乾いた地面に、一人の青年が槍を携えて立ち尽くしていた。周囲には誰も居らず、五十meter四方の壁で外界から隔離されている。
まるで闘技場の-samaだ。
(私は数限りない罪を犯した、らしい)
青年はやや靄のかかったMemoryを呼び起こした。最初は、ただ腹いっぱい食べたかった。そんな理由で手製の槍を手にAdventurer’s Guildへ向かった。
町の清掃やsenpai adventurerの荷物持ちをやる内に、adventurerとしてのKnowkowを身に着けて行った。気の良いsenpai adventurerから、槍の手解きも受けた。
初めて討伐依頼を受けた時に手にしていたのは、そのsenpai adventurerが使い古した安物の槍だった。
adventurerとしては珍しくも無い話だが、初めて殺した人はmountain banditだった。DClass adventurerへ昇格するための試験として受けた討伐依頼での出来事だった。
槍でボロボロの皮鎧の隙間をthrust刺して息の根を止めるまでは、冷静だった。だが、気がつくと地面に蹲って反吐を吐いていた。
その時一緒に試験を受けたadventurer達と慰め合っている内に、partyを組む事に成った。それからは、一気に時間が早く流れたような気がする。
OrcやLizardmanの討伐依頼で苦労していたはずなのに、気がつくとWyvernやGhoul Barbarianを討伐し、Kobold Kingを討ち取る-samaになっていた。
槍は何時の間にか鍛造されたmagic itemの槍に代わり、更にMythrilの穂先を持つ一Class品に成っていた。
AClass adventurerに成り、より上位のDragonやVampire、Resistanceを名乗って国を荒らし回るCentaur族の頭目や、Devil Nestsの深部でEvil God (P)を信仰していたLamia Queenを討ち果たして来た。
legend Class Artifact、Ice Ageを手にし、『Divine Spear of Ice』のsecondary nameで呼ばれるようになったのはその頃だったろうか。
(その時には、私はadventurerでは無くなっていたのではないだろうか。『God of Law and Life』Aldaと『God of Ice』Yupeonの使徒として、正義を成すのだと、それが目的に成っていた気がする)
そして仲間達と共に母国であるMirg Shield Nationが苦戦する対Talosheim戦に参加し、そして立ち塞がるGiant raceを次々に倒した。腕をSlash飛ばし、腕がもう無ければ首を突いた。立ちはだかる者はchild同然の少年も、皺だらけの老人も、女も、正義の為に区別無く倒した。
そして仲間達と別れて王城に攻め入り、乱心したVidaが作りだした邪悪なmagic装置がsealedされている地下への入り口を探す内に……。
『よぉ、久しぶりだな』
岩を擦り合わせたような低い声に、青年は……Mikhailの意識は現実に引き戻された。
視界に、覚えの無い顔のGiant raceの姿がある。顔の半分がboneだけの、Giant raceでも特に大柄の男だ。
(久しぶり? 誰だ?)
