「修行の傍ら、Ghoulの少子化問題解決に取り組もうと思います」
そうVandalieuに報告を受けたZadirisは目を丸くしていた。
「それは……まあ、嬉しい事じゃが……他raceの女を襲って拉致し、儀式でGhoulにするという訳ではないのじゃろうな?」
「出来たんですか、そんな事」
Darciaから聞いたHuman社会で出回っているGhoulの情報に出来るとあったが、迷信の類だとVandalieuは思っていた。
「うむ、出来る。この集落でやった事は無いがの。このDevil Nestsで拉致できる他raceの女と言えばadventurerぐらいじゃからriskが高い。その上、一度成功してもそれをきっかけに他のadventurerが大勢儂らを退治しにやって来たら女を増やすどころではないしの」
対象が女だけである等Vampireより効率は悪いが、他raceを同族に変える方法はGhoulにもあるらしい。それで低い妊娠率と出生率を補うのが、本来のraceとしてのstyleなのだろう。
この集落はadventurer以外他raceの女を手に入れる当てがない事と、そのriskを冒してまでGhoulの女を増やす必要に駆られていなかったため、行われていなかったようだが。
「しかし、実際childがここ十年ほど生まれていないのは事実じゃしな。まさか坊やに年を取った順に若返らせてもらって維持する訳にもいかんじゃろうし、解決できるのなら大歓迎じゃ。儂も皆も協力は厭わん。
【Youth Transformation】というLife-Attribute Magicを極めた術者でも出来るか分からん事が出来る坊やなら、出来てしまいそうじゃし」
普通なら不可能だと思う事でも、このちょっと前に二age児に成ったばかりの坊やなら何とか出来てしまうかもしれない。自然とZadirisはそう思えるようになっていた。
「出来る限りやってみようと思います」
一方、Vandalieuにとってはこの言葉通りの気持ちだった。出来るという確証がある訳ではないし、そもそも彼の医療知識はEarthで見た医療番組や学校での授業、そしてOriginで死んだ科学者や研究者からAbsorptionしたものだ。
つまり対象がHumanであり、しかも Earthの場合は超音波検査器や顕微鏡等の検査器具、更にOriginの知識はそれらに加えて生命attribute等のmagicが使える事が前提となっている。
そもそも産婦人科の分野に特別詳しい訳じゃない。だから正直に言えば自信がある訳では無い。
しかし VandalieuのDeath-Attribute MagicでOriginの医学水準は、Rodcorteも認めるほど向上している。だとしたらInfertility治療でも出来る事があるかもしれない。
「でも、kaa-sanには秘密にしないと」
流石に二ageの息子がこの分野に関わるのは、Darciaも認め難いだろう。こうしてchildは親に秘密を持つようになるのかと、Vandalieuは実感したのだった。
真夏の暑さを青々と燃える【Demon Fire】のcoldで耐える頃、Ghoulの少子化問題対策に乗り出して一か月。VandalieuはあっさりとGhoul達の妊娠する確率が低い原因をthrust止めた。
方法は、健康なGhoulの男女十人ずつに「致して」もらう。そしてその前や後、最中にVandalieuが【Spirit Form Transformation】や【Detect Life】を使って彼らの生殖器や精子、卵細胞、内臓器官が正常に働いているか調べるというものだ。
結果分かった原因は、単純でfundamentalなものだった。
まず、Ghoulのmaleの精子はfemaleの体内で半日ほどしか活動できない。これはHumanと比べると圧倒的に短い時間だ。
次に、Ghoulのfemaleの卵細胞は排卵されてからなんと六時間しか持たない。これもHumanに比べると、圧倒的に短い時間だ。しかも、排卵の周期だけはHumanと同じで一か月に一回と来ている。
「ほとんどの場合受精する前に精子か卵子のどちらか、若しくは両方が死んじゃうのか。これじゃあ毎日でも致さないとchildが出来ない訳だ」
特に、排卵周期を調べる方法が無いGhoul達ではtimingを見計らう事も出来ないので、余計にそうだろう。
「なるほどー、そうだったんだ。でもVandalieu、さっきから何で子作りの事を『致す』って言うの?」
「……はっきり言うのに躊躇いを覚える年頃なので」
しなりの強い木の枝で編んだ寝台の上で横になっている、「致した」ばかりのBildeを見ないようにして。
『Earthだとこういう研究や治療は普通、被験者の方がEmotionalにきついはずなんだけどな』
何故か微妙な気分になる。いや、成果が出て嬉しいし、やる気だってある。でも微妙な……何となくやるせない? 切ない? そんな気分になるのは何故?
