Maceを横薙ぎに振りぬいたKasimは、想像以上に軽い抵抗を残して吹っ飛んで行くVandalieuを呆然と見送る。
EleonoraもBasdiaもKatiaも、思わずVandalieuがゴロゴロと転がって行くのを見送ってしまった。
「あー、驚いた」
そしてムクリと起き上がるVandalieu。
「お、驚いたって大丈夫なのか！？」
「Vandalieu -samaっ、背中打たなかった！？」
慌ててKasimとEleonora、Katiaが駆け寄る。しかし Vandalieuは咳き込みもせずに、すぐに立ち上がった。
「特には問題無いです。ちょっと驚きましたけど」
Vandalieuは掠り傷一つ負っておらず、少し埃がついただけで鎧も盾も無傷だった。腕も痺れていないし、呼吸も苦しくない。
「まさか地面に転がされるとは思いませんでした。腕を上げましたね、Kasim」
「えぇっ！？ お、俺にVandalieuを吹き飛ばすような力が……！？」
「とてもそう見えないけれど。あなた、何かUnique skillでも獲得したの？」
「だったら凄いけど、腕が上がったようには見えなかったけど」
まじまじとMaceを持つ自分の腕を見つめるKasimに、疑わしげな-sama子のEleonoraとKatia。そこにそれまで黙っていたBasdiaが口を開いた。
「Kasimに特別力がある訳じゃない。certainly成長著しいとは思うが、Vanを一撃で吹き飛ばせたのは、単にVanが軽いからだ」
「「「軽い？」」」
「そう、軽いからだ」
聞き返す三人に、Basdiaは説明を始めた。
まずVandalieuは、力が強い。clawsの一振りで鉄板を抉り、Martial Artsを使えば切り裂く事が出来る。しかし、まだ九ageに成っていない少年。しかも同じ年頃の少年と比べて、彼は明らかに小柄で痩せている。
それに力が強ければその分muscleが付いて体重が増えるはずだが、Vandalieuの場合はほぼ全て【Mysterious Strength】skillにそれが回っているようだ。
そしてVandalieuが今身につけているHell Copper製の液体金属鎧も、【Demon King's Carapace】製盾も、動きやすいよう見かけよりずっと軽くできている。
「そしてKasimは、Vanの盾にMaceを当てるために上からではなく横から、それもやや下段に下げて腕を振った。そのせいでVanはあっさり飛んでしまったのだろう」
腕を胸の下で組んでそう結論付けるBasdia。Kasimはまだ納得できないのか、「ちょっと待ってくれ」と声を出した。
「俺達はcultivation villageで何度かVandalieuから稽古を受けたけど、その時はVandalieuが軽いなんて思わなかったぞ」
「Kasim、俺はその時盾を持っていませんでしたよ。Kasim達の攻撃を受ける事もしませんでしたし」
「あ、確かに！ でもFesterの剣をclawsの峰で受け流してなかったか？」
「そう言えば……」
Hartner Duchyのcultivation villageでKasimや、この場にはいないが前衛職のFesterにVandalieuは稽古を付けていた。その時は盾どころか鎧も来ていなかった彼は、Kasim達の攻撃を基本的に回避して捌いていた。
しかし、何度かclawsで剣を受け流していた。
「それは攻撃と込められた力を、Vanが受け流したからだ。それにその時Vanは足を止めずに動いていただろう？」
「なるほど。動いていればVandalieu -sama自身の力が攻撃に対抗するわけね」
「今回は足を止めて正面から、特に力が伝わりやすいMaceの攻撃を横方向から受けたから、Vandalieuが吹っ飛んじゃったのか」
続けたEleonoraとKatiaの言葉で、KasimもVandalieuもBasdiaの説明になるほどと頷いた。
これまでVandalieuは、基本的に攻撃を受ける時はDeath-Attribute MagicのBarrierや、Golemの壁、Defense Powerの高い仲間に防御を頼っていた。
何度かそれらに頼らず、訓練でGoblin等のmonsters相手にphysical battleを挑んだ事があるが、その時Vandalieuは活発に動き回っていたし、受けた攻撃の多くは槍や剣で、当たってもその場で肉を貫かれたり斬られたりするだけで、body partを吹き飛ばす程では無かった。