思い出せない。久しぶりと言うからには、会った事があるのだろう。恐らく、この男を殺したのは自分なのだろう。
しかし、思い出せない。
しかし Mikhailのbody partは命じられた役割を果たそうと、彼の意識を置いてきぼりにして動いていた。
『構えてください。訓練を開始します』
頑丈なObsidian Iron製の槍に、やはり頑丈なObsidian Iron製の鎧。幾つかは、skinの代わりに直接鋲を肉に打ち張り付けられている。
生前纏っていた装備と比べると動き辛く、頑丈さでも劣る。勝るのは重さだけだ。
これがMikhailにVandalieuが与えた装備だ。稽古用の木人には、十分すぎる装備だと。
『お前がここに設置されてから、一月以上経ったか? その間俺はよ、結構坊主に意見したんだぜ。
流石にこれは無ぇだろうとか、Warriorとしての誇りが云々とか、こんな形で仇を貶めても自分の度量が疑われるだけだとか、らしくも無く小難しい事をくどくどとよぉ』
男はそう言いながら、黒いGiantな剣を鞘から解き放った。同じ黒でも、今自分が構えている槍とは格が完全に異なる事が、Mikhailには分かった。
(私のbody partに埋め込まれている肉片と同じ、Demon King Fragmentで出来ているのか)
Mikhailのbody partには、Vandalieuによって指先程の大きさの【Demon King's Carapace】が幾つも埋め込まれている。
生前Aldaの敬虔なbelieverであり、YupeonのSpirit Cloneが宿ったArtifactを携えたMikhailをかの神達がどうにかしようとしたら、若しくは何かの拍子に正気に返った時に内部で弾け魂を砕くために。
態々自分の肉を引き千切り、それをUndeadにしてcarapaceを纏わせて作ったものだ。
(そのfragmentを武具に加工したものを持っていると言う事は、この男はあの方が信頼を置く存在か)
Mikhailの意識に男に対する羨望と、その位置に立てなかった自分への失望が満ちる。
だが男の意識は、別の物で満ちているようだ。
『町の連中も大体蘇って、酒飲んで肴にmayonnaiseを付けて喰って、将棋やReversiで楽しくやってる。Nuazaの坊主なんて、嬉しそうに石像を彫ってるぜ。
あいつの忘れ形見のGopherに、孫にまで会えた、Levia -samaも、この前JeenaとZandiaの嬢-chanも返ってきた』
男はそう言いながら、Giantな剣を地面にthrust刺した。そして代わりに手に取ったのは、Obsidian Iron製の訓練用剣だ。
大きさこそ同じだが、刃の無い剣の形をした頑丈な金属の塊でしかない。
だが男から発せられる憎悪は本物だ。
『比べてテメェは哀れなもんよ。本当の意味で先が全く無ぇ。憎む気すら失せちまう……そう勘違いしていたぜぇ!』
男から吹き上がる怒気をwhole bodyに浴びながら、MikhailはMemoryに引っ掛かりを覚えた。
(Jeena。そしてZandia……何度も聞いた名だ。ああ、そうだ……)
自分と同じように、死後あのVampireに囚われた者達だ。うっすらとだが覚えている。仲間を倒されて怒り、悲しみ、それでも覚悟を揺るがさなかったGiant raceの女とShoujo。
(では、この男はあの時最初に倒した――)
『テメェに殺されなきゃあ坊主達には会えなかった! だがよっ、テメェ等が攻めて来たから誰も彼も二百年も苦しむfeather目に成った! 悪いのは負けた俺だ! 俺達だ! それは否定しネェ!
だからよ……テメェをぶちのめすのは一度だけだ!』
獣じみた咆哮を上げながら、男が……Borkusが突っ込んでくる。
(速い!?)
『訓練を開始します』
動揺を表に出せないMikhailは、機械的にBorkusに対してそう告げると駆け出した。
その動きの速さと滑らかさは、Zombieとしては驚愕に値する。
だがBorkusの動きの方が速く、勢いと力があった。
初撃は槍で逸らし、反撃を繰り出そうとしたら逸らしたはずの剣がもう戻っていて、逆に弾かれてしまった。
(あの時より、ずっと強くなっているのか)
Weapon Equipmentは共に頑丈なだけが取り柄の訓練用。magic itemもMartial Artsもnone。このconditionのBorkusとMikhailの力量は拮抗していた。
生前より強くなったBorkusと、生前より弱くなったMikhail。
そして何より、Mental conditionが異なる。
次第にMikhailの槍はBorkusの攻撃を捌き切れなくなり、攻撃を繰り出す隙が無くなっていく。剣が掠る-samaになり、Mikhailから装甲板や耳を引き千切られる。
百合も打ち合う頃には槍が圧し折られ、Mikhailは壊れた人形のように宙を舞い、成す術も無く地面に激突した。
(見事だ。もしMartial Artsを使っても良い実戦だったら、もっと早く決着はついていただろう)
無事なboneが殆ど無いMikhailは、仕方なく遠い空を眺めながら思った。今の彼のRankは幾つだろうか? 自分は10だから、それ以上だろうか。
もう一度姿を見たいとMikhailは思ったが、『チッ、あばよ』と声が聞こえた。どうやら、叶わないようだ。
そのままMikhailの意識は、霧散した。
(ッ!)
