Talosheimの王城で、妙なやり取りが繰り広げられていた。
「どうにかならないかね、師Artisan」
「Zandia、このpupilsはどうにかならないでしょうか?」
『えっ? Jeena姉ぇみたいにIronクローすればいいの?』
Lucilianoに珍妙な難題をしつこく相談されたVandalieuは、とりあえず通りがかりのZandia……Talosheimの第二Princessにして生前から『Tiny Genius』と称えられているGiant race ZombieのShoujoに相談してみた。
「だが師Artisan、私は本当に困っているのだよ」
ShoujoのままZombieになったZandiaだが、Giant raceであるため背は二meterある。そのZandiaの手に頭を鷲掴みにされて宙吊りになったまま、Lucilianoはそう主張した。
『こいつ、何にそんな困ってるの?』
学術的興味を覚えたLucilianoからSurgery中に覗かれかけた事のあるZandiaは、無駄にVitality旺盛な彼では無くVandalieuに質問した。
「それが野生の……俺のimpact下に無いUndead、特にZombieから話を聞きたいと言い出して聞かないのです」
『それは無理じゃないかなぁ』
「ですよね」
Lucilianoの要望は、Zandiaが即座に無理と思っても仕方の無いものだった。
『Undeadは陛下のimpactを受けると別物みたいに変わるから、気持ちは分からなくないけどね。研究対象は違うけど、あたしもMageだし』
一度Vandalieuに魅了、彼のGuidanceを受けたUndeadはその瞬間から急速な変化を遂げる。
特に下Classの、Rankの低いUndeadはそれが顕著だ。ただ無意味に動いているだけで自意識どころかInstinctすら希薄な、Rank1のLiving BoneやLiving-DeadはVandalieuをしっかり認識し、彼の命令に出来る範囲で服従する。
頭の中には生者への憎しみとその肉を貪る事しか残っていないRank2のZombieは、それらを九割以上放り捨て代わりにVandalieuへの親愛とLoyalty、畏怖を詰め込む。殺戮への衝動しか無いとされるCursed Weaponsや、Living Armorですらそうだ。
そして多くの個体がRank upを経験するごとに生前のMemoryや人格を全てでは無いにしろ取り戻し、言葉を話し始めるのだ。
自然なconditionのUndeadとは完全な別物である。
Undeadの研究者であるLucilianoは、そうした変化した個体だけでは無く自然なconditionのUndeadも研究したいのだろう。Zandiaはそう思った。
Lucilianoはその言葉に我が意を得たとnod……事が出来ないので、握った手を上下させて意思表示する。
「うむ、そうなのだよ」
『だけど、自然conditionのUndeadから話を聞ける訳が無いのは、分かるよね?』
「うむ、そうなのだよ」
自然なconditionのUndead、特に低Rankの下Class Undeadは生者とcommunicationを取る事はまず無い。
憎しみや無念だけでは無く、生前のMemoryや人格も持っているGhostなら会話そのものは可能だ。極稀なケースだがZombie等でも生前親しかった相手を襲うのを止め、「逃げろ」や「殺してくれ」と意思表示した事はあるらしい。……それが目撃者の錯覚でなければだが。
しかしそうした例外であっても、Lucilianoが行いたい学術的な聞き取り調査は不可能だろう。
『つまり陛下のimpactを受けていないUndeadの詳しい調査を行いたいけど、その為には陛下がUndeadを『Guiding』必要があるって事だよね? 無理だって。矛盾しているよ』
「そうですよね。あ、ところでそろそろLucilianoを放して上げてください」
Zandiaの全体的な比率的には小さい手から解放されたLucilianoは、倒れなかったがその場でよろめいた。
「やはりどうにもならないかね?」
「そもそも、俺は自然conditionのUndeadを知りません」
殆どのUndeadが、近づいただけで勝手に魅了されるのだ。自然のconditionのUndeadなんて、Vandalieuが知る筈も無い。
「それにLucilianoもUndeadを作れるでしょう。自分で作って聞いてみたら良いのでは?」
『ああ、Life-deadとか色々作れるもんね。名案じゃない』
「私を含めた普通のMageが作るUndeadは、magicで死体にVitalityを無理矢理込めただけの人形に過ぎないと知っているだろうに。そんな物から何を調べろというのだね」