大きく薙ぎ払われたのは、Noble OrcのBugoganの剣を故意に受けた時ぐらいだ。
「なるほどな～。Vandalieuはまだ小さいから、同じchildかGoblinでもなければ、攻撃しようとしたら前蹴り以外は大体上から振り下ろす事に成るだろうから、そう同じ事は起きないと思うけど」
上段からの攻撃なら、盾で受けても地面に踏ん張れば耐えられる。
だが下から掬い上げる-samaな攻撃だったら、盾で受けても体勢を崩しやすくなるだろう。
まあ、訓練以外でVandalieuがmagicを使わず仲間から離れてphysical battleをする局面は、そうそう無い筈だが。
「しかし、俺が軽いとは……今まで気がつきませんでした」
「そうだな……でも、思い返すとVandalieuって色々な人に持ち上げられてないか？ この前もBorkusのおっ-sanに猫みたいに抓み上げられてたし」
Kasimが言う-samaに、Vandalieuはとても気軽に、色々な人に持ち上げられている。Borkusに、Imouto的存在のHalf-Noble OrcのPauvina、今一緒にいるBasdiaとEleonoraも、Vandalieuを抱き上げたり脇に抱えたりしている。
「確かにそうですけど、皆【Mysterious Strength】skill持ちで、俺より大きいので」
なので自分が軽いのではなく皆の力が強いか、大人だからだと無意識に思っていたらしい。
「とりあえず、横殴りの攻撃は慣れるまで控えて、上段からの攻撃に切り替えよう。Vanも、体勢を崩さないよう気を付けろ。盾で受け止めるのではなく、盾の丸みを使ってそらすように工夫するとか。
magicも使えない一対一での戦いなんてそうないと思うが、とりあえず慣れておけ」
「はーい」
こうして九ageの誕生日までの間、Vandalieuは毎日KasimやEleonora、Basdiaの攻撃を受け続けたのだった。
何度か宙を舞いながら。
そして帰りは何故かKatiaに持ち上げられて運ばれるのだった。
「自分で歩けますが？」
「良いのよっ、気がついたら私だけ持ち上げた事無かったから、この機会に済ませておくの！」
《【Shield Technique】、【Armor Technique】skillを獲得しました！》
しかし Vandalieuも一国の王である。一日中訓練をしている訳ではない。
他にも書類仕事を分裂して捌いたり、ZandiaとJeenaの調整やリハビリ、Black Goblin ninjaの訓練に加わったり、Dragon Zombie化した元『Scale King』のLeoと、その乗り手であるBone Manと一緒にMarshlandsをpatrolしたりと、忙しく動き回っている。
「王-samaって、意外と自由な時間ありますよね」
『それは陛下だからです。私など毎日働き詰めで……新設されたDark Night KnightsやBlack Bull Knight団、Dragon Scale Knight団の訓練が……クフフフッ』
「陛下、この疲れ知らずのUndeadに一言言ってくれませんか。あなたの弟は生身のHumanだと」
手や頭が欲しくなれば幾らでもSpirit Formを分裂させて増やすVandalieuは、たった一人で数十人の事務官集団に相当する。だからこそ、まだ小国規模だが一国の統治者が豊富な自由時間を確保できるのである。
Chezareも生前から優秀な従軍事務官としての素質を発揮していたが、Undead Transformationした事でBody的なFatigueを感じなくなった。しかも、Generalらしい仕事をしている時は驚異的な集中力を発揮して取り組む事が出来る。
そして、それに付き合わされるKurtは……堅実な仕事ぶりが評価されていたCommanderだが、睡眠や食事が普通に必要なHumanである。
彼も軍人なのでそれなりの無理は出来るが、連日連night常に無理をしたまま仕事が出来る訳がない。
訓練されるKnight団や兵団の方はUndeadかmonstersなので、長時間の業務にKurtより耐えられてしまうのだが。
「Kurt、Chezareは仕事に成ると直ぐ忘れるので、自主的に休まないとダメですよー」
「そうは言うが陛下、上司が働いている時に部下が休むとは、中々言い出しにくいぞ」
「……そうかもしれませんね」
