旧Sauron Duchyの街道を四台の馬車が進んでいた。先頭と最後尾の馬車にはmercenaryが乗り込み、Couch Drivingもmercenaryが務めている。更に、周りを馬にMountしたmercenaryが囲い、守りを固めている。
そして真ん中の二台の馬車には、『商品』が乗せられていた。
「全く、良い世の中になったものです」
この一団の長であるPadej Boctarinは物々しい雰囲気に構わず、陽気なSmiling Faceを浮かべていた。
「噂では、近々この領のnameも正式に改められるとか。いやいや、目出度い。これでAmid Empireの統治は盤石ですね」
そんな事を言うPadejに、mercenary団のDelegation Leaderが話しかける。
「そんな事を言って良いんですかい、旦那? 旦那は生粋のElective Kingdom人でしょうに」
母国の、それも故郷が敵国に占領され支配されている現状と未来に対して、そんなに嬉しそうにして良いのか? そう聞かれてもPadejのSmiling Faceは曇らない。
「当然でしょう。何処の国に生まれたかは関係ありません。私は商人、利益を得る機会を与えてくれる存在を愛すHumanです。そしてOrbaum Elective KingdomよりAmid Empireの方が、私の商売に利益をくれる。
見てくださいよ、後ろの商品を。ここがElective Kingdomだった頃は考えられない量と質ですよ」
自慢気にPadejが手で指す二台目と三台目の馬車には、それぞれ十数人もの人が乗せられていた。
Slaveである。
高価なSlaveの首輪は嵌められていないが、その代わり手足に頑丈な枷が嵌められている。
Padej BoctarinはSlave商人だった。だがOrbaum Elective KingdomでもSlave制は認められている。それなのに何故Amid Empire占領下の方が利益を出せるというのか。
それはSlave達のraceに理由があった。馬車に乗せられているSlaveは、Beast raceやGiant race、Dark ElfとのHalf-Elf、中には竜Humanも一人居る。全てVida's New Racesか、そのbloodが色濃く表れている者ばかりだ。
Amid EmpireではHumanの、HumanとElf、DwarfのSlaveの取り扱いは厳しく決められている。だが、差別対象のVida's New Racesやそのbloodを色濃く引いている者のSlaveは、実質無制限だ。
Padejはそれに目を付け、旧Sauron領内のVida's New Racesを駆り集める-samaにしてSlaveにして売り捌いているのだ。
「確かに綺麗所に、何処でも働けそうな逞しいのが揃ってますな」
馬車にはmercenary団の長も思わず涎が出そうな美女や、きついBody労働もこなせそうな逞しい男、今から仕事を仕込むのに丁度良いageの少年が揃っている。
荒事以外の商売には門外漢のmercenary達だが、これを売り捌けば大きな利益を得られる事ぐらいは分かった。
「しかし、Emperorは五十年の間Slaveに関する法はそのままにするって、General Officer -samaが発表したはずでは?」
mercenary達が言う-samaに、Amid Empire Emperor Mashkzarは占領したSauron領にEmpireの差別制度を布いていなかった。
これはSauron領の国民に対する猶予であると同時に、Trapでもあった。
Sauron領のHumanやDwarfにElf達が、いきなり隣人や同僚、loverや配偶者、そして我が子が差別対象にされると聞いたら、当然Empireに反発する。大規模な反抗運動の切掛けに成るかもしれないし、Elective Kingdomへ脱出しようと企てる者は数え切れなくなるだろう。
しかし五十年はそのままだと聞いたら、まず反発するよりも安堵する者が出る。特に人数の多いHumanにとって五十年という時間は、大人なら自分の子や孫の世代に交代している可能性の高い遠い未来だ。
寿命の長いDwarfやElfにとっても、五十年あればEmpireの制度も変わるかもしれないし、その前にOrbaum Elective KingdomがSauron領を取り返しているかもしれないと考える。
だから、お上に逆らうような危険な事はせず、とりあえず-sama子を見た方が良いのではないだろうか?
