聞くに堪えない断末魔の絶叫。
Originでは幾つもの修羅場を潜り抜けて来たReincarnator達は、それを何度も聞いた事があった。
だが、それでもDivine Realmに響いた【Death Scythe】のKonoe Miyajiの絶叫はそのReincarnator達も思わず耳を抑え青ざめる程の悲惨さがあった。
『もう少し上手く行くかと思ったが、妥当な結果ではあったな』
砕け散り、光の粒子と成って消えていくMiyajiを一瞥したRodcorteは、【Clairvoyance】の天道達也に対して強制的に供給していたManaを止める。
途端天道はよろめき、彼が倒れる前に慌ててAsagiと赤城が支えた。
そして、赤黒いbloodの涙を流すVandalieuの瞳が映っていた映像が途切れた。
『おい、Miyajiは……死んだ、のか?』
『な、何で? ここはDivine Realmっていう特別な場所だから、あいつのっ、Vandalieuは僕達に手出しできないはずじゃなかったのか!?』
緊張の糸が切れたのかReincarnator達が、【Marionette】のInui Hajimeや【Venus】のTsuchiya Kanakoが特に大きく動揺し騒ぎ出す。
『も、もう終わりだっ! 僕はまた殺されるんだっ!』
『ね、ねえっ!? あたしは平気ですよねっ!? 殺されないよね!?』
『お、俺が知るか! お、おおーいっ! 俺は無関係だぞ!』
『落ち着けお前等っ! もう天道の【Clairvoyance】は切れてる! 向こうもこっちを見られなくなってるはずだ!』
大声でAsagiが怒鳴り、表面上の動揺を抑える。実際、消滅したのはKonoe Miyajiただ一人。天道が消耗しているのも、Rodcorteが強制的にManaを流し込んで【Clairvoyance】を使わせ続けたpsychological shockとFatigueによるものだ。
『もう動けるかい?』
【Oracle】のEndou Kouyaに声をかけられた泉とAranは、大きく息を吐いた。
『ええ、もうRodcorteは何もしてないからね。ふぅ、胆が冷えたわ』
『それより、何のつもりか説明して貰えるよな!?』
『ん? systemのmaintenanceをしながらで良ければいいだろう』
Konoe Miyajiの魂が砕かれた事で若干のerrorが発生したため、Circle of Reincarnation systemのmaintenanceを始めたRodcorteはAran達に視線を向けないまま説明を始めた。
『どうやら、Vandalieuは目……視覚を介する、又はActivate条件とするAbilityの効果をそのまま相手に跳ね返す特殊なskillを獲得していたようだ。それによって【Clairvoyance】を見つめ返す事で私のDivine Realm内部の-sama子を確認し、生物の体内の運動を止めるためには対象の顔を視認する必要のある【Death Scythe】の力を跳ね返して、Konoe Miyajiを滅ぼしたのだろう』
あの時Pure-breed Vampireの【Magic Eye of Destruction】を跳ね返したのも、そのskillの力だったかとRodcorteは一人納得する。
『ちょ、ちょっと待って! じゃあまさか、これから私達が『Lambda』の人達の視覚を通じて彼を見るたびに、攻撃される可能性があるという事なの?』
『それにっ、俺は何で無事なんだ? いや、効果を跳ね返すってskillなら何でMiyajiは死んだんだ? 今の俺達は魂だけで、heartもlungも無いはずだろ?』
続けざまに質問を飛ばしてくる泉と天道にも、Rodcorteは淀みなく答える。
『Familiar Spiritである-kun達の視線に気がつく事は無いだろう。どうしても気に成るというのなら、Humanの現在の視覚からでは無く、過去のMemoryから見ればいい。
今回Vandalieuが私のDivine Realmを見る事が出来たのは、Divine Realm内に存在する天道達也の【Clairvoyance】の効果を跳ね返したからに過ぎない。【Clairvoyance】は私が与えた力だが、あくまでもHumanに使えるように加工した力でしかないからだ』
こうなると、【Clairvoyance】での情報収集は避けた方が良いだろうな。そう思いつつ、返答を再開する。
『次にheartもlungも無い魂だけのKonoe Miyajiが消滅した理由だが……-kun達に分かり易く説明すると、Vandalieuによって跳ね返されたDamageが彼のVitality、最大ヒットpointを上回ったからだ。