Lucilianoが作るLife-dead等のUndeadは彼自身が言うように、Instinctも何も無い人形だ。今彼をthrust動かしている興味の対象には、人形では不適格なのだ。
「そういう訳で何とか!」
「むー……」
未練がましいLucilianoに、Vandalieuは困ったように首を横に振る。実際困っているのだろう。普段から表情の無い彼は、故意に大きな動作をして自分のemotionsを他者に伝えようとする事が多い。
『そもそもUndeadの何を調べたいの? それによっては陛下もあたしも協力できるかもしれないよ。あ、だけどあたしのbody partは見せないからね』
「……私は-kun達のbody partに施されていたGubamonの改造に興味があっただけなのだが」
「それはin any case、今は何に興味があるのですか?」
中々消えない覗き魔扱いに顔を顰めるLucilianoだったが、Vandalieuに促されて気を取り直したようだ。
「基本的過ぎて誰もが疑問に思わない事だよ。低Class Undeadは頭の中に何も無いか、生者への憎しみや殺戮への欲求だけが詰まっているかのどちらかで、社会性は皆無だ。だというのに、何故彼等は――」
一方その頃、Talosheimの町の外れに設置されている木人訓練場では、激しい衝突音が繰り返し響いていた。
それ自体は珍しい事では無い。この訓練場に設置されている木人……木人役のUndeadは、Pure-breed Vampire Gubamonが収集していたHero Zombieの内、生前Aldaを信仰していた国に属していた、若しくは本人が信仰していた者達だ。
Undead Transformationした事で生前よりも弱体化し、装備も耐久力重視のObsidian Iron製の物で揃えられているが、その戦闘技術は間違いなく一流だ。
そしてここで実際に行われるのは、実戦形式の稽古だ。木人役であるHero Undeadも当然攻撃してくる。
何度か訓練場を囲う壁が崩れかけたので、現在では使用できるMartial Artsやmagicは制限されている。しかしそれでも繰り広げられるハイlevelな戦いは、相応の激しい戦闘音を響かせるのが常だ。
しかしこの日響いているのは鋭い剣戟ではなく、銅鑼をBarrageしているような衝突音だった。
『【Shield Bash】! 【Shield Bash】!』
Obsidian Iron装備が基本の木人役にしては珍しく軽装な女ElfのZombieが、左右の手にそれぞれ装備した円盾で【Shield Bash】を連続して放つ。
「うおおおおお!」
それを受けたHell Copperの金属鎧と大盾を装備した少年……Kasimは、連続【Shield Bash】を何とか盾で受け止める。
そして木人役の女Elf Zombieが逆に体勢を崩した隙に、右手に握ったMaceで逆転を狙った。
『甘いっ! 【Shield Bash】!』
だが、素早く腕を引き戻した女Elf Zombieが三度目のShield Bashを放った。
「ぐあっ!?」
三度銅鑼が叩かれたような轟音が響き渡り、遂にKasimが構えた盾が弾かれ、body partの前面が無防備に成る。だが、女Elf Zombieも、流石に四度目の【Shield Bash】は打てないだろう。そう思われた。
しかし女はZombie化した事でbloodの気は無くなったが、生前同-samaに引き締まった脚が鮮やかに翻った。
『【thrust蹴り】!』
そして、やはりObsidian Ironで出来た格闘用の靴が、Kasimの金属鎧の腹に激突した。体勢を崩していた彼はその場に踏みとどまる事が出来ず、Ballのように後ろに吹っ飛んで行った。
背中から地面に落ちたKasimは、「ま、参った」と声を絞り出して降参するのがやっとだった。
女Elf Zombieはそれを聞いて構えを解き、コーチmodeに移行して彼に手を差し出す。
『Kasim -kun、盾をもっと積極的に活かさないとダメよ。後、守りの姿勢に入るのは良いけど籠っては駄目。敵は嵐じゃないわ、隙を待つのではなく作りに行かないと』
女Elf Zombieの手につかまって立ち上がったKasimは、苦笑いを浮かべた。
「それは分かるけど、すぐにGerda -sanみたいにするのは無理だよ。流石『Twin Shield Princess』って呼ばれていただけあって、凄い盾捌きだし、足技だって達人Classじゃないか。本当に凄いよ」
女Elf Zombie、かつて『Twin Shield Princess』と呼ばれていたHero ZombieのGerdaを彼は瞳を輝かせて見つめた。
『それは昔のsecondary name。今はただのUndeadよ』