Vandalieuの場合は忙しく動いていると言っても、全て遊興を兼ねているので誰も気兼ねしない。だがChezareの場合は完全に業務なので、直属の部下であるKurtが気兼ねするのも無理はないかもしれない。
「有給休暇制度を実施しないといけませんね」
労働環境のBlack化に注意していたが、まだまだ甘かったかもしれない。これからは生きている人がmanagementに就く事も増えて来るだろう。managementの労働環境も整えなければ。
そう決意するVandalieuにChezareが言った。
『畏まりました。では早速陛下の考える有給休暇制度についてご説明ください、そしてそれを書類にし、検討し、管理部署の決定――』
「陛下、仕事が増えたのだが」
「あれー？」
やや本末転倒だったが、有給休暇制度がよりしっかりと管理される-samaになればKurtの労働環境も改善するはずなので、後少しの辛抱だろう。
そして何時も通り仕事と訓練の合間の時間でVandalieuはＢClass Dungeon『Scale Kingの巣』で手に入れた銀塊や金塊を材料に、新しい魔導金属のRefiningの生成を試していた。
「上手く行きませんねー」
「消えちゃうねー」
「どう言う事じゃろうな？」
「分かりませんわね」
銀や金を手に入れたのは既に去年の事だが、鉄や銅にdeath attributeのManaを浸して作るDeath IronやHell Copperと違い、銀や金を材料にした魔導金属は未だに成功していなかった。
何故かManaをある程度浸すと、金銀が消えてしまうからだ。
「全く無いね。何処に消えちゃったのかな？」
Pauvinaがペタペタと大きな手で銀塊があったはずの場所に触れるが、そこには床しかない。
Basdiaの母親でGhoul WizardのZadirisと、職能班班長のGhoul High ArtisanのTareaが、それぞれMageと職人としての目で見ても、銀塊が何故消えるのか分からなかった。
「消える前にManaを止めると、ただの銀や金のまま。だから、消えるのが魔導金属としての変化なのだと思いますけど」
「消える魔導金属って、あるの？」
「そもそも魔導金属って、そんなに種類は有りませんからね」
GodsのみがRefiningできるOrichalcum。Refining法が限られたDwarfにしか伝えられていない、柔軟で修復機能を持つダマスカス鋼、そして魔導金属として有名なツーtop、MythrilとAdamantite。腕のいいBlacksmith師なら作る事が出来るObsidian Iron。
一般的な魔導金属は以上である。他にも特定のattributeのManaのimpactを特に強く受けた魔導金属が存在するが、希少故に一般的にはあまり知られていない。
そもそも魔導金属は通常の金属や鉱物がManaに浸される環境に置かれ、長い時が経つと生成される物だ。既存の魔導金属を材料に創った合金であるObsidian Ironと、作る方法があるとされるダマスカス鋼以外そうそう新しく作れる物ではない。
常識はずれのManaと、【Inanimate Aging】のmagicで対象の無生物の時間をAccelerationできるVandalieuだからこそできる事なのだ。
「しかし、銀と金では消え方に違いがあるのじゃろう？ 銀はパッと消えるが、金は目を離した間に何時の間にか消えているとか」
「そうなのですよ。最初は誰か動かしたのかなと思ったのですけど……」
まさか金塊が自力で逃げる筈も無いので、誰かが持ちだしたのかなと思ったが、特にそんな-sama子も無いので行方不明のままになっていた。
「ピギピギ」
突然Vandalieuが背中を預けている白い物体が鳴いた。
「ん？ Quinn、何か知っているのですか？」
何と白い物体は、むっちり艶々に成長したCemetery BeeのQueen蜂の幼虫、命名Quinnだった。
彼女はQueen蜂の幼虫らしく基本的に動かない。普段はVandalieuに装備されているが、時々こうして出て来るのだった。
「ピギィ、キキキ、ピピギギギ」
「ふむふむ」
「……坊やは何故Quinnの言葉が分かるのじゃろう？ この前は大CentipedeのPeteとも会話しておったし」
「そもそも、あれは言葉なのですの？ 私、どの『ピギー』も同じように聞こえるのですけど」
「それはAgingのせいじゃろう」