Vandalieuは意識してか無意識かは不明だが、心lungを止める効果では無く心lungを止める事で受けるDamageそのものを跳ね返したのだろう』
『さ、最大ヒットpoint?』
あまりgameの類はやらなかったのか、質問した天道を含む何人かが面食らった顔をした。
『『Earth』や『Origin』には無いけど『Lambda』では現実に存在する概念だから、idiotにしないで聞いて』
『それは分かったけど……俺達は魂なんだよな? それがDamageを返されただけで砕け散るのは納得がいかないんだが』
そう質問したAsagiは、Mentalや魂にはBodyと違って不可侵な、より強靭なものであるというimageを持っていた。しかし Rodcorteに言わせると別の-samaだ。
『Bodyが無いconditionだから、魂に直接Damageが入ったのだ。自覚が無いようだが、-kun達の状況は殻の無い貝に等しい。
それでも私が多少守っていたのでVandalieu一人分のDamageなら耐えられていた。しかし、彼以外の者まで攻撃したのが致命的だったな』
Vandalieu一人分なら【Hostility】skillの効果でDamageが増えていても耐えられたが、そこにZadiris達三人分のDamageが加えられた為耐えられなかったようだ。
そう答え終わる頃には、maintenanceも終わっていた。Rodcorteが対処に慣れた事だけでは無く、Konoe Miyajiの魂を通常のCircle of Reincarnationから外しており、まだreincarnation先のCandidateはあっても決定はしていなかった事が幸いしたようだ。
どちらの問題も解決したとRodcorteが視線をReincarnator達に戻すと、疑問が解けたはずのReincarnatorやFamiliar Spiritの泉やAranまでもがbloodの気が引き、強張った顔つきで彼を見ていた。
『つまりあなたは殻の無い貝類同然のMiyajiに、攻撃をさせた。しかも、途中でVandalieuの奴が反撃している事に気がついていたのに忠告も止めもしなかった、と?』
『その上、Miyajiを守護してたんだよな? だったらMiyajiの奴を助けられたんじゃないのか? 守護をより強固にするとか、庇うとかして。それをしなかったって事は……見殺しにしたのか?』
お前が殺したも同然だと、責めるような-sama子の泉やAsagiにRodcorteは答えた。
『その通りだが、それがどうかしたのかね?』
『『『!?』』』
事も無げに答えたRodcorteに対して、Reincarnator達に戦慄が走った。
『あ、あんたっ! 僕達に簡単に減って欲しくないって言ってたじゃないか!』
Inui Hajimeが蒼白に成った顔で叫ぶが、Rodcorteとしては当然の事だ。
『そうだ。彼はその全存在と引き換えに、Vandalieuの力の一端を我々に教えてくれた』
RodcorteにとってReincarnator達は、何が何でも守るに値する存在では無い。彼等は目的を達成するために集めただけの存在であるから、目的の為に使うのが当然だ。更に、それぞれの有用性によっても異なるが中には「捨石として役立つなら構わない」程度の者もいる。
今叫んでいるInui Hajimeや、Konoe Miyajiの-samaに。
彼の【Marionette】は強力だが、【Death Scythe】同-samaにDeath-Attribute Magicを操るVandalieuとは相性が悪く、単独では刺客としてはあまり期待できない。
そしてworldをdevelopmentさせるという本来の目的への有用性も、ほぼ無い。彼の知識程度なら、他のどのReincarnatorでも代わりが出来るからだ。
強いmonstersを狩るだけでもそれなりに役には立つ。だが、その程度なら『Lambda』の現地人にblessingsやAbilityを与えれば十分可能だ。それに、God of Law and Life Aldaを初めとしたLambdaのGodsもその程度ならやっている。
手間をかけたReincarnatorが行う事としては、Rodcorteから見ると物足りない。
そんな時に、【Clairvoyance】に便乗する形だったが自分からVandalieuの抹殺に挑戦すると言い出したのだ。乗らない理由が無い。
成功すれば儲けもの、万が一失敗してもVandalieuの力の一端を観測できる。
そのつもりだったが……実際には万が一の成功率だったようだ。
因みに、Konoe Miyajiを助けようと思えば助けられたのも本当だ。何時でも止めさせる事も出来た。Konoe Miyajiが魂だけのconditionで【Death Scythe】が使えたのは、Rodcorte自身の許可とManaがあったからなのだから。