GerdaはAmid Empireが建国されるより以前の時代活躍したElfのHeroだった。Adamantite製の小振りな円盾を二つ、それぞれ両手に装備して防御と攻撃を行い、ここぞという時は蹴りで敵に止めを刺す。そんな独自の戦闘styleで当時は知られていた。
一応盾職と周囲からは認知されていたが、実際は円盾をWeapon Equipmentとして活用する格闘家に近い。ただ、高い【Shield Technique】skillのお蔭で、実際並の盾職よりもDefense Powerは上だったのだが、
『それに、Muscular Strengthだけなら生きていた時より上がっているのよ? Zombie化した事で【Enhanced Muscular Strength】skillが【Mysterious Strength】skillに変化しているから。その分、動きは遅くなったけど』
「でもGerda -sanが凄いのは変わりませんよ」
一向に輝きが収まらないKasimの瞳を、輝きの無い死んだ瞳で見つめ返していたGerdaは不意に視線を逸らした。 目を細めて、眩しい物でも見てしまったように。そしてKasimと触れたままだった手を、すっと離す。
『私の真似をしなくてもいいの。Kasim -kunの盾は一つだけだし、【Unarmed Fighting Technique】skillのlevelも低いでしょう? あなたの盾なら、縁を相手の腕や脚に差し込んで動きを封じるのが良いと思う。亜人型のmonstersで試してみて』
離れる手を視線で追うKasimの残念そうな顔を押しやるように、そう助言するとGerdaは定位置に戻るために身を翻した。
木人役である彼女は稽古の後の助言が終わると、定位置に立ったまま石像か何かのように動かなくなる。交代の時間になるまで、次の訓練志願者が来るのを何時まででも待つのだ。
「次もっ、monstersじゃなくてGerda -sanに相手をしてもらって良いかな!?」
Gerdaにそう問いかけるKasimだったが、返って来たのは沈黙だけだった。
稽古の後、Public bathhouseで汗を流したKasimは仲間のFesterとZenoと合流して、大通りと繋がっているOpen Plazaで話し込んでいた。
age別Vandalieu像が立ち並ぶOpen Plazaにはベンチや、Reversiや将棋を楽しむための台と椅子が設置されており、Talosheim国民の憩いの場となっている。
それだけに人も多いのだが、ざわめきが自然と声を消してくれる為後ろ暗くない密談には丁度良い場所だ。
「実は俺……Gerda -sanの事が好きなんだ」
仲間で親友であるKasimにそう打ち明けられた二人は、静かに答えた。
「「知ってる」」
「ええっ!? 何でだ、まだ誰にも言ってないのに!」
驚くKasimにZenoは溜息を吐いて、Festerはニヤニヤと笑いながら答えた。
「Kasim……お前、DungeonやDevil Nestsに行かない日は毎日訓練場に通って、しかもそのGerda -sanとばかり稽古しているんだぞ」
「しかも、俺達にGerda -sanは凄いって自慢するし。美人で脚が綺麗で耳が長くてって……幾ら俺でも気がつくぜ」
「そんなに分かり易かったのか、俺」
どうやらKasimは無自覚に惚気ていたらしい。自分の恋心が二人に筒抜けだった事を知った彼は肩を落とした。その-sama子をみて浮かれていた彼の話に付き合わされた溜飲を降ろしたZenoとFesterは、すっきりした気分で話しかける。
「それで、どうするんだ? 俺達にそれを言い出しただけで終わりじゃないだろ」
「って、言うかいいのか? Gerda -sanって、Zombieだろ」
通常のHuman社会なら大問題である。raceを越えた愛どころの話では無い。住んでいる村や町から追い出される程度で済めば、まだFortuneだ。国によっては異端審問にかけられて火刑に処されかねない。
しかしここはTalosheimである。為政者本人が稀代のUndead Userであり、General兼Prime MinisterやKnight Delegation Leaderの何人かがUndeadであり、Kasim達のいるこのOpen Plazaでさえ、Vandalieu像に見守られながら複数のZombieやSkeletonが談笑している国だ。
この国のUndeadはVandalieuによってbody partのDecompositionが完全に止められており、Decomposition臭すら【Deodorization】されている。息がかかる程近づかなければ生者と見分けがつかないZombieも、珍しくない。
しかも Undead達は、Kasim達元Hartner Duchyのcultivation villageの村民だった移住者よりも先にTalosheimで暮らしていた先住民だ。
