Majin nationから離れた荒野、Rank5のmonstersが徘徊し並のadventurerなら一時間とかからずに殺される危険地帯に、二人の姿は在った。
『ガアアアアア!』
「ウオオオオオオオォ!」
『Sword King』Borkusが黒い大剣を振り上げ、四本腕のGhoul、Vigaroが獅子の咆哮を上げて斧を横薙ぎに振るう。
互いのWeapon Equipmentがぶつかり合う度に大気が揺れ、一撃の余波だけで周囲の岩が冗談のように揺れる。本来なら凶暴なmonsters達も、二人を恐れて鼠のように逃げ出していた。
『腕を上げたじゃねぇか、Vigaro! 俺程じゃぁ無いがな!』
互いにKilling Intentは無い。だがそれ以外は気迫も装備も実戦と同じ勝負を望んだVigaroのdemandを受け入れたBorkusが、Provocationの混じった賞賛を贈る。
「グルゥ……確かに、まだ我の腕はお前ほどじゃないようだ」
眉間に皺を寄せて唸るVigaroの戦闘技術は、明らかに上がっていた。初めて出会った時、BorkusにとってVigaroの実力は、余程不意を突かれない限り負けない格下でしかなかった。それこそ隻腕で得物が柄だけの剣だった頃の彼でも、確実に倒せただろう。
だが、TalosheimでJobに就きメキメキと力を付けて行った。
(Ability Valuesも俺の方が上だが、それだけで勝負が付けられるほどの差は無ぇな。全く、Rank持ちのVida's New Racesは二倍の速さで強くなりやがる)
GhoulやVampireのようなRankを持つVida's New RacesがJobに就くと、Jobのlevelとmonstersとしてのlevelが同時に上がるために、Humanやmonstersよりも成長が速い。それをBorkusはVigaro達の成長によって知った。
……近くに常識の斜め上の方向に向かって成長するDhampirが居るので、普段はあまり目立たないが。
「だが、我はGuidanceを受けた! 夢に出てきた妙に細長いVandalieuから、助言を受けたのだ!」
『……何度も言うけどよ、それってただの悪夢なんじゃね~か?』
「正直我もそう思わなくもない。だが、夢のお蔭で体得したのだ!」
一瞬空気が緩んだが、すぐに緊張感が満ち張りつめていく。
『やっぱりSuperior SkillにAwakeningしてやがったか! 良いだろう、試してやるぜ!』
「おう、足りなかった物を得た我の力を見せてやる!」
それまで三本のBattle Axeと盾を持っていたVigaroは、そう叫ぶと盾を頭上に向かって真っすぐ放り投げた。
『あぁ?』
一瞬、勿体つけておいてやる事は防御を捨てて攻撃に専念するだけかと思ったBorkusだが、油断無く大剣を正眼に構える。
そして見た。Vigaroの背中から音も無く伸びた五本目の腕が、midairの盾を掴み取るのを。
『……はぁ!?』
「行くぞぉっ!」
『ちょっ!? 待て、今生えたのは何だよ!?』
動揺を露わに叫ぶBorkusに向かって、五本目の腕を生やしたVigaroが疾駆する。
人よりもずっと長く柔軟な三本の腕でそれぞれBattle Axeを操り、残りの腕は地面を掴みbody partを支える。
『チィ!』
動揺していてもBorkusはtimingと狙いをずらして振るわれる三本の斧を剣と体捌きで回避する。そしてお返しとばかりに剣でSlashかかった。
「ガア!」
しかし、Vigaroの背中から生えた腕が保持している盾がBorkusの剣を受け流す。その隙を突いて、再び三振りの斧と、足を狙ってthrustだされた肘の合計四撃が繰り出される。姿勢を低くしてGiant race ZombieであるBorkusにとって、苦手な位置からの攻撃を繰り出してくる。
『何で腕が一本増えたかはin any case、五本目の腕で盾を使ってDefense Powerを維持したまま、空いた腕を臨機応変に使う訳か。
だが甘めぇ!』
Borkusの強力な前蹴りがVigaroの腕の一本を弾く。そして他の二振りの斧を無視して直進して間合いを詰め、剣を振り降ろした。
「ギャォウ!?」
咄嗟に盾で受け止めようとしたVigaroだったが、五本目の腕はBorkusの剣のAttack Powerを止めきれず、そのまま上から叩き潰された。
「グゥ……まだ使いこなせないか。【Spirit Form】と【Materialization】を」
倒れたままそう唸るVigaro。彼の背中に生えた五本目の腕は、Bodyでは無くBodyからはみ出たSpirit Formだったのだ。
『そういや、ちぃと透けていたような気もしたな。しかし Undeadでもねえのに、よく覚えられたな。Guidanceにしても面妖だぜ』
「夢の中で細長いVandalieuが、食べるように言いながら自分の一部を千切って我に渡した。それを食ったら背中から生えて来てな、目覚めたらRank10のGhoul Astral TyrantにRank upしていて、skillもその時獲得した」
『……やっぱり悪夢だろ、その夢。それはin any case、Superior Skillの名は何だ? 俺の昔の知り合いは【斧王術】だったが、違うんだろ?』
脚に半ば喰いこんだままの斧を抜きながらBorkusは尋ねた。
Superior Skillの名称は、個人毎に異なる。最もポピュラーなのは「○王術」だが、skillの所有者の戦い方やpsychological要因によって他の名称になる事も多い。
「【Death Lion Axe Technique】だ。今はまだ我の不慣れとManaの少なさのせいで五本目の腕を長く維持できないが、すぐに追いついてやるぞ」
『おう、楽しみにしてるぜ』
そんな二人の男の熱いやり取りを、Basdiaは眺めていた。
「周囲のmonstersが邪魔をしないよう見張るために狩り出されたが……私はいらなかったんじゃないだろうか?