だがそのまま続けさせればVandalieuを殺せるかもしれない可能性があったので、Rodcorteは止めなかった。
守護に割く力をあれ以上に強くすると逆にMiyajiの人格やMemoryが壊れる可能性が高かったが、身を挺して庇う事は出来た。その結果Damageを代わりに受けても、恐らくHumanで言えば小指を折られる程度で済んだだろう。致命傷には程遠い。
しかし、Konoe Miyajiに小指一本分の価値があるとRodcorteは思わなかった。自分が受けるDamageが本当にその程度で済む確証も無く、また魂一つ程度の消滅ならすぐに対処できるようになっていたためだ。
Reincarnatorは残り九十五人も、そして魂は管理するworld全体で何百、何千兆……数え切れないほどあるのだから、systemの運用に問題無いならたった一つを惜しむ価値は無い。
『では、今手に入れた情報を元に引き続きどの選択肢を選ぶか考えて欲しい。ここで有効に使えるかは個人差があるだろうが、全員Abilityを使用可能にしておく。それも使って考えてほしい。Manaは自前の物を使ってもらうので、限りがあるだろうが』
絶句しているReincarnatorとFamiliar Spiritをその場に残して、Rodcorteは作業と思索に戻った。
(尤も、今回の一件のお蔭でVandalieuを殺す以外の選択肢は取り辛く成っただろうが)
今回の件は、彼にとって思いも寄らないFortuneだった。【Death Scythe】のKonoe Miyajiが行った攻撃により、VandalieuがReincarnator達を敵だと認識した事は想像に難くないからだ。
(あのVandalieuの凶暴性ならば、【Death Scythe】一人のrunawayとは考えまい。考えたとしても、止められなかった以上同罪と見なすはず。その事は私が告げずとも、Reincarnator達は自力で気がつくはずだ)
これで刺客以外の選択肢を選ぶ者は減る。特に、reincarnation後裏切ってVandalieuの元に走る者は皆無だろう。
そして、Reincarnatorが敵に回れば回るほど、後に『Origin』からreincarnationしてくるReincarnatorは、Vandalieuと敵対せざるをえなくなる。出来れば、その前にVandalieuには死んでほしいものだが。
『丁度Vandalieuの警戒心が緩んだ頃に、彼等の答えも出るだろう』
一方、その頃Vandalieuは【Demon King's Ink Sacs】をActivateして、Talosheimの王城の一番高い場所に在る屋根をPainトしていた。
「思ったより時間がかかりますねー」
【Insect Binding Technique】で装備している蟲のfeatherでホバリングしながらの作業なので作業効率は悪くない。悪くないが、やはりVandalieuに対して屋根の面積が広すぎるようだ。
『Van -kun、Diseaseみ上がりなんだからさー。何ならアタシも手伝うし……教えてくれたらだけど』
Scylla生まれのWater-AttributeのGhostであるOrbiaは、Vandalieuが塗り終わった部分を見ながら若干自信なさそうに言った。
そこはretinaにthrust刺さる程刺激的な色遣いで、名状しがたい何かが描かれていた。
一見しただけではただの抽象画だ。しかし、よく見ると配色を原色に入れ替えた風景画にも曲がりくねった線で人を表した人物画にも見える。
そして見つめているだけで何故か安らぎを覚える。Orbiaにはそんな絵に見えた。
「そうですね……【Mind Encroachment】skillが自分以外の人に作業を頼んでも効果を発揮するようなら、頼みます」
『【Mind Encroachment】って、何なのこれ? アタシはてっきりVan -kunがファーストキスに浮かれて、奇行に走ってるんだと思ってたのに』
「うわぁ、酷い誤解ですね。後、Zadirisは人工呼吸してくれただけです」
人工呼吸はキスに入らない。特に、金属の筒でlungに直接空気を送り込む方式の人工呼吸は。
「これは、【Clairvoyance】対策です。視る者のMentalをちょっと蝕みます」
【Death Scythe】のKonoe Miyajiの魂は砕いたので、今Rodcorteの手元にいるReincarnatorでは【Clairvoyance】を通して攻撃する事は出来ないだろう。
だが、攻撃は無くても敵の情報収集を放置しておく理由は無い。