それはmaybe可愛い女の子達のInfertility治療の研究をしているからだろう。Earth、Originと異性に縁が無いまま終わって、Lambdaではこの状況。何か理不尽だ。はいはい、全部RodcorteのせいRodcorteのせい。
「じゃあ、その精子とか卵子とかが、死なないようにすればいいんじゃない? 出来る?」
Vandalieuが無表情に思い悩んでいると、Bildeがそう言った。彼女は精子やら卵子やらがどんなものなのかよく分かっていない-sama子だが、その意見は大正解だ。
「出来る」
そう、精子と卵子の寿命を延ばす事なんて簡単だ。VandalieuがDeath-Attribute Magicを使えば、明らかに致命傷を負っているHumanだって数日死なせずに置く事が可能なのだ。小さな精子や卵子の寿命を延ばすのなんて訳は無い。
「本当っ!? じゃあ解決じゃないっ、やったー♪」
寝台から跳ね起きてVandalieuを振り回して歓声を上げるBilde。しかし Vandalieuは彼女に同意できない。出来るが、解決とは言い難いからだ。
でも解決のためには前に進まなければならない。
「じゃあ、次は流産を防ぐ方法を調べたいんですけど……」
「でも今妊娠している人は集落に居ないし……分かった、あたし達が妊娠すればいいのねっ」
輝くBildeのSmiling Faceに、やっぱり微妙な気分になるVandalieuだった。
Death-Attribute Magicで精子と卵子の寿命を延ばしつつ子作りしてもらった結果、Bilde達はすぐ妊娠した。受精卵に確かなVitalityを感じて、やはり問題は精子と卵子があまりにも早く活動を停止するからだとVandalieuは確信した。
そして、Ghoulのfemaleが妊娠初期に流産を多発する原因も分かった。
受精卵のVitalityがweakのだ。
【Spirit Form Transformation】で調べたら、disease等の外的な要因は無く、Bilde達母親に原因がある訳でも無い。単純に、受精卵のVitalityがweakのだ。
更に母体の旺盛なVitalityが、uterus内の受精卵や胎児を異物と認識して攻撃してしまうようだ。
妊娠初期に流産が多発するのは、そのせいだ。
そして原因が分かれば後は簡単だ。これもDeath-Attribute Magicで受精卵や胎児が死ぬのを防ぐ。先延ばしにして、胎児が自力で生き残れるようになるまで待てばいいのだ。
そして吐く息が白くなる十二月、成果が出た。
「もう大丈夫だとお墨付きをもらって、Bilde達が喜んでいたぞ。certainly、Bilde達だけではなく集落の誰もが喜んでいる」
「うむ。坊やのお蔭でこの集落も新しい仲間を迎えられるのじゃ。心から感謝する」
BasdiaとZadiris、そしてVandalieuが竪穴式住居に集まっていた。
「延命措置を約三か月続ければ、後はstabilityすると分かりましたから。certainly、無茶をしなければですけど」
Ghoulの胎児は妊娠三か月を超えると、それまでのか弱さは何だったのかと思う程旺盛なVitalityを示した。一応Bilde達が出産するまで経過は観察するが、毎日見なければならないような事は無い。
Ghoulの子作りは妊娠できるかどうか、出来たとして最初の三か月を乗り切る事が出来るかが問題だったようだ。
「そうか。古より儂らGhoulはDevil Nestsの外では子が作れぬと言われていたが、上手く行けばDevil Nestsの外でも生きていけそうじゃな」
monstersはDevil Nestsの中では活性化し、外で生きていた時よりも旺盛にBreedingし、子も早く強く成長する。だから生存競争が激しく、adventurerが幾ら狩ってもDevil Nestsのmonstersは絶滅しないのだ。
そして半ばmonstersであるGhoul達もDevil Nestsにimpactを受けている。受けていて尚、少子化問題に頭を悩ませるconditionだったのだ。
だからDevil Nestsの外では子孫を残す事はdespair的だ。そのためGhoul達は餌になるmonstersは豊富でも、同時に自分達より強いmonstersも多いDevil Nestsで暮らしてきたのだ。
「後は精子や卵子の活動停止を遅延するmagicと、胎児の死亡を遅延するmagicを込めたmagic itemを、俺が作れるようになるだけですね」