「なんですって！？ Zadirisっ、貴方の方が私より三十くらい年上ですのよ！」
実際には二人とも、それぞれappearanceと同じ十代半ばと十代後半のBody ageに【Youth Transformation】されているのだが。
「QuinnもPeteも頭が良いから、鳴き声と顔の角度とかantennaの動きも組み合わせると、大雑把だけど何が言いたいのか分かるって言ってたよ」
不毛な言い争いにdevelopmentしかけている二人にPauvinaがそう教えると同時に、VandalieuはQuinnが何を伝えたいのか分かったらしい。
「Rapiéçageが何か集めていた？」
一同が視線を向けると、普段はPauvinaと一緒にいる事が多いRapiéçageはVandalieuの工房の隅で、何かごそごそと探しているようだ。
『う゛ぅぅっ』
そして何か見つけたのか、嬉しそうに声を出し、それを抓み上げ――。
「Rapiéっ、ちょっと待ってっ、食べる前にそれ見せて！」
金色に輝く何かを食べようとしたRapiéçageを、Pauvinaが慌てて止める。
止められたRapiéçageは大きな手の中の小さな金色の物体と、Pauvinaを交互に見て、いった。
『……はんぶん、こ』
「ありがとうっ！」
「……いや、そう言う事ではないのではないかの？」
そうツッコミを入れるZadirisの視ている前で、Rapiéçageは金色の物体を指で抓んで半分に割いた。
それを受け取ったPauvinaが半分に成った物体を皆に見せる。
「……金？」
「見かけは、金ですわね」
物体の色は、古来より人々を魅了してきた黄金の輝き。しかし、物体は何故か小刻みにぷるぷる震えながらPauvinaの掌の上を這い回っている。
金色のアメーバ、Lambda風に表現すると金色のSlimeのようだ。
「見た目とは違って硬い感触。しかも金属の冷たさで、見た目より重い。これは、黄金かの？」
そしてZadirisが触ってみると、物体は金属的な冷たさと、重さを併せ持っていた。
「これ、もしかしてdeath attributeのManaで変化した黄金でしょうか？」
Zadirisの指の間で蠢いている物体をつつきながらVandalieuがそうconjectureする。
Vandalieu自身「そんなBAKANA」と思いつつ、【Detect Life】の術で調べると、物体から生命反応があった。
どうやら、これはただ蠢いているだけではなく生きているらしい。
生きている金属なんて存在するのだろうか？ そう思うVandalieuだったが、Tareaは「あり得る事ですわ」と言った。
「魔導金属の中には魂が宿っているとされる金属が伝えられていますわ。魂鋼と言うのですが、それで武具を打つと知性を持つ武具が作れるのだとか」
「諸説あるようじゃがの。元から宿っているのか、武具にした瞬間に宿るのか。
それにほれ、坊やが前に魂を砕いたOrichalcumの槍、Ice Age。あれも生きている金属と言えるじゃろう？」
どうやら、魔導金属が生きていてもおかしくはないらしい。
『あ゛むっ』
むっちゃむっちゃ、ごくん。
『おい゛ぃしい゛ぃ……』
その生きている魔導金属の半分を、たった今Rapiéçageが食べてしまった。どうやら、美味しいらしい。
「その生きている魔導金属って、食べられます？」
「普通は食べられるはずがないのじゃがな。Dragonが飲み込んだと言う話もあるらしいが……」
「凄いですわっ、Van -samaっ！ worldで初めて食べられる金属を作るなんてっ！ ……どう凄いのか、分かりませんけど」
「元が金塊だもんね」
食べられる美味しい金属の発明。確かに、world初だろう。しかし、「それで？」と聞かれると困る。
これが土や石なら、大発明だ。栄養があるなら、world中から飢えを根絶できるかもしれない。
しかし、材料が金塊である。
ただ食べられるだけなら、態々価値の高い黄金を食べようとする者はいないだろう。余程の金持ちなら食べるかもしれないが。
どんなに美味しくても、とても需要は限定的なのではないだろうか？
「じゃあ、とりあえず食べてみていい？」
「そうですね、とりあえず食べてみましょう」
「ぴぎー」
「いや、食べられて味が良くても、body partに悪くないとは限らないと思うのじゃが」
「【Disinfect】を使って貰えば、body partに悪い部分は消えるから大丈夫ですわ」