そのためのMental攻撃用trapである。
「まあ、Divine Realmからの【Clairvoyance】が上から見下ろしてくると言う確証は無いんですけどね」
神の視点からの【Clairvoyance】で、昨nightも上から見下ろしていたようだったので、とりあえず上からだろうと思っただけだ。
……実は正解だったりする。
『そうなの? 確かに変わった絵だけど……アタシは嫌いじゃないけど』
しかし、絵を見ているOrbiaは絵のtrapとしての効果に疑問があるようだ。だがそれで成功なのである。
「ええ、【Demon Path Enticement】や【Guidance: Demon Path】の効果を受けている人には効果が無いように描きましたから」
絵の方も描いているのは王城の一番上の屋根なので、空から眺めない限り目に入る事は無い。しかし、Talosheimには空を飛ぶ者達が多い。
Orbia達GhostやPteranodon Zombie、Cemetery Beeが王城の屋根を見るたびにポトポト落ちたら問題だ。
『じゃあ、町を囲む城壁の形を変えてるのも、【Clairvoyance】対策?』
Vandalieuがmagicで音を消しているので静かだが、Bodyから出たSpirit FormのClone Vandalieuが城壁の配置を、今までの円形から変えている。
壁を付け足し、新しく見張り塔を建てている。
「はい。あっちは【Golem Transmutation】でTalosheimを囲む城壁をGiantなStoneサークルに見立てて、【Mind Encroachment】skillの効果を持たせる試みです」
絵だと塗料の【Demon King's Ink Sacs】が剥げると効果が無くなるが、建造物の配置や構造なら破壊されない限り効果は失われない。
絵よりも更に上空から見ないと効果が発揮されないが、相手はDivine Realmから覗いてくる【Clairvoyance】だ。問題無いだろう。
「でも、効果を絞るために必要な作業が増えて……とりあえず、残りはSauron領から帰ってからにしましょうか」
『うんうん、それが良いよ』
後日、それまで石材の色だけだったTalosheimの王城は芸術的に仕上げられ、appearance上の特徴に乏しい城壁は前衛芸術風のappearanceに配置され直したという。
《【Mind Encroachment】、【Golem Transmutation】skillのlevelが上がりました!》
Cuoco Ragdew Baronは、難しい顔をしようと努力しているつもりなのだろう。
実際、Irisは彼の努力を眉間の皺に見る事が出来た。……頬が興奮で赤く染まっていて、鼻がピクピクと動き、期待で口内に溢れる唾液を何度も飲んでいる-sama子だったので、努力は全く実っていなかったが。
「Iris Bearheart -dono。私の立場も……分かって頂きたい。とても……とても難しい立場に、私は置かれているのだよ」
やや四角い輪郭で、生え際が後退気味だが十分整った顔立ちと言えるCuocoの抑えられた声とギラギラと欲望を湛える瞳を向けられた彼女は、「certainlyです」と頷いた。
「Cuoco -donoの尽力と誠意は、我々『Sauron Liberation Front』の皆が理解しています。貴方のような理解あるAmid Empire Nobleの協力を得られた事は、Fortune以外の何物でもありません」
Cuoco Ragdew Baronは、Orbaum Elective Kingdomや今は無きSauron Duke配下のNobleでは無かった。Sauron Duchyを侵略し、今も占領しているAmid Empireから派遣されたNobleの一人である。
Ragdew Baron 家は新興の家で、adventurerだったCuoco 's ancestor父がachievementを認められ、直系のbloodlineが途絶えていたBaron 家の遠縁に当たる別のNoble 家の養女を妻に娶る形でrevivalさせた家だ。
それだけに『Thunderclap』のSchneiderという特異点的な例外を除き、未だに権威主義の強いEmpireでは「adventurer上がり風情のbloodline」という悪評に本国では悩まされている。
しかも祖父の代から続くRagdew 家の悪癖によって、軍閥系NobleでもないのにOrbaum Elective KingdomとのForefrontであり、未だ占領政策がstabilityしないこのSauron領に一族ごと飛ばされてしまった。