「ああ、Vanに何時までも頼る訳にはいかないからな」
Ghoulの少子化問題を解決する方法は分かったし、実行も出来る。しかし、そのためにはVandalieuが女Ghoul達に毎日magicをかける事が必須だ。
VandalieuはOrbaum Elective Kingdomに行くつもりなので、それが出来る時間は限られる。それに……この状況が繰り返されるのはEmotionalに辛いものがある。
「しかし、坊やはmagicの習得はそれなりに速いが、Alchemyのような技術の習得は苦手なようじゃな」
Zadirisが言うように、現在Alchemyの習得を目指しているVandalieuだったが、上手くいっていなかった。
このLambdaには、二種類の【術】がある。一つはattribute magic。もう一つはAlchemyやSpirit Magic等の技術。
attribute magicは、単純に自分がどのattributeと相性が良くどれだけ使いこなす事が出来るかという意味だ。例えばZadirisなら光と風のattributeに適性を持ち、Vandalieuはdeath attributeの適性を持っている。
そしてAlchemyやSpirit Magic等の技術は、自分が適性を持つattribute magicの使い方を表すskillだ。
例えば、Spirit Magicなら自分が適性を持つattributeのAnimaとcommunicationを取り、Manaを渡して頼む事でmagicをActivateする技術。
そしてAlchemyは、Manaやmagicで-sama々な触媒を使用して薬をCompoundingし、magic itemを作り出す事が出来るskillだ。
Spirit Magicはdeath attributeのAnimaが存在しないから不可能だが、Alchemyを修めればVandalieuはdeath attributeのmagic itemを作り出す事が出来る。
実際、OriginではVandalieuからManaを搾り取って、数え切れない程のmagic itemが作り出されていた。certainly、body partの自由を乗っ取られていたVandalieuはその技術を知らない。Originで話を聞いた研究者の霊達から手に入れた知識は、Originの高度な科学技術やmagic itemによる製造機器の存在が前提になっているので役に立たない。
そのためZadirisのAlchemyを一から学んでいるのだが、【No-Attribute Magic】や【Mana Control】よりも手こずっているのが現状だった。
「この分だと、本当に出発が再来年になるかも。
そういえば、Basdiaはいいんですか? 今は俺が居ますから、childを作る事は出来ますよ」
BasdiaはBilde達のようにVandalieuの研究に参加しておらず、未だ妊娠していなかった。あれだけ妊娠したがっていたのにいいのかと気になったので尋ねてみると、意外な事に「いや、まだいい」と答えた。
「今妊娠すると、VanがAlchemyを習得した後作るmagic itemが本当に効くか試す時に実験台になれないだろう」
「まあ、確かにそうですけどageとかはいいんですか?」
Ghoulの女は初めて妊娠したageでAgingが止まる。だからまだ妊娠した事が無いBasdiaのappearanceは実ageと同じ二十五age……いや、もう二十六ageになっていた。
まあ、美人だし若く見えるからVandalieuはまだ数年は気にする必要は無いと思っていたが。
「よいのか? 確実さなら既に結果も出ておるし、坊やもこう言ってくれている。それに実験台にしてもお前だけが気にする必要は無いのじゃぞ」
「kaa-san、大丈夫だ。Vanは私の見た目が多少ageを食っても気にしないと言ってくれた」
「……その言い方だと坊やが相手のように聞こえるのじゃが」
「……それは短くても後十年以上かかるので、気にせずとっとと妊娠してください」
一時期VandalieuとZadirisがそういう関係なのではないかという誤解が集落で流行したが、それは既に解けている筈だった。なのに何を言っているんだという二人に、Basdiaは首を横に振った。
「言い方が悪かったな。何もVanと子作りしようと思っている訳ではない。ただ実験台になる事で見返りを求めているだけだ」
