「ウォォォォォ！ 豚頭のcoward者共！ 我の前に出る勇気も無いのか！」
鬣を振り乱し、fangsを剥いてVigaroが咆哮を上げ罵声を飛ばす。その意味を理解している訳ではないだろうが、彼の前に立ちはだかるOrcやGoblin達が、怯えるように後ずさった。
この戦いでもVigaroの役目は、陽動だ。
パッと見てGhoulの中でも上位だと分かるVigaroがmagic使いの女も含めた十人のWarriorを引きつれて、派手に暴れながら目についた敵を倒していく。その間にBasdiaを含めた別働隊が囚われている女達を助けるtacticsなのだ。
Human相手にならすぐに陽動だとばれる、単純なtacticsだ。しかし、monsters相手ならこの程度で通用する。
monstersは共通して攻撃性が高い。自分達の領域で同族を殺しまくっているVigaro達に、どうしても意識が向いてしまう。特にOrcは頭にbloodが上りやすいraceで、しかも Generalなどの士官格のOrcが現れてもVigaroがすぐに倒してしまい、他のOrcを纏めるどころではない。
Orc Tamerという珍しいOrcがWood WolfやHuge Boar、GIANT Python等のmonstersを嗾けて来たが、それも容易く撃破した。Vandalieuが連れているUndeadとは、比べ物にならない弱さだった。
(我と同格の筈のOrc General相手に、全く苦戦しない。我が強くなったというより、Vandalieuのお蔭だな)
【Strengthen Follower】skillの効果に加え、与えられたmagic itemのBattle Axe。更に施された数々の援護magicも、VandalieuがMana Transferでmagic使い達のManaを回復したから今も効果が持続している。
そしてVigaro達と相性の悪い Orc MageやGoblin Mageが出て来た時は、その度に何処からともなくVandalieuの放った黒い霧が飛んできてMageを包み、magicを封じていく。
そのため、彼らは重傷者を出すどころか軽傷の一つも負わずに快勝を続けられていた。
あんなchildに頼り切って情けないという気持ちが無いわけではないが、originally Ghoulの社会は極端な実力主義だ。優れた者が上に立つのが当然。
そしてVigaroもVandalieuが自分よりも優れていると認めていた。
純粋なMuscular Strength、body part Abilityなら間違いなくVigaro。戦いの技術でもVigaro。だが、magicとManaでは圧倒的にVandalieu。そして何より上位者が持つべき【Strengthen Follower】skill。
上に立つべき条件を全て満たしているのだから、Vandalieuが上に立つべきだ。
(我はGhoul百人の長の器、Vandalieuは我の上に在る器)
そうVigaroは納得していた。だが、やはり自分を情けないと思う気持ちがあるのも事実だ。今のままでは、Vandalieuの下に在る者として、いや、familyとして情けないのではないかと。
「ブガアアアアアアア！」
だからOrc Generalを超える迫力の怒号を耳にした時、Vigaroは口の両端を釣り上げた。
現れたのは、二meterを超えるVigaroが小柄に見える程Giantな、鮮やかな金髪以外醜悪さとarroganceさで出来ているかのような、若いNoble Orc。
三meterの高さに在る怒りに満ちていた瞳が、Vigaroの姿を捉えた途端嘲りに緩んだ。
目の前で群れている身の程知らずのチビ共を、使えない配下共に代わって蹴散らしてやろう。
そう思っているのは明らかだ。
「Noble Orcっ！」
「Vigaro、どうする！？」
Orc GeneralのようなVigaroと同格の相手ではなく、明らかに格上のNoble Orcの迫力に、Ghoulの精鋭達も動揺を隠しきれなかった。
Rank５のGhoul BarbarianのVigaro、Rank６のNoble Orc。数字が１違うだけでも、その差は大きい。お互いコンディションに問題無いconditionで正面からの戦いに臨んだ場合、余程相性が悪くなければまずRankが高い方が勝つのがmonsters同士の戦いだ。
どんなに経験と技術を磨いても、狐が虎に正面から戦いを挑んで勝てるはずがない。Vigaro自身、以前戦ったら自分が負けるに決まっていると口にした事がある。
