<- Previous | TOC | Next ->
Special thanks to MBA and the Users from the LBN #spoilers Discord. Without them this would not be possible.

Chapter 175: 幻でも許せないものがある

 中層の氷原や雪の階層程寒くは無い、しかし氷が溶けない程度には冷えている冬国の薄曇りの階層。

 その八十五層にたどり着いたVandalieu達は入り口近くに佇む数十本の氷の柱を目にした。

Bocchan、これが氷像の方だと思われます』

 Samが指し示した氷の柱をよくみると、柱では無く氷に覆われたHumanだった。


 Boundary Mountain Range内部の挑戦者が見たと言う、Boundary Mountain Range外部の挑戦者の成れの果ては石像と氷像の二種類があった。この氷の柱の中で氷漬けにされているのが氷像の方だろう。

「そうですね。確か、目撃した人はGufadgarnが試練の警告、若しくはヒントの為に創った趣味の悪いオブジェだろうと考えたのでしたか」


 そう言いながら氷像の一つに近づき、氷を透かして見ると石像と同じように装備品の類は殆ど無い、下着姿同然の格好をしている。

 しかし石像と違って髪や瞳、肌の色は確認できる。


『でも、やっぱりここで凍死した訳では無いみたいですよ』

『こっちは火傷の痕がありますし、そっちは一見無傷のようですが首が切断されています』

 RitaSalireの言う通り、詳しく観察すると氷に覆われた死体にはこの階層で負ったとは思えない致命傷の痕があった。

 中にはwhole bodyがバラバラに切断された後、それをpuzzleのように組み合わせてから氷で覆ったと思われる氷像もある。


 手の込んだ事である。どうやら、試練に関する警告かヒントだろうというconjectureは間違っていないようだ。


recordによれば、この階層の試練は通称『誘惑の試練』でしたね」

 挑戦者がある程度進むと視界が霧に包まれ、背後から-sama々な幻聴が聞こえるという試練だ。Dungeonの外にいるはずの親しい者や、既に死んでいるはずのfamily等の声で、要約すると「そっちは危険だ」とか「戻っておいで」と話しかけられるのだ。


「そして、今までこの試練に挑む事が出来たBoundary Mountain Range内部の挑戦者は二組。ですが突破した挑戦者は一人もいません」

 Godwinを含めた挑戦者達から聞いた情報を纏めた書類を仕舞いながら、Irisはそう告げた。百年間、毎年挑戦し続けたが、到達できたのはこの階層までだった。


「どんなconditionで敗退したのかはrecordされているの?」

「二組とも誘惑に負けないように前に進んだそうですが……落とし穴のTrapにかかったり、霧に紛れて近づいてきたmonstersの不意打ちを受けたりしたそうです」

『なるほど、誘惑に抵抗するだけでは試練を突破できないのか』


 EleonoraIslaIrisから聞いた情報から、この試練の悪辣さをconjectureして顔を顰めた。

「この八十五層に到達するまでにVandalieu -samaでも二カ月以上がかかっている。他の挑戦者なら三カ月以上かかってもおかしく……いいえ、かかるのが普通でしょうね。積み重なったBody的、Emotional Fatigueは小さくは無い筈よ。

 そこに親しい者からの誘惑……幻聴と分かりきっていても、簡単には振り切る事は出来ないでしょうね」


しかも、誘惑を振り切っても霧に隠されたTrapや伏兵が待っている……事前の情報noneで試練に打ち勝てるのは【Danger Sense: Death】のmagicを持つVandalieu -samaぐらいだろう』

 Mental力を試す試練かと思ったら、視界を塞いでTrapと敵を配置して物理的な障害まである。


「ただの暗闇なら【Dark Vision】で昼間同然に見渡せるのだけど……霧や煙はちょっとね」

 AbyssVampireEleonoraUndeadであるIslaにとって闇は視界の妨げにはならない。しかし、空気中に物理的に存在する霧や煙を見通す事は出来ないのだった。

GufadgarnVampireの挑戦者が来る事も想定していたのかもしれない……何、Iris? 先程から私と小娘を交互に見ているようだけれど』


「いえ、二人とも息があっていて頼もしいなと思って」

 二人の会話に感心していたIrisが正直にそう答えると、IslaEleonoraは目を瞬かせた。そして、無言のままお互いに向き直る。

 その-sama子を見ていたBellmondは、荷物の中から小さな砂時計を取り出した。


「では……ファイト!」

 Bellmondが腕を交差させて試合開始を宣言すると、IslaEleonoraは無言のまま取っ組み合いの喧嘩を開始した。

「なっ!? 何をしているのですか!?」

「円滑なHuman関係を維持するための、Bodycommunicationです。Iris、下がらないと巻き込まれますよ」


 驚くIrisに涼しい顔で応えるBellmond

「止めないで良いのですか!?」

「問題ありません。Weapon Equipment none Martial Arts magic none、砂時計の砂が落ちきるまでの勝負ですから。……もし止めなければ、私が制圧します」