「見返り、ですか?」
Basdiaの言葉にVandalieuは首を傾げた。この集落で暮らすようになってから貨幣経済と全く縁が無いので、そういう発想を忘れていたからだ。……まあ、生まれた時からずっと縁が無いといった方が正解だが。
「ああ、二度目の子作りの相手をVanに頼みたい」
「……二age児には厳しいdemandでは無いでしょうか?」
「大丈夫だ、Vanが出来るようになるまで待つから」
「ふむ、それなら良いのではないか、坊や?」
「いや、良くないです」
確かに、一度妊娠してしまえばBasdiaのAgingは止まる。その後、三百age近くなるまでずっと若いままだ。だからVandalieuが第二次性徴を迎えるまで十年以上その時のappearanceのまま待つ事が出来る。
しかし、十代前半でchildを作る気になるはずがない。
「十代前半で親の責任とか、自覚に目覚めるはずないじゃないですか。そもそも、俺はHumanじゃなくてVampireとDark Elfの間に生まれたDhampirです。Ghoulとの間にchildが出来るかどうか分かりませんよ」
「安心せい、儂らGoddess Vida's New Racesは基本的に全てのraceと混blood可能じゃから」
「そうだったのか。安心だな、Van」
「ああ、再考を促す口実が消えた」
あっさりと問題解決。年寄りのwisdom恐るべし。
「それにVan、お前は男なのだから親の責任や自覚は考えなくていいと思うぞ」
「うむ、男の役割は外で命を懸けて食い扶持を狩ってくる事じゃからな。子を育てるのは女の仕事じゃ」
「いや、それGhoulの常識ですし」
命を懸けてというところが、男にとって都合が良いと言い切れないGhoul社会の厳しさか。
「いや、儂らGhoulじゃし」
「知ってます。でも、生まれてくる子がGhoulかどうか分からないじゃないですか。Human相手なら確実にGhoulらしいですけど、俺はDhampirですよ」
「むっ、一本取られたか」
そう言いながらも、Basdiaには諦めた-sama子は無い。
「では出来るようになったらすぐにとは言わない。Vanがその気になった時でいいぞ、VanもHumanよりずっと長生きだろうからな。
それにその時になったら私も気が変わっているかもしれん」
明らかに後半はVandalieuにこの場で拒否させないための方便だったが、まさか「気が変わるはずがない」と否定する訳にもいかないので、歯切れ悪く「はぁ」とnod。
「その時は私の娘の相手もしてやってくれ」
「少しは息をつかせてくれませんか? nightに二age児を追い詰めるのは感心できないですよ」
「ふむ、そうなると曾孫は坊やとの子になる訳か。まあそれも良いな。
そうじゃ坊や。ついでに、もし儂がこの先娘を産む事があったらその娘の初めての相手を頼めるかの?」
「何を言っているんだkaa-san! ageを考えてくれっ、もうkaa-sanは二百九十を超えているんだぞっ、私の時だって難産だったと言っていたじゃないかっ!」
「ん? まあそうじゃが、最近若返ったような気分でな。後何回かなら大丈夫じゃろう」
「その確信は何処から来たんだ!? 二年前にageのせいでmagicが使えずadventurer達に捕まる寸前だったのを忘れたのか!?」
飄々と爆弾発言をかまして撤回する-sama子も無いZadirisに、慌てた-sama子で本来なら寿命が近い母を止めるBasdia。自分の母親がVandalieuに見た目と同じageまで【Youth Transformation】されている事を知らない彼女の狼狽は、一向に鎮まる-sama子が無い。
それを見ながらドングリ粉で作ったクッキーを齧るVandalieuは、さっきまで自分を振り回していたBasdiaがZadirisに振り回されているのを見て、やっぱり母子だなぁと思っていた。後、ちょっとスッとした。
そんな場合じゃないと気が付くのは、口の中のドングリクッキーを飲み込んだ時だった。
《Vandalieuは、【Spirit Form】skillを獲得しました!》
ヒュッ。自分の耳を掠って、矢が飛んでいく。
「Katia、Goblin Archerが狙ってる!」
「何とかしてよ、Rikken!」
「無茶言うんじゃねぇ……よ!」
五人のadventurerがGoblinと……Goblinを含めたmonstersの群れと激しく戦っていた。