「どうするって？ ……戦う！！」
だが今は負ける気がしない！
「グオウ」と獅子そのものの咆哮を上げて、VigaroはNoble Orcとの間合いを詰める。Noble OrcはVigaroを見下したまま、彼がVandalieuから受け取った斧よりも二回りは大きい斧を横薙ぎに振るう。
当たれば首が飛ぶその一撃を、Vigaroは地面に這うようにして避けた。鬣が少々持って行かれたのに怒りを覚えるが、それを燃やすより先に手足を三本使って横に飛ぶ。
「ブギイ！」
ドンっと音を立てて、上を通り過ぎたはずの斧が降って来るからだ。
本来斧はbalanceが悪く、一度振ったら再び準備態勢を整えるのに時間がかかる。瞬時に整える事等不可能。しかし Noble Orcはそれを有り余るMuscular Strengthで可能にしていた。
「ブオオオオオ！」
技術ではなくMuscular Strengthを拠り所にした斧の連続攻撃。それは一見隙だらけだが、その隙を突こうと回避から手を抜けばVigaroはたちまちボロ雑巾にされてしまうだろう。
だがそれをVigaroは身軽に回避し続けた。
片手で斧を持ったまま、もう片方の腕まで使って地面を掴み、蹴り、Noble Orcの攻撃を回避し続ける。
Noble Orcの攻撃は一撃に込められた破壊力が凄まじく、Muscular Strengthから生まれるSpeedも速い。しかしその動きはいちいち派手で、しかも直線的。
Vigaroからすれば、「今からこうやって攻撃するからな」と説明してから斧を振っているように見えた。
「ガアアア！」
「ブヒヒィ！」
「ワウゥゥゥ！」
VigaroとNoble Orc、双方が引きつれていたWarrior達が戦っている。
VigaroはGhoulの戦闘言語によって戦況を把握していたが、Noble Orcは眼の前のGhoulを相手にする事で頭がいっぱいになっていた。
何故こいつに攻撃が当たらない！？
偉大な父の息子の一人、最も力に優れたこのBugiburioが！ 何故Ghoul如きに攻撃を当てられない！？
Ghoul等我々Noble Orcにとって雄はザコ、雌はただの肉壺に過ぎない！ だというのに、配下やSlave共の前で何故こんな恥をかかなければならん！
「ブガアアアアアアアアアアアアア！」
怒りと苛立ちに任せて、Noble OrcはMartial Arts【Bisection】を放った。２levelのMartial ArtsだがHumanが使っても木を一撃でSlash倒すAttack Powerがあり、Noble Orcが使えば岩をも砕く。
しかし、Attack Powerが上がる分動きがより大きくなり、攻撃後の隙は更に大きい。
Vigaroはそれを避けると、遂に掴んだ反撃のchanceを大いに生かした。
「【Axe Whip】！」
ぐにゃりと、Vigaroの長い腕が鞭のように撓った。
「ブオ！？」
咄嗟にのけ反って避けようとしたNoble Orcだったが、Vigaroの長い腕は再び撓り斧がRight Armを深くSlash裂く。
「ガアアアアア！」
更にVigaroは右手をBattle Axeの柄から離した。そしてmidairに放り出されたBattle Axeを、左手で掴む、
そして再びMartial ArtsをActivate。
「ブッ、ブヒイィーッ！」
首を狙ってくる斧を、Noble Orcは自分の斧で跳ね上げるようにして弾く。しかし、弾かれたVigaroの腕が翻り、Noble Orcが意識していなかった右足を切断する。
堪らず横倒しに倒れ込むNoble Orcの首に、今度こそVigaroの斧が深々と食い込み、そのまま切断した。
腕の柔軟性を高め鞭のように振るう【Axe Whip】と、そのまま連続で攻撃する【Triple Axe Whip】。腕が脚より長いGhoulの男にのみ伝わるMartial Artsだ。
「ウオォォォォォォォ！ 次は誰だ！」
screechを上げた時の顔のまま転がっているNoble Orcの首を踏みつけ、勝鬨を上げるVigaroの恐ろしい姿と吠え声にOrc達の士気はDecayし、我先にと逃げ出すが……足の遅いOrcが逃げ切れるはずもない。
その頃にはあらかた倒されていたGoblinやKobold同-samaに、masterの後を追う事になった。
「グルルル、どうだ、Vandalieu。お前のfamilyは強いぞ！！」
