二人の意識は二百年間ずっと頭に霧がかかったようなconditionだった。酒に酔っている時よりずっと酷い。
酔っている時はidiotみたいな事を考えたり、喜怒哀楽の落差が普段より激しくなったりしたけれど、それでも考える事は出来たからだ。
あの二百年の間は昔のMemoryを思い出す事も出来ず、body partを自由に動かす事も出来なかった。
自分とMemoryやbody partの間を何か透明な物で隔てられているような、そんな感覚だったとZandiaとJeenaは覚えていた。
時間の感覚も曖昧だったので、約二百年が経っていたと分かったのも後からだったが。
だが、その曖昧な感覚の終わりは唐突に訪れた。
真紅と紫紺の瞳をした、Dhampirの少年に薄暗い場所で出会った時だ。その背後には、ひどく懐かしい人もいた。
それまで疑問を覚え無かった老人の声で発せられる命令に対する、強い拒否感と嫌悪感を覚えた。だが、結局逆らう事が出来なかった。
そんな彼女達も他のZombieと一緒に鹵獲され、連れて行かれた先で【Surgery】を受けると、一気に楽に成った。
それまで自分達がどれほど苦しかったか、苦しい事が普通に成っていた事に驚き、そしてある程度Memoryや思考力を取り戻した。
自分達が死に、Undead Transformationしている事を自覚した時の驚き。仲間のBorkusもZombieに、そしてHartner Duchyに避難したはずのPrincess LeviaがGhostと化していた事を知った驚愕。
そして滅びたはずのTalosheimが復興しており、二百年前を超える規模に広がりつつある事を知った。
『あの時の荒れっぷりは、酷かったぜ。今すぐ乗り込んでHartner Duke 家の男全員を去勢して断絶させてやるって、恐ろしい事を吠えやがって。しかも止めようとした坊主を掴み上げてそのまま連れて行こうとするしよ』
『そうだよ、Zandia。-kunは第二Princessなんだから、慎みを持たないと』
『いやいやJeena姉ぇ、あたしは皆殺しにしてやるって叫んだだけだよ。去勢とか叫んだのも、陛下-kunにIronクローしたまま拉致しようとしたのも、Jeena姉ぇだからね』
『あの時は凄かったですね……』
『二人のSurgeryを覗こうとしていたLuciliano -sanが踏まれたのは、fineプレーでしたね。誰も覗きの件で怒りませんでしたし』
「それは肋boneと引き換えじゃったし、Surgery着一枚で走り出したのはJeenaじゃからな。ある意味見られても自業自得というものじゃ」
タレを付けて肉を焼いているLiving Maid ArmorのSalireとRita、そして「Zandiaとnameが似ているから」と言う理由で何故か同行する事に成ったZadirisが、数か月前の出来事を思い出してしみじみとnod。
あの時は踏んづけたLucilianoでJeenaが滑って転んで、その隙に取り押さえて落ち着かせる事が出来た。そのachievementと犠牲になった肋boneに免じてLucilianoも覗きについては免罪されたのだった。
『私はもう無職だから良いのだよ。templeはNuaza -kunが上手くやっているし……それにあの時の事は髭の人以外には謝ったし、陛下-kunも許してくれたじゃないか。『俺も初めて真実を知った時は、反射的に無差別虐殺に走りそうになったので、その気持ちは分かります』って』
『後半はその通りだけど無職って……Nuaza -kun会う度に縋りついてtempleに戻ってくださいって頼んでるのに』
『死んでもマイpaceさは治らなかったって事か。まあ、あいつもすぐ諦めるだろ』
その後、Pure-breed Vampire Gubamonが施していた仕掛けを取り出した事で更に弱体化したZandiaとJeenaは、生前の力を取り戻す為早速levellingを始めた。
だが、思っていたより二人は苦戦した。生前はJeenaがＡClass、ZandiaがＢClass adventurerで、EARTH DragonやStone Dragonを当たり前のように倒していた彼女達だが、自力でUndead TransformationしたBorkusとは違い死体をGubamonに弄られてUndead Transformationしたためか、自分の意思では上手くbody partを動かす事が出来ず、magicも上手く制御できなくなっていた。