Goblin Archerの矢をbarelyで避けた女adventurer、Katiaに怒鳴られたRikkenは、引き絞った弓で矢を放つが、それはKobold Mageの護衛をしていたホブGoblinに防がれてしまった。
そう、GoblinだけではなくKoboldやホブGoblinまでこの群れには混じっている。
Dungeonならin any case、普通のDevil Nestsでmonstersが他のraceと協力する事はない。Goblinと共生関係にあるホブGoblinはいても不自然ではないが、Koboldが居るのは酷く場違いだ。
monstersにmonsters同士助け合おうなんて発想は無い。たとえadventurerという共通の敵がその場にいても共同戦線を張ろうなんて考えもしない。
お互いが天敵でお互いが獲物なのだ。
例外があるとすれば三つ。一つは、Humanに操られている場合。legend的なTamerは群れを超える規模のmonstersを従えていた。だが、そんなlegend的なTamerにmonstersを嗾けられなければならない理由が無い。
なら二つ目。
「まさかKingでも現れたって言うの!?」
Katiaは目にも止まらぬ速さでバスタードswordを閃かせ【Spinning Cut】を放ち、Goblin Soldier二体を纏めて切り捨てた。
「Kingだと!? 悪い冗談だぜ!」
盾職の仲間がそう言いながら自慢の盾でKoboldローグを殴り殺したが、彼も嫌な予感を否定しきれずにいる。
raceが違うmonstersが協力し合うのは、より強いmonstersに支配されている場合だ。強く、自分以外のmonstersを支配するwisdomとHumanにも通じる欲望を持つ個体。
亜人系のmonstersに極稀に出現するReign者、Kingの名を冠する個体の出現。
その脅威はAdventurer’s Guildによる災害指定の形で表されている。
それが現れたとすれば、GoblinとKoboldが協力して自分達と戦っている事からconjectureすると――。
「ブゴオォォォォォ!」
その最悪のconjectureを裏付けるように、豚の鳴き声に似ているが段違いの迫力が込められた咆哮を上げながら、巨漢の集団が密林の奥から現れた。
Orc。それも鎧と盾で身を固めた、Orc Knight。そしてその後ろで悠然とこちらを見下ろすのは――。
「クソっ! 三番目かよ!」
盾職の誇りにかけて、せめて仲間が逃げる時間を稼ごうと【Stone Wall】と【Stone Shield】のMartial Artsを連続使用して立ち向かう男だったが、それは雪崩を一人で受け止めるに等しい行為だった。
二meter前後の巨体であるOrcすら見上げる、三meter強のBodyを植物系MonsterであるTreantを使って作らせた玉座に預けて、Bugoganは側近や息子達の報告を聞いていた。
「ブギィ、ブモォヂギィ、フゴゴ、ブーモ」
Weapon Equipmentと鎧のProductionは順調であるようだ。全てのOrcとSlave共にそれに応じた武具が行き渡り、予備も十分だと言う。ただ、作り手のKoboldが一匹ダメになったようだ。
「ブモォォォ! ブモモン! ブッギィー!」
Soldier達の訓練は順調であり、Bugoganの命令があれば死を恐れず敵を粉砕するとの事だ。下等raceなのだからそれは当然だが、使えない駒より使える駒の方が良いので、精々忠義に励んでもらいたいものだ。
「ブゴゴゴン、ブギギ、ブゲブボホホ! ブッホホホ!」
Slave共の数はやや足りないようだ。GoblinやKoboldは虫のようによく増えるが、この前Ghoulの集落を襲わせた時に随分減ったそうだから、まだ追いついていないようだ。
適当に、しかしあの集落のテリトリーの外から補充するようにと指示を出して置いた。
「ブゴゴゴ、ブモォォォ、フボオブギギャーギャー」
そして相変わらず女が足りないようだ。使えない低能共はGoblinやKoboldの雌で満足していればいいものを。実際、野良Orcの殆どはそうして増えている。
しかし、ここにはもっと上等な女が居るのでそれを見るとenduranceできなくなるのだろう。
「ブゴ……」
思わず溜め息が出る。Goblinの雌でも貴重なHumanの雌でも低能共が孕ませる仔等、低能に決まっているだろうに。何故身の程を知らないのか。