自分達をfamilyと呼び、関わらなくていい戦いに関わって、それどころかKingを名乗り、今も一番働いているchildに誇れる戦果を上げずして何が若長か、何がWarriorか。
バシャバシャと降り注ぐbloodの雨を浴びるVigaroは、誇りを込めて咆哮を上げた。
Bugoganの第三子、Budibisは己の美貌と弓の腕に絶対の自信があった。
他のbrothersたちのように接近戦は得意ではなかったが、真に高貴な者は下賤な獲物とぶつかり合って返りbloodを浴びるような無-samaを晒さず、遠くから優雅に射殺すものだと考えていた。
「ブゴッ、ブヒヒイーッ！？」
雌Ghoulに率いられた集団が居ると報告を受けた時も、Budibisは自分に相応しい獲物だとしか考えなかった。
その集団には雌Ghoulが多いそうだから、捕えて自分が気に入った雌以外で見目が良い物は父に献上し、それ以外は配下共に下げ渡せば他のbrothers達よりも優位に立てる、その程度の認識だった。
「ブヒィィィィ！ ブギャアアアアアアア！」
油断したつもりは無かった。自分の代わりに前衛を務める栄誉を与えるOrc Knightを五匹、Orcを十匹、そして雑兵のGoblinを三十匹引き連れて行った。
最初は上手くいっていた。Zadirisの護衛のWarrior達だけではBudibisの配下を止めきれず、BudibisのfullプレートArmorを纏ったadventurerのbody partも貫通する矢も、Ghoul達をCommandingしている雌Ghoulが風のmagicで何とか凌いでいるconditionだった。
このまま五分も経てば雌Ghoul達のManaが切れ、押し切れる。Budibisは勝利を確信した。
そして五分がとっくに過ぎたが、雌Ghoul達のManaは一向に切れる-sama子がない。
「グオオオオオオオオオ！」
「ゲエェェェェェ！」
それどころか側面からUndeadの一団が襲い掛かって来た。Rotten Beastの毒のBreathに、Phantom Birdの霊翼の射撃が降り注ぎ、Budibisとその配下達に動揺が走る。
その隙に雌Ghoul達が盛り返し、更にBudibis達は動揺し、そこにRotten Beast達が雪崩込んできた。
とっくにManaが尽きているはずの雌Ghoulは、今もBudibisに向かってmagicを放ち、雌Ghoul達を押し切っているはずの配下は逆に押し切られbloodだらけで痙攣している。
「ブヒィィィィィ！ Bugiburio！ Bubobio！ ブオオオ！」
美しいと自惚れていた顔を歪ませ、内心見下していたbrothers達と侮っていた父親に助けを求めるBudibis。だが、彼に与えられるのは助けに駆け付けた肉親の手ではなく、死神の手だ。
「ええいっ、喧しい！ 【Great Wind Blade】！」
Zadirisがmagicで作りだした大剣に等しいGiantな風の刃が、見苦しく逃げようとしていたBudibisを上下に断ち切る。
lower bodyは上半身を置いたまま数歩進んだが、力尽きて内臓を零しながら遂に倒れた。
「ふぅ……思いの外大したことはなかったが、耳にthrust刺さるような声で鳴く喧しい奴じゃった。
坊や、もう大丈夫じゃよ」
Zadirisが息をつくと、するりと彼女の肩に貼り付いていた半透明の細い紐のような物が離れる。彼女にManaを譲渡していた、VandalieuのSpirit Formだ。
どうやらBone Bird達にくっつけて運ばせていたらしい。
それを見送らず、Zadirisは杖を高く掲げた。
「皆よ！ 敵は残り僅かじゃ！ だが抜かるでないぞ！」
時間を僅かに巻き戻して……。
Basdiaを含めたGhoulのWarrior達の一団は、Ghoulの女達を捕えていた建物の占領を手早く終えていた。
ここにも見張りのOrcは居たが、それは捕えた女達が逃げないようにというよりもOrc達が女達に無茶をしないか見張っているのが主な仕事だったので、同族殺しにdevelopmentしないよう大した武装はしていなかった。
そして子孫繁栄に励みに来ていたOrcの武装は更に貧弱で、素裸同然だった。
外壁のWood Golem Transformationで集落が大混乱に陥って、建物からほとんどのOrcが逃げ出そうとして、逆に普段enduranceさせられていたのかGoblinや地位の低いOrcが中に入ろうとして大渋滞を引き起こしている時にBasdia達が突入したので、戦いらしい戦いにdevelopmentする前に決着が付いた。
