いていた剣戟や雄叫び、断末魔のscreechが聞こえなくなっていた。
『Ghoulは想像以上に善戦したな。これは大規模な討伐隊を組む必要はもう無いんじゃないか?』
彼の雇い主のBalchesse ViscountがMirg Shield Nation軍Marshall、Palpapek Earlに泣き付いて大規模な討伐部隊を組まなければならなくなったのは、この集落のmonstersの群が五百体以上という異常な数を抱えているからだ。
しかし Ghoulとの戦いで数が三分の一程に減っていれば、CClass adventurerのpartyを十組程雇えば十分だろう。特に、Bugoganの息子全員とOrc GeneralやOrc Mage等の幹部classが殆ど倒されたという報告がBugoganに齎されていた事は、伝令の声がidiotデカかったお蔭でLife-deadの耳にも届いている。
それならCClass adventurerにとって強敵と言えるのはBugogan本人くらいで、そのBugoganにしてもRankは7。確かに竜種のEARTH Dragonと同Rankだが、CClass adventurerがpartyを組んで攻略に当たれば倒せない相手ではない。
そのCClass adventurerだって雇うのは安くないが、それでも数百人の討伐隊を組むよりずっと安い。犠牲が出ても軍のKnightとは違って、臨時雇いが数人なら問題無い。
そう思っていたLucilianoだが、所有者本人が怒りに任せて破壊した家の中に何者かが入って来るsignに気がついて思考を中断した。
戦いに勝利したBugoganが戻って来たにしては、足音が小さいしsignは複数だ。戦いのどさくさに紛れてGoblinでも入り込んだのだろうか?
「居たぞ、Humanだ」
「……これ、生きてるのか?」
だが、何と姿を現したのは獅子の頭を持つGhoul達だった。思わずLucilianoは目を見開いた。
『まさか、GhoulがNoble Orcに勝ったのか!?』
この森にはGhoul TyrantやGhoul Elder Mage等の上位Ghoulは存在しないと聞いていたのに、Noble Orc相手に勝つなんて、Lucilianoの予想を超えた結果だった。
いや、Lucilianoだけではない。Noble Orcが支配する数百匹規模のmonstersの群がDevil Nestsの内側の争いで消滅する可能性なんて、誰もが存在しないと思い込んでいた。
だが、どれだけ信じ難くてもLucilianoの視界からGhoul達の姿が消えるような事はない。
「今少し動いたぞ。生きてる」
「よし、他のHumanの所に連れて行くぞ」
「待ちなさいっ、運ぶ前にせめてbody partを隠すぐらいしてやりなさいよ」
二匹の男Ghoulに加えて、女Ghoulも後からやって来た。彼女はBugoganに犯される途中で放置されたままの、肌も露わなLife-deadのbody partを寝台のfurで包んだ。
そんな気遣いをLucilianoは冷めた気分で眺めていた。
『Ghoulが勝ったとなると、捕まっている女達を助ける事はもう不可能だな』
GhoulがHumanの肉を喰うのは、adventurerならずとも誰でも知っている。きっとこれからGhoul達はOrcが捕まえていたHumanの女達を食材にして、戦勝を祝う宴でも開くのだろう。
若しくは女達を儀式でGhoulにしてしまうかだが、どちらにしても助ける事はもう出来なくなる。
『まあ、助けられた後の事を考えれば、ここで殺されておいた方がずっと幸せだろうがね』
彼女達はOrcに汚された哀れな被害者だが、助けられた後不幸になる可能性の方が高い事をLucilianoは知っていた。
Orcに囚われて一か月も経てば、Orcの凄まじいlibidoと劣悪な扱いでBodyだけではなくMentalが深く傷つき、自力で立ち直るのは困難。そんなconditionではadventurerに復帰するのは不可能だろうし、しようにも彼女達の装備は全てOrcに奪われている。
guildに預金があればin any case、囚われていた女adventurer達は全員DClass以下だ。装備を全て新調できる蓄えは無いだろう。
諦めて引退しても、Orcに汚されたと知られれば『汚らわしい』と真面な縁談は来ないし、普通の職に就く事すら難しい。