ぼんやりと立っていたVandalieuを力任せにIronクローする事は出来ても、動き回るmonsters相手にWeapon Equipmentやmagicを当てる事は難しかった。
お蔭で最初はGoblin相手にmagicを乱射し、Halberdを何度かfullスイングして、やっと倒せるほどだった。
Weapon Equipmentを手にしたばかりの新米でもここまで苦戦はしないと落ち込みながらも、monstersやMikhailを相手に地道に新しいbody partの動かし方を学びつつ、生前の力を取り戻していった。
状況が好転したのは、何と今朝の事だ。【Parallel Thought Processing】skillを獲得したLegionの人格の一つ、Isisが二人に生前の力を取り戻す【Surgery】を行ったのだ。
『Undeadが既に手を加えた方々の、それも初めて見る異raceのbody partに手を加えるのは畏れ多いのだけど』
「Isisの【Surgery】は、半ばDeath-Attribute Magicですから気にしないでください。それに俺、その辺りのprideは持ち合わせていないので」
Surgeryはしても医師としての自覚は無いVandalieuは、そう言ってLegionを見て驚いている二人を指して、「さあさあ」とSurgeryを促す。
『じゃあ、遠慮無く』
『あたし達が遠慮したいよ！？』
『まあそう言わないで。今のbody partだと手が沢山あるから、前世より凄いSurgeryが出来る気がするのよね』
『あ、私はちょっと急用を思いついたから、じゃあねー』
『Jeena姉ぇっ！ 上半身だけ飛んで逃げるのはズルイよっ！』
『それにHuman以外のUndeadを弄るのは初めてなのよ。……本当は弄びたくてたまらないの』
『ひぃっ！？ 今『いじる』とか『もてあそぶ』とか、凄い嫌な事言ったよねぇっ！？』
『うわぁっ、このFlight装置lower bodyからあまり離れられないのを忘れてた！ 断面を弄っちゃだめぇっ！』
「じゃあ。俺は懲りないpupilsと一緒に外で待ってますねー」
「ひぃっ！？ 後生だから見せてくれ、師Artisanっ！」
肉のtentacle play染みたSurgeryの結果、生前には数歩及ばないものの劇的に力を取り戻す事に成功した。
『Originではどんな死体も生前と同じ動きが出来るようになったのに……やはりworldが異なるせいで物理法則だけでは無くmagicの効果も異なるのかもしれないわね』
どうやらIsisの人格が行う【Surgery】で力を完全に取り戻せるのは、LegionのRank以下のUndeadに限るようだ。
Vandalieuは意識した事は無かったが、worldが異なるのだからそんな事もあるのかもしれない。もしくは、RodcorteのCurseによって前世の経験を現世に持ちこせなかったので、一から独学で覚えなおしたためLambdaに適応出来たのかもしれない。
他にもanother worldからreincarnationしてmagicを使用した人物には【Gungnir】のKaidou Kanataが存在したが、Vandalieuと遭遇するまでも後も、特にmagicの不具合について口に出していなかった。
単に彼の短い三度目の人生では不具合に気がつく時間が無かったのか、Vandalieu以外のReincarnator達にはLambdaにreincarnationする際Rodcorteが、不具合が起きないように調整を施していたのか。
恐らく後者だろう。
それはin any case、内臓やmuscle organizationを弄り回すtentacle playを受けた結果とこれまでの努力の結果、それまでRank６相当だった二人は、Rank８相当の力を取り戻した。
そしてこうして『Barigen減命山』でlevellingをしているのだった。