建物の中は酷い有-samaだった。Orc MageかNoble Orcのmagicなのだろう、【Mysterious Strength】skillを持つ女Ghoulを捕えるために、彼女達のbody partは岩に半ば埋められ身動きが取れないようにされ、更に嬲られたのか鞭の傷跡が幾つも付いていた。
そうされていない女もいたが彼女達は手足を故意に折られるなど、酷さは変わらなかった。
Humanに比べてずっと優れたGhoulのVitalityなら、酷い扱いをされてもOrcの仔を産む装置として問題無く機能する。だからこその待遇なのだろう。
同じ建物に居たHumanの女……恐らくadventurerはもっとマシな-sama子だったので、その予想はきっと正しい。尤も、彼女達の現状を見ると、とても口にできるconjectureではないが。
Ghoulの女達の大部分はoriginally monstersに近い価値観をしているためか、心に深い傷を負っていても廃人にまではなっていない。
「この女達はどうするか……」
しかし Humanの女達はすっかり壊れているように見えた。光の無い瞳で、死体のようにぐったりとしている。
その姿には本来は敵同士とは言え、同じ女として同情せずにいられない。
何とかしてやりたいが……。
「グルルルルル！」
仲間が発した戦闘言語を聞いて、Basdiaは思考を切り替えた。
その意味は、『強敵が近づいている』だった。
「ブオオオオオオ！」
建物の表に出たBasdiaが見たのは、fangsを剥いて怒りを露わにしているNoble Orcと、その周囲を守る盾を構えたOrc Knightだった。
「グルルルルルルーッ！」
仲間が躊躇わず救援を呼ぶ。この場にいるWarrior達はBasdiaも含めて突出した戦闘Abilityの持ち主は居ない。Orc Knightだけなら十分に勝てるが、Noble Orcの相手は厳しい。
援護magicと武装の差を考慮しても、Rank３から４の集団がRank６のNoble Orcが率いるRank４のOrc Knight十匹に勝てるはずがないのだ。
寧ろ、普通なら一方的に蹂躙される。
「ここの長はまさかそんな戦力を、ここに女を取り戻すために寄越したのか？ 普通なら、Vigaro達の所に行くと思うが」
傲然と自分達を見下すNoble Orcの姿に思わずそう漏らすBasdia。実際、ここに彼女達が留まっているのはNoble Orcやその配下が妙な悪wisdomを働かせて、捕えた女Ghoul達を人質にしないように守るためだった。
逆に言えば、それ以上のものはここには無いのだ。
ここに居るBasdia達を倒しても、VigaroやZadiris、Vandalieuの部隊が自由に動いている内はNoble Orc側にとって戦況が良くなる訳ではない。
女達を奪い返したからと言って、多少士気は上がるだろうが戦力が増える訳でもない。
だからBasdia達は放置して、VigaroやZadirisに纏めて戦力をぶつけるのが常道だろう。certainly、常道を知らないのがmonstersだが、少なくともNoble Orc程の知性があればその通りに行動するだろうと誰もが想像していた。
「ブフッ、ブフフフ」
しかし Basdia達を見下す若いNoble Orc……Bubobioは彼女達の想像を下回るNoble Orcだった。
配下共やSlaveだけでは戦況を好転させる事は出来ないという認識はあったが、逆に言えば自分が出撃すれば勝てると根拠無く確信していた。
それは彼のbrothers達も同じで、我先にと出撃し手柄を手に入れるためにそれぞれ配下を引き連れてバラバラに行動した。助け合おうなんてfragmentも考えず、頭に在るのは自分以外のbrothersを蹴落とし父に取り入る事。
「グブブブ」
そのためにBubobioが選んだのは、女の確保だった。Noble OrcやOrcには女が存在しない、単性race。種の維持には、どうしても他raceの女が必要だ。
だからこの集落のために女を取り返せば、大きく評価されるはずだ。
そうBubobioは考えていた。戦いに勝つためではなく、自分が最小の労力で最大の手柄を手に入れる事しか頭に無い故の行動だった。
常道から外れるのも当然である。
「ブオオオオオオ！」