これが普通の村娘ならまだ行政府からの救済が期待できる。Balchesse Viscountは、Lucilianoの目から見てもNobleにしては良心的だ。一生面倒を見るような事は無いだろうが、一、二年は援助してくれるだろう。だが彼女達はadventurerだった。adventurerとは基本的に何があってもSelf責任の職業であるため、行政からの救済も望み薄。良くて一月分の生活費を給付されるぐらいだろう。
monstersに囚われたお嬢-sanがChampionに助けられ、末永く幸せに暮らせるのは物語の中だけなのだ。
尤も、『monstersに胎を貸したWitch』として処刑されたり、monstersを退治したadventurerの『戦利品』としてSlave商人に売り飛ばされたりした昔よりもずっとマシではあるのだが。
Lucilianoがそんな世の無常に思いを馳せていると、彼のLife-deadをGhoul達が運び始めた。これから喰われるのだろうが、幸いLife-deadには痛覚が無いのでfive sensesを共有しているLucilianoは痛みを感じなくて済む。
そのため彼はこのLife-deadが破壊されるまでに少しでも情報を集めるつもりだった。
『外はOrcやKobold、Goblinの死体だらけか。それに比べてGhoulの死体は見かけないな』
戦いの-sama子を見ていなかったLucilianoは、外で何があったのか殆ど知らない。それを補おうとLife-deadのeyeballを動かして周囲の-sama子を探るが、それは彼にとって……accurateには彼の雇い主のBalchesse ViscountとPalpapek Marshallにとって、気分が暗くなるような情報ばかりだった。
Ghoul側の損傷は見る限り軽微で、数は百以上。そして何故かどのGhoulも良い武装をしていて、中にはmagic itemらしいWeapon Equipmentを持っている個体もいる。
「これもKingのお蔭だ。一対一でNoble Orcの頭を倒した、最強のKing!」
「Ghoul King万age! Vandalieu万age!」
しかも勝利に興奮しているGhoulがそう叫んでいるのが聞こえた。
つまりGhoulにKingが現れ、その個体は統率AbilityとCommanding Abilityに優れ、Ghoul達にそこらのSoldierよりずっと優れた武装を調達できる何らかの方法があって、更にRank7のmonstersと一対一で戦い勝つだけの力があると。
『……このLife-deadが破壊されたら、土下座してでも仕事の延長を断ろう』
そんなKingに統率された百匹以上のGhoulの群れと戦うなんて、絶対に御免被る。幾ら金貨を積まれても、自分が死んでは使えない。
そういえば何故か集落の外壁が無くなって、代わりに丸太がそこかしこに転がっているのもそのGhoul Kingの仕業なのだろうか?
『しかし、GhoulのKingは複数の集落を纏める時にだけなる称号のようなものだったと聞いた事があるが……』
すっと、Life-deadが比較的無事な建物の床に降ろされた。
「ここで待ってろ。すぐ、Vandalieuが来る」
そう言って、Life-deadを運んでいたGhoul達は離れて行った。見張りに残らないのは、敵とはみなされていないからだろう。
『まあ、Ghoulにとっては敵ではなく餌だろうが』
周囲には十数人の女達が集められていた。全員がHumanで、そして瞳が死んでいて手足や顔にまで痣がある。
「ぁぁ……ぁ……い……やあ……」
「ううっ、うああっ……ひっぐ……あああ……」
「殺して……もう……殺してよぉ……」
【Degenerate】なんてsecondary nameで呼ばれるLucilianoでも、耳を塞ぎたくなる啜り泣きや力の無い呟き。やはり彼女達はOrcに囚われていた女adventurerのようだ。
adventurerだけあって一般人のfemaleよりもEmotionalにもBody的にもタフなはずだが、見事に壊されている。
そんな彼女達が生きたまま喰われる-sama子は流石に見たくないので、できれば楽に殺してやって欲しいものだ。
「っ!?」
そんな事を思っていたLucilianoは、ぎょっとした。彼の視界に何時の間にか、自分をじっと見つめるchildがいたからだ。
真紅と紫紺のオッドアイが、じっと見つめている。そのchildはとても幼く、三age程にしか見えない。それが何故こんな所に居るのか。
『こいつ、Dhampirか? 何故Dhampirのchildが居る? こいつの親は何処だ? Noble Orcの配下にSubordinate Vampireは居なかった、まさかGhoulと組んでいるのか?』