まあ、Jadalがkaa-sanを慰め終るまでの暇つぶしとしては、望外に良いものが見られたが」
Warriorである彼女は暑苦しい光景も嫌いでは無く、優れた使い手同士の戦いを見られた事に満足していた。
そして無茶をして足のboneが半ば断たれているBorkusの手当の為に、二人と合流したのだった。
因みに、彼女は夢を見るよりも前にRank9のGhoul Amazoness ChiefにRank upしていて、Rank10へのRank upはまだだった。
BorkusとVigaroが熱いやり取りをしているその頃、VandalieuはあるDungeonの中に居た。
『HELLの宮-dono』。
Majin nationに存在する九十九層からなる高難易度Dungeonである。宮-donoと言うだけあって何処かの建物の内部を思わせる内装であるが、中庭にmagmaの池があったり、建物が全て氷で出来ていたりと、環境的な過酷さもtop class。
出現するmonstersはデビルOctopusやDemon Ape等の、Demonっぽい特徴を持つだけの動物型のmonstersを除けば、全て穢れたManaが凝縮してMaterializationして動き出したDemon型のmonstersばかりだ。
Lesser Demon程度なら、高いbody part Abilityとそれなりのmagicに注意すれば十分倒せる。しかしこのDungeonで出現する最もweak Demon型のmonstersは、Rank7のGreater DemonやラーヴァDemon、フロストDemon等だ。
武術やmagicを使いこなす狡猾さに、厄介な特殊Abilityを幾つも持っているのが最たる特徴だ。【Chant Revocation】でActivateするmagicの数々、特殊な毒、聞いた者のMentalを苛む咆哮、高い再生Abilityに、短時間の透明化等-sama々だ。
しかも奥に進むとRank9のDemon General、Rank10のArk Demonの群を統率するRank11のDemon Lord等の強敵が出現する。
更に、monstersから採れる素材は貴重で金銭的な価値が高い物が多いのだが、殆ど食用に適さない。そのため、Dungeonの攻略を目的とする者は食料を持ちこまなければならない。
そんなDungeonであるため、race全体が高い戦闘Abilityを誇りDemon型のmonstersをTamer出来るJobに就く事が出来るMajin Raceでも、多くの者は表層から中層でmonstersの間引きを行うのが精々だ。
そのはずだったのだが……床も壁も磨き抜かれた石で造られた廊下を、Vandalieuは無造作に歩いていた。
「うーん……今のところ数えるほどしか戦っていないのですけど」
そう言いながら、廊下の左右にGuardの如く立ち並ぶDemon達に視線を向ける。彼等はMajin nationのTamerによってTamerされたmonstersでは無く、Dungeon内に生息する普通のmonstersだ。
それなのに、Vandalieuに襲い掛かる素振りは一切見せない。彼の後ろに続く者達に対しても。
『初めて潜ったDungeonで遭遇したUndead達の-samaに、Bocchanに魅了されたのでしょうか?』
carriageに荷物を積んだSamがZadiris達と出会う前、Mirg Shield Nation内を隠れstealthながら旅していた時潜ったDungeonでの出来事を思い出して言う。
しかし Vandalieuは「魅了やGuidanceとは違うようです」と、Demon達の-sama子を見ながら答えた。
彼がすっと手を伸ばすと、その先に立つDemon達のbody partが僅かだが震えた。その爬虫類を連想させる瞳に、horrorが宿っている。
「どうやら、彼等は俺が怖いみたいですね」
Demon達はVandalieuに対して覚えたhorrorのあまり、DungeonのmonstersとしてのInstinctを放棄して、侵入者に対する戦闘や妨害を一切放棄しているのだ。
「Dungeonのmonstersがhorrorのあまり、か。普通のDungeonならあり得ん話じゃないがなぁ……」
Majin nationの王、Godwinがそう唸る。Dungeon内で生成されるmonstersは、Dungeonによって侵入者を排除する-samaに、そしてその為なら異なるraceのmonstersともある程度協力するよう、psychological impactを受けている。
ただVandalieuのDungeonで生成されるmonstersと違い、通常のDungeonで生成されるmonstersには魂がある。そのため、Dungeonからのimpactも完全では無い。
自分より圧倒的に強い相手を前にすれば戦いを挑まず逃げ隠れする場合や、余程相性の良い相手にはTamerされる場合もある。