自慢の大剣の切っ先でBasdia達を指すと、Orc Knight達が盾を構えたまま重心を低くして身構える。
「グル(突っ込んでくるぞ)！」
「ガルル(時間を稼げ)！」
何とか救援が来るまで持ち堪えなければ。そう覚悟を決めるバスティア達に向かって、Orc Knight十匹が同時に【Shield Bash】をActivateして突っ込んで……行こうとした瞬間地面が動き出した。
『ウオオオオオオオンッ！』
何と数十体のEARTH Golemと化した地面が、Orc Knightの前に立ちはだかったのだ。
だが脆い土人形如きで体重百キログラムを超えるOrc Knightの【Shield Bash】を止められるはずが無い。一瞬で砕け散るはずだが……。
「ブギャアアアアア！？」
Orc Knight達はEARTH Golemに激突する前に、地面に開いた穴に足を引っかけて転倒した。
EARTH Golemは地面の土から作られたので、当然地面にはEARTH Golemの体積分の穴が空く。
そして転倒したOrc Knight達の上に、起き上がったばかりのEARTH Golem達が倒れ込み、生き埋めにしていく。
「…………」
「…………」
予想を超える展開に、思わず無言のまま硬直するBasdia達とBubobio。
「思った以上に効果的でしたね、Golem式即席落とし穴」
『おお、なんと恐ろしい技。流石はBocchan』
『しかも埋葬まで済ませちゃいましたね。後で掘り起こすんでしょうけど』
ガラガラと車輪が回る音を立てて、Samに乗ったVandalieuが姿を現した。
「ヴぁ、Van？」
「はい俺です。あ、まだNoble Orcは残っているので、油断なく行きましょう」
「そ、そうだな」
「それにまだ敵の頭も健在なので、さくっと倒してください」
「それもそうだ……ちょっと待ってくれ、私が倒すのか！？」
「はい、Experience Point的な意味で」
驚き慌てるBasdiaに、当然という態度でBubobioを倒す事をdemandするVandalieu。
「大丈夫です、援護しますから」
「いや、援護があっても私がNoble Orcを倒すのは無理だと思うぞ！？」
「無理だと思うから無理なんだと、Mental論を振りかざす成果至上主義のクソDoctorも言ってました」
「それはその言葉に倣って良いのか！？」
「でも、本当に脳味噌立ち腐れのバカDoctorだったんですよ」
実験動物扱いするなら、実験の結果が伴わない場合責任を負うのは自分だろうに、お前にはSpiritが足りないだのなんだの……ネチネチ厭味ったらしい奴だった。あのDoctorについて好感が持てたのは、殺した時の断末魔のscreechを聞いた時ぐらいだ。
確かあいつも金髪だったなと、Bubobioを眺めながらVandalieuは思い出した。
「大丈夫ですよ、俺が援護すればBasdiaは死なない。そろそろ来ますよ」
「っ！」
はっとして、Basdiaは斧を構えた。その視線の先では、怒りで小刻みに震えているBubobioの姿があった。
「ブゴオオオオオォ！」
自分を無視して話に興じている二人に怒りを滾らせたBubobioが、雄叫びを上げながら大剣を振り上げる。すると、Orc Knight達が埋まっている地面がモコモコと蠢き出していた。
流石にOrcを即死させる事が出来るほど深い穴は掘れなかったので、その内出て来るだろうと思っていたのかVandalieuは冷静だった。
「Rita、Salire、後皆も埋まってるのに止めを。Basdiaは俺とNoble Orcを倒しましょう」
「くっ、分かった！」
本当に大丈夫なのだろうかと思いながらも、前に出るBasdia。
彼女の背後で、やっとの思いで地面から這い出た途端GlaiveやHalberd、clawsに抉られて命を落とすOrc Knightのscreechが響く。
「ブオオオオオ！」
まるで壁が迫ってくるような迫力で、BubobioがBasdiaに向かって突進。そして大剣を目にも止まらぬ速さで彼女の頭目掛けて振り下ろす。
『右に回避』
Basdiaはその目にも止まらぬ致死の一撃を、Intuitionに従って避けていた。
「ブッ、ブオオオ！」
必殺の一撃を躱されれた事が気に喰わなかったのか、Bubobioは振り下ろした大剣を強引に引き戻し、thrustを放った。
『左に半歩』
そしてそのthrustも、Basdiaは気が付くと回避していた。
「ブッ……ブオ！ ブオ！ ブオオ！ ブゴゴオオ！」