Iris、競い合う以外の関係を築けない者達がおと……Warriorにはいるのだ』


 ruleも決まっており、途中で言い直したが父であるGeorgeからの言葉もあって、Irisは「分かりました」と渋々引き下がった。しかし、ついつい争い続ける二人に目を向けてしまう。

『小娘ぇ~っ』

「年増ぁ~っ」

 両手で組み合って力比べをしているIslaEleonoraから、歴戦のKnightでもhorrorのあまりfaintedしかねないbloodthirstが放たれている。


 それは無いと分かっていても、殺し合いにdevelopmentするのではないかと気が気では無い。

『それでBocchan、この氷像の方はどうします?』

「上にあった石像よりは数が少ないですけど、結局どれがHeinzの仲間の死体なのか分からないのですよねー」

 一方、Vandalieu達はのほほんとした雰囲気で氷像の品定めをしていた。bloodthirstも気に成らないらしい。


『うーん、この人だったかしら? 見覚えがあるような気が……あ、でもこっちだったような気も……たしかElfの女の人で、金髪で……』

 そう言えば、生前捕まる前に一度顔を見た事があった。それを思い出したDarciaが先程から氷像を覗き込んではMemoryを手繰り寄せようとしているが、上手くいっていないようだ。


『……Vandalieu、瞳の色は何色だったかしら?』

kaa-san、無理に思い出そうとしないで良いんですよ。覚えていなくても仕方ありません、Martinaを見たのは一度だけでしょうし、近くで詳しく観察した訳でも無いでしょうから」

 しゅんと落ち込んだ-sama子のDarciaに、覚えていないのも無理は無いと慰めるVandalieu


 実際、『Five-colored blades』の中でもSpiritual MageだったMartinaは前衛では無くrearguardだったはずで、Darciaが捕まった際も彼女はHeinzDelizahの後ろにいたはずだ。

 そして捕まった後Gordan High PriestによってTortureを受け、火刑に処された。それが約十年前の事である。彼女のMemoryに残っているのは、Tortureと火刑を執り行ったGordan High Priestや『Five-colored blades』の前衛達の方だろう。

 顔が思い出せなくても無理は無い。


 それにMartinaが『Trial of Zakkart』で死んだのも、Darciaが死んでから何年か経ってからだ。Elfの成人femaleは数年経った程度で容姿に変化は出ないが、髪型等は変わっているかもしれない。


『そうね、やっぱり無理だわ。私を捕まえた時と同じ装備をしていたら、思い出せたかもしれないけれど』

 そして氷に覆われた死体は装備を剥されほぼ下着姿なので、印象が益々変わり薄れたMemoryとも結びつかないようだ。


『でもDarcia -samaguild Cardが見える氷像もありますよ』

 しかし Salireが言うように、石像と違ってguild Cardを片面だけだが確認する事が出来た。guild Cardは裏面に所有者の任意でStatusを表示する事が出来るmagic itemだが、表面にはnameAdventurer’s Guildでの等Classを表すアルファベットが描かれている。


『それは見たけれど、Martinaってnameが書かれたCardを持っている人はいないみたいよ?』

『確かに、Cardを持っていない人もいますね。guild Cardが壊れていたり、無かったり、埋まっていて見えなかったりする人もいますし』


「運悪く切断面の間に入り込んじゃったようですね」

『埋まっているのが胸の谷間だったらまだ良いのに~』

「でも、確認できる氷像は低くてもCClass、殆どはBかAですね」


 嘆くRitaに構わずCloneを出して全ての氷像をざっと確認したVandalieuは、確認できる者達のほぼ全てが上位のadventurerである事に気がついた。

 恐らくguild Cardを確認不能な者達も上位のadventurerや、それに並ぶ実力を持っていたKnightmercenaryだろう。


『像の数の違いからconjectureすると、上の石像にされた挑戦者は上層ですぐ死んだweak者。ここにある氷像がある程度まで進んだ、強い者の死体なのかもしれませんね』