そう思うには十分な猶予だ。
そうする事で、Sauron領の人々が一つに纏まらない-samaにしようという政策なのである。
ただTrapの意図があるとは言え、法は法。犯せば当然厳しい罰を受ける。
「ですからこうして人気の無い道を選んで、皆-sanを雇って護衛して頂いて、Amid Empireの領内に密輸しているのではないですか。
Empireには見ず知らずの、可愛そうなVidaのraceのSlaveの為に捜査に乗り出すような憲兵の方は居ませんからね」
「ははは、違いない。この商品はあっし等が-chanと送り届けますぜ、旦那。ですから……」
「分かっていますよ、働きに応じて報酬は弾みます」
「いえいえ、そうじゃなくてですね――」
Slave商人とmercenaryの黒い談笑に水を差すように、左右の森から口元を布で隠した武装した男女が現れ、馬車の前方と後方を塞いだ。
そして他の者と同じように口元を覆面で隠している、femaleのKnightが鋭い眼光でPadejを睨みつけて宣言した。
「我々は『Sauron Liberation Front』であるっ! 侵略者すら利用して我が国の国民を売る売国奴Padej! 命は無いと思え!」
よく見れば顔立ちに幼さが残る、まだ十代後半だろうShoujoとも言える年頃のKnightだが、その声に含まれた迫力にimmatureさは見られない。
「さ、『Sauron Liberation Front』だっ!」
「よ、mercenary団の皆-san、早速出番ですっ、頼みましたよ!」
Padejは顔を青くしつつも、取り乱さずにそうmercenary団のDelegation Leaderに叫ぶ。Delegation Leaderはgrinningと口元を歪めると、得物のHalberdを構えた。
「ええ、死刑執行はお任せくだせぇ」
は? 何を言っているのです?
そうPadejは言ったつもりだったが、代わりに口から出たのは自分のbloodだった。
「かっ……ごぶっ」
白目を剥いたPadejの死体から得物を引き抜くと、Delegation LeaderはFemale Knightに一礼する。
「終わりやしたぜ、お嬢」
他のmercenary達も、Padejが雇っていた従業員を縛り上げるとDelegation Leaderに倣って頭を下げる。
「良し、ではSlaveにされた人々を枷から解き放て」
「へい、お任せくだせぇ」
何と、Padejに雇われていたはずのmercenary団はResistance率いるFemale Knightと通じていたのだ。
mercenary達は突然の事にまだ困惑しているSlave達から枷を外し、Resistanceは持ってきた外套をfemaleやchildにHaoriらせていく。
何処かほっとした雰囲気のmercenary団Delegation Leaderに、Female Knightは話しかけた。
「しかし良いのか、Davis。下衆とは言え雇い主を裏切ったら、mercenaryとしては生きていけないぞ」
Delegation Leader……Davisは苦笑いを浮かべた。
「へへ、構いやせんや。originally mercenary団なんざ、戦場で死に損なったから仕方なくやっていただけの腰掛けでさぁ。廃業は望むところですぜ」
そしてDavisはSauron Duke軍だった頃の敬礼をして、言った。
「あっしらはoriginally負け犬。死ぬ前にSauron領の兵に戻れるなら、それもお嬢の旗の下で戦えるってんなら、幾らでも泥を被りますぜ」
「掲げるのは私の旗ではなく、Sauron Duke 家の旗だ。私はKnight叙勲も受けていない、ただのKnight爵家の長女に過ぎないぞ」
今は亡き父の元部下が寄せてくれる期待をFemale Knight、Iris Bearheartは嬉しく思いつつも釘を刺すのを忘れなかった。
Resistanceは彼女が率いる『Sauron Liberation Front』以外にも複数organizationされていて、Sauron DukeのIllegitimate Childとその弟が率いる『新生Sauron Duke軍』も存在する。Resistance同士の仲間割れにdevelopmentしかねないような言動は、周りに仲間しか居なくても控えるべきだ。
「それに、私の家の身分は解放戦線に参加している者の中で最も低いのだぞ。私なぞ持ち上げられる神輿だ、神輿」
実際、Irisの家はOrbaum Elective KingdomのNoble制度で世襲可能なNobleの内では最低のKnight爵家。そしてSauron Liberation Frontのmemberは全て彼女より上のpeerageの家出身の者達だ。