しかし、低能共を支配してこその支配者であるし、駒として動く奴らの数を増やさなければならないのも事実。
「ブゴ、Ghoulフゴゴブモモモ」
これ以上Ghoulの集落を襲撃すると、あの集落に気がつかれる可能性が出て来るがいいだろう。近々またGhoulの集落を襲い、Ghoulの雌を生け捕りにする事を告げると、女が足りないと言い出したOrc以外もグブブと下卑た笑みを漏らす。
通常のOrcよりもずっと賢いとされるOrc Mageですら、欲望を抑える事が出来ないのだ。BugoganはこれだからOrcはと内心で呆れた。
全く、下位raceは何故こうも弱く愚かで、そして低劣なのだろうか。
いや、そうだからこそ私のような高貴な存在に支配されるしかないのか。
そう、我々Orcの上位種、Noble Orcに。
金色の、Mushroomを思わせる形に生えた頭髪を撫でてBugoganはそう考え方を変えると、手下共の愚かさも何もかも許容した。
GoblinやKobold、そしてOrcにはKingの名を冠した統率者が極稀に出現する。だがそれ等はあくまでもそのrace内での王でしかない。
それに対して上位種は、race全体が下位raceよりも優れたraceだ。High Goblin、High Kobold、Noble Orc。彼らは下位raceと比べて段違いの強さと寿命を誇っている。
かつてその姿が肥え太った悪徳Nobleに似ていた事から、皮肉を込めてノーブルの名を付けられたNoble OrcのRankは最低でも6。通常のOrcのRankが3である事を考えれば、その戦闘力は全くの別物だ。
知能も高く、寿命もHuman並。magicまで使える。そして下位raceを無条件に従える力を持つ。たとえ選ばれたOrc Kingでも、凡庸なNoble Orcの前に膝を突くのだ。
BugoganはそんなNoble OrcがReignするDevil Nests……この密林のような小さなDevil Nestsではなく、 Bahn Gaia continent南部を覆う大Devil NestsにあるNoble OrcのEmpireからやってきた。
ただし権力闘争に敗れた敗北者として。
だがMountain Rangeを生きて越えたBugoganが密林に辿り着いた時、敗北者は野望に燃える征服者へと姿を変えた。
下位race共を従え己のEmpireを築き、いずれはHuman共の国を征服する。それを目標にBugoganは努力と苦労を重ねた。
Devil Nestsに幾つか存在したOrcの集落全てを自分にDependentさせ、しかし知能が低い者は猿にも劣る愚かなOrcを排除し、少しでも頭の良い個体を選別して上の地位に付けた。数を増やすためにGoblinやKoboldの雌を攫い、優れたminionsを増やすために、Bugogan自ら醜く汚らわしいGoblinの雌の腹を使って息子を作った。
それでありながらGhoulやadventurerに自分達の存在を隠し、力を蓄えてきた。そうして十年、BugoganのEmpireは遂に大きな勢力となった。
出来損ないを間引いた結果残った息子は三人、訓練を生き残った僕であるOrcは三百匹、そしてSlaveであるGoblin、Koboldがそれぞれ百匹程。飼いならした魔獣系のmonstersやその他が数十匹。
Adventurer’s Guildがこの数を知れば、速やかに緊急災害指定依頼を出すだろう。国の内外からBClass以上のadventurerを掻き集めるに違いない。だから、Bugoganはadventurerにバレないようにしてきた。襲う時も全て捕えるか殺すかしろと、手下達には徹底させている。
そしてadventurer以外にBugoganが相手をするのは面倒だと倦厭しているのが、Ghoulだ。Ghoulは個体としての強さはOrcと同程度だが、頭が良い。GoblinやKoboldは同じrace内でも群れが別なら平気で同士討ちを始めるが、Ghoulは共通の敵を前にすると過去の諍いを捨ててあっさり共闘する。
それで負けるとまでは思ってはいないが、Bugoganの手下の数が大きく減るのは避けられない。だからGhoulを襲う時も規模の小さな集落を、一匹も残さないように徹底してきた。