そんな状況でVandalieu達が国民の融和策……セミナーやBoard Game大会、祭等eventを行なってきたので、最初は心情的に距離を置いていた移住者達もいたが、今ではUndeadとの交友関係を築いている。
そうなると、当然の流れだがUndead相手に恋愛関係にdevelopmentする者も出てくる。しかし、全く問題が無いわけでもない。
最も大きい問題は、Undeadとはchildが作れない事だ。行為そのものは可能だが、他の内臓同-samaに生殖器の機能も停止しているのだから当然である。
Royal Nobilityに限らず、農民や町民であっても結婚してchildを作って育て、成人したchildが農地や仕事を継ぐのが当然だという、社会的常識がLambdaには強固に根付いている。
childを多く作り過ぎて生活が苦しくなったり、家業や農地を継ぐ段階で揉める事になったりと諸々の問題もあるが、あらゆる産業で人が果たす役割が大きいLambdaの文明levelでは必要な事だ。
また、生者同士の関係でも色々努力してもchildが出来ないという場合はもちろんあり、その時は親類の子やpupilsに跡を継がせるか、養子をとるような事もある。
しかし、最初からchildが出来ない事がはっきりしている場合はhurdleが高くなる。事前に養子やSuccessorの当てがあるならin any case。
だがそうした社会常識と無縁の職業もある。
「childの事を言っているなら、俺達はadventurerになった時からそういうあれこれとは関係無いだろ。そりゃあ今はAdventurer’s Guildじゃなくて、Explorers’ Guildに登録しているけど基本は同じじゃないか」
それはadventurer稼業だ。何故なら死亡率が高い危険な仕事だからである。それに、それらの職業に就く者達の多くが既にSuccessor争いで敗れたか、最初から関係無いHumanが殆どだからだ。
Kasim達はそのどちらでもないが、Hartner Duchyでadventurerに成る時既に家業は継げないかもしれないとそれぞれのfamilyと話は済ませている。
Festerに問題無いと話すKasimだったが、彼が心配しているのはそれだけでは無かった。
「いや、他にもあるぜ。night眠らないから時間の感覚が違うとか、食生活の問題とか、基本的に毒もdiseaseも効かないから、具合が悪い時心配してくれないか過剰に心配するかのどちらかになる事が多いって聞くし。
異raceと真剣に付き合うなら、覚悟が必要だぜ」
そう淀みなくUndeadの交際で起こる諸々の問題を述べるFesterを、KasimとZenoは信じられないといった眼差しで凝視していた。
そして思わず口走った。
「Festerがっ、頭を使っている!? まるで真っ当な既婚者みたいだ!」
「あのFesterがこんなにしっかりして……くぅっ」
「Kasim、俺は真っ当な既婚者だ! それにZeno、何で涙ぐむんだよっ! 俺は単にExplorers’ Guildで偶然聞いた話をしただけだ」
Kasimが訓練所に通っている日は、Festerは一人で出来る簡単な依頼を受けるために、そして仕事中のリナと会うために、Explorers’ Guildに通っていた。
Noble Orc kingdomで行われた戦勝祝いの宴で見合いを打診され、それをリナと相談した結果何故か夫婦二人でその御嬢-sanと面接のような見合いをする事になった。そして会って話してみたところ、事情を抜きに考えても良い御嬢-sanでリナと気が合ったので、受ける方向に話が進んでいる。
だが、その為にはFesterにはまだ甲斐性が足りなかった。二人の嫁と将来できるだろうchild達の為に、彼も頑張っているのだ。
因みに、Zenoは移住してきたEmpusa BerserkerのGaolと二人で依頼を受けたり、Dungeonに行ったり、模擬戦をしたりしている。未だに彼はそれがGaolなりに考えたデートなのだと気がつかないでいる。
三人の中で恋愛に関して最も疎いのは、Zenoであるようだ。
「確かにFesterが言う通り、色々問題はあるよな」
気を悪くしたFesterを宥めたKasimは、それらの問題を一つ一つ深く考えた。だが、それでも自分の中のGerdaへの思いは止められないと分かっただけだった。
「でも、まずはGerda -sanに告白してからじゃないと始まらないと思う」
「確かに」
「だから、明日Gerda -sanに告白しようと思う!」
「急展開ですね」
「そうか……分かった、応援するぜ!」
「ああ、行って来いKasim。でもまずはVandalieuに話を通した方が良いんじゃないか? Gerda -san、今は木人役なんだろう?」