そんな疑問がLucilianoの脳裏に浮かぶが、Dhampirのchildが発した言葉にそれらは掻き消されてしまった。
「あなたは、何故そこに入っているんですか? それは他人のbody partでしょう」
『これがLife-deadだと見破られただと!? そんなBAKANAっ、私の術は簡単にバレるようなものではないのに!』
驚愕するLucilianoに、Dhampirが近づいてくる。
「あなたの横に、その女の人の霊が憑いていますよ。body partを返せ、私を汚すなって」
『霊が見えているのか、こいつSpiritualistか!』
優れたLife-Attribute MageであるLucilianoだが、SpiritualistのJobに就いていない彼には霊は見えない。だからLife-deadの材料にした死体の霊が憑いている事に、今まで気がつけなかった。
これはもう誤魔化せないとLucilianoは諦めた。っと、同時に彼にはまだ余裕があった。何故ならLucilianoはmagicでこのLife-deadとfive sensesを共有しているだけで、この場にいる訳ではないのだ。
意識を戻すだけで、LucilianoはDevil Nestsから逃げる事が出来る。後に残ったLife-deadにこのDhampirが何をしても、彼は痛くも痒くもない。
「逃げないでくださいよ」
しかし、Life-deadのbody partにDhampirの手がずぶりと入り込んだ。その冷たい手が、Lucilianoの意識を鷲掴みにする。
「ガ!? な、何ヲしタ!?」
慌てて意識をLife-deadから本来のbody partに戻そうとしても、何故か戻らない。感じるはずの無い圧迫感と不快感を覚え、Lucilianoはscreechを上げた。
「質問に答えてもらえますか?」
質問に答えずLucilianoは抵抗を試みたが、本来のbody partではなくLife-deadに意識を移していたのが災いして碌にmagicを使う事が出来ない。
「わ、私ハadventurerだ。この、Orcの集落の情報を探るタメ、このLife-deadを使っタ」
このままでは何をされるか分からないという危機感から、Lucilianoは白状する事にした。
「……詳しく話してください」
VandalieuはLucilianoから、既にこの辺りの領主であるBalchesse Viscount、そしてMirg Shield NationのMarshall Palpapek Earlに、Bugoganの大集落の存在とその野望が町を襲撃する事だと情報が伝わっている事を聞きだし、更にPalpapek Earl主導で大規模な討伐隊をorganizationする動きがあると聞いて、頭痛を覚えた。
Noble Orcさえ排除すれば、Ghoul達は問題無くこのDevil Nestsで暮らしていけると思っていた。主だったOrcが排除されれば、このDevil Nestsの生態系の頂点にReignするのは当然Zadiris達Ghoulになるからだ。
certainlyこれまで通りadventurerは来るだろうが、一度に来るのは精々多くても数partyでその頻度も低い。数人のGhoulがやられる事はあるかもしれないが、集落全てが討伐される程の脅威ではない。
しかし既にBugoganの脅威をHuman側の、それも国の上層部が知っていて大規模な討伐隊を派遣する計画があるとなると、Vandalieuの予想は大きく崩れる。
「Noble Orcの集落が壊滅したのを知ったら、Marshallはその計画を中止しますか?」
その質問に、LucilianoはLife-deadの顔を強張らせたまましばし沈黙し、諦めるように答えた。
「私ハ、ただのadventurerダ。Commanding権も決定権モ無い。ダガ、Marshallは計画を中止しないト思う」
でしょうねと、Vandalieuは息を吐いた。
Human社会に直接の脅威となっていたNoble Orcは、今日排除された。配下のGeneralやMageといった主だったOrcは全て死に、何匹かOrcやSlaveのGoblinやKoboldが逃げていたとしても、それは大した脅威にはならないだろう。
しかし Palpapek Marshallと領主のBalchesse Viscountにしてみれば、脅威の対象がOrcからGhoulに替わっただけの話だ。
最低でもRank6のNoble Orcが複数いた、合計五百匹以上のmonstersの群れを蹴散らしたGhoul Kingに率いられたGhoulの大軍。そのGhoulがHuman社会の脅威にならないと何故言い切れるのか?