Undeadにするわけでもないのに何故分けているのかは分かりませんが』

Gufadgarnなりに死者へ敬意を表したのか、特に意味などないのか」

『そして結局霊は居ない』


 色々とconjectureするが、重要なのはやはり霊が一体も居ない事である。お蔭で、やはりどれがHeinzの仲間のElfの女Spirit UserMartinaなのか確認できない。

 氷像にはElffemaleが五人いるのだ。


ElfHumanより絶対数が少ない筈なのだけど……結構いるのね」

magic的な素質はHumanよりもElfの方が上で、長命なので経験を長く積む事が出来る。だから上位のadventurerではHumanElfの割合はそう変わらないと、千年ぐらい前に聞いた覚えがあるわね』


 砂時計の砂が落ち切ったので喧嘩を止めたEleonoraIslaが、何事も無いように会話に加わった。

 Irisはその後ろ姿を見て、やはり二人とも仲が良いのではないだろうかと思ったが今度は黙っている事にした。また喧嘩が始まる予感がしたからである。


「旦那-sama、どうしますか? 五人分ならそれほどかさばりませんし、詳しく観察すればもっと絞り込めると思いますが」

 Bellmondが、氷像の手や体つきを見ながらそう提案する。


「……止めておきましょう。この先の試練で氷像が傷つかないようにするのは面倒ですし」

 『Trial of Zakkart』に挑む前は見つけたら持って行こうと思ったVandalieuだが、実際に挑んでみると想定していたよりもこのDungeonの難易度はやや高かった。

 それにこの階層から下は事前の情報が全く無い未知の領域だ。余分な荷物は持って行かない方が良いだろう。


 帰りにGufadgarnに頼めば貰えるかもしれないし。


『仲間……』

『ツギハギ……?』

「試練が終わったら増やしますから、ね?」

 継接ぎ仲間が増える事に期待していたRapiéçageYamataがしょんぼりとしたが、ここは妥協せず進む事にした。


「とりあえず、俺を先頭にしてUndeadと【Mental Corruption】のある人だけ外に出て進みましょう」

 気を取り直し、幻聴の効果を受け辛い者のみで試練に挑戦する事にする。そうして氷像群を越えて数歩進むと、途端に霧が立ち込めてVandalieu達の視界を塞ぐ。


「――――。【Screamskillで出した声の反射で、敵の大体の位置が分かりますね。えーと……Bellmond、俺の指差した方向に切断糸」

「畏まりました」

 蝙蝠が暗闇で虫を捕える-samaに、Vandalieuが離れた場所に潜んでいる敵を発見し、Bellmondが操る糸が始末していく。


 彼女が細い指を躍らせる度に、霧の向こうで『GAっ!?』と言う短いscreechと複数の濡れた何かが地面に落ちる音がする。

「流石【Kunoichi】。今度鉢金や手裏剣、網タイツを作りましょう」

「旦那-sama……たしかに【Kunoichi】のJobに就いていましたが、網タイツは頂いても着ける機会が無いと思うのですが」


 普段から燕尾服などを着ていて脚を出さないBellmondが、首を傾げる。そもそも何故網タイツなのか。いや、ZanalpadnaEmpusa Kunoichi達も着けていたから、-sama式美なのかもしれない。なら服の下からでも穿くべきだろうか?

 そう考えながらも糸を操って障害を排除していく。


『……私達だけなら、Trapにさえ気を付ければ簡単に済むかもしれない』

Isla、回れ右してダッシュ』

『はっ――はう゛っ!?』

Isla、それは幻聴です」


 反射的に幻聴のVandalieuの命令に従って、回れ右して入り口に向かってダッシュしようとしたIslaを、彼女の鎖を掴んで止める。

「ふぅ、Vandalieu -samaの声が本物かどうかも分からないなんて僕失格ね」

Eleonora、こっちに来てください』

「はいVandalieu -sama!」


「……こうなるんじゃないだろうかと思いました」

 伸ばしたtongueEleonoraの腕に巻き付けて止めながら、Vandalieuはそう零した。

 どうやら、psychological効果を受けにくくてもあまり関係無いらしい。しかも、この階層の試練はUndeadにも課されるようだ。


Vandalieu、早く戻ってきて。こっちよ』

『そうだよ、Van。そっちは危ないよ』

『ダメよ、Vandalieuっ! その声は私じゃないわ! それにPauvina -chanは今Sam -sancarriageにいる筈よ!』

kaa-sanの声がステレオで聞こえる。とりあえず落とし穴が一つ、二つ、トラバサミが一つ」

 どうやらこの階層の幻聴は心に直接響くpsychological Status Effectではなく、耳から聞こえる普通の、そして本物そっくりな音声であるようだ。これでは【Mental Corruption】も【Grotesque Mind】も効果を発揮しない。