Talosheimでは一部だがSlave制度を採用している。その形の一つが、Gerda達木人役のUndeadだ。最初の木人である『Divine Spear of Ice』のMikhailが犯罪Slave相当の身分になった後、彼の代わりに木人役になったZombie達も犯罪Slaveとして扱われるようになった。
どうやらMikhailに当時行われていた厳重な監視体制を施すのは、Vandalieuにとって面倒な仕事だったらしい。
今では管理こそ厳しいが一応はHuman扱いされている。
だが、犯罪Slaveの身分である以上Gerdaの身柄は国家のpropertyである。Zenoが事前に話を通すよう言うのも当然だった。
「それはそうなんだけど、何だか照れくさいというか……」
「まあまあ、水臭い事はnoneで行きましょう。話は分かったので、頑張ってください」
「うわっ、こいつ石像じゃない! 本人だ!」
Zeno達から一番近い場所に立っていたVandalieu像。それは実は石像にCamouflageしたVandalieu本人だった!
「石像とは仮の姿、その正体は――」
「Vandalieuだろ。どうしたんだ、【Demon Kingの墨】で石像にCamouflageする悪戯は最近してなかったのに、今日に限って」
Festerに決め台詞を遮られたVandalieuは、肩を落として台座から降りた。
「ちょっとLucilianoから隠れていまして……それはin any case、話は聞かせてもらいました。盗み聞きしてすみません。お詫びと言う訳ではありませんが、応援するので明日の告白頑張ってください。
GerdaがKasimと自由に会話できるように取り計らいます」
「お、おうっ、ありがとなっ」
こうしてKasimがGerdaに告白する準備は整った。
Vandalieuはその時間訓練場を貸し切りにし、Kasimに直筆の書類を持たせた。彼が告白する間、Gerdaが自由に会話できるようにするため、その旨を記した物だ。
そして本人は外でZenoやFesterと待機だ。彼がその場にいると、Gerdaに存在しない圧力を感じさせてしまうかもしれないからだ。
因みに、結果次第では犯罪Slaveが解放される事になるかもしれないが、寧ろそうなった方がVandalieuにとって都合が良いらしい。
旧Talosheim滅亡の一因となったMikhailはin any case、彼の後に木人役になったHero Zombie達は生前Alda側の神のbelieverだったり、Vida's New Racesを迫害する事で武名を高めたりしたが、Talosheimには直接かかわりが無い者達だ。
特にGerdaが活躍したのは、Amid Empireのアの字も無い時代である。
だからと言って無罪放免というのも微妙だし、何より本人達が贖罪の機会を望んでいるから木人役にしたのだ。
彼女達に対して強い処罰emotionsがある訳でもないし、実は犯罪Slaveにする法的根拠も無いconditionなので、本人が納得して止めてくれるなら万々ageなのである。
『この匂いと味は、確かにVandalieu -samaのbloodで書かれた文字。分かったわ……でもKasim -kun、-kunの気持ちには応えられない』
書類を受け取り、その匂いを嗅いで舐めて確認したGerdaはそう言って首を横に振った。
「そ、そんな。何でGerda -sanまで知ってるんだ!?」
書類がblood文字で書かれていた事、確認方法が筆跡や判子では無く匂いと味だったことにも驚いたKasimだったが、告白する前に自分の恋心が想い人に筒抜けだった衝撃の前にそれらは掻き消えた。
驚くKasimに、Gerdaは若干言い難そうに言った。
『未婚のまま死んだけど、私も一応百年以上生きていたのよ。Slightly思い出せないけど誰かと付き合った事ぐらいあるわ。それに……稽古で倒されたあと自分で立ち上がらないで私が手を伸ばすのを待っているし、手が触れた時も凄く嬉しそうな顔をするし』
「う゛、ばれていたのか……!」
不純な下心を見抜かれていた事に、思わずよろめくKasim。しかし彼はめげなかった。
「だったら何で? 訓練で下心はもう持ち込まない! 他にも俺に悪いところがあるなら直すから!」
『違うの、別に嫌とか悪いとかじゃないわ。-kunの気持ちは、とても嬉しかった』
「だったら――」
『私じゃ無理なのよ。私はZombieよ、死んでいるの! body partのDecompositionは止まっているから生きているように見えるかもしれないけれど、私の冷たい手が-kunを温める事は絶対にないのよ!』
毎日自分に稽古を付けて貰いに来る、自分よりずっとimmatureな少年。彼をGerdaも好意的に思っていた。