その後、皆で分けて食べてみると美味しかった。味は甘いとも苦いとも言えず、辛くも酸っぱくも無いが、何か美味い気がする。未知のアミノ酸でも含まれているのかもしれない。
「あ、食べるとExperience Pointが入る気がする」
「すご～いっ、丁度levelが上がったよ！」
「これは……本当に凄いですわっ！」
そして何故か微々たる量だがExperience Pointが入った。やはり生きているからだろうか？
「それで坊や、この金の霊は見えるかの？」
「いえ、無いみたいです」
しかし生きているのに霊は出て来なかった。
とりあえずこの生きている金を、life goldと命名したのだった。
因みに、銀の行方はRapiéçageも知らないらしく、まだ不明のままである。
nightのMarshlandsの外延部を、恐ろしげな集団が進んでいた。
『ＧＲＯｏｏ……』
先頭を進むのは、Giantなcrocodileに似た、Dragon Zombieと化した元『Scale King』Leoの背に乗る、鎧姿のSkeleton、Bone Man。
「ブルルルッ」
「グルルゥッ」
それに続くのはZombie化したMirg Shield Nation軍のBlack Bull Knight団員で構成される、新生Black Bull Knight団と、それから別れて新設されたDragon Scale Knight団だ。
彼等はMarshlandsでも【Rough Road Travel】skillによって問題無く走る事が出来る、monsters化した馬であるDemon Horseに乗っていた。
しかし、今はDemon HorseがRank upして別のmonstersと成っている。
Black Bull Knight団員が乗っているのは、Rank４のDeadly Poisonを帯びた角を持つ雑食性の凶暴な馬型のmonsters、Bicorn。Demon Horseよりも一回り大きく、そして見た目以上のMuscular Strengthと耐久力を持ち、Brown Bearすら獲物にしてしまう凶暴なmonstersだ。
Dragon Scale Knight団が駆るのは、紅く炯々と輝く瞳を持つ黒馬。同じくRank４だが、【Air Running】skillを獲得したKnightメアホースだ。体格やMuscular StrengthはDemon Horseと同じだが、空を走る事が出来る為機動力が大幅にincreaseしている。
どちらも珍しく、元が馬だと言うのに群れを作らないmonstersだ。そのためKnight団の乗騎として運用している国は存在しない。
『異常none。外からmonstersがやって来た-sama子も無いか……』
『Bone Man -dono、monstersは基本的に生息に適さない場所には、余程飢えるか外敵に追い込まれでもしない限り来ないものです』
残念そうに呟くBone Manに、Black Bull Knight団のZombie Knightがそう答える。
『だが訓練を兼ねているとは言え、ただ見回っているだけでは退屈だ。今日等、何も斬っていないのだぞ』
Vandalieuの元Sauron Duchyへの遠征に同行したBone Manだが、帰った後はLeoの背に乗ってMarshlandsを警備する仕事に戻っていた。
しかし、警備する必要性を疑う程Marshlandsは平和そのものだった。originally Lizardmanが幅を利かせていた場所なので、Lizardman以外に危険なmonstersがほぼ存在しないのだ。そして外部からは、先程Zombie Knightが説明した-samaに滅多にmonstersは侵入してこない。
一歩城壁の外に出ればRank３以上のmonstersがうろうろしているTalosheimの都市の方が、余程危険だ。
そのためBone Manは延々Horse Ridingならぬ乗屍竜して過ごす日々である。このままでは腕が鈍ってしまう。
だがその原因は、自分の尻の下にあった。
『Bone Man -dono、ではLeoから降りてはどうだ？』
『然り。Leoのような高RankのUndeadが定期的に姿を現す場所に、好き好んで近づくmonstersが居るはずがないからな』
『Goblinだとて、その巨体を見れば逃げ出すだろう』
それは他のmonstersがLeoの姿や臭いに怯えて逃げるからだった。