そして、不意に目覚めた。
(修復が終わったのか)
一度完全に破壊されたMikhailは、元通りに成った死体のbody partで、Zombieとして何度目かのrevivalを果たした。
MikhailはVandalieuによって、訓練用Undeadとして調整されていた。破壊されると、訓練場に仕込まれたmagic itemにより、霊が引き戻され自動的にZombieとしてrevivalしてしまう。
Bodyの損傷も、装甲板の歪みも元通りに直される。
そして、また壊れるまで訓練に使われる。
これがVandalieuの考えた、Mikhailの有効活用法だった。
Talosheimにとって怨敵であるMikhailを、仲間に加えるつもりは無いし、あっても出来ない。
しかし MikhailはGubamonの調整のせいで本領を発揮できないが、Rankは10あるので貴重な存在ではある。
なので、訓練兼Experience Point源として利用する。数十回か数百回で使えなくなるだろうが、その時は魂を砕いてしまえば、何かの奇跡でAldaの所に逝く事も無い。
(私はただ、Vida's New Racesを迫害する事を是とする国に生まれ、是とする神を信じ、その国のadventurerとして生き、そしてHeroとして戦った。
ただ、あの方にとっては罪でしかないと言うだけだ)
あの方とMikhailが呼ぶVandalieuは『Vida's Miko』なのだから当然だ。
贖罪の機会すら、与えられない。
(ならせめて、最後まで私は訓練用の木人として役立とう。あの方の為に戦う事が叶わないなら、あの方の為に戦う者達の糧に成ろう。
どの道既に、それ以外出来る事は無い)
訓練場は既にBorkusは去った後なのか、彼がthrust刺した剣の痕が地面に残っているだけだ。
しかし、すぐに次の者が訓練を受けにくる。それと打ち合って、勝てばそのまま終わり、lose破壊されれば束の間の眠り。
それを繰り返すのだ。魂を砕かれるその時まで。
『あ゛ぁ~……』
丁度、次の相手が入って来た。Mikhailは槍を構えた。
『構えてください、訓練を開始します』
見た事も無い異-samaな姿の女Zombieの姿に、Mikhailはふと既視感を覚えた。
『かいし……する゛ぅ!』
だが、Giantな拳を握った女Zombie……かつてのMikhailの仲間の死体を繋ぎ合わせて作られたPatchwork ZombieのRapiéçageは、彼がその正体に気がつくよりも早く彼に襲い掛かった。
Resistance organization『Sauron Liberation Front』のleader、Iris Bearheartは集まった仲間達に告げた。
「Davisに任せた別働隊は今頃、我々から離れて第三hideoutに向かっているはずだ。他の隊も、撤退を開始している。
つまり、援軍は期待できない。我々はこの山地のキャンプ地で孤立無援だ」
悪い筈の告白に、仲間達は動揺を見せずに彼女の次の言葉を待つ。
「そして、占領軍に潜入している協力者によれば派遣された討伐隊の数は我々の五倍。今頃、三方に分かれて我々の逃げ道を潰しながら迫っているだろう」
悪いどころかdespair的な状況。それにIrisの仲間達……元偽ResistanceのHaj達は初めて動揺を見せた。
「そんな……つまり俺達のTrapに奴らは嵌まったって事か!」
「そんな大量の獲物、Dungeonでの訓練ぶりだぜぇ!」
「……対人戦って、初めてなのよねぇ。どんな手応えなのかしら。ウフフッ」
悪のBerserker集団にしか見えないHaj達の-sama子にIrisは苦笑いを浮かべて、釘を刺した。
「戦意が高い事は嬉しいが、降伏した者は殺さないでくれよ。情報が欲しいからな」
「ですがleader、奴らが弱すぎたら――」
「命令違反者には支給品を制限すると、前から言ってあるはずだぞ」
その一言で口答えをした男は、慌てて引き下がった。Berserker達も、bloodの臭いよりも香ばしいspyスの香りの方を気に入っているようだ。