二回続けて回避された事に焦ったのか、Bubobioは続けざまに攻撃を繰り出した。
横薙ぎの【Single Flash】、斜め上からの【Flowing Cut】、頭、胴体、腹を狙っての【Triple Thrust】、首、腹、脚狙いの【Triple Thrust】。
どれもこれも当たれば、いくら鍛え上げられたBodyの上に優れたDefense Equipmentを着ていても致命傷を負うだろう凶悪なMartial Artsの攻撃。
そのどれもBasdiaは回避していた。
一体何故！？ 何故この雌Ghoulはこんなにも速く動く！？ 無敵の筈の俺の剣が何故通じない！
Bubobioの顔には、怒りを通り越してBasdiaに対するhorrorすら浮かんでいた。
(何で、私は避ける事が出来るんだ！？)
そしてBasdiaも驚いていた。確かに、こうして戦ってみて分かったがBubobioの技量自体はそう高くない。自分と同じ程度だ。
しかし、それでも基になるbody part Abilityが違い過ぎる。一回や二回は運が良ければ回避できるだろうが、こう続けざまに攻撃されては、切り刻まれてバラバラになって転がっているはずだ。
しかし、Basdiaには何故か死なないためにはどうすればいいのかが分かった。
右に動かなければならないと感じて、咄嗟にその通りにしたらさっきまで自分が居た所に剣が振り下ろされた。
半歩後ろに下がらなければならないと感じ、その通りにした自分の前を切っ先が通り過ぎて行った。
まるで未来が見えているかのように、死なないためにはどうすればいいのかが分かる。【Future Sight】のskillでも取得したかのようだ。
(そうか、これがVanの援護か！)
目が覚めるほどひんやりとした、柔らかい手が自分を支えている。死なない方法を教えてくれているのは、その手だった。
【Spirit Form Transformation】したVandalieuの腕が、Basdiaの背と一体化していた。その腕を通して、Vandalieuは常にActivateしている【Danger Sense: Death】をBasdiaに対して使用していた。
【Danger Sense: Death】は死ぬ危険を感知する術であるため、一撃で致死の傷を与えるBubobioの攻撃を感知出来ないはずがない。
これが一撃のDamageは軽いが手数で押すKoboldの剣なら、若しくはBubobioが冷静さと余裕を失わずにフェイント等を織り交ぜていれば、【Danger Sense: Death】に感知されないため、ここまで一方的にはならなかったかもしれない。
しかし頭にbloodが上り、焦り、horrorしてBubobioは冷静さと余裕を失い、一撃必殺の攻撃を繰り返している。
そもそもBubobio、ブビディス、BugiburioのbrothersはNoble Orcというrace全体の括りの中ではあまりに弱かった。
それは生まれつきの不出来というよりも、産まれた後の環境とBugoganの教育policyの失敗に原因があった。
このDevil NestsにBugoganが落ち延びてから生まれた彼らは、産まれた瞬間から自分にかしずく下位raceのOrcとGoblinやKobold等のSlaveしか周りにいなかった。
大抵の事は生まれつき恵まれたbody part Abilityでどうにかなり、敵は技を高めなくてもWeapon Equipmentを振り回せば倒せる格下ばかり。
当然研鑽を怠り、格下ばかり相手にするのでlevelも上がらず、武術系skillは３止まり。習得が難しく時間がかかるmagicなんて覚えようともしない。
競い合うべきライバルも自分と同じ程度のbrothersなので、切磋琢磨するより楽な手柄の取り合いに流れてしまう。
もしここが他にも大勢Noble Orcやそれに匹敵するmonstersが存在するContinent南の大Devil Nestsのような過酷な環境なら、Bubobio達も生き残るために怠ける暇など無かっただろう。
もしBugoganが「子は見ていなくても勝手に育つ子が優れており、自分が手をかけて育てなければならない子は劣等である」というNoble Orcの価値観を捨て、自ら息子達を鍛えていたら武術もmagicも高い技量を持てたかもしれない。
だが実際に出来上がったのは格下の相手に容易く勝利を得てきた、バカ息子が三匹。