そんなCuocoだが、Resistanceである『Sauron Liberation Front』に協力するのは別にEmpireに叛意を抱いているからでは無い。
彼等の一族に脈々と続く悪癖。それが理由だった。
「未だ正式にKnight叙勲も受けられぬ身ですが、必ずやRagdew Baron 家の存続はElective Kingdom政府に約束させてみせます。私の身命にかけても」
「いやいや、certainly Iris -dono達を疑っている訳では無い。本来なら秘密である正体を私に教えてくれたのも、信頼の印だと思っているとも」
「だが」と、Cuocoは続けた。
「信頼と絆は、誠意ある交流の繰り返しによって培われる。そうですな?」
「……certainly、分かっております」
Irisは目を伏せると手をbelt――に付けられたホルダーに保持された、陶器製の小瓶に伸ばし、それをtableに置いた。
通常ならそこはpotion等を納めて置く場所なのだが、小瓶の中身は当然potionでは無い。
「おおっ、これだ、これっ!」
もう堪えられないと、飢えた獣の-samaにCuocoが小瓶に手を伸ばしてそのままコルク栓を抜き、中身を手に垂らす。
ぽたぽたと垂れるmucus質な濃い琥珀色の液体に、彼は感嘆の声を上げた。
「おおっ、この色っ、この香りっ、辛抱堪らん!」
そしてなんと、その液体をtongueで舐め取った! 普通ならNoble 家の当主が口にする前に毒見役がまず毒見するのだが、Cuocoは【Poison Resistance】skillを高levelで持っているため、躊躇いが無い。
そしてtongueを蕩かすような甘みと鼻腔を満たす豊かな香ばしさのあまり、Cuocoは陶酔を露わにする。もう口の端から涎が垂れているのも気にしない。
「素晴らしい……EntのSapからRefiningされるEnt syrupは幾度も口にしてきたが、これは正に別格。濃厚な甘みに滑らかな喉越し、そして芳醇な香り。正に、天上の甘露っ!」
「……気に入っていただけたようですね」
若干呆れながら、IrisはEmpireでは家を傾けるほどの美食家で知られたRagdew Baron 家当主を見つめた。
Cuoco 's ancestor父がadventurerに成ったのは、「美味い物が食いたい!」と言う実にsimpleな動機だった。そして、そのappetiteと美食に対する情熱は法衣Baronと成ってからも子々孫々衰えず、Cuocoの代で遂に借金を繰り返すまでになった。
普通なら領地も無く役職にもついていないRagdew Baron 家のような弱小Nobleが借金漬けになったら、再び取り潰しになる。しかし、Cuocoは祖父程ではないが武勇に優れ、しかも腕利きの私兵団を抱えているうえ、adventurer達とも密接な付き合いがある。
一見すると頭の硬そうな官僚Nobleのような印象のCuocoは、実際には相手の地位に拘らない気さくさがあり、権力闘争に一切関わりが無く美食にしか興味が無い為陰謀とは無縁の人物である。
そのため私兵団の仕事はDevil NestsやDungeonで美味いmonstersや産物を獲って来る事や、遠方への食材の買い出し。adventurerへの依頼も食材の調達ばかり。
一生を捧げると苦労するが、一時期雇われる分には気安い雇い主。それがCuocoなのだ。
そのため、借金の免除と引き換えに私兵団と共にSauron領に一族ごと赴任させられたのである。
その美食の為なら国も捨てるBaronをVandalieuから供給される援助物資で誑し込む事に成功したのは、確かにFortuneだった。
(毎回このやり取りをするだけで、それなりに情報が手に入るのだから。少し、疲れるが)
「このsyrupを詰めた瓶を部下に持たせてあります。我々からBaronへの、感謝の印です」
「ああ、Iris -dono、相変わらず貴-donoがもたらす食材は素晴らしい。だが、一体何処でこれほどの物を? このsyrupはEntの上位種であるTreantから採れる物よりも更に上質だ。だがGreat Treantの物とは、香りが異なる。『Sauron Liberation Front』では、新種かVariantのEnt系monstersをTamerしているのか?」
だがCuocoもただの美食idiotではない。Iris達『Sauron Liberation Front』がこのEnt syrup……実際には、SkogsråのEisenのSap(blood液)をRefiningした物……を供給できることに疑問を持っているようだ。
「申し訳ありませんがBaron、まだ我々の絆はその秘密を共有できる程深くは無いかと」
(このBaronは、Talosheimへ移住できるなら喜んでEmpireに反旗を翻しそうだが……私が勝手に決める事では無いからな)