『そうかしら、全然違うように聞こえるけど?』

『はっはっはっは! 我々のLoyaltyと信仰の勝利だな!』

Valkyrie、単に僕たちに耳が無いからじゃないかな?』

『そもそも俺達って、どうやって音を認識しているんだろうね』


 唯一Legionだけは本物の声と幻聴を聞き分けられるらしい。当人達が言っているように、耳に該当する器官が無いからだろう。

 ただ先頭のVandalieuTrapを避け、敵を事前に排除するので進み続ける事に支障は無い。


(下に進む階段が無い?)

 だが先に進むVandalieuは、【Labyrinth CreationskillDungeonの構造を何度解析しても下に向かうための出口が無い事を疑問に思っていた。

 ある程度階層を進まないと現れないのだろうか?


 それもあり得るが、既に回避して通り過ぎたはずの落とし穴が消えている事にふと気がついて足を止めた。

「……視界は塞がれ、前方には終りの見えないTrapと敵。幻聴は『こっち』、『そっちは危ない』。つまり、後ろだ、前は危ない。

 皆、回れ右。幻聴の言う事が正しい」


 そう言うと、Vandalieuはその場で身を翻す。彼の突然の行動にBellmond達は揃って困惑したが、確信を持っている-sama子の主に彼女達が逆らう事は無かった。

 しかし注意して入口に戻るVandalieuに続くが、もう落とし穴も敵も配置されていなかった。霧は何時の間にか晴れ、氷像群の後ろにこの階層に入って来た時は無かった下に続く階段が出現していた。


「これは、一体?」

 困惑するBellmondに、Vandalieuは答えた。

「俺も今まで忘れていたのですが……Zakkartの言葉に『時には人の忠告を素直に聞こう』ってありました。maybe、それでしょう」


 この階層の氷像……入口に背を向けて凍り付いている姿は、『前に進むと失敗する』と言う警告。そして幻聴の内容は、真実の忠告だったのである。


「な、何て素直にひねくれた試練なのでしょう……」

 思わず頬を引き攣らせるBellmond。『試練』と銘打ったDungeonで、一度進んだ後明らかに幻聴と分かる声に従って後戻りする。

 そう簡単に出来る判断では無い。


「同感だわ。趣味が悪いわね……まあ、別に良いけど」

『今回は、大目に見てあげるわ』

 どことなく嬉しそうにそれぞれ手首と鎖に触れるEleonoraIsla


「まあ、挑戦者に試練を課すDungeonですし、趣味が悪いのは承知の上で挑まないと。文句を言うのも筋違いでしょう」

 Vandalieuはそう言うと、次の階層に繋がる階段に向かって歩き出した。




《【Screamskilllevelが上がりました!》




 『Trial of Zakkart』九十五階層。ここでVandalieuは八十五層で言った前言を翻したくなった。

 この階層の試練は、挑戦者が最もhorrorを覚える光景を幻として映し出すというものだった。

Van、大丈夫?」

 ただ虚像の試練を受けていないPauvina達は幻を見なかった。恐らく、虚像を創る際Copyした人格とMemoryを参考にして幻を映し出すのだろう。


Vandalieu、何かがあるの? いいえ、見ているの?』

 Legionは一応試験を受けたが、幻を見ていなかった。どうやら複数の魂がFusionしたconditionの彼女達が何を最も恐れるのか、判断が付けられなかったらしい。


「……ちょっと待っていてください」

 唯一幻を見ているVandalieuの目には、炎に包まれ倒れ伏す国民や友達、仲間達。それを成しただろうHeinzAldabeliever達が笑っている光景が映っていた。

 彼等は爽やかに、若しくは安堵して微笑んでいた。


 「これで正義は成された。worldは救われる」と。


 幻である事は分かる。【Grotesque Mind】の効果なのか幻は薄っぺらく、聞こえるHeinz達の声にはノイズが混じり、リアリティに欠けるからだ。

 本当なら炎の熱さやbloodの臭い等も感じるのかもしれないが、それも無い。


 明確な偽物だ。幻を見破ってhorrorを克服する主旨の試練なら、これでめでたく合格だ。実に簡単である。

 だが、甚だ気に食わない!