『『Sauron Liberation Front』の『Liberating Princess Knight』よっ! 貴-sama等は包囲されているっ、潔く降伏せよっ! 降伏するならば、命は保証しよう!』
その時包囲を完成したらしい討伐隊からの降伏勧告が響いた。Wind-Attribute Magicか、magic itemで声を大きく響かせているのだろう。
それにIris達は一-samaに失笑を浮かべる。
「命は保証するか。どう思う?」
「そうっスね……俺達は纏めて絞首刑じゃないですかね?」
「leaderは尋問とTortureの後、何日かSoldier連中に犯られて、その後町中引き回されてやっぱり公開処刑じゃない?」
「え、そこは慰み者にされるけど命だけは助かるpatternじゃ?」
「idiotねー。そんな甘い訳ないじゃん。一国の御姫-samaとか大物Nobleの奥さまや令嬢ならありだけど、leaderはそこまでじゃないし」
「だろうな。私も同感だ」
口々に悲観的な予想を述べるHaj達に、Irisも口の片端を釣り上げる。
「では、tactics通り戦闘開始だ」
その途端バラバラに駆け出していくHaj達。Irisも鞘から愛剣を抜き駆け出した。
「参ります、父上っ」
『……い゛ぃりすう゛ぅ……』
一方討伐隊は、自分達の勝利を疑っていなかった。
『Sauron Liberation Front』は亡き『新生Sauron Duke軍』のleader、Raymond Parisが残したResistanceをAbsorptionし、以前よりも活発に反政府運動を行っている。
しかし、『新生Sauron Duke軍』の中心memberは全て前Resistance討伐隊隊長Mardockの手により討伐されている。元Knightのmemberは全滅し、合流できたのは戦力に劣る者ばかりだ。
そして『Liberating Princess Knight』は再編成された討伐隊の手によって、僅かな手勢と共に孤立無援のcondition。数はこちらの五分の一程で、正に窮鼠だ。
「しかし鼠は時に猫を噛む。油断するな」
CommanderのKnightはそう部下を注意するが、それは買い被りだったと直ぐに思い直した。
Resistance達がバラバラに包囲している部下達に向かって来たからだ。whole bodyに金属甲冑を纏っているのに、妙に動きが速いが、自分達から孤立して襲い掛かって来るHeavy infantrymanの何を恐れる必要があるだろう。
「隊長、奴等自棄になったようですね」
内心では副官の言葉に同意しつつ、しかし部下達が緊張感を緩めないよう厳しい声で指示を飛ばす。
「油断するなっ! 自分達を囮にPrincess Knightを逃がすtacticsかもしれん! 前衛盾職は敵の足を止めろ! 弓兵とmagic兵で止めを刺せ!」
占領軍が再編成したこの討伐隊の錬度と装備の質は高い。盾職の前衛たちは迫りくるResistance、Haj達に向かって盾をthrustだして、命令を実行した。
「「「「「【Stone Wall】! 【岩体】! 【Provocation】!」」」」」
【Shield Technique】と【Armor Technique】のMartial Arts三連続Activate。Defense Powerをx2にEnhanced (1)し、敵の戦意を強制的に自分達に向けて惹き付ける。
その背後では弓兵が鎧の隙間を狙い、magic兵が呪文の詠唱をしている。
これで十秒後には、勇ましく雄叫びを上げるResistance達は次々に倒れ伏す事だろう。
「行くぜ、partner! 【断岩】!」
『「うおおおおおおおおお!」』
その予想を打ち砕かれたのは、前衛の盾職がResistanceの放ったHalberdの一撃を受けた時だった。
「お、おもっ! ぐあああっ!?」
構えた盾が割れ、耐えられずに甲冑を纏った盾職が腕からbloodを迸らせながら後ろに倒れる。
すかさず控えていた隊員が前に出てその穴を塞ぐ。だが頭の中は驚愕に塗り潰されていた。
(BAKANAっ! 同程度のskill levelの持ち主が同程度のMartial Artsを放ったら、防御側が有利なはずだぞ!?)