CuocoはIrisの返答に苦笑いを浮かべると、懐から取り出した紙に書かれた暗号文を彼女に見せた。
「Ladyに秘密を明かせと迫るのはmannerが悪かったか。これが占領軍の輜重隊のルートだ。何時も通り、この場で覚えて行きたまえ」
こうして占領軍の情報はsyrupの代価として売られるのだった。
「そのCuocoってBaron、Lucilianoと通じるものがありますね。優先する物が違うだけで」
curryをじっくりコトコト煮込みながら、『Sauron Liberation Front』のsponsorであるVandalieuはCuoco Ragdew Baronをそう評した。
「はあ、陛下の直pupilsの方ですか。私は彼をあまり知らないので何とも言えませんが……そんなに変な……凄い方なのですか?」
横でsaladにするための葉野菜を刻みながら、Irisがやや困惑した-sama子で聞く。
内通者との取引を終えたIrisは、援助物資を持ってきたVandalieu達とhideoutで合流し、お互いに情報を交換。この後の予定をざっと話し合い、そのまま「じゃあ遅めの昼ご飯を食べましょう」という事に成ったのだ。
昼ご飯は重要である。一杯のcurryだけで、Haj達Armor Tamer部隊の士気を保つ事が出来るのだから。
「凄いというか……既に変人の域です」
「では、確かにBaronとは気が合うかもしれませんね」
「確かに、それなりに食にも興味があるようでしたからね。じゃあ、そろそろ配りますか」
Iris達が見ている前でVandalieuのbody partからSpirit Formが抜け出て、次々に分裂していく。countlessのVandalieuが木の皿にcurry riceを盛り、並べた席に配膳していく光景は圧巻である。……midnightには見たくない光景だが。
「maybe、ブラウニーが本当にいるなら、きっとボスみたいな妖精よね」
saladの盛り付けを手伝うMilesがそう評すほど、Vandalieuの手並みは優れている。
家人が寝ている間にHouseworkを手伝ってくれる妖精ブラウニー。基本的にはレプラコーン等と同じ迷信、童話扱いの存在だが、流石にVandalieuと似たような存在ではないだろう。
『俺だったらmilk一杯では働きませんよ』
そんな労働条件で働くのは御免だという意味で言い返すVandalieu。
「確かに、陛下はmilk一杯も受け取っていませんね」
だが、Irisは逆の意味で受け取ったようだ。
「確かに、欲が無さすぎですぜ」
「そうそう、何でSauron領を征服しないんですかい?」
それにDavisやHajがnod。
『えっ? そっちの意味ですか? 後、Iris達は俺の部下でも無いのですから陛下と呼ばなくて良いですよ。Vandalieu -sanと呼んでください』
流石にいきなり呼び捨てにされたら傷つくので、-san付けを希望するVandalieu。しかし、Iris以下この場にいる全Resistanceに「とんでもない!」と拒否された。
『……じゃあ、呼び捨てでいいです』
「何故そうなる!? あなたは自分がどれ程の事をしているか分かっているのか!?」
『資金と物資と戦力の援助と、美味しいcurry作り』
Talosheimでほぼ作り終えたconditionのcurryを、【Preservation】で保存しておいたので一晩煮込んだ熟curry。Sauron領でこれを食べられるのは、Iris達だけだ。
「それは本当にありがとうございます。ですが、改めて考えて欲しい。陛下が援助した資金と物資、そして戦力の価値を!」
『いや、解っていない訳では無いのですけどね』
『Sauron Liberation Front』にVandalieuは過剰なまでの援助を行っている。現在Sauron領で流通しているAmidは無いが、金銀宝石類による資金援助。Haj達元偽ResistanceをDungeonで鍛え抜き、偽装済みのHell Copper製Living Armorを人数分与え、更にRank9のAbyss種Vampire Milesを派遣する戦力援助。
他にも通常の鉄やObsidian Iron製とは言え上質な武具に、curry等の食料、生活必需品の物資援助。Cuocoを籠絡できたのも、これのお蔭だ。
それらの総額を市場価格で換算すると総額幾らになるのか……Resistance organizationに対する援助としてはあまりに過剰だ。それを占領軍が知れば、『Sauron Liberation Front』の実態はVandalieuの私兵団であると確信するだろう。