「……【Death Cannon】」

 幻のHeinzに向かって、【Hell King Magic】の【Death Cannon】、凝縮した【Death Bullet】を放つ。直撃すればSClass adventurerに匹敵する者でもVitalityを奪い尽くされ一溜りも無いmagicが命中するが、幻故に効果は無い。

 幻のHeinzは、笑い続けている。


Vandalieu -sama!? 落ち着いてっ!」

Eleonora、俺はとても落ち着いています。いえ、錯乱しています。考えてみれば、生命無き幻に【Death Cannon】を撃ち込むなんて、冷静でない証拠ですね」


(落ち着け、幻を打ち消すにはどうすれば良いのか? ……やはり物理的なAttack Powerが必要か。【Death Flame Prison】の熱と爆発は効果があるかもしれないけれど、こっちまで爆風が来たら危ない。

 では、Dead Spirit Magicか)


 黒い髑髏のFlame Bullet、【骸炎獄滅弾】を放つが、Princess Leviaはそのまま幻をthrust抜けて行ってしまった。その後「ギャアアア!?」と言う断末魔のscreechが響き、暫くしてから困惑した-sama子の彼女が戻ってきた。

『陛下~、何を焼けばいいのか分かりません。向こうにいたDemonであっていましたか?』

「すみません、この幻が俺にしか見えていないのを忘れていました」

 どうやら、まだ冷静になれていないようだと反省して、しかし【骸炎獄滅弾】は幻に触れはしたので完全に当たらなかった訳では無いと気がつく。


 しかし、幻は少し揺らいだだけだ。他の、もっと有効な攻撃手段がいる。

(なら【Demon King Fragment】か?)


 そう考え、幻に向かって【Demon King's Horn】や【Demon King's Carapace】を投擲し、【Demon King's Blood】で作った銃身を使う【Artillery Technique】、【Demon King's Eyeballs】と【Demon King's Luminescent organs】を組み合わせた光線も放つ。

 しかしどれも幻をthrustぬけてしまい、遠くから轟音と配置されていたmonstersの物らしい断末魔の絶叫が聞こえて来たが、幻shadowはやはり少し揺らいだだけだ。


『おいっ、全員少し下がるぞ! 坊主が冷静に切れてやがる!』

『こうなっては止りませんからな』

Vandalieu、ほどほどにね!』

 BorkusSamが自分達には見えない幻に向かって攻撃し続けるVandalieuから、若干の距離を取る。その間、Vandalieuは再び攻撃するのを止めて考え込んでいた。


(物理的なAttack Powerは効果が無い訳じゃ無いけれど、やはりmagicじゃないとダメなのかな? でも他にはNo-Attribute Magicの【Mana Bullet】しか無い……いや、いける)

 【Mana Bullet】のDeath-Attribute Magic版の【Death Bullet】を纏めて、【Death Cannon】に出来たのだ。なら【Mana Bullet】も収束する事で、射程距離とAttack Powerを改良する事が出来るはずだ。


「【Out-of-body Experience】、【-Transcend Limits-】……」

 Spirit Formの頭部を増やし、更に分裂。【Parallel Thought Processing】、【High-speed Thought Processing】、更に【-Transcend Limits-skillActivate

 すぐに拡散する無attributeManaを極限まで指先に収束させる。しかし、中々上手く行かない。爆ぜるような音を立てながら、すぐ拡散しようとする。


 幻の中では、変わらずHeinzが他のAlda believerと笑っている。Vandalieuと親しいTalosheimの民が倒れているのに、それを顧みない。

「幻であっても、これをそのままにはしておけない」




《【No-Attribute Magicskilllevelが上がりました!》

《【No-Attribute Magic】が【Hollow King Magic】に、【Grotesque Mind】が【Deformed SoulskillAwakeningしました!》




 一気にどのattributeにも染まっていない無attributeManaが指先に収束し、その圧力によってVandalieuの腕の毛細blood vesselが破裂した。

「安直ですが【Hollow Cannon】とでも名付けましょうか」

 そして、それを幻に向かって放った。


 Eleonora達の驚愕の視線を背に受けながら放った【Hollow Cannon】は反動でVandalieuの手を砕き、幻を掻き消し、圧倒的な力でspaceを歪めながら『Trial of Zakkart』の天井にthrust刺さった。そして、そのまま天井を砕いて貫通した!