それが常識だ。certainly装備の質に差があれば違うが、その差が余程大きく無ければこんな事は起きない。
そして隊員の目から見て、Resistanceの腕は悪くはないが自分達を明確に上回る程では無く、得物のHalberdもそれ程の品ではない-samaに見えた。
「合わせろっ、partner! 【三連thrust】!」
だが現実では、隊員が咄嗟に構えた盾がHalberdの穂先に腕ごと貫かれ、自分のbloodを浴びている。そしてダメだと分っていても手から盾が離れ、がら空きに成った所に再び穂先がthrustだされた。
(partnerって、誰だ?)
喉を穂先で貫かれた隊員は、一人で孤立しているはずのResistanceを見つめたまま事切れた。
これとほぼ同じ事が同時に、戦場の至る所で起きていた。
「せ、攻めに転じろ! 弓兵、magic兵は順次攻撃せよ!」
こちらのDefense PowerをResistanceのAttack Powerが数段上回っている事を見てとったCommanderは、慌てて守りから攻めにtacticsを変えた。
それに同僚達を倒された動揺や驚きを脇にのけ、素早く従った討伐隊の隊員達は精鋭の名に恥じない優秀な者達だったのだろう。
しかし Resistance達はそれをものともしない。
切りかかるKnightを数合打ち合うだけで態勢を崩させて、大技を叩き込む。隙を見つけて矢やmagicを撃ち込んでも、まるでDamageを受けている-sama子を見せない。
「はっ! 大した事ねェな!」
『後ろだ』
兜の内側から響いた声に反射的に従ったHajがHalberdの柄を後ろにthrustだすと、彼の背後を狙った軽装兵が慌てて飛び退いていた。
「助かったぜ、partnerっ」
『礼は、殺し終わってからにしろ』
Haj達Resistanceのpartner、それは彼等が身につけている鎧……Living Armorだった。
Datara達Blacksmith師班が鍛えたHell Copper製の鎧の上に、Vandalieuが【Golem Transmutation】で鉄のメッキを施し偽装した鎧に霊を憑けて、Living ArmorにしたものをHaj達は身につけているのだ。
これによりHaj達はDefense Powerだけでは無く、【Mysterious Strength】skillを持つLiving Armor main bodyと連動して動く事で自分のMuscular Strength以上の力を発揮する事が出来る。
更にLiving Armorは戦っている間も、Haj達の周囲を警戒している。そのためHaj達にはBlind Spotが存在しない。
Talosheimの一般人を対象とした訓練と同じと言えば同じだが、Haj達とLiving Armorはそれぞれが【Coordination】 skillを獲得している。その効果により、お互いの力を百二十%発揮する事が出来るのだ。
「隊長っ、このままではっ!」
「狼狽えるな! 一旦態勢を立て直す! 敵にMageは居ない、隊を合流させ……あれはPrincess Knightか!?」
副官に檄を飛ばしてCommandingを執るCommanderの目に、こちらに向かって切り込んでくるIrisの姿が映った。
Princess Knight本人まで前線に身を晒している事も驚愕だが、Commanderが注目したのは彼女の動きだ。まるで舞でも踊るような軽やかな体捌きで討伐隊の剣や矢を回避し、だが彼女の後ろには鎧の隙間を貫かれ切り裂かれた隊員たちが転がっている。
あの動きを、Commanderはかつて見た事があった。
「あれは、Bearheart卿の……まさかPrincess Knightとは奴の娘か!」
かつてAmid Empire軍とSauron Duke軍の戦いで、幾人ものSoldierやKnightを倒し、恐れられたKnight、George・Bearheart。Irisの動きはそれに酷似していた。
「【飛突】!」
直衛のKnightが構えるGiantな盾の守りの僅かな隙間を、刺突を飛ばす【Sword Technique】のMartial Artsで攻撃し兜の奥の目を貫くIris。
そして出来た大きな隙間に切り込み、驚愕に目を剥いたCommanderが構えた剣を弾き、脇の下の動脈を切り裂く。
「ぐあああっ!」
「我々相手に包囲戦で兵を薄く配置したのは、失敗だったな。
Commanderは倒れた! これより殲滅戦を行う! 命が惜しければWeapon Equipmentを捨て投降せよ!」