「Irisお嬢がまた何か言っているぞ。Baronet 家五男の俺に対する嫌味かな?」
「さあな、もしかしたらEarl 家の妾腹に生まれた私に気を遣っているのかもしれんぞ」
「いえいえ、きっと政略結婚に使うためにMarquis 家の養女になった元孤児の私に遠慮しているのよ」
ただ、全員出身はそうであっても、実際は普通なら家も継げず大した役職にも就けない、他のNoble 家の養子に成るか入り婿や嫁に成らない限り、平民に堕ちるしかない立場だった者達だが。
先の戦争でNobleの当主や、家督を継ぐ可能性がある長男次男の多くは討ち死にするか、他のDuchyに脱出している。今のSauron領に残っているNobleはEmpireに恭順しているか、領民を安心させるためにnameだけ残された傀儡だ。
そして必死に脱出させるほどElective Kingdomにとって重要ではなく、しかし一応Noble 家のbloodを引いているためEmpireにとって無視できないという微妙な立場の者達が、Irisの元に集まっているのだ。
「なぁに、これからは三代前からSoldierのあっしが加わるんで問題ありやせんよ」
「それは心強いな。
よしっ、そろそろ出発するぞ!」
倍の人数に増えたResistanceと、Slaveから民に戻った者達が歓声を上げ、奪った馬車で移動して行く。残されたのはSlave商人が流したblood痕だけだった。
澄んだ朝の清々しい空気に、何処か禍々しい一団を率いる少年の声が響く。
「ここをキャンプ地とする」
このVandalieuの宣言をEarthのサバイバー達が聞いたら、呆れるかもしれない。「こんなキャンプがあるか」と。
「起きろ」
まず地面が次々にGolem Transformationし、山の斜面が適度な面積のOpen Plazaに形を変えていく。岩盤や岩をStone Golem化し、Open Plazaを支える柱にするのも忘れない。
そして出来たOpen Plazaに、ガラカラガラカラと音を立ててboneが組み上がっていく。
『おぉぉぉぉぉん』
Bone FortのKnochenが、boneを建材に城壁や生活するための建物に変化していく。屋根は瓦葺ではなく、Stegosaurus等のbone板、亀のcarapace等々で創られたbone葺屋根だ。
建物の中は空っぽではなく、bone製のtableや椅子、ベッドが配置されている。シーツやマットも、Samに乗せて運んだ物をRitaとSalireが早速運び込んでベッドメイKingを開始。
Vandalieuは【Golem Transmutation】skillで井戸を手早く掘って、緊急移動用の極小Dungeonも【Labyrinth Creation】skillで建てておく。
最後にノシノシとImmortal EntのEisen達がKnochenの周りを歩き回り、周りからbone mansionを見られない-samaに隠す。
「ご苦労さまです、旦那-sama」
そして一時間も経たずに終了。Bellmondが淹れてくれたお茶で、皆で一息入れる。
たったこれだけの時間と労力で、何も無かった場所に堅牢な砦と同等の防衛力を持ち、居住性も抜群で、しかも井戸やImmortal Entから食料も得られて、逃げるための緊急避難口まで備えている拠点が完成した。
「災害指定を受けるはずですね」
『おおぉん?』
拠点の核であるKnochen(CloneのSkeleton)を見ながら、しみじみとVandalieuは言った。
何の注意も払っていないだろう場所に、突然Undeadがcountlessにいる砦が出現するのだ。それでは事前の警戒も防衛戦略も台noneである。
特にKnochenは【High-Speed Flight】skillを持っているため、機動力が他のBone Fortとは比べ物にならない。
やろうと思えばmidnightに城壁を越えて侵入し、朝までに町を襲撃しながら砦を組み上げる事も可能だろう。
防衛側から見ると、正に悪夢だ。
「こうなると同じような手をEmpireやElective Kingdom、Pure-breed Vampireが使って来る事も考えて、Talosheimの防衛戦略を練り直さなければ」
「Van、怖くないよ~。落ち着いて~」
『Vandalieu、安心して、怖がらなくて良いのよ』
『ほ~ら、ご覧ください主よ、何時もより多めに回しております』
発作的に危機感を覚えてあり得ない想定を始めるVandalieuを、PauvinaやDarciaが宥めにかかる。Bone Manなんて気を逸らそうとしているのか、自分の頭蓋boneや肋boneを外してジャグリングをして見せる。