Leoは生前Rank１０のGreat Mud Dragon。Zombie化した事で大分弱体化したが、それでもＢClass Dungeonの『Scale Kingの巣』に潜り、Rank８まで力を取り戻している。
Rank８ならBone ManもRank upしたため同じなのだが、やはり見た目の迫力が違う。Bone Manのappearanceは鎧を着たSkeletonだが、Leoの巨体とcrocodileに似たappearanceは見るからに迫力がある。
それにVandalieuのmagicによってDecompositionは停止しているが、Sense of smellの鋭いmonstersは僅かな臭いを嗅ぎ取ってDragon Zombieの存在を察知する。
結果、Leoが通る場所からmonstersの姿は消えてしまうのだ。……大鯰やGiant Frog等、Rank１のmonstersは平気な顔をしてうろついているが、それはLeoが自分達最下Classのmonstersは視界に入っても気にしないと、Instinct的に判断しているからだ。
凶暴なOgreの周りからGoblinは逃げるが、蟻は逃げないのと同じである。
『ぢゅぅっ、しかし折角主から賜ったLeoから降りるのは……』
しかし Bone ManはLeoから降りる事に渋い顔……は変わらないが、声を出した。
Bone ManにとってLeoは、Vandalieuから貰った念願のDragon Zombieである。時間を見つけてはscaleやfangsを磨いてやって、大切にしている愛騎だ。
『ＧＲＯｏｏ』
尤も、Leoの方は常に何処かぼんやりした目をしていて、Bone Manの愛情が通じているか不明だが。
『それに主の領土を、退屈を紛らわせるために危険にさらすような事は……』
『ならば辛抱してくだされ。見回りが終われば、休暇でしょう。Dungeonで存分に腕を振るわれれば宜しい』
『ぢゅうぅ……』
渋々Bone Manは黙り、見回りに集中する。締まらないやり取りが終わると、途端にBicornやKnightメアホースの蹄や鼻息の音だけになった。
しかし、不意にBicorn達が興奮したようにfangsを噛みあわせ始めた。
『これはbloodの臭い！』
『近くでmonstersが争ったか？』
monstersが争う事は珍しくない。しかし、bloodの臭いが何時までも残っているのは珍しい。飛び散ったbloodや肉片もDevil Nestsに存在する蟲や、低Classのmonstersが根こそぎ啜り、食ってしまうからだ。
そして霊を見る事が出来るUndeadであるBone Man達の目には、Orcの霊が映っていた。すぐに形を崩し、Reincarnationの環に戻ったのか消えてしまったが。
『OrcがこんなMarshlandsの近くに？ 初めてだ』
『ヂュウ、霊は消えたが何か残っているかもしれない。周辺を探せ』
そして周辺を探し回ったが、Orcの死体は何者かに回収されており、見つかったのは折れた剣のfragmentや、僅かに残っていたOrcの物らしい肉片。そして、南に続くGiantな蟲の足跡だった。
『南で何かが起こっている？ ヂュォ……主に報告しなければ』
誰もいなくなったVandalieuの工房の一画に設置されている、円形のプール状の容器。
その中に満ちる肉色の液体から、無秩序に腕や足、頭のような器官が伸びては崩れを繰り返している。
VandalieuがDarciaをrevivalさせようと、不完全なResurrection Deviceを動かした結果出来てしまった謎の蠢くchunk of meatだ。
何故か生命が宿っているが、霊も魂も宿っていない謎の存在である。
最初はLucilianoが新たな生命の誕生かもしれないと熱心に観察していたが、蠢く以上の変化が見られず今はPauvina達年少組やVandalieuが餌の死肉を与えているだけだった。
しかしその時不意に、chunk of meatから手が伸びた。
『――』
初めて意思があるような動きを見せたchunk of meatは、腕をそのままプールの外まで伸ばす。そして、床に在る何かを掴んだ。
すると手の中に銀色に輝く何かが姿を現した。その銀色の何か……Vandalieuのdeath attributeのManaで未知の魔導金属に変化した銀塊を掴んだchunk of meatは、腕を引き戻すと銀塊を自らの中に埋めた。
そして、一層激しく煮立ったお湯のように蠢き……動かなくなった。