 これから攻略しなければならない下の階層に当たらない-sama度を付けて撃ったのが、Vandalieuが冷静だった証拠かもしれない。


 跡形も無く吹き飛んだ幻と、ぽっかりと穴が空いた天井にVandalieuは、ひしゃげた手を強引に元の形に戻しつつ満足気に頷いて……全てのManaを使い切ったため、ばったりと倒れ伏した。




 その瞬間、特殊なspace内に存在する『Trial of Zakkart』全体が揺らいだ。

『おおぉっ、おおおおっ! おおおおおおおおお!?』

 『Evil God of LabyrinthsGufadgarnは畏れ戦き、screechのような咆哮を上げながら必死にDungeonの維持に力を振り搾らなければならなかった。


 一体何が起こったのか。まさか『God of Law and LifeAldaが強引に地上にAdventし、Boundary Mountain Rangeを駆け上がりBarrierを蹴り破って、力の大部分を消費する事と引き換えに『Trial of Zakkart』を破壊しようと試みたのだろうか?


 いや、この強大な力はDungeonの内部で発生したものだ。

 現在Dungeon内部に存在する者の中で、これほどの……『Evil God of Labyrinths』たるGufadgarnが直接管理するDungeonに大きな損傷を与えるような、凄まじい力の持ち主。

 それは、Vandalieu以外に無い。


『おおぉ、Zakkartよっ! 我が主よ!』

 神ならぬ身でこれ程の力を発する事が出来るとは、流石ZakkartSuccessorに成らんとする者。Gufadgarnの中で力への畏怖は消えなかったが、それを上回る胸の高鳴りが彼を支配していた。


 自ら配置した試練によって、Vandalieuがこれ程の力を振るう何かを……怒りやhorrorを覚えた事に恐れを覚えるが、それさえもGufadgarnにとっては胸の内の虚無感を埋めてくれるものでしかなかった。




 stressの無い、軽やかな気分でVandalieuは夢を見ていた。

 鼻歌を歌いながら転がり回っても良いくらい、機嫌は良い。

 しかし、ふと気がつくと周囲には自分のfragmentがいっぱい落ちている。maybe、【Hollow Cannon】を撃った事で霊的なsomethingが飛び散ったのだろう。


 散らかしておくと落ち着かないので拾って一か所に集める。そしてfragmentが自分に戻らないかとくっつけてみるが、それは無理だった。

『そうだ、Vigaro達にあげた-samaに皆に分けよう』

 そう思いついたVandalieuは、自分のfragmentを分ける相手を探して這いずり始めた。……maybe次に夢を見る頃にはfragmentに成った足も戻っている事だろう。




「無茶をしてすみません」

 Manaを使い果たしたが、level10の【Automatic Mana Recoveryskilllevel3の【Mana Recovery Rate Increaseskillの相乗効果によって、Vandalieuは一時間程で目を覚ました。


 その後何故か脚が二本ともある事を一通り喜んだあと、Vandalieuは皆に事情を話して謝ったのだった。


「幻である事は分かっていたし、本当にHeinz達がTalosheimを襲撃しても簡単に幻通りの展開に成らない-samaに色々工夫してきたし、Mikhail達が残っている事も忘れてはいませんでした。

 ですがenduranceできませんでした」


『そこまで自覚している奴を、俺はどう言って叱れば良いんだ?』

「むぅ~、まあ次はenduranceするのじゃよ。もしくは、もっと上手くやる事じゃ」

 反省するVandalieuに、微妙な顔つきで反省を促すBorkusZadiris。結果的には全員無事なのだが、冒さなくてもいいriskDungeon内で冒すのは褒められた事では無い。


 しかしこの階層に配置された敵は既にVandalieu自身の攻撃によって殲滅されているし、彼が暫くfaintedしても問題無い程、周囲には戦力が整っている。

 それに、Vandalieuが狂っている事は彼について来ている仲間全員が知っている。今更それを注意しても、仕方ない。


 なのだが「気にするなよ」と簡単に済ませて良いものか? 


Van、めっ」

『次からはManaを使い切らない-samaに、気を付けないとダメですからね。それと、罰としてBellmond -sanbloodで回復するのはダメよ』

「くっ……そうですよ、旦那-sama。次はもっと上手くやるようにしましょう」


 悩むBorkusZadirisの横で、普段より強い口調のPauvinaDarcia、そして苦い顔つきで首筋に指を這わすBellmondが叱っていた。

 それに二人が「それで良いのか!?」とはっとする。


「そうだ、めだぞ」

『うぉ、Vigaroに先を越された!? いいか、坊主、めだ』

「うむ、めじゃよ、坊や」


Borkus、それはどうなのかな?』

kaa-san、幼い私を躾けた時の厳しさは何処へ行った?」


 Imouto分と娘がそれぞれ兄貴分と母に半眼を向けるが、Vandalieuへの説教は「め」だけで終わったようだ。


「はい、すみません。次からはもっと上手くやります。【Hollow King Magic】も【Hell King Magic】同-samaに練習しないと」

 たが実際に深刻な事態に成った訳でも無く、Vandalieuが新たなSuperior SkillAwakeningするという収穫があったので長々と苦言を呈するのも何であろう。