『Bocchan、流石にBone Fortと似たmonstersをEmpireやElective Kingdomが戦線に投入して来る事は……まあ、無いと断言はしかねますが』
九割九分無い。Undeadや蟲のmonstersをTamerできるのがVandalieuだけである以上、Bone Fortと同系列のmonstersを操れる者は存在しないのだから。
超大型の植物型monstersや特殊なGolemを使うなら、理論上は同じ事が出来るかもしれないが……机上の空論の域を出ない。
もしこの机上の空論が現実になったとしても、超大型植物型monstersの歩みは陸上の貝より遅いだろうし、現在のAlchemyで動く砦型Golemを作ると製作費だけで国が十回は破産する。
『じゃあ、Pure-breed Vampireの方はどうです?』
「私はBirkyneさ……BirkyneやGubamonの保有戦力までは知りませんが、Bone Fortはまず所有していないかと」
『え、そうなんですか? Knochen -sanはとても便利だと思いますけど』
Princess Leviaが意外そうに聞き返す。Bone Fortは歴史上数体しか確認されていない希少なUndeadだが、BirkyneやGubamonはAge of Gods Eraから現代まで生きている連中だ。UndeadをTamerできる彼等なら、目を付けてもおかしくない。
そう思ったのだが、Bellmondは「Princess、旦那-samaを基準に考えてはいけません」と答えた。
「彼らはUndeadをTamer出来ますが、それは死体を材料に自分の手で創り出したUndeadを支配できるだけです。既に存在し活動しているUndeadはTamerできません。
なので、彼らがもしBone Fortを欲するなら一から作らなければならないのですが、この数のboneを集めるのは文字通りboneでしょうね」
しかも、材料を集めた後儀式をしてUndead Transformationさせるので、それに必要な時間もかなりかかるようだ。
「普通にRank1のLiving Boneからコツコツ成長させるような事はしないのですか?」
「あまりしなかったと思います。戦力としてなら、Subordinate Vampireを増やせば事足りますし……それに旦那-sama、殆どのUndeadはKnochen -donoやBone Man -donoの-samaに頭が良くないのですよ」
つまり、苦労して育てても「戦え」や「待機」等単純な指示を幾つか実行できる程度にしかならない。
「そもそも、彼らは別に国や大規模なmercenary団を運営している訳ではありません。犯罪organizationの同類です。
正面から軍隊と戦う事はoriginally想定していないのですよ」
Evil God (M)派のPure-breed Vampire達は、社会の裏に根を張る方法で今まで生き延びてきた。そのため、戦争の-samaな大規模な戦いを自分達が行う事をあまり想定していないらしい。
そもそもPure-breed Vampireや上位のNoble-born Vampireは、単体で一国の軍を蹴散らせる戦闘Abilityを持つ。守るべき非戦闘員を抱えていない彼らは、自分一人か数人で暴れるか逃げるだけで十分なのだ。
「じゃあ、Evil God (M)やEvil God (P)は?」
「Evil God (M)やEvil God (P)、ですか……流石にそれは私の知識も及びませんので」
このVandalieuの質問には、Bellmondも答える事は出来なかった。
しかし、これからGubamon達にblessingsを与えた『Evil God of Joyful Life』Hihiryushukakaを初めとしたEvil God (M) Evil God (P)とVandalieu達は敵対する事に成る。
そうである以上、それらの対策も必要だ。
「まあ、対策といっても今はゴリ押しぐらいしか思いつかないので、頭を捻りながら備えましょう」
「申し訳ありません、説得しきれませんでした」
『そんな事無いわ、Bellmond -san。あなたは良くやったわ!』
『ぢゅう、謝る事はありません。主も、平常に戻ったようですし』
『おおぉん』
そんな-sama子でBellmondを労う皆に、Vandalieuは「やはり怯え過ぎかな?」と思ったが、無理をしない程度に備えるのは良い事だと考え直した。