HumanにとってGhoulもOrcも同じmonstersである以上、町から三日の距離にあるDevil Nestsに数百規模のmonstersの群れが存在していれば、それだけで脅威なのだ。
しかも、DhampirがそのGhoulの群れに居ると知られればAlda教の連中が介入してくる可能性が高い。特にGordan High PriestのようなVampire専門のClergymanが。
それはVandalieuにとって、母の仇であるGordan High Priestを殺すchanceかもしれない。しかし、その仇を殺す力が自分に在るかというと、まだ彼には自信が無かった。
Darciaを火炙りにした当時、Gordanはadventurer RankでBClassに匹敵する実力があったらしい。それが本当なら、GordanはRank7のBugoganと一対一で戦い、ほぼ確実に勝つ事が出来る。Vandalieuのように、肉も臓腑も切らせるような奇策を弄する事無く。
だから、余程のFortuneに恵まれない限りVandalieuは勝てないだろう。そしてFortuneこそ、彼に最も足りない物である。
だからこのchanceを見逃す事に躊躇いは無い。寧ろ、積極的に潰したい。
(でも潰す手段が無い)
Lucilianoにしっかり顔を、Dhampirの特徴であるオッドアイを見られてしまった。
彼はLife-deadを使い魔にして意識を一時的に移し、five sensesを共有しているだけだ。彼のmain bodyはfrom here離れた町の中に在る。そのため彼の口を封じる手段をVandalieuは持っていなかった。
Lucilianoは逃げられない事と何をされるか分からないというhorror心から素直に情報を吐いたが、実はVandalieuは彼がLife-deadから意識をmain bodyに戻さないように止める事しか出来ないのだ。しかも、そうしている間常にこうしてLife-deadに【Spirit Form Transformation】した腕を突っ込んでいなければならないため、何時間も止めておけない。
このまま不眠不休でLucilianoをLife-deadに止め続けて、彼のmain bodyが餓死するのを待つなんて絶対に無理だ。
そうなると残る方法は情に訴えるか買収するか脅すかして、口をつぐんでもらうぐらいだが……情は却下。LucilianoがどんなHuman性をしているかは知らないが、仮にphilanthropy主義者であったとしても彼は依頼を受けて動いている。それに反してVandalieu達の事を黙っていれば、後で露見した時Adventurer’s Guildからの制裁どころか首に懸賞金がかけられかねない。
そんな危険は冒してくれないだろう。
買収も却下だ。Vandalieuがどんな利益をLucilianoに約束しても、彼からすれば雇い主のNobleから受け取る正当な報酬と評価の方が望ましいはず。無意味に危険を冒す真似はしないだろう。
残ったのは脅しだが、これも効果的ではない。今はVandalieuに怯えているLucilianoだが、元のbody partに戻ったら、一切Vandalieuは彼に手出しできないからだ。
言葉だけで脅す事ならできるが、それは逆効果だとVandalieuは思い込んでいた。
(三ageに満たないchildに脅されて怖がる大人が何処にいる)
実際には、appearanceや雰囲気の異-samaさのせいでかなり怖いのだが。
情報の隠蔽は無理だと思考を切り替えたVandalieuは、当初の質問に戻る。
「何のためにこの人の中に入っているのかは分かりました。それで、この人を殺したんですか?」
この人……Life-deadは見た限り若くて、Orcに捕まっていたにしては健康的に見えた。致命傷を治療した痕も無さそうだ。
だったら意図的に殺されたとしか思えない。
この女の人をLife-deadにするために、お前が殺したのか? そう聞かれている事に気が付いたLucilianoは首を横に振った。
「違ウ、私は、領主が用意シタ死体をLife-deadにしただけダ! この女ガ、何で死んだのかなんテ、知らない!」
『こいつの言っている事は、本当?』