だがその輝く瞳に蒼白な自分の顔が映る度に、暖かい手が自分の冷たい手と触れる度に、自分とは違う存在なのだと……ElfとHumanではなく、死者と生者なのだと思い知らされて辛かった。
自分と彼は違い過ぎる。これ以上近づくべきじゃない。彼の為にも。そう思うからこそGerdaはKasimを拒絶するのだ。
「だったらっ! 俺がGerda -sanを温める!」
だが、やはりKasimは諦めなかった。訓練場の外まで届く大声でそう宣言してGerdaに手を伸ばす。
反射的に後ろに下がろうとしたGerdaだったが、その動作は何時もの彼女からすると遅すぎるものだった。
「だからっ、俺と付き合ってくれ!」
Gerdaの手を両手で掴み、引き寄せるKasim。Gerdaの輝きの無い死者の瞳に、Kasimの情熱に燃える瞳が映る。
『……-kunは何時か、後悔する。一年後か、十年後か、五十年後か、きっと後悔する。それでも良いの?』
「そうかもしれないけど、Gerda -sanは後悔させない」
死ぬ前に百年以上を生きたElfのZombieを口説き落とすには、青臭く根拠に乏しい言葉だ。だがGerdaにはそれも含めてとても魅力的に響いた。
まるでKasimの熱が移った-samaに。
『分かったわ……-kunに私の五十年でも百年でも、それよりずっと永い時間をあげる』
「ほ、本当!?」
『でも、一つだけお願いしても良い?』
「ああ、何でも言ってくれ! 俺に出来る事なら何でもする!」
そう宣言するKasimの心に嘘は無かった。Gerdaが自分より強くなって欲しいと言うのなら、何年でも諦めず挑戦しただろう。
『じゃあ……出来たら、私以外にも一人、いえ二人以上お願い。Undeadで』
「分かった! 二人でも三人でも……えっ?」
しかし、そう求められるとは想定の外だった。
珍しく屋外の、それも人が多いOpen PlazaでLucilianoはメモ帳に書き物をしていた。
「何故Undeadは群れるのか。改めて考えてみると、どうにも不思議でね。単にUndead Transformationした場所が同じだったり、近かったりして、偶然群れているだけの場合や、originally同類同士でCoordinationする事が珍しくないLiving Armor等なら別に良いのだが、それ以外のUndeadも群れを作るだろう?」
「そうなんですか?」
『らしいよ。あたしは直接見た事無いけど』
「Adventurer's School校で、一匹いたら近くに他のUndeadもいると思えって習ったな」
『そう言えばわたし達、外のworldだと人じゃなくて匹単位で数えられるようになったんだっけ』
のほほんとLucilianoの質問に、質問で返したり、同意したりしているVandalieuやFester、ZandiaにJeena。因みにZenoは、気の毒そうな顔で俯いたままのKasimに視線を注いでいる。
そしてLuciliano本人もそんな聴衆の反応はどうでもいいのか、構わず口を動かす。
「生前のMemoryも、egoも、知能も、Instinctすら希薄なLiving-DeadやBone、頭の中は生者を襲い喰らう事以外空っぽなZombieやSkeleton。そんなRank1や2の下Class Undeadが、何故群れを作るのか。
戦略的な優位性はある。しかし、その戦略性を下Class Undeadが理解しているとは考えられなかった」
『確かに、その辺りのUndeadは仲間とCoordinationもしないし、協力して得物を探すって感じでも無いよね』
『weak Horn Rabbitも群れる事があるけど、あれは襲われた時に生き残る確率を上げる為だって聞いた事あるよ。でも、Living-DeadやZombieに生存Instinctは無いよねぇ。わたし達だって痛みに対する感じ方が、生きていた時とは違っているんだし』
「なるほど、勉強になりますね」
「……Vandalieu、何で一番詳しそうなお前が一番詳しくないんだ?」
「師Artisanは自然なconditionのUndeadを見た事が無いそうだからね。それはin any case、今回-kunの情熱と熱意が謎の一端を解明してくれたわけだ。
Kasim -kun、私は-kunに心から敬意を捧げよう」
Undeadが群を作る理由、それはGerdaに拠ると『何となく寂しいから』という戦略性も何も無い、普通過ぎて誰も思いつかないものだった。
LucilianoとVandalieu、それにこの場に居ないLegionはそれを、恐らく霊が性質的に自分達と同じ存在を求めるからではないかと、conjectureした。
下Class UndeadはInstinctすら希薄であるため、そのMentalは虚無の中に小さなShimadaが浮いている-samaなconditionだ。その虚無感を自分の同類達と群れる事で埋めようとしているのではないだろうか?