こうしたVandalieuの被害妄想に等しい危機感の繰り返しによって、Talosheimの防衛力はこれまで高められてきたのである。
「じゃあ、とりあえず行ってきますね。皆、mountain banditやEmpireのSoldierが来て、やり過ごせない時は処理しておいてください。Evil God (M)派のVampireが来た時も任せます。
でも、Resistanceの人達には手を出しちゃダメですよ。死にそうだったら助けてあげてください」
そう言い残してVandalieu達はキャンプ地から出発した。
まずはScyllaとの接触が目標だが、とりあえず情報収集の為に近くの霊を掻き集めなければならない。そのために、ちょっと辺りを一回り散歩するのだ。
「まあ、望み薄ですけど」
自然の山野にはcountlessの生命が存在し、countlessの霊が発生したり消えたりと忙しない。それらの霊はGolemを作るのにとても便利だ。しかし、情報源としては有用とは言い難い。
植物の霊は周囲の-sama子に鈍感で、蟲の霊もあまり期待できない。動物なら縄張りの内部がある程度解る程度。鳥は目が良く活動範囲が広いので最も期待できる。
しかしそれら野生の動植物の霊は生前のMemoryを早々に失い、九割九分まで一年も持たずReincarnationの環に還ってしまう事が多い。
そうなると頼りになるのはHuman等の知的生物かmonstersの霊だ。だが、ここはただの人里離れた自然の山だ。戦場跡でもないので、そうそう人の霊は居ないだろう。
なら探すべきはmonstersの霊なのだが……。
「Goblinでも居ないかなー」
『いざ探すと意外に居ませんね、Goblin』
「居ないねぇ」
VandalieuとPrincess Levia、そしてPauvinaは情報源に出来そうなmonstersを探して山道を進むが、思ったよりもここは平和な山らしい。何処にでも居るmonstersの代名詞、Goblinのshadowも形も無い。
……身長二meter越えのGiant race GhostとGiant幼女を恐れて、いち早く逃げ出しただけかもしれないが。
「ただの紅葉狩りなら比較的成功なのですけどね」
この辺りは木々の間に適度な間隔があり、Sunlightが木漏れ日に成って中々綺麗だ。肝心の紅葉が無く、紅葉が乏しいが悪くない風景だ。
「モミジ狩りって、何を狩るの? モミジってmonsters?」
Pauvinaが紅葉狩りと初めて聞いたchildにありがちな勘違いをしているので、Vandalieuがcorrectionしようとするが、その前にLeviaが『鹿のmonstersですよ』と答えた。
『another worldでは、鹿の肉をモミジ肉と呼ぶと石板に記されていましたから。間違いではありませんよね?』
「はい、鹿です」
まあ、worldが異なるのだし紅葉狩りの意味が違っても別に問題は無いだろう。
そんな時、Pauvinaがクンクンと周囲の臭いを嗅いだ。
「あ、こっちから水の匂いがするよ」
Half-Noble Orcの鋭いSense of smellを発揮したPauvinaが、集まってくる有象無象の霊よりもいい働きをしてくれた。
『水辺に行けば、手掛かりになりますね』
ScyllaはLizardman同-samaに、水辺を必要とするraceだ。certainly全ての水辺にScyllaが居る訳ではないが、手掛かりにはなる。
『では私は御傍で待機していますね』
「お願いします。Pauvina、匂いはどっちからしますか?」
「うん、あっちだよっ」
念のために姿を消すPrincess Levia。Vandalieuは水の匂いを辿るPauvinaに着いて行った。
暫くすると、小さな池に着いた。
「Scylla -san居ないね」
残念そうなPauvinaの言う通り、直径十meter程の小さな沼にはScyllaの姿は無い。
「ですけど、Scyllaだった人は居ますよ」
しかし Vandalieuの目にはScyllaの霊の姿が映っていた。
『ない……無いよ……無いよぅ……』
酷く暗い顔で両手とlower bodyのtentacleを使って何かを探しているようだ。Vandalieuの【Demon Path Enticement】skillに気が付かない程集中して探しているらしい。所謂地縛霊だ。
これまで彼が出会った霊の中で、最も幽霊らしい霊である。
「何かお探しですか?」
しかし、Vandalieuが声をかけるとScyllaの霊は顔を上げ、ハッとしてVandalieuを見つめながら表情を緩ませた。表情に浮かんでいた陰惨なshadowが、見事に外れている。
『大事な、指輪を。貰ったばかりなのに……アタシったら、無くしちゃって……』