衝撃で倒れたCommanderの腕を踏みつけ降伏を迫るIrisに、副官は反射的に剣を振るうが一撃でSlash倒される。
隊長と副隊長を失った討伐隊は、戦意を失って次々にWeapon Equipmentを捨てるのだった。
『よくやった……Irisぅ……』
禍々しい輝きを宿した細身の剣を鞘に収め、それに宿る父にIrisは呟いた。
「はい、父上のお蔭です」
Lambda初の【Armor Tamer】Jobを獲得したHaj達を率いる、Cursed Weaponsと化した剣を振るう【Cursed Spirit Swordsman】Jobに就いたIris Bearheart。
彼女達はその活躍によって、Amid Empire占領軍を震え上がらせる事に成る。
その頃Vandalieuは、【Shield Technique】と【Armor Technique】の訓練をしていた。
Tareaが作った【Demon King's Carapace】と【Demon King's Horn】を組み合わせて作った、Vandalieuのbody partの大半が隠せる大盾。そして初めてBellmondと戦った時に使っていた、Hell Copper製の液体金属の鎧を装備して、訓練に励む。
「……凄い、地味ですね」
しかしその訓練は、他の訓練は殆ど文句を言わずに取り組んできたVandalieuが、思わずそう呟くくらい地味だった。
まずはfull装備で、歩く、走る、飛ぶ、這う(匍匐前進)を繰り返すだけ。
「仕方ないだろ、盾と鎧の術なんだから」
教官役で来ている元Hartner Duchyのcultivation villageのadventurer、Kasimが苦笑いを浮かべる。
「そうね。【Sword Technique】や【Spear Technique】とかの、Weapon Equipmentのskillなら攻撃する練習を積めば身につくけど、盾と鎧はそれじゃあ獲得できないから、仕方ないのよ」
Vandalieuの僕をself-proclaimedする赤毛の女Vampire、EleonoraがKasimの言葉を補足する。
攻撃と防御。どちらが重要なのかは考えるまでも無いだろう。しかし、skillの獲得となるとどうしても攻撃の方に人気が偏る。
防御はDefense Equipmentを身につければ、それだけである程度補えるが、攻撃はWeapon Equipmentを身につけているだけでは補えないと言う問題もあるが……どうしても動きが派手に成るWeapon Equipmentの修練の方を新人adventurerは注目する。
「私も【Sword Technique】skillの訓練の方が好きだったから、気持ちは分かるけど」
元adventurerで、今はGhoulハイmagic WarriorのKatiaがHumanだった頃を思い出してそう言う。それに頷きながら、Ghoul Amazoness LeaderのBasdiaが続ける。
「Shield TechniqueとArmor Techniqueは、まずDefense Equipmentを身につけてbody partを動かす練習から始めないと危険だ。VanはもうMuscular StrengthもEnduranceも十分すぎる程在るが、Defense Equipmentを身につけると重心が変わる。慣れてないと訓練中に体勢を崩して転ぶからな。
私は【Shield Technique】だけだが、最初の頃は何度も自分の盾のせいで転んだり、酷い時は盾に頭をぶつけたものだ」
Basdiaが、愛用のGiantな仮面を模した細長い盾を掲げて見せながらそう言う。確かに、この独特の形状をした盾の扱いは難しそうだ。
Katiaが言うように新人adventurerに【Shield Technique】と【Armor Technique】の人気が無い理由の一つが、この訓練序盤の地味さと、そして辛さだ。
重い鎧と盾を身につけてのwhole body運動は、EarthやOriginよりbody part Abilityが上がりやすいLambdaのHumanでも最初は辛い。
Weapon Equipment skillの習得でもMuscular StrengthやEnduranceは必須だが、やっている事がただのwhole body運動と素振りや型の練習では、やはりpsychological充実感が異なるらしい。
「それにVandalieu -samaは、時々盾を持っている事を忘れて四足走行に移ろうとしたり、balanceを崩すとtongueを地面に伸ばしたりするし。
skillを獲得した後は良いけど、その前にそんな事をしているとskillが身につかないわ」