そうLife-deadのBodyの本来の主に聞くが、彼女は『body partを盗られた!』『私のbody partっ、返して! これ以上汚さないで!』と繰り返し主張するだけで要領を得ない。
死後一か月以上経っているようだし、その間自分のbody partがBugoganに凌辱されているのを延々見せ続けられたのだからMentalが壊れるのも無理はないか。
「……分かりました。今回は見逃します。でも、次に見かけたら殺します」
「っ!」
手を放すと、Lucilianoの意識がすぐにLife-deadから離れて行った。それまで怯えた表情を浮かべていたLife-deadから表情が消えると、ピクリとも動かなくなった。
元の死体に戻ったのかとも思ったが、まだ呼吸も鼓動も続けているようだ。maybe、込められたManaが無くなるまでは術者が離れてもLife-deadのままなのだろう。
『ありがとう、私のbody part、取り返せた』
「どういたしまして。それでこれからどうします?」
『これから? 私、もう死んでる、これからなんて……』
「生まれ変わるつもりはありませんか?」
『えっ? それってどういう意味なの? 死んだ人は皆、何時か新しい命をKami-samaから頂いて生まれ変わるのよ』
このLambdaには、Circle of Reincarnationの概念がある。Rodcorteの名は知られていないが、死んだ魂が何時か新たに生まれ変わるという話は誰でも知っている。
なので彼女は当然これから成仏して死後のworldに行けば、何時か生まれ変わると常識のように思っていた。それを何故態々聞くのだろうと疑問に思ったのだ。
「俺が言いたいのは、今すぐ生まれ変わって新しい人生を手に入れるつもりはないかという事です」
『今すぐ? そんな事が出来るの?』
「はい。俺はあなたを生き返す事は出来ません。ですが、都合良くあなたの中に新しい命が宿っています」
ぐったりと横たわるLife-deadの中に、まだ胎児とも言い難い小さな生命反応がある事にVandalieuは気がついていた。
その中に宿ってそのまま生まれ変わるつもりはないかと、彼女に聞いているのだ。
『私に、Orcになれって言うの!?』
【Death-Attribute Charm】の効果とbody partを取り戻した事で友好的だった女の霊だが、Vandalieuの提案には流石に拒否感を滲ませた。
死後とはいえ自分のbody partを凌辱した相手のchildに、それもOrcに生まれ変われと言うのはTortureだろう。実際、Vandalieuも「このまま成仏するのと今すぐOrcに生まれ変わるのと、どっちが良い?」なんて聞かれたら速攻で成仏を選ぶ。
「大丈夫です、Noble Orcの因子は出来るだけ削りますから。Orcにはなりません」
『そんな事出来るの? Orcのbloodが入ると、そのchildは絶対にOrcになるのよ』
「できます。ちょっとなら経験がありますから」
しかし Vandalieuには動物や植物、Humanの品種改良の経験があった。accurateには、Death-Attribute Magicでそういう事が出来ると知っていた。
Originで行われた実験で、death attributeのManaで遺伝子の一部だけを殺す事で品種改良が出来るかという研究が行われた事があり、その試みは成功した。
ロバとラバの混bloodで宿った胎児の中にあるラバの遺伝子を殺して、完全なロバの子を作りだした。
diseaseと寒さに強いが暑さにweak品種と、暑さに強いがdiseaseにweak品種を掛け合わせて出来た種の遺伝子から余計な部分を削り、diseaseにも寒さにも暑さにも強い品種の種を作った。
同じ事を家畜や、Humanの違うHumanの精子と卵子から出来た受精卵等に行い、九割以上の確率で望んだ結果を出した。
お蔭でVandalieuを捕えていた研究所を要する軍事国家はFarmingや畜産業でdevelopmentし、更に数々の遺伝Diseaseを克服して医療大国として名を馳せたのだった。
(俺が死んだ後、どうなったか分からないけどな)
そう暗い期待が籠っている呟きは胸の中に納めて、彼女を安心させるために説明を続ける。
「精子と卵子が受精する前か直後なら完璧ですけど、もうuterusに定着してから暫く経っていますから完全なHumanには出来ません。でも、Noble Orcと同種とは思えない程Human寄りのchildになるはずです」