自分と同じconditionの存在を認識する事で、虚ろな自分をstabilityさせようとしているのではないか。
少なくとも、無自覚な仲間意識を持っている事は疑いようも無い。
生者の肉を貪る事しか考えていないZombieは獲物を仲間と分け合う事はしない。しかし、だからといって邪魔な同類のbody partを破壊して倒してしまおうとはしない。
ただ強い恨みや未練がある場合は無視される程度の、weak習性でしかないようだが。
「そう言う訳で心から感謝するよ。まあ、これからも検証が必要なので、度々話を聞かせてくれると助かる」
「そんな、他人事のように。実際他人事だけど」
Zenoにそう指摘されたLucilianoはメモ帳から顔を上げて小さく「ふむ」と唸ると、彼なりにKasimの事を思いやった提案をした。
「師Artisan、適当に何人か見繕ったらどうだね? それで即座に問題解決だ」
「止めてくれ! 確かに即座に解決するけど、俺の気持ちはどうなるんだ!?」
それまで俯いたままだったKasimが、即座にLucilianoの提案を却下した。
「うーん、お見合いでもセッティングします? 好みのTypeと性格を教えてくれれば、ストックしている死体と霊から選んでUndead Transformationする事も出来ますけど」
「……気持ちだけで受け取っておく。うう、Gerda -san。俺はどうすればいいんだ……」
一途な思いを告白し、OKが貰えた。しかし、自分以外にも何人か囲う事が条件だといわれてしまった。
「複雑な悩みだよなー。訓練場の外でVandalieuとハイタッチしていた時は、こんな展開になるとは思わなかったぜ」
Undeadとの交際に関する-sama々な問題を指摘したFesterでも、想定しなかった問題である。
これが軽薄な男なら楽々と割り切って、すぐ他のUndeadに声をかけて人数を揃えようとするかもしれない。しかし、彼はKasimがそんな器用な性格ではない事を知っている。
恐らく、Gerdaへの想いを抱えたまま他のUndeadの娘と付き合う事に葛藤する事になるのではないだろうか?
「何とかならないか? Vandalieuみたいな極端な方法以外で」
そうZandiaとJeenaに話を向けるが、芳しい答えは帰って来なかった。
『何とかならないって言われてもなぁ……introductionできる人がいないよ』
『わたしもー。certainlyわたしは駄目だよ。ヘーカ-kunの方が可愛いし、持ち運びしやすいし、持ち運んでくれるし』
『それはあたしもだけど、そこまで聞いてないよ、Jeena姉ぇ』
Vandalieuを猫の子のように掴み上げて言うJeenaと、そのVandalieuを取り返して言うZandia。
「何でVandalieuがUndeadにモテるのか、魅了やGuidance以外の理由も少し分かった気がする」
それを見ながらZenoは、思わず呟いたのだった。
彼等には見えないが、Vandalieuの周囲には今も数え切れないほどの霊が纏わりついている。Undeadが同類を求めるには、これ以上無い存在だ。
こうしてLucilianoの研究reportと、Kasim少年の恋愛奮闘記に新たなる一ページが加わったのだった。