しかし、Demonの場合殆どそれは無い。
Demonは穢れたManaが集まり、それに魂が宿ってBodyを持った存在だ。他のmonstersはどれ程奇妙なraceでも生物的な欲求やInstinctを持つが、Demonにはそれは無い。
眠らず、物を食べず、Breedingもしないまま寿命も迎えず永遠に生きる事が出来る。それらの行為が出来ない訳ではないが、Demon達にとってそれはただの娯楽でしかない。
そのためDemonは自身の命すら戯れに手放す事が珍しくない。特に上位のDemonほどその傾向が強く、命惜しさに降伏し、逃げる事はまず無い。
race的な特性を持つMajin RaceでなければTamer出来ないのも、そうした非生物的な価値観故だ。
「うーん、何故でしょう? 俺、Demon系のmonstersと戦った事すら殆ど無いのに」
『恐らくですが、『Demon King』のsecondary nameや【Demon King Fragment】を持っているからではないでしょうか?』
Samのconjectureに、Godwinは「maybeそれだ」と言って掌を叩いた。
「Demon系のmonstersはDemon King Guduranisが、僕としてCreationしてから発生する-samaになったと言われておる。故に、坊主の中で大きくなったDemon Kingのsignに恐れ戦いているのだろう。ただ、Demon King Guduranisのsignとは違う部分が多いので、服従はしない。そんなconditionなのかもしれん」
「なるほど、そうかもしれませんね」
Demon達はGodwinのconjectureを肯定も否定もしないが、説得力があるとVandalieuは感じた。
「私など、未だにLesser DemonすらTamerできないのに……陛下の前ではArk Demonがまるで借りてきた猫のように大人しい。流石と言うかなんと言うか」
致命傷を負ってObscene-Majin Succubusと化すことで生き延びた元Resistanceのleader、『Liberating Princess Knight』Iris Bearheartがふぅと息をつく。
Godwinが行った『bloodの繭』の儀式でHumanからMajin Raceへ変化した彼女だが、それからまだ一年と経っていないため生粋のMajin Raceのように上手くDemonを扱う事は未だ出来ていなかった。
『Iris……普通のMajin Raceが何十年もかけて学ぶ事だ。気負う事は無い』
Orichalcum製のHoly Sword『Nemesis Bell』をVandalieuが改造した冥Magic Sword、『Nemesis George』に宿るIrisの父親、Georgeの霊がそう慰める。
Tamer系のJobである【Cursed Spirit Swordsman】に就いていたIrisだが、行動を共にしているmonstersは父の霊であるGeorgeだけだ。それもVandalieuに与えられる形で再会したので、彼女自身に「monstersをTamerした」と言う自覚と経験は無い。
それなのに対象が獣等よりも知能が高く、しかし人とはMental構造が全く異なるDemonである。苦戦して当然だろう。
「ふ~む、今度デモンCentaurで試してみるか? 馬の扱い方は慣れているのだろう?」
IrisをMajin化させる儀式を執り行った事で彼女にとって二人目の「父親」に成ったGodwinがそう提案する。しかし、娘達の反応は芳しいものでは無かった。
「そのDemon、nameの響きからして馬では無いのでは?」
「その通りです、陛下。Centaurの-samaに馬のlower bodyを持つDemonです。形が似ているだけで、馬ともCentaurとも異なるmonstersなので……【Mount】の心得が役に立つかは分かりません」
Lesser Demonと同じく下ClassのDemonで、空を飛べない代わりに地上での機動力に優れているmonstersである。
当然、乗用馬や軍馬とは全く異なる存在である。
『Godwin、せめてDemonホースではないのか?』
「あれは単にDemonっぽいだけの馬のmonstersだろうが。TamerしてもIrisの成人の証しには成らんぞ、George」
『だが不慣れな事をさせても――』
「Georgeよ、それはちぃと過保護すぎやせんか。育児のpolicyが貴-samaとは全く合わんな!」
どうやらGeorgeとGodwinは、『娘』であるIrisの育成policyについて揉める事が多いようだ。
VandalieuがIrisを見上げると、恥ずかしげに視線を逸らした。
「Majin Raceとしては、私は未成年なので……周囲の扱いもそれ相応になり、父達もそれにimpactを受けてしまっているようです」