『やっぱりBorkusがいないとあたし達二人でRank９は辛いねぇ。ところでこのDungeon Card、凄く便利だね。Dungeonも町の近くに移設されてるし、凄いよね、陛下-kun』
実ageは十代後半だが、十代半ばかそれ以下に見える容姿のZandiaはVandalieuから戻された左手を火にかざしながら言った。
褐色の肌もそうしていると見かけだけはbloodの気が戻ったように見え、普通のBishoujoに見える。……Giant raceであるため、身長は二meterだが。
『ですよねーっ！ Bocchanは凄いですよね！』
『うん、Manaも凄いし、Talosheimの恩人だし、あたし達も助けてくれたし、姉-sanも助けてくれたし、Hartner Duke 家の奴等にSlaveにされた皆も助けてくれたし、どうやって恩を返せば良いのか分からないよ』
ZandiaにとってVandalieuはそんな人である。もう自分はPrincessでは無くZombieで、彼はそのmasterだからそう接した方が良いのかなと思ったら、「Borkusなんて未だに『坊主』って俺の事を呼びますし、呼び捨てでも良いですよ」と言って、自ら呼び捨てが良いよとappeal。
滅びたはずの国も自分が囚われている間に復興してくれたし、仮にも王族の端くれとして返せない程の恩義を受けている相手だ。
『じゃあ、やっぱり結婚ですか？』
「それは気が早いじゃろう、まず婚約からでは無いかの」
『わぁ、おめでとうございます！』
『……うん、それに一番驚いた。って、言うか驚いてる』
半眼ではしゃいだ-sama子で話すRita達を睨むZandia。彼女が最も驚いたのは、何時の間にか自分がVandalieuの結婚相手Candidateの一人になっていた事だ。
『そりゃあ、あたしも一応王族だよ、第二Princessだよ。Hartner Duchyとの交易が始まってからは、Duke 家への嫁入りの話もあったよ。別に生前から好きな人とかも居ないし、結婚って親が決めるもんだって思ってたさ』
そのVandalieuが自分だけではなく将来的にはLeviaも娶る事に成っていて、それ以外にも正式には決まっていないが、複数の妻をめとる事になるだろうとされているのには不満は無い。
Talosheimはoriginally男女間の関係については奔放な考え方の者が多かったし、今の新生Talosheimの状況を考えれば各raceから複数の妻を娶るのは、寧ろ必須だ。
bloodと婚姻の繋がりは国を、特に部族単位で生活していた者達の絆を強める効果がある。
民主主義の概念が無く、十万年周囲から孤立してきたTalosheimの王族だからこそ、Zandiaはそう思う。
人々が一つに纏まるのに必要なのは、絆と信仰であると。
それにVandalieuに不満がある訳では無い。小さいのは異raceだから仕方ないし、これからもう少し大きくなるだろう。預かってくれていた左手も、爪の手入れまでして大切に扱ってくれたのが分かる。
死後の話である事を除けば、悪のVampireから助け出してくれた相手だ。ロマンもばっちり。
だから、別に何時の間にか結婚相手が決まっていた事に不満は無い。無いのだが――。
『問題なのは、あたしがZombieだって事だよ！ 何でっ！？ 何でZombieと結婚するの！？』
『Zombieの何が問題なんですか！？ 私達なんてLiving Armorですよ！？』
『世継ぎが大問題だよ！？』
Zandiaが問題視しているのは、自分がZombieである事で結婚に意味を見いだせない事だった。
「まあ、言いたい事は分かる。blood縁も何も無いって事じゃろう？」
『そうなんだよ。Undeadがchildを作れるはずないじゃないか、実際Vida's New RacesのVampireやGhoulならin any case。
そりゃあ政略結婚ならchildを作る以外に色々あるのは分かるけど……陛下-kunもうTalosheimの王-samaじゃん。町にバンバン石像建ってるじゃん。あたしと結婚して得る物何も無いじゃん……』
ため息を吐こうとしてlungに空気が残っていない事に気がついたZandiaは、改めて息を吸ってから吐いた。