それでもこれまでは問題無かった。実際、相手が格下ばかりなのだから。
しかし Basdia達GhoulはOrc等よりずっと勤勉に研鑽を積み、技量を磨いていた。
そこにVandalieuとTareaから、adventurer以上の武装を提供された。
そしてmagicでの援護に【Strengthen Follower】の効果まで加われば、Rank１分の差ぐらいは埋まるどころか追い抜いてしまう。
それでも本来ならBasdiaがBubobioに無傷で勝つ事は難しかっただろう。だが、Vandalieuの援護で彼女が死ぬ事は無い。
一対一の殺し合いで片方が死なないとなれば、もう勝敗は明らかだ。
「ブヒッ、ブヒーッ」
息を切らすBubobioの動きは目に見えて鈍くなり、【Martial Arts】も出さなくなった。【Martial Arts】は使う度にManaを消費するのだが、この場合はManaとEndurance双方が尽きたのだろう。
「【Bisection】！」
「ブギィィィィィ！」
そして、攻めに転じたBasdiaの斧を受けてBubobioの腕が切断された。
そのまま容赦無く、お返しのようにMartial Artsを連続して放つ。【Strong Flash】、【Instant Response】、【Single Flash】。
堪らず逃げ出そうと身を翻したBubobioの後頭部に、Throwing TechniqueのMartial Arts【Pierce】が乗ったBasdiaの斧がthrust刺さり、そのまま前のめりに倒れ伏した。
「倒した……倒したぞ、Van！ Noble Orcを私達で倒したぞ！」
強敵を倒した事と大量のExperience Pointを獲得した事で、高揚しているのだろう。駆け寄ってきたBasdiaにSamのcarriageから掴み上げられ、振り回されるVandalieu。
「倒しました、倒しましたから降ろして」
Basdiaに喜ばれるのは嬉しいが、視界が激しく上下左右に乱舞するのはあまり心地良くない。他のGhoul達も歓声を上げるのに夢中で止めてくれないし。
だが、狙い通り-chanとExperience PointがBasdiaに入ったのは幸いだった。
VandalieuはCurseのせいでExperience Pointを自力で手に入れられず、手に入れても既に１００levelであるため無駄になる。ならExperience Pointが有効利用できるBasdiaが倒す形にしたかった。
「それに後こいつらの父親がの――」
「ブゴアアアアアアアアアアアアアア！」
Vandalieuの言葉を遮るようにして、集落の中で最も大きい家から怒号が迸った。同時に家の壁が内側から砕け散ったが、その破壊音さえ怒号が塗りつぶしてしまった。
現れたのは、三meterを優に超えるGiantなNoble Orc。刀身が二meter程もあるGiantなMagic Swordを持ち、豪奢な鎧を纏っている。
その姿は、Vandalieu達からも見る事が出来た。
あまりの迫力に言葉を失い、さっきまでの高揚も消えて戦いている。だがそれも無理も無い、相手は本物のNoble Orc。Dragonに匹敵するmonstersだ。
その隙にBasdiaの手からするりと抜け出たVandalieuは、激怒しているNoble Orc、Bugoganの脅威を【Danger Sense: Death】を使用して分析していた。
どうすれば勝てるかを。
このままBasdiaと協力して戦った場合……何をしても、しなくてもBasdiaは死ぬ。
Zadiris達を待って、magic中心で戦った場合……何をしても、しなくてもZadirisを含めた複数のrearguardと、前衛のGhoulが死ぬ。
Vigaroを中心に戦術を練った場合……何をしても、しなくても、運が良くても悪くてもVigaroが死ぬ。
Zadiris、Vigaro、Basdiaをmainにして、更に自分とSam達全員の力を合わせた場合……勝てると思う。だが、どんなに運が良くても何人かは死にそうだ。
Vandalieuが単独でBugoganに挑み、皆が援護に回る場合……半分以上の確率で自分は死ぬが、自分以外は一割以下の確率でしか死なない。
「じゃあ、援護よろしくお願いします」
え？ 誰かがそう驚く前にVandalieuはNo-Attribute Magicの【Flight】でふわりとmidairに浮かぶと、弾丸のような速さでBugoganに向かって行った。