Majin nationでは、成人に相応しいと判断されないMajin Raceはappearanceや実ageがどうであろうと未成年として扱われる。Irisも例外では無い。
Sauron領では名高き『Liberating Princess Knight』も、Majin nationではまだ卵の殻をくっつけた雛鳥でしかないのだった。
『なるほど、男親とは娘の教育について悩むものですからね。思えば、私もそうでし……いや、今も若干悩まなくも無いのですが』
Samが娘達に思いを馳せながら、GeorgeとGodwinに共感を覚えている。その娘達であるSalireとRitaが聞いたら、『いや、父-sanも変だからね』と口をそろえて言い返しただろうけれど。
「それで私が早く成人したいと愚痴を漏らしたので、二人ともwisdomを絞ってくれているのです」
「そんなに焦る事は無いと思いますよ、Iris。Apprentice期間だと思って、じっくり力を伸ばすのが望ましいと思います」
「陛下の言う事も尤もですが、私は今Majin nation中の人々に『お姫-chan』と呼ばれていて……あと何年もこのconditionが続くのかと思うと」
「あー、それはちょっとstressが溜まるかもしれませんね」
IrisはMajin nation中の人々、民であるHumanやDwarf、Elfからもchild扱いされていた。国としての制度がそうなのだから、彼等がその通りにIrisを扱うのは当然である。
しかし、去年までHumanの社会では成人だったIrisにとっては情けなく感じるのだろう。
「そう言えば、Katia達もGhoul化したばかりの時は他のGhoul達の目が生温かいって言っていましたっけ」
生きる希望を失い、VandalieuのFollowersとなって新しい人生を生きるためにGhoul化する事を選んだ元女adventurerのKatia達の事を思い浮かべて、Vandalieuはそう言う。
つまりIrisは当時のKatia達と同じように、環境と自分の立場が大きく変化した事にまだ適応できていないのだ。
ここは経験者として助言するべきだろうと思ったVandalieuは、彼女を元気づけるようにGeorgeを握っていない方の手に触れて言った。
「Iris、こう言われても信じられないかも知れませんが、いずれ慣れます。俺も産まれたばかりの頃は困惑していました」
Darciaの息子として二回目のreincarnationを果たした当初、Vandalieuも赤子として養育される事に違和感を覚えていた。
しかし、徐々に違和感や戸惑いを覚える事は少なくなっていった。同時に、『Earth』でのAmamiya Hirotoや、『Origin』でのUndeadとしての人格が変化し、『Lambda』のVandalieuになっていった。
前世以前のMemoryは残っているが、今では自分がJapan社会でどうやって数々の不条理に耐えながら生きていたのか思い出せなくなりつつある。
「そうだったのですか……陛下の事だから、すぐに順応したのだと思っていました」
『そうでしたでしょうか? 私が初めて会っていた時から、childらしからぬ言動も多いと思うのですが』
『最近でも、childと言うより……妙な言動の方が多いように思える』
「そうだな、普通のchildならIronクローなんかで気軽に持ち運びされたら怖がると思うが」
SamやIrisに加えて、さっきまで議論していたGeorgeとGodwinまで、興味を覚えたのか会話に加わって来る。
二人の言う通り、一般的なchildらしくない面も多く見えるのだろう。無表情と平坦な声で、ちょっと見ただけではageに不相応に落ち着いているように見えるそうだし。そうVandalieuは納得した。
「まあ、慣れても前世以前のMemoryや経験を忘れる訳では無いですから。俺の場合はMemoryと人格を引き継いで赤子から生まれ直したので、Irisの場合とは色々違うかもしれません。
EleonoraやBellmond達Vampireの方が、Irisの感覚には近いかも」
Boundary Mountain Range外のVampireの場合、Human等から変化した瞬間が「誕生」だと認識される。
その時二十ageだろうが六十ageだろうが、Vampire社会では等しく半人前として扱われる。Vampire化によって獲得したskillやincreaseしたbody part Abilityに慣れ、使えると認められるまでそれが続くのだ。
EleonoraやBellmondはEvil God (M)派のVampireだったので、Irisと違って愛情のある育てられ方はしなかったが。
「ふ~む、『Vida’s Resting Ground』のPure-breed Vampireの話を聞いて参考にしようにも、あいつ等千年に一度目覚めるかどうかだからのぅ」
『それよりも他raceからMajin化した者に話を聞けないのか?』