『そりゃあ、姉-sanなら分かるよ。Housework出来るし、包容力あるし、なんだか生きてた頃より露出度増えてるし、燃えてるし、body partの凹凸、特に胸はTalosheimでJeena姉ぇと二大巨頭なんて言われたぐらいあるし。
それに対してあたしはmagicの腕に自信はあるけどそれだけで、body partの凹凸も貧相――』
『あ、それ以上はZadiris -sanに悪いですよ』
『えっ？ あ、ごめんっ、気にしないで！』
「そう言われる事自体が傷つくんじゃが……とりあえずRita、没収じゃ」
『ああぁっ！ 私の分のお肉が！』
『body partの凹凸はin any case、別に良いんじゃない？ 結婚してもしなくても』
マイpaceに肉を食べ終えたJeenaは、悩むZandiaに対してあっさりとした口調で言い放った。
『Jeena姉ぇ、そんな簡単に……』
『だって、嫁になるかLoverに成るかの違いでしょ？』
『違うっ！ 違うよ、Jeena姉ぇ！』
『そうなの？ 私は身も心も捧げるつもりだけど。陛下-kun、私のbody partを気に入っているみたいだし』
生前『Saintess of Healing』のsecondary nameで称えられたJeenaは、豊かな胸の膨らみ――では無く逞しい上腕二頭筋や、割れた(途中で本当に上半身とlower bodyで割れている)腹筋を指差して言った。
『Saintess』と呼ばれている二百age代の、Giant raceとしては妙齢のfemaleであるJeenaだが、服やDefense EquipmentはGiantな盾以外は最低限である。
それは彼女達Giant raceにとって己のBodyは誇るべき美しいものであり、特に『Goddess of Life and Love』VidaのClergymanであるJeenaにとっては、己のVitalityを周囲に対して見せる事は一種の信仰だからだ。
それは自身がUndeadであるZombieに成っても変わらない。
『child云々は別に大丈夫でしょ、陛下-kun寿命長そうだからそうそう必要に成らないだろうし』
『そりゃあそうだろうけど……』
『寧ろ私は結婚して欲しい。美味しいご飯に、Salire -chanとRita -chanとZadiris -chanがついて来るし』
『うわぁ、予想通り過ぎるね、Jeena姉ぇ』
そして二・七meterのGiant raceでもfemaleとしては長身の部類に入る彼女の好みのTypeは、「自分より小さい事」であった。
『いやー、照れますね』
「孫のいる儂を、-chan付けにするでない。こう見えてももうじき三百じゃぞ、儂は」
『生きていた時と合計すれば、私はもう四百過ぎだよ』
そう他愛も無い話をしながら、時折まるで置物のように沈黙を保ったまま動かないBorkusに視線を向ける。
『……』
BorkusはDungeonに入ってから考え込む事が多くなった。戦闘中では普段通りになるが、休憩中はずっとこんな-sama子だ。
『どう思う？ 絶対Zandiaに『坊主に貰われちまえ』って言うと思ったのに、置物みたいに大人しくて気持ち悪い』
『気持ち悪いって……確かに気持ち悪いけど』
『お二人の中で、Borkusがどんな人なのか分かる一言ですね』
JeenaにとってBorkusは頼りになる仲間であると同時に、ヤンチャな親父。Zandiaにとってはもう一人の父親的存在であると同時に、友達のような男である。
そしてBorkusにとってJeenaは恍けたImouto分、Zandiaはまだ危なっかしいもう一人の娘のような存在だった。
『気持ち悪いってのは、ねぇだろうが。俺も頭を使い過ぎて気分が悪いがよ』
そんな訳で遠慮のない二人に、Borkusは唸るような口調で言った。しかし JeenaとZandia、そしてfemale陣は容赦が無かった。
『悩むのは頭を使うとは言わないよ』
『そうそう、あたし達Undeadは時間の感覚が鈍りやすいんだから、長考すると何時までも終わらなくなっちゃう』
『appetiteが無いなら、お肉ください』
「まあ、言ってみたらどうじゃ？ 大体誰に何を相談したいのか想像はつくが」
どうやらBorkusの悩み事は、皆お見通しのようだ。半分が髑髏の顔でも、考えている事が顔に出てしまうのだろうかと、Borkusは頭蓋boneだけの方の額を押さえた。