『Beastmenみたいになるって事?』
「……俺はBeastmenを見た事が無いので、断言はできませんが」
そう言うと、彼女は黙り込んだ。深く考えているのだろう。
Vandalieuは、彼女が答えを出すまでじっと待った。それはこれが純粋な善意であり、人助けだからではない。彼にとって、彼女がこの「生まれ変わり」を選んでくれれば都合が良いからだ。
Vandalieuの目的は敵討ち、このworldにreincarnationしてくるCheat共相手に生き残る事、そして母Darciaのrevivalだ。
そのための手段の一つとしてVandalieuはDarciaの霊を、霊に適性の高い受精卵にPossessionさせるPseudo- reincarnationを考えていた。
Darciaの霊と適性の高い受精卵は、彼女自身のbody partが灰になってしまっているため見つかる見込みはほぼ無い。だからあまり現実的ではない方法だ。しかし、手札は多いに越した事はない。
ただこのLambdaでもOriginで行った時のように上手くいくとは限らない。このworldの生物に遺伝子やDNAがあるか否か、あったとしてそれはOriginの生物と同じなのか、Vandalieuは知らないからだ。
それを確かめるための実験台として、彼女を使おうとしているのだ。
だからVandalieuは悩む彼女に対して無言のまま、ただ待つ。事情を話したら、【Death-Attribute Charm】skillの効果で彼女が首を縦に振ってしまうだろうから。だからといって、嘘はつきたくない。
何とも偽善的だ。それを自覚しているため、もし彼女が協力してくれたら結果がどうなっても彼女の新しい人生を助けるのが道理だろうと、Vandalieuは思っていた。
『決めました、生まれ変わらせてください』
「分かりました。最善を尽くします」
再び腕を【Spirit Form Transformation】して、Life-deadの下腹部に腕を埋める。そしてuterusの中に息づく、小指の先より小さな胎児にManaを通し、そのconditionを探る。
胎児からは殆どHumanの因子を感じない。ほぼNoble Orcの因子で、このまま育ったらNoble Orcになるのは確実だろう。
以前Vandalieuがconjectureした通り、OrcやNoble Orcの生殖は普通の物とは違い、Orcの因子が母体の因子をAbsorptionする形で胎児が育つようだ。
だったらその関係を逆にしてしまえばいい。Noble Orcの因子にdeath attributeのManaを与えて弱め、Humanの因子からは逆に弱くなるのを止めて強まるように促す。そして胎児が死ぬ事も止めれば、後はHuman寄りのchildが産まれるという訳だ。
『……Mana Control skillを覚えておいて良かった』
各種実験器具が無いconditionで実行するのは、とても難しかった。普段のようにManaのゴリ押しで何とかなるものではなかったからだ。
そんな事をすればこの脆い胎児は潰れてしまう。とにかく繊細に、細胞一つ一つの因子を選別し処置を施していく。
「では、また会いましょう」
そしてnameも知らない彼女の霊を胎児の中に宿らせた。そういえば、Earthでは人に魂が宿るのはどの段階からなのか……受精卵からなのかそれとも胎児になってからか、若しくは母親から生まれた瞬間かと、議論が起きていたらしい。
Lambdaにおける魂が人に宿るtimingは、今回のケースでは今この瞬間になる訳かと、大して意味の無い事をVandalieuは思った。
そしてLife-deadに追加でManaを譲渡しておく。LucilianoがこのLife-deadにどれくらいのManaを込めたかは分からないため、彼女が生まれ変わる前に鼓動が止まるような事が無いようにだ。
これで後は残りの女adventurer達をどうするかだが……。
「King、何故モテてる?」
「……skillのimpactかな」
VandalieuがLucilianoに本格的な尋問をする前から、女adventurer達はVandalieuに纏わりついていた。
「ああ……」
「お願い……お願い……」