「儂の婆-chanの兄貴の何番目かの彼女がMajin化したElfらしいが、もう何万年も前の事じゃ。とっくに『Vida’s Resting Ground』で石化しとるぞ。儂等Majin Raceは、Pure-breed Vampireと違って一度石化すると殆ど起きんのだ」
「いえ、お二人が私の事を想ってくれている事は承知しています。私が不慣れなだけなのです、気にしないでください」
娘が気にしている事を知って相談を始めるGeorgeとGodwinに、それを制止するIris。Human社会から見ると特異な三人の父娘の関係は、良好であるようだ。
「そうか? まあ、Demonが両脇を固める廊下でfamily会議も無いか。しかし……Dungeonボスを何度も倒しておる儂でも、このDungeonのDemonにここまで恐れられた事は無いぞ。
もういっそMajin Kingも兼任してみんか、坊主? 坊主ならMajin Kingの務めも片手間で熟せるだろう」
Majin nationの王最大の務めは、この『HELLの宮-dono』を定期的に攻略する事である。
『Evil God of Labyrinths』Gufadgarnによって創られたこの『HELLの宮-dono』は、このBoundary Mountain Range内部に満ちた穢れたManaを集めてDemonを生成する事で、無差別なDungeonやDemonの発生を抑制する役割がある。
しかし Demon型でも上位のmonstersは知能が高すぎて、生成されてから百年も経つと自力でDungeonのpsychological支配を抜け出し、地上に出たり浅い階層でweak侵入者を待ち伏せたりと厄介な行動をとるようになる。
それを防ぐために、定期的に上位のDemonを間引く事が必要なのだ。
Godwinはその役目を十二分に務めてきた。しかし、Vandalieuなら彼よりも簡単に役目を熟せるだろうと見ていた。
実際、彼がそう口にした瞬間廊下の左右に立ち並ぶ上位のDemon達に動揺が走った。何時もは死の瞬間でも喜悦を消さない目が、「それだけは止めろ!」と言わんばかりに見開かれている。
「遠慮しておきます」
そんなDemon達に配慮した訳ではないが、VandalieuはGodwinの提案を当然辞退した。
「やっぱりか。とは言え、何故だ? 儂が言うのもなんだが、この国の王は強ければ結構楽だぞ。坊主なら頭や腕を生やしてデスクworkも簡単に出来るだろうに」
「父-san、そのデスクworkが嫌で言っている事が分かるからでは?」
『Godwin、任期が終わるまであと少しなら辛抱しろ』
「いや儂はだな、王を辞めて育児に専念しようと思ってだな」
「そこまで私はchildではありません!」
流石に口実に使われるのは嫌だったのか、Irisがtailを立てて語気を強める。
「むぅー、育児を理由に出されると……しかし revivalする方法によっては、kaa-sanが赤ん坊に戻る可能性もあるので簡単に仕事を増やす訳には……」
「陛下も惑わされないでいただきたい!」
そして悩み始めたVandalieuを一喝する。
そんな一向に締まるsignの無い四人は、そのまま廊下を進み、奥にある扉からDungeonボスの待つroomに入ったのだった。
流石にDungeonボスのArk Demon Lordは、Vandalieuに怯える事無くかかってきた。しかしそれだけでは単にRank12のmonstersと一度戦っただけなので、『Trial of Zakkart』に備えてBClassを越える難易度のDungeonを体験するという目的的には微妙だった。
Kijin nationでの腕試しとは違い、極普通に【Demon King Fragment】をActivateさせて難無くArk Demon Lordを屠ったVandalieuは、Iris達に話しかけた。
「そう言えば、今度Body美を競うBodybuilding大会を開催するのですが、訓練の息抜きにどうです?」
「お、良いな。Emperorに招かれたと言えばcivil official達も文句を言うまい。親善のためだからな♪ どうせなら出場するか、Iris?」
『Godwin、嫁入り前の娘にBody美を競わせるなど何を言っているのだ。Irisも出てはいかんぞ』
「父上、私が出たがっているかのように言うのはお止め下さい。あの格好は……私にはとても無理です。あのブーメランのような下着一枚で舞台に立つなんて」
「いや、ブーメランbreadツを履くのはmale選手だけですからね。female選手は、Majin nationの最新fashionと似たような露出度ですからね」
「そうなのですか、それなら……いえ、遠慮します」
一瞬頷きかけたが、Majin nationの最新fashionと同程度であると言う時点で羞恥心が耐えられそうにないと気がつくIrisだった。
《【Labyrinth Creation】skillのlevelが上がりました!》