だが、これから打ち明け協力を頼む事は、ZandiaとJeenaにとっても、旧Talosheimにとっても裏切りに等しい事だ。らしくなく悩みこんでも、無理はないだろう。
『じゃあ言うがよ……Mikhailのbastardを木人の役目から解放してやりたい。無罪放免で自由の身にってのは難しいだろうが、せめて口は聞けるようにして、訓練所の教官って程度に出来ねぇかと……それで、坊主に頼もうと、思うんだが……』
Borkusが悩んでいたのは、旧Talosheimが滅びる原因になったMirg Shield Nationの元Hero、『Divine Spear of Ice』のMikhailの処遇の改善だった。
今は体内に複数の【Demon King Fragment】製の安全装置を兼ねた自爆装置を埋め込まれ、body partと口の自由を奪われ訓練場で木人として使われている。彼が自分の意思で動かせるのは、eyeballぐらいだ。
Heroの末路としては悲惨過ぎるが、Mikhailは旧Talosheimの国民にとって国を滅ぼした憎い敵だ。
そしてBorkusにとっては自分自身を殺した相手でもある。
『だがまあ今は奴もUndeadで、今じゃ故郷にも帰れねぇ。Aldaへのreligionももう残ってねェし、生前にやった事は反省してる。
別に同情した訳じゃねぇが……せめて犯罪Slaveくらいの扱いに成らねぇ……か……なぁ……なんて……』
ただでさえ光の無いドロリとしたUndeadの瞳に、じっとりとした視線を込めて見つめて来るZandiaとJeenaに声が途切れ途切れになるBorkus。
Mikhailは、二人にとっても自分自身の仇だ。Borkusが彼に殺された後、Jeenaは刺殺され、ZandiaはLeft WristをSlash飛ばされ、同じように倒されている。
その後はMikhail自身もGoddess Vidaの遺産を破壊するために番人のOrichalcum Dragon Golemに仲間とともに挑み、仲間は全滅。愛槍『Ice Age』も失い、命からがら撤退したところをBorkus達の死体を回収しに来たVampire達と鉢合わせ。
Vampire達を撃退したものの傷は深く、治療が間に合わず死亡。その後死体を奪われ、Pure-breed Vampire GubamonのHero Undead collectionに加えられてしまった。
『んー……まあ、良いんじゃない？』
『あたしも、まあ良いかな。無罪放免なら抵抗有るけど、犯罪Slave扱いぐらいなら別に』
しかし、二人の返事はBorkusに賛同する物だった。
『マジでか！？ あのMikhailだぞ！？』
『驚きです。訓練の時はあんなに激しく嬲り者にしていたので、てっきり腸がまだ煮えくり返っているのかと思ってました』
『煮えてないよ、ひんやりしてるよ、私の腸。見てみる？』
『いやそれには及ばねぇ』
浮かびかけたJeenaの上半身を、Borkusが彼女の頭を掴んで押さえ込む。どうやら、意識して上半身だけで浮かぶことが出来るようになったJeenaは、それを自慢したくて堪らないらしい。
「で、何故じゃ？ Undeadは一度恨んだ相手を中々許す事は出来ないと前に坊やが言っておったのじゃが」
『別に許した訳じゃないけど、一度倒したら気が済んだって感じかな。Jeena姉ぇもそうだと思う』
以前訓練場でMikhailと対峙した時、まだ力を少ししか取り戻していなかったZandiaとJeenaは、離れた場所から攻撃magicを彼が倒れるまで延々と唱えると言う、戦法を取った。
一定の範囲内から出られない、ある程度近づき構えを取らないと訓練を開始する事も出来ないMikhailは、それを棒立ちになって受けるしかなかったのだ。Mikhailは木人扱いなので、もしもの時も自分の身を守る事を優先できないように細工されている事を知った上での戦法であった。
それで一度倒したため、二人の中の恨み辛みはかなり薄れたようだ。
『それにBorkusはこうして私達より元気だし……そもそもMikhail一人にやられた訳じゃないしね、昔のTalosheim。
maybe、Mikhailが参加しなくても結果的には滅びていたと思うよ』