半裸の女達に纏わりつかれていたら、大体が通りすがりのGhoulのように「モテてるな」と思うだろうが、実態は違った。
MentalがDecayして生ける屍conditionだったり、despairし死ぬ事だけが希望だったりと、そんなconditionの女adventurer達はVandalieuが纏うdeath attributeのManaが、自分達を救いに来た死神の鎌に見えたのだ。
生きている人には効果が無いはずの【Death-Attribute Charm】skillだが、どうやら死ぬ事を本気で望んでいるHumanには生きていても効果が及ぶらしい。
それで殺してもらおうと、明らかに正気じゃない彼女達に囲まれて懇願されるVandalieuのMentalはゴリゴリと削られていた。
さっきまでの霊とのやり取りやその後の施術等では、自分に纏わりつく彼女達を見たくないため逆に集中力が高まったぐらいだ。
しかし、何時までも見たくないからと目を逸らしていても彼女達は消えない。どうするかGhoul KingであるVandalieuの判断が待たれているのだ。
「まず、殺すのは無理として……」
VandalieuにとってMirg Shield Nationのadventurerである彼女達は敵に等しい存在だが、流石にこんなconditionで殺す気にはなれない。
「町の近くで解放するのは――」
「いやぁぁぁぁっ!」
「やめてっ、殺してっ、殺してよぉっ!」
「……ダメなんですね」
Lucilianoのように世の無常に詳しい訳では無かったが、このまま彼女達を解放しても救いにならない事はよく分かったVandalieuだった。
町にfamilyやlover等、帰りを待っている人達がいるのではないかと思ったが、そういう-sama子も無かった。居ないか、familyとの関係が悪かったか、それとも一緒にpartyを組んでいたためにOrcに殺されたのかもしれない。
かといって、彼女達をこのままGhoulの集落で世話するのは絶対にダメだ。
今はVandalieuに魅了されている彼女達だが、生きる気力を取り戻した後もそうかは分からない。寧ろ、skillの効果がNullificationになる可能性の方が高い。それで正気に返って、adventurerらしく敵に戻るかもしれない。
女adventurer達を哀れには思うが、それでもVandalieuにとってはGhoul達の事が優先だ。
「じゃあ、Ghoulになりますか?」
だからVandalieuがそう提案するのは自然な流れだった。以前Zadirisから聞いたが、GhoulはHumanの女を同族にする儀式を行う事が出来る。
その実例がTareaだ。
「Ghoulに……?」
「はい、俺のFollowersに――」
Vandalieuが言い終る前に、女adventurer達の死んだ瞳に輝きが宿った。
「なります、あたし、Ghoulになる……」
獲物を前にした肉食獣のような炯々とした光る瞳、瞳、瞳、瞳、瞳――浮かんでいる表情はどれも笑みなのだが、新たな希望を見つけて救われたというよりも、元の形も分からない程壊れた結果、別の存在になってしまったような異-samaさが浮かんでいる。
「私も、Ghoulに……」
「なる、なるよぉ、あたしもFollowersにして……」
そして女adventurer達は全員Ghoulになる事を希望し、Vandalieuは新たにFollowersを十三人増やしたのだった。
「坊やは首尾良くあのadventurer達に、Ghoulになる事を同意させたようじゃ。Human社会に戻ってやっていけるならin any case、それが出来ないなら儂らに出来るのは同族として迎え入れる事だけじゃからな」
「確かにそうだが、一人だけ妙に話しこんでいた女が居たな。何かmagicを使っていたようだし」
女adventurer達にGhoul化の儀式を行う選択肢もあるぞと、timingを見て言いに行くつもりだったZadirisとBasdiaは、やや離れた所からVandalieu達の-sama子を窺っていた。
「そうじゃな。しかもあの女、会話の後はまるで死んだように動かん。一段落したら事情を聞きに行くか」
極楽から垂らされた蜘蛛の糸に集まる亡者のように、女adventurer達がVandalieuに手を伸ばして揉みくちゃにするのを眺めながら、Zadirisは彼女達が落ち着くのを待っていた。