春も半ばを過ぎ初夏が近づいてきている五月のある日、theaterの観客席に座ったKurt Legstonは、舞台の上でoilを塗ったbody partでBody美を競い合っている知人達の顔を見ながら呟いた。
「……陛下の趣味、さっぱり分からねぇ」
今このtheaterでは、『Vida revival記念First回Bodybuilding Contest』が開催されていた。
KurtもMirg Shield NationでMarshallの地位を交代で担ってきたLegston Earl 家の三男として生まれ、VandalieuにHead huntingされるまで軍人として生きてきた男だ。muscleに対する嫌悪感などは無い。
寧ろ鍛え上げられたBodyの持ち主には感心する。しかしそれは弛まぬ訓練に耐えるMentalと、その結果ついたmuscleによって発揮されるbody part Abilityに対する物だ。
それに対してこのBodybuildingという種目は、鍛えあげられたBodyのappearanceを競う事が主旨とされている。
maleはブーメランbreadツ、femaleはBikini Typeの衣服だけを着て、ポーズを取る。
今も舞台ではVigaroが四本の腕それぞれに力bumpを作って見せ、対するBorkusはbody partを捻って大腿筋と腕のmuscleを見せつけて来る。
確かにあの腕で殴られたら並のKnightなら首が折れてしまうだろうとは思うが、ポーズ自体には武術的には何の意味も無いようにKurtには見えた。
『お前は出ないのか、Kurt。参加賞はザクロjuiceとVoilだぞ』
Contestの途中でtheaterに入って来たKurtの兄、Chezare Legston……Undead Transformation後TalosheimのGeneral職に就き、今では実質的なPrime Ministerの地位に在る人物が席に座りながら話しかけて来た。
「……兄上、冗談でも止してくれ。俺が下着一枚で歯を見せながらポーズを取るところが見たいのか? ザクロのjuiceとoilと引き換えに勝てる見込みも無い勝負で恥をかくつもりは無い。……oilの方は、貴重品なのは分かるが」
げんなりとした顔をして兄に答えるKurt。彼自身も以前はKnightとしてKnight団の一員だったため、今でもそれなりにbody partは鍛えている。しかし VigaroやBorkus、GodwinやMiles等それぞれの部門の優勝Candidate者に勝てる見込みは無いと自覚していた。
だから舞台上でContestに参加しているKasimやHajに同情的な視線を向けながらも、同じ轍を踏むつもりは無かった。
ただVoil……VandalieuがActivateした【Demon King's Blubber】から抽出した油に-sama々な素材を加えて作った特性油には、恥をかくだけの価値があるかもしれないが。肌荒れや火傷、薄毛等、諸症状に効果がある。美容にも良いらしい。
因みに、選手たちが塗っているoilもそれだ。
ただ、まだ生え際は防衛ラインのForefrontから引いていないので大丈夫だろう。
『勝ち目がない訳ではないだろう。種目は男女で、更に体重で四種目、合計八種目に別れている。優勝ならin any case、五位入賞までなら望みもある』
「そんなに勧めるなら兄上が出場すれば良い。UndeadもSkeleton以外は出場できるだろうが」
『私は生前からKnightやCommanderとして武勇を発揮するよりも、従軍civil officialの方に向いていたのは気がついていただろう。body partの方もそれ相応だ』
KurtよりもずっとWarriorとしてのaptitudeが乏しかったChezareは、生前からBody美とbody part Abilityにあまり自信は無かった。
『陛下に取り立てられなければ、私がGeneralに成る事も無かっただろう』
「……取り立てって言っても、殺した後Undeadにして、しかも実際やっているのはほぼPrime Ministerだけどな」
『それはin any case Kurt、家臣たるもの主-kunの趣味を『理解できない』などと間違っても言ってはいけない』
『Earth』でも上司が嗜む趣味に部下も付き合う事があったように、『Lambda』のHuman社会でも主-kunの趣味を家臣も嗜むのは珍しくない。釣りや狩猟、詩、美食や楽器の演奏、Board Game、等々だ。
特に『Lambda』のHuman社会、それもNobleやKnightの場合上司とのHuman関係が現代Japanより長く続き、さらに重要な意味を持つ事が多い。
生まれる前から終生仕える事が決まっていたり、将来上司の娘を貰う事になったり、Human関係が拗れた結果猜疑心の強い主-kunに反逆を疑われて投獄されたりするのだ。……最後の例は、現実にはそう頻繁に起こる事ではないが。