『な、何ぃっ！？ 俺達があいつのいないMirg Shield Nation軍に負けるって言いてぇのか！？』
『うん。多少遅れたと思うけど』
Mikhailが戦争に参加したのは、時期的にはTalosheimからPrincess Levia達が避難して、残ったBorkus達が城壁を頼りに籠城した後だ。
当時はHartner Duke 家からの援軍を期待していたが、最近知った真実では当時の当主はAlda Fundamentalism者で、Talosheimを見捨ててPrincess Levia達が持ちだした国宝を奪う事を選んだ。そのため、実際には援軍が存在しない篭城戦だったのだ。
そうなるとMirg Shield Nationとその背後のAmid Empireが諦めるまで耐えなければならないのだが、当時のTalosheimにそれが可能だっただろうか？
『無理。絶対無理』
きっぱりと第二Princess自ら敗北を言い切った。
『そんな事無ぇ！ Mikhailがいなきゃ俺達は勝てたんだ！』
「お主はMikhailを恨んでいるのか、待遇を改善したいのか、どちらなのじゃ？」
どうもBorkusにとって、強敵に負けるのはまだenduranceできるが有象無象の軍に負けるという想定はprideが許さないらしい。
『気持ちは分かるけど仕方ないって。当時は確かにあたし達の他にBarigenやOgbarnも揃っていたけど、城壁一つで戦える人も今よりずっと少なかったんだよ。しかも Dungeonは全部町の外だから、籠城中は食料や物資を補給できないし。
certainly敵兵の一万や二万は倒せたと思うけど、最後は負けたと思うよ』
『Earth』から見ると超人的なbody part Abilityを持つ者達が多数存在する『Lambda』では、度々個人が戦況をひっくり返す事がある。
しかし、限度があった。
Mirg Shield Nationとその背後のAmid Empireが戦力を投入し続ければ……宗教的な熱狂に任せて普通なら割に合わない大量の犠牲に目を瞑ってSoldierやKnightを送り続ければ、MikhailがいなくてもTalosheimはloseいただろう。
いよいよと成ったら、Empireは自国の上位adventurerや、それに相当する切り札を切る事も出来たのだから。
『だから、そう言う訳でMikhail個人に対する恨みは……まあ、もう良いかなって気がする。彼も二百年間、あの気持ち悪い爺に撫でまわされて、大変だったろうし』
『うん、どちらかって言うとあのGubamonや他にも関わっていたPure-breed Vampireの方が憎いかな。後、他にもHartner Duke 家とか、Mirg Shield Nationとか、Amid Empireとか。私達、奴等には断種こそ相応しいと思うの』
『Jeena姉ぇ、こっそりあたしを巻き込むの止めてね』
TalosheimにはほぼPrime MinisterをしているGeneralのChezareや副GeneralのKurt等、Mirg Shield Nation出身者が複数いるが、彼等に恨みをぶつけるつもりも無いようだ。
因みに、『Goddess of Life and Love』Vidaを信仰する旧Talosheimでは、去勢による断種は死刑と同等かそれ以上の刑罰とされている。あまりに重い刑罰であるため、十万年間一度も実際にはされなかった、horrorの象徴だ。
Hartner Duke 家へのある程度の仕置きが既にVandalieuの手で済まされていた事は、Duke 家の男子にとって幸いだったかもしれない。
『ぬぅ……まあ、そう言う理由なら……』
『何故か途中でBorkus -sanが説得される側になっています。でも、一番難しいのは、Bocchanを説得する事だと思いますよ』
「坊やは根に持つTypeじゃからなぁ」
次の日、『Barigen減命山』から戻ったBorkusは、断崖絶壁から飛び降りるつもりでMikhailを木人から犯罪Slaveと同じ待遇にする事を嘆願した。そんな彼に、Vandalieuは何時にもまして生気の無い瞳を向けた。
周囲には金銀や鉄や銅、黒曜石にMythrilやAdamantite、宝石、Borkus達には見慣れない鉱物や貴金属の大小の塊が散乱している。