「【Flight】で飛ぶのも今は駄目だぞ、Van」
「【Out-of-body Experience】もねっ!」
これまでVandalieuは防御を基本的に、優れたbody part Abilityによる回避か、Death-Attribute MagicによるBarrierや、Pete達Defense Powerが優れたmonstersに頼っていた。
それが【Shield Technique】や【Armor Technique】の習得では、障害に成っているようだ。
「まあ、どうせ手っ取り早くmonsters式の訓練でやるから、勘が掴めたらそれで良いんだけどな。
じゃあ、そろそろ組手行くぞー」
そう言いながらKasimがMaceを肩に担いで前に出る。
adventurer式の訓練は防御の型の練習と、木製のWeapon Equipmentを振るう教官の攻撃を只管防ぐ模擬戦を繰り返す、根気が必要な方法。
しかし、monsters式とは鎧と盾を持っていきなり実戦を経験すると言う、時間は短くて済むが訓練者の生存率が五割を切る方法である。
「お願いします」
しかし、Vandalieuのように既に高いAbility Valuesを持つ者が、legend ClassのDefense Equipmentを身につけて実行するにはmonsters式の方が良い。
「Vandalieu -samaっ、怖くてもmagicを使っちゃダメよ!」
「頑張れ、Van!」
「当たっても痛くないだろうから、大丈夫よ!」
【Shield Technique】と【Armor Technique】の訓練に成らないので、magicの使用は厳禁だ。なので、使い慣れない盾と鎧でKasimの攻撃を防がなければならない。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。うっかり当たっても、Katia -sanの言う通り俺の攻撃じゃあ、Martial Artsを使っても掠り傷にも成らないだろ」
「……Martial Arts、使いませんよね?」
「……Vandalieu。実は俺、まだ彼女が出来ないんだ」
「何故それを今告げるのか、説明を――」
「行くぞぉぉぉっ!」
有無を言わさず、Maceを振り上げてKasimはVandalieuに殴り掛かった。
certainly、それぞれナイスバディな灰褐色に赤い文-samaが栄えるGhoulの美女や、同じくGhoulの女Swordsman、赤毛の美女VampireにモテているVandalieuにventするつもりは、Kasimには無い。ちょっとでも危機感を覚えて貰った方が、訓練の効率が上がると考えた結果、行った演技だ。
実際、Kasimの動きはVandalieuの目から見てそれ程速くない。whole body鎧を身につけたKasimのChargeは迫力があるが、【Danger Sense: Death】が反応する程では無い。
なのでVandalieuは、若干の余裕を持って盾を構え、Kasimの攻撃を受け止めた。
「おぉっ?」
そして薙ぎ払われて吹っ飛んだ。
・Job解説:Armor Tamer
Living Armorを専門にしたTamer Job。TamerしたLiving Armorを自ら装着し、共に行動する事を前提にしている。
Undead Tamerの下位Jobの一つである。
【Armor Technique】や【Coordination】、【Strengthen Subordinates】、【●●Armor equipped, then Defense Power Enhanced (1)】(●●に入る文字は、TamerしたLiving Armorが金属か非金属かによって変わる)skillの獲得に補正を得る事が出来る。
・Job解説:Cursed Spirit Swordsman
Cursed Weapons化した剣を使うSwordsmanが就く事が出来るJob。前提条件として、Cursed WeaponsをTamerしなければならない。
Undead Tamerの下位Jobの一つでもある。
【Sword Technique】、【Coordination】、【-Surpass Limits-】、【Surpass Limits – Cursed Spirit Sword】、【Strengthen Subordinates】、【Cursed Sword weapon equipped, then Attack Power Enhanced (1)】等のskillの獲得に補正を得る事が出来る。