それ程の援助をしておいて対等な関係を維持しようとするVandalieuのpolicyの方が奇妙なのだ。
Irisが今は亡きSauron Dukeの遺児か、Duke 家の親類に当たるなら将来Sauron領が再びOrbaum Elective Kingdomに戻った後の事を考えているのだと、納得も出来る。しかし、残念ながらIrisのBearheart 家は武名で名を馳せていたが、ただのKnight爵家。Orbaum Elective Kingdomでは、世襲可能なNobleの最下位だ。
『Sauron Liberation Front』がどんなに活躍し、Irisがどれ程高く評価されたとしても、彼女が新Sauron Dukeに成る事は無い。
Sauron Duke 家の継承権を持つ正統な子息子女が、他のDuchyに脱出しているのだから。
「陛下、私の将来に期待しているのであれば、残念だがそれに応える事は出来ない。私がもし仮に占領軍Generalの首Classを上げたとしても、誰か婿養子を宛がわれてBearheart 家がBaronに昇爵される程度が精々だろう」
「いやお嬢、それぐらいの手柄を上げたら、その婿養子はSauron Duke 家の遠縁か何かで、Bearheart 家は最低でもEarlぐらいには成れると思いますぜ?」
Davisが思わず口を挟む程度に、IrisもSelf評価が低いようだ。
「しかし、俺も奇妙だと思っています。なんで陛下はSauron領を武力制圧しないんで? 心配している【Thunderclap】のSchneiderは敵じゃねぇって分かったんでしょう」
Hajが言う-samaに、Scyllaの神であるMerrebeveilからの情報でAmid EmpireのSClass adventurer Schneiderは、実際はVida's New Racesのallyだと分かった。
分かったが、Vandalieuは相変わらずpolicyを変えていない。
「それはですね、まず『Thunderclap』のSchneiderがVida's New Racesのallyであっても、俺のallyで在るとは限らないから。
次に、俺が民衆に支持されるとは考えにくいから。
そして地政学的にSauron領を俺が占領して統治を続けるのは難しいからです」
Bodyに戻ったVandalieuは、『Thunderclap』のSchneiderと実際会って話をするまでは敵に回る可能性が無いと判断するのは危険だと述べた。
MerrebeveilからSchneiderが実はVidaのbelieverで、Amid Empire側のScyllaを含むVida's New Racesの多くの部族を助けている事は分かった。だが、Vandalieuのしている事がそうして助けたVida's New Races達にとって不利益に成ると判断すれば、敵に回るかもしれない。
仲間だという確信が持てないのだ。
次に民衆から支持されるかは、説明するまでも無いだろう。知名度も無く、普通なら禁忌の筈のUndeadを大勢使役するVandalieuは、Championよりもそれに討伐される悪役側にしか見えないだろう。
それに、Talosheimと同じ豊かな食生活や、軽い所得税を導入するつもりだが、それも既得権益を握っている有力者にとっては喧嘩を売りつけるのと同じだ。
次に地政学的な理由だが……Orbaum Elective KingdomとAmid Empireに挟まれているSauron領を、第三国であるTalosheimが占領すると東西の大国に挟まれてしまう。
Talosheimからの行き来も、Boundary Mountain Rangeがあるので簡単には出来ない。VandalieuがDungeonからDungeonへ【Labyrinth Creation】skillで瞬間移動し、FlightできるKnochenや空を走れるSamが空路で行き来しても、人も物も十分な量を運べるとは思えない。
「ままならないものねぇ。いっそ、Boundary Mountain Rangeの山を一部丸ごとGolemにして、地形を変えちゃうってのはどう?」
Milesが冗談半分にそう言うと、Vandalieuは目を瞬かせた後視線をMountain Rangeがある方向に向けた。
その場にいた全員が「まさか出来るのか!?」と息を飲んで見守るなか、Vandalieuは静かに口を開いた。
「いや、流石に無理でしょう。まだ」
「で、ですよね~」
HajやDavisがそう息を吐く中、IrisとMilesはappetiteを誘うcurryの香りも忘れて戦慄した。
「まだって……何時か出来るように成るのか」
「自分で言っておいてなんだけど、否定できないのが恐ろしいわね」