その真ん中でVandalieuは金の小山に腰かけていた。
「具体的には、Mikhailにある程度の行動の自由を与えて、自爆装置を取って欲しい、と？」
『お、おう、頼めねぇか？』
妙な迫力を漂わせるVandalieuに、若干及び腰になるBorkus。その背後で、Zandiaは心配そうにしているDarciaの霊に話しかけた。
『なんだか荒んだ-sama子だけど、何かあったの？』
『それがね、【Golem Creator】ってJobに就いて、そのskill効果で色々な物を無から作れるようになったんだけど――』
『ちょっと待ってっ！？ 無から作るってもしかして周りに散らばっている宝石とか貴金属の事！？』
『そ、そうだけど？ 後、MythrilとAdamantite、Death IronとHell CopperもVandalieuが出したのよ』
何故Zandiaがそこに食いつくのか分からない-sama子で、しかし少し自慢げに答えるDarcia。Zandiaはもう一度周囲に散乱している鉱物類を見回し、『うわぁ……』と息を吐いた。
『なんて言ったらいいか分からないけど、凄い』
『でしょうっ♪ でもね、Orichalcumが創れなかったのよ』
「いや、創れたら凄すぎじゃ。確かAlchemyの三大奥義の一つで、坊やが唯一実現していないのがそれじゃろうに」
【Golem Creator】になったVandalieuは、-sama々な物質を試しに創り出した。黒曜石や大理石、通常の鉄や銅、金銀、宝石類、鉛、このworldでは軽銀と呼ばれるアルミ。そして自分で発明したDeath IronやHell Copper、life gold、spirit silver。全て作る事が出来た。
必要なManaは創り出す物質の種類とその量によって変わるが、自然に存在する量が多い物質ほど少ないManaで大量に創る事が可能だ。そのため、銅よりも鉄の方が簡単に作れる。
そして自然界に存在しないDeath IronやHell Copperや、life goldやspirit silverは、大量のManaを必要とする。鉄や銅を創ってから、それにdeath attributeのManaを浴びせながら【Inanimate Aging】の術を使う従来の方法を使った方が、余程効率的な程だ。
そして物質を直接道具の形にして創り出すには、更にManaが必要になる。先を細く尖らせるぐらいなら簡単だが、鉄のknifeや、ブリリアントカットされたダイヤモンドを直接創ろうとすると、数倍から数十倍のManaが必要になる。
鍛え上げられたDeath Ironの剣やHell Copperの鎧を創り出そうとすると、十億を超えるManaを持つVandalieuでもMana切れを起こしかねない。
総評は、「無から物質を創れる。しかし効率が悪い」といったところだ。VandalieuのMana量が無ければ、とても有用とは言えない。
普通の金属や、貴金属でもDungeonでMiningしたり購入できるのならその方が良いだろう。
だが、Vandalieuが創りたかったのはOrichalcumだ。もしくは、Orichalcumの形を精密にcontrolし、変化加工できる力。
しかし、どちらも【Golem Creator】のJobに就いただけでは手に入らなかったのだ。
『前よりはずっとOrichalcumの形を自由に変える事が出来るようになったのよ。でも、Resurrection Deviceを完全に修理する事は出来なかったって』
そう言ってDarciaが視線を向けた方を見てみると、そこには、不完全なconditionでResurrection Deviceを動かした結果できた、Legionの素に成った蠢くchunk of meatで再び一杯になったプールがあった。
levelling中のLegionが帰って来たら、彼女達とFusionする事になるだろう。
「やはりそれで落ち込んでおったのか」
『Resurrection Deviceか……やっぱり女Kami-samaでも出来なかった事を可能にするには、大変だね』
『ですねー』
完成すれば死者の蘇生を可能とするGoddessのmagic装置。それを前にしてもZandiaやRita、Salireは自分も生き返りたいとは思わなかった。