「それよりも、magicDungeonの階層を破壊するなんて……流石Vandalieu -samaね」

No-Attribute MagicSuperior Skillなんて聞いた事が無いわ。流石Vandalieu -sama

『どれくらい凄い事なのかいまいち分からないけど、凄いわ』

「お説教中黙っていたのは『それ』だからかね?」


 基本的に自分達がイエスウーマンであると自覚しているEleonoraIslaLegionは説教タイムが終わった途端、Vandalieuを褒めちぎり始めた。

 実際、歴史上類を見ない快挙ではあるのだが。


「ところで師Artisan、先程のmagicについて説明して貰えないかね?」

「じゃあ、進みながら話しましょうか。もう、この階層には幻もmonstersも、Trapも無いようですし」




Name: Bellmond

Age: 約一万age(Vampire化当時18age)

Title: Ternecia’s Foolish Dog】(解除!) 【Loyal Dog of the Eclipse Emperor】(NEW!)

Rank: 12

Race: Vampire Duke (Abyssal Vampire Duke Jungle Monkey-species Beast race)

Level:

Job: Kunoichi Master

Job Level:

Job History: Apprentice HunterApprentice ThiefThiefAssassinServantThread-userString MasterTailed Beast WarriorMageExecutionerKunoichi



Passive skills

Dark Vision

Mysterious Strength:8Lv(UP!)

Rapid Regeneration:8Lv(UP!)

Abnormal Condition Resistance:8Lv(UP!)

Super Self-enhancement: Subordination:1Lv(Self-enhancement: Subordination awakened into)

Super Mana Recovery: Damage:2Lv(UP!)

Detect Presence:9Lv(UP!)

Intuition:5Lv(UP!)

Mental Corruption:7Lv

Enhanced Body Part (Tail):6Lv(UP!)

String weapon equipped, then Attack Power Enhanced (1) : Large(NEW!)

Mana Enlargement:1Lv(NEW!)

Self-Enhancement: Guidance:5Lv(NEW!)


Active skills

Bloodwork:4Lv(UP!)

Archery:2Lv(UP!)

Throwing Technique:3Lv(UP!)

Dagger Technique:9Lv

Wind-Attribute Magic:4Lv(UP!)

No-Attribute Magic:2Lv(UP!)

Mana Control:4Lv(UP!)

High-Speed Flight:3Lv(UP!)

Silent Steps:9Lv(UP!)

Trap:7Lv(UP!)

Dismantling:4Lv(UP!)

-Transcend Limits-:3Lv(UP!)

Housework:10Lv

Thread-reeling:10Lv(UP!)

Unarmed Fighting Technique:6Lv(UP!)

Assassination Technique:4Lv(NEW!)

Magic Fighting Technique:4Lv(NEW!)


Unique skill

Offering

Petrifying Magic Eye:5Lv(UP!)

ヴ■■■■■'s Divine Protection(NEW!)




race解説:Vampire Duke Luciliano


 歴史上、数体しか発見されていないほぼlegendの中の存在……のはずなのだが、師Artisanpupilsをしていると高い頻度でlegendを目にする事が出来る。

 各guildの資料では神に匹敵する、強大な力を持つNoble-born Vampireである事以外記されていないだろうが、Talosheimでは観察し放題である。


 切断糸の技術は【String weapon equipped, then Attack Power Enhanced (1) : Large】のPassive skillsによって常時Attack Powerincreaseし、更に不意打ちでは【Assassination Technique】の補正もかかる。そこに師Artisanが肉眼に見えにくくOrichalcumに匹敵する強度と粘りを持つ【Demon King's Fur】製の糸を渡したのだから、彼女の標的にとっては始末が悪い

 Bellmondの姿を既に見据えていても、糸で不意打ちを受けて五体を切断される可能性があるのだから。


 【Self-enhancement: Subordination】がSuperior SkillAwakeningしている点も驚きである。今まで【Self Enhanced (1)】のSuperior Skillである【Self Super Enhanced (1)skillAwakeningした例は、幾つもある。だがその多くは使命やKnight道、救済や聖務等で、SubordinateSuperior SkillAwakeningした例は聞いた事が無い。