in any case、Monarchの趣味を程度の差はあれ家臣も嗜むのが常なのである。
「……いや、あの陛下なら『人それぞれですからねー』としか言わないと思うぞ、兄上」
『父上や、アルサード兄上がfamilyを連れて亡命するのだ。受け入れて頂いた陛下に我々が尽くさなくてどうする』
「まあ、それはそうだが」
何度目かのLegionのTeleportationを利用しての秘密会談の結果、ChezareとKurtの実家であるLegston Earl 家のTalosheimへの亡命はほぼ決定していた。
二人と、EmperorであるVandalieu自ら赴いての説得の成果である。
……息子の片方がUndead Transformationしている事と、祖国を裏切る事に二人の父であるセシル・Legstonは複雑なemotionsを覚えていたようだが、彼がVandalieuに対してそれを表に出す事は無かった。
そのUndead Transformationした息子が生前よりも生き生きしている事や、二人ともMirg Shield Nationに居た時よりも出世していた事、それに同行していたIslaから約四年前の遠征の真相を聞かされたからだ。
特にIslaが当時遠征軍に加わっていた時のmercenary隊長としての姿に【Shape-Shift】のUnique skillを使用してTransformして見せた事が、説得の大きな助けになったようだ。
「当人が気にしなくても、俺達がそれに甘え続けて良いって理屈には成らないからな。それは分かっている。分かっているが……いや、今やっている種目なら分からなくもないか」
急に意見を変えたKurtが視線を向ける先をChezareが見ると、舞台ではmale部門が終了してfemale部門が始まっていた。
BasdiaやJeena、Borkusの娘のGopherやGizaniaが、順にポーズをとっていた。
『Kurt……まあ、お前だけでは無いが』
そう嘆くChezareの耳には、male客が上げる歓声や囃し立てる-samaな口笛が聞こえていた。それにmale部門の時は、逆にfemale客が黄色い歓声を上げていたのでお相子だろう。
「薄着で舞台に上がってBody美を競うんだ、こうなる事は選手も分かっていただろう。陛下もだから観客がStageに上がらないように押さえる警備用のGolemを揃えたんだ、大目に見てくれ」
そう言うKurtだが、分かっていなかったIrisが出場しなくて良かったと胸を撫で下している事には気がつかなかった。
「そもそも、普段より布の面積が多い奴も居るじゃないか」
『それもそうだ……ところで父上達は全員連れて来るだろうか。我々の助言通りに』
Legston 家との会談では、Vandalieuが「俺が居ては話しにくい事があるでしょうから」と席を外してLegionと外を見張る事が度々あった。
その間にChezareとKurtは、「亡命するならこうした方が良い」と幾つか助言を説得と共にしていた。
「アルサード兄上はまだ側室はいないと言っていたし……念入りに確認したが、隠しているLoverもいないそうだしな」
『では古参のServantと、行く当ての無い者、Loyalty心の厚いKnight、そして彼等のfamilyか。私の事で失脚した後で良かったかもしれないな。人数を纏めるのが楽だ』
普通亡命するならServantは極一部以外置いて行き、隠しているLoverなどは切り捨てても問題無い。しかし、Vandalieuにそれを気がつかれると、確実に彼の心証にimpactが出る。
無理に全員連れて来いとは言わないし、Legston 家の事情も斟酌するだろうが、それでもVandalieuの中でのセシルやアルサードの印象が悪くなるのは避けられない。
『陛下はどう言ったところで、立場のweak者に目を向ける方だ。そうして出来たのがこの国である以上、問題があると私は思わない。実際、死んだ時の私も弱者だった』
彼等の主-kunであるVandalieuは、『Earth』から『Origin』まで常に弱者の側だった。程度の差はあるが立場が弱く、切り捨てられる側だった。
故に彼が視線を向けて同情し、時に損得勘定を蔑にしても手を伸ばすのはmountain banditによって無残に殺された元NobleのServant父娘の霊や、adventurerに襲われていた娘、Mirg Shield Nationによって滅ぼされたgiantの国の死者達、故郷を追われた難民達が作ったcultivation village、Autonomous Territoryに押し込まれたScylla族だった。
強者が悪と言う訳でも、Royal Nobilityを嫌悪している訳でも、金持ちを憎んでいる訳でも無い。
逆に弱者だから無条件に正しいと思っている訳でも無いし、正義がそちら側にあるとも考えていない。
だが、まず目を向くのはweak側だ。
理屈では無く、そういう性分なのだろう。