彼女達に限らず、TalosheimのUndeadには「生き返りたい」と言う欲求や未練はほぼ無いのだ。通常のUndeadなら違うのかもしれないが。
『でも丁度良くBorkus -sanが来てくれたから、これできっと元気になるわ』
そうDarciaが言う先では、VandalieuはそのBorkusに頼みごとをしていた。
「では、俺と同じように動いてください。muscleに力を込めて、サイドチェストー」
そして奇妙な動きを見せる。
『お、おう、サイドチェスト～？』
『サイドチェスト～』
言われた通り同じ動きをして見せるBorkusと、何故かそれに付き合うJeena。Vandalieuの痩身と違い、二人の逞しいmuscleがミシミシと音を立てて膨張する。
そのままモスト・マScyllaー等、Bodybuildingディングのポーズを次々に取らされるBorkusとJeena。途中でVandalieuの意図を理解したのか動きが滑らかに、そしてより魅せるポーズに成って行く。
『……どうしよう。ナイスバディを求められるより高いhurdleを感じるんだけど』
『豊胸Surgeryよりmuscleを綺麗に移植するSurgeryは難しいらしいですからね』
『私達にはそもそも移植するbody partもありませんし。Zadiris -sanはどうです？』
「いや、まあ、坊やもその内muscle以外にも関心を持つはずじゃ。……持つじゃろうか？」
『た、maybe大丈夫よ、皆！ もうすぐVandalieuも思春期だから！』
そうして暫くBorkusとJeenaのBody美を堪能したVandalieuは、落ち着いた-sama子で応えた。
「分かりました。じゃあ、Mikhailは犯罪Slave待遇にしましょう」
『おお、良いのかっ！？』
「意外とあっさりじゃなぁ。別に反対意見がある訳ではないが、恨みは忘れない主義では無かったのかの？」
あっさりMikhailの待遇向上(それでもSlave扱いだが)を叶えるとnod Vandalieuに驚く一同。
しかし、Vandalieu的には別に構わない案件だった。
「確かに俺は恨みを忘れない性分です。でも、Mikhailには直接の恨みはありません。Borkus達を酷い目にあわせたという恨みはありますが、そのBorkus達が良いと言うなら良いのではないかと」
恨みとは、所詮情動である。逆恨みという言葉があるように、理屈やreasonで恨みや憎しみを持てたり、捨てられたりするものでは無い。
そんな事が可能なら、worldはもっと平和に成っていなければおかしい。
そんな理由で、VandalieuはMikhailをそれ程激しくは恨んでいない。実際、犯した悪事で言うのならDark Night Knights Delegation Leaderに就任したIslaの方が、余程多く、重い筈だ。
だから、MikhailをBorkus達が赦すというのなら別に構わないとVandalieuは思っていた。
「でも、無罪放免には出来ませんよ。まだ彼を恨んでいる人がいますし。まあ、訓練場での木人は他にCandidate者が複数いるので、暫くはそれに任せる事にしますが」
Gubamonから奪ったHero Undead。その中には、ZandiaやJeenaのようなVida's New Races側のHeroもいたが、やはりAlda側のHeroの方が多かった。中にはMikhail以上にVida's New Racesを狩って、名を上げた者も存在する。
流石に知りもしない者相手に過去犯した罪を罰するつもりはVandalieuもTalosheimの国民も無かった。しかし幾人かはegoを取り戻した後罪悪感に苛まれ、egoを取り戻す前以上に錯乱し、狂っている者もいる。
Vandalieuはそんな彼らに一定期間木人代わりをしてもらい、刑罰の形を取って罪悪感を軽くしてもらう事を考えていたようだ。
【Mind Encroachment】で直接罪悪感を和らげようにも、狂乱しすぎて殆ど効かないのだ。
「そんな訳です。ところで、明日で一週間ですけどlevellingは進みましたか？」
Noble Orc Empireへ向けての出発は、すぐそこに迫っていた。