 ……だからどうしたとは、敢えて言わないでおこう。


 因みにやはり最近blessingsを得たらしいが、例によってblessingsを与えた存在の名称が分からないようだ。

「もしかしたら……いえ、そんな。頭文字が同じだからと言ってそう判断するのは早計……自意識過剰というものです」

 そう本人は述べており、その頭文字も私には教えてくれなかった。


 まあ、大体察せる訳だが。


 因みに、現時点でpupilsである私にはまだ謎の存在's Divine Protectionは無い。




Name: Salire

Rank: 10

Race: livingジェノサイドMaid Armor

Level: 89


Passive skills

Special Five Senses

Physical Ability Enhancement:10Lv(UP!)

Water-Attribute Resistance:10Lv(UP!)

Physical Attack Resistance:10Lv(UP!)

Self-Enhancement: Subordinate:9Lv(UP!)

Self-Reinforcement: Murder:9Lv(UP!)

Murder Healing:8Lv(UP!)

Strengthened Attribute Values: Creator:5Lv(NEW!)

Strengthened Physical Ability: Spirit Form:4Lv(NEW!)

Self-Enhancement: Guidance:4Lv(NEW!)


Active skills

Housework:6Lv(UP!)

Halberd Technique:10Lv(UP!)

Coordination:8Lv(UP!)

Archery:7Lv(UP!)

Spirit Form:10Lv(UP!)

Long-distance Control:10Lv(UP!)

Armor Technique:9Lv(UP!)

Aura of Fear:7Lv(UP!)

No-Attribute Magic:3Lv(UP!)

Mana Control:4Lv(UP!)

Water-Attribute Magic:4Lv(UP!)

-Surpass Limits-:2Lv(NEW!)


Unique skill

■■■■ル■'s Divine Protection(NEW!)




Name: Rita

Rank: 10

Race: livingジェノサイドMaid Armor

Level: 92


Passive skills

Special Five Senses

Physical Ability Enhancement:10Lv(UP!)

Fire-Atribute Resistance:10Lv(UP!)

Physical Attack Resistance:10Lv(UP!)

Self-Enhancement: Subordinate:10Lv(UP!)

Self-Reinforcement: Murder:8Lv(UP!)

Murder Healing:9Lv(UP!)

Strengthened Attribute Values: Creator:5Lv(NEW!)

Strengthened Physical Ability: Spirit Form:4Lv(NEW!)

Self-Enhancement: Guidance:4Lv(NEW!)


Active skills

Housework:4Lv

Naginata Technique:10Lv(UP!)

Coordination:9Lv(UP!)

Archery:7Lv(UP!)

Throwing Technique:10Lv(UP!)

Spirit Form:10Lv(UP!)

Long-distance Control:9Lv(UP!)

Armor Technique:10Lv(UP!)

Aura of Fear:6Lv(UP!)

No-Attribute Magic:2Lv(UP!)

Mana Control:2Lv(UP!)

Fire-Attribute Magic:5Lv(UP!)

-Surpass Limits-:2Lv(NEW!)


Unique skill

■■■■ル■'s Divine Protection(NEW!)




Monster explanation:livingジェノサイドMaid Armor Luciliano


 もう態々記す必要も無いかもしれないが、Lambda史上初のmonstersである。

 本当に元はただのMaidだったのかと思う程、見事な武術の技量を獲得しAClass adventurerでも一人では相手に出来ない程の戦闘力を手に入れている。


 二人共【Physical Attack Resistanceskillが、そしてそれぞれWater-AttributeFire-Attributeresistance skilllevelが10に到達し、鎧としてもArtifact ClassDefense Powerを誇っている。……appearanceからは、とても見えないだろうが。

 新たに【Strengthened Physical Ability: Spirit Form】と言うskillを獲得したため、本来Muscular Strengthなどの補助でしかないSpirit Form部分だけでも侮れない。しかしSpirit Formbody partに含まれるのだろうか?

 まあ、skillになっているのだから含まれるのだろう。


 因みに、magicの腕ではImoutoRitaの方が上だがMaidの本分であるはずのHouseworkではSalireの方が上である。というか、Ritamagicの修行に力を入れ過ぎたようだ。


 そしてやはり最近恐らく同じ存在からblessingsを得たらしい。そしてやはり一部しか読み取れないそうだ。

 そろそろ師Artisanに直接聞いても良い頃のような気がする。


<- Previous | TOC | Next ->
Special thanks to MBA and the Users from the LBN #spoilers Discord. Without them this would not be possible.