「俺も別に文句がある訳じゃ無い。部下共々拾ってもらった身だしな。ただ、Human社会のRoyal Nobilityとは相性が悪い考え方だとは思うぜ。そして、兄上相手に言うまでもないが俺達の実家はほんの少し前まで、名実ともにMirg Shield Nationの由緒正しい上層階Class、Earl 家 -samaだ。
甥っ子の将来の為にも、頼むから変な事は考えないでくれよ。親父-dono」
『父上とアルサード兄上を信じないわけでは無いのだが……』
もし仮にセシル達がfamily以外の者達を切り捨てたとしても、Vandalieuは彼等の亡命を拒絶する事は無いだろう。Kurtと交わした約束であるし、事情を斟酌もするはずだ。
しかし、亡命後の扱いにはやはり差が出るのは避けらない。Vandalieuにとってセシル達の価値は「ChezareとKurtの親brothers」である事以外なく、別に彼等の力を必要としている訳では無いのだ。
蔑ろにはされないだろうが、重用も信用もされないだろう。
それはfamilyとして避けたいので、生まれたばかりの甥っ子の為にもセシル達が自分達の助言を聞いてくれることを祈らずにはいられない二人だった。
……familyだから信じたいという思いと同時に、「でもNobleだから、叩けば埃の一つや二つ出てくる立場だし」と不安が消えないのである。
「あの二人、何で祈っているのかしら?」
「……female選手のポーズが眼福だったんじゃない?」
二人のそんな事情を知らない観客たちは、舞台に向かって手を合わせる二人を不思議そうに見ていた。
・Name: Vigaro
・Rank: 10
・Race: Ghoul Astral Tyrant
・Level: 2
・Job: Demon Warrior
・Job Level: 7
・Job History: Apprentice Warrior、Warrior、Axe Warrior、Axe Master、Magic Axe User、Great Axe Master、Berserker
・Age: 173age
・Passive skills
Dark Vision
Monstrous Strength:2Lv(Mysterious Strength awakened into!)
Pain Resistance:7Lv(UP!)
Paralyzing Venom Secretion (Claws):5Lv(UP!)
Strengthened Attribute Values when equipped with an axe: Very Large(UP!)
Magic Resistance:4Lv(UP!)
Peerless Vigor:2Lv(UP!)
Murder Healing:1Lv(NEW!)
Physical Resistance:1Lv(NEW!)
・Active skills
Death Lion Axe Technique:1Lv(Axe Technique awakened into!)
Unarmed Fighting Technique:8Lv(UP!)
Commanding:5Lv
Coordination:7Lv(UP!)
Deforestation:4Lv(UP!)
Dismantling:3Lv(UP!)
Shield Technique:6Lv(UP!)
-Surpass Limits-:7Lv(UP!)
Surpass Limits – Magic Axe:8Lv(UP!)
Parallel Thought Processing:5Lv(UP!)
Spirit Form:2Lv(NEW!)
Materialization:2Lv(NEW!)
High-speed Thought Processing:1Lv(NEW!)
・Unique skill
Zozogante’s Divine Protection(NEW!)
Garess’s Divine Protection(NEW!)
・race解説:Ghoul Astral Tyrant
VandalieuのGuidanceを得たVigaroがRank upして誕生したrace。【Spirit Form】や【Materialization】skillを獲得したGhoul Arch-TyrantがRank upする事が出来るraceだとconjectureされる。
【Spirit Form】や【Materialization】はAstral系のmonstersとUndead以外の存在にはほぼ獲得する事が不可能なskillであるため、やはりVigaroがLambdaで初めて誕生したGhoul Astral Tyrantだと思われる。
Superior SkillにAwakeningした事で戦闘Abilityは格段にincreaseしているが、まだ使い慣れておらず、その真価を発揮する事が出来ていない。