これなら姿をPauvinaに見せても大丈夫だろうと、【Visualization】のmagicをかけたScyllaの霊によると、彼女はOrbiaという名のこの池の近くに集落を構える部族のScyllaだったらしい。
femaleだけのraceのScyllaであるOrbiaは、ある男と秘密の交際をしていた。相手の男が立場のある人物で、今は関係を明らかに出来ない状況だったらしい。
『でも、婚約の証しに渡したい物があるから、一人でここに来て欲しいと言われて、あたし集落から抜け出して来たの。そして、ここであの人から指輪を……あたし嬉しくて気が遠くなって……それで気が付いたら』
「死んでいたと」
『そーなのよっ! 気が付いたら幽霊になっていて、あの人は居ないし、指輪も無いし……何が何だか分からなくて……』
「かわいそう、死んだ時の事を忘れちゃったんだね」
『気が付いたら自分が死んでいたなんて、辛かったでしょう』
Orbiaの話を、死んだ経験のある三人が「わかるわかる」と頷いて共感を示す。
「じゃあ、指輪を探すのを手伝いましょう」
『良いの!? 何日も探したのに見つからないのよ?』
「はい。とりあえず増えますね」
『増える? うわ増えてる!?』
【Out-of-body Experience】したVandalieuがCloneして池の泥の中まで調べる。
『何故死んでしまったのか、心当たりは有りますか?』
その間にPrincess LeviaとPauvinaはOrbiaが何故死んだのか話を聞いている。【Mind Encroachment】skillを使う方法もあるが。Memoryを無理矢理穿り出した途端発狂やMental Decayさせてしまう可能性があるため、聞いて思い出してもらった方が良いのだ。
『ううん、何も覚えていなくて……』
幽霊の姿は死んだ時のMental conditionに左右される事が多い。knifeで刺殺された人の霊は、胸にknifeが刺さった姿で現れるので見ただけで死因が解るのだが、Orbiaには外傷が無い。
自分が何故死んだのか覚えていないので、Spirit Formに死因が現れていないのかもしれない。
「きっと、あっという間だったんだね。死ぬ前の事は覚えてない? 何か変な事が在ったとか」
『そう言えば……最近幾つかの集落でScyllaが一人で居る所を何者かに襲われて、酷い姿で殺される事件が起きていて……まさかアタシを殺したのもその犯人!? 大変っ、もしかしたらあの人も危ない目に!?』
「だ、大丈夫だよ、周りにその人の霊が居たらVanが気付くもんっ」
『そうですよ、きっとあなたの大切な人は無事ですっ』
そう宥められたOrbiaが「そうよね、あの人に限ってそんな事無いよね」と落ち着きを取り戻した頃に、VandalieuのCloneが全てBodyに戻った。
「残念ながら、指輪は見つかりませんでした。あなたを殺した奴が盗んだか、死体と同じ場所に在るか、その『あの人』が持っているのではないでしょうか?」
『そう……探してくれてありがとう。これで諦めがついたわ』
すうっと、Orbiaの姿が薄くなる。指輪がここに無い事を知って、未練が薄れReincarnationの環に還ろうとしているのだろう。
「Orbiaお姉-san……」
『生まれ変わったら今度こそ幸せになってくださいね』
『うん、ありがとう』
しんみりと見送るPauvinaとPrincess Levia。Orbiaは彼女達にSmiling Faceでそう言うと、消えて――
「あ、すみません、Scyllaの集落まで案内してくれると助かるんですが」
『そう言えば何処にあるのか話してなかったわね』
消えずに戻ってきた。
「後、Undeadになるつもりは有りませんか? 犯人に自分の手で復讐できますよ」
『うーん、Undeadは別に。復讐もどうでも良いかな、あの人が無事でさえいてくれたら……あ、でもせっかくだからあの人が無事なのを確認したいかも』
そしてあっさりVandalieuに憑りついた。とりあえず、想い人の無事を確かめるまでは憑いて来るつもりらしい。
「嬉しいけど、ビミョー。こうなるんだろうなーって、知ってたけど」
『微妙、ですね。私も、こうなるだろうなと思っていましたけど』
やはりVandalieuにReincarnationの環に還るところを引き止められた経験者達は、じと目で見つめるのだった。
蟲Undeadに待機している皆への伝言を持たせ、Vandalieu達はOrbiaの案内で彼女が生活していた集落に向かった。その集落は山間にある沼に在るらしい。