そのGhoulの集落の中で最も厄介なのが、老Ghoul Mageが率いる百人規模の集落だ。数が多く、その癖一匹一匹の質が高い。BugoganがReignするまで、その集落のGhoulにとってOrcはやや強いがProvocationにすぐ乗る美味い肉でしかなかった。
そんなGhoul Mageの集落とは事を構えたくはなかった。しかし、Bugoganにとって良いnewsがSlaveにしたKoboldから齎された。
近々、問題のGhoul Mageが寿命で死ぬらしい。
「ブモモモモ、フゴーフゴーホ」
Bugoganが命ずると、この玉座の間で唯一Orcではないmonsters、毛が白くなった老Koboldが一歩前に出た。
この老KoboldはBugoganがいたMountain Rangeの向こうにある南の大Devil Nestsでも滅多にいないSpiritualist、Kobold Shamanだった。
そのAbilityで霊と交信し、数々の預言を齎してBugoganに貢献する事でEmpire内でのKoboldの地位を守ってきた。Ghoul Mageが近々老衰で死ぬというのも、このKobold Shamanが齎した預言の一つだ。
しかしそのKobold Shamanの耳はペタリと伏せ、肩を小刻みに震わせていた。モゴモゴと、長々と小さな声で呟くが、別に霊と交信している訳ではないようだ。
その呟きを聞いたOrc Mageが、BugoganにKobold Shamanの報告を通訳する。
『老衰で死ぬはずのGhoul Mageは、何故か生きている。これからも殺さない限り死なないだろう。何故かは分からない、最近何故か霊達が自分の言う事を聞かないので、集落内で何が起きているのかも分からない』
それを聞いたBugoganは自分の髪を指で撫でながらしばし黙考し……玉座に立てかけていた愛用のMagic Swordを掴むと、Kobold Shamanに向かって振り下ろした。
「ギャビッ!」
一撃で脳天から腰まで真っ二つにSlash裂かれたKobold Shamanの死体を食料の足しにするように命じると、Magic Swordに付いたbloodを布で拭う。
下等なKoboldだが役に立つと一目置いてやったのに、あの報告は何だ。耄碌したのはGhoul Mageではなく奴ではないか。まったく、これだから二本足の駄犬は。
「ブゴゴー! Bubobio、ブゴブオン、ブホッホ、ブヒヒブモ!」
この日は悪い事だけで終わるかと思ったBugoganだったが、良い報せもあった。
adventurer共を捕虜にして攫うためにSlaveと僕を率いて出ていたBugoganの長子、Bubobioがadventurerを無事捕まえた。
五匹の内雄一匹は死んだが、残りの雄一匹と雌三匹は多少傷ついているが生け捕りにしたとの事だ。
adventurerを捕まえたとの報せに、特にその中に雌が三匹も含まれている事に僕達が沸き立つ。
「ブゴブ、ブッヒヒブ、ブホホヒブヒブヒ」
しかしまずはこれから征服するHuman社会の情報を吐かせなければ。母体にすると一晩種を付けただけで壊れてしまうHumanの雌も少なくないのだから。
「ブホホ」
だが、その後は雌三匹を母体に、雄は食料に。特に手柄を上げたBubobioには三匹の雌の内一匹を専用の雌にしてよいと褒美を出す事にした。
信賞必罰は支配に必要な事だから。
一週間後。
湿度の高い密林でも、比較的澄んだ冬の空気を吸いながらゴリゴリと薬草やら鉱石やらMagic Stoneを砕いて粉にし、Alchemyの触媒を作っていたVandalieuは、ふと動きを止めた。
「坊や、もっと集中しなければskillの獲得が何時になるか……坊や?」
そのVandalieuの手際を見守っていたZadirisは、手を止めたのを注意しようとして彼の異-samaな-sama子に戸惑いを浮かべた。
何も無い虚空を見つめ、頷いたり首を横に振ったり、「はぁ」「へぇ」と相槌にも取れる声を出したり。
「坊や、根を詰め過ぎたかの? 今日の修行はこの辺にしておくか?」
修行をさせ過ぎかと心配になったZadirisがやや躊躇いがちに声をかけるが、どうやらFatigueが溜まって幻覚を見ていた訳ではないらしく、Vandalieuはぐるりと首を回して彼女を見た。
「今、Kobold Shamanの霊から教えてもらったんですが、このDevil Nestsの奥にNoble OrcがReignするOrcの大集落が出来ていて、この集落を邪魔だと思っているようです」
Bugoganの情報隠蔽、霊による情報漏洩によって失敗。