『ええっ、この子『Vida's Miko』なの!? 凄いじゃんっ、あたし達Scylla族もずっとVidaを信仰しているけど、誰もそんなsecondary name持ってないよ!』
「ふふん、そうなんだよ。Vanは凄いの。
それでOrbiaお姉-chanが好きなあの人は?」
『nameは言えないの。でもね、とってもカッコイイの♪ 前髪をこう、ふってするとね』
どうやら彼女の思い人は、美形で前髪が特徴的な人物らしい。
「この分だと、話を聞いていれば思い人を特定できそうですね」
そう呟くVandalieuが、集落との間に在る川に差し掛かった辺りで、絹を裂くようなscreechが聞こえた。
「もしかしたら誰かが襲われているのかも」
『うわ速い!? でもなんで手も使って走るの!?』
「速いからです。PauvinaとPrincess Leviaは、後から着いてきてください」
瞬間的に四足走行に切り替えたVandalieuが、二人の返事を聞かずにscreechが聞こえた方向に向かう。
『ええっと、maybe違うと思うけどそうかもしれないし……あああっ、tongueが伸びたっ!?』
何かOrbiaは戸惑っているようだが、【Unarmed Fighting Technique】のMartial Arts【tongue刀】で邪魔な枝を切り払いながら、まずはscreechの主の元に駆け付けてから考えようと、Vandalieuは走ったのだった。
Orbiaを殺した殺人犯に襲われているのだったら、magicを多用する事になるので【Flight】は節約だ。
実際、近くの川までなら四足走行とあまり速さは変わらない。
・Name: Salire
・Rank: 7
・Race: Living Maid Armor
・Level: 49
・Passive skills
Special Five Senses
Physical Ability Enhancement:6Lv(UP!)
Water-Attribute Resistance:7Lv(UP!)
Physical Attack Resistance:6Lv(UP!)
Self-Enhancement: Subordinate:4Lv(NEW!)
・Active skills
Housework:4Lv(UP!)
Halberd Technique:7Lv(UP!)
Coordination:4Lv(UP!)
Archery:5Lv(UP!)
Spirit Form:7Lv(UP!)
Long-distance Control:7Lv(UP!)
Armor Technique:6Lv(UP!)
・Name: Rita
・Rank: 7
・Race: Living Maid Armor
Level: 51
・Passive skills
Special Five Senses
Physical Ability Enhancement:7Lv(UP!)
Fire-Atribute Resistance:7Lv(UP!)
Physical Attack Resistance:6Lv(UP!)
Self-Enhancement: Subordinate:4Lv(NEW!)
・Active skills
Housework:3Lv(UP!)
Naginata Technique:7Lv(UP!)
Coordination:5Lv(UP!)
Archery:5Lv(UP!)
Throwing Technique:7Lv(UP!)
Spirit Form:7Lv(UP!)
Long-distance Control:7Lv(UP!)
Armor Technique:7Lv(UP!)
・Monster explanation::Living Maid Armor
VandalieuによってFrillsやLacesを模した形状のHell Copper製装甲を追加した事で、SalireとRitaがRank upした存在。
恐らくRank up条件は【Housework】skillを習得している事、誰かのMaidである事、それらしい形状の鎧である事等が考えられる。
当然【Housework】skillを所有し、誰かのMaidである事を自覚して行動しているRank6のLiving Armor系のUndeadがSalireとRita以外に居るはずがない為、Lambdaで初めて発生したmonstersである。
そのためadventurer等が見ると妙な形状のLiving Armorか、living magic Armorと高確率で誤認してしまうだろう。
戦闘Abilityの高さもそうだが、【Housework】skillにも補正があるため優秀なMaidに成長する可能性がある。